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Transcription:

< 当事者について > 医療機関ヒアリング [A 機関 ] の就労事例 発症から 10 ヶ月で復職 中等度の失語症 受傷時から緩やかに回復し 復職 2 ヵ月後 ( 発症から約 1 年後 ) には軽度レベルまで回復した < 職務内容について> 元の仕事は営業職であったが 復職時は事務作業 ( パソコン入力の補助業務 ) 復職カンファレンスにて事業所の担当者から提案された様々な仕事の中から 直属上司が営業を補助する事務作業に決定 ( 暫定的な決定で 復職して実際に仕事を始めてから様子を見ようという判断 ) < 支援内容について > 病院 (ST) からはコミュニケーションについてのアドバイスをする ( ここで ~ のように言うと伝わりやすい ~ というときには 2 回言ってください 等 ) 事業所の所長 担当部長が病院を来訪 キーパーソンが配置され カンファレンスに出席 当事者の復職に当初から熱心であった また 事業所には以前にくも膜下出血を発症した従業員がおり 回復や職場復帰に時間がかかることがわかっていたので 当初から長い目で見る心構えができていた 40

医療機関ヒアリング [B 機関 ] < 急性期 回復期病院 ( 脳血管リハ I 運動器リハ I リハ Dr; 欠 ST;6 Psy;0 MSW;4 > 基本的に復職者を主な対象とし就労支援を行っている 失語症に限らず高次脳機能障害に関しては言語聴覚士が主導している 当事者の症状 復職の意志 受け入れ体制 家族の協力体制が合致したとき 復職支援を開始 当事者 家族および事業所の 3 者に病院まで来てもらい復職に関する会議を行う 会議のセッティングは MSW が行い 具体的なやり取りは ST が行う 参加者は Dr と ST( 必要に応じて PT OT も参加 ) 会議では 事業所側に当事者の状況 能力などについて伝えるとともに 会社からの提案や疑問 ( ~ という仕事はできるかどうか 等 ) について検討する 会議の主目的は当事者の症状および失語症がどのようなものかを理解してもらうことであり その上で事業所内での対応方法を検討していく 失語症者の復職について 当病院では事業所側の要因がかなり大きいと考えている そのため 失語症についての理解促進に努めている 伝える際に重点を置いているのは 失語症は不安定 グレーゾーンが大きい あいまいな障害であるということを理解してもらうことである こうした障害であるため 長い目で見ていく必要があることを理解してもらうようにする 基本的な方針として 休職期間はできるだけ長く確保してもらい その間に言語を含めた基礎能力を病院でできるだけ伸ばすように考えている ( ただし 実際に復職したから気づく 伸びるということもあり良いか悪いかはケースバイケースともいえる ) 41

< 当事者について > 脳挫傷による受傷 ウェルニッケ失語症 当初は書字および意味理解に困難があった 受傷後 1 ヶ月でかなり改善 読みの理解は保たれていたが 聞いて理解することは難しかった 話すことに関しても違うことを言ってしまう 書くことも簡単なことならば可能だが 深く考察することは難しい ( なお SLTA のマンガ説明などは可能 ) < 職務内容について > 医療機関ヒアリング [B 機関 ] の就労事例 受傷前は研究職 ( 化粧品の開発 ) 書字と意味理解に困難があったため報告書執筆や議論等は難しく現職復帰は困難 病院での会議で症状説明を受けた後 事業所ではクレーム対応の部署での書類整理の仕事を考案 しかし このときは事業所では当事者の能力を過大視しており また本人も障害認識が現実的ではなかった 復職後 事業所内の業務会議でのメモや報告書でも内容が伴わないものが多く 事業所側ではこれにより本人の症状がどのようなものか認識した その後 再度事業所側での考案により配置転換が行われ 化粧品関係の国内 海外資料の収集となった ( 英語を読んで理解する能力は保たれていた ) < 支援内容について> 事業所側と複数回面談 会議を重ね失語症および当事者についての理解を構築していった 回数としてはまず受傷直後 症状が重い時に1 度 その後復帰のタイミングを測る際に1 度 復帰直後に1 度 ( この間約 8ヶ月 ) さらに復帰後 1ヶ月で1 度 その2ヵ月後に1 度 また途中で当事者の上司が変わったときに1 度 さらに復帰後 2 年で1 度と 計 6 回の面談 当初 事業所側の失語症の理解は容易ではなかった 言葉で失語症とはどのようなものかを説明すると その場では なるほど と納得はするのだが それだけで理解ができるということはまずない 本人が復帰し 本人と事業所側とのやりとりの中で事業所側が失語症がどのようなものか実感した様子であった 42

医療機関ヒアリング [C 機関 ] < 回復期 慢性期病院 ( 脳血管リハ I 運動器リハ I リハ Dr;0 ST;10 Psy;0 MSW;2 > 総合リハセンターとして 高次脳機能障害者普及支援事業のほか 病院運営 就労移行支援 事業 生活支援センター事業 発達障害者支援センター事業等を行っている多機能型の施設 高次脳機能障害の専用窓口を有する 高次脳機能障害を持っており かつ生活が自立し 就労を希望する人が当施設を利用 基本的に復職者を主な対象とし就労支援を行っている 失語症に限らず高次脳機能障害に関しては言語聴覚士が主導 高次脳機能障害については身体の障害が軽い人に対して機能訓練を行う 特にベースとして事務系の訓練を実施しており Microsoft Word, Excel, ホームページ作成 Adobe Illustrator の実習が可能 就職率は 20% をやや超える程度 43

医療機関ヒアリング [C 機関 ] の就労事例 < 当事者について > 中等度の失語症 聞くことについてはゆっくり言えばある程度理解できる 話すときには言葉が出にくいことがある その他 手指の機能および下肢機能の障害 右麻痺 遂行機能に障害 ただし 移動や道具使用には問題ない ( 元々左利きであった ) 感情コントロールに問題あり 手帳は身体障害者手帳 3 級を所持 交通事故による頭部外傷後 7ヶ月の入院 その後外来で言語療法 作業療法を行っていた 病識 自らの能力把握は良好 < 訓練内容について > 言語療法のほか パソコン (Word Excel の基礎 ) 操作の訓練 言語療法は週 1 回 < 支援経過 > 清掃業が第 1 希望の職種であり 第 2 希望は調理補助 あるいは事務系でパソコンを使う仕事であった 説明会 面接会を経て福祉施設の調理補助として就職 この仕事自体はハローワークで見つけたものであり 当事者の失語症状のレベルと調理補助の実作業がマッチした 就職後 感情コントロールの問題が出て離職 その後清掃会社に就職 現在 ( ヒアリング当時 ) はその清掃会社で定着している ペアになって勤務している従業員との人間関係がよく 感情の問題が出ないとのこと 44

医療機関ヒアリング [ まとめ ] 医療機関 ( 単独の ) 就労支援の特徴として 病院 (Dr,ST,MSW など ) と 事業所関係者で行われる ケース会議 を前提としている点である ケース会議の主たる機能は 当事者の様子 回復度合い 失語症の症状について事業所側 ( ならびに家族 ) に伝えることである 就労 復職に関しては 当事者の症状を考慮したうえで 事業所の 配慮 ( 配置転換 職務分析 コミュニケーション ) について医療的 見地からの助言を加える これを複数回行い また実際の勤務の 様子を観察しながら定着につなげていくという流れになっている 45

結語 医療機関単独利用の失語症者の復職率は 2~3 割程度 ( 現職復帰は 1 割程度 ) であり 失語症者の復職は難しく また 受障前の職業を同じレベルで維持することが非常に困難である 職場との折衝 職リハ機関への橋渡し 職業前訓練 など医療機関による就労支援の取り組みは 1 割以下と極めて少ない 就労支援機関 ( 総合センター職業センター ) 利用後の失語症者の復職率は約 6 割で 医療機関単独支援の約 2 倍となっていることから 医療機関と就労支援機関の連携支援の重要性が示唆されるが 就労支援機関と連携した支援を行っている医療機関は 3 割程度にとどまっているのが現状である 就労支援機関の支援内容については ジョブコーチ支援実施者の 9 割強が就労できたのに対し ジョブコーチ支援なし者では就労者が 3 割弱にとどまるっていることから ジョブコーチ支援が失語症者の就労支援に効果的であることが示された 就労継続 ( 職場定着 ) に重視される要因として 就労支援機関からは 本人の就労意欲 企業 職場の理解促進 企業 事業所の取り組み ジョブコーチ支援 職場内での支援 等が 医療機関からは 本人の意欲 失語症の重症度 企業の取り組み 等があげられ 就労支援機関 医療機関ともに 本人の意欲 企業の取り組み を重視している 連携支援の観点から 就労支援機関の事業所に対する直接的支援が重要となる 46

失語症のある高次脳機能障害者に対する就労支援のあり方に関する基礎的研究 研究成果物 調査研究報告書 No.104 リーフレット 47

今後とも高次脳機能障害者 ( 失語症 若年性認知症含む ) の就労支援よろしくお願いいたします お尋ね事がありましたら 下記まで連絡お願いいたします ////////////////////////////////////// 独立行政法人高齢 障害 就職者雇用支援機構障害者職業総合センター特別研究員田谷勝夫 261-0014 千葉市美浜区若葉 3-1-3 TEL 043(297)9026 FAX043(297)9057 E-mail:Taya.Katsuo@jeed.or.jp //////////////////////////////////////