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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

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Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

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2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

平成14年度研究報告

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Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

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ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

原提示細胞によって調査すること 2 イベントの異なる黄砂のアレルギー喘息への影響を評価すること 3 黄砂に付着している微生物成分 (LPS 真菌 ) や化学物質 ( タール成分 ) のアレルギー喘息や花粉症への影響を評価すること 4 アレルギー喘息等の増悪メカニズムを 病原体分子パターン認識受容体

プロトコール集 ( 研究用試薬 ) < 目次 > 免疫組織染色手順 ( 前処理なし ) p2 免疫組織染色手順 ( マイクロウェーブ前処理 ) p3 免疫組織染色手順 ( オートクレーブ前処理 ) p4 免疫組織染色手順 ( トリプシン前処理 ) p5 免疫組織染色手順 ( ギ酸処理 ) p6 免疫

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八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

ヒト胎盤における

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第6号-2/8)最前線(大矢)

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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骨形成における LIPUS と HSP の関係性が明らかとなった さらに BMP シグナリングが阻害されたような症例にも効果的な LIPUS を用いた骨治癒法の提案に繋がる可能性が示唆された < 方法 > 10%FBS と 抗生剤を添加した α-mem 培地を作製し 新生児マウス頭蓋骨採取骨芽細胞を

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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博士論文 ( 要約 ) Probiotic-derived polyphosphate improves the intestinal barrier function through the caveolin-dependent endocytic pathway ( 腸上皮エンドサイトーシスによる細菌由来ポリリン酸の取り込みを介した腸管バリア機能増強作用の研究 ) 旭川医科大学大学院医学系研究科博士課程医学専攻 田中一之 ( 藤谷幹浩, 小西弘晃, 上野伸展, 嘉島伸, 笹島順平, 盛一健太郎, 生田克哉, 田邊裕貴, 高後裕 )

背景 目的 腸管内には 1000 種を超える腸内細菌が存在し, 宿主の腸管の恒常性を保つと同時に, 多くの消化器疾患の病態に強く関連することが示唆されている. 腸管上皮における腸内細菌の認識機構として,Toll like receptors(tlrs) や Nods などのパターン認識受容体 (pattern recognition receptors; PRRs) が発見されており, これらは lipopolysaccharide (LPS) や lipoteichoic acid (LTA) などの菌由来成分を認識する.TLR のシグナルは炎症性サイトカインの産生を誘導し, 腸管を含め臓器における炎症を引き起こす.Nods は細胞内で細菌成分を認識し,NF-kappaB 経路を活性化する. このように,PRRs は主に病原菌の菌体成分などを認識し腸管炎症を惹起する. 一方, 宿主に有益な菌 ( プロバイオティクス ) に対する認識機構については, その一部が病原菌と同様に PRRs を介する経路であることが知られているが, 残りの大部分の菌では認識機構が不明である. 我々の研究室では, プロバイオティクスであるバシラス菌由来の competence and sporulation factor(csf) が, 腸管上皮の有機体トランスポーターによって上皮内に取り込まれることで認識され, 腸管保護作用を発揮することを明らかにした. その他にも, 腸管炎症改善効果を有するプロバイオティクス由来物質として LGG 乳酸菌由来 p40 p75 の報告がある. さらに, 我々の研究室では乳酸菌から分泌される腸管保護物質ポリリン酸を同定し, これが腸管炎症や線維化を改善することを突きとめた. この菌由来ポリリン酸は腸管上皮の integrin β1 との結合を介して腸管保護作用を発揮することも明らかになり,TLRs や Nods などの PRRs とは異なる経路で腸管上皮細胞に認識され作用を発揮することが示唆された. しかしながら, その詳細なメカニズムは不明である. 本研究では, ポリリン酸が腸管上皮 integrin β1 に認識された後の動態および腸管上皮への作用機序について明らかにする. 方法 1. ポリリン酸の合成混合液 (50mM Tris HCl(pH7.4),40mM ammonium sulfate,4mm MgCl2, 40mM creatine phosphate,20ng/ml creatine kinase,1mm ATP(pH7.2),1U の polyphosphate kinase(ppk) を反応させポリリン酸を合成した. 2. 細胞株 Caco2/bbe 細胞 ( ヒト腸管上皮由来細胞株 ) を用いた. 3.sh(short hairpin)rna の導入レンチウィルス発現ベクターを用いて Caco2bbe 細胞に integrin β1, caveolin-1 の shrna を導入した. ノックダウン効率は Real-time PCR および

Western blotting にて確認した. 4. マンニトール漏出試験トランスウエルに Caco2/bbe 細胞を培養し,NH2Cl を用いて酸化ストレスを負荷した. 3 H 標識マンニトールを上部 well に投与し,1,2,3 時間後に下 well へ漏出したマンニトールを測定することにより腸管バリア機能を評価した. 5. 32 P ポリリン酸の動態試験 32 P 標識 ATP を用いて上記 1. と同様の方法で 32 P 標識ポリリン酸を作製した. Caco2/bbe 細胞に 32 P 標識ポリリン酸を投与後, 培養液および細胞成分に含まれる 32 P を測定することにより細胞内外のポリリン酸の分布を評価した. 6.Western blotting 解析対象の細胞から蛋白を精製し SDS-PAGE にて電気泳動を行った ニトロセルロースメンブレンへ転写し下記に示す一次抗体を用いて特異的な蛋白を検出し, 画像解析ソフト image J で発現量を評価した 用いた一次抗体は リン酸化 p38 MAPK,HSP27,tumor necrosis factor alpha-induced protein 3(TNFAIP3),thymosin beta 4(TMSβ4) に対する単クローン抗体である. 7.Real-time PCR 解析対象の細胞から RNA を分離し, 逆転写にて cdna を作製した. これをテンプレートとして integrin β1,caveolin-1,tnfaip3, TMSβ4,dual specificity phosphatase 2(DUSP2) の cdna 配列に特異的な配列を持つプライマーを用いて PCR を行った. 8.High-throughput sequencing Caco2/bbe 細胞にポリリン酸を投与し,3 時間後に RNA を分離した. これをテンプレートとして発現量が変化する mrna を網羅的に解析した. 9. 蛍光免疫染色 Caco2/bbe 細胞にポリリン酸を加え,X-press 配列で標識されたポリリン酸結合蛋白およびこの配列に対する単クローン抗体を用いて腸管上皮内外のポリリン酸の動態を評価した. 観察は共焦点顕微鏡にて行った. 10. 統計処理有意差検定には Student s t-test を用い,p<0.05 を統計学的有意差ありと判断した. 結果 1. ポリリン酸の細胞内への取り込み 32 P 標識ポリリン酸は 1 時間後に細胞内へ取り込まれ, その後時間経過とともに細胞外へ移行し,48 時間後にはほとんどが細胞外へと移行した. 蛍光免疫染色でも同様の細胞内外の移動を認めたが,integrin β1 発現抑制によりポリリ

ン酸の細胞への集積は低下した.integrin β1 は上皮細胞膜上の脂質ラフトを形成する caveolin-1 との相互作用があることから, ポリリン酸が caveolin-1 依存性のエンドサイトーシスにより細胞へ取り込まれると仮定し, 検討を行った. 免疫沈降 western blotting を行った結果, ポリリン酸が Caco2/bbe 細胞株において caveolin-1 との複合体を形成することが明らかになった. この複合体は integrin β1 発現抑制により形成が低下した. 32 P 標識ポリリン酸の細胞内取り込みも caveolin-1 発現抑制によって有意に減少した. 以上より, ポリリン酸は腸管上皮 integrin β1 により認識され,caveolin-1 依存性のエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれることが示された. 2. ポリリン酸の細胞保護作用 Western blotting にて細胞保護蛋白 Hsp27 およびリン酸化 p38 MAPK の発現を検討した結果, ポリリン酸投与に両者とも有意に発現が誘導された. この作用は integrin β1,caveolin-1 発現抑制により有意に抑制された. マンニトール漏出試験で腸管バリア機能を検討した結果, ポリリン酸投与により腸管バリア機能の増強が認められたが, その作用は integrin β1,caveolin-1 発現抑制により消失した. 以上より, ポリリン酸は integrin β1-caveolin-1 依存性エンドサイトーシスを介して腸管バリア機能を増強することが示された. 3. ポリリン酸投与による TNFAIP3 の発現誘導 high-throughput sequencing 解析にてポリリン酸投与で 2 倍以上発現変化があり, かつ P 値 0.05 未満であった 154 個の mrna を抽出し, バリア機能増強作用に関連する TNFAIP3,TMSβ4,DUSP2 を候補分子として同定した. そのうち, 細胞株へのポリリン酸投与により mrna, タンパク発現量ともに有意に発現が変化した分子は TNFAIP3 のみであった. 考察 本研究によって, 細菌由来のポリリン酸が integrin-caveolin 依存性のエンドサイトーシスにより腸管上皮細胞に取り込まれ,p38 MAPK の活性化と Hsp27 の誘導により細胞保護作用を発揮するという新たな宿主 細菌相互作用メカニズムが明らかになった. 以前我々はバシラス菌由来の分子が細胞膜トランスポーターによる取り込みを介して認識されることも明らかにしており, プロバイオティクスの認識には PRRs を介さない経路が存在すると考えられる. 本研究では細菌由来物質であるポリリン酸がカベオリン依存性エンドサイトーシスにより腸管上皮へ取り込まれることが初めて示された. また,high-throughput sequencing 解析によりポリリン酸投与によって発現量が変化する主な分子が TNFAIP3 であることを突き止めた.TNFAIP3 は TNF α/nf-κb シグナルを強力に抑制すること, 腸管バリア機能を増強することが

知られており, ポリリン酸は TNFAIP3 の発現誘導を介して腸炎改善や腸管バリア機能の回復などの有益な作用を発揮すると考えられる. この新規の宿主 細菌間の相互作用がさらに解明されることで,PRRs に限定されない種を超えた宿主 細菌間クロストーク解明に向けた新分野の創設が期待される. さらには, 細菌由来の物質の認識や取り込み機構に着目し, 消化器疾患の新たな治療標的の開発が期待される. 引用文献 1. Fujiya M, Musch MW, Nakagawa Y, et al. The Bacillus subtilis quorum-sensing molecule CSF contributes to intestinal homeostasis via OCTN2, a host cell membrane transporter. Cell Host Microbe 2007;1:299-308. 2. Segawa S, Fujiya M, Konishi H, et al. Probiotic-derived polyhosphate enhances the epithelial barrier function and maintains intestinal homeostasis through integrin-p38 MAPK pathway. PLoS One 2011;6:e23278. 3. Kashima S, Fujiya M, Konishi H, et al. Polyphosphate, an active molecule derived from probiotic Lactobacillus brevis, improves the fibrosis in murine colitis. Transl Res. 2015;166:163-75.