第 3 節 地球規模の持続可能性への影響 指標群 日本国内の自然資本や経済活動の状況が 地球規模の持続可能性に直接的にどのよう な影響を与えているかを測る指標群である (1) 他の指標群と重複する指標 自然資本の状態 指標群と 資源消費と資源効率 指標群は 基本的には 日本社会の持続可能性と関わる指標を中心に選んだものだが この中には 同時に地球規模の持続可能性に貢献するものも含まれている これらを再掲すると 以下の通りである 自然資本の状態 指標群から 森林による炭素吸収量 森林 1ha が 1 年間に吸収する炭素量 ( 全 樹種平均 )( 森林総合研究所 ) 総森林 面積 ( 林野庁 ) より推計 資源消費と資源効率 指標群から 国内物質消費量 (DMC) 物質フローの模式図 ( 環境省 ) および簡 ( 国全体 国民一人当たり 資源分類別 ) 易延長産業連関表 ( 経済産業省 ) 等より推計 一次資源等価換算物質消費量 (RMC) 物質フローの模式図 ( 環境省 ) および簡 ( 国全体 国民一人当たり 資源分類別 ) 易延長産業連関表 ( 経済産業省 ) 等より推計 一次エネルギー国内供給 ( 総量 ソース別 ) 総合エネルギー統計 ( 経済産業省 資源エネルギー庁 ) 温室効果ガス排出量 ( 生産ベース 総量 ) 日本国温室効果ガスインベントリ報告書 温室効果ガス排出量 ( 消費ベース 一人当た り ) GTAP データベース等より推計 (Atkinson et al. (2012) など先行研究あり ) 153
(2) 追加すべき指標 1. その他の消費ベース指標 前節では CO2 の排出量に関し 消費ベースでの指標について検討した 第 3 章でも述べたように 消費ベースでの CO2 排出量は バーチャル カーボンやエンベディッド カーボンなどの概念で実際の推計が行われている他 OECD グリーン成長指標でも需要ベースの炭素生産性が取り上げられている 消費ベースの指標としては この他に以下の指標が重要である a) バーチャル ウォーターバーチャル ウォーター (virtual water) は ロンドン大学のアンソニー アラン教授が最初に用いた概念で 様々な定義の変遷を経つつも 輸入された財やサービスの生産に必要な水の量 あるいはより一般的に 財やサービスの生産に必要な水の量を指す また これらの生産物を国境を超えてやりとりすることを その背後にあるバーチャル ウォーターを念頭に バーチャル ウォーター貿易と言う これは 貿易理論で貿易の要素含有量 (factor content of trade) と呼ばれてきたものの水資源版 (water content of trade) に他ならず 呼び方はともかく この考え方自体は新しいものではない 典型的には 水資源が稀少な地域や水生産性の低い地域が食料などを輸入することで もし自国でそれらを生産していたら必要であった水資源を節約し 他のより重要な用途に用いることができることが バーチャル ウォーター貿易の利点であると言われる 図 5-33 日本のバーチャルウォーター貿易 154 環境省 (2010a), 平成 22 年版環境 循環型社会 生物多様性白書
図 5-33 に示すように 日本は食料輸入等を通じて 世界各国からバーチャル ウォーターを輸入している 特に農業生産のためのバーチャル ウォーターは 日本人一人当たり一日 1500 3000 リットルと言われており これは飲料のための水 (1 2リットル ) 生活用水( 約 400 リットル ) と比べても膨大な量である 34 ただし 日本の場合 バーチャル ウォーターの輸入の要因は水資源の不足ではなく 土地資源の不足や食生活の変化 ( 肉食の増加 ) など 多様な要因が考えられる バーチャル ウォーターの輸入状況を評価するにあたっては 次の2 点に留意が必要である 第一に バーチャル ウォーターの輸入量が多いからと言って それが直ちに輸出元の水資源の枯渇につながるわけではない 本章で述べたように 水資源は再生可能資源であり 水消費の持続可能性は再生可能な水賦存量との関係で評価されるべきである 例えば 水賦存量が世界最大級のカナダから多くのバーチャル ウォーターを輸入したからといって 現状で日本の食料消費がカナダの水資源に枯渇の危機をもたらしているとはいえない 第二に 一方で 水希少性が高い国から直接食料を輸入していないとしても バーチャル ウォーターの輸入は間接的にこれらの国の食料事情に甚大な影響を与え得る 例えば Yang et al. (2003) は アジア アフリカ諸国では 一人当たりの水賦存量が一定の閾値を下回ると 幾何級数的に穀物の輸入需要が増加するが 国民所得の低い多くの国は輸入に対応できず 飢餓が発生する恐れがあることを示した こうした状況は 今後 各地域における人口増加や気候変動による水賦存量の低下などにより さらに悪化すると考えられる 日本がこれらの国から直接食料を輸入する可能性は大きくないが それ以外の国から水消費量の高い穀物を大量に輸入している状況では 結果的にこれらの国の国際食料市場を通じた食料アクセスを悪化させる恐れもある b) バーチャル ランドバーチャル ランドは バーチャル ウォーターと同様 輸入される食料の生産に必要な土地面積を表す概念である 土地は 経済活動の物理的な基盤としての面積としての側面 ( リカード的土地 ) と 土壌による栄養供給や流域による水フロー調節など 生態系サービスを供給する生態系資源としての側面とがある 農作物の場合 単なる面積として土地を占有するだけでなく その土地に存在する様々な生態系サービスを用いて生産が行われる 食料の輸入は 間接的に 国外の土地のこうした機能を用いることで 34 沖 (2012). 155
もある バーチャル ウォーターと同様 バーチャル ランドの輸入が直ちに飢餓を引き起こすわけではなく 輸出元における食料や所得の分配 食料アクセスの状況など複雑な要因が関係していることに留意が必要である 2. 持続可能な消費の促進 森林認証や漁業認証については 自然資本の状態 指標群の節でも取り上げたが FSC や MSC といった国際認証はむしろ国外の森林や漁場と関係した認証数の方が圧倒的に多く したがって 地球規模で持続可能な森林管理や漁業管理を促進する上でも有効である この他にも レインフォレスト アライアンスが運営するレインフォレスト アライアンス認証ラベルや 国際フェアトレードラベル機構が運営する国際フェアトレード認証ラベルなども 持続可能な消費を促進するための重要なツールとして世界各国で普及している ( 図 5-34) したがって これらの認証ラベルの国内における普及状況や認知度は 消費を通じた地球規模の持続可能性への影響を測る上でも重要な指標であると考えられる 図 5-34 各種の認証ラベル 海洋管理協議会 (MSC) 認証ラベル海洋管理協議会 www.msc.org FSC 森林認証ラベル森林管理協議会 www.fsc.org レインフォレスト アライアンス認証ラベルレインフォレスト アライアンス www.rainforest-alliance.org 国際フェアトレード認証ラベル国際フェアトレードラベル機構 www.fairtrade.net 156
指標案 : 追加すべき指標 a) その他の消費ベース指標 バーチャル ウォーター ( 輸出元国 輸入量 ) バーチャル ランド ( 輸出元国 輸入量 ) GTAP データベース等より推計 GTAP データベース等より推計 b) 持続可能な消費の促進 国際的な認証ラベルの普及状況 ( 海洋管理協議会 (MSC) 認証ラベル FSC 森林認証ラベル レインフォレスト アライアンス認証ラベル 国際フェアトレード認証ラベルなど ) 各認証団体公表 157