PRESS RELEASE(2020/12/23) 九州大学広報室 福岡市西区元岡 744 TEL: FAX: URL:

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研究成果報告書

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Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

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平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

8.1 有機シンチレータ 有機物質中のシンチレーション機構 有機物質の蛍光過程 単一分子のエネルギー準位の励起によって生じる 分子の種類にのみよる ( 物理的状態には関係ない 気体でも固体でも 溶液の一部でも同様の蛍光が観測できる * 無機物質では規則的な格子結晶が過程の元になっているの

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ


スライド 1

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Microsoft Word - _博士後期_②和文要旨.doc

Microsoft Word - note02.doc

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

金属イオンのイオンの濃度濃度を調べるべる試薬中村博 私たちの身の回りには様々な物質があふれています 物の量を測るということは 環境を評価する上で重要な事です しかし 色々な物の量を測るにはどういう方法があるのでしょうか 純粋なもので kg や g mg のオーダーなら 直接 はかりで重量を測ることが

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

平成 2 9 年 3 月 2 8 日 公立大学法人首都大学東京科学技術振興機構 (JST) 高機能な導電性ポリマーの精密合成法を開発 ~ 有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待 ~ ポイント π( パイ ) 共役ポリマーの特性制御には 末端に特定の官能基を導入することが重要だが

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

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New Color Chemosensors for Monosaccharides Based on Azo Dyes

論文の内容の要旨

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

フォルハルト法 NH SCN の標準液または KSCN の標準液を用い,Ag または Hg を直接沈殿滴定する方法 および Cl, Br, I, CN, 試料溶液に Fe SCN, S 2 を指示薬として加える 例 : Cl の逆滴定による定量 などを逆滴定する方法をいう Fe を加えた試料液に硝酸

気体の性質-理想気体と状態方程式 

機器分析問題解答 No. 2 核磁気共鳴スペクトル 1 ラジオ波領域の電磁波を利用している 2 5 スペクトル はシグナルが 2 つ スペクトル B はシグナルが 3 つ スペクトル C はシグナルが 3 つである これに対して化合物アは水素が 3 種 化合物イは水素が 4 種 化合物ウは水素が 3

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Microsoft Word - 化学系演習 aG.docx

理 化学現象として現れます このような3つ以上の力が互いに相関する事象のことを多体問題といい 多体問題は理論的に予測することが非常に難しいとされています 液体中の物質の振る舞いは まさにこの多体問題です このような多体問題を解析するために 高性能コンピューターを用いた分子動力学シュミレーションなどを

支援財団研究活動助成 生体超分子を利用利用した 3 次元メモリデバイスメモリデバイスの研究 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科小原孝介

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

CMOS カメラを用いた強誘電薄膜のドメイン可視化技術 強誘電ドメイン壁の 3 次元構造を捉える 1. 発表者 : 上村洋平 ( 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程 1 年生 ) 荒井俊人 ( 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻講師 ) 長谷川達生 ( 東京大学大学院工学系研究科物理

液相レーザーアブレーションによるナノ粒子生成過程の基礎研究及び新規材料創成への応用 北海道大学大学院工学工学院量子理工学専攻プラズマ応用工学研究室修士 2年竹内将人

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Microsoft Word - プレリリース参考資料_ver8青柳(最終版)

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

新技術説明会 様式例

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報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

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LEDの光度調整について

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振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

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( 様式 4) 二国間交流事業共同研究報告書 平成 29 年 1 月 10 日 独立行政法人日本学術振興会理事長殿 共同研究代表者所属 部局 大阪大学 大学院工学研究科 ( ふりがな ) おざきまさのり職 氏名教授 尾崎雅則 1. 事 業 名相手国 ( 中国 ) との共同研究 振興会対応機関 ( N

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論文の内容の要旨 論文題目 複数の物性が共存するシアノ架橋型磁性金属錯体の合成と新奇現象の探索 氏名高坂亘 1. 緒言分子磁性体は, 金属や金属酸化物からなる従来の磁性体と比較して, 結晶構造に柔軟性があり分子や磁気特性の設計が容易である. この長所を利用して, 当研究室では機能性を付与した分子磁性

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

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円筒型 SPCP オゾナイザー技術資料 T ( 株 ) 増田研究所 1. 構造株式会社増田研究所は 独自に開発したセラミックの表面に発生させる沿面放電によるプラズマ生成技術を Surface Discharge Induced Plasma Chemical P

木村の有機化学小ネタ セルロース系再生繊維 再生繊維セルロースなど天然高分子物質を化学的処理により溶解後, 細孔から押し出し ( 紡糸 という), 再凝固させて繊維としたもの セルロース系の再生繊維には, ビスコースレーヨン, 銅アンモニア

架橋点が自由に動ける架橋剤を開発〜従来利用されてきた多くの高分子ゲルに柔軟な力学物性をもたらすことが可能に〜


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Microsoft Word - Chap17

セルロースナノファイバーの化学構造の調査 ( 工学部 1 年林俊輔 ) パルプ木材の繊維をほぐし, 漂白, 精製したものである 製紙などに使われる 1 次構造,2 次構造, 高次構造 1 次構造は, 原子の配列によって決まる構造,2 次構造は分子内の相互作用によって決まる構造であるのに対し, 高次構

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

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しかし これまでの研究では物質と光電場共に 1 次元的に取り扱っており 3 次元の自由度 を有する試料と 2 次元の偏光状態を有する光電場の相互作用を記述するには不十分でした < 研究内容 > 物性研の板谷研究室で開発した波長が 5 ミクロンの高強度中赤外レーザーを セレン化ガ リウム結晶に集光する

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創薬に繋がる V-ATPase の構造 機能の解明 Towards structure-based design of novel inhibitors for V-ATPase 京都大学医学研究科 / 理化学研究所 SSBC 村田武士 < 要旨 > V-ATPase は 真核生物の空胞系膜に存在す

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報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

偏光板 波長板 円偏光板総合カタログ 偏光板 シリーズ 波長板 シリーズ 自社製高機能フィルムをガラスで挟み接着した光学フィルター

本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 研究プロジェクト : 伊丹分子ナノカーボンプロジェクト 研究総括 : 伊丹健一郎 ( 名古屋大学大学院理学研究科 / トランスフォーマティブ生命分子研究所拠点長 / 教授 ) 研究期間

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使用した装置と試料 装置 : 位相差測定装置 KOBA-W 使用ソフト : 位相差測定 Eソフト 専用治具 : 試料引張治具 試料 : 表 1の各フィルムを測定 ( 測定は室温 3 ) 表 1 実験に用いた試料 記号 材質 厚さ (μm) 光軸角 Ω( ) 備考 pc4 ポリカーボネート 6 87.

バイオ構造における SAXS 分析

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報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

背景 現代社会を支えるコンピューティングや光通信では, 情報の担い手として, 電子の電荷と, その電荷を変換して生成した光 ( 光電変換 ) を利用しています このような通常の情報処理に用いる電荷以外に, 電子にはスピンという状態があります このスピンの集団は磁石の性質を持ち, 情報の保持に電力が不

木村の理論化学小ネタ 緩衝液 緩衝液とは, 酸や塩基を加えても,pH が変化しにくい性質をもつ溶液のことである A. 共役酸と共役塩基 弱酸 HA の水溶液中での電離平衡と共役酸 共役塩基 弱酸 HA の電離平衡 HA + H 3 A にお

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本日の内容 HbA1c 測定方法別原理と特徴 HPLC 法 免疫法 酵素法 原理差による測定値の乖離要因

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放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー A 電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー 第 9 回 品質技術兼原龍二 前回の第 8 回目では FIB(Focused Ion Beam:FIB) のデメリットの一つであるGaイ

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共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

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マスコミへの訃報送信における注意事項

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PRESS RELEASE(2020/12/23) 九州大学広報室 819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 Mail:koho@jimu.kyushu-u.ac.jp URL:https://www.kyushu-u.ac.jp 光応答性有機結晶による近赤外 - 可視波長変換と光スイッチングを実現 ~ 極性結晶の光誘起 固 液 相転移を利用する光コンピューター要素技術 ~ 九州大学大学院工学研究院の君塚信夫教授 永井邑樹大学院生 森川全章助教らは 光信号に応答する分子が反転対称性を持たない極性結晶 *1 を自発的に形成し かつ結晶中で光異性化 *2 することにより結晶が液化すること さらにこの光誘起 固 液 相転移現象を利用して光第二高調波発生を他波長光でスイッチする光論理ゲート機能を持つ分子システムの開発に成功しました π 共役電子系を持つ有機分子は 分子設計の自由度が高く 無機結晶材料に比べて大きな非線形分極を示しうることから SHG(Second Harmonic Generation: 光第二高調波発生 ) *3 材料 さらに光コンピューター要素技術への応用が期待されています 有機分子が SHG 特性を示すためには 分子が電気双極子を持ち 反転対称性をもたない極性結晶が得られることが必要です ところが ほとんどの有機分子結晶は対称中心を持ち 分子が一方向に配向した極性結晶が得られる例は極めて限られます また 巨視的な異方性を有する極性結晶薄膜の作製技術や 光を用いて SHG 特性をスイッチする光論理ゲート機能を持つ安定な有機 SHG 材料は得られていませんでした 本研究では 溶液中で極性結晶を自発的に形成する化学的に安定な光応答性分子を見いだし 気 水界面で巨大な極性結晶薄膜を形成することや 固体結晶膜において近赤外光 (1064 nm) を可視 SHG 光 (532 nm) に変換するとともに 光誘起 固 液 相転移に基づき可逆的に on-off スイッチすることに成功しました 今後は光論理ゲートなど 光コンピューターの要素技術開発に貢献することが期待されます 本研究成果は 2020 年 12 月 21 日付でドイツの国際学術誌 Angewandte Chemie International Edition にオンライン掲載されました 日本学術振興会科学研究費 (JP20H05676, JP16H06513) 小笠原科学技術振興財団 積水化学 自然に学ぶものづくり 研究助成の支援により行われました 研究者からひとこと : 私たちが光誘起イオン結晶 イオン液体相転移現象を利用した高密度 Molecular Solar Thermal Fuel( 超分子光蓄熱 ) や 分子組織化フォトン アップコンバージョンの開発等で培った分子組織化技術を 光コンピューティングの要素技術である光論理ゲート機能の発現に展開できました 引き続き 未来社会の課題解決に資する 分子システム化学 の開拓と展開を目指します SHG 光 1(trans) 1(cis) ( 左から ) 君塚 永井 森川 ( 参考図 ) 光応答性分子からなる極性結晶膜により 近赤外光から可視光への SHG を他波長光により on-off スイッチすることに成功 お問い合わせ 九州大学大学院工学研究院主幹教授君塚信夫 TEL:092-802-2832 Mail:kimizuka.nobuo.763@m.kyushu-u.ac.jp

研究背景半導体素子を CPU とし 電子の動きに基づく信号の on off で演算処理する現在のコンピューターは情報処理能力の向上に限界があり 原子 分子の量子力学的な性質を利用する 量子コンピューター の開発が注目されています 光子の物理的特性の有効利用に基づく情報処理システム 光コンピューター は 量子ビットの演算方法の開発が鍵とされていますが 光による局所的な分子制御に基づく光 分子情報処理技術の開発は 光コンピューターの分子技術として重要と考えられています π 電子系をもつ有機分子は 分子設計の自由度が高いことから フォトクロミック材料 フォトン アップコンバージョン材料 有機 EL 材料をはじめ 光エネルギーの変換材料に広く応用されています また π 電子系有機分子は 無機結晶材料に比べて大きな非線形分極を示しうることから SHG(Second Harmonic Generation: 光第二高調波発生 ) 材料への応用が検討されてきました 有機分子が SHG 特性を示すためには 1 電気双極子 *4 2 高い光安定性を有し さらに 3 反転対称性をもたない極性結晶が得られることが必須であり さらにこれを光 分子情報処理技術に展開するためには 4 薄膜化技術や 5SHG の光スイッチング機能が必要となります 一方 ほとんどの有機分子結晶は対称中心を持ち 一方向に配向した極性結晶が得られる例は極めて限られます そこで 光応答性を示す極性分子を側鎖に含む高分子や 高分子と極性分子の混合試料に高電場を印加するポーリング配向処理 あるいはラングミュア ブロジェット (LB) 法などの分子集積技術によって 光応答性を有する双極子分子の巨視的配向を制御し SHG を発現させようとする試みが行われてきました 光応答性官能基としては 主にアゾベンゼン基が検討されてきましたが ポーリング配向処理した高分子膜中で次第に分子の配向がランダム化し SHG 特性が失われる問題 高密度の分子集合体中ではアゾベンゼンの光応答性 (trans cis 光異性化 ) が進行しない問題 cis 型アゾベンゼンは常温で trans 体に戻りやすく 安定した双安定性を示さないなど 既存の化学技術では未解決でした 内容そこで本研究では trans cis 光異性化特性を示し かつ cis 体の熱力学的安定性が高いことが近年報告されたアリルアゾピラゾール *5 誘導体を探索した結果 化合物 1(trans) が自発的に極性結晶を形成すること ( 図 1) を見いだしました 通常 有機結晶は反転中心をもつ結晶を形成し 自発的に極性結晶を形成する例は限られます 単結晶 X 線構造解析の結果 化合物 1(trans) においては ピラゾール環の N 原子と隣接 1(trans) 分子のメトキシ基 ( メチル基 ) との間に水素結合が形成されており この分子間水素結合が 双極子を一方向に配列した極性結晶の構造に寄与しているものと考えられます また 1(trans) 結晶に 365 nm の紫外光を照射すると 結晶状態で trans cis 光異性化反応が進行する結果 結晶が液体化すること ( 図 2a b) また 1(cis) に 470nm の可視光を照射すると 1(trans) に戻り 可逆的に結晶化すること ( 図 2b c) を見いだしました 図 1.1(trans) の単結晶 X 線構造解析結果 a)a 軸に沿った結晶構造 b)b 軸に沿った結晶構造 c) ピラゾール環の N 原子と隣接 1(trans) 分子のメチル基との間に働く水素結合 図 2. 粉末結晶 1 の偏光顕微鏡写真 a)1(trans): 結晶状態 b)1(cis): 液体状態 c)1(trans): 結晶状態 1(trans) 結晶 (a) に紫外光 (365 nm 30 分 ) を照射すると trans cis 光異性化が起こり 光誘起結晶 液体相転移が起こる (a b) 1(cis) に可視光 (470 nm 120 分 ) を照射すると 1(trans) に戻り 可逆的に結晶化が起こる (b c) 等方的な液体状態(b) においては サンプルの上下に固定された偏光子が直交しているため 光を通さず暗く見える

a) b) 図 3.a) 薄膜セルの構造 ( 厚み 20 µm) b)1(trans) 1(cis) の光異性化の繰り返しサイクルにおける SHG(532 nm) 強度の変化 サンプルの異なる位置で SHG 強度を測定しているため SHG 強度に分布がみられるが 可逆的な ON(trans)-OFF(cis) スイッチングが達成された 次に 1(trans) が反転対称性のない極性単結晶を自発的に与えることから 二次の非線形光学効果の一つである第二高調波発生 (SHG) の検討を行いました 1(trans) 結晶に紫外光 (365 nm) を照射して光液化した 1(cis) 液体を薄膜セル ( 図 3a) に封入し さらに可視光 (480 nm) を照射して薄膜セル内で 1(trans) の結晶を再形成させました この 1(trans) に 1064 nm のレーザーを試料に照射したところ 波長が半分の 532 nm の SHG 光が観測され ( 図 3b, cycle number1) 薄膜セル内における液体 (cis) 結晶 (trans) 光相転移によっても 極性結晶が自発的に形成されることが判りました 次に 365 nm の光照射により 1(trans) 結晶を 1(cis) 液体に変化させると SHG 強度は消失し (cycle number1.5) 続けて可視光 (480 nm) を照射して 1(trans) を再形成させると SHG 強度は再び回復しました (cycle number 2) このように 紫外光 (365 nm) 可視光 (480 nm) の照射サイクルを繰り返すことによって SHG 強度を可逆的に ON-OFF スイッチすることができました ( 図 3b) このように 1(trans) は分子間水素結合と結晶空間を充填する自己組織化特性を有することにより 分子の電気双極子モーメントの方向が揃った密度の高い極性結晶構造を自発的 ( 自己組織的 ) に与えます また密な結晶状態であるにも関わらず可視光照射に伴い trans cis 光異性化を示し 1(cis) 液体を与えました この発見は 光誘起結晶 液体相転移現象を 光第二次高調波 (SHG) 発生に結びつけた初めての例です c) d) e) ガラス基板 図 4.a)1(trans)( 青 ) 1(cis)( 赤 ) の水溶液中における紫外 可視吸収スペクトル ([1] = 50 m) b) 可視光 (cis trans) 紫外光照射 (trans cis) にともなう水溶液の光透過性変化と水溶液の写真 ([1] = 10 mm) 室温 c)1(cis) 水溶液の表面に可視光を照射することにより気 液界面において 1(trans) 極性結晶膜が光誘起形成される d) 気 水界面で光誘起形成された 1(trans) の極性単結晶膜 ( 偏光顕微鏡写真 ) e) ガラス基板上で 1(cis) 水溶液の光異性化により得られた 1(trans) 極性結晶が巨視的構造異方性を有することを示す微小角入射 X 線散乱 (GI-SAXS) パターン

また 1(cis) は大きな双極子モーメント (3.64D) を有し 荷電をもたない中性分子であるにも関わらず 水に極めて高濃度 (690 M) に溶解できることが判りました 水溶液中で可視光 (480 nm) を照射すると cis trans 光異性化により生じた 1(trans) は 1(cis) よりも水溶性が低いため マイクロサイズの極性結晶として析出し このため水溶液が透明から半透明に変化しました ( 図 4b) この変化は 可逆的に起こります さらに 1(cis) 水溶液の空気面から可視光を照射すると 気 液界面において巨大な極性結晶膜が光誘起形成されることが判りました ( 図 4c,d) このプロセスをガラス等の基板上で行うことにより 固体表面上に巨視的異方性を有する 1(trans) の極性配向膜を形成できることが明らかとなりました ( 図 4e) 効果 今後の展開本研究では アリルアゾピラゾール誘導体が 有機溶媒 水溶液中 ならびに無溶媒状態における光誘起液体 結晶相転移により 反転中心のない極性結晶を自発的 ( 自己組織的 ) に形成し さらに結晶状態であるにも関わらず可逆的な光異性化と 光誘起型の結晶 液体相転移を示すことを見いだしました また この極性結晶における可逆的な光誘起相転移現象を利用して 近赤外光 (1064 nm) から可視光 (532 nm) への SHG を可逆的に光 ON-OFF 制御できることを初めて明らかにしました このように 本研究では近赤外光を可視光に変換する単一成分の有機光機能材料を 水中 水表面のみならず固体表面で自発的に ( 自己組織的に ) 形成できることを明らかにし 自己組織化に基づく光変換材料に 多波長応答機能を持たせる方法論を開発しました 今後 光論理ゲートなど光コンピューター要素技術への応用をはじめ 様々な光機能材料の開発に繋がるものと期待されます 論文情報題目 : Light-Triggered, Non-Centrosymmetric Self-Assembly of Aqueous Arylazopyrazoles at the Air-Water Interface and SHG Switching ( 気 水界面におけるアリルアゾピラゾールの光誘起 非対称自己組織化と SHG スイッチング ) 著者 : Yuki Nagai, Keita Ishiba, Ryosuke Yamamoto, Teppei Yamada, Masa-aki Morikawa, Nobuo Kimizuka* ( 永井邑樹 石場啓太 山本凌輔 山田鉄兵 森川全章 君塚信夫 ) 雑誌名 :Angewandte Chemie International Edition ( 出版社 Wiley-VCH) DOI:10.1002/anie.202013650 用語解説 *1) 極性結晶反転中心を持たず 分子が結晶中で非対称な分子配向をとる結果 自発的な分極を有している結晶のこと 多くの有機分子結晶においては 分子が電気双極子モーメントを打ち消すように配列した 反転対称 を有する構造を与えるが 今回の化合物 1 のように分子が結晶中で反転対称性のない 非対称な分子配向をとった場合 極性結晶と呼ぶ *2) 光異性化光励起によって 分子の構造 ( コンホメーション ) が変化すること アゾベンゼンのトランス (trans)- シス (cis) 光異性化は有名であり 広く応用されている アゾベンゼン ( 右図 ) は熱力学的に準安定な cis 体からより安定な trans 体に ( 室温においても ) 次第に戻ることが欠点であった アゾベンゼンの光異性化 *3) 光第二次高調波発生 (Second Harmonic Generation, SHG) レーザー光が反転対称性を持たない物質 ( 非線形光学結晶 極性結晶 ) に照射された時に 2 つの光子を吸収して 元の光子の 2 倍のエネルギー ( 入射光の 2 倍の周波数あるいは半分の波長の光 ) を持つ光子を 1 つ放出する現象 もともとの光のコヒーレンスを維持していることが特徴であり 等方性の媒体や 反転対称性を持つ媒質の中では発生しない 入射光の電界強度の二乗に比例して分極が起こる二次の非線形光学現象の一種であり 入射したレーザーの 1/2 の波長の光を発生するため 光波長変換に利用される

*4) 電気双極子微小距離 l を隔てて電荷 ±q をプラスとマイナス一対で持つものを電気双極子といい μ = ql の大きさを持ちマイナスからプラスへの向きで定義されるベクトル量を双極子モーメントと呼ぶ 極性分子においては 分子内における構成原子の電気陰性度の違いに基づいた電気双極子モーメントを有する *5) アリルアゾピラゾール代表的な光異性化分子の一つであるアゾベンゼンの片側のベンゼン環が ピラゾール環によって置換された化合物 ほぼ定量的な光異性化反応によって得られる cis 体が 従来のアゾベンゼンに比べて熱力学的に安定で 室温における trans 体への熱異性化が遅い (cis 体が長寿命である ) ことから アゾベンゼンの欠点を克服する分子として最近注目されている 問い合わせ先 < 研究に関すること > 君塚信夫 ( キミヅカノブオ ) 九州大学大学院工学研究院応用化学部門主幹教授 TEL:092-802-2832 FAX:092-802-2838 Mail:kimizuka.nobuo.763@m.kyushu-u.ac.jp < 報道に関すること > 九州大学広報室 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 Mail:koho@jimu.kyushu-u.ac.jp