Economic Trends    マクロ経済分析レポート

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第 3 節食料消費の動向と食育の推進 表 食料消費支出の対前年実質増減率の推移 平成 17 (2005) 年 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 食料

タイトル

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Economic Trends    マクロ経済分析レポート

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

統計から見た三重県のスポーツ施設と県民のスポーツ行動

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

第1章

季刊 家計経済研究113号_本文p01−100.indd

個人消費の回復を後押しする政策以外の要因~所得の減少に歯止め、節約志向も一段落

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

2016 年家計調査年報 家計収支編 家計消費傾向と品目別支出金額調査報告書 2017 年 9 月 東松島市商工会

Economic Indicators   定例経済指標レポート

Microsoft Word - H19本文0521PDF.doc

Economic Indicators   定例経済指標レポート

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

 95年度の日本経済は、年前半の円高や公共投資の息切れ、米国経済の減速から景気回復の足取りに途中やや足踏みが見られました。しかし、その後の円高修正、政府の経済対策、金融緩和の効果から、年度後半は再び緩やかな回復基調に戻りました。

【No

各商品の動きについて 新規出店を含めた全店ベースの前年比でみると 衣料品の減少と飲食料品の増加がここ数年のトレンドとして定着しており 7 年も衣料品は減少し 飲食料品は増加した 衣料品が減少傾向にあるのは 販売形態の多様化により 購入先として衣料品専門店や通販 インターネットショッピングなどの選択肢

2. 消費税率引き上げが個人消費に与える影響 (1)1997 年度の消費増税時のレビュー ~ 大きかった駆け込み需要の影響消費税は 89 年 4 月に税率 3% で導入され 97 年 4 月に 5% に引き上げられた 89 年度の導入時は従来の物品税廃止によって自動車など耐久財の多くが実質減税となっ

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

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2 自動車登録台数 ( 台 ) 2,, 図 2 消費税導入 税率引き上げ時における自動車登録台数 ( 三重県 ) の推移 景気後退期, 6, 物品税の廃止による反動増 駆け込み需要 反動減 4, アジア通貨危機平成 9 年 5 月 ~ リーマンショック 2, 平成 9 年 月金融危機 ( 三洋 拓銀

平成28年平均 山形市消費者物価指数

. 消費増税が消費に影響を与える 3 つのメカニズムそもそも 消費増税は どのようなメカニズムで消費に影響するのだろうか 本稿では 消費増税による消費への影響を 代替効果 所得効果 3 節約志向効果の3つに分けて説明する 図表 は これら3つのメカニズムを概念図として表したものである 代替効果は 本


物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

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2. 利益剰余金 ( 内部留保 ) 中部の 1 企業当たりの利益剰余金を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度は 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると 全産業及び製造業は 過去 10 年間全国を上回った状況が続いているものの 非製造

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2015 年家計調査年報 家計収支編 家計消費傾向と品目別支出金額調査報告書 2016 年 11 月 東松島市商工会

Ⅰ平成15年平均高知市消費者物価指数の概況

(3) 消費支出は実質 5.3% の増加消費支出は1か月平均 3 万 1,276 円で前年に比べ名目 6.7% の増加 実質 5.3% の増加となった ( 統計表第 1 表 ) 最近の動きを実質でみると 平成 2 年は 16.2% の増加となった 25 年は 7.% の減少 26 年は 3.7% の

けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

12月CPI

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Economic Indicators   定例経済指標レポート

短期均衡(2) IS-LMモデル

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

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当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

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経済・物価情勢の展望(2017年7月)

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エコノミスト便り【日本経済】消費動向の分析①/マーケット情報 - 三井住友アセットマネジメント

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世帯収入 DI 増えた と 減った 二極化の傾向現在の 世帯収入 DI ( 増えた やや増えた ) と回答した割合から 減った やや減った と回答した割合を引いた値 ) は - で前回 ( 年 6 月 :-8) から - ポイントとなりほぼ横ばいとなった 回答の内訳をみると やや増えた が + ポイ

Economic Indicators   定例経済指標レポート

日本経済見通し:2017 年の消費増税に向けた

2

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第3 節第 1 (3) 9 表家計主要項目 ( 二人以上の世帯のうち勤労者世帯 ) と実質消費の増減要因 ( 単位 %) 年 期 消費支出実収入平均消費者可処分所得非消費支出消費性向物価 名目 実質 名目 実質 名目 名目 前年比 [ 実質消費支出への寄与 ] [ 1

2 / 5 エルニーニョ現象とは 南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で 海面水温が平年より1~5 度高くなる状況が1 年から1 年半続く現象である エルニーニョ現象が発生すると 地球全体の大気の流れが変わり 世界的に異常気象になる傾向がある 近年では 2015 夏から 2016 年春に

共働きは 収入源の分散化や世帯所得の増加をもたらすことから 基本的には消費に対する自由度を高めるものと予想される つまり 配偶者収入も含めて 収入が消費に結びつきやすくなる可能性があるということだ しかし 実際には 共働き世帯が増加しているにも拘わらず 家計は消費に対して慎重になっているようだ 世帯

本稿の分析目的 本稿では 平成 6 4 月に実施された消費増税による産業活動への影響について 前回の消費増税時 ( 平成 9 ) あるいはリーマンショック時にみられた産業活動への影響と比較しながら考察する 特に 前回増税時との比較においては 増税の前平均からの変動を比較することで 6 4 月に実施さ

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2 10 大費目指数の動き 平成 29 年の10 大費目指数の動きを寄与度でみると, 光熱 水道 は他の光熱( 灯油 ) や電気代の値上がりなどにより 0.26, 食料 は生鮮魚介, 酒類の値上がりなどにより0.23となり, この2 費目合計で0.49と, 総合指数ののび率 (0.6%) のうち約

世帯収入 DI 大幅な改善現在の 世帯収入 DI ( 増えた やや増えた ) と回答した割合から 減った やや減った と回答した割合を引いた値 ) は で前回 (11 年 6 月 :-24.6) から +6.8 ポイント上昇した 震災後に混乱していた企業のサプライチェーンが回復し生産体制

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平成24年平均CPI.xls

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平成8年版 労働経済の分析

家計調査からみた新潟の家計の収入・支出面の特徴

○ユーロ

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

個人消費活性化に対する長野県内企業の意識調査

エコノミスト便り

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2010年9月21/22日用 為替の決定理論

共働き・子育て世帯の消費実態(2)~食費や通信費など「必需的消費」が増え、娯楽費など「選択的消費」が減少、娯楽費の中ではじわり強まる 旅行ニーズ

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

近年の家計消費支出について

シニア層の健康志向に支えられるフィットネスクラブ

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エンゲル係数の上昇を考える

統計学入門

月初の消費点検(3/4)~消費税増税の判断を控えて~

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計 物価 12 家家計 物価 消費者物価指数 10 大費目別対前年上昇率 県平均 ( 平成 20 年 ) 神奈川県消費者物価統計調査結果 ( 統計課調 )

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(1) 駆け込み需要とその反動 前回増税時の駆け込み需要は 12 兆円程度 14 年 4 月に消費税率が 5% から 8% に上昇した際に 駆け込み需要とその反動はどの程度発生したのか 財 サービス分類別にその規模を試算する 図表 1 耐久財を中心に増税前後の消費に大きな波前回増税時の駆け込み需要と

中国、財新サービス業PMIは4ヶ月ぶりの低水準に(Asia Weekly(3/4~3/8)) | 第一生命経済研究所 西濵徹

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各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

○ユーロ

Economic Indicators   定例経済指標レポート

勤労者世帯の実収入 消費支出は平成 11 年以降減少神奈川県の勤労者世帯 の1 世帯あたりの1ヶ月平均の実収入 ( 2) は 51 万 3842 円で 全国で4 番目に多くなっています 前回調査 (53 万 9542 円 ) と比較すると 名目で 4.8% 減少 消費者物価の影響を除いた実質で 7.

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[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

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全国生計費調査 とは 日本生協連は 1978 年に全国統一版 生協家計簿 にもとづいた調査を開始しました 現在のモニター登録制度による全国生計費調査は 1996 年より開始し 今年で 17 回目になります 全国の生協を通して生協組合員に登録モニターを募り 1 年間 毎月の家計簿の集計結果を各生協経由

図表 3 に年齢階層別の インターネットを通じて注文した世帯の割合 ( 普及率 ) の直近 5 年間の変化を掲載した インターネットを介した消費自体は 比較的年齢の若い世帯で盛んであるものの 普及率の変化という意味では 幅広い年齢層で上昇が見られている点が特徴的だろう 2

1. 自社の業況判断 DI 6 四半期ぶりに大幅下落 1 全体の動向 ( 図 1-1) 現在 (14 年 4-6 月期 ) の業況判断 DI( かなり良い やや良い と回答した企業の割合から かなり悪い やや悪い と回答した企業の割合を引いた値 ) は前回 ( 月期 ) の +19 から 28 ポイ

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年収階層別に増税前後の消費動向をみると 低所得者ほど回復の動きが弱い 高所得者層 ( 第 5 分位 ) では 1997 年時を上回る駆け込み需要が生じたが 増税直後の落ち込みは小さく その後は緩やかに持ち直している ( 前頁図表 2) 一方 低所得者層( 第 1 分位 第 2 分位 ) については

Transcription:

Economic Trends マクロ経済分析レポート テーマ : エンゲル係数上昇の本当の理由 2017 年 4 月 3 日 ( 月 ) ~ 主因は天候不順と原油価格下落と駆け込み需要の反動 ~ 第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 (03-5221-4531) ( 要旨 ) 経済的なゆとりを示すとされる エンゲル係数 が 2015 年から急上昇している 背景には 原油価格下落と消費税率引き上げがある 原油価格急落で家計のエネルギー負担額が減少する一方 駆け込み需要の反動による耐久消費財消費の落ち込みで消費支出が減ったことが主因 エンゲル係数の変化率を食料品の相対価格と実質可処分所得および平均消費性向に分けて分解すると 2015 年以降の2 年間の上昇幅 1.8% ポイントのうち 半分以上の 1.0% ポイントが平均消費性向の低下要因となる 一方 食料費の相対価格上昇で 0.9% ポイント押し上げられており 実質可処分所得はむしろ増加によりエンゲル係数の押し下げ要因となっている 食料費価格の上昇は 天候不順を主因とした生鮮野菜価格の上昇によりもたらされており 為替はむしろ 2016 年の円高によりエンゲル係数の低下要因となっている 年明け以降の野菜価格の落ち着きからすれば エンゲル係数の押し上げは一時的といえる 2014 年夏から原油価格が四分の一近くまで下落した一方 2014 年 4 月の消費税率引き上げにより耐久消費財の駆け込み需要が発生すれば 家計の平均消費性向は原油価格の下落に伴うガソリンや電気代の支出減に加え 乗用車買い替えやリフォーム支出の反動減も加わり 家計が節約しなくても消費支出額は低下してエンゲル係数は上がる 消費税率が上がる中で駆け込み需要が発生すると 特に耐久消費財は需要の先食いが生じ その後の支出が抑制される ただ 需要の先食いによる反動は一段落してきており 耐久財の支出は持ち直しが期待される 更に 2009~2010 年のエコカー補助金や地デジ化 家電エコポイント等で売れた車やテレビの買い替えサイクルが到来しつつあることからすれば こうした消費環境の変化が平均消費性向の上昇を通じて今後はエンゲル係数の低下をもたらす可能性がある 一般的には 2015 年以降のエンゲル係数急上昇について 生活水準の低下 との見方が多い しかし 原油価格の下落に伴う余分なエネルギー支出の減少によりエンゲル係数が上昇しても それは生活水準の低下とは言えず 駆け込み需要の一時的な反動に伴うエンゲル係数の上昇も割り引いて考える必要がある エンゲル係数を評価する場合は その背景にある相対価格や実質可処分所得 平均消費性向等に分解して慎重な評価をすべき エンゲル係数で示される生活水準の低下経済的なゆとりを示す エンゲル係数 が 我が国では 2015 年から急上昇している 特に 2016 年には総務省 家計調査 の勤労者世帯ベースで前年に比べて+0.6 ポイント高い 24.2% となっている この背景には 家計の節約や食料品価格の上昇があるといわれている エンゲル係数は 家計の消費支出に占める食料費の割合であり 食料費は生活する上で最も必需な品目のため 一般に数値が下がると生活水準が上がり 逆に数値が上がると生活水準が下がる目安と

されている エンゲル係数は相対価格と所得と消費性向に分解可能エンゲル係数は 家計の消費支出に占める食料費の割合とされているが その変動には いずれも数量と価格が関係している つまり 消費者物価 ( 総合 ) に対して相対的に食料品価格が上昇すれば エンゲル係数の押し上げ要因となる一方で 相対的に食糧費以外の支出抑制もエンゲル係数の押し上げ要因となる また 分母の消費支出は可処分所得と平均消費性向すなわち家計が自由に処分できる所得と世帯の消費意欲に分解できる そして 可処分所得は実収入すなわち世帯の現金収入を合計した税込み収入に左右される一方で 非消費支出すなわち税金や社会保険料など世帯の自由にならない支出にも左右される 従って こうした要因に分解すれば エンゲル係数がなぜ上昇したかを分析できる エンゲル係数 =( 実質食料費 食料費価格 )/( 実質消費支出 消費者物価 ) = 実質食料費 ( 食料費価格 / 消費者物価 )/( 実質可処分所得 平均消費性向 ) = 実質食料費 食料費相対価格 /(( 実質実収入 - 実質非消費支出 ) 平均消費性向 ) エンゲル係数の上昇は家計の節約行動が主因 2016 年のエンゲル係数は前年比で+0.6 ポイント上昇し 2014 年から+1.8 ポイントの上昇を記録した しかし 食料品の値上げが相次いでいる一方で 食料品の消費量は減っているように見える そこで エンゲル係数の上昇率を食料品の消費量と相対価格および実収入と非消費支出 平均消費性向に分けて要因分解してみた すると 食料品の相対価格が+0.9 ポイントの押し上げに働く一方で 平均消費性向の低下要因がそれを上回る+1.0 ポイントの押し上げ要因になっていることが分かる また 可処分所得の内訳では 実質実収入の増加と非消費支出の増加が相殺され トータルで 0.1 ポイントの押し下げ要因となる 一方 実質食料品消費の要因は+0.0% ポイントの押し上げに止まる つまり 家計の可処分所得の低下ではなく 食料品の相対価格上昇と消費者の平均消費性向の低下が 近年のエンゲル係数上昇の実態だ

食料品価格の上昇は為替よりも天候不順が主因まず 相対価格上昇の主因を探るべく 総務省 消費者物価指数 を用いて 2015 年以降の食料品価格上昇率を品目別に寄与度分解してみると 野菜 海藻の押し上げ寄与が最大となる 一般的には 日本の熱量供給ベースの食料自給率は近年 39% で推移していることから アベノミクスで円安が進み これが食料品の輸入物価上昇をもたらし 食料品価格上昇に結びついていると言われている しかし 2016 年における飲食料品の輸入物価はむしろ円高で前年比 11.8% も下落している そして 野菜 海藻の押し上げ寄与度 1.1% のうち 1.0% 分が生鮮野菜価格の上昇で説明できる その結果 野菜の国内自給率が8 割であることからすれば 食料品価格上昇の主因は円安というよりも 天候不順に伴う生鮮野菜価格が上昇した要因が大きいと推察される 原油価格の下落がエンゲル係数上昇の主因 一方 平均消費性向が低下している背景としては 1 原油価格の下落などによるガソリンを含む 自 動車等維持 や 電気代 の支出減 22014 年 4 月の消費税率引き上げに伴う需要の先食いを通じた

自動車等購入 やリフォームなどの 設備修繕 維持 の支出減 が主因となっている しかし 一昨年夏のチャイナショックを受けた世界経済の低迷から 昨秋以降は循環的に景気が回復しつつあるが 昨年以降の原油価格が減産合意等から持ち直し傾向で推移する一方 主要国のインフレ率上昇を受けて 市場の期待インフレ率も上昇している こうなれば 世界のマネーの流れは 安全資産の国債からリスク資産の株やコモディティーに流れやすくなることに加え 為替もリスク回避通貨とされる円が買われにくくなり 今後も昨年より高水準のガソリンや電気代の価格が維持される可能性が高い つまり 今後のガソリン等を含む 自動車等維持 や 電気代 の支出は昨年よりも増加すると見ておいたほうが良い エンゲル係数上昇をもたらした駆け込み需要の反動 一方 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減も永遠に続かない 需要の先食いといっても 5 年も 10 年も先の需要まで前倒しできないためだ 事実 経済産業省 商業動態統計 によれば

自動車や機械器具小売業の販売額指数は いずれも昨年中に底打ちをして 持ち直し基調にある 従って ガソリンや光熱費が上昇する中で消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が軽減すると 特に車や家電 リフォーム等の支出を中心に全体の消費支出の拡大を通じてエンゲル係数の押し下げ要因となる そして生鮮野菜価格の高騰が落ち着くとなれば 食料品支出も低下に転じ エンゲル係数の水準は一段と低下する 更に重要なのは 耐久財の買い替えサイクルも到来しつつあることがある 事実 経産省の商業販売統計で自動車や機械器具小売業の販売額指数を見ると 2009~2010 年にかけたエコカー補助金や減税 地デジ化 家電エコポイント等により指数が盛り上がっており その後反動減となっている こうした耐久消費財の中でも 新車やカラーテレビについては平均使用年数が8 年程度となっており 2017 年以降に買い替えサイクルが本格化することを表していると言えよう そして こうした買い替えサイクルの到来は平均消費性向のさらなる上昇を招き 結果としてエンゲル係数の更なる低下圧力になると言える

エンゲル係数の変化には慎重な判断が必要こうした状況に対し 世間では 2015 年以降のエンゲル係数急上昇について 生活水準の低下 との見方がされている しかし 原油価格の下落に伴う余分なエネルギー出費の減少によりエンゲル係数が上昇しても それは生活水準の低下とは言えず 駆け込み需要の反動による一時的なエンゲル係数の上昇も割り引いて考える必要がある つまり 本当の意味での生活水準の低下には 単純な消費支出の減少だけでなく 家計の実収入の減少や増税等による非消費支出の増加等を通じた可処分所得の減少が必要となる そしてそうなるには 家計の可処分所得の減少により消費支出がやむなく減少することによるエンゲル係数の上昇がもたらされることが不可欠といえよう 従って エンゲル係数を評価する場合は 単純な食料費と消費支出の関係だけではなく その背景にある相対価格や可処分所得 平均消費性向等に要因を分解して慎重に判断すべきではないだろうか