Ⅱ 麦 栽 培 技 術 1 ほ 場 の 準 備 麦 類 は 元 来 乾 燥 した 気 候 に 適 した 畑 作 物 であるため 転 換 畑 では 栽 培 期 間 を 通 して 湿 害 が 最 大 の 減 収 要 因 である したがって 地 表 水 の 排 除 透 水 性 改 善 地 下 水 位 低 下 等 の 排 水 対 策 は 麦 類 の 安 定 栽 培 における 必 須 要 件 であり 前 述 の[Ⅰ 麦 大 豆 栽 培 のためのほ 場 条 件 整 備 の 要 点 ]に 従 ってほ 場 の 準 備 を 進 める 2 種 子 の 準 備 (1) 品 種 品 種 選 定 に 当 たっては 実 需 者 との 情 報 交 換 や 協 議 を 充 分 に 行 って 品 種 に 対 するニーズを 的 確 に 把 握 し 試 験 栽 培 で 実 需 者 の 事 前 評 価 を 得 ることが 重 要 となる (2) 種 子 更 新 良 品 質 生 産 とトレーサビリティの 観 点 から 無 病 で 純 粋 な 精 選 種 子 を 毎 年 更 新 する やむを 得 ず 生 産 物 を 種 子 転 用 する 場 合 は 未 熟 粒 病 虫 害 等 を 除 くため 塩 水 又 は 硫 安 水 で 比 重 選 別 する のが 望 ましい 比 重 は 二 条 大 麦 1.13( 水 10Lに 対 し 食 塩 2.14kg 又 は 硫 安 2.9kg) 小 麦 1.22( 水 1 0Lに 対 し 硫 安 6.13kg)が 適 当 で 選 別 後 十 分 水 洗 い 脱 水 し 種 子 消 毒 後 乾 かしておく (3) 種 子 消 毒 種 子 で 伝 染 する 病 害 を 防 ぐための 種 子 消 毒 は 安 定 生 産 の 出 発 点 である 対 象 となる 病 害 は 二 条 大 麦 では 裸 黒 穂 病 堅 黒 穂 病 斑 葉 病 雲 形 病 小 麦 では 裸 黒 穂 病 である 近 年 本 県 では 斑 葉 病 黒 穂 病 の 発 生 が 多 くなっている 採 種 ほ 産 の 無 病 種 子 を 使 用 するのが 基 本 であるが 消 毒 さ れていない 場 合 は 薬 剤 処 理 風 呂 湯 浸 法 または 冷 水 温 湯 浸 法 が 有 効 である ( 農 作 物 病 害 虫 雑 草 防 除 指 針 参 照 ) 3 播 種 前 作 業 本 県 は 山 陰 特 有 の 天 候 不 順 により 播 種 可 能 日 が 制 限 されるので 降 雨 後 すぐに 適 期 作 業 が 開 始 できるように 排 水 対 策 の 徹 底 を 図 る 必 要 がある このため 前 作 の 水 稲 収 穫 から 麦 播 種 までは ほ 場 の 排 水 性 を 図 るための 重 要 な 期 間 となる 明 きょ 弾 丸 暗 きょは 水 稲 収 穫 後 なるべく 早 く 土 壌 が 乾 いた 時 期 に 作 業 し 乾 田 化 する 耕 起 は 雑 草 作 物 残 さ 鋤 き 込 み 土 壌 物 理 性 を 改 善 する 作 業 であるが 時 期 方 法 を 誤 ると 排 水 性 が 悪 化 する ロータリ 耕 は 土 の 団 粒 構 造 を 破 壊 しやすく 雨 が 続 くと 後 続 の 作 業 に 支 障 を 来 すのでプラウ 耕 が 望 ましい やむを 得 ずロータリ 耕 する 場 合 は 播 種 当 日 に 実 施 する 砕 土 は 播 種 覆 土 の 精 度 除 草 剤 の 効 果 苗 立 ち 初 期 生 育 を 良 くするための 作 業 である -87-
ロータリ 耕 起 と 同 様 に 作 業 後 雨 が 降 ると 播 種 作 業 が 困 難 になるので 播 種 同 時 作 業 が 望 ましい 4 播 種 (1) 播 種 期 近 年 品 種 の 早 生 化 地 球 温 暖 化 の 影 響 で 麦 の 播 種 適 期 は 以 前 より 遅 くなっている 平 坦 部 の 播 種 期 は 二 条 大 麦 小 麦 共 に11 月 上 旬 ~12 月 上 旬 好 適 期 は11 月 中 旬 である 播 種 が 早 すぎると 幼 穂 分 化 節 間 伸 長 が 進 み 過 ぎて 凍 霜 害 により 収 量 品 質 が 低 下 し ビー ル 用 大 麦 では 裂 皮 粒 の 発 生 を 助 長 する 播 種 が 遅 すぎると 生 育 や 成 熟 が 遅 れ やはり 収 量 低 下 を 招 き 小 麦 では 収 穫 期 が 遅 延 し 雨 害 による 品 質 低 下 が 著 しい 降 雨 後 すぐに 適 期 播 種 作 業 がで きるよう ほ 場 の 排 水 を 徹 底 する 山 間 部 の 積 雪 地 域 では 越 冬 前 に 生 育 を 十 分 に 確 保 するために 播 種 を 早 くすることが 重 要 であ り 適 期 は10 月 下 旬 である 二 条 大 麦 は 栽 培 困 難 で 小 麦 の 耐 雪 性 品 種 に 限 られる (2) 播 種 方 法 ア ドリル 播 き ドリルシーダにより 条 間 20~30cm 播 種 深 2 ~3cmに 密 条 播 する 方 法 である 作 溝 耕 起 に より 播 種 床 を 作 り 浅 耕 砕 土 しながら 同 時 に 播 種 施 肥 覆 土 鎮 圧 を 行 う 播 種 精 度 が 高 く 出 芽 が 安 定 する 利 点 がある イ 全 面 全 層 播 き 砕 土 播 種 施 肥 同 時 作 業 機 種 子 をダスターや 散 粒 機 などでムラがないように 均 一 に 全 面 散 播 し ハロー 等 で3~5cmの 深 さに 浅 く 攪 拌 覆 土 する 簡 易 な 方 法 である 播 種 機 が 不 要 で 省 力 的 であるが 深 い 層 の 種 子 は 出 芽 しにくく 浅 い 種 子 は 除 草 剤 の 薬 害 を 受 けやすいため 播 種 精 度 に 難 点 がある (3) 播 種 量 播 種 量 は 麦 種 播 種 時 期 播 種 方 法 等 によって 異 なる 下 記 の 表 を 参 考 に 調 整 する ド リ ル 播 き 全 面 全 層 播 き 播 種 期 播 種 密 度 播 種 量 (kg/10a) 播 種 密 度 播 種 量 (kg/10a) ( 粒 /m2) 二 条 大 麦 小 麦 ( 粒 /m2) 二 条 大 麦 小 麦 10 月 下 旬 200 ~250-7.0~ 9.8 250 ~300-9.8~10.5 11 月 上 中 旬 200 ~250 ~10 8.0~ 7 9.8 250 ~300 ~12 10 9.8~10.5 11 月 下 旬 250 ~300 ~12 10.8~10.5 9 300 ~350 ~14 12 10.5~12.3 12 月 上 旬 300 ~350 ~14 12 10.5~12.3 350 ~400 ~16 14 12.3~14.0 注 )10 月 下 旬 は 山 間 積 雪 地 域 -88-
5 雑 草 防 除 播 種 直 後 の 土 壌 処 理 剤 を 基 本 にし 雑 草 発 生 の 状 況 によって 茎 葉 処 理 剤 を 追 加 使 用 する 土 壌 処 理 剤 は 砕 土 と 土 壌 水 分 で 効 果 が 左 右 される 砕 土 が 不 十 分 であると 除 草 効 果 が 劣 り 土 壌 水 分 が 多 い 場 合 や 砂 質 土 壌 では 薬 害 が 出 やすい 生 育 期 の 茎 葉 処 理 剤 は 雑 草 の 生 育 が 進 むと 効 果 が 劣 るので 注 意 する ( 農 作 物 病 害 虫 雑 草 防 除 指 針 参 照 ) ハイクリブームスプレーヤー 7 施 肥 稲 は 地 力 で 麦 は 肥 料 で 作 るといわれるぐらい 施 肥 管 理 は 重 要 である 通 常 リン 酸 カリは 全 量 基 肥 とする 窒 素 は 基 肥 で6 割 追 肥 で4 割 を 分 げつ 肥 と 穂 肥 で 分 施 する 小 麦 の 出 穂 後 追 肥 はさらに 別 量 を 加 える 分 げつ 肥 は 播 種 が 早 かったり 暖 冬 年 には 茎 数 増 加 が 良 好 なため 早 く 肥 料 が 切 れるので 葉 色 が 低 下 したら 早 めに 施 す 穂 肥 は 一 穂 粒 数 の 増 大 が 目 的 であるが 子 実 の 蛋 白 含 量 に 影 響 する 重 要 な 施 肥 である 本 県 は 冬 期 の 降 水 量 が 多 く 窒 素 の 流 亡 が 多 いため 出 穂 期 以 降 の 土 壌 有 効 態 窒 素 が 低 下 しやすく 子 実 中 の 粗 蛋 白 含 量 が 上 がりにくい ビール 用 大 麦 の 適 正 な 粗 蛋 白 含 量 は10~11%と 厳 密 に 規 定 され ており この 範 囲 に 収 まるように 土 壌 診 断 と 前 年 までの 粗 蛋 白 含 量 の 結 果 を 検 討 し 穂 肥 の 時 期 と 量 を 調 整 する 出 穂 後 追 肥 は 麦 の 生 育 収 量 に 影 響 なく 容 易 に 子 実 粗 蛋 白 含 量 を 向 上 させる 麦 茶 用 大 麦 パン 用 醤 油 用 小 麦 については 高 蛋 白 が 望 まれているが 施 肥 による 高 蛋 白 化 は 必 ずしも 加 工 品 質 の 向 上 に 結 びつかない 場 合 もあり 適 正 な 含 有 量 については 基 準 がない 現 状 にある したがって 実 需 者 との 協 議 により 具 体 的 な 数 値 目 標 を 設 定 し 穂 肥 出 穂 後 追 肥 の 量 と 時 期 を 調 整 する 品 種 別 施 肥 基 準 ( 成 分 量 kg/10a) あまぎ 二 条 シロガネコムギ 農 林 61 号 施 肥 アサカゴールド 窒 素 リン 酸 カ リ 窒 素 リン 酸 カ リ 窒 素 りん 酸 カ リ 基 肥 6 8~10 8~10 6~8 8~10 8~10 6~8 8~10 8~10 分 げつ 期 追 肥 1.5~3 3~4 2~3 穂 肥 1.5~3 3~4 2~3 出 穂 後 追 肥 3~4 3~4-89-
8 踏 圧 ( 麦 踏 み) 表 日 本 の 麦 作 独 特 の 作 業 で 霜 柱 害 を 防 ぎ 茎 数 増 加 耐 寒 性 強 化 幼 穂 形 成 遅 延 による 凍 霜 害 回 避 などの 効 果 がある しかし 冬 期 に 雨 や 雪 が 多 い 本 県 では 鎮 圧 にる 根 の 生 育 阻 害 が 大 きく 逆 効 果 になるので 暖 冬 で 凍 霜 害 の 危 険 がある 場 合 に 限 って 行 う 1 月 ~2 月 の 土 が 乾 燥 した 日 に 数 回 茎 葉 のみを 圧 傷 し 土 壌 は 固 めな いように 鎮 圧 ローラー 機 で 作 業 する 自 作 麦 踏 みローラー 9 病 害 虫 防 除 病 害 虫 で 収 量 及 び 品 質 への 影 響 が 大 きいものは 赤 かび 病 である 数 種 のフザリウム 菌 が 原 因 で 粒 肥 大 が 抑 制 され 減 収 を 招 き 外 観 品 質 が 損 なわれる 菌 の 出 す 物 質 にはデオキシニバレノ ール(DON)という 人 畜 に 毒 性 を 有 するものがあり 小 麦 については 厚 生 労 働 省 のDONの 暫 定 基 準 値 1.1ppm を 超 える 場 合 は 販 売 自 主 規 制 等 の 対 応 が 必 要 となる また 農 林 水 産 省 の 検 査 規 格 では 小 麦 大 麦 ともに 赤 かび 粒 混 入 限 度 は0.0%(1 万 粒 中 4 粒 以 下 )と 厳 密 に 規 制 されて いる 一 次 伝 染 源 は 稲 麦 わら 株 枯 死 したイネ 科 雑 草 等 の 残 さで 二 次 伝 染 は 罹 病 部 に 形 成 された 分 生 胞 子 による 主 に 開 花 期 ~ 乳 熟 期 にかけて 感 染 好 適 条 件 (20~27 曇 雨 天 )が 続 く と 蔓 延 しやすいので 出 穂 後 5~7 日 の 開 花 期 ( 大 麦 は 穂 揃 い 期 )に 予 防 散 布 する その 後 も 好 適 条 件 が 続 くと 被 害 が 拡 大 するので7~10 日 おきに 数 回 追 加 防 除 を 実 施 する ( 農 作 物 病 害 虫 雑 草 防 除 指 針 参 照 ) -90-
10 収 穫 乾 燥 調 製 (1) 収 穫 適 期 穂 首 が 黄 化 し 粒 がろう 状 の 硬 さに 達 したときが 成 熟 期 であ る しかし 成 熟 期 の 穀 粒 水 分 は30% 以 上 あるので 収 穫 適 期 は 数 日 経 過 して 穀 粒 水 分 が 二 条 大 麦 では25% 小 麦 で30% 以 下 にな った 時 期 である 二 条 大 麦 は 全 体 の7~8 割 の 穂 首 が 湾 曲 したときが 水 分 25% 程 度 の 時 期 で 目 安 となる 収 穫 が 適 期 より 早 すぎる 場 合 には 穀 粒 が 高 水 分 で 柔 らかいの 収 穫 期 の 大 麦 ( 穂 首 湾 曲 ) で 砕 粒 剥 皮 発 芽 率 低 下 を 招 く また 遅 れると 降 雨 により 穂 発 芽 や 退 色 粒 が 発 生 し 品 質 低 下 を 招 くことから 適 期 収 穫 に 努 める 入 梅 期 で 収 穫 の 実 作 業 日 数 が 限 られるため 収 穫 機 械 や 乾 燥 調 製 施 設 の 整 備 に 万 全 を 期 す (2) 収 穫 コンバインを 水 稲 と 共 用 した 場 合 は とくに 入 念 に 掃 除 を 行 い 異 種 穀 粒 の 混 入 を 防 止 する 脱 穀 回 転 数 は 麦 用 ( 稲 より 約 10% 減 )としその 他 の 調 整 も 麦 用 に 設 定 する 開 始 時 に 試 し 扱 ぎを して 機 械 的 損 傷 粒 の 発 生 がない 事 を 確 かめてから 本 格 的 に 作 業 をする 収 穫 後 の 粒 は 長 時 間 放 置 すると 熱 損 粒 や 異 臭 麦 の 原 因 になるので 2~3 時 間 以 内 に 乾 燥 を 始 めるよう 共 同 乾 燥 施 設 に 運 搬 する (3) 乾 燥 調 製 倒 伏 湿 害 赤 かび 病 の 発 生 が 多 いほ 場 は 被 害 粒 の 混 入 による 全 体 的 な 品 質 低 下 を 防 ぐため 仕 分 け 収 穫 乾 燥 調 製 を 徹 底 する また 米 麦 共 用 の 施 設 においては 相 互 の 混 入 が 生 じない よう 注 意 する 品 質 や 発 芽 勢 の 低 下 を 招 かないよう 乾 燥 方 法 に 合 わせた 適 切 な 温 度 管 理 を 行 い 熱 損 粒 異 臭 麦 等 の 発 生 防 止 に 努 める ビール 大 麦 は 発 芽 勢 98% 以 上 を 確 保 するため 急 速 な 高 温 乾 燥 を 避 け 穀 粒 温 度 40 以 下 とするが 長 時 間 の 乾 燥 は 剥 皮 の 原 因 となるので 注 意 する 小 麦 では 穀 粒 温 度 は45 以 下 とし 所 定 の 水 分 まで 低 下 させる 篩 調 製 の 網 目 はビール 大 麦 2.5mm 小 麦 2.0mmを 基 準 とし 整 粒 歩 合 をビール 大 麦 95% 以 上 小 麦 80% 以 上 に 仕 上 げる -91-