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学 術 味 覚 障 害 の 原 因 と 対 応 大 阪 歯 科 大 学 口 腔 外 科 学 第 一 講 座 准 教 授 井 関 富 雄 はじめに 近 年 口 腔 疾 患 と 重 大 な 全 身 疾 患 の 因 果 関 係 が 徐 々に 解 明 されるようになり 国 民 の 口 腔 への 関 心 が 高 まっています 我 々 歯 科 医 師 は 今 までの 歯 周 疾 患 硬 組 織 疾 患 および 補 綴 処 置 に 加 え 口 腔 領 域 のあらゆる 疾 患 あるいは 愁 訴 への 対 応 が 求 め られています また 口 腔 ケアや 摂 食 機 能 療 法 な ども 積 極 的 に 行 われるようになってきましたが 口 からおいしく 食 べる ことは 歯 科 医 療 が 患 者 さんに 提 供 する 究 極 のゴールでもあります しか し 最 近 味 覚 障 害 の 患 者 さんが 増 加 している と 言 われています そこで 味 覚 障 害 の 原 因 と 治 療 をテーマに 味 覚 を 認 知 するメカニズムや 味 覚 がかわる 原 因 とその 対 応 について 解 説 したいと 思 います なお 今 回 は 私 が 担 当 した 大 阪 歯 科 大 学 公 開 講 座 の 内 容 を 元 にしていますので 初 歩 的 な 内 容 も 多 々ありますが 患 者 さんへの 説 明 や 診 断 の 一 助 になれば 幸 いです 1. 味 覚 を 認 知 するメカニズム 1 舌 の 構 造 舌 の 大 部 分 は 横 紋 筋 から 成 り 咬 み 砕 いた 食 べ 物 を 小 さな 塊 にしてのどに 送 り 込 む 嚥 下 機 能 と 発 語 に 関 わる 構 音 機 能 に 関 与 しています 舌 は 分 界 溝 を 境 にしてそれより 前 方 の 舌 体 ( 前 2/3)と 後 方 の 舌 根 ( 後 1/3)に 分 けられます( 図 1) 舌 背 と 舌 縁 の 粘 膜 表 面 には 舌 乳 頭 があり 糸 状 乳 頭 茸 状 乳 頭 葉 状 乳 頭 および 有 郭 乳 頭 に 分 類 されま す この 内 茸 状 乳 頭 葉 状 乳 頭 と 有 郭 乳 頭 には 味 覚 のセンサーである 味 蕾 が 存 在 しています な お 味 蕾 は 舌 だけでなく 軟 口 蓋 頬 粘 膜 咽 頭 および 喉 頭 にも 存 在 しています 2 味 蕾 の 構 造 味 覚 の 受 容 器 である 味 蕾 は 口 腔 内 に 約 8,000 10,000 個 あるといわれていますが その 多 くは 舌 に 存 在 しています 味 蕾 は 味 細 胞 と 支 持 細 胞 から 成 り 粘 膜 表 面 に 味 孔 という 小 さな 穴 があいてい ます( 図 2) この 味 孔 から 味 覚 に 関 係 する 化 学 物 質 が 入 り 込 み 味 細 胞 が 感 知 して 情 報 を 電 気 信 号 に 変 換 して 中 枢 に 伝 達 します 味 細 胞 の 寿 命 は 約 10 日 間 と 言 われており 非 常 に 新 陳 代 謝 の 旺 盛 図 1. 舌 の 構 造 図 2. 味 蕾 の 構 造 1

表 1. 味 覚 の 分 類 と 基 本 成 分 図 3. 味 覚 に 関 連 する 神 経 と 伝 導 経 路 な 器 官 です 新 陳 代 謝 に 不 可 欠 なミネラルの 一 つ に 亜 鉛 があり 亜 鉛 欠 乏 は 味 覚 障 害 の 原 因 として 注 目 されています 3 味 覚 に 関 係 する 神 経 と 伝 達 経 路 味 蕾 で 得 られた 味 覚 情 報 は 舌 の 前 方 2/3では 舌 神 経 鼓 索 神 経 顔 面 神 経 を 介 して 舌 後 方 1/3 から 咽 頭 では 舌 咽 神 経 を 介 して 中 枢 に 伝 達 され 延 髄 を 経 て 大 脳 皮 質 味 覚 野 で 味 が 識 別 されます ( 図 3) 情 報 はさらに 大 脳 皮 質 前 頭 連 合 野 にも 送 られ 視 覚 嗅 覚 触 覚 などの 情 報 と 統 合 されて 認 知 されます この 伝 導 路 に 障 害 が 起 こると 味 の 認 識 に 異 常 を 来 すことになります 4 味 覚 の 分 類 味 蕾 にある 味 細 胞 には5 種 類 の 基 本 味 に 対 する 受 容 体 が 存 在 します この 基 本 味 とは 甘 味 塩 辛 味 酸 味 苦 味 とうま 味 です( 表 1) 甘 味 は 砂 糖 をはじめ 糖 類 によって 感 じる 好 ましい 味 で エネルギー 源 として 重 要 なものが 対 象 となりま す 塩 辛 味 は 食 塩 に 代 表 される 味 で 体 にとって 必 要 なミネラルが 対 象 となります 適 度 な 塩 辛 味 は 好 ましいと 感 じますが 過 剰 では 不 快 となります 一 般 的 に 腐 敗 物 は 酸 味 を 毒 物 は 苦 味 を 感 じ 動 物 はこれらの 味 のものは 食 べないと 言 われていま す ヒトは 独 自 の 食 文 化 を 持 ち 適 度 な 酸 味 ある いは 苦 味 を 嗜 好 品 として 好 ましく 感 じることがで きます 以 前 から 味 の 基 本 は 甘 味 塩 辛 味 酸 味 および 苦 味 の4つに 分 類 されていましたが 最 近 ではうま 味 を 加 えて5つに 分 類 されることが 多 く なってきました うま 味 は 昆 布 から 発 見 されたグ ルタミン 酸 ナトリウムと 鰹 節 から 発 見 されたイノ シン 酸 ナトリウムによって 認 知 される 味 覚 で タ ンパク 質 の 存 在 を 示 すシグナルとして 重 要 視 さ れ 基 本 味 の 一 つとして umami は 国 際 語 に もなっています これら 基 本 味 に 関 する 成 分 が 唾 液 や 水 分 に 溶 け 出 し 味 孔 から 味 細 胞 表 面 の 各 基 本 味 に 特 有 の 受 容 体 と 結 合 して 味 情 報 が 中 枢 に 伝 達 されます 食 べ 物 の 味 は 前 述 したようにこれらの 味 覚 刺 激 だ けでなく 香 り( 嗅 覚 ) 見 た 目 ( 視 覚 ) 歯 ごた えや 舌 触 り( 触 覚 )などの 感 覚 が 統 合 されて 判 断 されます 2. 味 覚 障 害 1 味 覚 障 害 の 分 類 味 覚 障 害 はその 症 状 により 次 のように 分 類 さ れます 味 覚 減 退 無 味 症 味 の 感 じ 方 が 鈍 くなった 状 態 を 味 覚 減 退 とい います また 全 く 味 がわからなくなった 状 態 は 無 味 症 と 呼 ばれ 左 右 いずれかに 限 定 される ものを 片 側 性 無 味 症 といいます 自 発 性 異 常 味 覚 何 も 口 にしていないのにいやな 味 ( 苦 味 渋 味 など)を 感 じるものを 自 発 性 異 常 味 覚 といい ます 解 離 性 味 覚 障 害 特 定 の 味 ( 主 に 甘 味 )だけがわからなくなっ た 状 態 を 解 離 性 味 覚 障 害 といいます 異 味 症 悪 味 症 食 べ 物 の 味 が 本 来 の 味 と 違 って 感 じる 状 態 を 異 味 症 といい 何 を 食 べてもいやな 味 がする 状 態 は 悪 味 症 と 呼 ばれます このように 味 がかわるといってもいろいろな 症 状 があり 診 断 や 原 因 の 究 明 は 容 易 ではありませ ん 2

2 味 覚 障 害 患 者 の 動 向 味 覚 障 害 の 患 者 さんは 年 々 増 加 しているといわ れています 後 述 しますが 歯 周 病 や 歯 の 喪 失 あ るいは 全 身 疾 患 やその 治 療 薬 も 味 覚 障 害 に 関 与 す ることから 50 70 歳 代 の 壮 年 期 の 方 が 多 いよ うです しかし 20 30 歳 代 にもみられ 幅 広 い 年 齢 層 に 発 症 しています 性 別 ではすべての 年 齢 層 において 女 性 に 多 い 傾 向 が 認 められています ( 図 4) 3 味 覚 障 害 の 原 因 味 覚 の 感 受 性 は 非 常 に 個 人 差 が 多 く 年 齢 性 別 や 生 活 習 慣 なども 関 係 します また 全 身 疾 患 やストレスなどの 心 因 性 要 因 にも 影 響 され 味 覚 障 害 の 原 因 は 極 めて 複 雑 です 今 回 は 味 覚 障 害 の 原 因 を A. 味 覚 を 感 じる 器 官 の 異 常 B. 味 覚 刺 激 を 伝 える 神 経 や 中 枢 の 異 常 C. 口 腔 環 境 の 異 常 D.その 他 a. 心 因 性 要 因 b. 全 身 疾 患 に 分 類 して 解 説 します A. 味 覚 を 感 じる 器 官 の 異 常 a. 亜 鉛 欠 乏 症 亜 鉛 は 鉄 に 次 いで 体 内 に 多 い 必 須 微 量 元 素 で 多 くの 酵 素 活 性 に 関 与 し これらの 酵 素 の 中 には 細 胞 分 裂 に 深 く 関 わっているものもあります 味 細 胞 は 寿 命 が 約 10 日 で 極 めて 新 陳 代 謝 が 旺 盛 な 細 胞 といわれていますが 亜 鉛 が 欠 乏 すると 味 細 胞 の 新 生 交 代 が 延 長 し 味 覚 障 害 の 原 因 になると 言 われています 亜 鉛 は 体 重 70kgの 人 体 に 約 2.3g 含 まれており 維 持 するためには1 日 約 9mgを 摂 取 する 必 要 が あります しかし 日 本 食 は 亜 鉛 の 含 有 量 が 少 な 図 5. 舌 カンジダ 症 の 口 腔 内 写 真 く ダイエットや 偏 食 あるいはファーストフード の 蔓 延 によって 若 者 の 間 でも 亜 鉛 不 足 が 深 刻 な 問 題 となっています さらに 薬 剤 の 中 には 亜 鉛 と 結 合 して 吸 収 を 阻 害 するものがあり 他 の 疾 患 の 治 療 薬 服 用 による 二 次 的 な 亜 鉛 不 足 も 注 目 されて います b. 舌 炎 舌 炎 が 発 症 すると 舌 乳 頭 ( 味 蕾 )が 障 害 されて 味 覚 障 害 を 来 すことがあります 代 表 的 なものと しては 不 潔 な 義 歯 の 使 用 や 抗 菌 薬 の 長 期 投 与 あ るいは 免 疫 不 全 が 原 因 となって 真 菌 の 一 種 である カンジダが 感 染 して 発 症 する 舌 カンジダ 症 があり ます( 図 5) また 舌 炎 は 細 菌 感 染 以 外 にも 発 症 することが あります 中 年 以 降 の 女 性 に 多 い 鉄 欠 乏 性 貧 血 で は 舌 乳 頭 が 萎 縮 して 舌 表 面 が 平 滑 になり ピリ ピリした 灼 熱 感 とともに 味 覚 異 常 が 発 現 します また 爪 がスプーン 状 に 変 形 してこれら 一 連 の 症 状 を 呈 するものをPlummer-Vinson 症 候 群 と 呼 ん でいます また 舌 癌 や 歯 肉 癌 などの 口 腔 癌 や 咽 喉 頭 癌 の 多 くは 扁 平 上 皮 癌 で 放 射 線 治 療 がしばしば 行 わ れます この 際 副 作 用 として 重 篤 な 口 内 炎 がみ られますが 味 細 胞 は 放 射 線 の 影 響 を 受 けやすく 図 4. 味 覚 障 害 患 者 の 動 向 3

図 6. 放 射 線 口 内 炎 の 口 腔 内 写 真 図 7.シェーグレン 症 候 群 の 舌 乳 頭 萎 縮 重 度 の 味 覚 障 害 が 認 められます( 図 6) B. 味 覚 刺 激 を 伝 える 神 経 や 中 枢 の 異 常 舌 咽 頭 軟 口 蓋 で 感 知 された 味 覚 刺 激 は 舌 ( 鼓 索 神 経 ) 神 経 舌 咽 神 経 および 大 錐 体 神 経 から 顔 面 神 経 を 経 て 中 枢 に 伝 達 され 認 知 されます こ の 経 路 や 中 枢 に 疾 患 があると 感 覚 受 容 器 に 異 常 が なくても 味 覚 障 害 が 認 められます 代 表 的 な 疾 患 は 脳 腫 瘍 聴 覚 腫 瘍 中 耳 炎 あるいは 顔 面 神 経 麻 痺 です 他 の 味 覚 障 害 との 鑑 別 点 は 傷 害 された 神 経 に 一 致 した 部 位 に 味 覚 障 害 がみられることで 通 常 片 側 性 に 発 症 します 味 覚 障 害 の 中 での 発 生 頻 度 は 比 較 的 まれです C. 口 腔 環 境 の 異 常 a. 口 腔 乾 燥 症 味 物 質 は 口 内 で 唾 液 や 水 に 溶 解 して 味 孔 から 味 蕾 に 入 り 味 細 胞 表 面 の 膜 に 接 触 して 味 覚 が 感 知 されます 唾 液 が 減 少 して 口 腔 乾 燥 状 態 になると 味 物 質 の 味 蕾 への 移 動 が 阻 害 されて 味 覚 の 低 下 に つながります 口 腔 乾 燥 症 の 原 因 も 味 覚 障 害 と 同 様 に 複 雑 ですが 頻 度 の 高 いものについて 解 説 し ます 薬 物 性 唾 液 分 泌 障 害 いろいろな 疾 患 の 治 療 に 使 用 される 薬 剤 の 中 で 唾 液 分 泌 に 影 響 して 口 腔 乾 燥 症 を 起 こす 可 能 性 の あるものは 比 較 的 多 いといわれています 唾 液 分 泌 を 減 少 させる 作 用 は2つに 大 別 することができ ます 中 枢 神 経 あるいは 末 梢 神 経 に 作 用 して 唾 液 分 泌 を 減 少 させるもの 唾 液 分 泌 は 自 律 神 経 で 調 節 され 交 感 神 経 は 分 泌 を 抑 制 し 副 交 感 神 経 は 分 泌 を 促 進 しま す 抗 コリン 薬 ( 抗 パーキンソン 薬 消 化 性 潰 瘍 治 療 薬 )や 抗 ヒスタミン 薬 は 副 交 感 神 経 の 伝 導 を 遮 断 する 働 きがあり 唾 液 分 泌 を 抑 制 しま す また 精 神 神 経 用 薬 ( 抗 うつ 薬 抗 不 安 薬 ) は 唾 液 分 泌 中 枢 に 作 用 して 唾 液 分 泌 を 抑 制 しま す 電 解 質 や 水 分 の 移 動 に 関 係 して 唾 液 分 泌 を 減 少 させる 薬 剤 降 圧 薬 ( 利 尿 薬 カルシウム 拮 抗 薬 )を 服 用 していると 血 管 から 細 胞 への 水 分 の 移 動 が 少 な くなり 唾 液 分 泌 が 抑 制 されることがあるとい われています また 気 管 支 拡 張 薬 は 交 感 神 経 の 刺 激 薬 であり 唾 液 分 泌 を 抑 制 します シェーグレン 症 候 群 シェーグレン 症 候 群 は 唾 液 腺 や 涙 腺 などの 外 分 泌 腺 が 特 異 的 に 傷 害 される 自 己 免 疫 疾 患 ( 膠 原 病 )で 慢 性 関 節 リウマチや 全 身 性 エリテマトー デスなど 他 の 自 己 免 疫 疾 患 を 合 併 することもあり ます 40 歳 以 上 の 女 性 に 多 く 臨 床 症 状 としては 耳 下 腺 や 顎 下 腺 などの 大 唾 液 腺 の 無 痛 性 腫 脹 とと もに 口 腔 乾 燥 症 (ドライマウス)と 乾 燥 性 角 結 膜 炎 (ドライアイ)が 認 められます 口 腔 乾 燥 症 が 進 行 すると 舌 乳 頭 の 萎 縮 がみられ 味 覚 低 下 が 自 覚 されるようになります( 図 7) 心 因 性 唾 液 分 泌 機 能 低 下 ストレスやうつ 病 などの 心 因 性 要 因 は 自 律 神 経 系 の 交 感 神 経 を 刺 激 し 唾 液 分 泌 が 抑 制 されて 口 腔 乾 燥 症 が 発 症 することがあります 加 齢 唾 液 腺 細 胞 は 加 齢 とともに 減 少 し 唾 液 分 泌 量 も 少 なくなるといわれています また 高 齢 者 で はいろいろな 薬 剤 を 服 用 しており 薬 剤 の 副 作 用 として 口 腔 乾 燥 症 を 発 症 することも 多 いと 考 えら れています 4

D.その 他 a. 歯 科 心 身 症 現 代 社 会 において 我 々は 過 度 の 不 安 緊 張 ある いはストレスにさらされています このような 心 因 性 要 因 の 増 加 によって 心 身 症 あるいは 神 経 症 の 患 者 さんが 多 くなっています これらの 患 者 さん では 全 身 に 様 々な 症 状 が 現 れますが 口 腔 領 域 は 知 覚 神 経 の 末 梢 が 密 に 分 布 し 外 来 刺 激 が 常 に 加 えられる 部 位 であるため 歯 科 領 域 に 症 状 が 発 現 する 歯 科 心 身 症 は 急 増 しています 症 状 によって 舌 痛 症 非 定 型 顔 面 痛 口 臭 症 口 腔 乾 燥 症 などに 分 類 されていますが 味 覚 障 害 も 含 まれています b. 全 身 疾 患 消 化 器 系 疾 患 亜 鉛 は 十 二 指 腸 で 吸 収 されますが 胃 腸 疾 患 で 十 二 指 腸 の 切 除 を 受 けると 亜 鉛 が 欠 乏 しやす くなり 味 覚 異 常 を 起 こすことがあります 肝 障 害 肝 炎 や 肝 硬 変 では 甘 味 酸 味 あるいは 苦 味 の 閾 値 が 上 昇 することがあるといわれています 糖 尿 病 糖 尿 病 では 末 梢 神 経 障 害 を 起 こすことが 知 ら れていますが 味 覚 に 関 する 知 覚 神 経 も 障 害 を 受 けることがあり また 甘 味 に 対 する 閾 値 も 高 いといわれています 妊 娠 妊 娠 期 間 中 は 味 覚 全 般 の 閾 値 が 高 くなるとい われています 4 味 覚 障 害 の 診 断 味 覚 障 害 の 治 療 に 際 して 最 も 重 要 なことは 正 確 な 診 断 です 味 覚 障 害 を 主 訴 に 来 院 された 患 者 さ んには 具 体 的 な 症 状 経 過 や 現 在 加 療 中 の 疾 患 お 表 2. 味 覚 障 害 の 検 査 味 覚 異 常 問 診 ( 病 状 経 過 全 身 疾 患 の 有 無 服 薬 の 有 無 ) 視 診 ( 舌 の 異 常 口 腔 乾 燥 ) 味 覚 検 査 ( 電 気 味 覚 検 査 濾 紙 デイスク 法 ) 血 液 検 査 神 経 性 中 枢 性 味 覚 障 害 血 液 一 般 検 査 薬 剤 性 味 覚 障 害 Zn Fe 抗 SS-A 抗 SS-B 抗 体 異 常 異 常 異 常 なし 亜 鉛 欠 乏 症 Plummer-Vinson 症 候 群 シェーグレン 症 候 群 異 常 なし 特 発 性 味 覚 障 害 心 因 性 味 覚 障 害 図 8. 味 覚 検 査 ( 電 気 味 覚 検 査 ) よび 服 用 薬 の 有 無 を 確 認 する 必 要 があります ま た 口 腔 内 の 診 察 で 舌 の 異 常 や 口 腔 乾 燥 の 有 無 が 重 要 な 観 察 項 目 になります さらに 味 覚 検 査 を 実 施 して 障 害 の 程 度 部 位 について 客 観 的 な 評 価 を 行 います 電 気 味 覚 検 査 で 味 覚 異 常 が 特 定 の 神 経 の 支 配 領 域 に 限 定 している 場 合 は 神 経 性 ある いは 中 枢 性 の 味 覚 障 害 が 強 く 疑 われます 領 域 が 限 定 されない 味 覚 検 査 異 常 には 血 中 の 亜 鉛 値 を 測 定 し 亜 鉛 欠 乏 の 有 無 をチェックします また 口 腔 内 診 査 で 口 腔 乾 燥 や 舌 の 異 常 が 認 められた 場 合 には 疑 われる 疾 患 に 応 じて 血 液 検 査 の 項 目 を チェックし 確 定 診 断 を 行 います( 表 2) 口 腔 内 診 査 や 味 覚 検 査 で 異 常 が 認 められない 場 合 あるいは 味 覚 検 査 に 異 常 があっても 原 因 が 確 定 できない 場 合 は 特 発 性 味 覚 障 害 心 因 性 味 覚 障 害 や 全 身 疾 患 の 合 併 症 などが 考 えられます この ように 検 査 に 基 づいて 正 確 な 診 断 を 行 うことで 適 切 な 治 療 を 行 うことが 可 能 になります A. 味 覚 検 査 法 味 覚 検 査 法 には 電 気 味 覚 検 査 計 を 用 いる 電 気 味 覚 検 査 と 味 サンプルを 利 用 する 濾 紙 ディスク 法 が あります a. 電 気 味 覚 検 査 電 気 味 覚 検 査 は 小 電 極 に 直 流 電 流 を 通 電 し 鼓 索 神 経 領 域 ( 舌 尖 部 ) 舌 咽 神 経 領 域 ( 舌 根 部 ) および 大 錐 体 神 経 領 域 ( 軟 口 蓋 部 )の 反 応 を 測 定 します( 図 8) 手 技 が 簡 単 で 通 電 量 に 応 じて 定 量 的 な 検 査 が 可 能 で 神 経 障 害 の 判 定 に 極 めて 有 用 です しかし 測 定 できる 味 質 は 金 属 味 ( 酸 味 ) のみで 味 質 の 障 害 を 判 定 することはできません b. 濾 紙 ディスク 法 濾 紙 ディスク 法 は 甘 味 (ショ 糖 ) 塩 辛 味 ( 食 5

図 9. 味 覚 検 査 ( 濾 紙 ディスク 法 ) 塩 ) 酸 味 ( 酒 石 酸 )および 苦 味 ( 塩 酸 キニーネ) について 各 5 段 階 の 味 サンプルを 作 成 し 小 型 の 濾 紙 に 各 味 サンプルを 浸 して 電 気 味 覚 検 査 と 同 じ 測 定 部 位 に 濾 紙 ディスクを 置 いて 判 定 します( 図 9) 特 殊 な 装 置 は 不 要 で 味 質 ごとの 異 常 を 判 定 することができ 解 離 性 味 覚 障 害 や 異 味 症 を 判 定 することができます しかし 検 査 ごとにディ スクを 交 換 して 判 定 する 必 要 があるので 操 作 が 煩 雑 です 実 際 の 臨 床 では 電 気 味 覚 検 査 と 濾 紙 デイスク 法 を 併 用 することによってそれぞれの 欠 点 を 補 い 正 確 な 診 断 を 行 うようにしています 5 味 覚 障 害 の 治 療 A. 味 覚 を 感 知 する 器 官 の 異 常 a. 亜 鉛 欠 乏 症 味 覚 障 害 の 中 で 亜 鉛 欠 乏 症 が 原 因 となっている 症 例 は 約 20%にのぼるといわれており 最 近 特 に 注 目 されています 血 清 中 の 亜 鉛 値 を 測 定 して 診 断 されますが 60μg/dl 未 満 が 低 亜 鉛 血 症 といわ れます( 表 3) 日 本 食 は 本 来 亜 鉛 が 少 なく 西 表 3. 亜 鉛 欠 乏 症 への 対 応 亜 鉛 欠 乏 症 ( 味 覚 障 害 の 約 20%) 1 血 清 Zn 値 65 140μg/dl(60μg/dl 未 満 低 亜 鉛 血 症 ) 2 亜 鉛 摂 取 必 要 量 1 日 9mg 亜 鉛 を 多 く 含 む 食 材 (100g 中 の 亜 鉛 量 mg) 牡 蠣 7 レバー 6 牛 肉 4 小 麦 4 チーズ 3 納 豆 3 エビ 2 卵 1 牛 乳 0.4 3 薬 剤 による 補 給 味 覚 障 害 の 保 険 適 応 を 持 つ 亜 鉛 剤 はないが 胃 潰 瘍 治 療 薬 プロマック( 亜 鉛 含 有 )が 有 効 4 亜 鉛 の 吸 収 を 阻 害 する 薬 剤 の 使 用 亜 鉛 とキレート 結 合 して 吸 収 を 阻 害 する 薬 剤 ( 鎮 痛 解 熱 薬 降 圧 薬 抗 うつ 薬 など)を 服 用 している 場 合 には 代 替 え 薬 が 可 能 か 主 治 医 に 相 談 する 洋 人 より 亜 鉛 欠 乏 になりやすいといわれています が 最 近 流 行 のファーストフードや 加 工 食 品 はさ らに 亜 鉛 値 が 低 く それらに 含 まれる 食 品 添 加 物 の 中 には 亜 鉛 の 吸 収 を 阻 害 するものもあるといわ れ 若 者 にも 味 覚 障 害 が 増 加 しています 亜 鉛 の 1 日 必 要 量 は9mgで 亜 鉛 を 含 む 食 材 しては 牡 蠣 レバー 牛 肉 チーズなどがあります 食 生 活 の 改 善 のみで 対 応 できない 場 合 には 薬 剤 による 亜 鉛 の 補 給 が 必 要 です しかし 現 在 の ところ 亜 鉛 欠 乏 による 味 覚 障 害 の 適 応 を 持 つ 薬 剤 はありません 胃 潰 瘍 治 療 薬 である プロマック は 亜 鉛 を 含 み 味 覚 障 害 の 改 善 に 有 効 であること が 知 られています また 他 の 疾 患 に 対 して 服 用 している 薬 剤 の 中 に 亜 鉛 の 吸 収 を 阻 害 するものが 含 まれていること があります( 鎮 痛 解 熱 薬 降 圧 薬 抗 うつ 薬 など) 亜 鉛 欠 乏 症 と 診 断 された 場 合 には 内 服 薬 の 中 に そのような 薬 剤 が 含 まれていないか 確 認 すること も 必 要 です b. 舌 炎 カンジダ 症 ( 舌 カンジダ 症 ) カンジダ 症 は 細 菌 検 査 によって 確 定 診 断 を 行 い ます カンジダは 真 菌 の 一 種 で 通 常 の 抗 菌 薬 は 無 効 で 抗 真 菌 薬 の 内 服 薬 や 外 用 薬 (イトリゾール 内 用 液 フロリードゲルなど)が 適 応 となります また 義 歯 の 清 掃 や 口 腔 ケアーもカンジダ 症 の 予 防 に 重 要 です Plummer-Vinson 症 候 群 Plummer-Vinson 症 候 群 は 鉄 欠 乏 性 貧 血 が 原 因 ですので 血 液 検 査 でHb 値 血 色 素 量 血 清 鉄 値 の 低 下 などで 診 断 されます 内 科 的 な 治 療 が 必 要 となりますが 口 腔 症 状 の 改 善 のため 含 嗽 薬 や ステロイド 軟 膏 を 処 方 することも 有 効 です B. 味 覚 刺 激 を 伝 える 神 経 や 中 枢 の 異 常 諸 検 査 で 神 経 や 中 枢 の 異 常 ( 脳 腫 瘍 聴 覚 腫 瘍 中 耳 炎 顔 面 神 経 麻 痺 など)が 疑 われる 場 合 には 専 門 医 ( 脳 神 経 外 科 耳 鼻 咽 喉 科 など)による 診 察 と 処 置 が 必 要 になります 特 に 末 梢 性 顔 面 神 経 麻 痺 は 早 期 の 治 療 が 重 要 となるので 迅 速 な 対 応 が 重 要 です C. 口 腔 環 境 の 異 常 a. 口 腔 乾 燥 症 薬 物 性 口 腔 乾 燥 症 と 診 断 された 場 合 には 原 因 と 考 えられる 薬 剤 の 減 量 や 代 用 薬 への 変 更 の 可 否 6

表 4.シェーグレン 症 候 群 の 診 断 基 準 シェーグレン 症 候 群 1. 生 体 病 理 組 織 検 査 で 次 のいずれかの 陽 性 所 見 をみとめること A) 口 唇 腺 組 織 で4mm 2 あたり1focus( 導 管 周 囲 に50 個 以 上 のリンパ 球 浸 潤 ) 以 上 B) 涙 腺 組 織 で4mm 2 あたり1focus( 導 管 周 囲 に50 個 以 上 のリンパ 球 浸 潤 ) 以 上 2. 口 腔 検 査 で 次 のいずれかの 陽 性 所 見 を 認 めること A) 唾 液 腺 造 影 でStage1( 直 径 1mm 未 満 の 小 点 状 陰 影 ) 以 上 の 異 常 所 見 B) 唾 液 分 泌 量 低 下 (ガム 試 験 にて10 分 間 10ml 以 下 またはサクソンテストにて2 分 間 2g 以 下 )があり かつ 唾 液 腺 シンチグラフィーにて 機 能 低 下 の 所 見 3. 眼 科 検 査 で 次 のいずれかの 陽 性 所 見 を 認 めること A)Schirmer 試 験 で5mm/5 分 以 下 で かつローズベンガル 試 験 (van Bijisterveld スコア)で3 以 下 B)Schirmer 試 験 で5mm/5 分 以 下 で かつ 蛍 光 色 素 試 験 で 陽 性 4. 血 清 検 査 で 次 のいずれかの 陽 性 所 見 を 認 めること A) 抗 Ro/SS-A 抗 体 陽 性 B) 抗 La/SS-B 抗 体 陽 性 4 項 目 のうち 2 項 目 を 満 たせば 本 症 と 診 断 される [ 厚 労 省 1999 年 シェーグレン 症 候 群 診 断 基 準 ] を 主 治 医 に 対 診 する 必 要 があります また 心 因 性 口 腔 乾 燥 症 が 疑 われる 場 合 には 心 療 内 科 や 神 経 科 など 専 門 医 の 診 察 をすすめることも 重 要 で す しかし 代 用 薬 がなかったり 心 因 性 疾 患 の 治 療 には 症 状 が 改 善 するまで 時 間 がかかることが 多 く 口 腔 乾 燥 に 対 する 対 症 療 法 が 必 要 となりま す 現 在 シェーグレン 症 候 群 や 放 射 線 治 療 後 の 口 腔 乾 燥 症 など 特 殊 な 口 腔 乾 燥 症 を 除 いて 健 康 保 険 の 範 囲 で 対 応 できる 薬 剤 はありません 漢 方 薬 ( 白 虎 加 人 参 湯 など)が 有 効 な 場 合 もあるようで すが まだ 一 般 的 な 治 療 といえる 段 階 ではないよ うです 一 方 最 近 は 健 康 志 向 が 高 くなり サプリメン トをはじめ 様 々な 健 康 用 品 が 市 場 に 出 回 るように なりましたが 口 腔 ケアに 関 しても 同 様 です 口 腔 乾 燥 症 に 対 しても 保 湿 成 分 や 抗 菌 酵 素 を 含 んだ ジェル 歯 磨 剤 洗 口 剤 スプレーなどが 販 売 さ れています 効 果 はありますが 保 険 適 応 ではな いのでやや 高 価 です 口 腔 乾 燥 症 の 中 でシェーグレン 症 候 群 は 厚 労 省 の 特 定 疾 患 に 指 定 されている 難 治 性 疾 患 の 一 つ です 現 在 病 院 で 治 療 を 受 けている 患 者 さんは 10,000 20,000 人 といわれていますが 潜 在 的 に は100,000 200,000 人 いるのではないかと 考 えら れ 我 が 国 では 厚 労 省 の 診 断 基 準 をもとに 診 断 さ れています( 表 4) 治 療 は 一 般 的 な 口 腔 乾 燥 症 に 対 する 対 症 療 法 に 加 え 内 服 薬 や 外 用 薬 が 処 方 されます 内 服 薬 としては 唾 液 分 泌 を 促 進 する 塩 酸 セビメリン(エポザック サリグレン)が 保 険 適 応 薬 ですが 約 30%に 消 化 器 症 状 や 発 汗 などの 副 作 用 がみられます 外 用 薬 としては 人 工 唾 液 (サ リベート)が 保 険 適 応 で 口 腔 内 に 直 接 噴 霧 して 使 用 します( 表 5) D.その 他 a. 歯 科 心 身 症 口 腔 領 域 に 機 能 運 動 障 害 ( 顎 運 動 障 害 咀 嚼 障 害 など) 分 泌 障 害 ( 口 腔 乾 燥 症 )あるいは 知 覚 障 害 ( 味 覚 障 害 舌 痛 症 非 定 型 顔 面 痛 など)な どの 症 状 が 発 現 する 心 身 症 神 経 症 やうつ 病 を 歯 科 心 身 症 といいます 味 覚 障 害 の 中 では 自 発 性 異 常 味 覚 異 味 症 あるいは 悪 味 症 は 心 因 的 要 素 が 強 いといわれています 味 覚 障 害 を 認 めるが 1 各 種 検 査 で 異 常 が 認 め られない 2ストレス 悩 み 憂 鬱 などの 自 覚 が ある 3 不 眠 や 全 身 倦 怠 感 など 味 覚 障 害 以 外 の 症 状 が 合 併 している 場 合 には 心 療 内 科 や 神 経 科 な ど 専 門 医 の 診 察 をすすめることが 必 要 です 参 考 文 献 1. 阪 上 雅 史 編 集 : 耳 鼻 咽 喉 科 診 療 プラクテイ ス 12 嗅 覚 味 覚 障 害 の 臨 床 最 前 線. 文 光 堂, 東 京,2003. 2. 下 野 正 基 他 編 集 : 唾 液 による 健 康 づくり 明 日 からの 臨 床 に 取 り 組 む 日 本 歯 科 評 論 増 刊 2005.ヒョーロン, 東 京,2005. 3. 鴨 井 久 一 監 修 :かかりつけ 歯 科 医 対 応 主 訴 症 状 別 病 態 写 真 シート.クインテッセンス 出 版, 東 京,2002. 4. 中 村 嘉 男 他 編 : 基 礎 歯 科 生 理 学 第 4 版. 医 歯 薬 出 版, 東 京,2004. 表 5. 味 覚 障 害 に 関 わる 各 種 治 療 薬 亜 鉛 欠 乏 治 療 薬 プロマック ゼリア 新 薬 工 業 胃 潰 瘍 治 療 薬 味 覚 障 害 の 保 険 適 応 なし 口 腔 カンジダ 症 治 療 薬 イトリゾール 内 用 液 ヤンセンファーマ 保 険 適 応 投 与 は 原 則 2 週 間 フロリードゲル 経 口 用 持 田 製 薬 保 険 適 応 投 与 は 原 則 2 週 間 口 腔 乾 燥 症 治 療 薬 サリベ - ト( 人 工 唾 液 ) 帝 人 ファーマ シェーグレン 症 候 群 頭 頚 部 癌 放 射 線 治 療 後 に 保 険 適 応 サラジェン キッセイ 薬 品 シェーグレン 症 候 群 頭 頚 部 癌 放 射 線 治 療 後 に 保 険 適 応 エポザック 第 一 三 共 シェーグレン 症 候 群 頭 頚 部 癌 放 射 線 治 療 後 に 保 険 適 応 サリグレン 日 本 化 薬 シェーグレン 症 候 群 頭 頚 部 癌 放 射 線 治 療 後 に 保 険 適 応 7