講 義 2010 年 度 大 陸 法 財 団 寄 附 講 座 大 陸 法 の 基 本 概 念 債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 ) 1) ⑴ ムスタファ メキ 山 城 一 真 / 訳 序 論 (nº 1-8) Ⅰ 債 務 関 係 の 識 別 要 素 (nº 9



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* 解 雇 の 合 理 性 相 当 性 は 整 理 解 雇 の 場 合 には 1 整 理 解 雇 の 必 要 性 2 人 員 選 択 の 相 当 性 3 解 雇 回 避 努 力 義 務 の 履 行 4 手 続 きの 相 当 性 の 四 要 件 ( 要 素 )で 判 断 され る 部 門 閉 鎖 型

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ー ただお 課 長 を 表 示 するものとする ( 第 三 者 に 対 する 許 諾 ) 第 4 条 甲 は 第 三 者 に 対 して 本 契 約 において 乙 に 与 えた 許 諾 と 同 一 又 は 類 似 の 許 諾 を することができる この 場 合 において 乙 は 甲 に 対 して 当

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18 国立高等専門学校機構

平 成 34 年 4 月 1 日 から 平 成 37 年 3 月 31 日 まで 64 歳 第 2 章 労 働 契 約 ( 再 雇 用 希 望 の 申 出 ) 第 3 条 再 雇 用 職 員 として 継 続 して 雇 用 されることを 希 望 する 者 は 定 年 退 職 日 の3か 月 前 まで

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

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4 承 認 コミュニティ 組 織 は 市 長 若 しくはその 委 任 を 受 けた 者 又 は 監 査 委 員 の 監 査 に 応 じなければ ならない ( 状 況 報 告 ) 第 7 条 承 認 コミュニティ 組 織 は 市 長 が 必 要 と 認 めるときは 交 付 金 事 業 の 遂 行 の

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当 が 支 払 われない 場 合 において 前 項 第 2 号 に 該 当 するときは 機 構 は 当 該 遺 族 に 対 し 第 2 項 に 規 定 する 事 情 を 勘 案 して 当 該 退 職 手 当 の 全 部 又 は 一 部 を 支 給 しないこととする 措 置 を 行 うことができる 5

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Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) Title 債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 ) (1) Author Mekki, Mustapha(Mekki, Mustapha) 山 城, 一 真 (Yamashiro, Kazuma) Publisher 慶 應 義 塾 大 学 大 学 院 法 務 研 究 科 Jtitle 慶 應 法 学 (Keio law journal). No.20 (2011. 8),p.229-278 Abstract Genre Departmental Bulletin Paper URL http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=aa1203413x-20110825-0229

講 義 2010 年 度 大 陸 法 財 団 寄 附 講 座 大 陸 法 の 基 本 概 念 債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 ) 1) ⑴ ムスタファ メキ 山 城 一 真 / 訳 序 論 (nº 1-8) Ⅰ 債 務 関 係 の 識 別 要 素 (nº 9-33) A 法 的 債 務 と 道 徳 的 債 務 との 区 別 に 関 する 誤 解 (nº 10-17) 1 自 然 債 務 (nº 12-15) 2 徳 義 上 の 約 束 (nº 16-17) B 契 約 関 係 と 債 務 関 係 との 区 別 に 関 する 看 過 (nº 18-32) 1 現 状 : 契 約 の 拘 束 力 と 債 務 内 容 との 混 同 (nº 19-23) 2 あるべき 規 律 : 契 約 の 拘 束 力 と 債 務 内 容 との 区 別 (nº 24-32)( 以 上 本 号 ) Ⅱ 債 務 関 係 の 構 成 要 素 (nº 33-53)( 以 下 次 号 ) A 分 類 の 過 剰 性 (nº 34-40) B 分 類 の 過 小 性 (nº 41-53) 結 論 (nº 54-55) パリ 第 13 大 学 教 授 同 大 学 取 引 法 研 究 所 研 究 員 1) 本 講 演 は 2010 年 度 大 陸 法 財 団 寄 付 講 座 の 一 環 として 2010 年 10 月 23 日 25 日 の 両 日 に わたり 慶 應 義 塾 大 学 において 行 われたものである 講 演 にご 参 加 くださった 教 員 および 学 生 の 皆 さんには 心 より 感 謝 申 し 上 げる 実 り 多 い 議 論 がなされたことにより 私 自 身 考 察 を 深 めることができた 慶 應 法 学 第 20 号 (2011:8)

講 義 (メキ/ 山 城 ) 1 債 務 関 係 という 観 念 の 捉 えがたさ 債 務 関 係 は 法 道 徳 習 俗 政 治 の 交 錯 点 に 位 置 する 2) とりわけ 民 法 においては 債 務 関 係 という 観 念 は それを 捉 えがたいものとするある 種 の 不 明 瞭 さによって 覆 われている に もかかわらず 債 務 関 係 は しばしば 債 務 法 を 揺 るがす 論 争 自 然 債 務 契 約 の 拘 束 力 契 約 の 目 的 債 務 の 目 的 与 える 債 務 等 の 火 種 となる そ こで 債 務 関 係 を 覆 うものが 何 であるかを 明 らかにすることが 必 要 となるので ある そのためには 債 務 関 係 を 他 の 法 的 関 係 一 般 との 関 係 において 位 置 づけ るとともに その 規 範 内 容 を 整 合 的 に 確 定 するために それを 構 成 する 諸 要 素 を 明 らかにしなければならない 2 民 法 典 の 沈 黙 とローマ 法 への 回 帰 フランス 民 法 典 が 債 務 関 係 (obligation) という 概 念 によって 構 成 されているのに 対 し 日 本 の 民 法 は 債 権 という 概 念 によって 構 成 されているようである これに 対 し ボワソナード が 草 案 を 準 備 した1890 年 の 旧 民 法 は その 財 産 編 293 条 2 項 において 義 務 ハ 或 ル 物 ヲ 与 ヘ 又 ハ 或 ル 事 ヲ 為 シ 若 クハ 為 ササルコトニ 服 従 セシムル 羈 絆 ナリ と 定 めていた フランス 民 法 典 は 債 務 という 用 語 を 繰 り 返 し 規 定 してはいるものの これを 定 義 してはいない このように 法 律 が 沈 黙 している 場 合 フランスの 法 律 家 は 概 してある 観 念 または 制 度 の 起 源 に 遡 るという 方 法 を 採 る そして その 際 には とりわけローマ 法 が 探 索 されるのである 3) ローマ 法 の 時 代 に は 債 務 という 語 が 法 的 にもち 得 る 意 味 を 説 くために 二 つの 定 式 が 用 いられ ていた 第 一 は パウルスによる 定 式 であり 債 務 の 本 質 は 他 者 の 物 また は 役 権 をある 者 のものとすることにあるのではなく 他 者 を 強 制 してある 者 に 2)これら 非 法 的 な 諸 側 面 につき Bruno Bernardi, Le principe d obligation, Paris, Vrin/ EHESS, collection «Contextes», 2007 を 参 照 3) ロ ー マ 法 に お け る 債 務 に つ き A. Biscari, Obligatio personae et obligatio rei dans l histoire du droit romain, Rev. hist.. dr. Français et étranger, 1992, p. 187 et s. ; R.-M. Rampelberg, L obligation romaine : perspective sur une évolution, in L obligation, Arch. phil. dr. 2000, p. 54 et s. 230

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ 与 えさせ あることを 為 させ または ある 給 付 をさせることにある という ものである これによって パウルスは 物 権 と 債 権 の 区 別 を 主 張 し 債 務 を 後 者 のカテゴリーへと 統 合 したのである 他 方 第 二 は ユスティニアヌス 帝 の 法 学 提 要 に 現 れるものであり カルボニエ(Jean Carbonnier) 学 部 長 の 柔 軟 な 法 (Flexible droit) において 広 汎 に 解 説 されている すなわち 債 務 と は ある 者 がわが 国 家 の 諸 法 規 に 従 ってある 物 を 弁 済 する 必 要 に 拘 束 される 法 鎖 / 法 律 関 係 (juris vinculum ; lien de droit)である という 定 式 である 債 務 は ユスティニアヌス 帝 によるこの 貢 献 以 来 古 典 的 な 法 学 者 によって も あるいは 現 代 の 法 学 者 によっても 4) しばしばある 種 の 法 律 関 係 へと 還 元 されている しかし 実 をいえば より 正 確 を 期 するならば 債 務 それ 自 体 は 関 係 ではなく それに 先 立 ってある 関 係 が 創 設 されたことから 生 ずる 結 果 であ る 関 係 が 原 因 であり 債 務 はその 一 つの 結 果 にほかならない この 関 係 こそ が 債 務 を 生 み 出 す だからこそ それに 拘 束 され そして 債 務 を 負 うのであ る 5) けれども こうした 精 緻 さは フランス 法 においては 依 然 として 支 持 さ れておらず また この 問 題 についてはより 正 確 であると 評 されるドイツ 法 に おいても 支 持 されていない 6) それでは まず 債 務 の 起 源 となる 法 律 関 係 とは 何 か それは その 時 点 においては 維 持 されている 接 触 を 含 む 二 人 の 間 における 理 解 の 距 離 7) であ る この 関 係 は 距 離 を 引 き 寄 せるものであると 同 時 に 距 離 をなすものでも 4)J.-L. Gazzaniga, Introduction historique au droit des obligations, PUF, 1992, nº 9 et 19 ; Fr. Terré, Ph. Simler et Y. Lequette, Droit des obligations, Dalloz, 2005, spéc. nº 2 ; A. Sériaux, Droit des obligations, PUF, coll. Fondamentale, 2 ème éd., 1998, nº 1 ; J. Ghestin, M. Billiau et G. Loiseau, Le régime des créances et des dettes, Traité de droit civil, 1 re éd., L.G.D.J., 2005, nº 4 et s., p. 1 et s. 5) 同 旨 として J. Gaudemet, Naissance d'une notion juridique, les débuts de l'«obligation» dans le droit de la Rome antique, in L obligation, Arch. phil. dr. 2000, p. 19 et s., spéc. p. 31 ; Adde, E. Jeuland, L énigme du lien de droit, R.T.D civ. 2003 p. 455 et s., spéc. nº 5. 6)B. Windscheid, Lehrbuch des Pandktenrechts, 9 ème éd., Francfort (1862 1 re éd.), 1909, II, p. 7, nº 3, cité par J. Gaudemet, op. cit. [note 5], p. 32. 7)E. Jeuland, L énigme, op. cit. [note 5], spéc. nº 13. 231

講 義 (メキ/ 山 城 ) ある こうしたアンビヴァレンスは 債 務 という 語 の 語 源 に 見 出 される Obは 分 かつもの であり ligatioは 結 びつけるもの を 意 味 する 債 務 と は 本 来 は 分 かたれているものの 紐 帯 なのである 3 債 務 関 係 の 暫 定 的 な 定 義 法 律 関 係 と 債 務 が 置 かれた 関 係 はこのような ものであるが 債 務 を 法 律 関 係 ということは 差 し 支 えない とはいえ 債 務 を 定 義 するものは 法 律 関 係 の 存 在 ではなく その 本 質 であるということは 認 め なければならない 8) シリル グリマルディ(C. Grimaldi) 氏 が レヴィ ユ ルマン(H. Lévy-Ulmann) 氏 の 業 績 に 依 拠 しつつそのテーズにおいて 指 摘 した ように 債 務 を 法 律 関 係 として 定 義 することは トートロジーであろう 9) 債 務 関 係 の 本 質 は 一 方 ではこの 関 係 の 両 極 に 位 置 する 債 務 者 と 債 権 者 の 状 況 に 帰 せられ 他 方 では 債 務 の 目 的 に 帰 せられる この 旨 を 説 いたのは ドゥ モロンブ(C. Demolombe)である 彼 によれば 債 務 とは ある 一 定 の 者 が 他 の 一 定 の 者 に 対 し 何 ものかを 与 え 為 し または 為 さないことを 義 務 づけられる 法 律 関 係 である 10) カルボニエ 学 部 長 が 債 務 とは 二 人 の 者 の 間 に 特 に 存 在 し その 効 力 によって 一 方 が 他 方 に 対 してあることをなすべく 義 務 づけられる 法 律 関 係 11) であると 述 べるのも 同 旨 である ここには 債 務 のもつ 二 つの 本 質 的 特 徴 が 看 取 される すなわち 第 一 は 主 観 面 であり 人 の 間 の つまり 法 主 体 間 の 関 係 第 二 は 客 観 面 であり 債 務 の 目 的 である 8)まとまった 研 究 として v. E. A. Popa, Les notions de debitum (Schuld)et obligatio (Haftung)et leur application en droit français moderne, th. Paris, Libr. des facultés E. Muller, Paris, 1935 ; F. K. Comparato, Essai d'analyse dualiste de l obligation en droit privé, th. Paris, Dalloz, 1964, préf. A. Tunc. 9)C. Grimaldi, Quasi-engagement et engagement en droit privé. Recherches sur les sources de l obligation, Préf. Y. Lequette, Defrénois, 2007, nº 1052, p. 495. 10)C. Demolombe, Cours de Code Napoléon, Traité des contrats ou des obligations conventionnelles en général, Tome I, 2 ème éd., 1870, Durand et Hachette et Cie, nº 4, p. 4. 11)J. Carbonnier, Droit civil, Les obligations, Tome 4, 22 ème éd., PUF, 2000, 7, p. 25. 232

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ 4 債 務 関 係 の 主 観 的 側 面 債 務 関 係 の 主 観 的 側 面 につき フランス 法 学 説 によって 一 般 に 提 唱 されている 定 義 は 債 務 関 係 (obligation)とは 債 務 者 と 債 権 者 との 間 の 単 一 の 関 係 であるとの 考 えを 抱 かせる これに 対 し ドイツ 法 学 説 は 伝 統 的 に 債 務 を 二 元 的 に 説 明 してきた すなわち 債 務 者 の 側 から みると 債 務 (obligation)は 負 債 (dette)である 他 方 債 権 者 の 側 からみる と それは 債 権 (créance)である また 債 務 (obligation)は 債 務 (Schuld) と 責 任 (Haftung)とによって 構 成 される 前 者 は 義 務 づけの 側 面 に 対 応 し 後 者 は 強 制 力 (engagement)の 側 面 に 対 応 する 12) ドイツの 法 学 者 ブリンツ(A. Brinz)は 1874 年 厳 密 な 意 味 における 関 係 の 側 面 (devoir debitum あるいはSchuld)と 厳 密 な 意 味 における 義 務 づ けの 側 面 つまり 一 定 の 強 制 力 (engagement obligatio あるいはHaftung)と を 区 別 した 13) この 区 別 は フランス 法 における 著 名 な 分 類 すなわち 実 体 法 (le droit substantiel ; Schuld)と 訴 訟 法 (le droit processuel ; Haftung)との 区 別 を 想 起 させる 14) 責 任 は まず 債 権 者 に 対 し 価 値 の 総 体 として 把 握 される 債 務 者 の 資 産 (patrimoine)を 支 配 する 権 能 を 与 える これによって 債 権 者 は 保 全 差 押 のような 予 防 訴 権 を 行 使 し あるいは 債 権 者 代 位 権 (フ ランス 民 法 典 1166 条 )や 詐 害 行 為 取 消 権 ( 同 1167 条 )のような 回 復 措 置 を 講 じる ことができる 次 いで 責 任 は 債 権 者 に 対 し 強 制 権 つまり 強 制 履 行 請 求 権 を 与 える 他 方 債 務 者 の 側 からいえば 責 任 は 責 任 を 負 う 担 保 する という 状 況 である 15) 債 務 者 は 債 権 者 がその 権 利 を 実 現 し 得 るようにし 12) 一 つの 説 明 として N. M. K. Gomaa, Théorie des sources de l obligation, L.G.D.J., 1968, spéc. nº 282 et s., p. 250 et s. を 参 照 13)A. Brinz, Lehrbuch der Pandekten, Erlangen, A. Deichert, 1879-1892, spéc. vol. II. 義 務 (devoir)と 拘 束 (engagement)という 語 による 訳 は G. Cornil, Debitum et obligatio. Recherches sur la formation de la notion de l obligation romaine, in Mélanges P.-F. Girard, Tome I, 1912, p. 199 et s. によるものである 14)この 分 析 につき 特 に J. Carbonnier, L obligation entre la force et la grâce, in Flexible droit. Pour une sociologie du droit sans rigueur, 10 ème éd., L.G.D.J., 2001, p. 324 et s., spéc. p. 326を 参 照 233

講 義 (メキ/ 山 城 ) なければならない 私 見 によれば ドイツ 民 法 を 模 倣 するのではないにせよ 債 務 関 係 のこうし た 二 元 的 構 想 は 支 持 されるべきである というのは それによって 訴 権 を 伴 わない 債 務 特 にいわゆる 自 然 債 務 のような 実 定 法 の 諸 側 面 を 説 明 理 解 する ことができ また とりわけ 保 証 の 領 域 にみられる 保 証 する 債 務 (obligation de couverture) と 支 払 う 債 務 (obligation de règlement) という 古 典 的 な 二 分 法 を 理 解 することができるからである また 義 務 と 強 制 力 との 間 の 区 別 は 裁 判 官 によって 弁 済 猶 予 期 間 が 与 えられたために 履 行 強 制 をなし 得 ないと きであっても(フランス 民 法 典 1244-1 条 ) 債 権 を 履 行 することは 差 し 支 えない ということを 説 明 する この 場 合 裁 判 官 によって 責 任 は 制 限 されているけれ ども 債 務 には 何 ら 影 響 はないのである さらに この 二 元 的 説 明 によって 充 当 資 産 (patrimoine d affectation)の 仕 組 みを 説 明 することもできる 信 託 (フランス 民 法 典 2011 条 )または 新 たに 創 設 された 有 限 責 任 個 人 事 業 者 制 度 (EIRL : 2010 年 7 月 15 日 の 法 律 第 658 号 )によると 新 たな 法 人 を 設 立 することな しに 新 たな 資 産 を 創 設 することができる( 商 法 典 L. 526-6 条 ) これらによれ ば 債 務 は 一 つであるが 責 任 は 信 託 財 産 と 委 託 者 の 固 有 財 産 との 間 ある いは 事 業 者 としての 活 動 に 充 当 される 財 産 と 個 人 財 産 との 間 で 区 別 されるこ とになるのである ここにおいては 個 人 が 負 う 責 任 と 資 産 が 負 う 責 任 とがあるといえよう 5 債 務 関 係 の 客 観 的 側 面 他 方 客 観 的 側 面 は 債 務 の 性 質 つまり 給 付 へと 帰 せられる 主 観 的 側 面 と 客 観 的 側 面 との 間 の 相 補 性 は ある 程 度 は ゲ スタン=ビリオー=ロワゾー(J. Ghestin, M. Billiau et G. Loiseau)の 各 氏 が 法 的 債 務 (obligation civile)についてした 次 の 説 明 の 中 に 現 れている 法 的 債 務 と 0 0 0 は 二 人 またはそれより 多 い 者 の 間 の 関 係 という 法 技 術 と 一 定 の 経 済 的 結 果 0 0 という 目 的 との 組 合 せである 16) 経 済 的 目 的 は あることをなすという 義 務 15)S. Prigent, Le dualisme, op. cit.[note 8], n o 10. S. Prigent, Le dualisme dans l obligation, R.T.D civ., 2008 234

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ に 帰 せられる この 義 務 は 経 済 的 価 値 とみなされる この 理 は 契 約 とは 一 または 数 人 の 者 が 他 の 一 または 数 人 の 者 に 対 してあるものを 与 え 為 し ま たは 為 さない 義 務 を 負 う 合 意 である と 規 定 するフランス 民 法 典 1101 条 に 現 れ ている また 1126 条 は 同 旨 を 続 けて 規 定 し 契 約 はすべて 当 事 者 が 与 える 義 務 を 負 うもの または 当 事 者 が 為 し もしくは 為 さない 義 務 を 負 うも のを 目 的 とする としている 債 務 の 目 的 は 幾 度 となく 繰 り 返 して 論 じられてきた 問 題 である 与 える 債 務 (obligation de donner)については 同 意 を 交 わすことのみによって 財 産 の 所 有 権 が 抽 象 的 に 移 転 することを 認 めた 意 思 主 義 の 原 則 を 主 な 理 由 として そ の 存 在 意 義 はもはや 失 われたとし その 正 当 性 に 対 して 異 議 を 述 べる 者 がい る 他 方 使 用 収 益 に 供 する 債 務 (obligation de mise a disposition) 17) または 担 保 する 債 務 (obligation de garantir) 18) のような 新 たな 給 付 を 内 容 とする 典 型 的 債 務 のパネルを 取 り 込 むことを 擁 護 する 者 もみられる また より 実 用 的 な 議 論 として 富 (richesses)というかたちでの 考 察 を 好 む 者 もみられる 債 務 の 効 果 は 富 を 作 り 出 すこと( 為 す 債 務 ) 富 を 維 持 すること( 為 さない 債 務 ) 富 を 活 用 すること(たとえば 賃 貸 譲 渡 することによって) 富 を 回 復 す ること( 賠 償 債 務 )にある 19) ピエール カタラ(P. Catala)の 主 導 にかかる 委 員 会 によって 起 草 された 債 務 法 および 時 効 法 改 正 準 備 草 案 は これとは 別 の 方 向 で 利 用 に 供 する 債 務 (obligation de «donner à usage»)を 規 定 してい る( 同 草 案 1155 条 3 項 ) 20) このように 債 務 関 係 が 捉 えがたい 観 念 であることは 明 らかである このこ 16)J. Ghestin et alii, Le régime, op. cit. [note 4], n o 4, p. 5. 17)G. Pignarre, A la redécouverte de l obligation de praestere. Pour une relecture de quelques articles du Code civil, R.T.D. civ., 2001, p. 41 et s. 18)N. Kanayama, De l obligation de couverture à l obligation de garantir (donner, faire, ne pas faire et garantir?), Mélanges C. Mouly, Litec, 1998, t. I, p. 375 s. 19)J. Ghestin et alii, Le régime, op. cit. [note 4], n o 4, p. 5. 20)その 批 判 的 検 討 として G. Pignarre, L obligation de donner à usage dans l avant-projet Catala. Analyse critique, D. 2007, Chr., p. 384 et s. を 参 照 235

講 義 (メキ/ 山 城 ) とは 債 務 関 係 (obligation)を 正 真 正 銘 の 財 産 (bien)として 理 解 することが できるかを 考 えるときにもまた 明 らかになる 6 財 産 としての 債 務 関 係? 債 務 関 係 (obligation)を 単 なる 関 係 とし てではなく ある 種 の 財 産 として 捉 えるという 見 地 にまで 進 むことはできるだ ろうか フランス 民 法 典 529 条 によれば 元 本 を 請 求 することができる 金 額 (sommes exigibles)または 動 産 物 件 (effets mobiliers)を 目 的 とする 債 権 および 訴 権 は 法 律 の 定 めるところによって 動 産 である 同 条 の 文 言 によれば 債 務 関 係 はある 種 の 財 産 として 捉 えることができる しかし 同 条 は 実 際 には 債 務 関 係 ではなく その 目 的 物 に 関 わるものである 元 本 を 請 求 す ることができる 金 額 または 動 産 物 件 が 動 産 なのである のみならず 財 産 の 定 義 から 出 発 しても 債 務 関 係 をこのカテゴリーの 中 に 導 き 入 れようとする 試 みに 身 を 委 ねることは 難 しい つまりこうである 財 産 とは 私 的 所 有 の 対 象 となり 得 る 経 済 的 価 値 つまり 効 用 をもつ 物 (chose)をいう 21) このように 財 産 は 人 と 物 との 間 の 関 係 を 前 提 とする これに 対 し 債 務 関 係 は 人 と 人 との 関 係 である 22) それゆえ 債 務 関 係 は 対 物 権 のカテゴリーではなく 対 人 権 のカテゴリーに 属 するのである 23) もっとも これらのカテゴリーの 差 異 は 実 際 にはまったく 相 対 的 なもので しかない すべては 財 産 の 定 義 として どのようなものを 採 用 するかにかか っている 財 産 となるためには 財 産 的 な 価 値 が 存 することをもって 足 りると するならば これは 欧 州 人 権 条 約 第 一 追 加 議 定 書 1 条 の 意 味 における 理 解 21)V. G. Baudry-Lacantinerie et M. Chauveau, Traité théorique et pratique du droit civil, Les biens, 1 re éd., 1896, nº 10. 財 産 とは 人 に 一 定 の 効 用 を 得 させることができ 私 的 な 所 有 の 対 象 となり 得 るあらゆる 物 をいう 22)この 説 明 については 特 に J. Ghestin et alii, Le régime, op. cit. [note 4], nº 5, p. 7を 参 照 23)Paul, L. II, Institutionum, Digeste, 44, 7, 3, pr. が 既 に 次 のように 説 くところを 参 照 債 務 は 他 者 を 強 制 してわれわれに 与 えさせ あることを 為 させ または ある 給 付 をさ せることにある 物 権 は ある 目 的 物 をわれわれに 帰 属 させることにある (cité par Gaudemet [note 5], p. 27) 236

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ である 債 務 関 係 を 財 産 と 考 えることに 反 対 する 者 はだれもいないだ ろう 学 説 の 一 部 とりわけサヴィニー(Fr. C. Von Savigny)においても 債 務 関 係 はある 種 の 財 産 として 分 析 されている 24) しかし 私 見 によれば 債 務 関 係 は 財 産 というカテゴリーとは 距 離 を 置 いたほうが 明 快 である 少 なくとも 債 務 法 においては 人 と 物 との 関 係 と 人 と 人 との 関 係 との 間 に は 明 確 な 境 界 を 維 持 しなければならない もっとも 人 に 対 する 関 係 と 物 に 対 する 関 係 とが 重 畳 する 余 地 を 排 斥 しようというわけではない 両 者 の 重 畳 は 学 説 による 観 念 である 物 的 な 債 務 (obligation réelle)において 確 認 される たしかに この 観 念 は 人 と 物 との 関 係 を 契 機 として 生 じる 債 権 者 と 債 務 者 と の 関 係 を 説 明 することを 可 能 にする 25) けれども これを 債 務 関 係 に 包 含 さ れるものと 考 えることに 必 然 性 があるわけではない 7 債 務 と 債 権 最 後 に 法 的 債 務 の 経 済 的 効 果 は 厳 密 な 意 味 における 債 務 と 債 権 との 区 別 に 帰 着 する 債 権 とは 債 務 の 存 在 から 期 待 される 客 観 的 な 経 済 的 効 果 の 予 期 である 26) この 債 権 こそが ある 種 の 財 産 として 分 析 され 得 るのであり また 法 律 によって 規 定 される 限 度 において 譲 渡 または 充 当 の 目 的 となり 得 るのである 日 本 法 についていえば 民 法 は 債 務 関 係 (obligation)と 債 権 とは 同 義 だとし 両 者 を 区 別 することを 有 用 としていない ようにもみえる たとえば 民 法 412 条 は 債 権 を 指 し 示 すために 債 務 という 語 を 用 いている しかし 両 者 を 区 別 することは 有 益 である というのは 債 権 なき 債 務 関 係 が 存 在 し 得 るからである その 例 として 保 証 の 場 合 を 挙 げることができる 保 証 は 債 権 者 に 担 保 を 供 することを 旨 とするが その 債 権 は 現 在 のものでも この 場 合 には 保 証 契 約 に 基 づく 債 権 も 存 在 する 24)Fr. C. Von Savigny, Le droit des obligations (Tome I et Tome II)(1873), réimpression L.G.D.J, 2008, 2, p. 6 et s. Adde, Chr. Krampe, L obligation comme bien, droit français et allemand, in L obligation, Arch. phil. dr. 2000, p. 205 et s. 25)J. Scapel, La notion d obligation réelle, Préf. P. Jourdain, PUAM, 2002. 26)J. Ghestin et alii, Le régime, op. cit. [note 4], nº 6, p. 8. 237

講 義 (メキ/ 山 城 ) 将 来 のものでもあり 得 る ところで 将 来 の 債 権 を 保 証 する 場 合 には 保 証 する 債 務 (obligation de couverture)は 存 在 する けれども 支 払 期 日 にな ってみると 債 権 者 と 債 務 者 との 間 に 何 らの 債 務 が 存 在 しないということもあ り 得 るのであり この 場 合 には 保 証 は 何 ら 支 払 う 債 務 (obligation de règlement) を 伴 わない そのため 債 務 関 係 は 存 在 したけれども 債 権 は 存 在 しなかったということが 起 こり 得 るのである 債 権 と 債 務 の 区 別 は 債 権 の 発 生 時 点 の 問 題 を 解 決 する 手 がかりにもなり 得 る これは 倒 産 手 続 の 開 始 に 際 して 何 が 開 始 の 裁 判 の 後 に 生 じた 債 権 であり 何 が 疑 わしい 期 間 (la période suspecte) = 債 務 者 が 支 払 停 止 に 陥 った 後 の 詐 害 的 なものとして 取 り 消 される 可 能 性 のある 期 間 に 行 われた 取 引 であるかを 決 するために 重 要 な 問 題 になる 27) 8 債 務 関 係 の 識 別 要 素 から 債 務 関 係 の 構 成 要 素 へ 以 上 のささやかな 概 観 によって 金 山 直 樹 教 授 および 大 陸 法 財 団 によって 提 案 された 債 務 関 係 と いう 主 題 の 適 切 さを 理 解 することができよう それは フランス 債 務 法 を 揺 るがす 最 も 重 要 な 議 論 の 中 心 をなすものである 債 務 関 係 とは 何 かを 確 定 する ことは 実 務 的 にみてきわめて 重 要 な 問 題 であるが それに 先 立 ち 夥 しい 数 の 理 論 問 題 の 解 決 を 前 提 とする 課 題 は 尽 きない 不 可 分 債 務 複 合 的 債 務 要 素 常 素 偶 素 の 三 分 法 法 定 債 務 黙 示 的 債 務 本 質 的 債 務 の 観 念 債 権 の 流 通 等 が 問 題 になり 得 たであろう 債 務 関 係 は 経 済 活 動 の 中 心 にあ り それゆえに 法 的 活 動 の 中 心 にあることから それが 何 かを 確 定 すること は より 一 貫 した 実 定 法 による より 一 貫 した 実 定 法 のための 重 要 な 階 梯 をな している 私 は 債 務 関 係 が 捕 捉 しているものに 関 する 理 解 を 進 めるために は この 関 係 を 外 在 的 (extrinsèque)および 内 在 的 (intrinsèque)な 仕 方 で つまり 外 生 的 (exogène)および 内 生 的 (endogène)な 仕 方 で 把 握 すること 27)この 問 題 につき Baron, La date de naissance des créances contractuelles à l épreuve du droit des procédures collectives, R.T.D. com., 2001, p. 1 et s. を 参 照 238

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ が 適 切 だと 考 える 第 一 段 階 は より 単 純 なものであり 上 述 の 方 向 で 債 務 関 係 を 他 の 形 式 の 関 係 と 区 別 することである それによって 債 務 関 係 の 特 徴 を 際 立 たせるために 債 務 関 係 の 識 別 要 素 が 明 らかになる(Ⅰ) 第 二 段 階 は より 複 雑 なものであるが 債 務 関 係 の 構 成 要 素 を 明 らかにすることである そ れは 主 に 債 務 のさまざまな 目 的 に 関 する 分 類 に 依 拠 しつつ 行 われる(Ⅱ) Ⅰ 債 務 関 係 の 識 別 要 素 9 債 務 関 係 は 法 律 関 係 である それゆえ ここで 問 題 となる 債 務 は 法 的 な サンクションの 対 象 となる 法 的 債 務 である ところで 非 法 的 な 債 務 と 法 的 債 務 との 間 の 境 界 は 微 妙 である そこで 乗 り 越 えられるべき 障 害 の 第 一 は 道 徳 的 債 務 と 法 的 債 務 との 間 の 区 別 この 点 には 誤 解 がみられるのであるが を 行 うことである(A) 法 的 債 務 が 道 徳 的 債 務 から 区 別 されると これとはまた 別 に 契 約 法 に 固 有 の 問 題 が 立 ち 現 れる それは 契 約 関 係 と 債 務 関 係 との 区 別 この 点 は 看 過 されている つまり 契 約 と 債 務 との 区 別 である(B) A 法 的 債 務 と 道 徳 的 債 務 との 区 別 に 関 する 誤 解 10 道 徳 的 債 務 と 自 然 債 務 :サンクションという 指 標 道 徳 的 債 務 は 法 的 債 務 ではない ごく 図 式 的 にいえば 道 徳 的 債 務 が 国 家 権 力 によって 宣 言 される サンクションを 欠 くのに 対 し 法 的 債 務 は 国 家 によって 保 護 され サンクショ ンされる それゆえ 両 者 の 分 水 嶺 は サンクションにある より 正 確 にいえ ば それは サンクションの 性 質 とそれを 決 定 する 者 とにある というのは 道 徳 の 領 域 においても エミール デュルケムの 理 論 に 従 えば 道 徳 律 は 社 会 によって 分 散 的 にサンクションされ 得 ると 解 されるからである 28) 他 方 法 的 債 務 はといえば それは 国 家 によってサンクションされる 法 的 債 務 は 強 制 28)E. Durkheim, L éducation morale (1902/1903), PUF, 1992. 239

講 義 (メキ/ 山 城 ) 履 行 の 対 象 となるが このことは 単 なる 道 徳 的 義 務 については 明 らかに 除 か れている 道 徳 的 債 務 は 一 般 に 良 心 の 裁 き(for intérieur)に 属 する 道 徳 的 債 務 を 法 的 債 務 から 区 別 するために 時 として 義 務 (devoir)という 語 が 好 ん で 用 いられる 29) 道 徳 的 債 務 は 礼 節 の 規 範 だということができる ポティエ によれば ここで 問 題 になるのは 不 完 全 債 務 (obligations imparfaites) であ る 30) この 対 比 は 単 純 であるという 点 に 利 点 を 有 する しかし 分 析 を 深 めるならば それが 過 度 に 単 純 化 されたものであることがわかるだろう 11 道 徳 的 債 務 と 自 然 債 務 との 間 の 区 別 の 多 孔 性 (porosité) 礼 節 に 関 わ る 純 然 たる 道 徳 的 債 務 は 法 律 上 の 債 務 ないし 法 的 債 務 とははっきりと 区 別 さ れ 得 る 実 際 には 法 と 道 徳 との 中 間 つまりは 道 徳 的 債 務 と 法 的 債 務 との 中 間 に 属 する 状 況 によって 問 題 が 提 起 されるのである 様 々な 法 概 念 が あるい は 道 徳 に 対 する 法 の 影 響 の 表 現 として 31) あるいは 法 に 対 する 道 徳 の 影 響 の 表 現 として 32) 解 釈 されてきた そうした 概 念 の 例 として 権 利 濫 用 不 当 利 得 何 人 も 自 己 の 背 徳 の 援 用 を 許 されず の 法 格 言 信 義 誠 実 フロード ( 最 近 では 判 例 は 不 道 徳 なフロードよりも 不 法 なフロードのほうへと 接 近 してい るのであるが 33) )を 挙 げることができる また 法 と 道 徳 の 中 間 にあるこれら 29) 同 旨 J. Carbonnier, Droit civil, Les obligations, Tome 4, PUF, Coll. Thémis, 22 ème éd., 2000, nº 7. 30)Pothier, Traité des obligations, 1 re partie, article préliminaire. 31) 同 旨 J. Carbonnier, Sociologie juridique, PUF, Quadrige, 1978, p. 311 et s. 32)リペールに 加 えて R. Savatier, Des effets de la sanction du devoir moral en droit positif et devant la jurisprudence, thèse paris, 1916. 33) 本 判 決 につき Cass. soc., 10 novembre 2009, RDC, 2010-2, p. 557, obs. Y.-M. Laithier. 34) 衡 平 は 道 徳 と 法 の 間 に 位 置 する 同 旨 D. Terré, Droit, morale et sociologie, in L Année sociologique, Ethique et sociologie. Perspectives actuelles de la sociologie morale, vol. 54, 2004, n o 2, p. 483 et s., spéc. p. 486 et s. 35) 立 ち 入 った 研 究 として V. Lasserre-Kiesow, La technique législative. Etude sur les codes civils français et allemand, Préf. M. Pedamon, L.G.D.J., Bibliothèque de droit privé, Tome 371, 2002, p. 351 et s. を 参 照 240

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ の 法 概 念 の 中 には フォート 良 家 父 家 族 の 利 益 子 の 利 益 衡 平 34) 公 序 良 俗 法 は 些 事 に 関 せず(minimis non currat)(フランス 民 法 典 371 条 35) ) 許 される 詐 欺 (dolus bonus)と 許 されざる 詐 欺 (dolus malus)との 区 別 そして より 一 般 的 に 法 と 道 徳 との 関 係 の 縮 小 模 型 36) たる 倫 理 規 範 (les codes de déontologie)といった 著 名 な 法 的 スタンダード 37) も 存 する これらのスタン ダードは 裁 判 官 にとって 道 徳 習 俗 と 法 との 対 話 を 行 う 機 会 となる ここ において 裁 判 官 は これらの 観 念 によって 彼 に 与 えられる 操 作 の 余 地 を 活 用 して 規 範 システムの 衡 量 (pondération)を 行 う それは 多 様 な 内 容 をもってお り ドウォーキンによって 提 示 された 道 徳 の 諸 原 則 を 想 起 せずにはおかない 38) 以 上 の 例 のうちでも 二 つのものが 際 だっており 道 徳 的 債 務 と 法 的 債 務 と の 境 界 の 多 孔 性 (porosité)を 申 し 分 なく 例 証 してくれる 第 一 は 自 然 債 務 というカテゴリーである(1) 第 二 は 第 一 のものと 密 接 に 関 わりつつ 徳 義 上 の 約 束 (engagement d honneur)の 問 題 に 関 わる(2) 36)D. Terré, Droit, morale, op. cit. [note 34], p. 499. 彼 女 は p. 507 et 508において 次 のよ うに 付 け 加 えている デュルケムが 社 会 学 に 与 えた 道 徳 的 傾 向 を 忘 れてはならない 法 は 習 俗 の 実 効 性 と 道 徳 法 則 の 命 令 可 能 性 との 間 を 仲 介 する 位 置 に 立 つのである 法 と 道 徳 のこうした 接 近 として 二 つの 例 に 言 及 することができる 干 渉 権 (droit d ingérence) の 出 現 と 職 業 倫 理 の 発 展 である 37)Ph. Coet, Les notions-cadres dans le Code civil, Etudes des lacunes intra legem, Thèse Paris II, 1985 ; J. Maury, Observations sur les modes d expression du droit : règles et directives, in Etudes Lambert, Tome I, Introduction à l étude du droit comparé, L.G.D.J., 1938, 35, pp. 421-433 ; A.-A. Al-Sanhoury, Le standard juridique, in Etudes Fr. Gény, Tome II, Sirey, p. 144-156. Adde, Ch. Perelman et R. Vander Elst (dir.), Les notions à contenu variable en droit, Travaux du centre national de recherches de logique, Bruxelles, Bruylant, 1984, spéc. Ch. Perelman, Les notions à contenu variable en droit, essai de synthèse, p. 363-374. 38)V. égal., J. Carbonnier, Sociologie juridique, op. cit. [note 31], p. 308. カルボニエは 同 旨 を 説 いて 次 のようにいう しかし これらの 集 まりのなかに 習 俗 に 対 して 開 かれた 窓 がしつらえられてはいなかっただろうか 漠 たるものではあるが フォートのような 観 念 を 用 いる 場 合 がそうである というのは フォートは 法 規 範 に 対 する 違 反 であるとと もに 道 徳 規 範 に 対 する 違 反 でもあり 得 るからである 241

講 義 (メキ/ 山 城 ) 1 自 然 債 務 12 自 然 債 務 半 道 徳 的 半 法 的 なるもの リペール(G. Ripert)によれ ば 道 徳 律 が 法 的 な 形 象 を 取 るに 至 らないときにも われわれは 道 徳 が 法 との 境 界 をさまようのをしばしば 見 出 すし 少 なくとも 自 然 債 務 とは 別 にし てそれを 考 察 することはできないかと 問 う それは 法 的 生 活 において 拘 束 力 のない 債 務 (obligations non obligatoires)という 亡 霊 と 同 じくらい 興 味 深 い 様 相 の 一 つである 過 度 に 厳 密 な 考 え 方 は こうした 観 念 に 満 足 することがで きないのである 39) フランス 民 法 典 は 自 然 債 務 については 1235 条 におい て 簡 単 な 言 及 を 行 うことをもって 満 足 している すなわち 弁 済 はすべて 負 債 を 前 提 とする 義 務 づけられることなく 弁 済 したものは 返 還 請 求 に 服 す る 返 還 請 求 は 任 意 に 弁 済 された 自 然 債 務 に 関 しては 認 められない こ の 債 務 の 規 範 内 容 は 全 面 的 に 判 例 によって 形 成 されたのであり その 適 用 領 域 の 拡 大 は 留 まるところを 知 らない 40) カタラの 準 備 草 案 は1151 条 におい て 41) また テレの 準 備 草 案 は 2 条 において 42) それぞれ 自 然 債 務 を 承 認 し ている 13 自 然 債 務 の 適 用 領 域 自 然 債 務 の 現 れは 様 々である 第 一 に それは 衰 えた 法 的 債 務 すなわち かつては 法 的 であったがいまはそうではない 債 務 という 姿 を 呈 し 得 る たとえば 時 効 にかかった 法 律 上 の 債 務 は 一 種 の 自 然 債 務 となり 法 的 には 債 務 者 を 解 放 するが 道 徳 的 には 依 然 として 債 務 者 を 39)G. Ripert, La règle morale dans les obligations civiles, 2 ème éd., L.G.D.J., 1955, réimpression 1994. なお 同 書 の 最 終 版 は 第 四 版 その 出 版 年 は1949 年 であるから 出 典 の 表 示 は 誤 り と 思 われる( 参 照 頁 の 指 示 がないため 叙 述 の 対 照 をすることはできなかった) 40)M. Julienne, Obligation naturelle et obligation civile, D. 2009, Chr., p. 1709 et s. 41)カタラ 草 案 1151 条 : 自 然 債 務 は 他 者 に 対 する 良 心 における 義 務 を 包 含 する 自 然 債 務 については 返 還 請 求 を 生 じさせない 任 意 の 履 行 又 は それを 弁 済 する 旨 の 履 行 の 約 束 をすることができる 42)テレ 草 案 2 条 : 自 然 債 務 については 返 還 請 求 を 生 じさせない 任 意 の 履 行 又 は そ れを 弁 済 する 旨 の 履 行 の 約 束 をすることができる 242

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ 拘 束 する 43) 無 能 力 を 理 由 として 無 効 となった 債 務 は 自 然 債 務 を 存 続 させ る これら 衰 えた 法 的 債 務 のほかに 道 徳 的 義 務 ないし 誠 実 性 という 意 味 における 自 然 債 務 もまた 存 し 得 る 44) それは 当 初 から 法 的 債 務 ではない すなわち 口 頭 での 遺 贈 は 恵 与 の 受 益 者 の 負 担 において 自 然 債 務 を 生 じさせ る また 懸 賞 広 告 (promesse de récompance)も 自 然 債 務 を 生 じさせる さ らに 姻 族 間 45) 兄 弟 姉 妹 間 46) あるいは 離 婚 した 夫 婦 間 47) での 扶 養 義 務 を 加 えることもできる 最 後 に 債 務 (Schuld ; devoir)によって 組 成 されてい るが 責 任 (Haftung ; engagement)を 欠 く 債 務 関 係 が 存 在 する これらすべての 場 合 において われわれは 未 完 成 不 完 全 な 法 的 債 務 に 直 面 し 48) あるいは 純 然 たる 道 徳 的 債 務 を 目 の 当 たりにするのだろうか 49) この 問 題 につき 学 説 は 分 かれている 50) たとえば 自 然 債 務 は しばしば 裁 判 所 によって 法 の 世 界 へと 導 き 入 れられた 良 心 における 義 務 であると 説 かれる 51) いずれにせよ 自 然 債 務 の 問 題 は 法 と 道 徳 の 境 界 を 相 対 化 する フランス 法 においては 将 来 的 に 法 的 債 務 になる 可 能 性 のある 自 然 債 務 の 真 の 指 標 は 社 会 的 利 益 である ベナバン(A. Bénabent) 氏 が 強 調 するように 43)J. Carbonnier, Sociologie juridique, op. cit. [note 31], p. 318. 44) 同 旨 として A. Bénabent, Les obligations, 12 ème éd., Montchrestien, 2010, nº 5, p. 3. 45)Cass. req., 10 janvier 1905, DP 1905, 1, p. 47. 46)C.A. Paris, 25 avril 1932, DH 1932, somm. 26. 47)Cass. 2 ème civ., 25 janvier 1984, D. 1984, p. 442, note C. Philippe. 48) 同 旨 Aubry et Rau, [Cours de droit civil français d après la méthode de Zachariæ], Tome 4, 297 ; J. J. Dupeyroux, Contribution à la théorie générale de l acte à titre gratuit [Préf. J. Maury, L.G.D.J, 1955], spéc. nº 333 et s. 49)G. Ripert, La règle morale dans les obligations civiles [note 39], spéc. nº 186 et s. ; L. Josserand, Cours de droit civil positif français, [3 ème éd., 1939]Tome II, spéc. nº 717 et s. Rappr. M. Gobert, Essai sur le rôle de l obligation naturelle, Thèse Paris, Préf. J. Flour, Sirey, 1957. 50)こうした 議 論 につき J. Ghestin et G. Goubeaux, Introduction générale, L.G.D.J., 3 ème éd., 1990, nº 667 et s., p. 641 et s. を 参 照 51)こうした 分 析 につき D. Laszlo-Fenouillet, La conscience, Thèse Panthéon-Assas (Paris II)éd., 1993, spéc. nº 147, p. 87. を 参 照 243

講 義 (メキ/ 山 城 ) 自 然 債 務 のリストを 作 成 することは 不 可 能 である というのは 道 徳 誠 実 性 名 誉 といった 観 念 は 時 代 場 所 環 境 に 応 じて 多 様 だからである 52) 加 えて ゴベール(M. Gobert) 氏 は そのテーズにおいて 次 のように 述 べて いる 良 心 における 義 務 が 存 在 するとすれば それは 主 として 良 家 父 につ いてであり ごく 附 随 的 に 債 務 に 服 する 個 人 についてである まさにここに 自 然 債 務 に 対 する 良 心 の 役 割 が 存 するのである いわゆる 法 律 上 の 効 力 をもつ 良 心 における 義 務 とは 規 範 に 服 する 法 主 体 の 良 心 によって 課 される 義 務 では なく 集 合 意 識 (conscience collective) つまり 道 徳 律 によって 課 される 義 務 である 53) ここには デュルケミアンの 影 響 が 顕 著 にみられる 結 局 自 然 債 務 とは 道 徳 習 俗 および 法 の 対 話 の 結 果 であり 54) 債 務 は 法 と 道 徳 の 中 間 領 域 に 位 置 づけられる 55) いかなる 理 論 に 与 するにせよ 自 然 債 務 は 法 的 効 力 をもつ 何 か ではある 56) それは 道 徳 的 エリート のみにかか わる 法 規 範 に 相 当 する 57) 14 自 然 債 務 の 法 的 債 務 への 転 換 フランスの 裁 判 官 は いかなる 方 法 を 通 じて 社 会 的 利 益 の 名 において 自 然 債 務 を 法 的 債 務 へと 転 換 させるのか 第 一 の 法 技 術 は 債 務 者 による 自 然 債 務 の 任 意 の 履 行 に 基 づくものである たとえ ば 債 務 者 が 時 効 にかかった 債 務 を 支 払 い または 賭 博 による 債 務 を 支 払 っ たとき 債 務 者 は 自 然 債 務 を 履 行 するのであり 非 債 弁 済 によってその 返 還 を 求 めることはもはやできない(フランス 民 法 典 1235 条 2 項 ) この 債 務 は 支 払 義 務 のないものではない というのは それは 債 務 によって 組 成 される 法 律 関 係 に 基 礎 を 置 いていたからである この 債 務 は 責 任 の 存 在 を 伴 わなくて 52)A. Bénabent, Les obligations, op. cit. [note 44], nº 5, p. 3 et 4. より 広 くは Rotondi, le concept d obligation naturelle et son évolution, R.T.D. civ., 1979, p. 1 et s. を 参 照 53)M. Gobert, th. préc. [note 49], spéc. p. 15 et s. 54) 同 旨 として G. Ripert cité par D. Terré [note 34], p. 486. を 参 照 55)J. Ghestin et G. Goubeaux, op. cit. [note 50], nº 668, p. 642. 56)Ibid., nº 674, p. 650. 57)Ibid., nº 675, p. 651. 244

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ も 法 的 効 果 を 生 じ 得 るのである なお 当 然 のことながら 弁 済 は 任 意 か つ 原 因 を 認 識 して つまり 錯 誤 によらずになされることを 要 する 58) たとえば 破 毀 院 第 一 民 事 部 2006 年 11 月 21 日 判 決 は 1134 条 および1235 条 に より 次 のように 判 断 した X 氏 は 明 示 の 意 思 表 示 をもって Y 氏 に 対 し 報 酬 の 返 還 を 約 束 した これは 1997 年 2 月 1 日 付 けの 書 簡 に 記 されており X 氏 は もはや 当 初 の 組 合 契 約 には 拘 束 されないにもかかわらず 組 合 が 存 続 していた 5 年 の 間 に 受 領 した 報 酬 を 繰 り 返 し 返 済 した 以 上 のことは 自 然 債 務 の 存 在 を 認 定 するに 十 分 なものであるが それにもかかわらず 控 訴 院 は これらの 事 実 を 考 慮 せずに 前 述 のように 判 示 したものであり 上 掲 の 各 法 条 に 違 背 している 59) いうなれば 自 然 債 務 が 法 的 債 務 へと 変 容 し 得 るのは それらがほとんど 同 一 の 性 質 を 有 するからである この 点 につき デュペイルー(J.-J. Dupeyroux) のテーズにおいて 展 開 されたいわゆる 新 古 典 理 論 は 次 のように 指 摘 した す なわち 自 然 債 務 と 法 的 債 務 は 債 権 者 と 確 定 可 能 な 目 的 という 同 じ 客 観 的 要 素 を 有 する 自 然 債 務 は 責 任 なき 法 的 債 務 として 分 析 することができる しかし それは なおも 債 務 者 と 債 権 者 の 間 の 実 体 的 関 係 つまり 債 務 ではあ り 続 けている 60) これに 対 し リペールが 加 担 する 他 の 学 説 上 の 潮 流 は 二 つの 債 務 の 性 質 における 共 通 性 を 完 全 に 否 定 する 自 然 債 務 は 不 完 全 な 法 的 債 務 ではあり 得 ないというのである リペールによれば 61) 自 然 債 務 は 58) 反 対 の 場 合 につき Cass. 1 re civ., 12 juillet 1994, pourvoi nº 92-13375を 参 照 59)Cass. 1 re civ., 21 novembre 2006, Bull. civ. I, nº 503. 医 師 XおよびYが 各 々が 受 領 した 報 酬 を 平 等 に 分 配 する 旨 を 定 めた 5 年 の 組 合 契 約 を 締 結 したものの Xの 活 動 がYに 比 べ て 著 しく 少 なかったことにより 分 配 に 不 均 衡 が 生 じたため Xが Yに 対 し 5 年 の 間 に 受 領 した 報 酬 を 分 割 払 いで 返 還 し 続 けていたという 事 案 60)J.-J. Dupeyroux, Contribution à la théorie générale de l acte à titre gratuit [note 48], spéc. n o 333 et s. 61)G. Ripert, La règle morale dans les obligations civiles [note 39], n o 186 et s. 同 旨 L. Josserand, Cours de droit civil français [note 49], Tome II, n o 717 et s. 245

講 義 (メキ/ 山 城 ) 単 なる 道 徳 的 義 務 良 心 における 義 務 であるとされる こうした 性 質 の 相 違 は 自 然 債 務 を 法 的 債 務 へと 転 換 させる 第 二 の 法 技 術 を 分 析 するなかで 観 察 す ることができる その 法 技 術 とは 自 然 債 務 の 債 務 者 によってなされた 自 然 債 務 を 履 行 する 旨 の 約 束 である その 法 性 決 定 は 自 然 債 務 と 法 的 債 務 とは 同 じ 性 質 を 有 しないとの 考 えを 抱 かせ 得 るものである 自 然 債 務 の 法 的 債 務 への 転 換 は 実 際 に 単 なる 履 行 の 約 束 によっても 生 じ る この 自 然 債 務 の 履 行 約 束 は 更 改 と 性 質 決 定 されるだろうか 更 改 は 旧 債 務 に 代 置 されることを 旨 とする 新 債 務 を 創 設 することによって 旧 債 務 を 消 滅 させること を 目 的 とする 62) そうすると 自 然 債 務 が 衰 えた 法 的 債 務 と 分 析 され 得 るならば これを 更 改 と 考 えることもできるだろう しか し それは 懸 賞 広 告 を 遵 守 する 旨 の 債 務 者 の 約 束 について 下 された 判 決 にお いて 破 毀 院 が 判 示 したところとは 異 なっている 1995 年 10 月 10 日 の 判 決 において 破 毀 院 第 一 民 事 部 は 次 のように 判 示 した 自 然 債 務 の 法 的 債 務 への 転 換 は 不 適 切 にも 更 改 と 性 質 決 定 されている しか し それは 自 然 債 務 を 履 行 しようという 一 方 的 債 務 負 担 行 為 に 基 礎 を 置 くも のであり 法 的 債 務 自 体 がすでに 存 在 しているときには 生 じない 63) このように 先 在 する 法 的 債 務 を 欠 くがゆえに ここでは 更 改 の 問 題 は 生 じ ない 64) 自 然 債 務 の 履 行 約 束 は 一 方 的 債 務 負 担 行 為 として 分 析 されなけれ 62)J. Flour, J.-L. Aubert et E. Savaux, Droit civil, les obligations 3. Le rapport d obligation, Sirey, 6 ème éd., 2010, nº 416, p. 356. 63)Cass. 1 re civ., 10 octobre 1995, Cass. 1 re civ., 10 octobre 1995, Bull. civ. I, nº 352, D. 1996, Somm. comm., p. 120, obs. R. Libchaber ; D. 1997, p. 155, note G. Pignarre ; Adde, N. Molfessis, L obligation naturelle devant la Cour de cassation : remarques sur un arrêt rendu par la première Chambre civile, le 10 octobre 1995, D. 1997, Chr., p. 85 ; Cass. 1 re civ., 19 mars 2002, pourvoi nº 99-19. 472. 64) 更 改 という 根 拠 に 対 する 批 判 につき N. Molfessis, L obligation naturelle, op. cit. [note 63], spéc. nº 15 et s. ; R. Libchaber, obs. préc. [note 63]を 参 照 246

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ ばならないのである かくして 自 然 債 務 に 関 するこうした 議 論 は フランス 法 において 一 方 的 債 務 負 担 行 為 の 有 用 性 を 評 価 する 契 機 となった 一 方 的 債 務 負 担 行 為 は 原 則 として 法 律 と 契 約 のみが 債 務 発 生 原 因 をなすフランス 法 にお いては 例 外 的 な 法 技 術 なのである 65) 破 毀 院 は 類 似 の 理 由 づけを 口 頭 の 遺 贈 についても 用 いてきた 原 則 とし て 遺 贈 は 法 律 に 規 定 されている 遺 言 の 三 つの 方 式 (フランス 民 法 典 969 条 ) のうちのいずれか 一 つを 履 践 してなされなければならない これを 欠 くときに は 遺 贈 は 単 に 無 効 であるにとどまらず 不 存 在 である しかし 判 例 は つ とに 方 式 を 遵 守 しない 遺 贈 も 自 然 債 務 を 生 じさせると 判 示 してきた ところ で 故 人 の 最 期 の 意 思 を 履 行 する 旨 を 約 束 することによって この 自 然 債 務 が 法 的 債 務 へと 転 換 させられることがある 破 毀 院 第 一 民 事 部 によって2005 年 1 月 4 日 に 下 された 判 決 がその 例 である 原 判 決 の 認 定 するところでは X 氏 は 書 面 により 彼 らの 祖 父 の 相 続 人 として 彼 に 遺 贈 された 財 産 を その 兄 弟 であるY 氏 と 二 分 する 旨 の 約 束 をした ものであるところ Y 氏 は 証 書 において 明 示 的 に 認 められた その 祖 父 母 によって 表 明 された 意 思 を 尊 重 するという 道 徳 的 債 務 を 自 らの 主 張 の 理 由 とする 兄 弟 によっても 主 張 されている 口 頭 での 遺 贈 は 故 人 との 親 子 関 係 と はまったく 独 立 にX 氏 に 課 される 自 然 債 務 をもたらすものであり したがって X 氏 によって 有 効 に 約 束 された 法 的 債 務 の 原 因 を 供 する かかる 口 頭 での 遺 贈 の 存 在 から 導 き 出 される 唯 一 の 理 由 によって 控 訴 院 は 対 審 の 原 則 に 違 背 す ることなく 自 然 債 務 を 法 的 債 務 へと 転 換 させる 自 然 債 務 の 履 行 というコー ズを 認 識 しつつなされた 一 方 的 債 務 負 担 行 為 を 適 法 に 認 定 したのであり X 氏 は 錯 誤 に 陥 っていたとも 主 張 していない 66) ここにおいて 一 方 的 債 務 負 担 行 為 は 相 続 人 に 対 し 法 的 債 務 へと 転 換 さ 65)この 点 の 議 論 につき M. Gobert, th. préc. [note 49], p. 45 et s. を 参 照 66)Cass. 1 re civ., 4 janvier 2005, JCP(G), 2005, II, 10159, note M. Mekki. 247

講 義 (メキ/ 山 城 ) れた 自 然 債 務 を 遵 守 するよう 強 制 することを 可 能 にする フランス 法 において は 原 則 として 一 方 的 意 思 は 債 務 を 生 じさせ 得 ない しかし 明 確 で 曖 昧 さ のない 意 思 が 存 在 し 補 充 性 の 原 則 が 遵 守 され そして とりわけ この 法 技 術 を 用 いることが 社 会 的 に 有 用 であるという 各 要 件 が 満 たされるときには 一 方 的 債 務 負 担 行 為 という 法 技 術 は 例 外 的 に 債 務 の 発 生 に 奉 仕 し 得 るのである 67) 社 会 的 利 益 の 名 において 裁 判 官 は 一 定 の 場 合 には 自 然 債 務 を 法 的 債 務 に 転 換 することができる 自 然 債 務 は 一 方 的 債 務 負 担 行 為 の 助 力 を 伴 うことに よって 欠 くべからざる 道 徳 的 価 値 信 義 誠 実 に 基 礎 を 置 く 諸 々の 人 間 関 係 の 価 値 68) となるのである 最 後 に 2005 年 判 決 において 破 毀 院 は 決 定 的 な 詳 述 を 行 った 一 方 的 債 務 負 担 行 為 は 法 的 拘 束 力 を 与 える 対 象 となる 道 徳 的 義 務 が 先 在 することをその コーズとする したがって その 射 程 はいっそう 限 定 されている 破 毀 院 は 既 に 従 前 から 判 示 してきたように 相 続 人 の 法 的 債 務 は 故 人 の 自 然 債 務 を コーズとする と 判 示 している それゆえ 本 判 決 によって 破 毀 院 は 一 方 的 債 務 負 担 行 為 を 一 般 的 に 債 務 発 生 原 因 の 一 つとして 承 認 することを 企 図 した わけではなく 69) むしろ 社 会 的 有 用 性 によって 正 当 性 が 与 えられる 例 外 的 な 場 合 に 限 定 することを 選 んだのである 70) 15 自 然 債 務 強 制 力 なき 義 務 責 任 なき 債 務 私 は 個 人 的 には 道 徳 的 債 務 は 実 のところ 法 的 債 務 と 異 なる 性 格 を 有 しないと 考 えている 少 なくとも 論 理 構 造 における 両 者 の 同 一 性 を 擁 護 することは 可 能 である 実 67)J. Flour, J.-L. Aubert et E. Savaux, L acte juridique, 11 ème éd., Armand-Colin, 2004, nº 502. 肯 否 の 議 論 につき Fr. Terré, Ph. Simler et Y. Lequette, Droit civil, Les obligations, 9 ème éd., Dalloz, 2005, nº 51, p. 59 を 参 照 68)M. Gobert, th. préc. [note 49], p. 192. 69)こうした 一 般 化 に 好 意 的 なものとして M.-L. Izorche, L avènement de l engagement unilatéral en droit privé contemporain, thèse Aix, 1995 を 参 照 70) 同 旨 と し て 既 に Fr. Gény, Méthode d interprétation et sources en droit privé positif, Tome II, L.G.D.J., 1954, nº 172 bis. 248

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ 際 何 人 も 自 然 債 務 を 債 権 者 と 債 務 者 の 間 における 拘 束 力 を 伴 わない 実 体 的 関 係 と 理 解 し 得 ることを 否 定 しない ただし それは この 法 性 決 定 が 規 範 内 容 に 反 映 されないことを 条 件 としてのことである たとえば 自 然 債 務 と 法 的 債 務 との 間 の 性 質 の 同 一 性 をもってしても これを 更 改 と 考 える 余 地 はなお 存 しない その 理 由 は 両 者 の 性 質 が 異 なることにではなく 次 のことに 求 めら れる 自 然 債 務 は 消 滅 するのではなく それが 欠 いていた 強 制 力 の 要 素 を 獲 得 するのである 71) 道 徳 的 債 務 と 法 的 債 務 との 間 に 引 かれるこうした 境 界 は さらに 徳 義 上 の 約 束 (engagement d honneur)というカテゴリーによっても 例 証 され 得 る 2 徳 義 上 の 約 束 16 法 的 効 力 を 生 じる もっぱら 道 徳 的 な 約 束 という 不 可 解 さ! 徳 義 上 の 約 束 あるいは 紳 士 協 定 (gentlemen s agreement)は 単 なる 道 徳 的 債 務 の みを 生 じさせ 法 的 射 程 をもたない 約 束 である 72) こうした 約 束 は はじめ は 国 際 公 法 および 国 際 私 法 において 生 じたものであるが 今 日 においては 取 引 のあらゆる 領 域 に 拡 がっている たとえば 親 会 社 が 子 会 社 のために 純 粋 に 道 徳 的 な 支 援 を 与 えるべく 約 束 したときには 支 援 状 (lettre d intention: 経 営 指 導 念 書 )という 法 性 決 定 は 支 持 され 得 ない 判 例 によれば それは 単 なる 道 徳 的 な 約 束 である 判 例 は これを 徳 義 上 の 約 束 (engagement d honneur)というより 広 いカテゴリーの 中 に 取 り 入 れている しかし この 制 度 を 法 の 外 に 置 いたままにしておくことは 難 しく 判 例 は 当 事 者 によって 明 示 的 に もっぱら 道 徳 的 な ものと 法 性 決 定 された 約 束 につき 法 的 債 務 を 生 じさ せるものと 法 性 決 定 することを 躊 躇 しない 破 毀 院 商 事 部 が2007 年 1 月 23 日 に 下 した 判 決 は この 点 を 申 し 分 なく 確 認 す 71)R. Bout, Rép. Dalloz, civil, V o Obligation naturelle, spéc. n o 66. 72)B. Oppetit, L engagement d honneur, D. 1979, Chr., p. 107. 249

講 義 (メキ/ 山 城 ) るものである 本 件 は ある 会 社 が 他 の 会 社 の 商 品 をコピーしないことを 約 束 していた 事 案 であり この 約 束 が 法 に 服 するものであり したがって これ が 遵 守 されなかったときには 法 的 なサンクションを 得 ることができるのか そ れとも 単 なる 道 徳 的 な 約 束 の 問 題 にすぎないのかが 争 われた 破 毀 院 は 次 のように 判 示 した 道 徳 的 にではあれ クレアシオン ネルソン 社 によって 商 品 化 された 製 品 を コピーをしないこと を 約 することによって カマイユ アンテルナシオナル 社 は 競 合 会 社 に 対 して 拘 束 されるという 明 確 かつ 確 定 的 な 意 思 を 表 明 した したがって 控 訴 院 は この 条 項 は 当 事 者 に 対 して 拘 束 力 を 有 し それを 法 的 に 対 抗 することができる 旨 を 正 当 に 判 示 したものであって これを 論 難 する 上 告 理 由 には 理 由 がない 73) これこそまさに 法 的 効 力 を 生 じさせる 道 徳 的 約 束 である! このパラドク スを 克 服 するために 別 の 分 析 が 示 されている 当 事 者 は 客 観 的 に 法 的 な 約 束 であるものを その 主 観 によって 道 徳 的 な 約 束 と 法 性 決 定 することはできな いというのである 自 然 債 務 の 存 在 は 裁 判 官 によって 評 価 されるある 種 の 客 観 的 事 実 であり 個 人 の 意 思 に 依 存 するものではない 約 束 をする 者 は た とえば 道 徳 的 約 束 をなしたと 告 げるという 事 実 のみによって 自 らの 法 的 債 務 を 自 然 債 務 へと 格 下 げ することはできない 74) しかし 私 は こうした 分 析 が 当 を 得 たものであるかについては 疑 いをもっ ている 公 序 に 基 づく 規 定 または 制 度 を 害 するのでない 以 上 当 事 者 が その 意 思 によって 法 の 領 域 に 属 する 法 律 行 為 を 退 かせることがなぜできないの か 私 にはわからない そのうえ 本 件 においては 裁 判 官 は 約 束 の 再 性 質 決 定 を 行 っていない ここには 道 徳 的 でありながら 法 的 な 拘 束 力 を 生 じさせ ることになる 道 徳 的 約 束 が 見 出 されているのである! 73)Cass. com., 23 janvier 2007, pourvoi nº 05-13189 ; R.T.D. civ. 2007, p. 340, obs. J. Mestre et B. Fages ; RDC, 2007/3, p. 697, obs. Y.-M. Laithier. 同 旨 として Cass. civ. 29 avril 1873, DP, 1873, 1, 207 ; Req., 26 janv. 1874, DP, 1875, 1, 23 を 参 照 74)A. Bénabent, Les obligations, op. cit. [note 44], nº 5, p. 4. 250

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ 本 判 決 は 法 的 債 務 の 発 生 を 取 り 巻 く 不 可 解 さの 証 左 である 道 徳 から 法 へ の 移 行 はいつ 生 じるのか これに 対 する 答 えは 意 表 を 突 くものではあるが 簡 単 である つまり 裁 判 官 が 経 済 的 および 社 会 的 環 境 に 基 づいてそう 判 断 し たときだ ということになる そして オプティ(B. Oppetit)が 強 調 するよ うに このことは とりわけ 取 引 の 領 域 において 真 である ともあれ 本 判 決 は 道 徳 的 債 務 と 法 的 債 務 との 間 の 境 界 の 多 孔 性 を 確 認 するものである 道 徳 的 約 束 は 必 ずしも 法 的 効 力 を 排 除 しないのである 75) 17 要 するに 自 然 債 務 とは 一 方 的 債 務 負 担 行 為 または 原 因 を 認 識 しつつな される 履 行 の 着 手 によって 完 全 な 法 的 債 務 へと 転 換 し 得 る 強 制 力 を 欠 いた 実 体 関 係 である 道 徳 の 圏 域 から 法 の 圏 域 への 移 行 は 諸 般 の 事 情 に 関 わる 事 柄 である 裁 判 官 が 望 むならば 諸 般 の 事 情 に 基 づき 純 粋 に 道 徳 的 な 約 束 がし ばしば 法 的 効 力 を 生 じるのである 道 徳 的 債 務 と 法 的 債 務 との 境 界 づけの 多 孔 性 が 誤 解 されているのに 対 して 契 約 による 拘 束 と 契 約 による 義 務 との 区 別 は より 深 刻 なことに 看 過 されて いる B 契 約 関 係 と 債 務 関 係 との 区 別 に 関 する 看 過 18 契 約 は 主 要 な 債 務 発 生 原 因 の 一 つである ところで フランスの 実 定 法 は ケルゼン 流 の 理 論 に 影 響 を 受 けた 構 想 によれば 規 範 の 創 造 である 契 約 と その 効 力 の 一 つとして 生 じる 債 務 との 間 に ある 種 の 混 同 を 来 している 契 約 の 拘 束 力 と 債 務 内 容 とを 区 別 することは いくつかの 問 題 を 解 明 し 実 定 法 を 読 解 するための 新 たな 補 助 線 を 提 供 してくれる しかし その 有 用 性 を 提 示 す るに 先 立 ち まずは 実 定 法 と 学 説 を 現 に 支 配 している 混 同 をふり 返 っておかな ければならない いいかえれば われわれは まず 現 状 (de lege lata)の 考 察 を 行 い(1) 次 いで あるべき 規 律 (de lege ferenda)の 分 析 へと 進 むことに 75)Fr. Terré, Introduction au droit, Précis Dalloz, 7 éd., 2006, nº 13. 251

講 義 (メキ/ 山 城 ) しよう(2) 1 現 状 : 契 約 の 拘 束 力 と 債 務 内 容 との 混 同 19 この 混 同 は 契 約 の 拘 束 力 を 覆 うものの 捉 えがたさによって また 契 約 と 債 務 の 分 水 嶺 を 跡 づけることの 難 しさによって 説 明 することができる 20 契 約 の 拘 束 力 という 観 念 契 約 の 拘 束 力 は フランス 民 法 典 の 中 では 定 義 されていない 参 照 される 規 定 は 民 法 典 1134 条 1 項 であるが それは 適 法 に 形 成 された 合 意 は それをなした 者 に 対 して 法 律 に 代 わる というも のである 日 本 の 民 法 には この 種 の 規 定 は 存 しない 債 権 (399 条 以 下 ) 契 約 の 効 力 (533 条 以 下 ) 法 律 行 為 (90 条 以 下 )が 想 起 されるが 契 約 の 拘 束 力 の 原 則 が 暗 示 されていると 考 えることはできるにせよ いずれにおいても 形 式 的 には 契 約 の 拘 束 力 は 問 題 とされていない もっとも フランス 民 法 典 1134 条 1 項 も 拘 束 力 とは 何 かについての 定 義 を 与 えているわけではない 判 例 は といえば 契 約 によって 作 り 出 された 法 状 態 と 第 三 者 との 関 係 の 性 質 を 決 定 す るために 契 約 の 対 抗 という 新 しい 観 念 を 付 け 加 えることによって 混 乱 を 助 長 している この 観 念 は 無 用 のもののように 思 われるし 契 約 と 第 三 者 との 関 係 は 契 約 の 拘 束 力 によって 説 明 すれば 十 分 であるとするドイツ 法 においても 知 られていない 76) 契 約 が 拘 束 力 を 備 えるのはなぜかという 点 にこそ 重 要 な 問 題 があるのである そこで この 点 を 明 らかにするために 1134 条 1 項 は 進 化 的 文 脈 的 な 解 釈 の 対 象 とされてきた 拘 束 力 は 学 説 上 の 議 論 の 的 であり 本 条 の 意 味 は 時 代 と 場 所 に 応 じて 区 々である 77) まず 民 法 典 1134 条 1 項 は 意 思 自 律 の 原 76)この 点 につき R. Wintgen, Etude critique de la notion d opposabilité. Les effets du contrat à l égard des tiers en droit français et allemand, Préf. J. Ghestin, L.G.D.J., 2004 を 参 照 77)Chr. Jamin, Une brève histoire politique des interprétations de l article 1134 du code civil, D. 2002, Chr., pp. 901-907 ; J.-P. Chazal, De la signification du mot moi dans l article 1134 alinéa 1 er du code civil, R.T.D. civ., 2001, pp. 265-283. 252

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ 理 を 基 礎 づけるために 回 顧 的 に 解 釈 されてきた 私 は 自 ら 欲 したために また 自 ら 欲 した 限 度 においてのみ 拘 束 される のである 78) 次 いで 本 条 は 債 権 者 の 視 点 から 分 析 された 拘 束 力 を 基 礎 づけるのは 正 当 な 期 待 つまり 信 頼 (reliance)である 意 思 よりもむしろ 意 思 の 表 明 によって 織 り なされる 関 係 こそが 拘 束 力 をもたらすのである 79) さらに 法 律 中 心 主 義 の 潮 流 のもとでは 法 律 に 適 合 しているということから 契 約 の 効 力 が 引 き 出 さ れると 解 することもできる もっとも これは 説 明 というよりは 確 認 に 属 す るというべきであろう 80) 19 世 紀 末 葉 および20 世 紀 初 頭 においては 支 配 的 見 解 は 契 約 におけるす べてのものが 契 約 的 だというわけではない 81) というデュルケムの 定 式 の 中 に 組 み 入 れられる 契 約 は 社 会 的 強 制 に 服 させる 装 置 として 捉 えられるのであ る 82) 現 在 では 学 説 の 議 論 は 主 に 規 範 主 義 的 な 次 元 のものである すな わち 契 約 とは 諸 規 範 の 階 層 構 造 の 下 に 位 置 づけられ 上 位 規 範 に 服 せしめ られる 個 人 の 規 範 である 83) 最 後 に 契 約 の 拘 束 力 に 対 するより 社 会 学 的 な 説 明 がなされているが われわれはこれに 賛 同 する この 点 につき ファーブ ル マニャン(M. Fabre-Magnan) 氏 は 人 類 学 的 説 明 を 行 っている 84) すな わち あらゆる 社 会 生 活 において 第 一 に 重 要 なことは 約 束 (parole donnée)の 尊 重 つまり 約 束 は 守 られるべし(pacta sunt servanda) である 約 78) 時 にカリカチュアルでもある 批 判 的 説 明 として E. Gounot, Le principe de l autonomie de la volonté en droit privé français. Etude critique de l individualisme juridique, Thèse Dijon, 1912 を 参 照 79)V. not., V.-L. Bénabou et M. Chagny, (dir.), La confiance en droit privé des contrats, Dalloz, Thèmes et commentaires, 2008. 80) 同 旨 M. Fabre-Magnan, Droit des obligations. 1-Contrat et engagement unilatéral, 2 ème éd., PUF, Thémis, 2010, spéc. p. 61 et 62. 81)E. Durkheim, De la division du travail social, PUF, 1973, spéc. p. 189. 82) 自 由 主 義 と 連 帯 主 義 の 学 説 につき M. Mekki, Les doctrines sur l efficacité du contrat en période de crise, RDC, 2010/1, p. 383 et s. を 参 照 83) 総 体 的 な 研 究 として J. Ghestin, Les données positives du droit, R.T.D. civ., 2002, p. 11 et s. 84)M. Fabre-Magnan, Le droit des obligations, 1. Le contrat, op. cit. [note 80], spéc. p. 62. 253

講 義 (メキ/ 山 城 ) 束 が 尊 重 されるという 信 頼 がなければ およそ 社 会 関 係 を 取 り 結 ぶことはでき ないし 社 会 を 構 築 し 持 続 させることもできないのである こうしてみてくると 結 局 意 思 正 当 な 期 待 法 律 または 上 位 規 範 は 同 一 の 目 的 に 達 するための 技 術 的 な 方 法 であるにすぎないように 思 われる その 目 的 とは 取 引 の 法 的 安 全 と 契 約 正 義 との 調 整 による 社 会 の 統 合 である この 観 念 こそが 舞 台 背 景 (toile de fond)であり 続 けなければならないのである 説 明 の 仕 方 は 多 様 であるが 求 められるのはただ 一 つ 信 頼 である このよう に 契 約 の 拘 束 力 は 約 束 の 尊 重 の 名 においてその 上 位 に 属 する 規 範 を 限 界 と しつつ 一 方 の 意 思 と 他 方 の 信 頼 とに 基 礎 を 置 く したがって 拘 束 力 は 純 粋 に 法 律 的 な 問 題 でもなければ もはや 純 粋 に 道 徳 的 な 問 題 でもない それ は 法 道 徳 そして 社 会 秩 序 の 交 錯 点 に 位 置 するのである また 契 約 の 拘 束 力 は 道 徳 的 であると 同 時 に 経 済 的 な 考 慮 に 帰 せられる 道 具 でもある このことは 契 約 の 拘 束 力 に 関 する 議 論 と 密 接 に 関 わる 不 予 見 に 基 づく 改 訂 の 問 題 によって 明 らかにされるとおりである 21 不 予 見 に 基 づく 司 法 的 改 訂 に 関 する 議 論 からみた 契 約 の 拘 束 力 不 予 見 に 基 づく 司 法 的 改 訂 に 反 対 する 際 の 主 要 な 理 由 は 契 約 の 拘 束 力 にある 85) 不 予 見 に 基 づく 改 訂 の 法 理 の 承 認 は 全 面 的 に 拘 束 力 という 観 念 についても ち 得 る 構 想 いかんに 関 わっている 契 約 の 拘 束 力 が 契 約 を 変 更 してはならな いということ 契 約 に 手 を 触 れてはならないということを 意 味 するならば 当 事 者 が 明 示 的 にそれを 予 定 していたような 場 合 を 別 として 実 際 上 あらゆる 改 訂 は 考 えられないと 思 われる これは 1876 年 3 月 6 日 に 破 毀 院 民 事 部 によ って 下 されたクラポン 運 河 判 決 以 来 フランス 法 が 支 持 してきた 立 場 である 86) これに 対 し 契 約 の 拘 束 力 が より 一 般 的 に 当 事 者 の 予 見 可 能 性 という 考 え 85)J. Carbonnier, Les obligations, 22 ème éd., PUF, 148, p. 286 ; Ripert et Boulanger, Traité de droit civil d après le traité de Planiol, Tome II, L.G.D.J., 1957, nº 450. 86)Cass. civ., 6 mars 1876, DP, 1876, 1, p. 193, note Giboulot. 254

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ に 結 びつけられるとすれば 契 約 締 結 の 時 点 において 当 事 者 によって 予 見 され ていたことを 尊 重 すべきことになる こうした 立 場 は 契 約 をいっそう 柔 軟 な 関 係 とみている 日 本 法 からも 引 き 出 され 得 るのではないだろうか 87) もっとも 不 予 見 による 改 訂 を 黙 示 的 に 約 された(rebus sic standibus) 条 項 と 考 えるならば 88) この 仕 組 みは 当 事 者 によって 企 図 されたものの 履 行 過 程 に 生 じた 予 見 不 可 能 な 事 象 によって 阻 害 された 契 約 の 意 味 (l économie du contrat)を 回 復 させることに 資 するといえよう そうすると 不 予 見 に 基 づく 契 約 の 改 訂 は 契 約 の 拘 束 力 の 例 外 ではなく それに 奉 仕 する 契 約 の 修 正 手 段 だということになる にもかかわらず 国 内 外 の 様 々な 条 文 と 学 問 的 な 法 典 化 とを 分 析 すると 不 予 見 による 改 訂 という 仕 組 みの 参 照 は あたかも 契 約 の 拘 束 力 が 原 則 であり 不 予 見 による 改 訂 が 例 外 であるかのように 契 約 の 拘 束 力 に 劣 後 するものとされることが 少 なくない フランスでは 司 法 省 によって 提 案 された 契 約 法 の 改 正 草 案 において 不 予 見 に 基 づく 改 訂 を 定 める136 条 は 合 意 は そこに 表 明 されたことだけでなく 衡 平 慣 習 又 は 法 律 が その 性 質 に 従 って 債 務 に 与 える 帰 結 を 義 務 づける とする135 条 によって 先 行 されて いる 89) テレ(F. Terré)の 準 備 草 案 もまた 同 様 の 立 場 を 示 し その92 条 1 項 において 当 事 者 は 債 務 の 履 行 がより 負 担 の 大 きいものとなっても 自 己 の 債 務 を 履 行 しなければならない と 定 めている また 学 問 的 な 法 典 化 も 形 式 的 には ハードシップ の 問 題 を 例 外 として 少 なくとも 契 約 の 拘 束 力 の 緩 和 として 捉 えることを 選 んだ ヨーロッパ 契 約 法 原 則 においては 事 情 変 更 の 場 合 の 契 約 の 改 訂 は 当 事 者 が 自 らの 債 務 を 履 行 すべきことを 明 らかにした 87)Yosiyuki Noda, La conception du contrat des Japonais, in Etudes de droit japonais, Société de législation comparée, 1989, p. 391 et s. 88)«Clause rebus sic stantibus» の 主 観 的 基 礎 につき 特 に Ph. Stoffel-Munck, Regards sur la théorie de l imprévision. Vers une souplesse contractuelle en droit privé français contemporain, PUAM, 1994, n o 88 et s., p. 63 et s. を 参 照 89)[J. Ghestin, Chr. Jamin et M. Billiau,]Les effets du contrat, L.G.D.J., 3 ème éd., 2001, p. 415 における 次 の 定 式 を 繰 り 返 せば 足 りる まったくの 例 外 として それは 厳 格 な 法 から 生 じる 255

講 義 (メキ/ 山 城 ) 後 に 規 定 されている( 6 :111 条 1 項 ) ユニドロワ 原 則 も 同 旨 である という のは 6.2.1 条 は 契 約 の 履 行 が 当 事 者 の 一 方 にとって より 負 担 の 大 きい ものとなっても ハードシップに 関 する 以 下 の 規 定 に 服 するほか その 当 事 者 は 自 己 の 債 務 を 履 行 しなければならない と 規 定 することによって 始 められて いるからである アキ グループの 共 通 参 照 枠 草 案 は III-1:101 条 において ヨーロッパ 契 約 法 原 則 と 同 様 の 文 言 および 構 造 を 踏 襲 している これほど 明 瞭 な 仕 方 ではないものの アンリ カピタン 協 会 および 比 較 法 制 協 会 (AHC et SLC)によって 提 案 された 共 通 契 約 法 原 則 は 拘 束 力 の 原 則 と 題 する 0 :201 条 を 提 案 しており その 第 1 項 は 適 法 に 形 成 された 契 約 は 当 事 者 間 にお いて 拘 束 力 を 有 する と 規 定 している この 種 の 説 明 は それが 契 約 の 拘 束 力 の 例 外 であるとの 理 解 を 抱 かせるものである 最 後 に 不 予 見 に 基 づく 改 訂 を 承 認 している 国 においても それは 実 際 上 とりわけきわめて 厳 格 な 適 用 要 件 が 課 されているために ごく 限 られた 場 合 にしか 適 用 されていないというこ とに 注 意 しておかなければならない 90) それでもなお 事 情 変 更 の 場 合 における 契 約 の 改 訂 の 中 に 契 約 の 拘 束 力 の 緩 和 ではなく その 適 用 を 見 出 すことは 可 能 である 種 々の 法 体 系 によって 支 持 されている 根 拠 のいかんを 問 わず 91) 契 約 の 改 訂 は 契 約 の 拘 束 力 の 適 用 として 理 解 することができるのである 92) 当 事 者 による 予 見 可 能 性 は 契 約 90) 不 予 見 に 基 づく 改 訂 は たとえそれが 承 認 されていたとしても 稀 にしか 適 用 されてい な い こ の 点 に つ き D. Tallon, «La révision du contrat pour imprévision au regard des enseignements récents du droit comparé», in Droit et vie des affaires - Études à la mémoire d Alain Sayag, Litec, 1997, pp. 403-417, spéc. p. 411 を 参 照 91)ドイツは この 法 技 術 を 信 義 誠 実 の 原 則 に 結 びつけている スイス ギリシア トルコ も 同 様 である イタリアおよびオランダは 衡 平 の 観 念 の 適 用 を 見 出 している 92)V. P. Stoffel-Munck, Regards sur la théorie de l imprévision. Vers une souplesse contractuelle en droit privé français contemporain, Avant-propos A. Sériaux, Préf. R. Bout, PUAM, 1994, spéc. n o 81 et s., p. 59 et s. 論 者 によれば 改 訂 の 根 拠 は 当 事 者 の 意 思 (と りわけ 債 権 者 の 予 見 )と 債 務 者 の 債 務 ( 信 義 誠 実 という 名 目 で 過 大 なものとされてはなら ない)との 組 合 せだとされる 契 約 の 柔 軟 性 (souplesse contractuelle) とまとめられて いるものである(spéc. nº 164, p. 100) 256

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ の 将 来 へと 差 し 向 けられる ここでの 問 題 は リスク 分 配 に 関 する 条 項 がない 場 合 であっても 当 事 者 によって 企 図 された 均 衡 を 履 行 段 階 においても 尊 重 す ることにある 当 事 者 によって 企 図 された 目 的 を 尊 重 しようとすることは 契 約 の 拘 束 力 を 尊 重 することにほかならない 93) そのうえ 不 予 見 による 改 訂 という 仕 組 みは 時 には 暗 黙 のうちに 契 約 の 拘 束 力 の 構 成 要 素 として 説 明 されている たとえば 共 通 契 約 法 原 則 (AHC et SLC) 0 :201 条 は 拘 束 力 の 原 則 と 題 するものでありながら その 第 2 項 において 不 予 見 に 基 づく 改 訂 を 規 定 している その 結 果 この 仕 組 みは 契 約 の 拘 束 力 の 例 外 ではなく その 構 成 要 素 として 説 明 されているのである 契 約 の 拘 束 力 とは 契 約 締 結 段 階 において 企 図 された 均 衡 と 履 行 段 階 におい て 維 持 されている 均 衡 との 微 妙 なバランスである したがって この 拘 束 力 は 双 面 的 に 捉 えることができよう 第 一 に 動 力 因 としての(efficiente) 拘 束 力 がある それは 当 事 者 によって 欲 せられたこととしての 過 去 のなかに 位 置 づけられる 第 二 に 目 的 因 としての(finaliste) 拘 束 力 がある それは 将 来 のために 当 事 者 によって 企 図 された 契 約 の 均 衡 を 維 持 することに 存 す る ここにおいては 契 約 関 係 の 継 続 性 が 優 先 する こうした 状 況 の 下 では 不 予 見 に 基 づく 契 約 の 改 訂 は 過 去 と 将 来 とを 結 びつけるものとして 説 明 され ることになろう 不 予 見 の 場 合 に 契 約 を 改 訂 することによって 当 事 者 の 意 思 93)Comp. P. Voirin, De l imprévision dans les rapports de droit privé, Thèse Nancy, 1922, spéc. p. 103. 暗 黙 の 前 提 とされている 不 予 見 を 法 律 に 結 びつける しかし この 論 証 は 弱 い というのは 法 律 は フランス 法 においては このような 改 訂 を 規 定 していない からである Ch. Besson, La force obligatoire du contrat et les changements de circonstances, Thèse Lausanne, 1955, p., spéc. p. 61 は 次 のようにいう 規 定 されなかった 事 項 につい て 当 事 者 が 共 通 の 意 図 をもっていたと 認 めることは 難 しい 当 事 者 は それらの 事 象 が 変 容 するだろうことを 知 らないのである 彼 らは その 点 については 何 らの 意 思 ももち 得 ないのだから 意 思 の 解 釈 は 十 分 な 解 決 をもたらさない また Serbesco, Effet de la guerre sur l exécution des contrats, R.T.D. civ., 1917, p. 349 et s., spéc. nº 13 は 次 のように いう 意 思 は いま 存 在 する 要 素 を 理 解 することができなかったのであり せいぜい 予 見 することができたにすぎない 常 軌 を 逸 した 予 見 不 能 な 事 象 は 当 事 者 の 視 界 に 入 って いなかったものと 推 定 される つまり その 点 については 当 事 者 は 何 も 欲 しなかったので ある 257

講 義 (メキ/ 山 城 ) は その 基 本 的 方 向 性 と 内 容 の 両 面 において 尊 重 されることになるのである 94) 基 本 的 方 向 性 の 面 でというのは 合 意 において 当 事 者 が 考 慮 し 得 るのは 契 約 締 結 時 に 存 在 した 諸 事 情 のみだからである 予 見 することのできない 事 情 によ って 契 約 の 履 行 が 困 難 高 額 または 利 益 の 少 ないものとなった 場 合 には 当 事 者 の 合 意 の 対 象 とはされなかったそれらの 新 しい 事 情 に 契 約 を 適 合 させる ことによってこそ 当 事 者 の 意 思 は 尊 重 されるのである また その 内 容 の 面 でというのは 当 事 者 の 意 思 を 覆 滅 することが 問 題 になっているわけではない からである リスク 分 配 に 関 する 条 項 が 存 在 するときには 裁 判 官 は 当 該 条 項 を 遵 守 しなければならず 不 予 見 による 改 訂 を 作 動 させることはできない の みならず 不 予 見 が 存 する 場 合 にも たいていのシステムは 当 事 者 の 交 渉 に よる 処 理 を 不 可 欠 の 第 一 段 階 としている それどころか いくつかのシステム においては 当 事 者 の 交 渉 による 処 理 のみがあり 得 べき 段 階 とされているので ある 最 後 に 当 事 者 の 意 思 により または それによらず 裁 判 官 により 契 約 を 適 合 させること(adapter le contrat)を 承 認 している 法 もあるが ある 条 文 に よれば 裁 判 官 は 事 情 変 更 を 知 っていたならば 当 事 者 が 引 き 受 けることが 合 理 的 であるところのものを 探 究 することによって 契 約 適 合 を 行 わなければな らないとされる したがって 当 事 者 の 意 思 の 尊 重 という 点 でも また 契 約 関 係 の 継 続 性 の 保 護 という 点 でも 不 予 見 に 基 づく 契 約 適 合 は 契 約 の 拘 束 力 を 満 足 させるのだから 法 体 系 全 体 に 整 合 しているのである 当 事 者 の 意 思 は このように 静 的 にではなく 動 的 に 把 握 される 意 思 は それが 基 盤 を なす 契 約 とともに 一 定 の 時 間 にわたって 持 続 することとなるのである 95) 94)J. Ghestin et alii, op. et loc. cit. [note 89]は rebus sic stantibusを 引 きつつ 予 見 可 能 性 と 企 図 された 目 的 の 問 題 を 論 じる そのすべての 説 明 において 常 に 過 去 の 意 思 の 将 来 における 尊 重 が 問 題 とされている 95) 同 旨 として P. Voirin, th. préc. [note 93]を 参 照 著 者 は 不 予 見 による 改 訂 は 当 事 者 によって 企 図 された 目 的 を 尊 重 するために 認 められるべきであるという 観 念 に 基 づいて テーズを 組 み 立 てている 258

債 務 関 係 あるいは 債 務 という 観 念 ( 契 約 法 研 究 )⑴ 22 フランス 法 学 説 における 拘 束 力 と 債 務 内 容 との 区 別 契 約 の 拘 束 力 つ まり 契 約 関 係 の 効 力 は 債 務 の 内 容 つまり 債 務 関 係 と 同 視 されるべきであろ うか この 問 題 は 学 説 レヴェルで 論 じられており 実 定 法 の 理 解 に 対 して 大 きな 影 響 を 有 する 目 下 のところ 学 説 はこの 区 別 を 強 調 しておらず 学 説 に 混 乱 がみられると 断 定 することはできない とはいえ いくつかの 教 科 書 を 読 むと 当 惑 させられかねないことは 確 かである というのは 学 説 は 暗 黙 の うちに 拘 束 力 と 債 務 との 区 別 を 前 提 としているようにみえるからである た とえば ベナバン 氏 は 契 約 の 目 的 は 当 事 者 間 に 債 務 を 作 り 出 すことであ る この 理 をいい 表 すのに 1134 条 1 項 に 優 るものはない と 強 調 している 96) 同 旨 として マロリー=エネス=ストフェル マンク(Ph. Malaurie, L. Aynès et Ph. Stoffel-Munck)は 拘 束 力 からは 当 事 者 が 自 ら 企 図 した 債 務 によって 拘 束 されるということが 帰 結 される と 述 べている 97) また フルール=オ ベール=サヴォー(J. Flour, J.-L. Aubert et E. Savaux)も この 拘 束 力 は 債 務 者 がその 債 務 を 履 行 しなければならず 場 合 によっては それが 法 律 の 遵 守 とともに 契 約 の 尊 重 に 留 意 する 公 権 力 によって 強 制 されるということだけ を 意 味 するわけではない と 述 べている 98) こうした 例 は 枚 挙 に 暇 が ない 99) 23 民 法 典 の 条 文 の 曖 昧 さ 混 乱 はフランス 民 法 典 の 中 にもみられる たと えば 第 三 編 第 三 章 は 契 約 および 契 約 による 債 務 一 般 に 及 んでいるが こ のことは 二 つの 用 語 が 同 義 であるような 印 象 を 与 える 第 三 節 は 債 務 の 96)A. Bénabent, Les obligations, op. cit. [note 44], n o 240, p. 183. 97)Ph. Malaurie, L. Aynès et Ph. Stoffel-Munck, Les obligations, 3 ème éd., Defrénois, 2007, nº 753, p. 375. 98)J. Flour, J.-L. Aubert et E. Savaux, Droit civil. Les obligations. 1. L acte juridique, 14 ème éd., Sirey, 2010, n o 377, p. 361. 99)G. Marty et P. Raynaud, Droit civil, Obligations, 2 ème éd., Tome I, Les sources, Sirey, 1987, spéc. nº 246 ; H., L. et J. Mazeaud, Leçons de droit civil, Tome II, vol. 1, 9 ème éd. par Fr. Chabas, 1998, spéc. nº 720. 259

講 義 (メキ/ 山 城 ) 効 力 と 題 されながらも 奇 妙 なことに かの1134 条 1 項 を 冒 頭 に 配 する 総 則 に 充 てられた 款 によって 始 められるのである! しかし 契 約 は 債 務 を 生 じさせるにとどまるわけではない 契 約 の 効 力 は 債 務 の 消 滅 であることもあるし 財 産 権 利 または 債 権 の 譲 渡 でもあり 得 る 契 約 は 法 的 な 特 権 という 意 味 における 権 利 を 生 じさせるのである 100) この 消 滅 的 効 力 ないし 移 転 的 効 力 は 決 して 債 務 内 容 と 同 じものではない たしか に 債 務 を 作 り 出 すものである 契 約 (contrat)と 債 務 を 移 転 または 消 滅 させ るものである 合 意 (convention)との 区 別 をここに 見 出 すことは 可 能 である けれども 契 約 それ 自 体 は それによって 発 生 させられる 債 務 に 還 元 され 得 る ものではない 契 約 の 効 力 は 債 務 の 発 生 には 尽 きないのである 一 人 の 学 者 が 契 約 の 拘 束 力 と 債 務 内 容 とを 区 別 することによってもたらさ れ 得 る 実 益 を 論 証 しようと 試 みている パスカル アンセル(P. Ancel)であ る 以 下 では 彼 の 議 論 をあるべき 規 律 の 提 案 として 採 り 上 げ これに 対 する 評 価 を 加 えよう 101) 2 あるべき 規 律 : 契 約 の 拘 束 力 と 債 務 内 容 との 区 別 24 契 約 のすべてが 債 務 に 還 元 されるわけではない! アンセル 氏 が 契 約 は 債 務 を 生 じさせる 以 外 の 効 力 を 有 すると 述 べることは 正 当 であるが 102) 債 100)V. not. A.-S. Lucas-Puget, Essai sur la notion d objet du contrat, Préf. M. Fabre-Magnan, L.G.D.J., 2005, spéc. nº 543 et s., p. 311 et s. 101)P. Ancel, Force obligatoire et contenu obligationnel du contrat, R.T.D. civ., 1999, p. 771 et s. 非 常 によく 似 た 理 論 の 主 張 として H. Lécuyer, Le contrat, acte de prévision, in Mélanges Fr. Terré, L avenir du droit, Dalloz, 1999, p. 643 et s., spéc. p. 646 を 参 照 102)Comp. R. Libchaber, Réflexions sur les effets du contrat, in Mélanges J.-L. Aubert, Dalloz, 2005, p. 211 et s., spéc. nº 25, p. 233. 次 のように 結 んでいる 契 約 は それが 生 じさせる 債 務 と 本 当 に 異 なるものなのだろうか この 提 案 が 示 唆 する 危 惧 感 は いまや 十 分 に 明 ら かにされている すなわち 契 約 という 観 念 が 時 代 を 超 越 して 変 容 を 被 らない 不 変 のも のであるかが 不 確 かなのである そして もし 契 約 が 変 容 し 得 るならば 法 がその 修 正 に 自 らを 適 合 させることは 避 けられない 260