図 11:< 最 適 なリスクファイナンスの 水 準 > よって 費 用 対 効 果 の 観 点 からして 費 用 の 掛 け 方 には 100%でない どこか 別 の 適 正 な 水 準 がある 例 えば 免 責 金 額 を 設 けることでコストをセーブする あるいは 全 体 に 保 険 をかけるのではなく 一 部 分 をピックアップして 保 険 をかける さらには 保 険 をかけるタ イミングを 考 慮 するといった 類 である すなわち リスクファイナンスには それを 実 施 する 最 適 な 時 期 や 最 適 な 範 囲 がある そして 最 適 ポイントを 数 量 的 に 明 らかにしていく 部 分 に 金 融 工 学 の 手 法 が 活 用 される 4. リスクの 評 価 (1) リスクとは 何 か ここまで 当 然 のように 使 ってきたのだが そもそも リスク とは 何 であるのか リタ ーンというのは 分 かりやすく 百 人 いれば 百 人 がほぼ 同 じ 答 えを 返 すが リスクは 人 によ って その 認 識 解 釈 が 大 きく 異 なる 統 計 を 勉 強 している 人 であれば リスクとは 標 準 偏 差 であると 答 えるかもしれない また 最 悪 シナリオの 損 失 損 失 が 体 力 の 限 界 を 超 える 確 率 なども 予 想 される 答 えだ 他 にも 色 々なリスクの 見 方 があろう そこで 例 とし て 株 式 と 債 券 でどちらによりリスキーか ( 図 12)に 基 づいて 考 えてもらいたい 図 12:< 株 式 と 債 券 のリスク 比 較 > 10
それぞれの 確 率 分 布 を 見 ると 債 券 は 平 均 の 7%のところに 集 中 しており 高 い 山 になって いる それに 対 し 株 式 は ばらつきが 大 きくなだらかな 低 い 山 になっている これを 見 て どちらにリスクがあるかを 判 定 せよと 言 われると 大 抵 の 人 が 広 い 範 囲 に 収 益 率 が 分 散 している 株 式 の 方 がリスクは 高 いと 答 えるであろう 正 規 分 布 を 仮 定 すると ±1 標 準 偏 差 の 間 に 入 る 確 率 はおよそ 2/3 であり 確 率 2/3 で 起 こる 最 大 最 小 収 益 率 は 株 式 が 最 小 :12-15=-3% 最 大 :12+15=27%であるのに 対 し 債 券 は 最 小 :7-6=1% 最 大 :7+6=13%である 振 れ 幅 は 株 式 30% 債 券 12%とな り 圧 倒 的 に 株 式 の 方 が 大 きい 具 体 的 には 株 式 投 資 は 6 年 に 一 度 程 度 の 確 率 で-3%を 超 える 損 失 を 被 る 図 13:<±1 標 準 偏 差 に 入 る 確 率 > さて ここからは 一 転 厚 生 年 金 基 金 が 証 券 投 資 を 行 おうとしている 場 面 を 想 像 しよう 厚 生 年 金 基 金 というのは 目 標 利 回 りが 予 め 定 まっていて 今 それを 4% と 仮 定 する 4% を 超 えなければ 制 度 の 仕 組 み 上 積 み 立 て 不 足 が 発 生 してしまうため 厚 生 年 金 基 金 の 常 務 理 事 が 関 心 を 持 つのは 運 用 利 回 りが 4% を 超 えるかどうかである 彼 にとってリ スクとは 4%を 下 回 る 運 用 しかできない 事 態 である 図 14:< 厚 生 年 金 基 金 における 目 標 利 回 り> 目 標 利 回 り 4% 11
この 状 況 下 で 債 券 と 株 式 のリスクの 大 小 を 比 較 する 運 用 利 回 りが 4% 以 下 である 確 率 は 株 式 が 29.7%であるのに 対 し 債 券 は 30.9%となり( 正 規 分 布 の 数 表 を 参 照 ) 債 券 の 方 が リスキーだという 結 果 になる さらに 従 来 企 業 年 金 で 用 いられていた 予 定 利 回 り 5.5%を 採 用 すると 未 達 になる 確 率 は 株 式 33.2%に 対 し 債 券 が 40.1%となり 差 が 一 段 と 開 く つまり 厚 生 年 金 基 金 の 常 務 理 事 にとってのリスクは 株 式 < 債 券 なのである 投 資 の 目 標 ( 想 定 年 数 等 も 影 響 )によって リスクの 定 義 は 異 なり そのつど 商 品 や プロジェクトがリスキーになったり 安 全 になったりする それほどリスクというものは 一 筋 縄 ではいかない 難 しさを 持 っている そのため 事 業 戦 略 の 第 一 歩 はリスクを 如 何 に 定 義 するかである リスクが 正 しく 定 義 できれば 事 業 戦 略 の 第 1 歩 は 成 功 したと 言 えるで あろう なぜなら リスクの 定 義 は 企 業 なら 事 業 目 的 個 人 なら 目 指 す 生 活 水 準 そ れから 周 囲 の 環 境 条 件 等 に 依 存 しているからである リスクの 評 価 が 多 様 である 例 として 新 潟 県 を 紹 介 する 地 方 自 治 体 における 防 災 力 指 標 項 目 の 点 検 の 一 環 として 新 潟 県 が 県 下 の 市 町 村 の 現 状 を 2005 年 12 月 に 調 査 し 結 果 を 市 町 村 ごとに で 評 価 した 将 来 の 防 災 力 向 上 に 繋 げる 意 図 で 実 施 したもの であり 災 害 への 備 え に 関 し あるべき 目 標 との 乖 離 を 定 量 化 した 記 入 された 内 容 か らして 全 体 的 な 達 成 状 況 は 半 分 程 度 のようだったが この 例 は 目 標 の 設 定 と リスクの 評 価 が 表 裏 一 体 であることを 良 く 示 している (2) リスク 要 因 の 発 見 リスクの 評 価 を 行 うことは 重 要 であるが 最 終 的 にはそのリスクを 改 善 する 生 起 確 率 を 小 さくする つまりはプロセス 改 善 に 繋 げたい そのためには リスク 評 価 の 過 程 で 単 に 出 来 ている 出 来 ていない あるいは 過 去 の 損 失 額 に 加 えて その 原 因 の 把 握 が 重 要 となってくる この 考 え 方 は Key Risk Indicator(KRI) と 呼 ばれている これ は リスクがどのような 状 況 で 起 こるのか はたまた 増 加 するのか その 要 因 を indicator として 発 見 しようというものである 銀 行 事 務 を 具 体 例 にとる 一 般 に 事 務 量 のピークは 図 15 のように 期 末 集 中 型 になる 12
図 15:< 本 部 業 務 の 増 加 と 損 失 リスク> ~ 期 末 に 集 中 する 本 部 事 務 ~ 7,000,000 6,000,000 5,000,000 4,000,000 件 数 事 務 系 本 部 営 業 店 合 計 3,000,000 2,000,000 1,000,000 0 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 本 部 では 3,9 月 に 事 務 ミスによる 損 失 発 生 が 増 加 する というのがリスクの 評 価 である まず indicator としては 事 務 量 の 変 動 を 上 げることができる 上 図 によると 事 務 本 部 で 発 生 する 事 務 量 と 営 業 店 での 事 務 量 ではその 変 動 に 大 きな 違 いがある 事 がわかる 本 部 にお いては 期 末 近 くに 事 務 が 集 中 的 に 発 生 しており 事 務 件 数 が3 倍 ともなれば その 事 故 の 発 生 は3 倍 どころではなく 10 倍 やそれ 以 上 のオーダーで 発 生 してくると 予 想 される ところで indicator は 一 つとは 限 らない 例 えば 事 務 量 以 外 の 要 因 として 考 えられるの が 社 員 の 勤 続 年 数 である 図 16において プロットされている 点 の 縦 座 標 が 事 故 率 を 横 軸 が 勤 務 年 数 を 表 わしており 事 故 を 起 こした 人 の 勤 務 年 数 と 事 故 率 の 関 係 を 調 べたも のである 図 16:< 経 験 年 数 と 事 故 率 の 関 係 > 0-0.5-1 -1.5-2 -2.5-3 不 慣 れ 事 故 率 ( 対 数 値 ) 0 1 2 3 高 難 度 の 業 務 勤 務 年 数 プロットされた 点 をつなぎ 合 わせると 二 つの 山 が 見 られる 一 つは 勤 務 年 数 が 少 ない グループである これは 不 慣 れなために 事 故 を 起 こしていると 解 釈 できる もう 一 つは 勤 務 年 数 が 長 いグループであり 彼 らは 勤 務 年 数 が 長 いにも 関 わらず 事 故 を 起 こしている この 原 因 として 考 えられるのは 勤 務 年 数 が 長 くなるにつれて 難 しい 仕 事 へシフトして いく 人 事 異 動 である さらに 分 析 を 進 めるためには 業 務 の 難 度 別 に 事 故 率 をみる 必 要 が 13
あるという 事 がわかる 勤 務 年 数 という 一 指 標 ではなく 2つの indicator をリスクと 関 係 付 けることにより リスクへの 理 解 をより 深 める 事 が 出 来 る 試 行 錯 誤 にもなろうが リ スクの 源 を 断 とうとする ためにはこのような 過 程 をたどることが 不 可 欠 なのである (3) リスクの 大 きさ リスクの 大 きさは 頻 度 と 強 度 の2つのファクターのかけ 算 であるため 図 17のような 2 軸 からなるグラフが 良 く 用 いられる これをリスクマップという 図 17:<リスクマップ> リスク 強 度 (1 回 の 損 失 の 大 きさ) 保 険 等 地 震 大 きい 製 造 物 賠 償 責 任 回 避 少 ない 為 替 多 い 発 生 頻 度 自 己 保 有 労 働 災 害 保 有 小 さい 保 険 災 害 等 の 事 象 の 頻 度 を 横 軸 に 強 度 を 縦 軸 に 取 り 各 リスクをプロットしている 例 え ば 製 造 物 賠 償 責 任 (PL)は 発 生 頻 度 も 大 きく またその 強 度 も 大 きい 企 業 にとってこ のようなリスクは 放 置 するわけには 行 かず リスクの 減 少 策 が 経 営 の 優 先 課 題 に 取 り 上 げ られるべきである 一 方 地 震 をはじめとした 小 頻 度 高 強 度 のリスクは 保 険 を 含 めリスク ファイナンスが 有 効 である かように リスクの 象 限 と リスクコントロールかリスクフ ァイナンスかの 選 択 が 対 応 しているため 各 リスクをプロットするだけで どのような 対 策 をとればよいかがほぼ 判 断 できる これがリスクマップのメリットである ところで リスク 評 価 は 本 来 確 率 分 布 で 表 現 した 方 が 解 析 しやすく より 直 接 的 に 原 因 や 対 策 と 連 動 できるが 実 際 には 現 実 は 複 雑 で 解 析 的 に 解 が 求 まるケースが 少 ない そこで 便 利 なのがシミュレーションである 銀 行 の 窓 口 数 の 設 計 なども 解 析 的 に 最 適 窓 口 数 を 得 ることは 難 しく 一 般 にはシミュレーションで 代 替 する いくつの 窓 口 があれば お 客 様 の 待 ち 時 間 を 許 容 範 囲 に 収 めることができるかを コンピュータで 模 擬 試 験 するの である 様 々なケースを 組 み 込 むことが 可 能 だし 第 一 試 験 のための 設 備 投 資 コストも 不 要 である 損 失 リスクの 評 価 では 直 接 コストに 加 えて 間 接 コストも 考 えなくてはいけない 間 接 コストが 意 外 と 大 きいからである 火 災 の 例 だと 直 接 コストは 火 災 によって 財 物 が 被 14
った 損 害 であるが そのために 営 業 不 能 になる 機 会 損 失 や 仮 店 舗 を 賃 借 したなどの 費 用 は 間 接 コストである また 評 判 や 暖 簾 に 対 するダメージも 間 接 コストだが 具 体 的 な 金 額 を 特 定 するのは 困 難 かもしれない ただ 間 接 コストが 企 業 に 致 命 的 なダメージを 与 え る 場 合 も 多 く 直 接 コストのみを 損 失 と 捉 えるのは 狭 すぎるというのが 実 感 である 5. 最 適 なリスクファイナンス リスクの 評 価 の 次 の 段 階 は 測 定 したリスクの 制 御 だが リスクの 大 きさの 順 番 に 機 械 的 に 対 応 していけば 良 いというものではない 十 分 な 対 応 を 行 おうとすれば 人 材 資 本 技 術 などといったリソースの 動 員 が 必 要 となってくる 対 応 すべきリスクは 膨 大 で 一 方 利 用 可 能 なリソースは 有 限 であり リスクとリソースの 無 数 の 組 合 せから 最 善 の 選 択 をしなければならない どのリスクに 優 先 的 に 対 応 していくのか その 手 段 はリスクコン トロールかリスクファイナンスなのか もしくはそもそも 対 応 しないのか ということも 含 めて 最 適 なリスクマネジメントの 組 み 合 わせ を 決 定 していかなければならない 決 定 の 先 送 り あいまいな 決 定 は 許 されない リスクは 将 来 の 問 題 だが その 対 策 は 現 在 の 問 題 であり 精 神 論 でなく 可 能 な 限 り 具 体 的 計 数 的 であることが 望 ましい 図 18のような 損 失 分 布 を 前 提 とすると 一 般 的 なリスクへの 対 処 は 次 の 通 りである 平 均 を 超 える 部 分 については 資 本 を 準 備 するか あるいは 保 険 でカバーするかいずれか である 通 常 の 考 え 方 では 保 険 は 一 番 右 端 の 小 確 率 の 領 域 に 対 する 手 段 であり 自 己 資 本 がその 次 に 該 当 する そして 損 失 の 平 均 は 費 用 と 考 えて その 部 分 は 引 当 金 や 準 備 金 で 用 意 する つまり 一 種 の 経 常 的 コストであると 考 える 以 上 はあくまでも 大 雑 把 な 一 般 ルールであり 事 業 の 景 況 リスクの 消 長 保 険 コスト 等 多 くの 条 件 によって 最 適 な 手 段 が 左 右 されることはいうまでもない 図 18:< 損 失 の 分 布 > さて リスクファイナンスの 決 定 を 計 量 的 に 行 うためのアイデアを 次 に 紹 介 する それ は 損 失 を 額 面 金 額 でなく 不 満 足 や 痛 み 度 という 非 効 用 として 表 わし 非 効 用 の 極 15
小 化 を 行 動 規 範 とするアプローチである つまり 損 失 の 増 加 に 応 じて 非 効 用 が 増 えて くると 考 え その 増 え 方 は 必 ずしも 直 線 的 でなく 一 般 には 加 速 度 的 な 増 え 方 をする これは 図 19で 示 したように 通 常 の 効 用 関 数 とは 逆 の 曲 線 を 描 く 図 19:< 非 効 用 関 数 > そして この 非 効 用 関 数 を 用 いると それぞれのリスク( 確 率 的 に 損 失 が 決 まる)に 対 する 期 待 非 効 用 が 計 算 できる この 期 待 非 効 用 と 確 実 性 等 価 な 金 額 がRAC(Risk Adjusted Cost)である これはリスクを 完 全 に 消 去 するためのコストと 考 えられるため いわゆる 保 険 料 に 相 当 する リスクの 損 失 別 確 率 と 損 失 額 と 非 効 用 の 関 係 が 分 かれば 最 適 なリス クファイナンスが 求 まる このようにリスクを RAC で 置 き 換 えるメリットは どのパラメータを 変 えれば それが 最 終 の 政 策 決 定 にどのような 影 響 をもたらすか 因 果 関 係 が 非 常 に 分 かりやすくなること である ただ 感 性 で 議 論 するよりも このようなモデルによる リスクの 可 視 化 を 通 し 多 くの 関 係 者 が 意 思 決 定 に 参 画 できる また 設 備 機 械 の 初 期 不 良 老 朽 化 あるいは 人 間 の 寿 命 の 例 で 分 かるように リスク は 時 間 とともに 絶 えず 変 化 する いつ リスクに 対 応 するのかという 問 題 も 重 要 だ これ なども 最 適 化 手 法 の 発 達 によって 時 期 の 選 択 が 可 能 になってきた 6. リスクファイナンス 市 場 既 に 保 険 の 限 界 についてふれたが 以 下 でもう 少 し 詳 しく 述 べよう 年 々 災 害 の 被 害 金 額 は 大 きくなる 傾 向 にあるが 特 に 90 年 代 以 降 では 数 兆 円 規 模 の 損 失 も 数 多 く 見 受 けられるようになった 損 失 補 填 の 主 役 と 期 待 されるのは 保 険 であるが 万 一 災 害 が 発 生 したときの 支 払 能 力 を 確 保 する 意 味 から 保 険 会 社 はこれらの 保 険 を 再 保 険 に 出 す 保 険 市 場 および 再 保 険 市 場 の 規 模 は 合 計 でおよそ20 兆 円 程 度 であり 一 見 大 きそうだが 近 年 の 巨 大 化 するリスクに 比 べると 不 十 分 なキャパシティといわざるを 得 ない 大 災 害 が 発 生 すると ロイズがそうであったように 保 険 会 社 自 身 がデフォルトすることだってある また 災 害 を 契 機 に 保 険 料 が 高 騰 し 実 質 的 に 保 険 をかけることが 出 来 なくなったケース も 多 々 見 られる 阪 神 淡 路 大 震 災 の 場 合 直 接 被 害 で10 兆 円 といわれているが このうち 保 険 でカバー 16