第 11 回大麦食品シンポジウム 2013 年 10 月 26 日 大麦食品推進協議会技術部会報告 ( 公財 ) 日本健康 栄養食品協会で評価された大麦由来 β- グルカンの機能性について 株式会社 ADEKA ライフサイエンス材料研究所室長 椿和文
主な活動内容 大麦食品推進協議会技術部会の活動について 1 大麦に関連した最新の技術関連情報を収集して 会員相互で共有化する ( 学術論文の調査 まとめ ) 2 大学等の外部機関と連携して 大麦 に関連する新しい知見を開発研究する ( 調査 研究の実施 成果の発表 ) 3 大麦に関する健康情報 科学技術情報を消費者の皆様へ情報発信する 4 会員企業の技術知識の向上を目的として 外部専門家による勉強会を実施する ( 関連する先端情報をもつ研究者等を講師として招く ) 科学情報の発信 大麦の素晴らしさを消費者の皆様に知ってもらう
食品の機能性評価事業とは 政府の規制改革会議は 6 月 健康食品や農産物で健康への効果を示す 機能性表示 を容認するよう答申した これまで食品の効果を表示できるのは特定保健用食品 ( トクホ ) と栄養機能食品に限られていたが 来年度中には現行の規制が大きく緩和される見通し 食品の効果を表示するために その有効成分が科学的に評価されていなければならない ( ヒトでの効果 )
健康食品の機能表示における日本の状況と規制緩和 個別の製品ごとに認証を得る 特定保健用食品 特定の有効成分に対する機能表示 現状は認められていない 有効成分に対して一定の機能性表示を認めるため 新たな制度設計の可能性を検討 1 食品の機能性評価モデル事業 が消費者庁の委託事業として行われた (2011 年度実施 ) 2 2011 年度の課題解決を目的に追加成分 ( 大麦 β- グルカン 他 ) の評価が日本健康 栄養食品協会の事業として行われた (2012 年度実施 )
有効成分に対して一定の機能性表示を認めるための検討 1 消費者庁の委託事業 (2011 年度実施 ) 11 成分 イチョウ葉エキス n-3 系脂肪酸 (DA EPA 等 ) グルコサミン コエンザイム Q10 セレン ノコギリヤシ ヒアルロン酸 ブルーベリー ( ビルベリー ) エキス 分岐鎖アミノ酸 (BCAA) ラクトフェリン ルテイン 2 追加成分の評価 (2012 年度実施 ) 大麦由来 β- グルカン パン酵母由来 β- グルカン にんにく 3 成分
大麦由来 β- グルカン機能性評価概要 1. β-グルカンの由来とその構造 2. 論文報告されている β-グルカンの機能 3. 大麦 β-グルカンの健康強調表示 ( ヘルスクレーム ) の許可状況 ( 海外 ) 4. 大麦 β-グルカンの作用メカニズム 参考文献リスト 5. 安全性情報 5-1 基原 5-2 製法 5-3 成分組成 5-4 販売実績 5-5 摂取方法 5-6 一般食品中の当該食品 ( 成分 ) の量 5-7 当該成分の分析方法 5-8 機能性評価の対象論文における有害事象 5-9 当該成分の安全性試験報告 6. 機能性に関する補足説明資料 7
1. β- グルカンの由来とその構造 β- グルカンとは グルコースが β 結合により連結した多糖体であり 微生物 菌類 植物の細胞壁成分として天然に存在する成分である 食物繊維に分類される グルコース分子間の 基が脱水縮合してポリマーを形成し その位置により結合様式が異なることから 自然界には様々な β- グルカンが存在する 直鎖型 大麦由来 β- グルカン β-1,3-1,4- グルカン キノコ類 β グルカンの由来 C 2 C 2 麦類 直鎖型 紙 ( セルロース ) C 2 酵母類 ( 微生物 ) C 2 C 2 Glc Glc C 2 - C 2 -- キノコ 酵母由来 β- グルカン β-1,3-1,6- グルカン キノコ由来 β- グルカン β-1,3-- グルカン - Glc C 2 分岐型 8 Glc
5-1. 大麦 β- グルカンの基原 オオムギ ( 大麦 学名 ordeum vulgare) はイネ科の穀物であり 中央アジア原産で 世界でもっとも古くから栽培されていた作物の一つである 大麦 β- グルカンはその可食部である大麦種子の胚乳細胞の細胞壁に分布している多糖体であり ( 図 1) 食用雑穀として一般流通する押麦 ( 図 2) や米粒麦に大麦 β- グルカンは 3~5% 程度含まれる 穀物の中で大麦はもっとも多く β- グルカン分子を含有していることが知られている ( 図 3) 図 1: 大麦種子に含まれる β- グルカンの分布 図 2: 食用として流通する大麦種子の製品 ( 押麦 ) 図 3: 穀類に含まれる β- グルカン含有量比較 9
2. 論文報告されている β- グルカンの機能 心臓病のリスク低減糖尿病のリスク低減体重のコントロール免疫系機能の調節作用皮膚の保護作用 血中コレステロールの正常化脂質 糖の吸収を抑制血糖値の上昇抑制インスリン分泌の調節満腹感の維持大腸内の発酵促進白血球の活性化感染症の予防皮膚の保湿作用 10
* 機能性評価のまとめ ( 全体 )
2011 年度の機能性評価結果 n-3 系脂肪酸 ( オメガ 3) A 評価 =3 機能 B 評価 =2 機能 C 評価 =1 機能 コエンザイム Q10 (B=2 C=1) 分岐鎖アミノ酸 BCAA (B=2 C=1) ラクトフェリン (B=2 D=1) グルコサミン (B=1) ルテイン (B=1 D=1) ノコギリヤシ (B=1) イチョウの葉エキス (B=1 C=1) セレン (B=1 D=3) ヒアルロン酸 (C=2) ビルベリー ( ブルーベリー ) エキス (C=1 D=1) となった
評価基準
大麦 β - グルカンのヒト試験 (RCT) 論文の評価結果 (43 報 ) 1 血中コレステロールの正常化 2 食後血糖値の上昇抑制 QL-1 QL-2 観察合計 QL-1 QL-2 観察合計 肯定 6 3 1 9 8 8 1 16 判定保留 1 0 1 2 2 4 効果なし 1 1 2 2 0 2 3 プレバイオティック効果 4 満腹感の持続作用 QL-1 QL-2 観察合計 QL-1 QL-2 観察合計 肯定 3 2 5 4 1 5 判定保留 1 0 1 1 0 1 効果なし 0 0 0 1 0 1 QL-1: 質が高い ( いずれの評価視点においても適切 ) QL-2: 質が中程度 ( 一部の評価視点において不十分な点はあるものの 概ね適切 ) 観察 : 観察研究 ( 前向きコホート 症例対照研究 ) など RCT: Randomized Controlled Trial ( ランダム化比較試験 )
β- グルカンの大腸内発酵で産生された短鎖脂肪酸は (1) コレステロール合成関連酵素を抑制する GLP-1 の産生を促進し 膵臓からのインシュリン分泌を促進し (2) 血糖値の抑制に関 与する MG-CoA GLP-1 β - グルカン 食物 ( デンプン ) 4. 大麦 β- グルカンの作用メカニズム 1 肝臓および膵臓 小腸内 肝臓 粘性ある β ーグルカンが糖や油脂と結合し 吸収を遅延させ (2) 血糖値の上昇を抑制する コレステロール 膵臓 インシュリン分泌促進 糖 β - グルカン - デンプン複合体 J Nutr. 1992, 122, 2292-7 J Nutr. 1999, 129, 942-8. β- グルカン J Nutr. 2010,140,1564-9 British Journal of Nutrition 2000, 84, 19 23. 大腸内 J Agric Food Chem. 2010, 58, 628-34. 腸内細菌 FEMS Microbiol Ecol. 2008,64, β482-93. - グルカン分解 β - グルカン - 胆汁酸 複合体 短鎖脂肪酸 プロピオン酸など β- グルカンが腸内細菌に資化され 生産される短鎖脂肪酸は ビフィズス菌の生育促進や腸内菌そうを改善する また 大腸細胞の増殖 GLP-1 産生を促進する (3) 大腸内の発酵促進 Gut. 1996 April; 38(4): 568 573 β ーグルカンは胆汁酸と結合し 体外への排出を促進する (1) コレステロール低下 排泄促進 15
大麦 β- グルカンの作用メカニズム 2 大麦 β- グルカンの摂取 ( 朝食 ) 血中 SCFA GLP-1 PYY PP 血中レフ チン エネルギー摂取量 血糖値 昼食 ~ 夕食 大麦 β- グルカン Mol Nutr Food Res. 2011, 55(7):1118-21 2 胃排泄能抑制 1 中枢性食欲抑制作用 血糖コントロール体重コントロール糖尿病 ( メタボ ) 予防 大麦 β- グルカン 大腸内 短鎖脂肪酸 (SCFA) プロピオン酸など β-グルカン腸内細菌 SCFA GLP-1 β- グルカンが腸内細菌に資化され 生産される短鎖脂肪酸 (SCFA) は 小腸 L- 細胞からの GLP-1 産生を促進する IL-6 小腸内 L 細胞 小腸下部 腸管 PP 16