弘前大学教育学部紀要 第号 63 68 2011年10月 Bull. Fac. Educ. Hirosaki Univ. 63 68 Oct. 2011 63 大学生の職業適性についての暗黙理論と職業適性検査への信頼感に関する研究 A study on college students implicit theories of vocational aptitude and reliance on vocational aptitude tests 吉 中 淳 Atsushi YOSHINAKA* 論文要旨 本研究の目的は 大学生の職業適性検査に対する信頼感を様々な角度から検証することと Dweck 2000 で知 能について提唱された 知能を固定的なものと見るか増加の余地があるものと見るかといった暗黙理論の枠組みが 職業適性においても適用可能かどうかを検討することにある 約100名の大学1年生を中心とした集団に質問紙調 査を実施した 結果は 大学生たちの4割近くが就職前に職業にむいているかどうかを知るための手段として職業適性検査を挙 げ 半数近くが検査結果を大筋では信じるとしつつも 不適判定が出た場合には7割がその判定結果を無視するか のような回答をした 知能 社会性 職業適性についてはそれぞれ増加の余地があると回答した しかしながらそのことは 同時に現 時点での適性を把握することに疑義を生じさせる可能性が示唆された 自己理解と能力向上との間のトレードオフ について問題提起がなされた キーワード 職業適性 職業適性検査 暗黙理論 1 問題と目的 因を三つ挙げ その一つを 適性 能力 興味 志 1 青年期は Erikson 1968 が述べているように 望 資質 限界およびそれらの根拠をも含めた自己自 アイデンティティ すなわち 自我同一性を達成する 身についての明確な理解 とした これと二つ目の要 ことが発達課題である 言い換えれば 自分とは何か 因である職業の側の条件とを組み合わせ これらの知 という問いに対して それなりに適正で客観的な答え 識に基づいて正しく推論を行うというのが第三の要因 を出さければいけないということである この発達課 である Parsons の考え方は 特性因子論またはマッ 題がなぜ青年期に重要かといえば 青年期を卒業した チング理論などと呼ばれている 当初は適性とは 理 ら次の段階は 成人期であることと関係する 成人期 念上の存在でしか無かったが 1930年代にはアメリ 以降は大半の時間を職業人という役割を果たすことで カで一般職業適性検査 GATB; General Aptitude Test 費やすことになるが その時 誤って自分に合わない Battery が開発されるなどして 実証的に測定する試 職業を選んだ結果 ごく短期間で離職を余儀なくされ みが続けられ 実際に進路指導においても用いられて るようなことになれば 本人と雇用した側の双方に いる ところで GATB のような検査は 背景にある とって大きな損失となるからである 思想や 実際の検査の運用方法などは集団式知能検査 今から約100年前 Parsons が職業指導 vocational guidance 運動を開始した当初から 現代の生徒指導 進路指導につながるガイダンス活動において むい に類似している 実際にこの検査で主に測定している のは認知能力ということになろう 職業適性と 職業にむいているかどうか とを同 ている職業 について知ることは重要事項であった 一視できないという考えは Super 1949 3 などで Parsons 1909 2 は 賢明な職業選択 のための要 提唱されている 彼は 職業にむいているかどうか 弘前大学教育学部学校教育講座 Department of School Education, Faculty of Education, Hirosaki University
64 吉中 淳 にあたる最上位の概念として職業適合性 (vocational fitness) という概念を提唱した この概念は能力的側面とパーソナリティ的側面に二分され いわゆる職業適性は能力的側面の一部を構成する者と位置づけられた 一方のパーソナリティ的側面を構成する者の一つが職業興味である Holland(1973) 4) などによって提唱されたもので 個人の職業興味あるいはパーソナリティを六つの類型に分け 同時に職業も6 類型に分類し 双方が一致することが望ましいとされる そして これらの6 類型は平面上に六角形構造をしているものとされ 様々なデータを用いてこのモデルの正しさを立証しようと努めている Holland のモデルが提唱された後 職業興味と認知的能力という意味での職業適性とを統合しようという試みがなされてきた その一つが Prediger(1982) 5) のモデルである 彼の考え方は 六角形という平面上に職業興味を分類できるのであれば それを二次元の座標軸で表すことができるはずだと推論し その二つの座標軸は D-I 軸 (Data-Idea) と P-T 軸 (People- Things) とするのが良いというものである Data-Idea 軸とは Data すなわち決まり切ったもの (Data の語源はラテン語の Datum で与えられたものという意味 ) のみを扱う仕事か Idea すなわち 今までに無かったアイデアを必要とする職業かという対立軸で 認知能力との関連が示唆される 一方の P-T 軸は 人を扱う職業か物を扱う職業かという対立軸で いわゆる対人能力 社交性などといった内容との関連が示唆されているといえよう このモデルに照らして考えても やはり 従来の職業適性検査は その職業にむいているかどうか という問題に対して 一部の側面しか測定していなかったことになる 職業適性検査については 職業適性の概念が適切かという問題に加えて すべての心理検査が直面する問題ではあるが 検査の信頼性 妥当性の問題がある 島田 (2002) 6) によれば職業適性検査の予測的妥当性については 検査の結果と実際との相関係数を計算するとおおよそ0.4で 決して高くはないが かといって無視できるほど小さな値ではないといった評価である ただ このような実証データに基づいた検査の信頼性や妥当性の評価と 学生 生徒が検査の信頼性 妥当性をどの程度であると見積もるかとは また別の問題であることは注意すべきであろう 例えば文部省 (1983) 7) の進路指導の定義の文中には 自分の能力適性等の発見と開発 につとめることという文言があり 学校で職業適性検査を実施し 結 果をフィードバックすることが推奨されているようにも読める しかしながら 事はそれほど単純ではない 我が国でも 米川 水谷 (1972) 8) の 職業適性検査の結果の受容しがたさについての先駆的研究があるが 結果が不本意であった時は 認知的不協和の解消といったメカニズムが働くことが予想され 検査結果を受け入れて希望していた職を断念するという方向の変化が起きるというよりは 検査に対する信頼感の低下が起こると考える方が 可能性が高いものと思われる また 似て非なる問題として 仮に完璧に職業適性が数値化して表せるとして そもそもその数値自体は安定しているかどうかという疑問がある つまり 検査の精度の問題ではなく 検査対象の値自体がふらふらとした不安定なものではないかという疑問である 先に職業適性検査と知能検査の類似性について指摘したが 大六 (2005) 9) によれば 代表的な知能検査である WISC Ⅲで測定された14 歳児の IQ には ±3.03 程度の測定誤差があるという 検査の精度や標準化のために用いたサンプル数のサイズの問題点もあろうが 知能そのものが変動しているという可能性もあろう そしてこのことは値の変動幅こそ違えども 職業適性検査にもそっくりあてはまる 個人の知能に対する見方が達成動機や目標設定に及ぼす影響についての Dweck(2000) 10) の理論がある 彼女の理論によれば 暗黙理論 (implicit theory) すなわち 知能に対する見方は 知能を固定したものと考える 実体理論 (entity theory) と 知能はいくらでも増大する余地があるものと考える 増加理論 (incremental theory) とに分類される 実体理論を持つ者は 自分の能力の高さを証明したいという願望 (validation) に囚われているが その反面 自分の無能さが露呈するような事態は避けたいとも思っている 一方 増加理論を持つ者は能力を測定すること自体にあまり関心がない なぜならば 増加理論に基づくならば 検査をしたとしてもその結果はあくまでもその時点のものであって 将来にわたってもその結果が適用できるとは考えないからである 彼女は このような仮説をたてて実証データによって一定の支持を得た また 知能に対する見方のみならず ペンフレンド作りのような課題を使い 社交性のような側面でも実体理論 増加理論といった見方の違いが同じように影響するかどうかを検討し やはり一定の支持を得た 彼女の理論では 増加論者は 結果的に難易度の高い課題ができることに価値を置く これを熟達志向
大学生の職業適性についての暗黙理論と職業適性検査への信頼感に関する研究 65 目標と呼び 彼らはそのプロセスの中で一時的に失敗をすることがあっても動じないとされる 一方で 実体論者は賢くなるというよりも 賢く見えることの方に価値を置く したがって 無知が露呈するような状況を何よりも避けたがる これをパフォーマンス目標と呼ぶ Dweck の理論では 明らかに増加理論的な見方をすることの方が推奨されているが それは同時に適性検査によって将来を予測することの否定にもつながっているといえる そこで本研究では 大学生を対象に以下のような点について概略を把握することを目的とする (1) 職業に就く前に職業にむいているかどうかを知ることは可能か 可能だとしてそれはどのような方法によってか 挙げられた様々な方法の中で職業適性検査に対する相対的な期待度はどの程度か (2) 職業適性検査はどの程度信頼されているか また 職業適性検査の結果をどの程度実際の職業選択の際に参考にしたいか (3) 知能 社交性だけでなく 職業適性についても実体理論 増加理論といった枠組みで見ることは可能か また それは知能や社交性についての見方とどんな関係にあるのか 2. 方法 2.1 実施期日と調査対象 2011 年 7 月 H 大学生 名 ( 男子 54 名女子 51 名不明 2 名 ) を対象に実施した このうち 1 年生が100 名 (93.5%) を占める 学部別の内訳は 理工学部 37 名 (34.6%) 人文学部 36 名 (33.6%) 教育学部 25 名 ( 23.4%) 医学部 8 名 (7.5%) 農学部 1 名 (0.7%) であった 2.2 手続き心理学関連の授業で 授業の開始前に 授業と関係のある内容であるとことわった上で質問紙を配布し その場で回答させた また 授業終了後にただちにその場で回収した 2.3 質問項目基本情報 Zener と Schunnele(1972) 11) の OAQ(Occupational Alternative Question) を参考にして職業決定状況を 1. 一つに決めている 2. 数種類にしぼり その中での順位も決まっている 3. 数種類にしぼっているが その中での順位は決まっていない 4. 決まって いないの4 件法で尋ねた 職業は 民間会社 公務員などの勤め先という意味ではなく 勤め先でどんな仕事をするのかという意味であるという注をつけた 就職前に職業にむいているかどうかを知る方法就職前に職業にむいているかどうかを知る方法があると思うか それともないと思うかの二者択一で尋ねた また あると思う者には表 1で示すような項目の中から複数回答で当てはまると思うものすべてを選択させた なお 職業適性検査は 職業に必要な能力を 将来身につけ 発揮する可能性があるかを測定する検査 職業興味検査は どの職業に興味があるかを調べる検査 という注を付した 職業適性検査への信頼感まずは 職業適性検査を受けた経験があるかどうか あるという者はその結果が良かったのかどうかを評価させた また 受けた経験が無い者も含めて 職業適性検査はどれくらい信頼できると考えるかを 全く信用できないから全面的に信用できるまでの4 件法で回答させた さらに 状況設定を行った上での回答をみることで 信頼感の測定することを試みた 具体的な状況設定の内容は 全人口の約 30% がうまくその仕事をこなせる職業があるとして その職業について職業適性検査で 不適 と判定された人が 仮に実際にその職に就いてみたときにその仕事をうまくこなせる割合がどれくらいあると思うかとようものである 5% 未満 5~30% 約 30% 30% より多い 本人の努力次第なのでわからない の中からあてはまるものを一つ選ばせた 最後に 職業適性検査の結果を進路選択に使いたいかを まったく思わない あまり思わない 部分的に参考にしたい 是非参考にしたい の中から一つを選ばせて回答させた 暗黙の理論 Dweck(2000) 10) の内容を参考に 知能 社交性 職業適性の3 領域について それぞれ6 項目ずつ回答させた 具体的な回答内容は表を参照 各項目は 全くそうは思わない そうは思わない あまりそうは思わない ややそう思う そう思う 非常にそう思う の6 件法で 1から6の点数とした なお 分析を行うにあたって逆転項目は数値を反転させ 全項目で増加理論に近づけば近いほど点数は高くなり 実体理論に近いほど点数が低くなるように調整した
66 吉中 淳 3. 結果 3.1 基本情報 職業の決定状況は それぞれ 一つに決めている が 20 名 (18.7%) 数種類にしぼり その中での順位 も決まっている が 12 名 (11.2%) 数種類にしぼっ ているが その中での順位は決まっていない が 37 名 (34.6%) 決まっていない が 38 名 (35.5%) であっ た 3.2 職前に職業にむいているかどうかを知る方法 実際に職業に就く前にその職業にむいているかど うかを知る方法が ある という者は 79 名 (73.8%) ない という者は 28 名 (26.2%) だった また む いているかどうかを知るための方法の選択率を示した のが表 1 である 職業適性検査の順位は 4 位であっ た それよりも実習や見学などが上位に来ることはあ る程度予想ができたが 最上位に その職業について いる人の話 が来るのはやや意外な結果ともいえる 表 1 職業にむいているかがわかる方法 項目人数割合 その職業に就いている人の話職場での数日間の実習職場見学職業適性検査職業興味検査本やテレビの情報インターネットの情報学校の先生の話家族の話友人の話パソコン等の診断ソフトその他注 : 割合は全回答者 名に対する割合 3.3 職業適性検査への信頼感 54 45 42 41 30 20 18 15 13 12 9 1 (50.5% ) (42.1% ) (39.3% ) (38.3% ) (28.0% ) (18.7% ) (16.8% ) (14.0% ) (12.1% ) (11.2% ) (8.4% ) (0.9% ) 職業適性検査を実際に受けた経験があるかどうかで 回答に違いが出ることが予想されたので ここでの分 析は全て経験の有無で分けて行う なお 職業適性 検査の経験がない者が 83 名 (73.3%) ある者が 23 名 (21.7%) だった 経験がある者に結果を尋ねたとこ ろ 良かったという者が 3 名 どちらともいえないと いう者が 20 名だった 職業適性検査の経験別に職業適性検査は信頼できる ものと考えるかどうかを示したのが表 2 である 経験 の有無で選択率に有意差はみられなかった 全面的 に信頼できる と回答した者は一人もいなかったが 一方で 大筋で信頼できる と回答した者が約半数に 上っており この結果からみると職業適性検査は信頼 されているようにみえる 職業適性検査 表 2 職業適性検査の経験別検査に対する信頼感 全く信用できない あまり信用できない 大筋で信用できる 全面的に信用できる 経験あり 2(8.7%) 9(39.1%) 12(52.2%) 0(0.0%) 経験無し 1(1.3%) 33(42.3%) 44(56.4%) 0(0.0%) 一方 具体的な状況設定のもとでの職業適性検査の 結果の評価の割合を示したものが表 3 である 若干の 傾向の違いはみられるが検査の経験の有無で有意差は ない どちらも約半数が 努力次第なのでわからな い を選択した これは検査で 不適 と判定されて も それは気にする必要がないという考えの表れであ ろう ただしこの考えは検査結果を信用していない という表明でもある また 不適 判定が出た方が ベースラインの 30% よりもうまくいく確率が上がる という 統計学的には不合理な考えを支持する者が全 体の約 1 割であった また 不適 という検査の結 果に関わらずベースラインと同じ 30% と回答する者 も約 1 割おり この回答を選んだ者も 自覚している かどうかは別として 職業適性検査の結果は情報的価 値がないと考えていることになり 合計して約 7 割が 厳しい検査結果が出た時には検査の結果を利用しない と回答していることになる 職業適性検査 表 3 職業適性検査の経験別 経験あり経験無し 不適判定の者に対する成功確率の見積もり 5% 未満 5~30% 30% 30~100% 努力次第 0(0.0% ) 4(17.4% ) 2(8.7% ) 5(21.7% ) 12(52.2% ) 2(2.4% ) 19(23.2% ) 11(13.4% ) 8(9.8% ) 42(51.2% ) 全人口の 30% がやり遂げることのできる職業に対する不適判定 職業適性 検査 経験あり 経験無し 表 4 職業適性検査の経験別 検査を職業選択の参考にしたいか 全く参考にしない あまり参考にしない 部分的に参考にしたい全面的に参考にしたい 2(8.7% ) 2(8.7% ) 18(78.3% ) 1(4.3% ) 5(6.1% ) 21(25.6% ) 52(63.4% ) 4(4.9% )
大学生の職業適性についての暗黙理論と職業適性検査への信頼感に関する研究 67 職業適性検査の結果を職業選択に利用したいかどうかについては 表 4に示した 表をみると若干の傾向の違いが見られるがやはり検査の経験の有無による有意差はない 部分的に参考にする という回答が全体の約 7 割を占めているが 全面的に参考にする という者はほとんどいない 検査結果を利用するのは何らかの条件を満たした時とみるのが良さそうである 3.4 暗黙の理論知能 社交性 職業適性のそれぞれについての暗黙の理論に関する質問項目の平均点 標準偏差を記したのが表 5である ほとんどの項目で平均点が4 点台である これは増加理論を表す項目に ややそう思う から そう思う の間に評定したことになる 各項目を合計したところ クロンバックのα 係数は 知能. は790 社交性は.846 職業適性は.883と高いため 合計得点を代表値として扱ってよいものと考えら れる 表 5を見ると 最も得点が高い ( 増加理論に近い ) のは社交性で 最も低い ( 実体理論に近い ) のが職業適性である これは 自分は職業適性を上げるためにこれまでも努力してきた という項目にあてはまると回答する者が少なかったことが特に響いているものと思われる この得点差を対応のある t 検定で検討したところ 社交性と知能との間で有意な傾向 (t (103)=1.732, p<.10) がみられ 知能と職業適性の間では有意差 (t(100)=4.468, p<.01) がみられた この三つの得点の相関行列を表 6に示す 知能と職業適性の相関が最も高く 知能と社交性の相関が最も低い 社交性においても知能と同様の暗黙理論が認められるのであれば 社交性以上に知能と相関の高い職業適性についても同様の暗黙理論が認められるといって差し支えないであろう この三つの得点と職業適性検査を職業選択の際に参考にするかという項目との相関を示したのが表 7である 知能についての暗黙理論のみ有意な相関が見られ 表 5 知能 社交性 職業適性に関する暗黙の理論 知能を上げるためにできることはほとんどない * 知能は変えようのないものである * 何か新しいことを学んだとしても基本的知能はほとんど変わらない * どんな人でも 知能を上げるためにできることはたくさんある実際にあなたはこれまで自分の知能を高めてきた知能がどれほど高くても さらに知能を高めることはできる知能合計 社交性を上げるためにできることはほとんどない * 社交性は変えようのないものである * 社会的経験を積んだとしても社交性はほとんど変わらない * どんな人でも 社交性を上げるためにできることはたくさんある実際にあなたは自分の社交性を高めてきた社交性が高くても さらに社交性を高めることはできる社交性合計 職業適性を上げるためにできることはほとんどない * 職業適性は変えようのないものである * 努力しても職業適性はほとんど変わらない * どんな人でも 職業適性を上げるためにできることはたくさんある実際にあなたは自分の職業適性を高めてきた職業適性が高くても さらに職業適性を高めることはできる職業適性合計 * 逆転項目 平均値標準偏差度数 4.76 4.70 4.26 4.71 3.91 4.73 27.08 5.00 4.87 4.93 4.76 3.81 4.64 28.00 4.36 4.42 4.39 4.18 3.09 4.35 24.78 0.93 1.04 1.17 1.02 1.11 1.03 4.36 0.93 1.07 0.92 1.05 1.19 1.07 4.70 1.14 1.15 1.22 1.19 1.10 1.15 5.53 105 104 104 104 表 6 知能社交性職業適性 暗黙の理論の相関行列 知能社交性職業適性 1.00.44 1.00.52.46 1.00 表 7 暗黙の理論と適性検査の利用との相関 知能 社交性 職業適性 適性検査を職業選択の参考にしたいか -.213* -.01.05 * p<.05
68 吉中 淳 た しかも 逆相関である すなわち 知能について実体理論をもつほど つまり 知能は固定していると考える者ほど職業適性検査を職業選択の参考にしたいと回答し 増加理論をもつ者ほど つまり 知能は増加しうると考える者ほど職業適性検査の結果を参考にはしないと回答している もっとも有意差がみられたとはいえ 相関係数の絶対値は.213と微弱ではある その主な理由は 職業選択の際に 職業適性検査を 部分的に 参考にしたいという者が7 割を超えているため分布が歪んでおり 今回のような場合に相関関係を精密に検出することができなかったものと思われる 4. 考察本研究は 職業適性検査がなぜ職業選択の際に利用されないのかについていくつかの観点から検討した 職業につく前に 仕事にむいているかどうかを知る方法は ある と考える者の方が ない と考えるものよりも割合が多かった しかも職業適性検査は4 割弱が職業にむいているかどうかを知るための方法の一つとして挙げており 能力的側面そのものを軽視しているからとはいえない だが 職業適性検査が提供する情報は過小評価または選択的な利用をされていることが示唆されている 今回は 不適 判定を受けたという状況設定を行い その情報をどう利用するかについて検討したが 7 割近くが無視に近い対応をしていた それにも関わらず 大筋では信用できる 部分的には利用する という回答に集中しているところからみて 積極的に利用するような状況もあるのだろう 例えば今回は検討しなかったが 検査によってお墨付きを与えられるような状況 すなわち validation が行われるような状況でならば 職業適性検査の結果を積極的に利用するのかもしれない 一方 Dweck(2000) 10) の知能に対する暗黙理論というアイデアを参考に 知能 社交性 職業適性を固定的と考えるか可塑的で増加の余地があるものと考えるかを検討したところ 三つとも固定的なものとはあまり考えられていないという結果が示された また 微弱ではあるが知能には増加の余地があると考える者ほど職業適性検査を利用しないという傾向が見られ た 今回は職業選択をする際に職業適性検査を利用するかどうかについて調べ方が不十分であったため 必ずしも明確な結果ではなかったが 仮に今回の結果が一般化できるようであれば 自分を客観的に把握する という課題と 自分の能力の向上に励む という課題との間にトレードオフが存在すると学生たちが認識しているということになろう このトレードオフをうまく解消できるような説明を見つけなければ 職業適性検査を正しく利用することは困難であろう 参考文献 1)Erikson, E., H. Identity Youth and Crisis, W. W. Norton & Company, Inc.,1968.( 岩瀬庸理 ( 訳 ) アイデンティティ 青年と危機北望社 1970). 2)Parsons, F. Choosing a vocation, Houghton Mifflin, 1909. (Agathon Press, 1967). 3)Super, D.E. Appraising Vocational Fitness by Means of Psychological Tests, Harper & Row, 1949. 4)Holland, J. L. Making vocational choices: A theory of vocational personalities and work environment(3rd ed.),psychological Assessment Resources Inc., 1973, 1985, 1997. 5)Prediger, D. J. Dimensions underlying Holland s hexagon: Missing link between interests and occupations. Journal of Vocational Behavior, 21, 259-287, 1982. 6) 島田睦雄新しい職業適性概念とその測定 評価神経生理学の立場から日本労働研究機構調査研究報告書,142, 2002. 7) 文部省進路指導の手引き高等学校ホームルーム担任編 1983. 8) 米川一充 水谷暉職業適性検査の伝達に関する研究, 職業研究所研究紀要,4,1-18, 1972. 9) 大六一志 WISC Ⅲ 検査結果を解釈する手順, 藤田和弘上野一彦前川久男石隅利紀大六一志編著, WISC- Ⅲ アセスメント事例集 理論と実際 日本文化科学社 12-43, 2005. 10)Dweck, C. S. Self-theories: Their role in motivation, personality, and development, Psychology press, 2000. 11)Zener, T. B., & Schnuelle, L. Effects of the self-directed search on high school students. Journal of Counseling Psychology, 23, 353-359, 1976. (2011. 8.18 受理 )