原著論文 肩関節屈曲による交互滑車運動器使用時における肩甲骨の動きからみた肩甲上腕リズムの検討 寒川貴雄 (RPT) 1) 成末友祐 (RPT) 2) 新枝誠人 (RPT) 1) 原田貴志 (RPT) 1) 澤近知代 (RPT) 3) Key Word 交互滑車運動器 肩関節屈曲 肩甲骨の動き 肩甲上腕リズム 要旨 本研究の目的は, 上肢の交互滑車運動器 ( 以下, 上肢プーリー ) 使用時の肩甲骨の動きからみた肩甲上腕リズムへの影響について調査し, 上肢プーリー使用時の運動指導について検討する指標とするためである. 対象は, 平均年齢 22.96±2.88 歳の健常人 24 名 ( 男性 11 名, 女性 13 名 ) で,48 肩であった. 方法は,1 何も持たない自然挙上群,2 上肢プーリー自動運動群,3 上肢プーリー牽引群の 3 群に分け, 肩関節の屈曲を ~1 まで ごとに挙上し, 肩甲骨の動きをゴニオメーターで計測した. その結果, 肩甲胸郭関節と肩甲上腕関節は, 9,1 の間で牽引群と他の 2 群との間に有意差があった. 肩甲上腕リズムは,,9 の間に牽引群と他の 2 群との間に有意差があった. よって, 上肢プーリーは,,9 までの間の肩甲骨の評価と運動指導が必要であり, その際は, 自動運動で行うべきであることが示唆された. 1) 医療法人和光会前田病院 2) 医療法人康雄会介護老人保健施設すばる 3) 医療法人和光会高松老人保健施設フローラ 1) 住所 ; 761-54 香川県高松市東ハゼ町 824 1)TEL;87-865-7111( 代 ) 筆頭著者 E-mail;pt_sangawa@hotmail.com 1
研究の目的上肢における交互滑車運動器 ( 以下, 上肢プーリー ) は,1955 年,Toussaint D ら 1) によってその使用方法が報告されており, わが国では,1968 年に山口 2) によって紹介されている通り, 古くからある運動療法機器である. また, 簡便な機器であるため, 多くの病院や施設などに設置されており, 肩関節における関節可動域の増大などを目的とした理学療法として, しばしば処方される運動療法の 1 つである. しかし, 服部ら 3) によって, 前挙, 側挙などの使用方法が報告されているものの, その報告数 1-5) は少ない. 実際の臨床現場では, 理学療法士が上肢プーリーについて患者に対し, 適切な訓練指導を行うことは少なく, 敬遠されがちな運動療法機器となっており, 施設に上肢プーリーがあるにもかかわらず使用されていないか, 患者や利用者独自の使用方法に任せた状態で施行している場合がある. その結果, 肩関節の正常な動きを破綻させ, 痛みの出現や増強があるという可能性を否定することはできない. そこで我々は, 上肢プーリー使用時の正常な肩関節の動きを把握し, 運動指導を行う際の指標とするため, 今回は, 肩関節の屈曲に焦点を当てた. 上肢プーリーを使用し, 肩関節の屈曲動作を健常人が行った場合, 肩甲骨がどのような動きをし, 1934 年に Codmann 6) が提唱して以来, 肩関節の機能的な動きとして捉えられてきた肩甲上腕リズムに, どのような影響を及ぼしているのかを調査, 検討し, 若干の使用方法も含めて考察したので報告する. 対象対象は, 事前調査として肩関節周囲の重篤な疾患の有無をアンケートし, その結果, 疾患が無く今回の研究の趣旨を説明した上で, 賛同の得られた平均年齢 22.96±2.88 歳の健常人 24 名 ( 男性 11 名, 女性 13 名 ) の 48 肩であった. 方法上肢プーリーについては,OG 技研株式会社製の交互牽引滑車運動器 GH-412 を使用した. 方法は, 全ての被検者に,1 自然挙上による肩甲骨の動きを把握するため, 何も無い状態で両上肢を肘関節伸展位, 前腕を回内外中間位で, 両肩関節を自動運動にて屈曲させる自然挙上群 ( 以下, 自然挙上群 )( 図 1-a). 2 上肢プーリーを用いて, 両上肢の開始肢位を肘関節屈曲位, 前腕を回内外中間位とし, 最終肢位として, 肘関節伸展位, 前腕を回内外中間位となるよう徐々に肘関節の伸展を伴いながら肩関節の屈曲を行い, どちらかの上肢が挙上を行う際には, 反対側の上肢は, 肩関節および肘関節を同時に伸展させる自動運動を行う, 肩関節を屈曲させる自動運動群 ( 以下, 自動運動群 )( 図 1-b). 3 上肢プーリーを用いて, 自動運動群と同様の方法にて肩関節の屈曲を行い, 挙上肢は, 脱力した状態にて施行し, 反対側の上肢にて牽引するように挙上させ, 肩関節を屈曲させる牽引群 ( 以下, 牽引群 ) ( 図 1-c) の 3 動作を行ってもらい, その 3 群間にて群間比較を行った. 全ての方法において, 脊椎の棘突起を結んだ線が床面と垂直になるように座位にて施行し,Inman 7) 挙上 挙上 牽引 脱力 自動運動 a b c 図 1 各運動の測定方法 a, 自然挙上群 b, 自動運動群 c, 牽引群 2
表 1 各計算により算出した角度の計算方法 肩甲上腕関節角 ( c) 日整会ならびにリハ医学会による肩関節屈曲角 3,4) ()(1 - 体幹肩甲棘角 ( a)) 体幹肩甲棘角可動値 から1 の ごとの体幹肩甲棘角角度 - 位での体幹肩甲棘角 肩甲上腕関節可動値 から1 の ごとの肩甲上腕関節角度 - 位での肩甲上腕関節角 肩甲上腕リズム 肩甲上腕関節角 体幹肩甲棘角 ( 肩甲胸郭関節 : 肩甲上腕関節 =1: 変数 ) 表 2 体幹肩甲棘角の測定値, 各可動値, 肩甲上腕リズムの平均 肩関節屈曲角度 9 1 1 1 体幹肩甲棘角の自然挙上群 11.46±3.99 12.29±3.99 17.92±5.63 117.71±4.25 128.23±5.21.31±3.63 148.33±3.62 測定値自動運動群 12.81±3.85 14.17±4.87 11.1±7.3 119.48±6.38 129.48±6.12 142.29±4.25 1.42±4.23 ( 単位 = ) 牽引群 12.81±3.85 14.69±4.43 18.54±8.44 113.96±1.91 1.±8.69 142.81±6.1 154.6±4.69 体幹肩甲棘角の自然挙上群.83±1.88 6.46±4.25 16.25±4.6 26.77±6.6 38.85±4.75 46.88±4.91 可動値自動運動群 1.35±2.68 7.29±5.83 16.67±5.49 26.67±5.49 39.48±4.52 47.61±4.73 ( 単位 = ) 牽引群 1.88±3.36 5.73±8.5 11.15±1.98 27.19±8.99.±7.15 51.25±5.97 肩甲上腕関節の自然挙上群 29.17±1.88 53.54±4.25 73.75±4.6 93.23±6.6 111.15±4.75 133.13±4.91 可動値自動運動群 28.65±2.68 52.71±5.83 73.33±5.49 93.33±5.49 11.52±4.52 132.±4.73 ( 単位 = ) 牽引群 28.13±3.36 54.27±8.5 78.85±1.98 92.81±8.99 11.± 128.75±5.97 自然挙上群 1 25.83±9.42 17.56±.81 4.93±1.67 3.75±1.28 2.92±.49 2.88±.43 肩甲上腕リズム自動運動群 1 27.±7.72 19.92±23.56 5.12±2.55 3.±1.2 2.85±.46 2.82±.42 ( 体幹肩甲棘 =1) 牽引群 1 22.±11.84 35.22±27.36 29.29±35.89 4.2±2.1 2.87±.71 2.56±.43 ( 自然挙上群, 牽引群間 ) ( 自動運動群, 牽引群間 ):P<.1 H S J c 図 2 基本となる測定法直線 G: 脊柱の棘突起を通る垂線, 直線 S: 肩甲棘軸, 直線 H: 上腕骨軸, 直線 J: 肩峰から下ろした垂線, a: 体幹肩甲棘角, b: 日整会およびリハ医学会による肩関節の可動域測定角 1,11), c: 肩甲上腕関節角, 直線 G // 直線 J G a らの肩関節の運動範囲における区分を参考にし, 肩関節の屈曲を 9 1 1 1 と ごとに挙上していった. その時の体幹肩甲関節における肩甲骨の動きは, 非常に簡便であり, ゴニオメーターがあれば測定が可能な Doody ら 8 ) や唐沢ら 9) の肩甲骨を捉える方法を参考にし, 脊椎棘突起を結んだ垂線 ( 図 2-G) を 基本軸, 肩甲棘軸 ( 図 2-S) を移動軸とした体幹肩甲棘角 ( 図 2- a)( 以下, a) を, 測定の誤差を少なくするために同一の検者が, ゴニオメーターにて挙上肢の屈曲角度毎に挙上肢の肩甲骨の動きを, 左右どちらも計測した. なお, 肩関節の屈曲角度 ( 図 2-)( 以下,) は, 日本整形外科学会ならびに日本リハビリテーション医学会による関節可動域測定法 1,11) に基づき計測した. 肩甲上腕関節角 ( 図 2- c)( 以下, c) は, 計算式 ( 表 1) にて, その角度を求めた. また, a と c については, それぞれの動いた角度 ( 以下, 可動値 ) を知るために, の 位での角度を基準とした角度を, から 1 の ごとにおける各 のそれぞれの関節角度 - 位という計算式 ( 表 1) にて, それぞれの可動値を求めた. 肩甲上腕リズムについては, から 1 の ごとの にて, 表 1 のごとくに算出した. その後, 各測定値, 計算値から肩関節屈曲角度毎に 3 群間にて一元配置分散分析を行い, その後, 有意差のあった角度に関しては,t- 検定にて検討した. その際の有意水準は,1% とした. 結果 Ⅰ, 計測値 a の計測値は, 表 2 のごとくであった. 自然挙上群と他の 2 群との有意差は, の 1 位にて自動運動群と牽引群が有意に高値であった. 3
肩甲胸郭関節の可動値 自然挙上群 から1 自動運動群の ごとの体幹肩甲棘角角度 - 位での体幹肩甲棘角牽引群 :P<.1 可動値 1 肩甲胸郭関節肩甲上腕関節 1 9 1 1 1 b 9 1 1 1 の角度 A 1 A 1 肩甲胸郭関節肩甲上腕関節 肩甲上腕関節の可動値 1 自然挙上群自動運動群牽引群 :P<.1 可動値 9 1 1 1 B 9 1 1 1 の角度 1 肩甲胸郭関節 肩甲上腕関節 B 図 3 各関節の可動値 ( 単位 = ) A, 肩甲胸郭関節 B, 肩甲上腕関節 可動値 自動運動群と牽引群との間の有意差は, の 9 位にて, 牽引群が有意に低値であった. Ⅱ, 可動値可動値は, 表 2, 図 3 のごとくであり, その推移は, 図 4 のごとくであった. ⅰ, 体幹肩甲棘角全ての群において, の 位および 位では,3 群間に有意な差はなく, 肩甲骨の動きは, ほとんど認められなかった. の 9 位では, 肩甲骨の動きが 3 群共に軽度ではあるが認められた. しかし, 自然挙上群は 16.25 ±4.6, 自動運動群は 16.67±5.49 であったが, 牽引群は 11.15±1.98 であり, 他の 2 群と比べて肩甲骨の動きが, 有意に低値を示した. の 1 位および 1 位では,3 群間に有意な差はなく, 肩甲骨の動きが認められた. の 1 位では, 肩甲骨の動きが 3 群共に認められた. しかし, 自然挙上群は 46.88±4.91, 自動運動群は 47.61±4.73 であったが, 牽引群は 51.25±5.97 であり, 他の 2 群と比べて肩甲骨の動きが, 有意に高値を示した. 推移は, 自然挙上群と自動運動群は, ほとんど同じ動きにて, が 付近まではどちらも横ばいであり, 付近から上昇していき,1 付近に 9 1 1 1 図 4 各関節における可動値の推移 ( 単位 = ) C A, 自然挙上群 B, 自動運動群 C, 牽引群 てその上昇角度が緩やかに推移した. しかし, 牽引群は,9 付近まで緩やかな上昇であり, そこから急激な上昇に転じた. ⅱ, 肩甲上腕関節全ての群において, の 位および 位では,3 群間に有意な差はなく, 主に上腕骨の動きであった. の 9 位では, 肩甲骨の動きが 3 群共に軽度ではあるが認められた. しかし, 自然挙上群は 73.75 ±4.6, 自動運動群は 73.33±5.49 であったが, 牽引群は 78.85±1.98 であり, 他の 2 群と比べて上腕骨の動きが, 有意に高値を示した. の 1 位および 1 位では,3 群間に有意な差はなく, 肩甲骨と上腕骨の動きが認められた. の 1 位では, 上腕骨と肩甲骨の動きが 3 群共に認められた. しかし, 自然挙上群は 133.13 ±4.91, 自動運動群は 132.±4.73 であったが, 牽引群は 128.75±5.97 であり, 他の 2 群と比べて上腕骨の動きが, 有意に低値を示した. 推移は, 自然挙上群と自立運動群は, ほとんど同 4
9 自然挙上群 自動運動群 から1 の ごとの体幹肩甲棘角角度 - 位での体幹肩甲棘角牽引群 ;P<.1 1 1 9 1 1 1 A 9 1 1 1 B 1 1 9 1 1 1 C 9 1 1 1 D 図 5 肩甲上腕リズムの算出値とその推移 ( 肩甲胸郭関節を 1 とした, 肩甲上腕関節の対比 ) A, 肩甲上腕リズムの算出値 B, 自然挙上群の肩甲上腕リズムの推移 C, 自動運動群の肩甲上腕リズムの推移 D, 挙上群の肩甲上腕リズムの推移 じ動きで, が 付近まではどちらも上昇し, 付近からその上昇角度が緩やかに推移し, 1 付近にてもう一度, 上昇角度が強くなった. しかし, 牽引群は, 他の 2 群と異なり,9 付近までほぼ直線的な推移であり, そこからやや緩やかな上昇に転じた. Ⅲ, 肩甲上腕リズム肩甲上腕リズムの算出値と推移は, 表 2, 図 5 のごとくであった. a を 1 として, の 位では, 自然挙上群は 17.56±.81, 自動運動群は 19.92±23.56 であり, 牽引群が 35.22±27.36 と他の 2 群と比べて有意に高値を示した. また, の 9 位では, 自然挙上群は 4.93± 1.67, 自動運動群は 5.12±2.55 であり, 牽引群が 29.29±35.89 と他の 2 群と比べて有意に高値を示した. さらに, の 1 位では, 自然挙上群は 2.88 ±.43, 自動運動群は 2.82±.42 であり, 牽引群が 2.56±.43 と他の 2 群と比べて有意に低値を示した. その他の の 位,1 位,1 位の角度においては,3 群間に有位差は認められなかった. 推移は, 自然挙上群と自動運動群は, の 付近で算出値の最高位がみられた. その後,9 付近から横ばいになり, 一定のリズムであった. しかし, 牽引群は, 他の 2 群と異なり, 算出値の最高位となる角度が遅く, から 9 の間にて算出値の最高位がみられ,1 付近から横ばいとなり, 一定のリズムとなった. 考察今回, 我々は, 簡便な理学療法機器であるが, その使用方法について報告が少ない 1-5) 上肢プーリーについて, その使用に際し, 正常な肩関節の動きを把握するために, 肩関節の屈曲について焦点を当て, 本研究を行った. 被検者には,3 種類の運動を行ってもらい, その 3 群間にて肩関節における肩甲骨の動きと肩甲上腕リズムについてどのような違いがあるのかを調査し, 統計的に検討した. 肩関節は, ヒトの多くの関節の中でも非常に複雑な関節の一つであり, 解剖学的な関節である肩甲上腕関節, 肩鎖関節, 胸鎖関節はもちろんであるが, 機能的な関節である, 肩甲骨と胸郭間の肩甲骨の動き自体を捕らえる肩甲胸郭関節, 烏口肩峰アーチと上腕骨頭間のメカニズムである第 2 肩関節, 烏口鎖骨間のメカニズムである第 2 肩鎖関節の 6 個の関節がある. その 6 個の関節が, 種々の靱帯や多くの筋の作用, 働きによって, 絶妙なバランスの中で複合的に可動することにより複雑な動きを可能としており, どこ 5
か一つの関節の働きが悪化するだけで, その動きは大きく低下してしまう. 信原 12) と Kapandji 13) は, 肩甲上腕関節は肩甲骨の臼蓋が浅く, 非常に安定性の悪い関節であり, 肩関節を構成する種々の筋群や靭帯などによってその安定性が確保されているとしており,W.Kahle 14 ) は, 解剖学的に肩関節は, 比較的強い靱帯は 1 つも存在せず, 筋で保護された関節であるとしている. 挙上については, 信原 12) によると, までを上腕骨頭が不安定に動く懸垂関節とし,1 から 1 は, 肩甲骨の上方回旋により臼蓋が上方を向き, 上腕骨頭が肩甲骨の臼蓋に支点を求めた状態である要支持関節としている. そして, その間の から 1 までを移行帯とし, 大結節の動きは, 移行帯において上腕骨を内旋もしくは外旋させながら, 第 2 肩関節である肩峰の下を通過するとし, 屈曲 1 あたりで関節包や烏口上腕靭帯などの靭帯によって制限されるとしている. さらに, 上腕骨頭の動きが肩甲骨臼蓋関節窩の上方もしくは下方への滑り運動と転がり運動がうまく組み合わさった運動であるとしている. また, 羽座 15) による肩甲骨面での挙上に関する報告では, 上腕骨頭の関節窩での動きは, 長径の 1/ ほどであり, 挙上角 から 11 までの上方への動きとその後の下方への動きであるとしている. また,Ito 16) や長岡 17) は, 肩関節挙上 9 付近から, 肩甲帯における僧帽筋などの諸筋の筋活動が活発になるとしている. そこで 本研究についてだが, 肩甲胸郭関節と肩甲上腕関節の動きについては, 牽引群と自然挙上群, 自動運動群との間で の 9 と 1 にて, 有意差が認められ,( 図 3) 肩甲上腕リズムでは, 牽引群における の,9,1 の角度にて他の 2 群との有意差があり, 全く異なるリズムであった. ( 図 5) これらのことから牽引群は, 肩甲骨の動き方はもちろんだが, 肩関節における本来の動きが行われていないことが示唆された.( 図 5 ) 肩関節の挙上に関する報告 12,13,15-17) から, 肩甲骨の動きが, の 9,1 の角度, 肩甲上腕リズムが, の,9,1 の角度にて, 牽引群と他の 2 群に有意な差が出たのは, 牽引群が脱力して把持しているため, 本来, 肩甲上腕関節を安定させ挙上させるために働く筋群 12-14) の働きが少なく, を超えるあたりから 9 付近までの肩甲骨の動きが少なかったからと推察し, その結果, 肩甲上腕リズムが破綻したのではないかというが考えられた. 以上より, 上肢プーリーを用いて運動療法を行う場合, 全可動域において患者に自動運動にて行うよ うに指導するべきではないかと考え, 肩関節の屈曲 から 9 付近では, 十分に注意しながら肩甲骨の動きを評価することが重要であると考えられた. また,Kumar ら 18) によると脳卒中片麻痺患者の運動療法において, 上肢プーリーを用いることが最も肩の疼痛を出現させているとしている. そのため, 上肢プーリーを施行する場合は, 施行前, 施行中, 施行後における肩甲骨の動きを評価することが必要であると考え, 特に, 随意性が低下しているなど麻痺のある肩関節に対しては, その評価と共に, 挙上肢の肩甲骨の動きに対し徒手的に肩甲骨を動かすことが必要なのではないかと考えられた. 最後に, 今回の研究では, 肩関節の屈曲に着目したが, 今後は, 肩甲骨面や外転での挙上における肩甲骨の動きや肩甲上腕リズムについてなどのさまざまな角度から研究を進め, その使用方法についても研究, 考察を重ねていきたい. 尚, この論文の要旨は, 第 2 回四国リハビリテーション学院同窓会 学会にて発表した. 文献 1) 山口二郎 : 滑車を用いての訓練. 理 作 療法 2: 46-47,1968 2) 服部一郎, 他 : リハビリテーション技術全書, 第 2 版,pp 454-489, 医学書院,4 3) 橋本淳, 他 : 肩診療マニュアル, 第 3 版 :pp 253-267, 医歯薬出版,6 4) Rene Cailliet: 萩島秀男 ( 訳 ): 肩の痛み, 第 3 版 : p p 54-99, 医歯薬出版,4 5) 武富由雄 : 五十肩の理学療法. 整形 災害外科 :33-39,1987 6) Codmann E.A.:The Shoulder.T.Todd Co. Boston,1934 7) Inman VT et al:observations on the function of the shoulder joint.j Bone Joint Surg 26: 1-,1944 8) Doody SG,et al:shoulder movements during abduction in the scapular plane.arch Phys Med Rehabil 51:595-4,19 9) 唐沢達典, 他 : 肩甲骨面における肩関節可動域の測定. 理学療法学 :14-16,3 1) 日本整形外科学会身体障害委員会 : 関節可動域表示ならびに測定法 ( 平成 7 年 2 月改訂 ). 日整会誌 69:2-2,1995 11) 日本リハビリテーション医学会評価基準委員会 : 関節可動域表示ならびに測定法 ( 平成 7 年 4 月改訂 ). リハ医学 32:7-217,1995 12) 信原克哉 : 肩 - その機能と臨床, 第 3 版,pp 1-88, 医学書院,4 6
13) A.I.Kapandji I: 萩島秀男, 他 ( 訳 ): 関節の生理学,Ⅰ, 上肢, 第 6 版,pp 2-75, 医歯薬出版, 6 14) W.Kahle et al: 肩関節, 越智淳三 ( 訳 ): 分冊解剖学アトラス, 運動器 Ⅰ, 第 4 版,pp 114-115, 文光堂,1997 15) 羽座利昭 : 肩甲上腕関節の動態分析. 日整会誌 62:115-1119,1988 16)Ito N:Electromyographic Study of Shoulder Joint.J.Jpn.Orthop.Ass. 54:1529-15, 19 17) 長岡徳三 : 肩甲骨面および矢状面での肩の追跡動作時の肩甲帯緒筋の動的分析 - 筋電図学的研究 -. 日整会誌 :1137-1146,1986 18)Kumar R et al:shoulder pain in hemiplegia. The role of exercise.: A m J P h y s M e d R e h abil 69:5-8,199 7