clinical Question 2019 年 2 月 4 日 複視 眼球運動障害をどう診るか 施設名市立福知山市民病院総合内科作成者 : 北村友一監修 : 川島篤志 分野 : 神経テーマ : 診断
症例 71 歳女性 主訴 めまい 嘔気 現病歴 朝 5 時に起床した時から テレビを見ようと思うと眼がくらくらして 焦点が合わない 車に酔ったような感じになり 嘔気出現したためER 受診
症例 既往歴 HT DM DM 腎症 (stage2) 内服薬 メトホルミン 生活歴 喫煙 :never ロサルタン 飲酒 : なし アレルギー 花粉症 身体所見 General: ややしんどそう BP205/82mmHg HR64/min BT35.8 RR16/min 呼吸音清 心雑音なし
症例 神経所見 支えあれば車椅子からベッドへ歩行可能 対光反射 +/+ 間接もあり3/3mm 四肢の筋力低下なし 顔面の感覚左右差なし 上肢 Barre 徴候 - Mingazzini 徴候 - 表情筋左右差なし 構音障害なし 指擦り聴取可能 回内回外可能 鼻指鼻試験 OK
# めまい ( 焦点が合わす くらくらする ) # 嘔気 神経学的所見は特になく 中枢性のめまいとい うよりは末梢性のめまいを疑われ プリンペ ラン処方で帰宅
同日朝 9 時 内科外来受診
診察室に呼び入れると
えっ 右眼がめっちゃ外転してる ER のカルテには書いてなかったけど
ER で診察した研修医 S 先生に電話してみた 先生がきのう診てくれた人なんだけど 今 外来に来て 右眼がだいぶ外転してるんだよ ね ER のときは外転はなかったの? いやー 私が診たときはなかったですね もう少ししたら私も時間がとれると思うんで また診察させてください
ということは 眼の症状は急性の経過ってことか 訴え的には複視もありそう 脳は精査したほうがいいだろうけど それ以外の鑑別が思い浮かばない 鑑別を調べるにしても キーワードは 斜視? 複視? とりあえず患者さんには診察室の前で待っていただきつつ調べてみた
Clinical Question 斜視の鑑別は何か? 複視の鑑別は何か?
斜視 (strabismus,squint) 外斜視 (exotropia) をキーワードにして調べてみたが
鑑別が多い
日本語 ( 斜視鑑別 ) で調べてみた 診察で ( ある程度は ) 評価できそう 眼科にお願いしないと無理 https://gskpro.com/ja-jp/disease-info/sbs/diagnosis/#
日本語 ( 斜視鑑別 ) で調べてみた 眼球運動が大事
日本語 ( 斜視鑑別 ) で調べてみた 成人斜視 眼球運動が大事
日本語 ( 複視 ) で調べてみた 複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
本症例では 病歴 急性発症 眼痛や頭痛なし 糖尿病あり 高血圧あり MRI はとったほうがいいな
複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
本症例では 眼球運動 両眼か単眼か 単眼視では複視の訴えなし 単眼視のまま閉眼 開眼すると 眼位は正位にもどる 神経麻痺ではない?
複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
眼球運動 本症例では 動眼神経麻痺か外転神経麻痺か それ以外か 右方注視 右眼 : 眼振あり左眼 : 内転 上方注視 両眼とも注視可 ( 右眼は外転 ) 正面視 右眼は外転左眼は正位 下方注視 両眼とも注視可 ( 右眼は外転 ) 左方注視 両眼ともほとんど動かず 輻輳 微妙だが一応できてそう
本症例では 眼球運動のまとめ 右眼 外転位 右注視時に眼振 内転 上下の運動制限なし 輻輳 一応可能 左眼 外転 内転 上下の運動制限なし 水平方向の眼球運動障害がある 両眼とも神経麻痺では説明がつかない
もしかして MLF 症候群? MLF 症候群の所見は どんなだっけ? 思い出せない
複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
とりあえず採血 MRI+MRAをオーダーしつつ MLF 症候群について確認してみた
UpToDateで MLF 症候群 をキーワードにして調べてみると Internuclear ophthalmoparesis(ino) ( 核間性眼筋麻痺 ) がヒット
Internuclear ophthalmoparesis(i NO) ( 核間性眼筋麻痺 ) 病変側の眼の内転障害 病変側と反対の眼の外転 + 眼振 を特徴とする注視異常 橋や中脳の脳幹部後内側にある内側縦束 (medial longitudinal fasciculus) (=MLF) が障害されておこる
Internuclear ophthalmoparesis(i NO) ( 核間性眼筋麻痺 ) 眼球運動の回路 両側の眼球運動の同期は 脳神経 III IV VI の 協調 MLF や PPRF を通る ニューロン に依存
英語 medial longitudinal fasciculus (MLF) ( 内側縦束 ) 主に水平方向の眼球運動の同期に関与 垂直方向の追視垂直性の前庭 - 眼球反射両眼の垂直方向の調節に関する経路も含む
Paramedian pontine reticular formation (PPRF) ( 傍正中橋網様体 ) 水平注視時の眼球運動協調を司る
正常の眼球運動 ( 左注視の場合 ) https://www.youtube.com/watch?v=qycqf5xzhxw
正常の眼球運動 ( 左注視の場合 ) https://www.youtube.com/watch?v=qycqf5xzhxw
INO( 左 MLF の障害の場合 ) https://www.youtube.com/watch?v=qycqf5xzhxw
Internuclear ophthalmoparesis(i NO) ( 核間性眼筋麻痺 ) 所見 病変側の眼 病変側と反対の眼 内転障害 外転時眼振 外転の緩徐化 輻輳は ( 原則 ) 正常
Internuclear ophthalmoparesis(i NO) ( 核間性眼筋麻痺 ) 症状 水平方向の複視病変側の眼の内転筋の筋力低下 水平注視障害による 正面視の際 垂直方向の複視 ( 一部の患者 ) 眼の斜偏位による その他 ; 動揺視 立体視 ( 距離知覚 ) の障害 めまいなど両眼の協調運動の障害による
本症例では 右眼 外転位 右注視時に眼振 内転 上下の運動制限なし 左眼 外転 内転 上下の運動制限なし 輻輳 一応可能 赤 ; 左 MLFの障害で説明がつく 青 ; 左 MLF の障害で説明がつかない INO でも説明がつかないぞ
採血 血算 生化学 WBC 12460 /μl TP 7.5 g/dl Neut 90.7 % Alb 4.3 g/dl Lymp 8.0 % T.Bil 0.6 mg/dl RBC 378 万 /μl GOT 24 U/L Hgb 12.1 g/dl GPT 16 U/L HCT 35.9 % LDH 254 U/L MCV 95.0 μ3 ALP 258 U/L CRP MCH 32.0 Pg γ-gtp 27 U/L MCHC 33.7 g/dl CPK 89 U/L ft4 PLT 19.9 万 /μl LDL-C 101 mg/dl TSH BUN 17 mg/dl CRE 0.40 mg/dl Na 137 meq/l K 4.5 meq/l Cl 103 meq/l 0.04 mg/dl 0.923 1.22 ng/dl μiu/ml AchR 抗体 ; 結果待ち HbA1c 6.6 %
頭部 CT 頭部 MRI+MRA 特に所見なし
複視 ( 眼球運動障害 ), 瞳孔異常. Medicina 2012;49(4):606-609.
どうしよう 神経内科の先生に相談したいけど 今日に限って不在なんだよな
そんなとき研修医のS 先生から電話 今診察させてもらったんですけど たぶんOne and a half 症候群だと思うんですけど MRIどうでした? えっ?
One-and-a-half 症候群 PPRF が障害される + MLF が障害される ことによっておこる
左 PPRF が障害されると 正面視で 病変と反対側の眼は外転 =paralytic pontine exotropia 左 PPRF の障害 病変 https://www.youtube.com/watch?v=qycqf5xzhxw
Paralytic pontine exotropia one-and-a-half 症候群の急性期には, 障害と対側の眼球が正視時に外転位にあり, paralytic pontine exotropia とよばれる. これは PPRF 障害により対側への tonic ocular deviation がおきるが, 病側の眼球は MLF 障害により内転しないためである. 臨床のための神経機能解剖学後藤文男, 天野隆弘. (1992).
左 MLF も障害されるので 左 MLF の障害 正面視で 病変と反対側の眼は外転 =paralytic pontine exotropia 病変 左 PPRF の障害 https://www.youtube.com/watch?v=qycqf5xzhxw
One-and-a-half
本症例では 右眼 外転位 右注視時に眼振 内転 上下の運動制限なし 輻輳 一応可能 左眼 外転 内転 上下の運動制限なし すべて One-and-a-half 症候群で説明がつく
ということは 左 MLF と左 PPRF が 障害されるような疾患があるって ことか でも MRI では何もなかったけどな
そんなとき研修医のS 先生から電話 今 MRI 見てみたんですけど 脳幹梗塞ですね えっ?
MRI(coronal) DWI high ADCmap low
当院では頭部 MRIをオーダーしてもルーチンでcoronalの画像は入りませんがこの症例では技師さんが気を利かせて coronalの画像をつくってくれたそうです ( そもそもcoronalの画像があることに気づいてませんでした )
症例の転帰 脳幹梗塞として同日入院 バイアスピリン内服で治療しつつ 経過観察したところ 徐々に眼位 や眼球運動障害は改善 後遺症なく退院となった
以後 当院では脳幹梗塞を疑ったら 頭部 MRI のときに必ず coronal の画像も オーダーするようにしています
Clinical Question One-and-a-half 症候群の 原因疾患 予後 脳幹梗塞の MRI 偽陰性について その他の複視の鑑別
One-and-a-half 症候群 原因疾患 他施設の報告論文で集められた症例 脳幹梗塞 12 4 多発性硬化症 4 12 橋の神経膠腫 2 1 動静脈奇形 1 0 橋出血 8 0 脳底動脈瘤 0 1 The one-and-a-half syndrome-a unilateral disorder of the pontine tegmentum: A study of 20 cases and review of the literature. Neurology. 1983;33(8):971-971.
One-and-a-half 症候群 予後 一般に良好なことが多い 20 例の検討 眼球運動障害が完全に消失 (4-20 週 ) 9 例 眼球運動障害が一部残存 3 例 もともと眼の症状がない 転帰不明 8 例 The one-and-a-half syndrome-a unilateral disorder of the pontine tegmentum: A study of 20 cases and review of the literature. Neurology. 1983;33(8):971-971.
脳幹梗塞 MRI を キーワードにして 調べてみると 脳幹梗塞の診断では MRI をあてにしすぎないほうがいい 初回 MRI で偽陰性だった脳幹 小脳梗塞症例の検討. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 2016;119(10):1290-1299.
持つべきものは優秀なスタッフ Take Home Message 複視 眼球運動障害を見たら病歴 眼球運動の診察を行い原因疾患を考える急性発症ならすぐに MRI 外斜視をみたら 鑑別の一つとして One-and-a-half 症候群も考慮する 脳幹梗塞の診断では MRI より所見が大事脳幹梗塞を疑ったら MRI で coronal も撮像