Original Article Journal of Ecotechnology Research, 15[1], 31-36 (009) 009 International Association of Ecotechnology Research 夏季の富士山におけるパッシブサンプラーを用いたガス状成分の鉛直分布 横田久里子 *, 永淵修 **, 山根省三 ****, 本多安希雄 *** *****, 伊勢崎幸洋 * 豊橋技術科学大学建設工学系, 441-8580 豊橋市天伯町雲雀ケ丘 1-1 ** 滋賀県立大学 環境科学部, 5-8533 彦根市八坂町 500 *** 同志社大学 理工学部, 610-0394 京田辺市多々羅都谷 1-3 **** 大阪教育大学大学院 教育学研究科, 58-858 柏原市旭ヶ丘 4-698-1 ***** 滋賀県立大学大学院 環境科学研究科, 5-8533 彦根市八坂町 500 Vertical Distribution of Gaseous in Environmental Atmosphere at Mt. Fuji Using Passive Sampler YOKOTA KURIKO, NAGAFUCHI OSAMU, YAMANE SYOZO, HONDA AKIO, ISEZAKI YUKIHIRO *Department of Architecture and Civil Engineering, Toyohashi University of Technology, 1-1 Hibarigaoka, Tenpakucho, Toyohashi-shi, Aichi 441-8580 Japan **School of Environmental Science, The University of Shiga Prefecture, 500 Hasskacho, Hikone-shi, Shiga 5-8533 Japan ***Faculty of Science and Engineering, Doshisha University, 1-3 Miyakodani Tatara, Kyotanabe-Shi, Kyoto 610-0394 Japan ****Graduate School of Education,Osaka Kyouiku University, 4-698-1 Asahigaoka, Kashiwabara-shi, Osaka, 58-858 *****Environmental Science Graduate School, The University of Shiga Prefecture, 500 Hasskacho, Hikone-shi, Shiga 5-8533 Japan (Received October 10, 008, Accepted May 18, 009) The vertical distributions of the concentrations of O 3, NO, NO and SO at the experimental sites of Mt. Fuji in Japan were measured by the passive sampler from July to November in 007. When the air mass came from the Asian continent, the vertical distribution of the concentration of O 3 increased with altitude up to 67.ppbv at 340m, while the vertical distribution of the concentration of O 3 decreased with altitude when the air mass came from the Pacific. The concentrations of NO and NO increased with the altitude more than 000 m. This phenomenon depended on the altitude. The SO fluctuation was seemed to depend on the direction, where an air mass came and also on the altitude. When an air mass came from the continent, the concentration of SO increased with altitude as O 3, and when an air mass came from the Pacific, the increase of the concentration with altitude was found when the altitude was more than 000m as NO and NO. The vertical distribution of temperature and the humidity indicated changes of an air mass at 1700, 500 and 300m. The vertical distributions of NO, NO and SO and the meteorological data such as temperature and humidity suggested that an atmospheric boundary layer existed near an altitude of 000 meters. Key Words: vertical distribution, passive sampler, atmospheric boundary layer 1. はじめに 対流圏内部には 上層の大気循環が少なく大気汚染物質の長距離輸送に関係する自由対流圏と 下層の地域規模の生活圏内における鉛直対流を起こす大気境界層が存在する 我が国最高峰の富士山 (3776m) では 自由対流圏内の大気と大気境界層内の大気の E-mail: nagafuti@ses.usp.ac.jp 影響を受ける可能性があり 富士山を利用した自由対流圏の観測研究への適用が可能であると考えられる そして 富士山を観測タワーとすることで 季節風や偏西風が卓越する自由対流圏における汚染物質の長距離輸送を監視 またガス状 粒子状物質の各高度別の汚染物質の挙動や影響を知ることができる 大気汚染物質の観測方法には 自動測定器 1) や航空機を用いた方法 ) などがある 山岳部を利用し 31
横田久里子他夏季の富士山におけるパッシブサンプラーを用いたガス状成分の鉛直分布 た大気観測には 電源装置を用いた機器による観測 1,3) などがあるが 一般に 山岳部においては 電源装置の設置や 設置場所の選択が自由に出来ないという難点が存在する そこで 本研究では 電源装置が不要で かつ設置場所も自由に選択可能なパッシブサンプラーを用いた 本観測で使用したパッシブサンプラーは直径 1.9cm 長さ 3cm 重さ 10g 程度と 小型軽量で持ち運びが容易であり 4) 汚染物質の鉛直分布を調査するのに適している 5) 実際にオゾン濃度などの鉛直分布調査に用いられている 6, 7) パッシブサンプラーはこの利便性から 大気中揮発性有機化合物の長期間モニタリング 8) NO 濃度の測定 9) 広島県極楽寺山でのガス状汚染物質の濃度測定 10) Madrid( スペイン ) 都市周辺でのオゾン濃度分布の調査 11) などに利用されている 山岳部での大気測定においては 比叡山における微量大気汚染物質濃度の測定 1) 夏季の富士山におけるオゾン濃度の測定 13) が行われているが 日本国内では山岳部に利用された例は少ない 一方 海外では Kathmandu Valley( ネパール ) における大気汚染物質濃度の調査 14) ヨーロッパ山岳の森林でのオゾンの調査 15) カリフォルニア州などに存在する山岳の国立公園でのオゾン濃度調査 6) カリフォルニア州の山岳でオゾンと硝酸の鉛直分布の調査 7) など パッシブサンプラーを用いた観測は広く行われている 本研究では 富士山 ( 北緯 35 1 39 東経 138 43 39 ) を観測タワーとして 各高度 (Table 1) においてオゾン (O 3 ) 一酸化窒素(NO) 二酸化窒素 (NO ) 二酸化硫黄(SO ) 濃度の鉛直分布及び 気温 相対湿度を観測し ガス状物質の鉛直分布及び気象条件から 越境汚染及び地域レベルの汚染の影響を考察することを目的とした. 観測方法. 1 鉛直分布の測定本研究では 富士山に存在する 4 つの登山道のうち 吉田口登山道を主に調査地点とした 約 100m ごとに 19 箇所 ( 標高 850m~3775m) 及び 他の地点 3 箇所 ( 御殿場口 須走り口 スバルライン 4 合目 ) に簡易温湿度計 ( ティアンドデイ, Thermo Recorder RTR-53) 及びパッシブサンプラー ( 小川式 ) を設置し O 3 NO NO SO を捕集した Fig. 1 に調査地点 Table 1 に各観測地点の標高を示す なお 測定期間は 007 年 7 月 19 日 ~007 年 11 月 6 日までとした 試料の採取に用いた 市販されている含浸ろ紙は トリエタノールアミン (TEA)10% 溶液 50μg が担持されている NO ろ紙及び SO ろ紙 TEA10% 溶液に有機酸化剤 PTIO(-Pheny1-1,4,4,5,6,-tetramethimidazolin e-3-oxide-1-oxyl) が 0.3g/TEA10%-10mL 含まれている溶液 50μg が担持されている NO x ろ紙 亜硝酸ナトリウム 100μg が担持され 炭酸カリウムとグリセリンが添加されている O 3 ろ紙である 回収した含浸ろ紙は NO NO x 及び O 3 ろ紙は 3 Fig. 1 The map of experimental sites 16) Table 1 The altitudes of each monitoring point Name Attitude(m) FYY-1 浅間 850 FYY- 仲の茶屋 1110 FYY-3 1450 1450 FYY-4 1600 1600 FYY-5 1700 1700 FYY-6 1800 1800 FYY-7 000 000 FYY-8 00 00 FY-1 小御嶽 305 FYY-9 6 合目 500 FY- 花小屋 700 FY-3 鎌岩館 790 FY-4 東洋館 900 FY-5 白雲荘 300 FY-6 元祖室 340 FS-5 江戸屋 3350 FY-7 富士山ホテル 3360 FY-8 山口屋 3730 FF-6 測候所 3775 超純水 8mL SO では超純水 5 ml で抽出した なお 分析前日に抽出作業を行い冷却保存し 翌日分析を行った NO NO x ろ紙では硝酸を亜硝酸に還元して定量するジェイサイエンス社の FIA を用い 銅 カドミウム還元カラムを使用した O 3 SO ではイオンクロマトグラフを用いてそれぞれ NO 3 - SO 4 - 濃度を定量して大気中濃度に換算した 分析に使用したイオンクロマトグラフは Metrohm 社製の 761 Compact IC ガードカラムは Shodex SI-90G 分離カラムは Shodex SI90-4E 溶離条件は 1.7mM NaHCO 3 + 1.8mM Na CO 3 注入量は 0μL 流量は 1.mL min -1 である. 解析方法パッシブサンプラーの解析方法は 平野ら 17) にしたがって算出した 大気中の NO 濃度は ppbv NO W t NO NO ただし W NO は NO 捕集エレメントに捕集され
た NO 量 (ng) αno は換算係数 (ppbv min/ng) t は捕集エレメントの暴露時間 (min) である 温度 0 相対湿度 70% 1 気圧での換算係数 αno は 57 であるが これ以外の温度 湿度 気圧の時は 以下の (1) (3) 式により求まる NO T 77..003 89.41 (0.637 [ P] [ RH ] 131.47) RH は相対湿度 (%) T は温度 ( ) P は水蒸気圧補正係数である 大気中の NO 濃度は (1) 93 1. 83 SO 39.4 73 T である Journal of Ecotechnology Research, 15[1] (009) 3. 結果 考察 富士山における O 3 NO NO SO の濃度分布を Fig. -1~-4 示す 高度によりパッシブサンプラーの設置期間が異なっているのは 回収のために必要な人数 時間と労力の関係からである Fig. -1 に示した O 3 濃度は 007 年 7 月 4 日 ~ NO ppbv NO W W t ( NOx NO ) W NOx は NO x 捕集エレメントに捕集された NO x 量 (ng) αno は換算係数 (ppbv min/ng) t は捕集エレメントの暴露時間 (min) である 温度 0 相対湿度 70% 1 気圧での換算係数 αno は 56 であるが これ以外の温度 湿度 気圧の時は 以下の () (3) 式により求まる T NO 45.3 0.046 ( 0.439 [ P] [ RH ] (1)() 式の P は次式より求まる P P P 3 N T N 19.94 08.16) () P (3) P N は 0 における水蒸気圧 (17.535mmHg) P T は測定時の平均気温における水蒸気圧 (mmhg) である 大気中の O 3 濃度は O ppbv O W t 3 3 O3 W O3 は O 3 捕集エレメントに捕集された O 3 量 (ng) αo 3 は換算係数 (ppbv min/ng) t は捕集エレメントの暴露時間 (min) である 温度 0 相対湿度 70% 1 気圧での換算係数 αo 3 は 46. であるが これ以外の温度と湿度の時は 次式により求まる O 3 46. 10 93 73 T (9.94 In( t) 6.53) 大気中の SO 濃度は ppbv SO W t SO SO 1.83 W SO は SO 捕集エレメントに捕集された SO 量 (ng) αso は換算係数 (ppbv min/ng) t は捕集エレメントの暴露時間 (min) である 温度 0 相対湿度 70% 1 気圧での換算係数 αso は 39.4 であるが これ以外の温度と湿度の時は 次式により求まる Fig. -1 Fig. - Fig. -3 Fig. -4 The vertical distribution of O 3 concentration The vertical distribution of NO concentration The vertical distribution of NO concentration The vertical distribution of SO concentration 33
横田久里子他夏季の富士山におけるパッシブサンプラーを用いたガス状成分の鉛直分布 007 年 8 月 7 日 ( 期間 ⅰ) 007 年 9 月 15 日 ~007 年 11 月 4 日 ( 期間 ⅲ) では 標高が高くなるにつれ 濃度の上昇が確認され 反対に 007 年 8 月 7 日 ~007 年 9 月 15 日 ( 期間 ⅱ) では 標高が高くなるにつれ 濃度は減少していた 堤 18) は 富士山頂での 10 月の平均 O 3 濃度が約 48ppb 程度と述べ また 畠山ら 1) はローカルな汚染の影響が低いときには 東アジアの 10 月の地表付近のバックグラウンドオゾン濃度は 40ppb 程度だと指摘したが 本観測では 10 月の O 3 濃度は ~10ppb の範囲で変動しており それほど高い O 3 濃度は観測されなかった しかし 期間 ⅰにおいては 標高 500m 以上の観測地点全てにおいて 30ppbv を 3000m 以上では 40ppbv を超える値を観測し 340m で最高濃度 67.ppbv を記録した なお 期間 ⅲの最高濃度は 標高 500m での 10.7ppbv であった 期間 ⅰと期間 ⅲにおける濃度の違いは 日射量の違いではないかと考えられる 本研究では日射量の観測を行わなかったため 気象庁の平年値分布図の日射量のデータから月変化の傾向を読み取った 富士山近辺の 7 8 月の全天日射量は 16~18 (MJ/m ) であるが 9 月は 1~14 (MJ/m ) 10 月は 10~1(MJ/m ) 11 月には 8~10(MJ/m ) と月を追う毎に下がっている 太陽日射が減少し O 3 生成反応が不活発になった結果 O 3 濃度が減少したのではないかと推測される 実際に日射量を観測し 検証することが今後の課題である 国立極地研究所流跡線モデル気象データ表示システムを利用し バックトラジェクトリー解析を行った なお バックトラジェクトリーの開始時間は図に記した日付の L.T. 1:00 であり 期間は Fig. 3-1 では 9 日 Fig. 3- では 4 日 Fig. 3-3 では 5 日 Fig. 3-4 では 3 日 Fig. 3-5 では 4 日である 標高により多少のずれはあるものの 期間 ⅰ(Fig. 3-1) と期間 ⅲ(Fig. 3-) では大陸側から 期間 ⅱでは 台風の影響で太平洋上の風を巻き込んでいる場合 (Fig. 3-3) 太平洋上からの風が吹き込んでいる場合 (Fig. 3-4) 大陸からの風が流れ込んでいる場合 (Fig. 3-5) が確認でき 7 月の終わりと 8 月後半からは大陸からの風が流れ込んでいることが確認できた このことから この観測期間における富士山の O 3 濃度は 大陸からの風が吹き込むと標高が高くなるにつれて増大し 太平洋から風が吹き込むと標高が高くなるにつれて減少することが判明した O 3 濃度の増減は 空気塊がどの経路を移流してきたかに大きく依存していると考えられた しかし いずれの場合においても 1500m 付近における濃度の境界 13) は確認出来ず 本研究結果のみから 自由対流圏と大気境界層の境界を判断することは困難であった すでに初秋であった期間 ⅲに関しては 大気境界層上端の下降が始まっていたと推定され 自由対流圏の影響による可能性が高いと推測できた Fig. - に示した NO 濃度は 観測期間を通し 000m までは標高が高くなるにつれて濃度が減少し 000m を越える標高では 標高が上がるのに伴って濃度が増加するという 000m 付近を中心とした濃度変化が認められた 1500m~000m 付近において 34 Fig. 3-1 Fig. 3- Fig. 3-3 Fig. 3-4 Fig. 3-5 Termⅰ (The winds came from the continent) Termⅲ (The winds came from the continent) Termⅱ (The effect of the typhoons) Termⅱ (The winds came from the Pacific) Termⅱ (The winds came from the Pacific)
は 0.04~0.14ppbv の範囲に濃度データの収束が 3000m~3500m では 0.16~4.35ppbv の範囲で濃度データの拡散が確認でき 標高 300m で 4.34ppbv が観測された Fig. -3 に示した NO 濃度も 観測期間を通し NO と同様の変動傾向を示した すなわち 000m までは標高が高くなるにつれて濃度が減少し 000m を越える標高では 標高が上がるのに伴って濃度が増加するという 000m 付近を中心とした濃度変化が認められた また 1500m~000m 付近においては 0.18~0.83ppbv の範囲に濃度データの収束が 3000m~3500m においては 0.16~5.66ppbv の範囲で濃度データの拡散が確認でき 標高 300m で 5.66ppbv を観測した NO NO 濃度ともに 標高 000m~500m において濃度データの拡散が確認出来るが これは この付近でのサンプル採取が車の乗り入れが可能な場所であったことが影響していると考えられる 一方 NO と NO 濃度の標高 000m 付近を境界にした変化は 森林限界が関係していると考えられる 000m より下層では 森林の物質吸着により 大気境界層の濃度影響が緩和された すなわち 大気境界層が富士山の裾から這うように上昇し 自由対流圏と混合することで NO と NO 濃度が上昇 もしくは周辺地域からの汚染空気塊の輸送が風の強さによって 太平洋側の工業地帯や都市圏を抜け 自由対流圏と混合した汚染物質は 000m までは森林の物質吸着により濃度が減少するが 森林限界である 000m を越えるとその効果がなくなるために それらの濃度が上昇したと考えられる Fig. -4 に示した富士山における SO の濃度は 007 年 7 月 4 日 ~8 月 7 日 007 年 8 月 3 日 ~8 月 30 日 007 年 8 月 30 日 ~11 月 4 日の期間 (1) では 標高が上がるのに伴って濃度が上昇していた この期間は O 3 濃度で述べた期間 ⅰ ⅲ と重なっており 大陸からの風が吹き込んでいた それ以外の期間 () では NO や NO 濃度と同じような濃度変化の傾向を示し 標高 000m 付近までは 標高が上がるのに伴って濃度は減少 000m 以上では 標高が上がるのに伴って濃度は増加しており 000m 付近を中心として 弧を描くような濃度分布を示した この期間は O 3 濃度で述べた期間 ⅱ と重なっており 太平洋からの風が吹き込んでいた なお 007 年 8 月 3 日 ~8 月 30 日の観測において 標高 3775m で 4.3ppbv の最高濃度を観測した 現在 国内の大気中 SO 濃度は減少しているが アジア諸国の急速な経済発展により 増加が懸念されている物質である 大陸からの風が吹き込むときは 標高が上がるのに伴って濃度が増加するという今回の結果は 自由対流圏中を SO が高濃度に輸送されている可能性があることを示唆している Fig. 4 に簡易温湿度計データとそのデータから計算した気温 温位 相当温位 湿度を高度別にまとめたものを示す なお 温湿度計データには 一部異常値が存在したため それを除いて作成したものである 相当温位は 空気塊に変化がないときは直 Journal of Ecotechnology Research, 15[1] (009) Fig. 4 The calculate data of temperature, potential temperature, equivalent potential temperature and humidity 線となり 変化があると折れ曲がる Fig. 4 から標高 1700m 500m 300m 付近で変化が認められた これは NO 及び NO 濃度の変化が確認できた標高と同じ付近であり この付近に大気境界層が存在していたと考えられる 富士山におけるパッシブサンプラーの測定結果と比較するために 大気汚染常時監視測定局のデータ を利用した 19) なお 使用したデータはいずれも平成 17 年度の年平均値である O 3 および NO 濃度は富士吉田市ではそれぞれ 33 ppb 11 ppb 甲府市では 31ppb 18ppb 名古屋市では 3ppb 18ppb であり 富士宮市では 6ppb 18ppb 御殿場市では 19ppb 18ppb であった また 光化学注意報レベル 10ppb 以上の濃度が出現した日数の多い測定局である 千葉県野田市桐ヶ作では 34ppb 9ppb 野田では 33ppb 13ppb 群馬館林では 3ppb 11 ppb である これらと比較すると 富士山における NO 濃度は地上ほど高くなかったが O 3 濃度は地上と同じく高濃度で観測された また 富士山では標高が上がるとともに O 3 濃度が上昇しているが これには 対流圏 光化学反応 及び成層圏オゾンの影響が考えられる しかし 今回の観測結果のみから判断することは困難であり 今後の課題であると言える 今回観測したいずれの物質も 標高 3000m 以上で高濃度が観測されており 風による移流の影響が大きいと考えられる しかし 本研究から地域レベルの汚染の影響の割合を考察することは困難であった そのため 観測期間やパッシブサンプラーの設置場所を変更することが必要と考えられる 4. まとめ 本研究では 富士山を観測タワーとし パッシブサンプラーを用いて O 3 NO NO SO を捕集 濃度の測定を行うことで 大気層の境界及びガス状物質の挙動を明らかにした その結果 富士山の夏季における O 3 濃度 SO 濃度は 空気塊の移流経路によって濃度が変化することが分かった 大陸から移 35
横田久里子他夏季の富士山におけるパッシブサンプラーを用いたガス状成分の鉛直分布 流してくる時には標高が高くなるにつれ濃度が上昇し 太平洋から移流してくる時には 標高が高くなるにつれ 濃度は減少していた 本研究では 高度 1500m 付近に O 3 濃度の境界が存在する 14) という現象は確認出来なかったが 000m 付近を境にする NO NO 濃度の変化と 温位 相当温位の変化から 標高 000m 付近に大気境界層が存在することが示唆された 謝辞本研究の一部は ( 財 ) 鉄鋼業環境保全技術開発基金 山岳を観測タワーとした大気汚染物質の長距離移流解析 ( 代表者 : 永淵修 ) 及び科学研究費基盤研究 A 富士山山体を観測タワーとしたエアロゾル諸特性の鉛直的観測研究 ( 代表者 : 五十嵐康人, 気象研究所 ) の助成の下に行われた また NPO 法人富士山測候所を活用する会には山頂での調査に多大の支援をいただいた ここに記して謝意を表する また 旧永淵研 ( 千葉科学大学 ) の学生には 機器の設置及び交換などデータ回収に御協力頂いた さらに 山麓と登山道の 地点にパッシブサンプラーを設置させていただいた富士山本宮浅間大社 北口本宮富士浅間神社 小御嶽神社 各山小屋に厚く御礼申し上げる なお 流跡線の計算 及び流跡線の図の作成には 気象庁及び電力中央研究所による JRA-5 長期再解析データ 及び国立極地研究所流跡線モデル (Tomikawa and Sato, 005; http://firp-nitram.nipr.ac.jp) を用いた 引用文献 1) 畠山史郎, 片平菊野, 高見昭憲, 菅田誠治, 劉発華, 北和之 ; 奥日光山岳域における夏季および秋季のオ ゾン濃度変動, 大気環境学会誌, 39, 58-170(004). ) Shiro Hatakeyama, kentaro Murano, Hiroshi Bandow, Fumio Sakamaki, Masahiko Yamato, Shigeru Tanaka, Hajime Akimoto; The 1991 PEACAMPOT aircraft observation of ozone, NO x, and SO over the East China Sea, the Yellow Sea, and the Sea of Japan; JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESESARCH, Vol.100, 3,143-3,151(1995). 3) 渡辺幸一, 朴木英治, 吉久真弘, 西野幹, 柳瀬友治 ; 立山 美女平におけるオゾン 窒素酸化物および二酸 化硫黄濃度の測定, 大気環境学会誌, 41, 68-78(006). 4) Alison S. Geyh, Jianping Xue, Halûk Özkaynak, and John D. Spengler; The Harvard Southern California Chronic Ozon Exposure Study: Assessing Ozon Exposure of Grade-School-Age Children in Two Southern California Communities, Environmental Health Perspectives, Vol.108, 65-70(000). 5) 皆川直人 ; 分子拡散型パッシブサンプラーによる大 気汚染物質濃度の測定事例紹介 ; 日本写真学会誌, Vol.69, 77 79 (006). 6) Ray, John D.; Spatial Distribution of Tropospheric Ozone in National Pariks of California: Interpretation of Passive-Sampler Data, TheScientificWorldJOURNAL, 1, 483-497(001). 7) Bytnerowicz, Andrzej; Parker, David R.; Padgett, Pamela E.; Vertical Distribution of Ozone and Nitric Acid Vapor on the Mammoth Mountain, Eastern Sierra Nevada, California; TheScientificWorldJOURNAL,, 1-9(00). 8) 松下和正, 仲村恭輝, 布施泰朗, 山田悦 ; パッシブサンプラー採取による大気中揮発性有機化合物濃度の経年変化観測 (001 004), 分析化学, 54, 849 (005). 9) 山田親義, 足立康勝, 三谷知世 ;P04 パッシブサンプラーを用いた多摩地区の NO 濃度の測定, 大気環境学会年会公演要旨集, 43, 474 (00). 10) 苗村晶彦, 中根周歩, 佐久川弘, 福岡義隆 ; 広島県極楽寺山におけるガス状汚染物質の動態とマツ 広葉樹の樹木活力度との相関関係, 環境科学会誌, 10, 1-10(1997). 11) Sanz, M.J; Sanz, F.; Sanchez-Peaa, G.; Spatial and Annual Temporal Distribution of Ozone Concentrations in the Madrid Basin Using Passive Samplers, TheScientificWorldJOURNAL, 1,785-795(001). 1) 山田悦, 吉田大作, 胡連春, 山田武 ; パッシブサンプラーを用いた山間部における大気中二酸化窒素及び二酸化硫黄の測定法, 分析化学, 45, 1083-1088(1996). 13) 室崎将史, 藤田慎一, 高橋章, 速水洋, 三浦和彦 ; 富士山におけるパッシブサンプラーを用いたオゾン濃度の鉛直分布の測定, 大気環境学会誌, 41, 347-354 (006). 14) Akira KONDO, Akikazu KAGA, Kiyohsi IMAMURA, Yohio INOUE, Masahiko SUGISAWA, Manohar Lal SHRESTHA ; Investigaton of air pollution concentration in Kathmandu valley during winter season, Jornal of Environmental Sciences, 17, 1008-1013(005). 15) A. Bytnerowicz, B. Godzik, K. Grodzi ska, W. Fr czek, R. Musselman, W. Manning, O. Badea, F. Popescu, P. Fleischer; Ambient ozone in forests the Central and Eastern European mountains, Environmental Pollution, 130, Issue1,5-16(004). 16) カシミール 3D, http://www.kashmir3d.com/ 17) 平野耕一郎, 斉藤勝美 ; 短期暴露用拡散型サンプラーを用いた環境大気中の NO, NO, SO, O 3 および NH 3 濃度の測定方法, 横浜市環境科学研究所環境研究資料 (00) 18) 堤之智 ; 富士山頂での観測, a. オゾンの観測 ( 山の大気環境科学, 土器屋由紀子, 岩坂泰信, 長田和雄, 直江寛明編, 養賢堂, 東京 ), 19-139 (001). 19) 経済産業調査会 ; 日本の大気汚染状況 18, 環境省水 大気環境局編 (007) 36