複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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激増する日本人糖尿病 ( 万人 ) 2,500 糖尿病の可能性が否定できない人 (HbA1c 6.0~6.4) 糖尿病が強く疑われる人 (HbA1c 6.5% 以上 ) 2,210 万人 2,000 1,500 1,000 1,620 万人 1,370 万人 万人 880 万人 +

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婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

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肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

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糖尿病型と判定する 血糖値が糖尿病型でかつ HbA1c が 6.5% 以上で糖尿病型であれば 糖尿病と診断できる 血糖値が糖尿病型でかつ糖尿病の典型的症状があるか確実な糖尿病網膜症が確認された場合も 糖尿病と診断できる 血糖値は糖尿病型であるが HbA1c6.5% 未満で上記の症状や確実な網膜症がな

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1 疾患別医療費札幌市国保の総医療費に占める入院医療費では 悪性新生物が 21.2% 循環器疾患が 18.6% となっており 循環器疾患では 虚血性心疾患が 4.5% 脳梗塞が 2.8% を占めています 外来医療費では 糖尿病が 7.8% 高血圧症が 6.6% 脂質異常症が 4.3% となっています

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あなたの血圧目標値 はじめに / 冊子の作り方 mmhg ① 印刷した面を外側にして半分に折ります ② はじめに を一番上にして右側に折った側がくるように重ね 表紙で包むようにし 端をホチキスなどで綴じてください 氏 名 住 所 電 話 年 生年月日 半分に折る 表紙で包むようにする 月 日 綴じる

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第三問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには を ( ) 内に記入してください 1( ) インスリン以外にも血糖値を下げるホルモンはいくつもある 2( ) ホルモンは ppm( 百万分の一 ) など微量で作用する 3( ) ホルモンによる作用を内分泌と呼ぶ

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練馬区国保における糖尿病重症化 予防事業について 平成 29 年 3 月 6 日練馬区区民部国保年金課 1 東京都糖尿病医療連携協議会配布資料

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糖尿病は 初めは無症状で経過しますが 血糖値の高い状態が長く続くと口渇 多飲 多尿 体重減少 倦怠感などの症状がみられます 糖尿病は自覚症状が乏しいので 血糖値がある程度改善すると 通院しなくなる人がいます 血液検査を行わなければ糖尿病の状態を知ることはできないので 自覚症状だけに頼ってはいけません

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

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糖尿病診療ガイドライン 2016 1. 糖尿病診断の指針 2. 糖尿病治療の目標と指針 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士による指導は有効か? 食事療法の実践にあたって, 管理栄養士による指導が有効である. 4. 運動療法 CQ4-2 2 型糖尿病患者に運動療法は有効か? 有酸素運動が, 血糖コントロール インスリン抵抗性 心肺機能 脂質代謝を改善し, 血圧を低下させる. 有酸素運動とレジスタンス運動は, ともに血糖コントロールに有効であり, 併用によりさらに効果がある. 運動療法は, 食事療法と組み合わせることによりいっそう高い効果が期待できる. CQ4-3 1 型糖尿病患者に運動療法は有効か? 運動の長期的な血糖コントロールへの効果に対する一定の見解は得られていないが, 心血管疾患のリスクファクターを低下させ, 生活の質 (quality of life:qol) を改善させる. 5. 血糖降下薬による治療 ( インスリンを除く ) 6. インスリンによる治療 CQ6-5 1 型糖尿病に対する強化インスリン療法は細小血管症の抑止に有効か? インスリン頻回注射法または CSII と, 血糖自己測定を併用したいわゆる強化インスリン療法は,1 型糖尿病において, 細小血管症 ( 網膜症, 腎症, 神経障害 ) の予防, 進展抑制に有効である. CQ6-6 1 型糖尿病に対する強化インスリン療法は大血管症の抑止に有効か? インスリン頻回注射法と血糖自己測定を併用したいわゆる強化インスリン療法は,1 型糖尿病において, 大血管症 ( 冠動脈疾患, 脳血管障害, 末梢動脈疾患 ) の進展抑制にも有効である. CQ6-8 2 型糖尿病に対する強化インスリン療法は細小血管症の抑止に有効か? 2 型糖尿病の細小血管症 ( 網膜症, 腎症, 神経障害 ) の予防 進展抑制には強化インスリン療法による厳格な血糖コントロールが有用である. xxvi

7. 糖尿病の自己管理教育と療養支援 CQ7-1 組織化された糖尿病自己管理教育と療養支援は糖尿病治療に有効か? 組織化された糖尿病自己管理教育と療養支援は有効である. CQ7-2 集団教育と個別教育は糖尿病治療に有効か? 集団教育と個別教育はどちらも糖尿病治療に有効である. CQ7-3 血糖自己測定 (SMBG) は糖尿病治療に有効か? 血糖自己測定 (SMBG) は 1 型糖尿病およびインスリン治療中の 2 型糖尿病の血糖コントロールに有効である. CQ7-5 心理的 行動科学的アプローチは糖尿病治療に有効か? 心理的 行動科学的アプローチは糖尿病治療に有効である. 8. 糖尿病網膜症 CQ8-1 定期的な眼科受診によって糖尿病網膜症の発症 進展を阻止できるか? 定期的な眼科受診は糖尿病網膜症の発症 進展を阻止するうえで有用である. CQ8-2 糖尿病網膜症に血糖コントロールは有効か? 血糖コントロールは,1 型糖尿病,2 型糖尿病患者における糖尿病網膜症の発症 進展を抑止するうえで有用である. CQ8-3 糖尿病網膜症に血圧コントロールは有効か? 血圧コントロールは 2 型糖尿病患者における糖尿病網膜症の発症 進展を抑止するうえで有用である. CQ8-4 糖尿病網膜症に脂質コントロールは有効か? 脂質異常症に合併した 2 型糖尿病におけるフェノフィブラートは糖尿病網膜症の進展抑制に有効である可能性がある. CQ8-6 眼科治療によって網膜症の進展を阻止できるか? 網膜光凝固術などの眼科治療は網膜症の進展を抑制するうえで有用である. 9. 糖尿病腎症 CQ9-1 尿中アルブミン測定は糖尿病腎症の早期診断に有用か? 尿中アルブミン測定は, 糖尿病腎症の早期診断として有用である. CQ9-3 糖尿病腎症に血糖コントロールは有効か? 早期腎症における血糖コントロールは腎症の進行を抑制するために有効である. 顕性腎症における血糖コントロールは腎症の進行を抑制する可能性がある. CQ9-4 糖尿病腎症に血圧コントロールは有効か? 糖尿病腎症に血圧コントロールはすべての病期で有効である. CQ9-5 糖尿病腎症に脂質コントロールは有効か? 糖尿病腎症における脂質コントロールは, 腎機能の低下がない腎症の進行抑制に対して有効である. xxvii

CQ9-6 糖尿病腎症における血圧コントロールの第一選択薬としてアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬 アンジオテンシンⅡ 受容体拮抗薬 (ARB) は推奨されるか? 糖尿病腎症における血圧コントロールの第一選択薬として, アンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシンⅡ 受容体拮抗薬 (ARB) が推奨される. CQ9-7 糖尿病腎症に食塩摂取制限は推奨されるか? 糖尿病腎症に食塩摂取制限は推奨される. 10. 糖尿病神経障害 CQ10-4 糖尿病神経障害に血糖コントロールは有効か? 厳格な血糖コントロールを行えば, 糖尿病神経障害の発症 進展を抑制することができる. 11. 糖尿病足病変 CQ11-2 足の定期観察は足病変の予防に有効か? 足病変の予防に足の定期観察のみが有効であることを示すエビデンスは乏しいが, それを含むフットケアシステムの臨床導入以後に下肢切断の減少が観察されており, また, 病変の早期発見, フットケア実施のためには足の観察が必須であり, 足病変予防に有効と考えられる. CQ11-3 フットケア教育は足病変の予防に有効か? フットケア教育は, 知識獲得やセルフケア行動の向上につながり, 長期的には足病変の予防に有効と考えられる. CQ11-4 血糖コントロールは足病変の発症や切断予防に有効か? 足病変や下肢切断への血糖コントロール介入の影響をみた報告は少ない. しかし, 足病変のリスクファクターである神経障害および大血管症の予防のために血糖コントロールは推奨される. コンセンサス CQ11-5 ハイリスク患者に対するフットケアは足潰瘍の予防や救肢に有効か? ハイリスク患者に対するフットケアによる足潰瘍や下肢切断の予防効果を直接的に証明した報告は少ないが, 多職種の連携によるフットケアにより大切断減少が示されている. CQ11-7 チーム医療は足病変発症予防と足潰瘍治療に有効か? 足潰瘍の集学的チーム医療が治療成績を向上させることが報告されている. 一方, 集学的チーム医療が糖尿病足潰瘍を予防することを示す直接的なエビデンスはないが, 集学的足ケアチームの確立と関連して足切断が経年的に減少していることから, 予防に有効である. CQ11-8 足潰瘍治療は患者の生活の質 (QOL) の維持に有効か? 足潰瘍治療は患者の生活の質 (QOL) の維持に有効である. xxviii

12. 糖尿病大血管症 CQ12-3 生活習慣の改善と肥満の是正は糖尿病大血管症に有効か? 耐糖能異常 (IGT), 高血圧症, 脂質異常症, 肥満症, 慢性腎臓病などの疾病や運動不足, 塩分摂取過剰, 喫煙などの生活習慣が心血管イベントのリスクファクターである. 生活習慣の改善と肥満の是正はリスクファクターを改善するため推奨される. CQ12-4 糖尿病大血管症に血糖コントロールは有効か? 糖尿病発症早期からの厳格な血糖コントロールは, 糖尿病大血管症の発症抑制に有効である. CQ12-5 糖尿病大血管症に血圧コントロールは有効か? 厳格な降圧療法は, 糖尿病大血管症の発症抑制に有効である. CQ12-6 糖尿病大血管症に脂質コントロールは有効か? 脂質コントロールは, 糖尿病大血管症の一次予防 二次予防に有効である. CQ12-7 糖尿病大血管症に抗血小板薬は有効か? 抗血小板薬の投与は, 糖尿病大血管症の二次予防に有効である. 糖尿病患者への一次予防のための抗血小板薬の投与は推奨されない. 13. 糖尿病と歯周病 CQ13-3 糖尿病治療は歯周病の改善に有効か? 糖尿病治療により歯周組織の炎症は改善することがある. CQ13-5 歯周治療は血糖コントロールの改善に有効か? 2 型糖尿病では歯周治療により血糖が改善する可能性があり, 推奨される. 14. 肥満を伴う糖尿病 ( メタボリックシンドロームを含む ) CQ14-6 高度肥満症を伴う 2 型糖尿病への外科療法は有効か? 肥満外科療法は高度肥満症に対する減量手術 (bariatric surgery) という意義にとどまらず, 糖尿病の改善や発症 進展予防にも寄与する代謝改善手術 (metabolic surgery) としての意義が注目されており, 減量に難渋する肥満 2 型糖尿病症例に対する有効な選択肢といえる. 15. 糖尿病に合併した高血圧 CQ15-4 糖尿病に合併した高血圧を診察室血圧 130/80 mmhg 未満に管理することは合併症予防に有効か? 合併症予防のために糖尿病での診察室血圧の血圧コントロール目標値は 130/80 mmhg 未満とする. 血圧コントロール目標値の達成は糖尿病合併症予防, 特に脳血管疾患予防に有効であるが, 動脈硬化性冠動脈疾患, 末梢動脈疾患合併例, 高齢者においては, 降圧に伴う臓器灌流低下に対する十分な配慮が必要である. xxix

CQ15-5 糖尿病に合併した高血圧の降圧療法での第一選択薬は ACE 阻害薬 ARB か? 糖尿病における降圧薬としては, 第一選択薬として, 臓器保護作用やインスリン抵抗性改善作用を有する ACE 阻害薬または ARB を用いる. 16. 糖尿病に合併した脂質異常症 CQ16-4 糖尿病患者の脂質異常症に食事療法は有効か? 糖尿病の脂質異常症に対する食事療法は有効である. 多価不飽和脂肪酸 (polyunsaturated fatty acid:pufa) の摂取が推奨される. CQ16-5 糖尿病患者の脂質異常症に運動療法は有効か? 糖尿病患者の脂質異常症に対して運動療法は有効である. CQ16-6 糖尿病患者の脂質異常症に対するスタチン系薬剤による治療は, 心血管疾患 (CVD) 発症率や生命予後の改善に有効か? スタチン系薬剤の投与は, 脂質異常症を合併した糖尿病患者の心血管疾患 (CVD) 発症を抑制し, 生命予後を改善する. 糖尿病患者の高 LDL-C 血症に対してスタチン系薬剤を第一選択とする. CQ16-7 糖尿病患者の脂質異常症に対するスタチン系以外の薬剤による治療は,CVD 発症率や生命予後の改善に有効か? 糖尿病患者の脂質異常症に対するフィブラート系薬の投与は, 非致死性 CVD 発症を抑制する. 高 TG 血症を合併する糖尿病患者では, フィブラート系薬の投与を考慮する. 17. 妊婦の糖代謝異常 CQ17-1 妊娠前, 妊娠中の血糖コントロールは妊婦や児の予後を改善するか? 妊娠前および妊娠初期の血糖コントロール不良により先天奇形および流産の頻度が増加するが, 妊娠前からの厳格な血糖コントロールを行えばこれらの頻度は減少する. 妊娠中の血糖コントロール不良により巨大児を含む周産期合併症のリスクが増大するが, 妊娠中に厳格な血糖コントロールを継続することで, これらのリスクは減少する. 18. 小児 思春期における糖尿病 19. 高齢者の糖尿病 ( 認知症を含む ) CQ19-2 高齢糖尿病患者の血糖コントロールは血管合併症の抑止に有効か? 高齢者においても, 高血糖は糖尿病細小血管症および大血管症のリスクファクターであるので, 適正な血糖コントロールを行う. コンセンサス xxx

CQ19-5 高齢糖尿病患者において運動療法は血糖コントロールや,ADL, 認知機能の維持に有効か? 高齢者でも定期的な身体活動, 歩行などの運動療法は, 代謝異常の是正だけでなく, 生命予後, 心血管疾患の発症抑制,ADL の維持, 認知機能低下の抑制にも有用である. 高齢 2 型糖尿病患者におけるレジスタンストレーニングは除脂肪量と筋力を増やし, 血糖を改善する. 20. 糖尿病における急性代謝失調 シックデイ ( 感染症を含む ) 21.2 型糖尿病の発症予防 CQ21-8 生活習慣介入によって 2 型糖尿病の発症は抑止できるか? 食事や運動習慣の是正を中心とした生活習慣介入は,2 型糖尿病の発症を抑制させる効果がある. xxxi