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目次 1. はじめに 目的 捕集および分析方法 (OSHA Method no. 34 改良 ) ブランク 破過 脱着率 誘導体化条件の検討 検量線... -

Transcription:

相対定量法を用いた GC/MS 迅速スクリーニング法の検討および水道水質農薬分析への適用財団法人島根県環境保健公社 園山雅幸石原正彦岡本仁志 1 はじめに水道水質基準の改正による測定対象農薬成分の増加 また食品では残留農薬ポジティブリスト制の導入等により GC/MS による測定を行う場合 従来の SIM 法ではモニタリング成分数に制約があり一斉分析が困難となりつつある これらの背景から Scan 法を用いたスクリーニングを行う手法が試みられるようになり Scan 法による定性および定量を目的とした GC/MS 解析ソフトウエアが開発されている これらのソフトウエアは 農薬成分をはじめ多種の有機化合物についての保持時間 マススペクトルおよび検量線に関する情報がデータベース化されており 迅速なモニタリングを支援することができる このような解析ソフトウエアを適用できれば 水質事故等の緊急時において 農薬成分をはじめとした迅速なスクリーニング ( 定性 ) および定量が可能になるのではないかと考えられる そこで本検討では 水道水質農薬成分を用いてその定量性を検証した さらに実試料測定へ適用し その定性力および有用性についても検証を行うこととした 2 実験結果及び考察 2-1 ソフトウエア概要および適用目的本検討で使用した GC/MS 解析ソフトウエア (NAGINATA; 西川計測 ) の概要を Fig. 1 に示す 精密チューニングおよびチェックサンプル測定により 装置のパフォーマンスを一定レベルに維持 管理し リテン ソフトウエア名 NAGINATA ( 西川計測 ) ションタイムロッキングした GC メ 測定の流れ 精密チューニングソッドにより測定を行う ソフトウスペクトル比等感度を精密に調整ロッキングされたリテンションタイムの確認エアには 同一条件で測定した各化チェックサンプル必要ならば再ロッキング測定ピーク形状ならびに定量値に影響する装置部分合物についてのデータベースが備わ ( 注入口 カラム イオン源 ) の状況把握および管理実試料測定っており 解析処理を実行すること内部標準を添加 (1 mg/lとなるよう ) し Scan 法下記条件で測定で データベース化された約 600 種解析トリプルデータベースの成分について迅速な定性処理が可 ( 保持時間 スペクトル 検量線 ) による迅定性 定量結果速な解析出力能となる さらにデータベースには約 600 種の化合物について一斉スクリーニング 相対定量が可能各化合物について内部標準法による GC/MS 分析条件 GC: 6890A (Agilent) MS: 5973 inert (Agilent) 検量線が登録されている よって内 Column: HP-5MS 30 m 0.25 mm 0.25 μm Oven: 70 (2 min) ~ 25 /min (0 min) ~3 /min ~ 200 (0 min) 部標準を添加し試料測定を行うこと 8 /min ~ 280 (10 min) ~ 20 /min~300 (5 min) Injection: 250 2μL,Splitless で 検出された化合物について内部 Inter Face: 280 Head Press: クロルヒ リホスメチルの保持時間が16.593 minになるよう調整 Ionization: EI/70 ev ( リテンションタイムロッキング ) 標準との強度比から定量 ( 相対定量 ) MS Tuning: DFTPP Tuning Scan Range: 35~500u を行うことができる そのため定量 Fig. 1 ソフトウエア概要および分析条件

にあたり従来のような標準 アハ ンタ ンス 試料の調製 測定 および解ナフタレン-d8 TIC: ST500-1.D 析による検量線の作成を必 240000 220000 アセナフテン-d10 200000 要とせず 大幅な分析時間の 180000 160000 短縮が可能となる 140000 フェナントレン-d10 クリセン-d12 従って 水質事故等の緊急 120000 フルオランテン-d10 100000 80000 対応時における迅速なスク 60000 リーニング法および定量法 40000 20000 として 本ソフトウエアが適 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 30.00 35.00 40.00 Time--> 用できれば 非常に有用な手法となり得ると考えられる Fig. 2 クロマトグラム一例農薬標準濃度 0.5 mg/l 内部標準濃度 1.0 mg/l 2 μl 注入 そこで 水質農薬成分分析について本法を適用し その再現性および定量性を検証するこ ととした 2-2 水道水質農薬分析における本分析メソッドの定量性の検証 GC/MS 一斉分析法に挙げられた水道水質農薬において本検討で測定対象とした 67 成分について Table 1 にその詳細を示す また 本分析条件におけるクロマトグラムを Fig. 2 に示す Scan 法による本分析における検出感度は クロルニトロフェンを除く全ての成分について 設定目標値の 1/10 値付近での測定が可能であり ( 前処理 1000 倍濃縮として ) 緊急時のスクリーニングとしては充分な感度であった また ほとんどの成分で目標値の 1/100 値までの検出が可能であったが 一部の成分については充分な感度が得られず 総農薬として分析を行う際は SIM 法の併用が必要であった 混合標準試料を用いて 再現性および定量性の測定を行った結果について Table 1 にまとめる 低濃度域では やや再現性が低下するものの ほとんどの成分で実用上充分な定量性 ( 設定値 ±20% 以内 ) および再現性 (CV 10% 未満 ) が得られた 続いて 実サンプルの測定を想定し 実試料 ( 水道原水 ) を前処理 ( 固相ディスクによる前処理 ) 1000 倍濃縮したものに混合標準をスパイクし 再現性および定量性の検証を行った 結果を Table 1 に示す 設定値よりも 定量値がやや高値になる成分 上述の標準試料による試験と比較して再現性が低下する成分もあったが ほとんどの成分で良好な結果が得られた このことから 実試料測定についても本法が充分適用可能であると判断できた しかし カラムとの相性が好ましくない成分 あるいはマトリクス効果の影響を受けやすい一部の成分で定量性の低い成分が見られた これらの成分については チェックサンプルを用いてあらかじめ装置のコンディションを一定レベルに管理している状況にあっても わずかな装置状態の変化でマトリクスの影響をより顕著に受け定量値が高値に あるいは再現性が低下したものと考えられる しかし このような傾向は 従来の検量線法による定量においても見られる 実試料では 試料により夾雑成分が異なるため これらの影響を把握するためには 定量に使用す

Table 1 測定対象成分と定量性検証結果 標準試料 定量目標値農薬成分名 R.T 50 μg/l 100 μg/l イオン (mg/l) Ave. Ave. CV(%) CV(%) (n=4) (n=4) 500 μg/l Ave. (n=4) CV(%) 実試料 ( 水道原水 ) 濃縮液 (1000 倍 ) に標準試料をスパイク 50 μg/l 100 μg/l 500 μg/l Ave. Ave. Ave. CV(%) CV(%) CV(%) (n=4) (n=4) (n=4) IS1 <IS> ナフタレン-d8 5.3 136 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 1 ジクロルボス (DDVP) 5.8 185 0.008 49 5.4 110 1.7 561 1.7 56 6.7 106 6.8 577 3.1 2 ジクロベニル (DBN) 6.7 171 0.01 62 4.7 114 3.0 546 1.3 55 3.9 109 4.4 570 2.5 3 エトリジアゾール 8.0 211 0.004 50 8.8 95 6.5 471 2.3 51 15.8 93 7.4 552 6.3 IS2 <IS> アセナフテン-d10 8.3 164 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 4 クロロネブ 8.7 191 0.05 56 3.5 103 6.6 476 1.8 49 7.5 95 6.3 497 2.5 5 モリネート 9.1 126 0.005 53 5.6 105 3.2 508 2.1 44 5.2 89 4.7 473 0.8 6 イソプロカルブ (MIPC) 9.1 121 0.01 52 1.9 101 2.8 525 0.8 46 5.3 95 3.0 519 2.3 7 フェノブカルブ (BPMC) 10.3 121 0.03 54 8.1 97 4.7 496 1.8 45 5.5 93 6.2 505 2.0 8 ペンシクロン 11.6 125 0.04 81 5.3 126 2.7 628 2.0 69 8.9 140 10.4 820 4.8 9 トリフルラリン 11.7 306 0.06 45 15.6 74 3.1 411 2.7 40 14.4 89 14.4 536 2.6 10 ベンフルラリン 11.7 292 0.08 36 5.3 66 5.4 406 1.8 33 7.6 77 7.1 496 1.3 11 ジメトエート 12.7 125 0.05 47 4.6 84 11.5 470 4.0 40 11.4 93 13.9 487 4.2 12 シマジン (CAT) 12.9 201 0.003 51 7.0 84 4.3 440 1.1 44 9.4 90 4.3 487 4.7 13 アトラジン 13.1 200 0.01 46 8.4 87 5.8 455 2.9 46 9.1 91 14.5 482 1.9 IS3 <IS> フェナントレン-d10 13.7 188 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 14 ピロキロン 13.8 173 0.04 52 1.2 101 4.0 540 2.4 51 2.6 104 3.4 571 2.6 15 プロピザミド 13.9 173 0.05 55 11.2 96 6.5 590 1.6 52 6.8 113 10.1 638 1.5 16 ダイアジノン 14.5 179 0.005 52 14.0 95 4.7 528 2.4 50 7.9 104 12.5 570 1.7 17 エチルチオメトン 14.5 88 0.004 70 12.5 132 4.7 727 0.9 63 29.0 128 18.1 726 6.0 18 クロロタロニル (TPN) 14.8 266 0.05 39 19.3 104 6.0 582 1.7 46 8.2 93 3.2 459 6.7 19 イプロベンホス (IBP) 15.3 204 0.008 51 10.3 73 3.8 440 2.0 47 9.0 101 2.8 617 1.5 20 ブロモブチド 16.2 119 0.04 60 5.6 113 1.1 623 1.9 57 9.8 120 6.3 655 1.6 21 テルブカルブ (MBPMC) 16.7 205 0.02 47 6.2 76 1.6 431 1.7 43 5.0 90 3.9 497 1.3 22 トリクロホスメチル 16.8 265 0.2 51 2.2 92 2.9 489 2.1 45 4.1 92 1.5 509 2.0 23 シメトリン 16.8 213 0.03 46 2.1 80 2.7 471 1.6 44 12.2 99 9.5 529 2.6 24 アラクロール 17.0 160 0.01 55 5.5 102 8.4 549 2.9 53 5.4 109 13.5 570 1.1 25 メタラキシル 17.3 206 0.05 49 11.5 83 4.4 448 3.1 48 9.2 88 10.5 508 3.2 26 フェニトロチオン (MEP) 18.1 277 0.003 45 14.3 74 12.8 418 3.0 32 35.0 81 8.0 484 1.9 27 ジチオピル 18.1 354 0.008 43 10.0 79 1.9 430 2.5 43 12.5 87 7.6 470 4.3 28 エスプロカルブ 18.2 222 0.01 43 6.9 85 11.0 478 1.1 39 11.8 84 6.5 473 2.7 29 チオベンカルブ 18.6 100 0.02 47 3.2 99 3.1 549 0.5 45 4.1 91 5.5 524 2.4 30 マラソン ( マラチオン ) 18.8 173 0.05 47 10.3 90 5.0 560 1.3 44 12.1 90 6.6 578 2.4 31 フェンチオン (MPP) 19.1 278 0.001 49 11.1 90 5.3 490 2.4 46 5.3 86 2.2 521 1.8 32 クロルピリホス 19.7 314 0.03 58 8.2 118 7.6 550 2.2 52 16.8 104 13.0 543 5.5 33 フサライド 20.5 243 0.1 55 7.7 102 8.3 555 2.0 50 4.8 100 3.2 560 0.3 IS4 <IS> フルオランテン-d10 20.7 212 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 34 ペンディメタリン 21.0 252 0.1 37 7.4 71 7.4 443 3.5 31 8.7 78 14.5 522 3.6 35 ジメタメトリン 21.1 212 0.02 48 4.3 88 6.1 573 1.9 45 8.5 101 3.8 606 1.1 36 キャプタン 21.2 79 0.3 38 5.7 63 7.7 432 2.1 32 0.4 61 7.1 426 4.4 37 メチルダイムロン 21.4 107 0.03 46 4.5 96 2.9 578 1.8 41 2.3 88 4.5 481 12.5 38 ジメピレート 21.5 119 0.003 51 3.3 112 7.1 660 0.3 47 4.5 101 2.1 619 0.4 39 イソフェンホス 21.6 213 0.001 43 9.4 89 7.4 513 2.6 39 10.4 87 8.6 521 2.5 40 フェニトエート (PAP) 21.7 274 0.004 44 3.6 87 4.7 530 4.6 41 11.9 85 1.2 526 2.9 41 プロシミドン 21.9 283 0.09 55 9.9 101 6.9 501 5.3 44 13.8 100 5.9 505 2.9 42 メチダチオン (DMTP) 22.3 145 0.004 49 1.6 97 5.3 606 1.0 46 15.6 85 6.1 552 1.5 43 α-エンドスルファン 22.6 241 0.01 64 12.1 106 8.7 490 9.9 52 16.9 103 7.8 514 5.6 44 ナプロパミド 23.4 128 0.03 51 9.0 101 5.1 617 2.5 51 11.6 109 5.8 621 0.9 45 ブタミホス 23.6 286 0.01 38 10.0 72 9.3 425 3.0 39 23.3 75 13.9 531 4.5 46 フルトラニル 23.8 173 0.2 46 2.0 90 2.6 614 1.8 46 25.1 109 3.8 665 1.1 47 イソプロチオラン (IPT) 23.9 118 0.04 49 4.5 101 4.5 645 1.9 47 10.5 99 5.3 576 1.0 48 プレチラクロール 24.1 162 0.04 50 5.1 95 4.7 570 3.0 49 3.7 98 6.1 572 2.8 49 ブプロフェジン 24.5 172 0.02 54 5.5 104 9.2 591 1.7 47 14.6 109 9.2 580 2.0 50 イソキサチオン 25.0 105 0.008 42 9.1 69 3.0 433 2.4 38 22.0 79 6.1 413 0.7 51 β-エンドスルファン 25.1 195 0.01 63 7.8 129 3.1 568 2.5 54 27.7 117 14.8 585 2.1 52 メプロニル 26.3 119 0.1 47 8.8 90 5.2 612 0.4 52 15.2 119 8.4 766 2.2 53 クロルニトロフェン (CNP) 26.5 317 0.0001 57 2.8 89 3.7 513 5.3 51 6.1 95 7.0 667 6.4 54 エディフェンホス (EDDP) 26.7 173 0.006 41 6.4 78 5.1 512 2.0 44 12.1 89 7.1 603 2.5 55-1 プロピコナゾール1 26.9 173 0.05 61 6.3 114 9.9 554 3.8 52 16.1 123 6.3 744 9.1 55-2 プロピコナゾール2 27.1 173 0.05 51 2.1 93 9.6 560 2.8 56 13.5 109 14.2 708 4.3 56 テニルクロール 27.5 127 0.2 56 4.6 108 4.0 660 1.1 52 5.2 114 6.5 685 3.0 57 ピリブチカルブ 28.3 165 0.02 40 8.4 73 5.5 533 1.7 38 7.6 96 7.3 652 2.3 IS4 <IS> クリセン-d12 28.4 240 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 58 イプロジオン 28.4 314 0.3 47 11.6 82 11.1 471 3.3 53 7.1 103 13.0 539 5.3 59 ピリダフェンチオン 28.5 199 0.002 46 4.7 75 5.3 541 1.2 42 15.4 91 14.5 662 5.5 60 EPN 28.7 157 0.006 53 13.5 94 3.6 674 0.7 45 4.3 98 15.4 757 3.3 61 ピペロホス 28.8 320 0.0009 47 14.4 76 8.3 506 1.6 46 10.3 99 4.6 666 2.5 62 ビフェノックス 29.2 341 0.2 49 25.4 92 7.3 522 4.7 45 10.9 95 6.5 672 5.2 63 アニロホス 29.2 226 0.003 37 9.0 71 8.8 481 1.6 32 7.5 86 21.8 467 2.9 64 ピリプロキシフェン 29.9 136 0.2 45 7.7 91 2.4 578 2.4 48 3.6 115 13.5 652 1.3 65 メフェナセット 30.0 192 0.009 42 3.7 76 4.2 502 2.3 40 8.3 91 4.9 602 3.9 66 カフェンストロール 32.2 100 0.008 42 5.6 83 2.0 543 0.5 46 9.8 107 7.4 632 3.4 67 エトフェンプロックス 33.2 163 0.08 46 5.2 94 2.4 558 2.6 52 6.9 129 9.1 736 1.0 る内部標準に加えてさらに農薬成分と同様の挙動を示すような安定同位体を使用すること で マトリクスの影響および更なる装置のコンディションの把握ができ 精度の向上を図ることができると考えられる このことについては 既報のとおりであり 本法において

も有用な結果が得られている 実試料適用例 1 試料 : 農薬散布時期 (5 月上旬 ) ダム水前処理 : 固相抽出法 (1000 倍濃縮 ) 測定方法 : 1 本法 Scan 法による測定 相対定量ソフトウエアによる解析 ( 定性 定量 ) ( 前処理後の試料を測定するのみ ) 2 従来法 SIM 法による測定 検量線法による定量標準試料を用い 検量線作成用の標準試料を調製 測定試料を測定し 内部標準法により定量 2-3 実試料への適用例実試料測定に本法を適用し その結果を従来の SIM 法 ( 検量線作成 内部標準法 < 測定結果 > 方法 1 方法 2 検出農薬成分 GC/MS 試料濃度水試料として方法 2に GC/MS 試料濃度水試料としてにより定量 ) による定量値と比較した (μg/l) (mg/l) 対して (μg/l) (mg/l) モリネート 7.8 0.000008 +22% 6.4 0.000006 ピロキロン 67 0.00007 +16% 58 0.00006 結果および概要を Fig. 3 に示す シメトリン 23 0.00002 +35% 17 0.00002 フルトラニル 33 0.00003 +9% 30 0.00003 イソプロチオラン 88 0.00009 +8% 82 0.00008 0 本法においても SIM 法で検出されたプレチラクロール 550 0.00055 +3% 530 0.00053 ピリブチカルブ 110 0.00011-2% 107 0.00011 メフェナセット 34 0.00003 +31% 25 0.00003 農薬成分を見落とすことなく同定でき カフェンストロール 79 0.00008 +12% 71 0.00007 定量値については 従来法の 2%~ Fig. 3 実試料測定への適用例 1 実試料適用例 2 試料 : 代掻き直後の水田付近の用水路より採取した水試料 +35% の範囲で得られ 迅速スクリーニ前処理 : 固相抽出法 (1000 倍濃縮 ) 測定方法 : 1 本法 Scan 法による測定 相対定量 2 従来法 SIM 法による測定 検量線法による定量ング法としては実用充分な結果であっ < 測定結果 > 方法 1 方法 2 た 検出成分 GC/MS 試料濃度水試料として方法 2に GC/MS 試料濃度水試料として (μg/l) (mg/l) 対して (μg/l) (mg/l) 次に 本法のスクリーニングにより ピロキロン 1200 0.0012-3% 1230 0.0012 ヘプタデカン (C17H36) 544 *** 農薬成分とともに 直鎖型オクタデカン (C18H38) 999 *** モニターしていない飽和炭化水素類の検出農薬以外の成分も検出された例を Fig. 4 ノナデカン (C19H40) 854 ため検出不可能が確認された *** エイコサン (C20H42) 695 *** に示す < 本試料における飽和炭化水素類のスペクトルパターン (m/z=85)> アハ ンタ ンス農薬成分の検出とともに鉱物油に由 C18H38 イオン 85.00 38000 C19H40 (84.70 ~ 85.70): na-tam-2.d 36000 34000 32000 来する直鎖型の飽和炭化水素化合物が 30000 28000 C17H36 C20H42 26000 24000 22000 C21H44 検出された これらの炭化水素類につい 20000 18000 16000 C16H34 14000 12000 てマススペクトルパターン解析を行っ 10000 8000 6000 4000 2000 た結果 炭素数およびその分布から 粘 0 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 30.00 35.00 40.00 Time--> 性の低い液状の鉱物油系潤滑油 ( 炭素数 Fig. 4 実試料測定への適用例 2 農薬成分とともに油類が検出された例 18 を主とした分布 ) と類推でき 本試料についてその由来は 農機具に使用する潤滑油によるものではないかと考えられる このように Scan 法を用いる本法では 農薬成分に限らず試料中の成分について包括的な把握ができ かつ迅速に解析および定性処理を行うことが可能であった 以上の結果から 水質事故等の緊急を要する際の原因究明における定性分析として 本法が 非常に有用な一手法となり得ることが示唆された 3 まとめ及び今後の展望 Scan 法による定性 定量を支援する GC/MS 解析ソフトウエアを用い その定性力 定 量性について 水道水質農薬 67 成分を用いて検証を行った その結果 スクリーニングと して実用上充分 ( 定量値については設定値に対し 0.5~2 倍 ) なものであり これらの成分 については緊急時に標準試料を用いることなく迅速対応が実現できると考えられる また 農薬成分に限らず 実試料中の鉱物油の把握を行うことも可能であった 今後は 油類をはじめ適用範囲の拡充を行うとともに 前処理の妥当性評価のため 種々の安定同位体を新たにデータベースに追加し 同位体希釈法にも対応できるよう検討を行う予定である