川崎病         深沢 志保, Pharm D

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10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

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CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

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耐性菌届出基準

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資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

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胸痛の鑑別診断持続時間である程度の鑑別ができる 数秒から1 分期外収縮筋 骨格系の痛み 心因性 30 分以内 狭心症食道痙攣 逆流性食道炎 30 分以上 急性心筋梗塞 解離性大動脈瘤 肺塞栓症 急性心膜炎自然気胸 胸膜炎胃 十二指腸潰瘍 胆嚢炎 胆石症帯状疱疹 急性心筋梗塞の心電図変化 R P T

Microsoft Word - 届出基準

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狭心症と心筋梗塞 何を調べているの? どのように調べるの? 心臓の検査虚血チェック きょけつ の きょうさく狭窄のチェック 監修 : 明石嘉浩先生聖マリアンナ医科大学循環器内科

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

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プラザキサ服用上の注意 1. プラザキサは 1 日 2 回内服を守る 自分の判断で服用を中止し ないこと 2. 飲み忘れた場合は 同日中に出来るだけ早く1 回量を服用する 次の服用までに 6 時間以上あけること 3. 服用し忘れた場合でも 2 回量を一度に服用しないこと 4. 鼻血 歯肉出血 皮下出

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

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より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

くろすはーと30 tei


症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

ロミプレート 患者用冊子 特発性血小板減少性紫斑病の治療を受ける患者さんへ

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アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

日本内科学会雑誌第98巻第12号

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

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横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢


医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

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減量・コース投与期間短縮の基準

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2017 年 12 月 28 日放送 第 116 回日本皮膚科学会総会 8 教育講演 14-5 血管性浮腫の診断と治療 横浜市立大学大学院環境免疫病態皮膚科学 准教授猪又直子 はじめに血管性浮腫は 皮膚や粘膜の限局した範囲に生じる深部浮腫で 蕁麻疹の類縁疾患です 近年 国際ガイドラインが発表され メ

ヒアルロン酸ナトリウム架橋体製剤 特定使用成績調査

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報告は 523 人 (14. 5) で前週比 9 と減少した 例年同時期の定点あたり平均値 * (16. ) の約 9 割である 日南 (37. 3) 小林(26. 3) 保健所からの報告が多く 年齢別では 1 歳から 4 歳が全体 の約 4 割を占めた 発生状況 ( 宮崎県 ) 定

なくて 脳以外の場所で起きている感染が 例えばサイトカインやケモカイン 酸化ストレスなどによって間接的に脳の障害を起こすもの これにはインフルエンザ脳症やH HV-6による脳症などが含まれます 三つ目には 例えば感染の後 自己免疫によって起きてくる 感染後の自己免疫性の脳症 脳炎がありますが これは

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

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細胞内で ITPKC の発現とインターロイキン 2 の発現量 過剰だとインターロイキン 2 の発現が低下し (a) 低下させると逆に増加する (b)

インフルエンザ(成人)

「             」  説明および同意書

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

DRAFT#9 2011

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

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サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

針刺し切創発生時の対応

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3 病型別 初発再発別登録状況病型別の登録状況では 脳梗塞の診断が最も多く 2,524 件 (65.3%) 次いで脳内出血 868 件 (22.5%) くも膜下出血 275 件 (7.1%) であった 初発再発別の登録状況では 初発の診断が 2,476 件 (64.0%) 再発が 854 件 (22

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

PowerPoint プレゼンテーション

1.4 遺伝する病気ですか? リウマチ熱は親から子どもへ直接遺伝するような病気ではありません しかし 家族内でリウマチ熱にかかっている家族がいることはあります これはおそらくレンサ球菌に対する特殊な反応する因子を遺伝的に持っている可能性があると考えられています レンサ球菌感染自体は気道や唾液などから

et al No To Shinkei Clin Neurol Neurology et al J Neurosurg et al Arch Neurol et al Angiology

心房細動1章[ ].indd

第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syn

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など


STEP 1 検査値を使いこなすために 臨床検査の基礎知識 検査の目的は大きく 2 つ 基準範囲とは 95% ( 図 1) 図 1 基準範囲の考え方 2

1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

AC 療法について ( アドリアシン + エンドキサン ) おと治療のスケジュール ( 副作用の状況を考慮して 抗がん剤の影響が強く残っていると考えられる場合は 次回の治療開始を延期することがあります ) 作用めやすの時間 イメンドカプセル アロキシ注 1 日目は 抗がん剤の投与開始 60~90 分

とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白

D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

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健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

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ステロイド療法薬物療法としてはステロイド薬の全身療法が基本になります 発症早期すなわち発症後 7 日前後までに開始することが治療効果 副作用抑制の観点から望ましいと考えられす 表皮剥離が全身に及んだ段階でのステロイド薬開始は敗血症等感染症を引き起こす可能性が高まります プレドニゾロンまたはベタメタゾ

スライド 1

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<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

301128_課_薬生薬審発1128第1号_ニボルマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインの一部改正について

188-189

循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 1

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Transcription:

深沢志保, Pharm.D. 学習目的 1. 川崎病の診断基準を理解する 2. 心臓血管の合併症 (cardiac complication) を理解する 3. 基本治療 治療薬について理解する 川崎病は 皮膚粘膜リンパ節症候群 (mucocutaneous lymph node syndrome) としても知られる動脈の血管炎であり 小児期におこる後天性の心疾患の中では 2 番目に多い疾患である 川崎病の病因はまだ良く分かっていないが 季節性 地域社会内での流行 発症年齢などから ウィルス 細菌 リッケッチアなどの感染症との関連が有力である また アジア人の遺伝子をもつ小児に多く発症する傾向があるため 遺伝的素因の関連も示唆される 米国では 5 歳未満の小児 100,000 人に対する発症率が約 10-15 例 日本では約 115 例である 患者の約 80% は 5 歳未満で 男女の比はおよそ 1.5 : 1 年間を通じて発症するが 1 月 6-7 月に多く発症すると報告されている 無治療の患者のおよそ20% は心臓血管系への合併症を発現する 診断 典型的 (classical) 川崎病の診断基準川崎病特有の臨床検査はないため 診断には臨床基準 識別診断が用いられる 川崎病の診断基準 1. 5 日間以上続く発熱 ( 通常 39 以上 ) 2. 以下の 5 つの基準のうち 4つが認められる a. 両眼眼球結膜の充血 ( 光恐怖症や眼痛などは見られない ) b. 口腔粘膜の変化 i. 唇の亀裂 または充血 ii. 咽頭の充血 iii. 赤イチゴ舌 ( 舌がイチゴのように赤い ) c. 四肢抹消の変化 i. 手掌 または足底の紅班 ii. 手足の浮腫 iii. 爪周辺 手掌 足底などの落屑 ( 通常発症から2-3 週間後に発現する ) d. 多型性体幹発疹 ( 紅班 丘疹 水疱は見られない )

e. 頚部リンパ節の肥大 ( 少なくとも 1 つ以上のリンパ節の直径が 1.5cm 以上 ) その他の臨床所見 1. 心臓症状 a. 急性期 : 心膜炎 心筋炎 心内膜炎 弁の損傷 冠動脈の異常 b. 亜急性期 : 動脈瘤の形成及び血栓症 冠 脳内 腸管膜 および抹消動脈の裂傷 c. 回復期 : 動脈瘤血栓症 動脈瘤前後の血管狭窄から起こる梗塞 2. 心臓以外の症状 a. 関節炎又は関節痛 i. 発症から約 1 週間後に発現 : 多発性 ii. 発症から10 日以降に発現 : 主に大関節 b. 胃腸症状 : 下痢 嘔吐 腹痛 肝炎 胆嚢水症 c. 中枢神経症状 : 過敏症 無菌性髄膜炎 感音難聴 d. 泌尿器症状 : 尿道炎 e. その他 :BCG ワクチン接種跡の紅班 硬化 前部ブドウ膜炎臨床検査 1. 白血球増加 ( 好中球 幼若細胞の著名な増加 <left shift>) 2. 赤沈の高値 (>40 mm/hr 100mm/hr 以上の高値も見られる ) 3. C 反応たんぱく質の高値 (>3mg/dL) 4. 貧血 ( 正色素性 正球性 ) 5. 血漿脂質の異常 6. 低蛋白血症 7. 低ナトリウム血症 8. 血小板増加 (1 週間後 )(450,000/uL 以上 ) 9. 無菌性膿尿 10. 肝酵素の高値 11. ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ (GGT) の高値 12. 髄脊髄液細胞増加 13. 髄液白血球増加心電図 心エコー動脈瘤は 発症から 10 日間は通常発現しないが 重症の場合 初期に冠動脈の異常が現れる場合があるため 川崎病が疑われる患者には心エコー検査を実施するべきである 診断時 病気の発症から 2 週間 病気の発症から 6 週間

病気の発症から 6 ヶ月 小児科循環器専門医の判断により病気の発症から 12 ヶ月および 12 ヶ月以上 不完全 ( 非典型的 ) 川崎病 (incomplete/atypical Kawasaki disease) 不完全川崎病は典型的川崎病診断基準には満たさないが 少なくとも4つの基準を満たしている患者を指している 1 歳未満の乳児に多く見られ 無治療の場合の冠動脈瘤形成の危険性が非常に高くなる 患者が 6 ヶ月未満で 他に発熱の原因が無い場合 心エコー検査の実施が必要である 識別診断 (differential diagnosis) 川崎病の症状は トキシックショック症候群 ロッキー山熱 猩紅熱 細菌性頚部腺炎など多数の感染症と症状が類似しているので 川崎病と診断する前にこれらの疾患を除外する必要がある 猩紅熱 ブドウ球菌性熱傷性皮膚症候群 細菌性頚部リンパ節炎 薬剤過敏症 ウィルス感染症 スティーブンズジョンソン症候群 若年性関節炎 ロッキー山熱 レプトスピラ症 水銀過敏症 治療 無治療の場合 約 15~20% の患者は冠動脈瘤が発現する 幸いにも迅速な治療により冠動脈異常の発生率を 5% に 巨大冠動脈瘤の発生率を 1% まで軽減することができる 薬物治療 ( 米国 ) 高用量免疫グロブリン静注 (IVIG) 1 回用量 2g/kg 12 時間投与 発症から 10 日以内の投与が望ましい 投与後 36~48 時間経っても発熱が持続する場合 用量 2g/kg の反復投与が必要となる

高用量アスピリン 一回用量 20~25mg/kg 経口 1 日 4 回 高用量免疫グロブリン静注と併用する 高用量アスピリンは抗炎症作用 低用量アスピリン 3~5 mg/kg 経口 1 日 1 回 無熱が 48~72 時間持続している場合 または 発症から 14 日間経ち無熱が最低でも 48 ~72 時間持続している場合 高用量から低用量に減量する 低用量は抗血小板作用 通常 発症後 6~8 週間投与を継続する 冠動脈の異常がなく炎症の徴候が見られない場合 ( 特に CRP の低下 ) アスピリン投与を中止する 冠動脈瘤の形成が見られる場合は無期限で継続される イブプロフェンはアスピリンと相互作用があるため 投与を避ける インフルエンザや水痘の流行時の高用量アスピリンの投与は ライ症候群の危険性がある 低用量の場合でも ライ症候群の危険性はわずかではあるが存在する そのため長期間アスピリン投与を受けている小児は年 1 回のインフルエンザワクチンを接種が必要である ステロイド CRP の高値が続く場合 もしくはIVIGの反復投与後 48 時間経過しても発熱が続く場合のみ投与 プレドニゾン 2mg/kg/day 5 日間投与 ラニチジン 高用量アスピリン投与時に胃腸保護のために併用 ワルファリン 巨大冠動脈瘤の形成された患者 ( 心エコーで内径 8mm 以上 ) は 血栓症の予防のためアスピリンと併用 継続管理 (long-term management) 心エコーで冠動脈の異常が見られなかった患者は 心臓血管系の合併症もなく完全に回復する傾向にあるが その後の研究により 血管内皮の機能障害や脂質異常が継続することが明らかになっている 川崎病により発現した冠動脈瘤の約 1/2 は 1~2 年で退縮するが 巨大冠動脈瘤が形成された患者には時間の経過とともに冠動脈狭窄が起こる 血栓による心筋梗塞は死亡の

主な原因でり 主に病気発症後から1 年以内に起こる そのため冠動脈の異常が見られる患者には 継続的な心エコー検査と負荷試験を実施し 必要であれば冠動脈造影を実施する 現行の AHA(American Heart Association) ガイドラインでは 患者を心筋梗塞のリスクの度合いにより分類し それぞれのリスクレベルに合った治療ガイドラインを提供している リスクレベルI 心エコー検査において 正常な冠動脈 抗凝固治療は発症後 6~8 週間 身体的な活動制限はない 5 年毎に心血管系リスクアセスメント カウンセリングを行う リスクレベル II 冠動脈の拡張が見られるが 発症後 8 週間以内に回復 抗凝固治療はリスクレベル I の場合と同様 心血管系リスクアセスメント カウンセリングは 3~5 年毎 リスクレベル III 小または中冠動脈瘤 (3~6mm) の発現 動脈瘤の退縮が見られるまで低用量アスピリン投与の継続 10 歳までは身体的活動制限はないが 11 歳以上は 2 年毎に負荷試験を実施 抗凝固治療中は 高衝撃性のスポーツなどは避ける 年 1 回 小児循環器専門医による心エコー 心電図検査の実施 心血管系リスクアセスメント カウンセリングも毎年行う リスクレベル IV 1つ以上の大または巨大冠動脈瘤 (>6mm) の発現 閉塞はないが1つの冠動脈に動脈瘤が多発 低用量アスピリンの長期投与 巨大冠動脈瘤が見られる患者にはワルファリン (INR 2.0 2.5) または 低分子量ヘパリン(antifactor Xa 0.5~1.0 U/mL) の併用 高衝撃性のスポーツは避ける その他の活動は 毎年実施される負荷試験の結果により制限される 心エコー 心電図の実施を年 2 回 負荷試験の実施を年 1 回 発症から 6~12 ヶ月以内に冠動脈造影の実施 リスクレベル V 冠動脈瘤と冠動脈の閉塞

低用量アスピリンの長期投与 巨大冠動脈瘤が見られる患者にはワルファリン または 低分子量ヘパリンの併用 心筋負荷の軽減のため β 受容体遮断薬の追加 高衝撃性のスポーツは避ける その他の活動は 毎年実施される負荷試験の結果により制限される 心エコー 心電図の実施を年 2 回 負荷試験の実施を年 1 回 冠動脈造影は血栓溶解療法やカテーテル治療の評価 または冠動脈バイパス手術のアセスメントに有用 参考文献 Brogan PA et al. Kawasaki disease: and evidence based approach to diagnosis, treatment, and proposals for future research. Arch dis Child 2002; 86: 256-292. Burns JC et al. Intravenous gamma-globulin treatment and retreatment in Kawasaki disease. US/Canadian Kawasaki Syndrome Study Group. Pediatr Infect Dis J 1998; 17: 1144-8. Freeman AF, Shulman ST. Kawasaki Disease: Summary of the American Heart Association Guidelines. Am Fam Physician. 2006; 74:1141-8. Kato H. Cardiovascular complications in Kawasaki disease: coronary artery lumen and long-term concequences. IProgress pediatr Crdiol 2004; 19: 137-45. Newburger JW et al. Diagnosis, treatment, and long-term management of Kawasaki disease: a statement for health professionals from the Committee on Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawaski Disease, Council on Cardiocascular Disease in the Young, American Heart Association. Pediatrics 2004; 114: 1708-33. Pahl E. Kawasaki disease: cardiac sequelae and management. Pediatric Annals 1997; 26: 1125-115. Satou GM et al. Kawasaki disease : diagnosis, management, and long -term implications. Cardiol Rev 2007; 15:163. Seattle Children s Hospital Kawasaki Disease Guideline of care. 2003.