平 安 京 ビュー を 用 いた 階 層 型 遺 伝 子 ネットワークの 可 視 化 西 山 慧 子 伊 藤 貴 之 お 茶 の 水 女 子 大 学 大 学 院 E-mail : {nishy, itot}@itol.is.ocha.ac.jp 概 要 遺 伝 子 ネットワークとは, 各 遺 伝 子 をノードとし, 遺 伝 子 間 をエッジで 接 続 して 構 築 されるデータである. 数 千, 数 万 といった 大 量 の 遺 伝 子 群 で 構 成 される 遺 伝 子 ネットワークには, 複 雑 な 連 結 成 分 を 含 むことが 多 く,その 解 釈 や 把 握 が 困 難 な 場 合 も 多 い. 本 論 文 では, 遺 伝 子 群 にクラスタリングとネットワーク 化 を 同 時 に 適 用 して 構 築 される, 階 層 型 ネットワークデー タを 対 象 とした 可 視 化 手 法 を 提 案 する. 提 案 手 法 では, 各 々の 遺 伝 子 は 数 種 類 の 発 現 率 を 持 つと 仮 定 し,その 発 現 率 の 相 関 性 の 高 さによりクラスタリングを 行 う.それと 同 時 に 提 案 手 法 では, 発 現 率 の 相 関 性 が 高 い 遺 伝 子 間 をエッジ で 連 結 することにより,ネットワークデータも 同 時 に 生 成 する. 提 案 手 法 ではこの 遺 伝 子 ネットワークデータを, 大 規 模 階 層 型 データ 可 視 化 手 法 平 安 京 ビュー の 拡 張 手 法 を 用 いて 可 視 化 する. 提 案 手 法 を 用 いることにより, 遺 伝 子 学 の 研 究 者 は, 膨 大 な 遺 伝 子 群 の 中 から, 特 定 の 遺 伝 子 の 相 互 関 係 を 分 析,あるいは 興 味 深 い 特 徴 を 持 つ 遺 伝 子 の 発 見,などが 容 易 になるものと 考 えられる. なお 本 論 文 は 遺 伝 子 ネットワークの 可 視 化 を 試 みるものであるが, 提 案 手 法 における 階 層 型 ネットワークデータの 可 視 化 手 法 は, 拡 大 性 とランダム 性 の 高 い 複 雑 ネットワークと 呼 ばれるネットワーク 全 般 に 適 用 可 能 な, 応 用 範 囲 の 広 い 可 視 化 手 法 である. Visualization of Hierarchical Gene Network Using HeiankyoView Keiko Nishiyama Takayuki Itoh Graduate School of Humanities and Sciences, Ochanomizu University Abstract Gene network is a network that denotes each gene as node and connects pairs of genes by edges. It composes of a large amount of gene cluster, and therefore they contain complex connected elements, which are often difficult to interpret and grasp. This report presents a technique for visualizing hierarchical gene network data, constructed by clustering and networking techniques. The technique assumes that each gene has multiple expression rate values, and they are clustered and networked according to the correlation of the expression rate values. We visualize the data by using the enhanced "HeiankyoView", which has been originally presented as a large-scale hierarchical data visualization technique. Our technique makes easier to analyze specific genes and discover genes which has interesting features. 1. はじめに 情 報 可 視 化 は 世 の 中 にある 一 般 的 な 情 報 を 可 視 化 する 研 究 分 野 [1]である.その 応 用 範 囲 は 非 常 に 広 いが, 最 近 では 特 に 生 物 情 報 の 可 視 化 の 研 究 が 活 発 に 進 められている. 生 物 情 報 の 中 でも 特 に 急 速 に 研 究 が 進 んでいる 分 野 に, 遺 伝 子 (ゲノ ム) 解 析 があげられる. 現 在 既 に,ヒトゲノム 解 読 は 完 了 し ているといわれているが,これは DNA を 構 成 する 塩 基 配 列 が 解 読 されたというだけであり,その 遺 伝 子 の 振 る 舞 いなど は,はっきり 分 かっていない.そこで 現 在 その 遺 伝 子 の 振 舞 いについての 研 究 が 必 要 とされている.その 中 でもマイクロ アレイデータ[2]からの 遺 伝 子 ネットワーク 同 定 問 題 は,バイ オインフォマティックス 分 野 における 重 要 なトピックのひと つであると 言 える. 遺 伝 子 ネットワークとは, 各 遺 伝 子 をノードとし, 遺 伝 子 間 にエッジがあるようなネットワーク 構 造 で,ゲノム 上 での 位 置 関 係, 代 謝, 制 御 パスウェイ 上 での 隣 接 関 係, 転 写 時 の 共 発 現 率, 蛋 白 質 相 互 作 用 など, 多 くの 性 質 を 表 現 するため に 用 いられる. 遺 伝 子 ネットワークは 多 くの 場 合 において 無 向 グラフとして 扱 われるが,パスウェイなどの 遷 移 関 係 を 表 す 場 合 に 限 って 有 向 グラフとして 扱 われる.このようなネッ 106
トワーク 構 造 を 分 析 することで, 遺 伝 子 が 変 異 したときに 何 が 起 こるか 予 測 することができる. 遺 伝 子 ネットワークは 大 変 膨 大 なものであり, 複 雑 な 連 結 成 分 を 含 むため,そのままでは 解 釈 や 把 握 が 困 難 である.よ って, 何 らかの 方 法 でより 興 味 深 い 遺 伝 子 群 を 抽 出 し, 注 目 すべき 対 象 を 絞 り 込 むことが 必 要 である.しかしながら 常 に 目 的 に 叶 った 結 果 を 得 る 事 ができていないというのが 現 状 で ある. 情 報 可 視 化 はこのような 目 的 において 非 常 に 有 効 であ ると 考 えられる. A B C D E F 遺 伝 子 群 B,E 図 1. クラスタ 生 成 の 一 例 A,D C,F クラスタリング 結 果 1 A,B,E D C,F クラスタリング 結 果 2 B E 本 論 文 では, 数 万 から 数 十 万 の 遺 伝 子 発 現 を 一 度 に 調 べる ことが 可 能 である,マイクロアレイデータを 参 照 して 各 遺 伝 子 に 数 種 類 の 発 現 率 を 仮 定 し,この 相 関 性 の 高 さで 遺 伝 子 を クラスタリングし,さらに 相 関 性 の 高 い 遺 伝 子 同 士 をエッジ で 接 続 した 階 層 型 ネットワークデータを 想 定 する.このとき 図 1 で 示 すように,クラスタリングの 方 法 や 実 行 条 件 によっ て,クラスタリング 結 果 はさまざまに 変 化 する. 図 1 より, Aは{B,E},{D},{C,F}の 3 組 の 遺 伝 子 と 同 一 のクラスタに 属 す る 可 能 性 があるといえる.このことより,Aは 複 数 の 遺 伝 子 の 機 能 を 同 時 に 持 つ 遺 伝 子 かもしれない,と 予 測 できる.こ のように,2 種 以 上 の 遺 伝 子 の 機 能 を 同 時 にもつ 遺 伝 子 は, マルチドメインと 呼 ばれ,この 発 見 は 遺 伝 子 分 析 の 中 でも 興 味 深 い 問 題 である.しかし 1 つのクラスタリング 結 果 だけを 可 視 化 しても,このような 特 性 は 発 見 しにくい.このような 現 象 は, 遺 伝 子 クラスタリング 結 果 と 遺 伝 子 ネットワークを 組 み 合 わせて 可 視 化 することにより,その 存 在 が 理 解 しやす くなると 考 えられる. 本 論 文 では, 遺 伝 子 群 に 対 してクラスタリングとネットワ ーク 化 を 同 時 に 適 用 して 生 成 される, 階 層 型 ネットワークデ ータの 可 視 化 手 法 を 提 案 する. 提 案 手 法 は 図 2 に 示 すような, 異 なるクラスタ 間 をまたいで 相 関 性 を 有 する 遺 伝 子 間 をエッ ジで 表 現 することで,マルチドメインに 代 表 される 遺 伝 子 の 興 味 深 い 現 象 の 発 見 に 貢 献 するものである. 提 案 手 法 では 情 報 可 視 化 手 法 平 安 京 ビュー [3]を 用 いてクラスタリング 結 D クラスタリング 結 果 3 A C F 果 を 階 層 型 データとして 可 視 化 し,それにエッジを 重 ねて 描 くことにより 階 層 型 ネットワークデータを 表 現 する. なお 本 論 文 が 提 案 する 階 層 型 ネットワークデータ 可 視 化 手 法 は,3.4 節 にて 後 述 するとおり, 大 規 模 かつランダム 性 の 高 い 複 雑 ネットワーク 全 般 に 適 用 できる,きわめて 適 用 範 囲 の 広 い 手 法 である. A D B E C,F 図 2. クラスタにネットワークを 重 ねた 一 例 2. 関 連 研 究 2.1 遺 伝 子 情 報 の 可 視 化 遺 伝 子 情 報 は 大 規 模 かつ 複 雑 な 性 質 をもつことが 多 い.そ のため,その 全 貌 を 理 解 するために 情 報 可 視 化 技 術 は 有 用 で あると 考 えられる. 特 に,3 章 で 後 述 するマイクロアレイか ら 得 られる 遺 伝 子 情 報 の 可 視 化 は, 近 年 活 発 に 議 論 されてお り,その 諸 手 法 を 比 較 する 論 文 も 発 表 されている[4]. マイクロアレイから 得 られる 遺 伝 子 情 報 は, 一 般 的 には 遺 伝 子 名 および 実 験 方 法 を 行 と 列 にする 表 形 式 データとして 与 えられる.このような 表 形 式 データを 可 視 化 する 最 も 単 純 な 方 法 は, 表 の 構 造 をそのまま 画 面 上 に 表 現 する 技 術 である. 遺 伝 子 分 析 の 分 野 で 最 も 有 名 な TreeView[5]というオープン ソースの 可 視 化 技 術 は,まさに 遺 伝 子 名 と 実 験 方 法 を 行 と 列 にした 表 形 式 の 可 視 化 を 実 現 している. しかし 遺 伝 子 情 報 に 限 らず, 表 形 式 デー タの 中 には, 情 報 が非 常 に 大 規 模 かつ 疎 であるものも 多 い.そのため,このよ うなデータをそのまま 表 として 表 示 することは, 画 面 空 間 の 有 効 利 用 の 点 で 必 ずしも 合 理 的 であるとは 限 らない.これを 改 善 する 一 案 として, 表 形 式 データからクラスタリングによ って 形 成 される 階 層 型 データ,あるいはゼロでない 値 をもつ 行 と 列 を 連 結 して 形 成 されるネットワークデータに 変 換 して から 表 示 する,という 試 みが 多 く 行 われている[6]. 本 論 文 の 提 案 手 法 は,この 考 え 方 に 基 づき, 表 形 式 データとして 与 え られる 遺 伝 子 情 報 を, 階 層 型 ネットワークデータに 変 換 して 可 視 化 するものである. 近 年 では, 表 形 式 データを 表 のまま 可 視 化 する 手 法 と, 木 構 造 やグラフに 変 換 して 可 視 化 する 手 法 との 比 較 に 関 する 研 究 も 発 表 されている[7]. 2.2 ネットワークデータの 可 視 化 ネットワークデータの 可 視 化 手 法 は,すでに 多 様 な 観 点 か 107
らの 研 究 が 進 んでいる.ネットワークデータのノード 位 置 の 算 出 のために 力 学 モデルを 用 いた 手 法 [8]や, 大 規 模 ネットワ ークの 部 分 拡 大 表 示 [9]やインクリメンタルな 表 示 [10,11]を 実 現 した 手 法 などは,この 研 究 分 野 を 活 性 化 した 代 表 的 な 研 究 成 果 といえる.またウェブのリンク 構 造 の 可 視 化 [12]をはじめ として,ネットワークデータの 可 視 化 の 応 用 分 野 の 開 拓 も 活 発 に 進 んでいる. 複 雑 に 絡 むネットワークデータ 中 の 注 目 部 分 をわかりやす く 表 示 するための 代 表 的 な 手 法 として,3 次 元 的 な 引 き 上 げ 操 作 により, 注 目 ノード,および 注 目 ノードとエッジで 連 結 されているノードも 連 鎖 的 に 引 き 上 げて 表 示 する 納 豆 ビュ ー という 手 法 が 報 告 されている[13]. 本 論 文 の 提 案 手 法 は, 納 豆 ビューに 類 似 した 考 え 方 で,ネットワークデータ 中 の 注 目 部 分 を 3 次 元 表 示 するものである. 2.3 階 層 型 データの 可 視 化 階 層 型 データの 可 視 化 手 法 の 著 名 な 手 法 の 中 には, 階 層 構 造 を 木 構 造 として 表 現 する 手 法 と, 階 層 構 造 の 末 端 にあたる 葉 ノードを 2 次 元 的 に 画 面 空 間 に 展 開 する 手 法 がある. 前 者 の 中 で 有 名 な 手 法 には,Hyperbolic Tree[14]や Cone Tree[15] があげられる. 後 者 の 中 で 有 名 な 手 法 には, 画 面 空 間 の 2 次 元 的 分 割 により 葉 ノードを 一 括 表 示 する TreeMaps[16]があげ られる. 本 論 文 の 提 案 手 法 が 用 いる 階 層 型 データ 可 視 化 手 法 平 安 京 ビュー も, 後 者 に 属 する 手 法 である. 本 論 文 では 大 量 の 遺 伝 子 情 報 を 一 画 面 に 展 開 して 一 括 表 示 することを 目 的 としているため, 後 者 のような 階 層 型 データ 可 視 化 手 法 の ほうが 適 切 であると 考 えられる. 階 層 構 造 とネットワーク 構 造 の 両 者 を 併 せ 持 つ 可 視 化 技 術 は, 近 年 になって 活 性 化 している 研 究 分 野 である. 旧 来 の 研 究 の 例 として,3 次 元 的 に 階 層 構 造 を 表 現 するネットワーク データ 可 視 化 手 法 [17]や,クラスタごとにズーム 値 を 変 えた 2 次 元 的 なネットワークデータ 可 視 化 手 法 [18]などが 知 られて いる.また 近 年 では,Cone Tree や TreeMaps などの 既 存 の 階 層 型 データ 可 視 化 手 法 にネットワークデータを 付 加 する 形 式 の 可 視 化 手 法 [19,20]が 発 表 されると 同 時 に,その 画 面 上 の 混 雑 を 回 避 するためのネットワークデータの 曲 線 化 に 関 する 手 法 [6]も 発 表 されている. 本 論 文 の 提 案 手 法 では[6,19,20]と 同 様 に, 階 層 型 データ 可 視 化 手 法 にネットワークデータを 付 加 する 形 で, 階 層 構 造 とネットワーク 構 造 の 両 者 をあわせもつ 情 報 を 可 視 化 するものである. 2.4 階 層 型 データ 可 視 化 手 法 平 安 京 ビュー 本 論 文 の 提 案 手 法 では, 平 安 京 ビュー [21]を 用 いて 遺 伝 子 情 報 の 階 層 構 造 を 可 視 化 する. 平 安 京 ビュー は, 階 層 型 データの 葉 ノードを 長 方 形 のアイコンで, 枝 ノードを 長 方 形 の 枠 で 表 現 し, 階 層 構 造 を 2 次 元 の 長 方 形 群 の 入 れ 子 構 造 で 表 現 し,これらをできるだけ 小 さい 画 面 空 間 に 配 置 すること で, 階 層 型 データ 全 体 を 一 画 面 に 表 示 する. この 手 法 は 2.2 節 でも 論 じたように, 階 層 型 データ 中 の 葉 ノードと 枝 ノードの 親 子 関 係 よりも, 階 層 型 データ 全 体 に 分 布 する 葉 ノード 群 を 全 て 一 画 面 に 表 現 することに 主 眼 をおい た 視 覚 化 手 法 である. 図 3. 平 安 京 ビュー による 大 規 模 階 層 型 データの 可 視 化 の 例 平 安 京 ビューの 特 徴 の 一 つに, 階 層 型 データを 構 成 する全 て の葉 ノードを, 同 じ 大 きさ 同 じ 形 状 で,かつ 画 面 上 で 全 く重 なり 合 わないように 表 示 する 点 がある. 提 案 手 法 におい て 遺 伝 子 情 報 を 画 面 上 で 探 索 する 際 に, 全 ての 遺 伝 子 が 平 等 に 同 じ 大 きさで,かつ 画 面 上 で 重 ならないように 表 示 される ことは 重 要 である. 同 じような 特 徴 を 有 する 階 層 型 データ 可 視 化 手 法 に,TreeMaps[15]から 派 生 した Quantum Treemap[21] という 手 法 がある.Quantum Treemap と 平 安 京 ビュー の 実 行 結 果 は 文 献 [22,23]にて 数 値 比 較 されている.この 比 較 結 果 によると 平 安 京 ビュー は, 部 分 領 域 のアスペクト 比, 類 似 データ 間 の 可 視 化 結 果 の 類 似 度,の2 点 においてQuantum Treemap よりも 大 幅 に 良 好 な 結 果 をあげている.これらの 利 点 もまた, 階 層 化 された 遺 伝 子 情 報 の 可 視 化 に 有 用 であると 考 えられる. 3. 提 案 内 容 3.1 本 論 文 が 対 象 とするデータ DNA マイクロアレイとは,スライドガラスやシリコンなど の 基 板 上 に, 数 千 数 万 のスポットが 配 置 され, 各 スポットに 一 種 類 ずつ DNA や 遺 伝 子 を 固 定 し, 整 列 配 置 (アレイ 化 ) したものの 総 称 したものである.このスライドガラスに, 化 学 反 応 実 験 を 施 すと, 反 応 するスポットだけが 蛍 光 する. 各 108
スポットの 蛍 光 強 度 をスキャナで 読 み 取 ることにより, 発 現 率 傾 向 を 採 取 し, 数 千 から 数 万 の 遺 伝 子 発 現 情 報 を 一 度 の 実 験 で 採 取 可 能 になっている. また 遺 伝 子 は, 複 数 の 塩 基 により 構 成 されており, 遺 伝 子 の 発 現 率 とは, 一 般 的 に 遺 伝 子 を 構 成 する 塩 基 群 の 中 の 反 応 し た塩 基 の 確 率 を 指 す. 本 論 文 で 扱 う 遺 伝 子 ネットワークとは,このDNAマイクロ アレイから 採 取 される 遺 伝 子 の 発 現 率 を 元 に, 構 築 されるネ ットワークを 示 す. 遺 伝 子 ネットワークの 構 築 手 法 には,グ ラフィカル ガウシアンモデルを 用 いた 手 法 [24] 等 が 知 られ ている.また 推 定 された 遺 伝 子 ネットワークの 実 用 例 として, 薬 剤 ターゲット 遺 伝 子 の 同 定 [25,26] 等 も 発 表 されている. 3.2 階 層 型 遺 伝 子 ネットワークデータの 構 築 提 案 手 法 は,m 個 のマイクロアレイ 上 に n 個 の 遺 伝 子 があ り,その 各 々の 発 現 率 が 実 数 値 として 与 えられているとする. 提 案 手 法 では,この 実 数 値 から m n の 表 形 式 データを 構 築 し,n 個 の 遺 伝 子 の 発 現 率 を m 次 元 ベクタとして 扱 うとする. そしてクラスタリングによって, 発 現 率 傾 向 の 近 い 遺 伝 子 が 同 一 のクラスタに 属 するような 階 層 構 造 を 構 築 し,この 構 造 を 平 安 京 ビューで 表 示 可 能 な 階 層 型 データに 変 換 する.さら に,この 階 層 型 データにネットワークデータを 重 ねるように 表 示 することで, 階 層 型 ネットワークデータを 可 視 化 する. 提 案 手 法 におけるクラスタリングおよびネットワーク 化 の 手 順 の 概 要 を 図 4 に 示 す. たとすると, 平 安 京 ビューによる 階 層 型 データ 可 視 化 結 果 は 図 5( 下 )のようになる. 8 S 2 c1 c4 7 6 c2 c5 c3 図 5. ( 上 ) 階 層 的 なクラスタリング ( 下 ) 平 安 京 ビューにより 表 示 されたクラスタ 5 4 0 1 r ij S 1 3 c6 2 c8 1 c9 c7 c c c 3 c4 c5 c6 c7 c8 c9 1 2 続 いてネットワーク 化 の 手 順 について 説 明 する. 任 意 の 2 個 のノード( 遺 伝 子 )を nodea, nodeb とし,m 種 類 のマイク ロアレイに 対 する 発 現 率 が 与 えられているとする.さらに, nodea の 発 現 率 を A = { a1, a2..., am} nodeb の 発 現 率 を B = b, b..., b } { 1 2 m とする.このときnodeAとnodeBの 発 現 率 同 士 の 相 関 性 を, r 図 4. 階 層 型 データへの 変 換 我 々の 実 装 では,Cluster 3.0 [27]というクラスタリングソフ トウェアに 実 装 されている 階 層 的 クラスタリングアルゴリズ ムを 適 用 して, 階 層 型 データを 構 築 する. 図 5( 上 )において, クラスタをc 1 ~c 9 とすると, 提 案 手 法 では 距 離 が 近 いクラスタ に 対 して 併 合 処 理 を 反 復 することで,デンドログラムを 作 成 し, 階 層 的 クラスタリングを 実 現 する.このときクラスタ 間 距 離 に 複 数 の 閾 値 を 設 け,この 閾 値 より 距 離 の 小 さいクラス タを 一 階 層 に 収 める,という 処 理 を 反 復 することで 階 層 型 デ ータを 構 築 する. 仮 に 図 5( 上 )に 示 すS 1,S 2 の 2 つの 閾 値 を 設 け 以 下 の 式 で 算 出 する. r d = 1.0 D max ただし d は A,B 間 のユー クリッド 距 離 の 2 乗 で, d = で 示 される. (1) m 2 ( ai bi ) (2) i= 1 D max は,すべてのノードの 組 み 合 わせにお ける d の 最 大 値 である. 提 案 手 法 では, 値 が 一 定 値 よ り大 きい 時,この 2 つのノードを 接 続 するエッジを 表 示 する. r 109
以 上 の算 出 式 は,クラスタリングに 使 用 したソフトウェア Cluster3.0 に 導 入 された 算 出 式 である.クラスタリングとネッ トワーク 生 成 の 結 果 に 一 貫 性 を 持 たせるため, 提 案 手 法 でも Cluster3.0 と 同 様 に,ユークリッド 距 離 空 間 を 用 いてネットワ ークを 生 成 した. 原 理 的 にはユークリッド 距 離 空 間 以 外 の 距 離 空 間 ( 例 えばマンハッタン 距 離 空 間 )も 採 用 可 能 であるが, その 有 効 性 について 我 々はまだ 検 証 していない. 以 上 の 処 理 により 遺 伝 子 データは, 以 下 の 要 素 から 構 成 さ れる 階 層 型 ネットワークに 変 換 される. 遺 伝 子 を 表 現 するノード N = { n,..., n } 1 n ノード 2 個 を 連 結 する p 本 のエッジ e = { ni, n j ), E = { e1,..., ep} 1 個 以 上 のノードで 構 成 される q 個 のクラスタ c = { ni,..., n j ), C = { c1,..., cq} D = { N, E, C 3.3 階 層 型 ネットワークデータの 可 視 化 階 層 型 ネットワークデータ } 本 論 文 では 1 章 にて 述 べたとおり, 遺 伝 子 群 にクラスタリ ングとネットワーク 化 の 両 方 を 適 用 した 階 層 型 ネットワーク データの 可 視 化 手 法 を 提 案 する. 提 案 手 法 は 以 下 の 機 能 性 を 重 視 した 手 法 である. (1) できるだけ 多 くの 遺 伝 子 を 一 画 面 に,クラスタ 単 位 で 表 示 できること (2) 注 目 したい 任 意 の 遺 伝 子 を 強 調 でき,その 遺 伝 子 と 相 関 性 の 高 い 遺 伝 子 の 分 布 を 理 解 しやすいこと まず(1)を 満 たすために, 提 案 手 法 では 2.4 節 で 紹 介 した 平 安 京 ビュー を 用 いて, 遺 伝 子 を 表 すノード 群 N を 均 一 な 大 きさの 正 方 形 で 表 現 し,クラスタ 群 C を 長 方 形 の 枠 で 表 現 す る.これらのノードは 画 面 上 でクリッカブルな 状 態 で 表 示 さ れている.このため,クリック 操 作 によって 遺 伝 子 の 詳 細 情 報 などを 提 示 するような GUI を 構 築 することも 可 能 である. 続 いて(2)を 満 たすために 提 案 手 法 では, 特 定 の 遺 伝 子 を 表 すノード( 以 下, 注 目 ノードと 称 する)をユーザに 指 定 させ, エッジ 群 E の 中 から 注 目 ノードに 連 結 されているエッジだけ を 表 示 する.さらに 提 案 手 法 では, 注 目 ノード,および 注 目 ノードから 直 接 エッジで 連 結 されているノード( 以 下, 連 結 ノードと 称 する)を 3 次 元 的 に 表 示 する.ここで x,y,z の 3 軸 で 構 成 される 直 交 座 標 系 を 仮 定 し, 平 安 京 ビュー による N および C の 画 面 配 置 結 果 を 平 面 z=0 上 に 表 示 するとする. 提 案 手 法 では, 注 目 ノード 連 結 ノード 以 外 のノードは z=0 上 の 正 方 形 として 平 面 的 に 描 画 するが, 注 目 ノード 連 結 ノー ドはこの 正 方 形 を 底 面 とする 角 柱 として 立 体 的 に 描 画 する. このような 立 体 的 な 描 画 を 適 用 することを, 本 論 文 では 以 下 z 軸 方 向 に 沿 って 引 き 上 げる と 称 する.この 引 き 上 げる 操 作 により, 提 案 手 法 では 注 目 ノードと 連 結 ノードの 接 続 性 を 強 調 表 現 することが 可 能 になる. 我 々の 実 装 では, 平 安 京 ビューの 画 面 上 で 注 目 ノードをクリックするか,または 検 索 エンジンのようなキーボード 入 力 によるGUI で 注 目 ノードを 指 定 すると,その 注 目 ノードおよび 連 結 ノードを,z 軸 方 向 に 引 き 上 げて 表 示 する. 一 般 的 に, 膨 大 な 遺 伝 子 群 の 中 から, 注 目 すべき 興 味 深 い 遺 伝 子 を 視 覚 的 に 発 見 することは 容 易 ではない.ここで 本 研 究 の 目 的 において,クラスタ 間 をまたぐエッジを 多 く 持 つ 遺 伝 子 は,マルチドメインなどの 興 味 深 い 現 象 をもつ 遺 伝 子 で ある 可 能 性 が 高 い.そこで 提 案 手 法 では,クラスタ 間 をまた ぐエッジを 一 定 以 上 有 するノードを,あらかじめ 所 定 の 色 で 表 示 する.これにより, 特 殊 な 反 応 のありそうな 遺 伝 子 群 を 発 見 しやすくできる. 3.4 提 案 手 法 の 応 用 例 世 の 中 には, 様 々なネットワークデータが 存 在 する. 本 論 文 では, 遺 伝 子 をノードとし, 相 関 性 の 高 い 遺 伝 子 をエッジ で連 結 するネットワークを 対 象 としているが,このネットワ ークは 近 年 注 目 されている 複 雑 ネットワーク の 一 種 であ ると 考 えられる. 複 雑 ネットワークとは, 際 限 ない 拡 大 性 を 有 し,ランダム 度 の 高 いリンク 構 造 を 有 するネットワークの 総 称 である. 特 に近 年 では 情 報 技 術 の 発 達 により, 多 くの 分 野 において 複 雑 ネットワークが 見 られる. 例 えば 以 下 のようなネットワーク は, 複 雑 ネットワークの 一 種 であると 考 えられる. 文 書 データベースに 出 現 するキーワード 間 の 相 関 性 か ら 構 築 したネットワーク. 計 算 機 のアクセス 履 歴,コンピュータウィルスの 感 染 経 路 などのログから 構 築 したネットワーク. ニューロンやタンパク 質 の 情 報 伝 達 経 路 から 構 築 した ネットワーク. 会 社 や 社 会 の 人 間 関 係 における 様 々な 人 間 関 係 のネッ トワーク. ウェブのリンク 構 造 のネットワーク. 本 論 文 の 提 案 手 法 は, 遺 伝 子 ネットワークに 限 らず, 上 記 のような 複 雑 ネットワーク 全 般 に 適 用 可 能 な, 応 用 範 囲 の 広 い手 法 であると 考 えられる. 4. 実 行 結 果 我 々は 提 案 手 法 を Java SDK 1.5 で 実 装 し,COMPAQ EvoD510 CMT (CPU 2.8GHz, RAM 1GB) 上 で 実 行 した.オペ レーティングシステムには Windows XP を 用 い,ディスプレ 110
イ 解 像 度 は 1024x768 画 素 に 設 定 した.また 遺 伝 子 データとし て, 以 下 の URL に 公 開 されているイースト 遺 伝 子 発 現 率 デー タを 用 いた. http://bonsai.ims.u-tokyo.ac.jp/~mdehoon/software/cluster/demo.txt 以 下 に 結 果 画 像 を 示 し, 結 果 画 像 に 対 する 考 察 を 論 じる. 4.1 結 果 画 像 まず 我 々は,クラスタリングにおいて 作 成 したデンドログ ラムにおけるクラスタ 間 距 離 に 2 つの 閾 値 ( 図 5 におけるS 1 お よびS 2 )を 設 け, 遺 伝 子 データから 2 階 層 のクラスタを 構 築 した. 著 者 らの 実 験 ではS 1 =0.9, S 2 =0.8 であった. 続 いてS 1,S 2 とは 別 に,もう 一 つの 閾 値 を 設 け, 式 (2)におけ るr 値 が 閾 値 以 上 である 2 ノード 間 にエッジを 生 成 した. 著 者 らの 実 験 では 閾 値 は 0.98 であった. このようにして 生 成 された 階 層 型 遺 伝 子 ネットワークファ イルを 読 み 込 み, 提 案 手 法 を 用 いて 表 示 した. 提 案 手 法 によ っ て 各 ノードの 画 面 上 の 位 置 を 算 出 するのに,0.24 秒 を 要 し た.なお 平 安 京 ビュー の 処 理 時 間 や 画 面 配 置 結 果 は,ノ ード 数 や 階 層 の 深 さには 単 純 に 比 例 しない. 平 安 京 ビュー の 処 理 時 間 や 配 置 結 果 を 悪 化 させる 方 向 に 影 響 を 及 す 変 数 は, 上 位 クラスタの 配 下 に 属 する 下 位 クラスタの 個 数 である.よ って 提 案 手 法 のために 複 数 の 閾 値 を 用 いてクラスタリングを 行 う 場 合 には, 特 定 の 上 位 クラスタの 配 下 に 属 する 下 位 クラ スタの 個 数 が 大 きくなりすぎないように,という 点 に 留 意 し て 閾 値 を 決 定 する 必 要 がある.この 閾 値 を 適 切 に 自 動 算 出 す る 手 法 の 確 立 は, 今 後 の 課 題 のひとつといえる. 図 6. 提 案 手 法 を 用 いた, 注 視 ノードが 一 つの 実 行 例. 以 上 の 処 理 による 可 視 化 の 例 を 図 6 に 示 す.この 可 視 化 結 果 では,クリック 操 作 によって 単 一 のノードを 注 目 ノードと して 指 定 し,その 注 目 ノードと 連 結 ノードとの 関 係 を 黄 色 い エッジで 表 示 している.クリック 操 作 等 に 伴 う 再 描 画 の 処 理 時 間 は, 画 面 のズーム 率 やエッジ 表 示 数 に 大 きく 依 存 するの で 一 概 には 言 えないが,おおむね 0.2~0.5 秒 程 度 であった. 筆 者 らの 実 装 では,ソフトウェアの 可 搬 性 の 高 さの 観 点 から, GPU などのグラフィックス 高 速 表 示 装 置 を 全 く 用 いず,また OpenGL やDirectX などの 3 次 元 グラフィックスライブラリを 全 く 用 いていない.これらを 用 いるように 実 装 しなおすこと で, 描 画 時 間 は 大 きく 向 上 すると 考 えられる. 一 般 的 に,マイクロアレイにて 一 度 に 測 定 する 遺 伝 子 情 報 は, 数 百 ~ 数 千 個 である 場 合 が 多 い. 一 方 で 我 々は 経 験 上, 1024x768 画 素 程 度 の 画 面 解 像 度 において 平 安 京 ビュー を 用 いる 場 合,ノード 個 数 が 3000~5000 個 程 度 であれば, 階 層 型 データ 全 体 をクリッカブルな 状 態 で 一 画 面 に 表 示 でき ることを 観 察 している.この 性 能 は, 提 案 手 法 においてクラ スタリング 結 果 から 得 られる 階 層 型 データにおいても 同 等 であると 考 えられる.よって 提 案 手 法 を 用 いることで, 一 般 的 なマイクロアレイ 実 験 結 果 から 得 られる 遺 伝 子 情 報 を, 一 画 面 上 に 観 察 可 能 になると 考 えられる. 図 6 では,クラスタ 内 のノードすべてと 注 目 ノードが 連 結 している,というクラスタを 丸 で 囲 んだ.この 赤 丸 で 示 すよ うなクラスタが 存 在 するということは, 注 目 ノードは 現 在 属 するクラスタの 他 に, 丸 で 示 すクラスタに 属 していてもおか しくない,ということを 示 している.つまり,この 注 目 ノー ドが 示 す 遺 伝 子 はマルチドメインかもしれない,ということ が 推 測 できる. また, 図 6 を 詳 しく 調 べてみると, 所 定 の 色 ( 紫 )で 表 示 されたノードを 両 端 とするエッジが 多 く 存 在 していること が解 る.また 他 のノードを 注 目 ノードに 指 定 した 場 合 にも, 同 様 の 結 果 が 観 察 された. このことより, 図 6 に 示 す 遺 伝 子 ネットワークは,マルチ ドメインの 可 能 性 のある 遺 伝 子 同 士 が 複 雑 に 絡 み 合 ったネ ットワークである,といえる. 図 7,8 は, 提 案 手 法 により, 注 目 ノードと 連 結 ノードを z 軸 方 向 に 引 き 上 げた 結 果 画 像 である. 図 8( 左 )の 注 目 ノードを 引 き 上 げていない 画 像 では,どのノ ードが 注 目 ノードとエッジで 連 結 されているのか, 一 目 には 理 解 しにくい.それに 対 して 図 8( 右 )では, 注 目 ノードを 引 き 上 げることにより, 注 目 ノードと 連 結 ノードを 一 目 瞭 然 に 発 見 できることがわかる. これらの 結 果 画 像 より,ネットワークの 注 視 部 分 を z 軸 方 向 に 引 き 上 げることにより,ノード 間 の 連 結 関 係 が 理 解 しや すくなると 言 える. 111
芸術科学会論文誌 Vol. 6 No. 3 pp. 106-116 い とのことであった 4.1 節に示したように 我々はまだイ ンターネット上に公開された遺伝子情報だけを有し また遺 伝子情報分析を専攻する情報処理の専門家との議論を経ただ けであり 遺伝子実験の専門家と共同で研究を進める体制を 持っていない この問題については 今後の課題として検討 していきたい なお提案手法を用いることで 1 章で示したマルチドメイ ンの特性以外にも 以下のような遺伝子特性も表現できると 考えられる [オーソログ遺伝子 ] 複数の生物種間で存在する遺伝子で 共通の祖先種では同一の遺伝子であり 現在の機能も同一の 遺伝子群 複数の生物種の遺伝子情報から構成される階層型 遺伝子ネットワークデータにおいて 同じクラスタに複数の 生物種の遺伝子が属する場合 その遺伝子群はオーソログ遺 図7. 注視ノードを1段階引き上げた表示画像 伝子の可能性が高いと判断できる [パラログ遺伝子 ] ある生物種に存在する 2 つの遺伝子が 祖先種では同一の遺伝子であるような遺伝子群 提案手法に よる可視化技術では エッジで連結された遺伝子を 3 次元的 に表現することから 非常に強い相互関係を持つパラログの 理解にも向いていると考えられる また 現在ノードの色を クラスタをまたぐエッジを多く 持つノードに特定する為に用いている しかしノードの色を 使用するのについては 事例ごとに指定する事も可能である 例えばオーソログ遺伝子の事例の場合 複数の生物種それぞ れに色をつける等で より特性を発見することが容易になる と考えられる 4.2.2 可視化技術に対する主観評価 続いて 提案手法による可視化技術が遺伝子ネットワーク 図 8. 左 注視ノードをひきあげてない結果画像 を効果的に可視化できているか否かについて 可視化に知識 のある被験者 11 人よりアンケートを採取することで検証し 右 注視ノードを引き上げた結果画像 た アンケートでの質問項目は 以下の 2 点である 4.2 結果画像の考察 項目 1 クラスタをまたぐエッジを多く持つ遺伝子に色をつ 4.2.1 遺伝子情報分析の観点からの考察 けた結果(図 9(左))と 色をつけない結果(図 9(右))を 我々は提案手法により得られた結果画像を 遺伝子情報分 比較し 探索対象となる遺伝子の絞り込みやすさを 析を専攻する研究者に提示し 結果画像が遺伝子ネットワー 採点する 項目 2 以下の 4 つの結果画像を比較し 注目したい任意の クを効果的に表現できているか尋ねた 4.1 節にて結果画像を示したように 提案手法ではクラスタ 遺伝子 およびその遺伝子と相関性の高い遺伝子の をまたぐエッジを多く持つ遺伝子に色をつけている 結果画 分布を理解しやすいか否かを採点する 像では この色がついた遺伝子同士が複雑に絡み合いネット どのノードも引き上げなかった結果 (図 10(左上)) ワークを構成していることが可視化できている この可視化 注目ノードだけを引き上げた結果 (図 10(右上)) 結果画像を遺伝子情報分析の研究者に提示したところ 興味 注目ノードと連結ノードを 同じ高さまで引き上げた 結果 (図 10(左下)) 深い遺伝子群の絞込みに効果的である という評価を頂いた しかし これらの遺伝子がマルチドメインなのか否かを検証 するためには 遺伝子実験にまで遡る必要があるかもしれな 112 注目ノードと連結ノードの両方を引き上げ しかも注 目ノードを連結ノードよりも高く引き上げた結果
( 図 10( 右 下 )) また 項 目 2 においては, 上 記 4つの 結 果 画 像 それぞれに 対 し, 以 下 の4つの 観 点 においてそれぞれ 評 価 して 頂 いた. 質 問 1: 注 目 ノードの 把 握 質 問 2:エッジにより 連 結 されたノードの 把 握 質 問 3: 注 目 ノードや, 連 結 されたノードの 把 握 質 問 4: 連 結 されたノードの 分 布 においての 把 握 以 上 の 計 6 画 像 について 被 験 者 から,1 から 5 までの 5 段 階 で 数 値 評 価 を 頂 いた.この 5 段 階 評 価 は,5 が 最 高 点,1 が 最 低 点 であるとする. 示 す.この 結 果 より, 遺 伝 子 を 表 現 するノードに 色 を 付 ける ことが, 探 索 対 象 とする 遺 伝 子 を 絞 り 込 む 目 的 において 有 用 であることが 検 証 された. 続 いて 項 目 2 について 検 証 する. 図 10 に 示 した 4 枚 の 可 視 化 結 果 について, 被 験 者 による 数 値 評 価 の 平 均 値 を 表 2 に 示 す. 表 1: 項 目 1 の 評 価 評 価 の 平 均 図 9( 左 ) 4.2 図 9( 右 ) 1.6 図 9. ( 左 )クラスタをまたぐエッジを 多 く 持 つ 遺 伝 子 に 色 を 付 けた 結 果.( 右 ) 色 を 付 けない 結 果. 表 2. 項 目 2 の 評 価 質 問 1 質 問 2 質 問 3 質 問 4 総 合 評 価 図 10 2.60 3.10 4.00 3.40 3.27 ( 左 上 ) 図 10 4.50 3.30 3.60 3.40 3.70 ( 右 上 ) 図 10 4.30 4.40 3.70 3.80 3.97 ( 左 下 ) 図 10 4.60 4.50 4.20 3.80 4.27 ( 右 下 ) まず 項 目 1 について 検 証 する.クラスタをまたぐエッジを 多 く 持 つ 遺 伝 子 に, 色 を 付 けた 結 果 ( 図 9( 左 ))と 付 けない 結 果 ( 図 9( 右 ))について, 被 験 者 による 数 値 評 価 の 平 均 値 を 表 1に 図 10. ( 左 上 )どのノードも 引 き 上 げなかった 結 果 ( 左 下 ) 注 視 ノードとエッジで 連 結 されているノードを, 同 じ 高 さまで 引 き 上 げた 結 果 ( 右 上 ) 注 視 ノードだけを 引 き 上 げた 結 果 ( 右 下 ) 注 視 ノードが,エッジで 連 結 されているノ ードより, 一 段 階 高 く 引 き 上 げた 結 果 表 2 に 示 す 結 果 について 考 察 する.まず 質 問 1,2 より,そ れぞれの 結 果 を 比 較 し, 注 目 ノードを 引 き 上 げることの 効 果 が 検 証 できたことがわかった. 質 問 3 において, 各 図 におい て 評 価 に 大 きく 差 はでなかった.この 問 題 に 関 しては,エッ ジを 引 いていることにより, 対 象 となるノードを 確 認 できる ことが, 理 由 と 考 えられる. 質 問 4 においては, 図 1 と 図 2, 図 3 と 図 4 が,それぞれ 同 値 となった.また 図 3 および 図 4 の 平 均 値 が, 図 1 および 図 2 に 比 べ, 高 いことより, 全 体 分 布 の 把 握 に 関 しても,ノードを 引 き 上 げることが 効 果 的 に 作 用 113
していると 考 察 できた. 最 後 に 総 合 評 価 からも,ノードを 引 き 上 げることで,また 注 目 ノードと 連 結 ノードの 引 き 上 げ 方 に 差 をつけることにより,より 効 果 的 に 提 案 手 法 の 結 果 を 示 すことができると 考 えられる.しかし, 注 目 ノードの 位 置 が 変 わったり, 連 結 ノードがより 多 くなるにつれて,この 数 値 評 価 結 果 が 変 わりうることも 想 定 される.また 現 段 階 では, 注 目 ノードと 連 結 ノードだけをエッジで 連 結 しているが, 今 後 の 課 題 として, 連 結 ノードとエッジで 結 ばれているノード 等 も 引 き 上 げることによって,さらに 遺 伝 子 分 析 に 貢 献 でき ないか 検 討 するべきと 考 えている. 4.3 既 存 の 遺 伝 子 情 報 可 視 化 ソフトウェアとの 比 較 マイクロアレイデータから 得 られる 遺 伝 子 発 現 率 情 報 の 可 視 化 ソフトウェアの 中 の 多 くは,ノード 間 の 相 互 関 係 をエッ ジで 結 ぶ 古 典 的 なネットワーク 2 次 元 可 視 化 手 法 [28]や, TreeView[5]と 呼 ばれるクラスタリング 結 果 の 可 視 化 手 法 を 搭 載 しており, 遺 伝 子 分 析 に 携 わる 多 くの 研 究 者 がこれらを 利 用 している. 以 下,これらの 手 法 に 対 する 提 案 手 法 の 優 位 性 について 論 じる. まず 前 者 の 方 法 では, 発 現 率 の 相 関 性 の 高 いノードをエッ ジで 結 んで 表 示 することから, 遺 伝 子 間 の 関 連 性 は 一 目 瞭 然 である.しかし, 一 画 面 に 表 示 するノード 数 は 数 十 ~ 数 百 程 度 にとどまっている.またクラスタリング 結 果 を 同 時 に 表 示 してはいない.それに 対 して 提 案 手 法 には, クラスタ 単 位 で, 整 然 と 構 造 化 された 形 で 遺 伝 子 群 を 表 示 する. 数 千, 数 万 といった 膨 大 な 量 の 遺 伝 子 の 分 布 の 全 貌 を, 一 画 面 に 一 括 表 示 できる. といった 点 で 利 点 があると 考 えられる. 続 いて 後 者 の TreeView は,N 個 の 遺 伝 子 に 関 する M 種 類 の 発 現 率 情 報 を,N 行 M 列 の 表 形 式 データとして 表 現 する. この 手 法 は 全 てのノードの 組 み 合 わせに 対 する 相 関 性 を 網 羅 的 に 表 現 できる 利 点 がある.しかし,その 組 み 合 わせの 多 く は 相 関 性 が 低 いものであり, 必 ずしも 画 面 空 間 を 有 効 に 利 用 した 可 視 化 結 果 を 提 示 しているとは 限 らない,という 問 題 が ある.また,クラスタを 単 位 とした 概 略 的 な 傾 向 をつかみに くい,という 問 題 もある.それに 対 して 提 案 手 法 には, 入 れ 子 構 造 による 階 層 型 データ 表 示 により, 遺 伝 子 群 を クラスタ 単 位 で 概 略 的 に 可 視 化 できる. 相 関 性 の 高 い 2 ノード 間 のみをエッジで 表 現 することに より, 相 関 性 の 高 いノードにのみ 注 視 した 可 視 化 を 実 現 できる. といった 点 で 利 点 があると 考 えられる. 5. まとめと 今 後 の 課 題 本 論 文 では, 遺 伝 子 発 現 率 情 報 に 対 してクラスタリングと ネットワーク 化 の 両 方 を 適 用 して 得 られる 階 層 型 ネットワー クデータの 可 視 化 手 法 を 提 案 した. 提 案 手 法 はネットワークとクラスタを 同 時 表 示 することに より, 遺 伝 子 学 的 に 興 味 深 いマルチドメインなどの 特 性 の 発 見 に 貢 献 できると 考 えられる.また,クラスタをまたぐエッ ジを 多 く 持 つノードに 特 定 の 色 をつけることにより, 興 味 深 い 遺 伝 子 の 早 期 発 見 に 貢 献 できると 考 えられる. 今 後 の 課 題 として, 以 下 の 点 を 議 論 したいと 考 えている. 結 果 画 像 から 発 見 された 現 象 が, 本 当 に 遺 伝 子 学 的 に 興 味 深 い 特 性 なのか 否 か, 遺 伝 子 実 験 の 専 門 家 を 交 えての 検 証. オーソログ 遺 伝 子 やパラログ 遺 伝 子 を 含 めて,より 多 く の 遺 伝 子 特 性 を 意 識 した 可 視 化 結 果 の 考 察. 複 数 の 注 目 ノードを z 軸 方 向 に 引 き 上 げた 時,あるいは 注 目 ノードだけでなく 連 結 ノードに 連 結 されたノード まで 含 めて 多 段 階 にわたってノードを 引 き 上 げた 時,の 効 果 的 なネットワークの 表 現 手 法 の 確 立. 有 向 グラフを 構 成 する 遺 伝 子 ネットワークの 可 視 化. オントロジーなどの 情 報 を 加 味 した,より 遺 伝 子 の 研 究 に 貢 献 できる 可 視 化 ソフトウェアとしての 開 発. 各 クラスタの 画 面 上 の 位 置 の 最 適 化. クラスタリングの 適 切 な 閾 値 ( 図 5 のS 1,S 2 に 相 当 する 変 数 値 )の 発 見 方 法 に 関 する 考 察. 遺 伝 子 ネットワークに 限 らず, 複 雑 ネットワーク 全 般 に 応 用 できる 階 層 型 ネットワーク 可 視 化 手 法 の 確 立,およ び 遺 伝 子 ネットワーク 以 外 の 階 層 型 ネットワークデー タでの 検 証. 謝 辞 ソフトウェア Cluster 3.0 の 開 発 者 であるコロンビア 大 学 Michael De Hoon 氏 には,クラスタリング 技 術 に 関 して 貴 重 な ご 助 言 を 賜 ったことを 感 謝 いたします. 遺 伝 子 ネットワークに 関 する 議 論 に 関 して, 東 京 大 学 宮 野 悟 教 授, 中 谷 明 弘 助 教 授, 渋 谷 哲 朗 講 師, 井 本 清 哉 助 手,お 茶 の 水 女 子 大 学 瀬 々 潤 准 教 授 から 貴 重 なご 意 見 を 賜 ったこと を 感 謝 いたします. 本 研 究 の 一 部 は, 日 本 学 術 振 興 会 科 学 研 究 費 補 助 金 の 助 成 に 関 するものです. 参 考 文 献 [1] Card s. k., Mackinlay J. D., Shneiderman B., Reading in Information Visualization: Using Vision to Think, Morgan 114
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著 者 紹 介 西 山 慧 子 2006 年 お 茶 の 水 女 子 大 学 理 学 部 情 報 科 学 科 卒 業. 現 在 お 茶 の 水 女 子 大 学 大 学 院 人 間 文 化 研 究 科 数 理 情 報 科 学 専 攻 在 学 中. 情 報 処 理 学 会 会 員. 伊 藤 貴 之 1990 年 早 稲 田 大 学 理 工 学 部 電 子 通 信 学 科 卒 業.1992 年 早 稲 田 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 電 気 工 学 専 攻 修 士 課 程 修 了. 同 年 日 本 アイ ビー エム( 株 ) 入 社.1997 年 博 士 ( 工 学 ).2000 年 米 国 カーネギーメロン 大 学 客 員 研 究 員.2003 年 から 2005 年 ま で 京 都 大 学 大 学 院 情 報 学 研 究 科 COE 研 究 員 ( 客 員 助 教 授 相 当 ). 2005 年 日 本 アイ ビー エム( 株 ) 退 職,2005 年 よりお 茶 の 水 女 子 大 学 理 学 部 情 報 科 学 科 助 教 授.ACM, IEEE Computer Society, 情 報 処 理 学 会, 芸 術 科 学 会, 画 像 電 子 学 会, 他 会 員. 116