ヒバ精油 を用いて癌の増殖 転移を抑制する芳香治療薬の開発 富山大学附属病院第二外科講師長田拓哉 共同研究者富山大学医学部医学科教授藤井努富山大学和漢医薬学総合研究所准教授當銘一文
はじめに : 新しい治療法を求めて 日本人女性の 12 人に 1 人が乳癌になると言われています
ヒノキ ( 檜 ) ヒバ ( 翌檜 )
1 研究開発の目的 ヒバに含まれるツヨプセンの抗腫瘍メカニズムを明らかにする ツヨプセンを用いた製品を試作し その効果と副作用についてマウスを用いた動物実験で確認する 動物実験の結果を踏まえて 臨床研究に向けた準備を行う
2 実施体制 ヒバ精油 ( ツヨプセン ) による新規抗腫瘍製剤の開発グループ 1) 富山大学消化器 腫瘍 総合外科 2) 富山大学和漢薬研究所 長田拓哉 1) 藤井努 1) 當銘一文 2)
3 計画の妥当性 抗腫瘍メカニズムの解明 ( 當銘 ) ツヨプセンによる細胞死について そのシグナル伝達経路を明らかにする (RT- PCR 法 ダーツ法 ウエスタンブロット法など ) またツヨプセンに対するインヒビターを用いて 癌細胞に対する抗腫瘍効果が抑制されるかどうかを検討する ( 研究期間 :218 年 5 月 12 月 ) 新規抗腫瘍漢方薬の開発と特許申請 ( 長田 ) ツヨプセンを用いた抗腫瘍製剤を試作する ( 液体製剤 アロマオイル 塗布製剤など ) また室内用ディフューザーや屋外用アロマ吸入用マスクなどを制作する ヌードマウスを用いた動物モデルを用いて抗腫瘍効果 および副作用の有無を検討する ツヨプセンを用いた新機構腫瘍製剤について特許申請を行うとともに 県内企業と共同して製剤の量産化を行う ( 研究期間 :218 年 9 月 219 年 9 月 ) 臨床応用に向けた多施設共同研究 ( 藤井 長田 ) 新規抗腫瘍製剤の効果と副作用を調査するための多施設共同臨床試験 ( 第 1 相 第 2 相試験 ) を行う ( 研究期間 :219 年 2 月 222 年 3 月 )
4 研究の新規性 独自性 ヒバ ( 檜葉 ): ヒノキ科アスナロ属アスナロ (Thujopsis dolabrata) ヒノキチオール (Hinokitiol) を豊富に含有しており ( ヒバ精油の 1%) 殺菌力と耐湿性に優れている ヒノキチオールの抗腫瘍効果についてはいくつかの研究報告がある (Huang CH et al. Molecules 215, Liu S et al. BBRC 26, Li LH et al. PLOS one 214) 我々はこれまでの研究から ヒバ精油の揮発成分が抗腫瘍効果を示すことを明らかにした (Nagata T et al. Clin Exp Pharmacol 216) 我々はヒバ精油の抗腫瘍因子としてツヨプセンを同定した ( 特許申請中 ; 独自性の高い研究 )
5 ユーザーニーズへの対応 青森ヒバ 能登ヒバ 高山アスナロのアロマ精油製剤はすでに商品化され 和製アロマとして人気が高い いずれも芳香剤や抗菌作用 防虫効果などを使用目的としており 抗腫瘍効果に着目した製品はないことから 新たなシーズの構築が可能である 内服要製剤 注射用製剤 塗布用製剤の開発も視野に入れて研究を進めることにより さらに多様な製品化を図ることが可能になる
6 発展性および波及効果 富山県ならびに近隣の石川県や岐阜県にはヒバが自生しており 良質の材料の確保が可能である 新しい製品の開発を進めて富山県のブランド化を図ることで 富山県の医薬品業や産業界を活性化していく事が可能である 我々はヒバの抗腫瘍効果について現在特許出願中であり さらに抗腫瘍因子としてツヨプセンを加えて新たな特許を申請する予定である
これまでの研究から ヒバ精油の投与による抗腫瘍効果 Control ヒバ精油 (.2ug/ml 6Hr) ヒバ精油 (.2ug/ml 6Hr) にて胃癌細胞に細胞死 ( アポトーシス ) が誘導される
細胞数 ヒバ精油の投与による抗腫瘍効果 コントロール ヒバ精油 死細胞 死細胞 ヒバ精油投与 24 時間で 66.5% の癌細死 ( アポトーシス ) が誘導される
細胞生存率 (%) 結果 2 ヒバ精油の抗腫瘍効果 ( 濃度変化 ) 12 1 8 6 4 2 ヒバ濃度 (ug/ml) ヒバ精油は濃度依存的に胃癌細胞の生存率を低下させる.2ug/ml のヒバ精油にて 5% の胃癌細胞が細胞死を起こす
細胞生存率 (%) 結果 3 1 ヒバ精油の抗腫瘍効果 ( 時間変化 ) 8 6 4 2 hr 24hr 48hr 72Hr 反応時間 (hr).2mg/ml のヒバ精油を胃癌細胞と反応させた ヒバ精油は時間依存的に胃癌細胞の増殖を抑制した
細胞生存率 (%) 結果 4 ヒバ精油からの距離による抗腫瘍効果 1 8 6.8cm ヒバ精油 4 2 3.2cm 3.2 2.4 1.6 距離 (cm).8cm.8 2.4 1.6.8 ヒバ精油から離れる程 胃癌細胞の生存率が増加した ヒバ精油は気化することにより 近傍の胃癌細胞を抑制する
マウス腫瘍転移抑制効果 実験方法 ヌードマウス腹腔内に胃癌細胞 (MKN45) を注入し 腹膜播種転移モデルを作成する ヌードマウス皮下に MKN45 を注入し 皮下腫瘍モデルを作成する Hiba を 4 週間連日室内投与する 4 週後にマウスを犠死させ 腫瘍腹膜播種病変個数 ならびに皮下腫瘍体積を計測する ヒバ精油 ヌードマウス (2 匹 ) Hiba 群 (5 匹 x2) MKN45 皮下投与 (2x1 6 / 匹 ) Hiba 室内投与 (4 週間連日 ) Hiba 皮下腫瘍面積測定 Control Control(5 匹 x2) MKN45 腹腔内投与 (2x1 6 / 匹 ) 開腹 腹膜播種個数測定
腹膜転移平均個数 (n) 結果 5 control Hiba 16 14 12 1 8 6 4 2 control Hiba p=.483 ヌードマウス腹膜播種転移モデルを用いて ヒバ精油の転移抑制効果を検討した ヒバ精油は有意に胃癌細胞の腹膜播種転移を抑制した
面積 (mm 2 ) 結果 5 control Hiba 7 6 5 4 3 2 1 control Hiba p=.1329 マウス皮下腫瘍を摘出し比較した ヒバ精油群では 2 匹に腫瘍を認めず 腫瘍面積も縮小傾向を示した
実験方法 1. ヒバ精油を胃癌細胞 (MKN45) に投与し MTT アッセイを用いて 胃癌細胞の生存率を解析する 2. ヒバ精油の濃度 および投与時間を変えることにより 胃癌細胞に与える影響について検討する 3. ヒバが胃癌細胞に及ぼす細胞死のメカニズムを明らかにする 4. ヒバ精油と胃癌細胞を分離して反応させることにより 気化したヒバ精油の抗腫瘍効果について解析する 5. 胃癌転移モデルマウスを用いて ヒバ精油が生体内の胃癌に及ぼす影響を解析する
ヒノキチオールとの比較 9 ヒバ精油 9 ヒノキチオール 8 8 7 7 6 6 5 5 4 4 3 3 2 2 1 1 2 6 2.6.2.6.2.6.2.6 2 6 2.6.2.6.2.6.2.6 濃度 (ug/ml) 濃度 (ug/ml) ヒバ精油には強い抗腫瘍効果がある ヒノキチオールの効果についてははっきりしない
細胞生存率 (%) 細胞生存率 (%) ヒノキチオールとの比較 ヒバ精油 ヒノキチオール 1 8 6 4 2 1 8 6 4 2 距離 (cm) 距離 (cm) ヒバ精油の揮発性分には抗腫瘍効果がある ヒノキチオールの効果についてははっきりしない
考察 ヒノキチオール (Hinokitiol) の抗腫瘍効果 Colon cancer において p21 上昇 Cdk2 低下による S- phase arrest を誘導 Caspase9 Caspase3 の活性化による Apoptosis 誘導 (Lee YS et al. J Nat Products 76:2195-222,213) Lung cancer において MMP9/2 低下 Catarase/SOD enzymes 誘導による antioxidant 効果 (Huang CH et al. Molesules 2: 1772-17734, 215) DNA damage, Autophagy 誘導効果 (Li LH et al. PLOS one 1: 1371, 214) Prostate cancer において AR signaling 抑制による抗腫瘍効果 (Liu S et al. BBRC 351:26-32, 26)
ツヨプセン ツヨプセン ( 慣用名 thujopsene) またはツジョプセンは 分子式 C 15 H 24 のセスキテルペンに分類される天然有機化合物である ツヨプセンは様々な針葉樹 特に Canary Islands juniper( カナリア諸島ネズ Juniperus cedrus) やアスナロ (Thujopsis dolabrata) の精油に多く含まれ これらの樹木の心材の重量のおよそ 2.2% を占める (Wikipedia) 今後の課題 ツヨプセンによる抗腫瘍メカニズムの解明 ヒバ精油 ( ツヨプセン ) を用いた芳香抗腫瘍製剤の開発と臨床研究
細胞生存率 (%) 細胞生存率 (%) 細胞生存率 (%) ツヨプセンの抗腫瘍効果 1 8 6 4 2 1 8 6 4 2 濃度変化.2.6.2.6 濃度 (ug/ml) 時間変化 hr 24hr 48hr 72Hr 反応時間 (hr) 1 8 6 4 2 ツヨプセンからの距離による抗腫瘍効果 距離 (cm)
結語 1. ヒバ精油を胃癌細胞に投与する事により 濃度 時間依存的に癌の増殖抑制効果を認めた 2. 気化したヒバ精油は胃癌細胞の増殖を距離依存的に抑制した 3. 気化したヒバ精油は胃癌細胞にアポトーシスを誘導した 4. 気化したヒバ精油を吸引したマウスにおいて 腫瘍増殖抑制効果が認められた 5. 気化したヒバ精油を吸引したマウスにおいて 有意に胃癌の腹膜播種転移が抑制された 6. ヒバ精油における抗腫瘍因子としてツヨプセンを同定した
お問い合わせ先 国立大学法人 富山大学 研究推進機構 産学連携推進センター コーディネーター 小前 憲久 TEL 76-434 - 7196 FAX 76-434 - 5138 e-mail komae@ctg.u-toyama.ac.jp