研 究 総 括 長 谷 部 光 泰 ( 自 然 科 学 研 究 機 構 基 礎 生 物 学 研 究 所 / 教 授 ) 評 価 委 員 (あいうえお 順 ) 篠 崎 一 雄 ( 理 化 学 研 究 所 植 物 科 学 研 究 センター/センター 長 ) 田 坂 昌 生 ( 委 員 長 ; 奈 良 先 端 科 学 技 術 大 学 院 大 学 バイオサイエンス 研 究 科 / 教 授 ) 中 村 研 三 ( 名 古 屋 大 学 大 学 院 生 命 農 学 研 究 科 / 教 授 ) 西 村 いくこ( 京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 / 教 授 ) 評 価 の 概 要 ERATO 長 谷 部 分 化 全 能 性 進 化 プロジェクトは 植 物 が 有 する 高 いリプログラミング 能 の 根 源 を 探 求 することを 目 的 に 基 礎 生 物 学 研 究 所 長 谷 部 教 授 を 研 究 総 括 として 2005 年 9 月 に 発 足 した 本 プロジェクトはヒメツリガネゴケでみられる 切 断 による 茎 葉 体 細 胞 からの 幹 細 胞 の 分 化 に 着 目 したユニークな 研 究 テーマであり プロジェクト 研 究 の 前 半 でヒメツリガネゴケの 全 ゲノムの 決 定 とこの 植 物 を 用 いた 分 子 遺 伝 学 的 テクニックの 確 立 をおこなった その 過 程 で 積 極 的 かつ 迅 速 に 次 世 代 シークエンサーなどの 最 先 端 の 技 術 を 取 り 込 み この 生 物 材 料 で 利 用 できる 高 度 の 分 子 生 物 学 的 な 実 験 手 法 解 析 系 を 短 期 間 で 一 挙 に 確 立 した これは 本 プ ロジェクトの 大 きな 成 果 の 一 つであり ヒメツリガネゴケがモデル 植 物 の 一 つとして 確 固 た る 地 位 を 築 くことに 繋 がった 本 プロジェクトの 基 盤 技 術 は 広 く 公 開 提 供 され この 分 野 の 発 展 に 大 きく 貢 献 している そして 本 プロジェクトチームは 国 際 的 にも 研 究 コミュニテ ィーをリードする 研 究 グループとして 高 く 評 価 されている さらに 基 盤 技 術 の 開 発 を 迅 速 に 進 めつつ 次 々に 確 立 した 研 究 手 法 を 用 いて 多 能 性 幹 細 胞 分 化 のメカニズムの 解 明 に 向 け た 基 礎 的 データの 収 集 を 行 い 研 究 の 初 期 から 重 要 な 現 象 や 因 子 を 次 々と 見 いだしていった そして 研 究 の 中 盤 から 後 半 にかけて 多 能 性 幹 細 胞 分 化 に 関 連 する 分 子 過 程 を 加 速 度 的 かつ 多 面 的 に 解 析 し 遺 伝 子 ネットワークにおけるインテグレーター 候 補 の 発 見 など 当 初 予 想 も されなかったような 重 要 な 発 見 を 含 めてヒメツリガネゴケの 分 化 全 能 性 にかかる 多 くの 知 見 が 得 られている なお プロジェクトに 集 結 した 若 手 研 究 者 は 長 谷 部 研 究 総 括 の 高 い 指 導 力 とリーダー シップのもと 最 先 端 の 技 術 を 持 った 次 世 代 を 担 う 人 材 として 成 長 しており 人 材 育 成 とい う 面 からも 本 プロジェクトは 大 きく 貢 献 したといえる これらのことから 本 プロジェクトでは 戦 略 目 標 代 謝 調 節 機 構 解 析 に 基 づく 細 胞 機 能 制 御 に 関 する 基 盤 技 術 の 創 出 に 資 する 成 果 が 得 られたと 評 価 される - 1 -
1. 研 究 プロジェクトの 設 定 および 運 営 1-1.プロジェクトの 全 体 構 想 多 細 胞 生 物 の 分 化 した 細 胞 が リプログラミングにより 再 び 多 分 化 能 を 獲 得 するメカニ ズムの 解 明 は 生 命 科 学 の 重 要 課 題 の1つであり 再 生 医 療 や 農 産 物 の 育 種 などへの 応 用 の 面 からも 研 究 の 進 展 が 期 待 されている 中 でも 植 物 細 胞 が 示 す 分 化 全 能 性 は 古 くから 注 目 さ れており 様 々な 植 物 種 を 使 ってその 分 子 機 構 について 多 くの 研 究 が 進 められてきた しか し 決 定 的 な 進 展 は 得 られていないのが 現 状 であった 本 プロジェクトは 基 礎 生 物 学 研 究 所 の 長 谷 部 光 泰 教 授 を 研 究 総 括 としてそのリーダーシ ップの 下 に ヒメツリガネゴケが 示 す 高 いリプログラミング 能 に 着 目 しこの 命 題 を 解 明 すべ く 植 物 生 理 学 分 子 生 理 学 バイオインフォマティクスなど 出 身 分 野 の 異 なる 優 秀 な 若 手 研 究 者 が 集 められて 分 野 融 合 的 な 研 究 体 制 が 構 築 された 本 研 究 において 傷 害 により 高 効 率 に 多 能 性 幹 細 胞 化 するヒメツリガネゴケをモデルとして (1)リプログラミング 研 究 の 対 象 として 極 めて 有 利 かつオリジナルな 実 験 系 が 確 立 されたと 同 時 に (2) 長 谷 部 研 究 総 括 を 含 む 国 際 チームにより 達 成 された 全 ゲノム 解 読 情 報 に 加 えて バイオイメージング 逆 遺 伝 学 バイオインフォマティクス オミクスなど 最 新 の 解 析 法 を 導 入 し これらを 効 果 的 に 組 合 せることにより 多 能 性 幹 細 胞 化 の 分 子 機 構 の 解 明 を 目 指 した 新 規 性 の 高 い 先 導 的 な 研 究 が 行 なわれ 多 くの 重 要 な 知 見 が 得 られた さらに (3) 植 物 の 進 化 の 過 程 で 要 となるコ ケ 植 物 であるヒメツリガネゴケで 得 られた 知 見 を 基 に 他 の 高 等 植 物 や 動 物 と 比 較 すること でリプログラミングの 進 化 的 側 面 までも 明 らかになる 従 来 にない 新 しい 展 開 が 期 待 できる 意 欲 的 な 研 究 内 容 となったと 総 括 できる これらの 成 果 から 本 研 究 領 域 が 戦 略 目 標 代 謝 調 節 機 構 解 析 に 基 づく 細 胞 機 能 制 御 に 関 する 基 盤 技 術 の 創 出 に 資 するプロジェクトであった といえる 1-2.プロジェクトの 枠 組 みや 研 究 体 制 および 研 究 活 動 の 状 況 本 プロジェクトは バイオイメージンググループ 逆 遺 伝 学 グループ インフォマ ティクス 進 化 グループ オミクスグループ という 研 究 手 法 を 基 にした4つのグループ から 構 成 され それぞれのグループが 得 意 とする 切 り 口 で 実 験 系 の 確 立 外 部 刺 激 の 影 響 細 胞 内 環 境 変 化 細 胞 周 期 との 関 連 の 全 ての 研 究 項 目 に 取 り 組 んだ 本 プロジェ クトの 進 行 過 程 で 基 礎 生 物 学 研 究 所 内 の ERATO 研 究 実 施 場 所 に 設 置 された バイオイメ ージング 逆 遺 伝 学 および オミクス の3グループと 金 沢 大 学 に 設 置 された イン フォマティクス 進 化 グループ は 密 な 連 携 を 図 りながら 研 究 を 推 進 し 長 谷 部 総 括 のリー ダーシップのもとウェットの 実 験 科 学 者 と 情 報 系 の 研 究 者 が 一 体 となった 領 域 融 合 的 な 研 究 体 制 が 構 築 された プロジェクトの 初 期 には 視 点 や 手 法 の 異 なる4つの 若 手 研 究 者 グループは 独 自 性 を 存 分 に 発 揮 して 迅 速 な 研 究 基 盤 の 整 備 を 成 し 遂 げた そしてプロジェクト 研 究 の 期 間 を 通 じて 各 グループは 常 に 密 接 なコミュニケーションのもと 研 究 を 進 め 研 究 の 展 開 に 従 ってグルー プが 柔 軟 に 連 携 融 合 することで 強 力 に 研 究 全 体 が 統 一 的 に 運 営 され 多 くの 独 創 的 な 研 究 成 果 が 創 出 された - 2 -
本 プロジェクトで 導 入 改 良 された 解 析 技 術 の 多 くは 汎 用 性 が 高 いものであり これら の 技 術 を 確 立 すると 同 時 に 素 早 く Web や 技 術 指 導 を 通 じて 国 内 外 に 積 極 的 に 広 めた この 取 り 組 みは 植 物 科 学 の 幅 広 い 領 域 を 発 展 させる 重 要 な 活 動 であり 評 価 委 員 一 同 敬 意 を 表 したい とりわけ プロジェクト 研 究 に 次 世 代 シークエンサーをいち 早 く 導 入 し データ 解 析 に 関 連 したインフォマティクスも 含 めてその 機 能 を 最 大 限 引 き 出 す 研 究 手 法 の 開 発 に 成 功 した 点 は 大 きな 成 果 のひとつであり 植 物 分 野 のみならず 我 が 国 でのバイオインフォマテ ィクス 分 野 の 基 盤 整 備 と 人 材 育 成 に 対 する 本 プロジェクトの 寄 与 は 大 きいと 認 められる これらの 結 果 として ヒメツリガネゴケが 様 々の 最 先 端 技 術 解 析 手 法 を 使 える 優 れた モデル 植 物 として 国 際 的 にも 認 知 され 本 プロジェクトが 世 界 のヒメツリガネゴケ 研 究 コミ ュニティーを 最 先 端 でリードしていく 研 究 グループとして 高 く 評 価 されている 研 究 プロジェクトの 設 定 および 運 営 a( 的 確 かつ 効 果 的 であった) 研 究 活 動 の 状 況 a( 良 好 な 研 究 活 動 展 開 を 示 した) 2. 研 究 成 果 本 プロジェクトでは 葉 細 胞 多 能 性 幹 細 胞 化 の 分 子 機 構 を 解 明 するために 実 験 系 (2-1) 外 部 刺 激 (2-2) 細 胞 内 環 境 変 化 (2-3) 細 胞 周 期 (2-4)の 全 ての 研 究 項 目 に バイオイメージンググループ 逆 遺 伝 学 グループ インフォマティクス 進 化 グループ オミクスグループの4グループがそれぞれ 得 意 とする 切 り 口 で 取 り 組 み 常 に 綿 密 な 連 携 のもと 研 究 を 共 同 で 推 進 した ここでは 研 究 項 目 ごとに 研 究 成 果 を 概 観 し 評 価 を 述 べることとする 2-1.ヒメツリガネゴケ 実 験 系 の 洗 練 開 発 本 テーマで 高 いリプログラミング 能 を 有 する 理 想 的 な 研 究 材 料 としてヒメツリガネゴケ を 取 り 上 げ この 植 物 がモデル 植 物 として 世 界 的 に 認 知 されリプログラミングだけでなく 種 々の 研 究 に 使 用 されるために 必 要 な 一 連 の 実 験 系 の 開 発 を 行 った 最 初 の3 年 ほどで ハ イスループットな 観 察 系 の 確 立 全 ゲノム 配 列 の 決 定 及 びゲノム 情 報 の 整 備 幾 つかの 順 遺 伝 学 的 解 析 法 の 確 立 多 量 の 遺 伝 子 の 網 羅 的 な 解 析 法 の 確 立 逆 遺 伝 学 的 な 手 法 の 確 立 並 びに 遺 伝 子 ネットワーク 解 析 法 の 確 立 など 現 在 の 分 子 生 物 学 的 な 研 究 に 必 須 の 主 要 な 実 験 系 と 解 析 技 術 をヒメツリガネゴケで 確 立 した プロジェクト 期 間 前 半 でこれら 一 連 の 実 験 系 の 迅 速 な 立 ち 上 げに 成 功 したことの 意 義 は 大 きく 後 半 での 研 究 の 爆 発 的 な 発 展 に 効 率 的 に 繋 がった 特 に 次 世 代 シークエンサーの 導 入 による 遺 伝 子 の 網 羅 的 解 析 手 法 およびハイ スループットで 多 検 体 を 長 時 間 自 動 継 続 顕 微 観 察 できるシステムの 構 築 に 成 功 した 事 により 葉 細 胞 の 幹 細 胞 化 を 一 細 胞 レベルで 多 量 に 解 析 できる 系 が 開 発 出 来 た 事 は 大 きなブレークス ルーである 本 プロジェクトによって ヒメツリガネゴケを 対 象 とした 最 先 端 の 研 究 基 盤 が 整 備 され 世 界 水 準 の 技 術 を 持 つ 人 材 も 育 成 されていることから 当 初 目 標 である 植 物 分 化 全 能 性 研 - 3 -
究 にかつてない 斬 新 な 成 果 が 期 待 できる 新 しい 研 究 基 盤 の 確 立 は 充 分 に 達 成 されたと 考 え られる 加 えて これらの 技 術 や 成 果 を 世 界 へ 惜 しみなく 公 開 提 供 する 事 で 当 該 分 野 に おける 日 本 のリーダーシップを 向 上 させ 世 界 的 な 研 究 の 発 展 に 大 きく 貢 献 している 2-2. 多 能 性 幹 細 胞 化 に 必 要 な 外 部 刺 激 の 解 明 本 テーマでは ヒメツリガネゴケの 葉 細 胞 の 幹 細 胞 化 過 程 において 必 要 となる 細 胞 外 か らの 刺 激 とその 受 容 ならびに 信 号 伝 達 経 路 を 明 らかにすることを 目 指 し イメージングやオ ミクス 解 析 を 用 いた 生 理 学 的 分 子 生 物 学 的 な 解 析 から 茎 葉 体 の 葉 細 胞 の 幹 細 胞 化 には 切 断 刺 激 と 光 シグナルの 両 方 が 重 要 であることを 明 らかにした そして 切 断 に 伴 うジャスモ ン 酸 信 号 伝 達 系 赤 色 並 びに 青 色 光 の 受 容 からの 信 号 伝 達 系 が 葉 細 胞 の 多 能 性 幹 細 胞 化 の 初 期 で 働 くことを 示 したのは 重 要 な 成 果 の 一 つである また 次 世 代 シークエンサーを 用 いた Chip シークエンス 解 析 により 主 要 な 転 写 ネットワーク 系 の 解 析 が 進 み 外 部 刺 激 によるリプ ログラミング 誘 導 の 分 子 機 構 について 新 たな 知 見 が 得 られた 点 は 高 く 評 価 できる 特 に 傷 害 応 答 に 伴 う 信 号 伝 達 系 と 光 シグナルからの 信 号 伝 達 系 の 両 者 を 結 ぶ 鍵 となる 転 写 因 子 SBP (SQUAMOSA promoter binding protein-box 遺 伝 子 )の 発 見 は 非 常 に 興 味 深 く 重 要 な 成 果 の 一 つと 言 える 今 後 のさらなる 研 究 により SBP の 機 能 を 明 らかにするとともに ネットワ ークを 構 成 する 他 の 制 御 因 子 の 発 見 とネットワークの 全 体 像 の 解 明 が 待 たれる 1 葉 細 胞 がそれ 単 独 で 幹 細 胞 へとリプログラミングされること および 幹 細 胞 化 した 細 胞 は 周 辺 の 葉 細 胞 の 幹 細 胞 化 を 抑 制 している 可 能 性 が 高 いことを 明 らかにした これらの 重 要 な 知 見 は 1 細 胞 を 追 跡 することが 可 能 なヒメツリガネゴケ 実 験 系 でこそなしえたユニー クな 研 究 成 果 である 1 細 胞 系 での 遺 伝 子 発 現 解 析 やプロテオーム 解 析 阻 害 物 質 の 生 化 学 的 探 索 などの 今 後 の 研 究 の 進 展 により その 分 子 的 実 態 の 解 明 が 期 待 される 2-3. 多 能 性 幹 細 胞 化 時 におこる 細 胞 内 環 境 変 化 の 解 明 本 テーマでは 幹 細 胞 化 時 に 機 能 する 遺 伝 子 ネットワークを 主 として 明 らかにすること を 目 指 した 葉 細 胞 から 細 胞 分 裂 を 伴 わず 幹 細 胞 が 分 化 する 過 程 は 比 較 的 単 純 で 短 い 時 間 内 に 起 こる 現 象 であるにも 関 わらず 従 来 ほとんど 解 析 が 進 んでおらずそこで 機 能 する 遺 伝 子 ネットワークに 関 しては 全 く 未 解 明 であった そこで 次 世 代 シークエンサーや 分 子 遺 伝 学 的 手 法 バイオインフォマティクスと 細 胞 生 物 学 的 手 法 を 組 み 合 わせてここに 踏 み 込 み 非 常 にオリジナリティーの 高 い 研 究 が 推 進 された まず 次 世 代 シークエンサーを 使 って 現 象 全 体 の 経 時 的 な 全 体 像 の 網 羅 的 把 握 を 行 い それによって 多 能 性 幹 細 胞 分 化 に 関 連 した 転 写 発 現 ネットワークの 概 要 を 捉 え 特 にその 中 でも 転 写 因 子 間 のネットワークを 重 点 的 に 解 析 した そして ここで 明 らかにされた 転 写 因 子 ネットワークと 傷 害 応 答 や 光 シグナル 等 の 下 流 で 働 く 遺 伝 子 群 の 相 関 を 有 機 的 に 結 びつけ る 試 みを 行 った これらの 解 析 の 過 程 で 適 宜 Chip シークエンス 解 析 small RNA 解 析 ヒ ストン 制 御 などエピゲノム 解 析 の 手 法 を 取 り 入 れて リプログラミングに 関 わる 因 子 を 総 合 的 に 解 析 した これにより 幹 細 胞 化 に 関 連 したバイバレントヒストンマーク 形 成 の 分 子 機 構 Cold Shock Domain Proteins による mrna 安 定 化 モデルなど 期 待 通 りに 多 くの 斬 新 な - 4 -
研 究 成 果 が 得 られている こうした 成 果 の 多 くは 幹 細 胞 化 の 分 子 機 構 に 止 まらず 基 礎 的 な 遺 伝 子 発 現 の 制 御 機 構 という 視 点 からもユニークで 重 要 な 成 果 である さらに 植 物 ホル モンの 関 与 に 関 してオーキシンの 役 割 を 明 確 に 示 し さらに 幹 細 胞 化 のインテグレーター 候 補 としての PpAP2/ERF2 を 発 見 し これを 単 独 で 発 現 誘 導 するだけで 幹 細 胞 化 が 引 き 起 こさ れることを 示 した これらの 点 は ネットワークの 全 体 像 を 理 解 する 上 で 特 筆 に 値 する 多 くの 解 析 技 術 を 駆 使 して 多 面 的 かつ 総 合 的 に 解 析 を 進 める 事 で 得 られた 研 究 成 果 は 将 来 リプログラミングのメカニズムの 全 貌 を 解 明 するための 優 れた 基 盤 的 データとなり 得 る と 考 えられる また 次 世 代 シークエンサー 解 析 に 利 用 されたバイオインフォマティックス のレベルは 高 く 本 プロジェクトの 大 きな 特 徴 となっている 現 時 点 で 個 々の 解 析 結 果 の 中 には 各 論 でとどまっているものもあるが 引 き 続 き 系 統 的 な 解 析 を 進 めることでこれらの 成 果 の 現 象 全 体 の 中 での 位 置 づけも 明 らかにされてくると 期 待 でき それによって 多 能 性 幹 細 胞 分 化 の 全 体 像 が 明 らかになる 可 能 性 が 高 い 2-4. 多 能 性 幹 細 胞 化 による 細 胞 周 期 の 再 開 機 構 の 解 明 細 胞 分 裂 を 止 めた 葉 細 胞 は 細 胞 周 期 を 停 止 していると 考 えられる この 細 胞 から 多 能 性 細 胞 が 分 化 する 過 程 で 細 胞 の 分 裂 は 見 られない しかし 生 じた 多 能 性 幹 細 胞 はすぐに 細 胞 分 裂 を 行 うので 分 化 に 伴 って 細 胞 周 期 が 再 開 して 分 裂 を 始 める 様 に 変 化 したと 考 えられる そのため 細 胞 分 裂 の 再 開 が 幹 細 胞 化 の 最 終 段 階 に 位 置 する 重 要 なイベントの 一 つであり これを 幹 細 胞 化 のひとつの 指 標 として 捉 える 事 が 出 来 る 本 研 究 テーマでは 幹 細 胞 化 にと もなう 細 胞 周 期 の 再 開 に 焦 点 をあて その 分 子 機 構 を 明 らかにすることを 目 指 した 本 プロジェクトで 新 たに 開 発 した 逆 遺 伝 学 イメージングの 技 術 をもとに 研 究 を 進 め まず 茎 葉 体 の 葉 細 胞 が 2C の 核 相 であることを 明 らかにし 幹 細 胞 化 時 に 見 られるユニーク な 細 胞 周 期 制 御 と DNA 合 成 を 発 見 し 幹 細 胞 化 には 細 胞 周 期 制 御 因 子 CDKA と 転 写 因 子 E2F が 重 要 な 役 割 を 担 うことを 明 らかにするなど 興 味 深 い 成 果 が 得 られている もっとも 本 研 究 テーマは 端 緒 に 付 いたところであり 今 後 の 方 向 性 が 示 された 段 階 で あるとも 言 える 今 後 この 研 究 を 押 し 進 める 事 で ヒメツリガネゴケの 葉 細 胞 から 幹 細 胞 が 生 じる 過 程 の 制 御 ネットワーク 全 体 の 中 での 細 胞 周 期 制 御 の 役 割 が 明 らかになると 共 に 他 種 生 物 におけるリプログラミング 機 構 にしめる 細 胞 周 期 の 役 割 と 比 較 することで 幹 細 胞 化 能 の 生 物 種 ごとの 違 いや 進 化 的 側 面 を 解 析 する 重 要 な 知 見 が 得 られるものと 期 待 される 本 プロジェクトにおいて ゲノム 情 報 整 備 と 多 くの 基 盤 技 術 の 整 備 により ヒメツリガ ネゴケをモデル 植 物 とすることに 成 功 した 意 義 は 大 きい また ゲノム 解 読 から 次 世 代 シー ケンサなどを 使 った 迅 速 なゲノムワイドでの 解 析 に 進 んだ 生 物 学 全 般 においてポストゲノ ム 解 析 の 新 しいハード 面 の 開 発 やバイオインフォマティックス 分 野 の 人 材 育 成 が 急 務 とされ ているが 本 プロジェクトはまさにこの 面 で 時 代 を 先 取 りしたモデルケースとして 研 究 開 発 を 行 い その 過 程 で 多 くと 成 果 と 優 秀 な 人 材 を 輩 出 しており 我 が 国 の 植 物 科 学 の 発 展 に 多 大 の 貢 献 をした ヒメツリガネゴケはシロイヌナズナにない 様 々な 特 徴 を 備 えることから 分 化 全 能 性 研 究 のみならず 植 物 の 発 生 分 化 細 胞 分 裂 植 物 ホルモン 代 謝 遺 伝 子 発 現 制 御 など 様 々 - 5 -
な 分 野 の 研 究 にも 貢 献 するよう 一 層 の 努 力 を 期 待 したい 今 まさに 解 析 の 端 緒 に 着 いたと 言 える 新 知 見 も 多 く 今 後 の 更 なる 研 究 の 進 展 が 待 たれる 研 究 成 果 ( 科 学 技 術 的 側 面 ) a( 成 果 として 良 好 である) 研 究 成 果 ( 産 業 社 会 的 側 面 ) a( 成 果 として 良 好 である) 3. 総 合 所 見 本 プロジェクトはヒメツリガネゴケを 材 料 に 傷 害 によって 多 能 性 幹 細 胞 を 誘 導 する 実 験 系 を 用 いて 幹 細 胞 分 化 の 分 子 過 程 を 解 析 し 植 物 の 有 する 高 いリプログラミング 能 の 原 因 の 解 明 を 目 指 して 研 究 を 推 進 した プロジェクト 発 足 から3 年 半 のうちにヒメツリガネゴケをモデル 植 物 として 研 究 するた めの 基 盤 技 術 の 確 立 をほぼ 終 了 させたことは 予 想 以 上 の 進 捗 であり 後 半 の 加 速 度 的 な 研 究 の 進 展 にも 繋 がるものであった 中 でも 次 世 代 シークエンサーの 導 入 と 解 析 法 の 開 発 は 先 駆 的 な 技 術 導 入 であり 転 写 ネットワークの 解 析 が 飛 躍 的 に 進 む 事 で 多 能 性 幹 細 胞 化 のメカ ニズム 解 明 のための 基 幹 がしっかりと 定 められ それを 中 心 に 多 くの 重 要 な 結 果 が 生 み 出 さ れた そして 本 プロジェクトで 創 出 された 基 盤 技 術 は 研 究 者 に 広 く 公 開 提 供 されており ヒメツリガネゴケ 研 究 コミュニティーをリードするグループとして 国 際 的 にも 高 く 評 価 され ていると 同 時 に 最 先 端 の 技 術 を 持 った 次 世 代 を 担 う 人 材 の 育 成 にも 成 功 した ヒメツリガネゴケを 用 いた 系 統 的 かつ 網 羅 的 な 解 析 により リプログラミング 制 御 に 関 わる 多 くの 候 補 因 子 が 同 定 された そして その 中 でも 幾 つかの 特 に 重 要 な 因 子 が 決 められ ると 共 に それらを 中 心 とした 遺 伝 子 ネットワークの 概 要 が 示 されつつある これらの 斬 新 な 成 果 に 今 後 のさらなる 解 析 を 加 える 事 でより 詳 細 にリプログラミングの 分 子 機 構 が 解 明 さ れると 期 待 できる そして 他 の 生 物 種 と 比 較 する 事 で 多 細 胞 生 物 における 幹 細 胞 化 に 関 す る 共 通 メカニズムの 解 明 や 概 念 の 構 築 あるいは 進 化 におけるリプログラミングの 位 置 付 けが 明 確 になると 期 待 される 本 プロジェクトでは 戦 略 目 標 代 謝 調 節 機 構 解 析 に 基 づく 細 胞 機 能 制 御 に 関 する 基 盤 技 術 の 創 出 に 資 する 成 果 が 得 られたと 評 価 される 総 合 評 価 A( 戦 略 目 標 に 資 する 成 果 が 得 られた) 以 上 - 6 -