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職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 年 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 福 岡 県 技 能 労 務 職 歳 1,19,98 9,9 歳 8,

職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 (5 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 区 類 団 府 分 似 体 平 均 年 齢

全設健発第     号

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平 成 27 年 11 月 ~ 平 成 28 年 4 月 に 公 開 の 対 象 となった 専 門 協 議 等 における 各 専 門 委 員 等 の 寄 附 金 契 約 金 等 の 受 取 状 況 審 査 ( 別 紙 ) 専 門 協 議 等 の 件 数 専 門 委 員 数 500 万 円 超 の 受

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第 55 巻 第 1 号 (2016 年 3 月 ) 7 特 集 : 検 診 の 現 状 早 期 発 見 早 期 治 療 治 癒 率 との 関 係 Part2 子 宮 頸 がんおよびその 前 駆 病 変 に 対 する 検 診 の 現 況 Current Status of Screenig for Uterine Cervical Cancer and Precursors 本 間 滋 菊 池 朗 柳 瀬 徹 笹 川 基 Shigeru HONMA,Akira KIKUCHI,Toru YANASE and Motoi SASAGAWA 要 旨 本 邦 の 子 宮 頸 がん 検 診 は 昭 和 30 年 代 後 半 から 始 められ 長 い 歴 史 を 持 つが, 受 診 率 が 欧 米 の 70 80%に 比 して 著 しく 低 い25% 程 度 に 低 迷 し,しかも 受 診 者 が 頸 がんになるリスクの 低 い 高 齢 者 に 偏 っていて 反 復 受 診 者 もその 年 代 に 多 く, 費 用 対 効 果 の 悪 化 を 招 いている 近 年 の 頸 がんとその 前 駆 病 変 発 生 の 若 年 化 と, 晩 婚 化 ~ 妊 娠 の 高 齢 化 から, 検 診 の 目 的 は 早 期 がん~ 浸 潤 がんの 発 見 というよりは, 妊 孕 能 の 温 存 可 能 な 円 錐 切 除 術 で 治 療 可 能 な 前 駆 病 変 ~ 上 皮 内 癌 までに 発 見 することになってきた こうした 中 で, 頸 がんとその 前 駆 病 変 の 発 生 がHPV (Human Papilloma Virus)の 持 続 感 染 によること,それら 病 変 のほとんどにHPV DNAが 証 明 される 事 実 が 明 らかになった 結 果,1 頸 がん 検 診 を 担 う 細 胞 診 領 域 で 変 革 がお こり,Bethesda system という 診 断 体 系 が 作 られ,それとともに 病 理 組 織 学 でもCIN(cervical intraepithelial neoplasia) からSIL(squamous intraepithelial lesion)に 変 更 され,2 頸 がん 検 診 で 細 胞 診 とHPV 検 査 の 併 用 が 始 まり,3 頸 がん 発 生 を 予 防 するHPVワクチンが 開 発 されるな どの 進 展 がおこった 検 診 ではこれら 変 化 の 本 質 を 十 分 に 理 解 した 対 応 が 求 められる 緒 言 子 宮 頸 がんの 前 駆 病 変 ( 本 邦 の 診 断 基 準 である 子 宮 頸 癌 取 扱 い 規 約 ( 第 3 版 ) 1) では 異 形 成 :dysplasia, あるいはCIN(cervical intraepithelial neoplasia), 国 際 分 類 2) ではSIL(squamous intraepithelial lesion)を 含 め,ほとんどの 子 宮 頸 がんの 発 生 にHPV(Human Papilloma Virus :ヒト 乳 頭 腫 ウイルス)の 持 続 感 染 が 関 与 することが 証 明 され 3),またこの 前 駆 病 変 と 頸 がんのほぼ100%にHPV DNAが 証 明 されることが 明 らかとなった 4) ( 例 外 として 胃 型 腺 癌 が 挙 げられ る) このことから 頸 がんの 診 療 において3つの 重 要 な 変 化 と 進 展 がもたらされた ひとつ 目 は, 頸 がん およびその 前 駆 病 変 を 発 見 し 診 断 するシステム,す なわち 子 宮 頸 部 細 胞 診 における 判 断 と 結 果 報 告 の 体 系 の 改 訂 と,それに 対 応 した 頸 部 病 変 の 病 理 組 織 診 断 上 の 再 分 類 再 定 義 である 2つ 目 は, 従 来 からもっ ぱら 細 胞 診 によって 行 われてきた 子 宮 頸 がん 検 診 において,HPV 検 査 が 導 入 されつつあることである 3つ 目 は, 頸 がん 発 生 を 予 防 する 目 的 を 持 ったHPV に 対 するワクチンの 開 発 である 本 稿 では 以 上 の3 項 目 について, 今 日 の 子 宮 頸 がん 検 診 の 抱 える 問 題 点 との 関 連 から 概 説 する 1. 今 日 の 子 宮 頸 がん 検 診 の 問 題 点 後 述 するように 一 部 の 先 駆 的 な 地 域 で 開 始 された 本 邦 の 子 宮 頸 がん 検 診 は,1982 年 に 老 人 保 健 法 によ り 国 家 事 業 における 住 民 検 診 として 充 実 度 を 増 して きたものの,1998 年 に 検 診 に 対 する 国 からの 補 助 金 交 付 が 一 般 財 源 化 されてから 地 方 自 治 体 による 格 差 と 事 業 内 容 の 変 化 が 生 じてきた また,2004 年 の 厚 生 労 働 省 による がん 予 防 重 点 健 康 教 育 及 びがん 検 診 実 施 のための 指 針 の 改 訂 によって 検 診 間 隔 が2 年 となった 頃 から 浸 潤 癌 の 増 加 と 死 亡 率 の 再 上 昇 が 報 告 されるようになってきた 一 方, 頸 がん 及 びそ の 前 駆 病 変 の 発 生 が 若 年 化 しており, 現 在 では 結 婚 年 齢 の 上 昇 とともに 妊 娠 年 齢 が 高 くなっていること から 頸 がん 患 者 年 齢 とほぼ 同 じ29.5 歳 となっている 5) 新 潟 県 立 がんセンター 新 潟 病 院 婦 人 科 Key words: 子 宮 頸 がん(uterine cervical cancer), 頸 がん 前 駆 病 変 (precursor),ベセスダシステム(bethsda system), 細 胞 診 HPV 検 査 併 用 検 診 (combined screenig system of Papanicolaou and HPV test for cervical cancer and precursors), HPV ワクチン(HPV vaccine), 検 診 無 料 クーポン 券 (free coupon ticket)

8 新 潟 がんセンター 病 院 医 誌 晩 婚 化 少 子 化 を 背 景 として, 頸 がん 検 診 の 目 的 が 従 来 からの 早 期 がん~ 浸 潤 がんの 発 見 というよりは, 妊 孕 能 の 温 存 ができる,つまり 円 錐 切 除 術 で 治 療 可 能 なCIN3までに 発 見 することが 重 要 な 課 題 となっ てきた また, 本 邦 では 頸 がん 検 診 の 受 診 率 が25% 程 度 であり, 欧 米 の70-80% に 比 較 して 著 しく 低 い こと,また 受 診 者 が 頸 がんになるリスクが 比 較 的 低 い 高 齢 者 に 偏 っている(しかも 反 復 受 診 者 の 相 当 数 が 高 齢 者 である)ことも 指 摘 されていて, 検 診 の 非 効 率 化 言 いかえれば 費 用 対 効 果 の 悪 化 に 結 びついて おり, 地 方 自 治 体 の 財 政 との 関 連 から 問 題 となって いる 6),7) 2. 子 宮 頸 がん 検 診 の 方 法 論 婦 人 科 領 域 の 悪 性 腫 瘍 として 症 例 数 が 多 いものは, 子 宮 頸 癌 子 宮 体 癌 卵 巣 癌 ( 卵 管 癌 腹 膜 癌 も 含 めて)である これらのうち 検 診 として 長 い 歴 史 を もち, 高 い 成 果 をあげてきたのは 子 宮 頸 がん 検 診 で ある この 頸 がん 検 診 を 組 織 的 に 行 ったのは, 昭 和 37 年 1 月 に 宮 城 県 南 方 村 の880 人 の 婦 人 を 対 象 に 東 北 大 学 の 野 田 起 一 郎 講 師 をリーダーとする7 人 の 医 師 らの 検 診 が 初 めてであるとされる 8)9)10) 当 時 は 検 診 台 を 村 の 施 設 に 運 び 込 み, 採 取 した 細 胞 標 本 を 現 地 でPapanicolaou 染 色 を 施 し 検 鏡 して 細 胞 診 断 し, 要 精 検 者 に 対 してコルポスコピー 下 で 組 織 生 検 を 行 った 現 在 の 頸 がん 検 診 は, 検 診 対 象 者 が 選 んだ 検 診 施 設 あるいは 医 療 機 関 に 赴 いて 受 診 す る 施 設 検 診 と, 地 域 に 派 遣 された 検 診 設 備 を 搭 載 した 検 診 車 に 行 って 受 ける 車 検 診 の2 通 りとなって いるが, 検 診 の 医 学 的 方 法 の 主 体 が 細 胞 診 である ことにかわりはない このようにして 頸 がん 検 診 が 行 われ,これまで 高 い 成 果 を 上 げてきたことに は 細 胞 診 に 対 する 高 い 信 頼 性 によるところが 大 き いが,それを 支 えてきたのが 臨 床 細 胞 学 であると いえる 本 邦 では, 細 胞 診 の 判 定 はPapanicolaou の 5 段 階 分 類 に 基 づく 日 母 ( 日 本 母 性 保 護 産 婦 人 科 医 会 )クラス 分 類 により 行 われてきた 米 国 において 当 初 精 度 管 理 の 問 題 点 の 指 摘 から 始 まったが, 緒 言 で 述 べた 頸 がんの 発 生 とHPVに 関 する 知 見 などを 踏 まえた 検 討 がなされ,それはBethesda system とい う 細 胞 診 の 診 断 ( 判 断 結 果 報 告 ) 体 系 に 集 約 さ れた 11) ここでは, 表 のような 原 則 が 反 映 されてお り, 異 形 成 ( 軽 度 ~ 中 等 度 ~ 高 度 )あるいはCIN1 ~3という 診 断 分 類 をなくし, 軽 度 及 び 高 度 扁 平 上 皮 病 変 (LSIL とHSIL)の2 分 類 が 採 用 された 本 邦 でもBethesda system 2001に 準 拠 した 新 日 母 分 類 日 本 産 婦 人 科 医 会 分 類 が 作 成 され 12),2009 年 から 本 格 的 に 導 入 されるようになった 本 邦 では, 日 本 臨 床 細 胞 学 会 が, 医 師 については 細 胞 診 専 門 医, 技 師 については 細 胞 検 査 士 という 資 格 をつくり, 認 定 更 新 を 厳 密 に 行 うとともに 細 胞 診 検 査 施 設 の 定 期 的 監 査 などにより 精 度 管 理 を 行 っているが, 世 界 中 を 見 渡 すと 必 ずしも 十 分 とはいえない 特 にCIN 2-3の 検 出 感 度 に 関 しては 地 域 差 があり,これは 後 述 するHPV 検 査 の 導 入 にも 関 連 してきている 一 方, これらの 動 きに 関 連 して 病 理 組 織 学 の 領 域 でも 変 化 が 起 こっている WHO Classification of Tumours of Female Reproductive Organs(4th Edition) 2) において, 従 来 細 胞 診 領 域 で 用 いられていたSILという 表 現 が dysplasia あるいはCINにかわって 組 織 診 断 に 用 い られる 用 語 となった 3. 子 宮 頸 がん 検 診 におけるHPV 検 査 の 導 入 前 述 のように 細 胞 診 におけるCIN 2-3の 検 出 感 度 が 必 ずしも 高 いとはいえないこととHPV DNAを 比 較 的 安 価 で 容 易 に 測 定 できる 方 法 が 確 立 された ことから 検 診 にHPV 検 査 の 導 入 が 行 われるように なった Cuzick ら 13) は, 欧 州 (イギリス,フラン ス,ドイツ,オランダ)と 北 米 ( 米 国,カナダ)の 6 施 設 で 行 われた 計 6 万 人 以 上 を 対 象 とした 細 胞 診 と HPV 検 査 の 併 用 検 診 の 成 績 を 検 討 した その 結 果, 1)CIN2を 発 見 する 感 度 はHPV 検 査 が 細 胞 診 より 高 かったが, 特 異 度 は 低 かった,2)HPV 検 査 の 感 度 には 地 域 差 はなかったが, 細 胞 診 における 特 異 度 は そうではなかった,3) 年 齢 との 関 連 では,HPV 検 査 の 感 度 はどの 年 代 でも 変 わりなかったが, 細 胞 診 表 ベセスダシステムの3つの 原 則 表 ベセスダシステムの3つの 原 則 1. 検 査 室 から 患 者 の 健 康 管 理 者 に 臨 床 的 に 適 切 な 情 報 を 伝 えることのできる 用 語 であること 2. 異 なる 病 理 医 間 検 査 室 間 で 統 一 かつ 合 理 的 な 再 現 性 を 有 する 用 語 であり また 様 々な 検 査 室 の 状 況 地 理 的 条 件 において 十 分 に 柔 軟 に 適 応 できること 3. 子 宮 頸 癌 の 最 新 の 知 見 を 反 映 した 用 語 であること

第 55 巻 第 1 号 (2016 年 3 月 ) 9 の 感 度 は50 歳 を 越 える 場 合 のほうが,それより 若 年 の 対 象 者 より 高 かった,4) 両 者 の 特 異 度 は 年 齢 が 高 いほど 高 かった 5)グレードの 高 いCINを 除 いた 場 合 のHPV 検 査 の 陽 性 率 には 地 域 差 があった なお,ここで 用 いられているHPV 検 査 は,Hybrid Capture II 法 (HC II あるいはHC 2)が 多 いが,それ 以 外 の 方 法 (GP5/6など)も 用 いられている HC 2は, ハイリスクHPV 一 括 (グルーピング) 検 査 で,HPV の16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68 型 のいずれかに 陽 性 であるかを 判 定 することができ る 米 国 では2003 年 に30 歳 以 上 に 限 り 頸 がん 検 診 に 細 胞 診 とともにこの 方 法 によるHPV 検 査 を 併 用 する ことが 承 認 されており,ASCCP(American Society for Colposcopy and Cervical Pathology)からガイドラ インが 示 されている Clavelら 14) は 細 胞 診 とHC2の 併 用 検 診 を 行 った 4401 人 (15 歳 ~79 歳 ) に つ い て12~72ケ 月 に わ たって 毎 年 follow-upし,その 後 の 細 胞 診 とHPV の 結 果 と 必 要 に 応 じて 行 われた 組 織 診 の 結 果 と の 関 係 を 分 析 した その 結 果,1)4 人 の 前 駆 病 変 (HSIL)と1 人 の 微 小 浸 潤 癌 が 診 断 され,これ らはいずれも2 年 目 以 降 の 細 胞 診 陰 性 HPV 陽 性 群 から 出 現 しており,2) 年 齢 は3 人 は29 歳 を 越 えているが,49 歳 を 越 えているものはなかっ た 3) 全 体 で, 両 者 が 陰 性 である 場 合 の 陰 性 的 中 率 (NPV:negative predictive value)は 9 9.9%で, 細 胞 診 のみ 陰 性 である 場 合 の99.2%を 上 回 るとし ている また,4) 初 回 から1~2 年 後 に 行 われた 2 回 目 のHPV 検 査 で 陰 性 ならば,NPVは100%であり, 5)49 歳 を 越 えた 年 齢 層 に 限 ると,NPVは100%であっ て,これら 両 者 が 陰 性 である 受 診 者 は 受 診 間 隔 を3 ~5 年 の 引 き 延 ばすことができ,HPV 検 査 に 要 する 費 用 と 相 殺 できると 結 論 づけている また,Dillner ら 15) は 欧 州 6カ 国 の24,295 人 を 対 象 として 同 様 に 併 用 検 診 を 行 って6 年 間 経 過 を 観 察 している その 結 果, 1)CIN3 以 上 の 異 常 の 累 積 発 生 率 は,HPV 検 査 が 陰 性 の 群 では0.27%であるのに 対 して 細 胞 診 陰 性 群 で は0.97%であった,2) 細 胞 診 陰 性 であった 群 の6 年 後 ( 欧 州 で 一 般 的 に 推 奨 されている3 年 間 隔 の 受 診 による)の 細 胞 診 異 常 の 累 積 発 生 率 が0.51%であっ たのに 対 して, 細 胞 診 陰 性 ではあるがHPV 検 査 が 陽 性 であった 群 では10%に 達 し, 一 方 細 胞 診 が 陽 性 で もHPV 検 査 が 陰 性 であった 群 はわずかに3%であっ たとし,HPV 検 査 が 陰 性 であればCIN3 以 上 の 病 変 の 発 生 が 少 ないことから, 陰 性 者 の 受 診 間 隔 は6 年 としても 安 全 であると 結 論 している 本 邦 では, 岩 成 ら 5)16)17) の 主 導 で 島 根 県 モデ ル 事 業 としてHPV 併 用 検 診 が 行 われた 検 診 地 域 は2007 年 から 人 口 約 18 万 人 の 島 根 県 出 雲 市 と 斐 川 町 で,2009 年 からは 島 根 県 全 域 ( 人 口 72 万 人 )に 拡 げ, 対 象 は20 歳 以 上 の 全 女 性 で 受 診 者 の 個 人 負 担 は1500 円 としている 1) 細 胞 診 HPV 検 査 (HC2 )の 両 者 が 陰 性 の 場 合 の 受 診 間 隔 を3 年,2) 細 胞 診 陰 性 HPV 検 査 陽 性 では1 年 後 受 診,3) 細 胞 診 LSIL 以 上 は 医 療 機 関 で 精 密 検 査 を 行 うこととした この 検 診 において,HPV 検 査 によるCIN2-3の 検 出 感 度 は 96%であり, 細 胞 診 の 特 異 度 は93.7%であり, 両 者 併 用 によるCIN2-3の 検 出 感 度 はほぼ100%であり, 陰 性 的 中 率 はほぼ100%であった その 結 果,CIN3 への 累 積 進 展 率 は,1 年 後,2 年 後,3 年 後,5 年 後 が 上 記 2)( 受 診 者 の3%を 占 めた)で2.5%,10.0%, 11.3%,15.0%であったのに 対 して, 同 1)( 同 90%) では0.0%,0.0%,0.2%,1.4%であり,いずれにも 浸 潤 癌 への 進 展 例 はなかった 以 上 から1)では 受 診 間 隔 を3~5 年 に 延 ばすことが 可 能 であり,2)で は1~1.5 年 でCIN3になった 例 もあったことから1 年 後 の 受 診 が 必 要 であるとしている また,4) 細 胞 診 :ASC-US(atypical squamous cell of undetermined significance)でhpv 陰 性 ( 同 2%)の 場 合 は,1 年 後 の 検 診 とし,3)と 細 胞 診 がASC-USでHPV 陽 性 ( 同 5%)の 場 合 は 真 の 要 精 検 者 として 絞 り 込 むとして いる また, 栃 木 県 小 山 地 区 18) や 千 葉 県 の 一 部 の 地 域 19) などでも 併 用 検 診 が 行 われている 以 上 のような 内 外 の 研 究 成 績 の 検 討 から 日 本 産 婦 人 科 医 会 がん 対 策 委 員 会 は2004 年 に 暫 定 的 な 運 用 方 針 としながらも, 子 宮 頸 がん 検 診 リコメンデー ション-HPV DNA 検 査 併 用 検 診 にむけて- 20) を 作 成 し 公 表 した ここでは,Ⅰ. 細 胞 診 単 独 による 子 宮 頸 がん 検 診 と,Ⅱ. 細 胞 診 とHPV DNA 検 査 併 用 による 子 宮 頸 がん 検 診 とに 分 けて 指 針 が 示 されてい る 細 胞 診 はともに 直 接 塗 抹 法 でも 液 状 化 検 体 細 胞 診 (LBC : Liquid-Based Cytology)でもよく, 開 始 年 齢 はⅠは20 歳 から,Ⅱは30 歳 以 上 としている その 理 由 として,30 歳 未 満 では 高 リスク 型 HPVの 感 染 率 が 高 い( 筆 者 注 : 一 過 性 の 感 染 が 多 く,ほとんどが いずれ 消 失 する)ためとされている ただ, 細 胞 診 でASC-USである 場 合 のトリアージ 検 査 としてHPV DNA 検 査 を 行 う 場 合 はすべての 年 齢 に 適 用 される 受 診 間 隔 については,Ⅰでは20 歳 以 上 では 毎 年,30 歳 以 上 で, 細 胞 診 が3 回 連 続 で 正 常 であった 場 合 2 年 ごとを 推 奨 する Ⅱでは, 細 胞 診 とHPV DNA 検 査 がともに 陰 性 の30 歳 以 上 の 女 性 は3 年 後 の 受 診 を 推 奨 する 検 診 の 終 了 年 齢 については, 過 去 10 年 以 内 に 細 胞 診 異 常 がなく, 過 去 3 回 以 上 細 胞 診 が 陰 性 であった65 歳 以 上 の 女 性 は, 最 後 の 検 診 で 細 胞 診 と HPV DNA 検 査 がともに 陰 性 であれば 検 診 を 終 了 す ることができるとしている 細 胞 診 とHPV DNA 検 査 の 結 果 の 解 釈 と 実 際 の 対 応 については 図 に 示 すと おりである

10 新 潟 がんセンター 病 院 医 誌 -DNA 検 査 細 胞 診 ASC-US 細 胞 診 ASC-US 細 胞 診 (+) (3 年 後 ) (6~12ヵ 月 後 ) (12ヵ 月 後 ) 細 胞 診 (+) (3 年 後 ) +; 陽 性 -; 陰 性 図 図 細 胞 診 とHPV-DNA 検 査 併 用 による 子 宮 頸 がん 検 診 - 結 果 と 運 用 細 胞 診 とHPV-DNA 検 査 併 用 による 子 宮 頸 がん 検 診 - 結 果 と 運 用 4.HPVワクチンと 頸 がん 検 診 HPVワクチンは 本 邦 では2009 年 10 月 に 薬 事 認 可 さ れ, 現 在 2 価 (HPV 16 型 と18 型 に 対 する 中 和 抗 体 産 生 を 誘 導 )のサーバリックスと,4 価 (HPV 16 型 と18 型 とともに 性 器 コンジローマを 引 き 起 こす6 型 と11 型 に 対 する 抗 体 産 生 を 誘 導 )のガーダシルとが 用 い られており,HPV 感 染 を 予 防 する 切 り 札 として 期 待 されている 世 界 レベルで 見 た 場 合 両 者 あわせて 約 70%を 占 める16 型 と18 型 21) には 有 効 であるが, 残 り の 型 を 原 因 とする 頸 がんには 無 効 である 本 邦 では 52 型,58 型 を 原 因 とする 頸 がんが 比 較 的 多 く,16 型 18 型 の 占 める 割 合 は50~60% 程 度 と 考 えられている ただ,16 型 と18 型 に 系 統 的 に 近 い 類 縁 HPV(それぞ れ31 型 と45 型 )にある 程 度 の 抗 体 産 生 能 力 があるこ と(クロスプロテクション 効 果 )が 報 告 されている 22) 以 上 のことから,WHO 23) をはじめHPVワクチンが 投 与 されている 国 24) でもこれまで 通 り 子 宮 がん 検 診 は 継 続 すべきであることが 強 調 されている 本 邦 では2010 年 4 月 に 予 防 接 種 法 基 づいて 上 記 ワ クチンの 定 期 接 種 が 始 まったが,その 頃 からワクチ ンとの 因 果 関 係 が 否 定 できない 副 反 応 が 相 次 いで 報 告 されるようになったため,2013 年 6 月 に 開 催 され た 第 2 回 予 防 接 種 ワクチン 分 科 会 副 反 応 検 討 部 会 の 審 議 を 受 けて 厚 生 労 働 省 は 積 極 的 な 接 種 推 奨 を 一 時 的 に 差 し 控 えることを 決 定 し, 以 来 接 種 率 が 激 減 している 2015 年 9 月 に 第 15 回 予 防 接 種 ワクチン 分 科 会 副 反 応 検 討 部 会 で 副 反 応 の 追 跡 調 査 について の 結 果 にもとづき 審 議 したが, 現 時 点 では 積 極 的 勧 奨 の 一 時 差 し 控 えは 継 続 することが 適 当 と 結 論 づけされ, 再 開 にはならなかった 5. 検 診 受 診 率 の 向 上 について 前 述 のように 本 邦 の 頸 がん 検 診 は 欧 米 諸 国 に 比 較 して 著 しく 低 いことが 指 摘 されている 政 府 は,が ん 対 策 推 進 として2009 年 6 月 に 子 宮 頸 がんと 乳 がん (のちに 大 腸 がんも 加 えられた)を 対 象 として 検 診 無 料 クーポン 券 と 検 診 手 帳 の 配 布 を 決 定 し, 受 診 率 の 向 上 を 図 った 対 象 者 は20 歳 から5 歳 刻 みの 女 性 で, 住 民 票 のある 市 区 町 村 から 郵 送 され た その 効 果 については, 子 宮 頸 がん 征 圧 をめざ す 専 門 家 会 議 ( 議 長 : 野 田 起 一 郎, 近 畿 大 学 前 学 長 ) によって 全 国 自 治 体 に 対 して 調 査 (2010 年 9 月 施 行 )がなされ 報 告 されている 25) その 結 果, 対 象 人 口 当 たりの 利 用 率 は 平 均 21.3%で, 対 象 年 齢 別 の 利 用 率 は20 歳 :8.9%,25 歳 :17.9%,30 歳 :23.6%, 35 歳 :25.6%,40 歳 :26.2% であり,クーポン 券 の なかった2007 年 及 び2008 年 との 比 較 では, 受 診 者 は 対 象 年 齢 別 で20 歳 :4.4 倍,25 歳 :4.1 倍,30 歳 :2.7% 倍,35 歳 :2.6 倍,40 歳 :2.3 倍 であり,まさに 倍 増 したといえる また, 日 本 対 がん 協 会 ( 垣 添 忠 生, 元 国 立 がんセンター 総 長 )による 調 査 でも,クーポ ン 対 象 年 齢 の 受 診 者 数 と 初 回 受 診 者 数 は2.6 倍,3.7 倍 に 増 加 し, 特 に20 歳 と25 歳 の 受 診 者 数 は9.6 倍,4.5 倍 に, 初 回 受 診 者 数 は10.9 倍, 及 び6.0 倍 にと 若 年 層 で 著 しく 増 加 した これら 受 診 率 の 向 上 をもたらし た 理 由 として 対 がん 協 会 と 提 携 する 団 体 の 検 診 担 当 者 からは,1 無 料 だった,2 個 人 あての 通 知 で, 個

第 55 巻 第 1 号 (2016 年 3 月 ) 11 別 勧 奨 になった,3マスコミ 等 で 報 道 され,がん 検 診 自 体 のPRになったなどがあげられた 23) 森 村 ら 26) は 福 島 県 における 同 様 のクーポン 券 導 入 後 の 検 診 に 関 して 調 査 し, 受 診 者 の 増 加 に 結 びついたことを 確 認 したが,クーポン 券 が 契 機 となってその 後 の2 年 ごとの 定 期 的 受 診 が 定 着 するという 効 果 は 顕 著 では なく,また20 歳 代 の 受 診 者 が 少 ない 傾 向 にあるなど の 問 題 点 を 指 摘 している 岩 成 は 島 根 県 で 併 用 検 診 を 行 っていく 中 で, 口 コ ミで 若 年 者 を 中 心 に 初 回 受 診 者 が 増 加 したと 述 べて おり, 受 診 者 に 対 する 問 診 の 際 に 説 明 用 のパンフ レットを 用 いながら HPVはだれにも 感 染 します が,その90%は 自 然 に 消 えます このHPV 検 査 は HPVに 感 染 したかどうかの 検 査 ではなく, HPVが 消 えたかどうかの 検 査 で 安 心 が 買 えます 両 者 陰 性 の 場 合 には 少 なくとも3 年 間 はがんにならないの で 3 年 間 保 障 できます 細 胞 診 の 残 り 材 料 でできます 今 後 の 受 診 が3 年 に1 回 でよくなります ので 割 安 です みなさん 受 けていらっしゃ いますよ と 説 明 していると 述 べている 5) 以 上 から,これまでに 増 して 若 年 層 に 頸 がんについ ての 知 識 とがん 検 診 の 重 要 性 を 学 校 や 職 場 で 講 演 な どで 啓 発 することが 必 要 であり, 今 後 も 無 料 クーポン 券 を 継 続 すること,これから 全 国 的 に 拡 がっていくで あろう 併 用 検 診 においてそのメリットの 説 明 を 行 うこ となどにより 受 診 率 の 増 加 を 図 るべきであろう 終 わりに 近 年, 子 宮 頸 がんとその 前 駆 病 変 の 発 生 において HPVが 重 大 な 関 与 をすることが 明 らかとなり, 診 断 と 予 防 法 に 画 期 的 な 変 革 が 生 じた 頸 がん 検 診 にお いてもこの 変 化 の 本 質 を 正 しく 理 解 した 対 応 が 求 め られる 参 考 文 献 1) 日 本 産 科 婦 人 科 学 会 日 本 病 理 学 会 日 本 医 学 放 射 線 学 会 日 本 放 射 線 腫 瘍 学 会 編 : 子 宮 頸 癌 取 扱 い 規 約 ( 第 3 版 ). 金 原 出 版.2012. 2)Stoler M. Bergeron C. Colgan TJ. et al: Squamous cell tumours and precursors. WHO Classification of Tumours of Female Reproductive Organs. edited by Kurman RJ. Carcangiu ML. Herrington CS.et al. p.172-182,international Agency for Research on Cancer. 2014. 3)zur Hausen H.: Papillomaviruses and cancer:from basic studies to clinical application. Nat Rev Cancer 2:342-350. 2002. 4)Walboomers,JM,Jacobs,MV,Manos,MM,et al. Human papillomavirus is a necessary cause of invasive cervical cancer. J Pathol. 189:1-3,1999. 5) 岩 成 治 : 子 宮 頸 がん 検 診 受 診 率 向 上 への 取 り 組 み- 日 本 初 の 細 胞 診 HPV 検 査 併 用 検 診 で- 受 診 率 向 上 高 精 度 化 効 率 化 達 成 -. 臨 床 婦 人 科 産 科.64(3):288-297.2010. 6) 椹 木 勇, 北 田 光 美, 中 島 徳 郎, 他 : 婦 人 科 集 検 受 診 率 の 向 上 策. 産 婦 人 科 治 療. 55(3):273-280. 1987. 7) 今 野 良, 鈴 木 光 明, 大 和 田 倫 孝, 他 : 子 宮 頸 がん 検 診 の30 歳 未 満 若 年 層 への 拡 大. 産 科 と 婦 人 科. 71(12):1907-1913. 2004. 8) 岡 本 聡, 伊 藤 潔, 新 倉 仁, 他 : 本 邦 における 子 宮 頸 癌 検 診 の 歴 史. 臨 床 検 査.55(12):1383-1390. 2011. 9) 野 田 起 一 郎 : 子 宮 頸 癌 の 予 防 医 学 日 本 がん 検 診 診 断 学 会 誌. 20(3):265-274. 2013. 10) 東 岩 井 久 : 婦 人 科 頸 部 がん 検 診 についての 思 い 出. 日 本 臨 床 細 胞 学 会 50 年 史.p129. 日 本 臨 床 細 胞 学 会. 2012. 11)Solomon D. Nayar R. 編. 平 井 康 夫 監 訳 :ベセスダシステ ム 2001アトラス. シュプリンガー ジャパン. 2007. 12) 鈴 木 光 明, 今 野 良, 平 井 康 夫, 他 :ベセスダシステ ム2001 準 拠 子 宮 頸 部 細 胞 診 報 告 様 式 の 理 解 のため. 日 本 産 婦 人 科 医 会. 2008. 13)Cuzick J. Clavel C. Petry KU et al:overview of the European and North American studies on HPV testing in primary cervical cancer screening. Int J Cancer. 119(5):1095-1101. 2006. 14)Clavel C. Cucherousset J. Lorenzato M. et al.: Negative human papillomavirus testing in normal smears selects a population at low risk for developing high-grade cervical lesions. Brit J Cancer. 90(9):1803-1808. 2004. 15)Diller J. Rebolj M. Birembaut P. et al:long term predictive values of cytology and human papillomavirus testing in cervical cancer screening:joint European cohort study. Brit Med J. 337:a1754. 2008. 16) 岩 成 治, 森 山 政 司, 小 村 明 弘 : 子 宮 頸 がんHPV DNA 細 胞 診 併 用 検 診 による 子 宮 頸 がん 検 診 高 精 度 化 効 率 化 若 年 受 診 率 向 上 により 浸 潤 がん 激 減. 臨 床 婦 人 科 産 科.67(8):771-779. 2013. 17) 岩 成 治, 林 由 梨, 今 野 良 : 子 宮 頸 がんのHPV 検 査 細 胞 診 併 用 検 診 高 精 度 で 効 率 化 可 能 ( 受 診 間 隔 延 長 高 費 用 対 効 果 ワクチン 時 代 対 応 可 ). 臨 床 婦 人 科 産 科. 67(2):300-307. 2013. 18) 藤 原 寛 行, 竹 井 祐 二, 嵯 峨 泰, 他 : 細 胞 診 /HPV-DNA 検 査 併 用 検 診 栃 木 県 小 山 地 区 モデル 事 業. 日 本 臨 床 細 胞 学 会 雑 誌. 51( 補 冊 ):561. 2012. 19) 立 花 美 津 子, 黒 川 祐 子, 大 木 洋 子, 他 : 集 団 検 診 にお けるHPV 併 用 検 診 の 有 効 性. 日 本 臨 床 細 胞 学 会 雑 誌. 51( 補 冊 ):561. 2012. 20) 日 本 産 婦 人 科 医 会 がん 対 策 委 員 会 : 子 宮 頸 がん 検 診 リ コメンデーション -HPV-DNA 検 査 併 用 検 診 にむけて -. 日 本 産 婦 人 科 医 会. 2011. 21)Paavonen J. Jenkins D.Bosch FX. Et al. : Efficacy of a prophylactic adjuvanted bivalent L1 virus-like particle vaccine against infection with human papillomavirus types 16 and 18 in young women:an interim analysis of a phase Ⅲdouble-blind randomized controlled trial. Lancet. 369:2161-2170. 2007. 22)Durst,M. Gissmann,L. Ikenberg,H. et al.: A papillomavirus DNA from a cervical carcinoma and its prevalence in cancer biopsy samples from different geographic regions. Proc Natl Acad USA. 80(12):3812-3815. 1983. 23)WHO.Department of Immunization,Vaccines and Biologicals. Human Papillomavirus and HPV vaccines.technical information for policy-makers and health professionals. 2007. 24)Saslow D. Casle PE. Cox,JT. et al:american Cancer Society guideline for human papillomavirus(hpv)vaccine use to prevent cervical cancer and its precursors. CA Cancer J Clin. 57 (1):7-28,2007. 25) 今 野 良, 小 西 宏 : 検 診 無 料 クーポンによる 受 診 者 の 動 向 婦 人 科 悪 性 腫 瘍 研 究 機 構 化 療 ニュース. 20:2-3,2011. 26) 森 村 豊, 荒 木 由 佳 理, 佐 藤 美 賀 子, 他 : 子 宮 頸 がん 集 団 検 診 へのクーポン 券 導 入 の 効 用. 日 本 がん 検 診 診 断 学 会 誌 19(3):276-280. 2012.