長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲル 複 合 体 ワクチンによる 新 規 がん 免 疫 療 法 の 開 発 三 重 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 がんワクチン 治 療 学 リサーチアソシエイト 原 田 直 純 ( 共 同 研 究 者 ) 三 重 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 がんワクチン 治 療 学 教 授 珠 玖 洋 三 重 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 がんワクチン 治 療 学 リサーチアソシエイト 村 岡 大 輔 はじめに 現 在 国 内 で 開 発 されているがんワクチンの 大 部 分 を 占 める 短 鎖 ペプチドワクチンは キ ラー T 細 胞 認 識 エピトープに 相 当 する 9 10 残 基 の 短 鎖 合 成 ペプチドをワクチン 抗 原 として おり ヘルパー T 細 胞 は 活 性 化 しない そのため 短 鎖 ペプチドワクチンでは 誘 導 される 抗 がん 免 疫 の 量 や 質 が 不 十 分 で 治 療 効 果 が 乏 しいという 不 安 がある ( 文 献 1) また 短 鎖 ペプチ ドワクチンでは 非 免 疫 細 胞 等 による 不 適 切 な 抗 原 提 示 が 起 こり 得 るために がんに 対 する 免 疫 寛 容 を 誘 導 してしまう 危 険 性 も 指 摘 されている ( 文 献 2) これに 対 して 最 近 長 鎖 ペプチド ワクチン 法 が 考 案 され 注 目 されている ( 文 献 2) 長 鎖 ペプチドワクチンは キラー T 細 胞 と ヘルパー T 細 胞 が 認 識 するペプチド 配 列 を 含 むようにデザインされた 20 60 残 基 の 長 い 合 成 ペプチドであり キラー T 細 胞 とヘルパー T 細 胞 を 同 時 刺 激 して 良 質 ながん 免 疫 応 答 を 誘 導 できる また この 長 さのペプチドがT 細 胞 に 提 示 されるためには 専 門 の 抗 原 提 示 細 胞 ( 樹 状 細 胞 やマクロファージなど)の 関 与 が 必 須 で 非 専 門 の 抗 原 提 示 細 胞 ( 一 般 の 体 細 胞 等 ) による 不 適 切 な 抗 原 提 示 と 免 疫 寛 容 を 回 避 できる このように 長 鎖 ペプチドワクチン 法 は 短 鎖 ペプチドワクチンと 大 きく 異 なる 長 所 を 有 し 高 い 臨 床 有 効 性 を 発 揮 すると 期 待 される 他 方 で 我 々は ワクチンの 有 効 性 を 高 める 抗 原 デリバリーシステムとして 疎 水 化 多 糖 ナノ ゲル の 開 発 を 独 自 に 進 めてきた ( 文 献 3 ~ 5) 疎 水 化 多 糖 ナノゲルは 親 水 性 多 糖 のプルランを 疎 水 性 のコレステロール 基 で 部 分 修 飾 したもので 水 溶 液 中 でナノサイズのゲル(ナノゲル)を 自 己 形 成 する この 疎 水 化 多 糖 ナノゲルと 長 鎖 ペプチドワクチンの 複 合 体 から 成 るがんワクチンを 試 作 し マウスモデルにおいて 免 疫 アジュバントと 同 時 投 与 したときの 性 能 評 価 ( 特 異 的 免 疫 誘 導 腫 瘍 増 殖 抑 制 作 用 )を 実 施 した その 結 果 疎 水 化 多 糖 ナノゲル 使 用 時 は 長 鎖 ペプチド ワクチンに 対 するアジュバントの 効 果 が 著 しく 増 強 することを 新 たに 見 出 した( 投 稿 準 備 中 ) 本 研 究 ではアジュバント 存 在 時 の 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲル 複 合 体 ワクチンの 作 用 機 序 解 析 を 行 うとともに 臨 床 応 用 を 目 指 して ヒトで 動 作 する 長 鎖 ペプチドワクチンの 設 計 と 性 能 確 認 を 実 施 した 95
結 果 がんワクチン 療 法 ではワクチンの 効 果 を 増 強 するために Toll 様 受 容 体 (TLR)のアゴニ ストなどを 免 疫 アジュバントとして 併 用 する 皮 下 に 投 与 されたワクチン 抗 原 リンパ 管 を 通 じて 近 傍 のリンパ 節 へ 移 行 し 樹 状 細 胞 などの 抗 原 提 示 細 胞 に 取 り 込 まれて 抗 原 提 示 反 応 に 供 される アジュバントも 同 様 にリンパ 節 に 移 行 し 抗 原 提 示 細 胞 を 活 性 化 する この 作 用 を 通 じてアジュバントは 強 力 な 免 疫 賦 活 活 性 を 示 すが その 存 在 下 においても ワクチン が 誘 導 する 免 疫 応 答 は 依 然 として 弱 いことが 多 い この 問 題 の 原 因 を 探 るために 我 々は マ ウスへ 皮 下 投 与 した 後 のアジュバントのリンパ 節 内 免 疫 細 胞 への 取 込 みと 作 用 を 解 析 した (Fig.1) その 結 果 ワクチンに 対 する 免 疫 応 答 において 抗 原 提 示 細 胞 として 最 も 重 要 視 さ れている 樹 状 細 胞 (F4/80-CD11c+)ではなく マクロファージ(F4/80+CD11b+)にアジュバ ントが 高 率 にとりこまれ アジュバントによる 活 性 化 も 樹 状 細 胞 よりもマクロファージで 顕 Fig.1. 皮 下 投 与 したアジュバントの 近 傍 リンパ 節 内 抗 原 提 示 細 胞 への 取 込 みと 活 性 化 a, b, アジュバントとしてCpGオリゴDNA(TLR9アゴニスト)( 蛍 光 標 識 体 )をマウスに 皮 下 投 与 し たときの 近 傍 リンパ 節 内 抗 原 提 示 細 胞 への 取 込 みをフローサイトメトリーで 測 定 した c, d, アジ ュバントとしてCpGオリゴDNAまたはpoly IC RNA(PIC,TLR3アゴニスト)を 投 与 したときの 近 傍 リ ンパ 節 内 抗 原 提 示 細 胞 の 活 性 化 をCD80およびCD86 発 現 を 指 標 にフローサイトメトリーで 測 定 した 96
著 であることを 見 出 した この 結 果 から アジュバント 併 用 時 は ワクチン 抗 原 は 樹 状 細 胞 ではなくマクロファージへ 送 達 する 方 が アジュバントの 増 強 効 果 を 得 やすいと 考 えられた アジュバントの 作 用 を 受 けやすいマクロファージへのワクチン 抗 原 送 達 を 目 指 すとして それに 適 した 抗 原 デリバリーシステムは 前 例 がない 我 々は デリバリーシステムとして 疎 水 化 多 糖 ナノゲルを 適 用 した 蛋 白 は 皮 下 投 与 した 後 に 近 傍 リンパ 節 に 移 行 しやすいことを 見 出 していた( 非 公 開 データ) そこで 次 世 代 のワクチン 抗 原 として 有 望 な 長 鎖 ペプチド 抗 原 を 疎 水 化 多 糖 ナノゲルと 複 合 体 化 したワクチンを 作 製 し 皮 下 投 与 後 に 近 傍 リンパ 節 内 の 種 々の 免 疫 細 胞 への 長 鎖 ペプチド 抗 原 の 取 込 みを 評 価 した(Fig.2) その 結 果 疎 水 化 多 糖 ナノゲルを 用 いれば 長 鎖 ペプチド 抗 原 をリンパ 節 内 のマクロファージに 選 択 的 に 送 達 で きることを 明 らかにした Fig.2. 皮 下 投 与 した 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲルワクチンの 近 傍 リンパ 節 内 抗 原 提 示 細 胞 への 取 込 み a, 蛍 光 標 識 した 長 鎖 ペプチド(mERK2 LPAまたはMAGE-A4 LPA)を 疎 水 化 多 糖 と 複 合 体 化 し マ ウスに 皮 下 投 与 したときの 近 傍 リンパ 節 内 免 疫 細 胞 への 取 込 みをフローサイトメトリーで 測 定 し た p < 0.05 b, aと 同 様 のマウスのリンパ 節 の 免 疫 組 織 染 色 像 蛍 光 標 識 した 長 鎖 ペプチドと マクロファージ 抗 原 のF4.80の 共 局 在 が 認 められる 以 上 の 結 果 から 従 来 の 樹 状 細 胞 指 向 型 ワクチンに 比 べて マクロファージ 指 向 型 ワクチ ンである 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲル 複 合 体 ワクチンは アジュバント 存 在 下 でより 高 い 抗 がん 効 果 と 免 疫 誘 導 能 力 を 示 すと 考 えた この 可 能 性 をマウス 担 がんモデルで 検 証 し た(Fig.3) 樹 状 細 胞 指 向 型 ワクチンとして 不 完 全 フロイントアジュバント(IFA)をデリ バリーシステムに 用 いたワクチンを 用 意 した 抗 がん 効 果 は merk2 抗 原 を 発 現 する 繊 維 芽 肉 腫 CMS5aと MAGE-A4 抗 原 を 発 現 する 大 腸 がんCT26 の 2 種 類 で 評 価 した その 結 果 いず れの 腫 瘍 においても 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲル 複 合 体 ワクチンは 長 鎖 ペプチド/ IFA 複 合 体 ワクチンよりも 優 れた 抗 がん 活 性 を 示 した また ワクチン 抗 原 特 異 的 CD8 陽 性 キラーT 細 胞 の 誘 導 を 測 定 したところ 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲル 複 合 体 ワクチン は 長 鎖 ペプチド/ IFA 複 合 体 ワクチンより 優 れた 誘 導 能 力 を 示 した また 長 鎖 ペプチド 97
Fig.3. 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲルワクチンによる 腫 瘍 増 殖 抑 制 と 特 異 的 CD8 陽 性 キラー T 細 胞 の 誘 導 a, 疎 水 化 多 糖 ナノゲルまたはIFAと 複 合 体 化 した 長 鎖 ペプチドワクチン(mERK2 LPA)とアジュ バント(CpGオリゴDNA)をマウスに 免 疫 した 後 にCMS5a 腫 瘍 を 移 植 し 経 時 的 にサイズを 測 定 し た p < 0.05 b. 疎 水 化 多 糖 ナノゲルまたはIFAと 複 合 体 化 した 長 鎖 ペプチドワクチン(MAGE-A4 LPA)とアジュバント(CpGオリゴDNA)をマウスに 免 疫 した 後 にMAGE-A4 遺 伝 子 導 入 CT26 腫 瘍 を 移 植 し 経 時 的 にサイズを 測 定 した p < 0.05 c, d. a, bと 同 様 にワクチンとアジュバント(CpG オリゴDNAまたはpoly IC RNA)をを 投 与 したときの 脾 臓 内 のワクチン 抗 原 特 異 的 CD8 陽 性 キラー T 細 胞 の 頻 度 を 細 胞 内 IFNγ 染 色 法 で 測 定 した p < 0.05 / 疎 水 化 多 糖 ナノゲルワクチン 投 与 マウスから 取 り 出 したマクロファージが 特 異 的 CD8 陽 性 キラーT 細 胞 を 効 率 良 く 活 性 化 できること さらに 阻 害 剤 投 与 によりマクロファージを 除 去 したマウスで 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲル 複 合 体 ワクチンによる 抗 原 特 異 的 CD8 陽 性 キラーT 細 胞 の 誘 導 が 消 失 することを 確 認 している(データ 省 略 ) 最 後 に アジュバント 存 在 時 のマクロファージ 指 向 型 ワクチンの 有 用 性 についてヒトに 外 挿 可 能 か 否 かについて ヒトマクロファージを 用 いた 培 養 細 胞 系 で 検 討 した(Fig.4) がん 抗 原 蛋 白 質 NY-ESO-1 およびMAGE-A4 由 来 のCD8 陽 性 T 細 胞 エピトープを 含 む 長 鎖 ペプチド 抗 98
原 を 合 成 し 疎 水 化 多 糖 ナノゲルとの 複 合 体 として poly IC RNAとともにin vitroでヒ トマクロファージに 添 加 した 次 いで NY-ESO-1 特 異 的 またはMAGE-A4 特 異 的 CD8 陽 性 T 細 胞 クローンを 添 加 し 各 T 細 胞 クローンに 対 するマクロファージの 抗 原 刺 激 活 性 を 測 定 した その 結 果 ヒトマクロファージにおいても 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲルワクチンは アジュバント 存 在 下 で 高 い 特 異 的 CD8 陽 性 T 細 胞 活 性 化 を 示 した Fig.4. 長 鎖 ペプチド/ 疎 水 化 多 糖 ナノゲルワクチンと アジュバントを 投 与 したヒトマクロファージによる 抗 原 特 異 的 CD8 陽 性 キラー T 細 胞 の 活 性 化 疎 水 化 多 糖 ナノゲルまたはIFAと 複 合 体 化 した 長 鎖 ペプチドワクチン(NMW LPA)とアジュバント (poly IC RNA)をヒトマクロファージに 添 加 し 一 定 時 間 後 に 抗 原 特 異 的 CD8 陽 性 キラー T 細 胞 ク ローンを 加 え その 活 性 化 をIFNγ ELISPOT 法 で 測 定 した a, NY-ESO-1 抗 原 特 異 的 CD8 陽 性 T 細 胞 クローン b, MAGE-A4 抗 原 特 異 的 CD8 陽 性 T 細 胞 クローン p < 0.05 考 察 樹 状 細 胞 が 外 来 性 抗 原 のCD8 陽 性 T 細 胞 への 提 示 (クロスプレゼンテーション)に 優 れるこ とが 示 されて 以 来 がんワクチンの 研 究 開 発 では いかにして 樹 状 細 胞 にワクチン 抗 原 を 効 率 良 く 送 達 するかが 焦 点 となっている 同 時 に 樹 状 細 胞 の 機 能 を 高 めるべく 樹 状 細 胞 を 活 性 化 するアジュバント 物 質 の 探 索 に 多 大 な 努 力 が 払 われてきた しかしながら 本 研 究 は マクロファージもクロスプレゼンテーション 能 力 を 十 分 に 有 すること アジュバントへの in vivo 感 受 性 は 樹 状 細 胞 よりもマクロファージの 方 が 高 いこと そしてアジュバント 使 用 時 にはワクチン 抗 原 をマクロファージに 送 達 することが 重 要 であることを 初 めて 明 確 に 示 し た この 発 見 は 今 後 のがんワクチンの 研 究 開 発 の 方 向 性 を 変 える 可 能 性 がある マクロフ ァージは 樹 状 細 胞 よりもより 多 様 なToll 様 受 容 体 を 発 現 していることが 知 られており そ 99
の 点 でもアジュバント 使 用 を 伴 うワクチンの 標 的 として 好 適 である 疎 水 化 多 糖 ナノゲルがなぜリンパ 節 内 のマクロファージへの 選 択 的 抗 原 輸 送 に 優 れている かはさらなる 解 析 が 必 要 であるが ナノゲルがリンパ 管 への 流 入 に 適 したサイズ(60nm 前 後 ) であること 電 荷 や 種 々の 受 容 体 への 親 和 性 がなく 目 的 外 の 組 織 に 取 り 込 まれないといった 性 質 から 受 動 的 (passive)な 抗 原 デリバリーの 機 序 を 取 っていると 推 察 している 要 約 近 年 がんワクチンの 有 効 性 を 向 上 させる 技 術 が 強 く 求 められている 我 々はアジュバン トを 併 用 した 長 鎖 ペプチドワクチンを 用 い ワクチン 投 与 時 の 抗 原 提 示 の 担 い 手 として 樹 状 細 胞 ではなく マクロファージが 重 要 であることを 見 出 した また 疎 水 化 多 糖 ナノゲルを デリバリーシステムに 用 いることで マクロファージへの 選 択 的 なワクチン 抗 原 輸 送 を 実 現 できることを 明 らかにした これらの 所 見 と 技 術 を 取 り 入 れることで がんワクチンの 有 効 性 を 著 しく 改 善 できる 可 能 性 がある 文 献 1. Arens, R. and Schoenberger, S. P., Plasticity in programming of effector and memory CD8 T-cell formation., Immunol Rev, 235, 190-205, 2010. 2. Melief, C. J. M. and van der Burg, S. H., Immunotherapy of established pre malignant disease by synthetic long peptide vaccines., Nat Rev Cancer, 8, 351-360, 2008. 3. Gu, X. G., et al., A novel hydrophobized polysaccharide/oncoprotein complex vaccine induces in vitro and in vivo cellular and humoral immune responses against HER2-expressing murine sarcomas., Cancer Res, 58, 3385-3390, 1998. 4. Hasegawa, K., et al., In vitro stimulation of CD8 and CD4 T cells by dendritic cells loaded with a complex of cholesterol-bearing hydrophobized pullulan and NY-ESO-1 protein: Identification of a new HLA-DR15- binding CD4 T-cell epitope. Clin Cancer Res, 12, 1921-1927, 2006. 5. Kageyama, S., et al., Dose-dependent effects of NY-ESO-1 protein vaccine complexed with cholesteryl pullulan CHP-NY-ESO-1 on immune responses and survival benefits of esophageal cancer patients., J Transl Med, 11, 246, 2013. 100