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企 業 年 金 のリスクと 企 業 評 価 目 次 Ⅰ.はじめに Ⅱ. 企 業 会 計 における 退 職 給 付 の 状 況 Ⅲ. 金 融 資 産 の 価 格 変 動 が 企 業 価 値 に 与 える 影 響 Ⅳ. 会 計 上 の 取 扱 いの 差 異 による 影 響 Ⅴ. 債 務 の 変 動 リスクについて Ⅵ. 数 理 計 算 上 の 差 異 の 即 時 認 識 Ⅶ.おわりに 年 金 コンサルティング 部 リサーチグループ 久 野 正 徳 Ⅰ.はじめに 2001 年 度 に 退 職 給 付 会 計 が 導 入 されてから 企 業 年 金 を 含 めた 退 職 給 付 制 度 は 人 事 政 策 上 の 課 題 としてだけでなく 財 務 戦 略 上 の 課 題 としても 位 置 づけられるようになった なぜな ら 退 職 給 付 に 係 る 債 務 及 び 資 産 が 時 価 評 価 され その 状 況 が 企 業 のバランスシートに 表 示 されることになり 結 果 的 に 退 職 給 付 制 度 のリスク 実 態 が 企 業 の 財 政 状 態 に 反 映 されるよう になったからだ もちろん 退 職 給 付 会 計 が 退 職 給 付 制 度 特 に 企 業 年 金 制 度 の 持 つリスク を 増 幅 させるわけではないが 個 々の 企 業 は 各 々の 経 営 実 態 に 合 わせて 企 業 の 財 政 状 態 に 反 映 される 退 職 給 付 制 度 のリスクを 圧 縮 するために 制 度 改 正 を 行 っていった 厚 生 年 金 基 金 の 代 行 返 上 をはじめ 給 付 水 準 の 見 直 しや 確 定 拠 出 年 金 制 度 への 移 行 などである 企 業 年 金 を 含 む 退 職 給 付 制 度 は 大 きなリスクを 伴 うことは 事 実 である ただ 企 業 年 金 の 実 態 が 正 確 に 理 解 されず リスクが 過 大 評 価 されている 可 能 性 も 否 定 できない 企 業 年 金 の 給 付 債 務 の 算 出 財 政 運 営 さらには 企 業 会 計 における 年 金 の 取 扱 い( 退 職 給 付 会 計 )など 全 般 に 関 して 正 確 な 知 識 を 持 ち 正 しく 理 解 している 人 はそれほど 多 くはないと 思 われるか らだ 以 下 では 企 業 年 金 のリスク 実 態 や 他 のリスク 要 因 との 比 較 などを 通 じて 主 に 企 業 財 務 の 観 点 からの 退 職 給 付 制 度 に 関 する 対 応 について 検 討 してみたい なお 本 稿 における 意 見 に 関 する 部 分 は 筆 者 個 人 の 意 見 であり 当 社 の 見 解 ではないこと にご 留 意 いただきたい 1/14

Ⅱ. 企 業 会 計 における 退 職 給 付 の 状 況 退 職 給 付 会 計 では 債 務 ( 退 職 給 付 債 務 以 下 PBO という)と 資 産 ( 年 金 資 産 )とで 費 用 を 算 出 する 具 体 的 には 勤 務 によって 将 来 の 退 職 金 年 金 の 給 付 義 務 が 生 じるが その 支 払 い 債 務 の 増 加 額 ( 勤 務 費 用 及 び 利 息 費 用 )から 年 金 資 産 の 運 用 収 益 ( 期 待 運 用 収 益 )を 差 し 引 いた 額 を 費 用 とする また PBO と 年 金 資 産 の 差 額 については 追 加 の 資 金 負 担 が 必 要 に なるため 当 該 不 足 額 を 負 債 ( 退 職 給 付 引 当 金 )として 貸 借 対 照 表 に 計 上 する 仕 組 みとなっ ている したがって PBO と 年 金 資 産 の 変 動 特 に 有 価 証 券 で 運 用 される 年 金 資 産 の 変 動 や 金 利 変 動 等 による PBO の 増 減 がコストや 積 立 状 態 に 大 きな 影 響 を 与 える 構 造 となっている その 年 金 資 産 運 用 は 2003 年 度 以 降 比 較 的 順 調 なパフォーマンスを 確 保 してきたが 2007 年 度 はサブプライムローン 問 題 に 端 を 発 したマーケットの 混 乱 で 5 年 振 りにマイナスパフォー マンスに 転 落 した 企 業 年 金 連 合 会 の 調 査 によると 同 年 度 の 確 定 給 付 企 業 年 金 の 運 用 利 回 り は-9.1%となっている この 結 果 当 社 集 計 による 主 要 企 業 の 年 金 資 産 は 39 兆 8800 億 円 前 年 度 比 -9.6% 一 方 PBO は 57 兆 円 同 -2.9%となっており 積 立 比 率 ( 年 金 資 産 /PBO) は 69.9%と 前 年 度 の 75.1%に 比 べ 5 ポイント 悪 化 している( 図 表 1) 図 表 1 主 要 企 業 の 積 立 状 況 等 の 推 移 ( 単 位 : 億 円 %) 2002 2003 2004 2005 2006 2007 PBO(A) 687,995 615,911 583,143 574,550 587,543 570,297 年 金 資 産 (B) 294,555 323,445 335,728 408,187 441,044 398,804 積 立 比 率 (B)/(A) 42.8 52.5 57.6 71.0 75.1 69.9 未 認 識 数 理 計 算 上 の 差 異 211,653 131,776 111,124 45,620 34,623 78,769 ( 同 ) 当 期 費 用 処 理 額 15,308 18,910 10,771 8,668 2,568 3,787 ( 同 ) 当 期 発 生 額 84,457 60,967 9,881 56,836 8,429 47,933 ( 注 1) 日 経 メディアマーケティング 社 のデータを 基 に 当 社 集 計 集 計 対 象 は 東 証 1 部 上 場 企 業 で PBO の 残 高 上 位 500 社 のうち 金 融 保 険 会 社 及 び 合 併 などで 継 続 的 にデー タ 集 計 不 能 な 会 社 を 除 く 392 社 ( 注 2) 当 期 発 生 額 は 当 期 末 残 高 -( 前 期 末 残 高 - 当 期 費 用 処 理 額 )による 計 算 値 負 の 値 の 場 合 は 数 理 計 算 上 の 差 益 正 の 値 の 場 合 は 数 理 計 算 上 の 差 損 2/14

ただし 費 用 については 2007 年 度 はこの 運 用 不 振 の 影 響 を 受 けていない なぜなら 退 職 給 付 会 計 特 有 の 遅 延 認 識 がヘッジ 機 能 として 寄 与 しているからだ よく 知 られている と 思 われるが 退 職 給 付 会 計 では 費 用 を 算 出 する 際 に 差 し 引 く 運 用 収 益 は 実 際 の 運 用 収 益 で はなく 予 め 予 定 した 運 用 収 益 ( 期 待 運 用 収 益 )であり 期 待 運 用 収 益 と 実 際 の 運 用 収 益 と の 差 額 はその 後 の 一 定 期 間 で 償 却 すること( 遅 延 認 識 )が 認 められている 多 くの 企 業 では 遅 延 認 識 を 発 生 した 期 の 翌 期 からスタートさせるため 当 期 発 生 した 運 用 損 失 は 当 期 の 損 益 にはさほど 影 響 を 与 えていないわけである ちなみに 図 表 1に 示 した 当 社 集 計 ベースでの 当 期 の 退 職 給 付 費 用 は 2 兆 2407 億 円 前 年 度 比 -14.8%と このところ 続 いた 減 少 傾 向 を 引 き 継 いでいる( 図 表 2) 具 体 的 には 2002 年 度 以 降 は 2003 年 度 を 除 き 退 職 給 付 費 用 は 減 少 を 続 け 営 業 利 益 の 増 加 に 対 しても 相 当 の 貢 献 を 果 たしている 図 表 2 退 職 給 付 費 用 と 企 業 収 益 への 影 響 ( 単 位 : 億 円 %) 2002 2003 2004 2005 2006 2007 退 職 給 付 費 用 55,377 62,913 43,006 34,621 26,288 22,407 ( 数 理 差 異 費 用 処 理 額 ) 15,308 18,910 10,771 8,688 2,568 3,787 退 職 給 付 費 用 増 減 額 (A) 5,754 7,536 19,907 8,385 8,333 3,881 営 業 利 益 188,595 214,789 237,752 265,969 286,505 304,635 営 業 利 益 増 減 額 (B) 40,702 26,194 22,963 28,217 20,536 18,130 増 減 益 寄 与 度 (A)/(B) 14.1 28.8 86.7 29.7 40.6 21.4 ( 注 1) 増 減 益 寄 与 度 は 退 職 給 付 費 用 の 増 減 が 営 業 利 益 の 増 加 額 に 対 する 割 合 ( 注 2) 集 計 対 象 企 業 は 第 1 表 と 同 じ ただ 前 述 の 通 り 前 年 度 の 運 用 によるマイナスの 影 響 は 2008 年 度 から 表 面 化 することに なる そこで 簡 単 にその 影 響 を 試 算 してみたい 償 却 対 象 となる 期 待 運 用 収 益 と 実 際 の 収 益 との 差 額 は 会 計 上 数 理 計 算 上 の 差 異 として 取 り 扱 われる 数 理 計 算 上 の 差 異 は こうし た 年 金 資 産 サイドでの 要 因 以 外 にも 負 債 サイドでも 発 生 するが( 退 職 給 付 債 務 の 割 引 率 の 変 更 などにより 発 生 するが 詳 細 は 後 で 説 明 する) 2007 年 度 に 関 しては 主 に 資 産 サイドで 発 生 したと 考 えられる なぜなら 当 期 発 生 する 数 理 計 算 上 の 差 異 は 計 算 上 期 末 数 理 計 算 上 の 差 異 の 残 高 -( 期 首 数 理 計 算 上 の 差 異 の 残 高 - 当 期 償 却 額 )で 求 められ 2007 年 度 は 4 兆 7900 億 円 程 度 と 試 算 される( 図 表 1 参 照 ) 期 待 運 用 収 益 率 を 2.5%とすると 前 年 度 の 年 3/14

金 資 産 残 高 44 兆 円 (1+ 期 待 運 用 収 益 率 )で 算 出 される 期 末 資 産 残 高 は 45 兆 円 となり 実 際 の 期 末 年 金 資 産 残 高 (39.9 兆 円 )との 差 額 とおおむね 一 致 するからだ この 4 兆 8000 億 円 が 平 均 10 年 で 償 却 されると 仮 定 すると 年 間 4800 億 円 の 費 用 増 加 要 因 となり 営 業 利 益 を 2% 弱 引 き 下 げる 要 因 になると 考 えられる 過 去 数 年 間 退 職 給 付 に 関 しては 運 用 パフォー マンスの 好 調 を 移 して 費 用 が 低 下 傾 向 を 示 し 企 業 収 益 にはプラスの 貢 献 を 示 してきたが 2008 年 度 は 一 転 して 足 を 引 っ 張 る 要 因 になると 考 えられる Ⅲ. 金 融 資 産 の 価 格 変 動 が 企 業 価 値 に 与 える 影 響 2007 年 度 の 運 用 パフォーマンスの 不 振 は 今 後 の 収 益 にマイナスの 影 響 を 与 えることにな る 遅 延 認 識 の 存 在 によって 影 響 度 合 いが 分 散 され さらには 期 ズレも 起 こるとはいえ 年 金 資 産 価 格 の 変 動 は 大 きなリスクファクターであり 企 業 経 営 企 業 財 政 にとって 大 きな 影 響 を 及 ぼす 要 因 であることは 間 違 いない もっとも 企 業 は 年 金 資 産 で 保 有 する 以 外 にも 株 式 などの 有 価 証 券 を 保 有 している 株 式 を 例 にとると 子 会 社 関 係 会 社 の 株 式 売 買 目 的 で 保 有 する 有 価 証 券 さらには 持 合 株 式 な どのその 他 有 価 証 券 がある 通 常 一 般 事 業 会 社 が 売 買 目 的 で 株 式 を 保 有 するケースは 少 な いし 子 会 社 関 連 会 社 は 会 計 上 市 場 価 格 では 評 価 しないため 価 格 リスクを 認 識 することは 少 ないと 考 えられる したがって その 他 有 価 証 券 具 体 的 には 持 合 株 式 が 企 業 経 営 や 企 業 財 政 にとってのリスクとなりうるはずであり 年 金 資 産 のリスクと 比 較 してみたい まず リスクのボリュームは 保 有 株 式 の 数 量 あるいは 金 額 で 比 較 可 能 である 東 京 証 券 取 引 所 が 実 施 している 株 式 分 布 状 況 調 査 によると 事 業 法 人 は 東 証 1 2 部 上 場 企 業 の 金 額 ベースで 21% 単 元 株 数 ベースで 24% 保 有 している( 図 表 3) 一 方 年 金 制 度 で 保 有 する 株 式 は 年 金 信 託 で 保 有 する 3% 強 のほかは 生 命 保 険 の 一 部 と 銀 行 信 託 の 一 部 ( 会 計 上 年 金 資 産 となる 退 職 給 付 信 託 )である 別 のアプローチから 考 えると 企 業 年 金 の 資 産 残 高 ( 確 定 給 付 企 業 年 金 厚 生 年 金 基 金 及 び 適 格 退 職 年 金 )は 2007 年 度 末 時 点 で 81 兆 円 であ り そのうち 国 内 株 式 は3 割 程 度 と 考 えられる このように 考 えると 年 金 資 産 で 保 有 する 株 式 は 事 業 法 人 が 保 有 する 株 式 の 3 分 の1~4 分 の1 程 度 ということになる したがって 持 合 株 式 を 保 有 するリスクは 年 金 資 産 で 株 式 を 保 有 するリスクをはるかに 上 回 っていることに なる 4/14

図 表 3 東 証 1 2 部 合 計 所 有 者 別 株 式 分 布 状 況 ( 平 成 18 年 度 ) ( 単 位 : 億 円 単 元 ) セクター 金 額 構 成 比 単 元 株 式 数 構 成 比 事 業 法 人 1,175,278 20.7 365,729,110 23.6 銀 行 信 託 ( 除 く 年 金 信 託 投 信 ) 814,905 14.3 172,846,529 11.1 信 託 銀 行 ( 年 金 信 託 ) 200,547 3.5 45,076,847 2.9 生 命 保 険 308,280 5.4 59,473,887 3.8 外 国 人 1,592,860 28.0 394,167,717 25.4 個 人 1,028,338 18.1 379,532,262 24.4 その 他 との 合 計 5,686,052 100.0 1,552,979,774 100.0 ( 出 所 ) 東 京 証 券 取 引 所 株 式 分 布 状 況 調 査 リスク 量 だけを 比 較 すると 年 金 資 産 より 相 当 に 大 きい 持 合 株 だが 企 業 がそのリスク 管 理 やリスク 圧 縮 に 関 して 年 金 資 産 以 上 に 注 意 を 払 っているという 印 象 は 強 くない 年 金 資 産 との 違 いという 点 で その 理 由 を 考 えると 以 下 のような 点 があげられよう 1 時 価 増 大 を 目 指 し しかも 目 標 収 益 率 が 設 定 されている 年 金 資 産 と 異 なり 持 合 株 式 は 収 益 目 標 が 設 定 されているわけではない 2 年 金 資 産 は 当 該 目 標 に 達 しないと 追 加 資 金 の 投 入 を 余 儀 なくされるが 持 合 株 式 は 継 続 し て 保 有 することが 目 的 で 価 格 が 下 落 しても 追 加 で 買 い 増 す 必 要 がない 3 年 金 資 産 の 下 落 (あるいは 期 待 運 用 収 益 率 に 達 しない 分 )は 遅 延 認 識 というヘッジ 手 段 はあるものの 損 益 計 算 書 を 通 じて 企 業 収 益 にマイナスの 影 響 を 及 ぼす これに 対 して 持 合 株 式 は 貸 借 対 照 表 の 純 資 産 の 部 に 評 価 損 益 の 増 減 が 計 上 されるのみであり しかも 簿 価 が 低 いため 多 くの 場 合 評 価 益 の 減 少 として 認 識 されるに 過 ぎない 以 上 のうち 1と2は 保 有 目 的 の 相 違 によるものである 年 金 資 産 は 金 銭 価 値 で 図 ること のできる 経 済 的 便 益 を 追 求 して 保 有 するが 持 合 株 式 は 相 手 先 企 業 との 良 好 な 関 係 を 構 築 す るなど 金 銭 価 値 で 計 測 できない 便 益 を 追 求 していることになる( 余 談 ではあるが それだけ 大 きな 資 金 を 投 じながら その 効 果 を 客 観 的 数 値 で 示 せないため 逆 に 十 分 な 説 明 責 任 が 生 じるとも 考 えられる) 3は 会 計 基 準 に 関 連 する 問 題 であり 1つは 財 務 諸 表 への 計 上 方 法 の 違 い もう1つは 簿 価 時 価 の 問 題 である 前 者 については 後 で 詳 細 に 検 討 するが 後 者 に ついては 時 価 会 計 が 常 識 となった 現 在 では 通 用 しない 議 論 である なぜなら 同 じだけ 株 式 が 下 落 すれば 評 価 益 が 減 少 するのも 評 価 損 が 発 生 するのも 経 済 的 価 値 の 減 少 は 変 わるもので はないからだ その 確 認 を 含 め 以 下 では 年 金 資 産 と 持 合 株 式 が 下 落 した 場 合 に 企 業 価 値 5/14

にどのような 影 響 を 与 えるかを 考 えてみたい 持 合 株 式 ( 金 融 資 産 )の 変 動 が 企 業 価 値 に 与 える 影 響 コーポレートファイナンスでは 企 業 価 値 は 将 来 のキャッシュフローを 資 金 提 供 者 が 期 待 する 収 益 率 で 割 引 いた 額 と 考 えている この 考 え 方 を 基 に 金 融 資 産 を 保 有 する 企 業 の 企 業 価 値 を 評 価 する 場 合 当 該 金 融 資 産 の 生 み 出 すキャッシュフローを 予 測 してその 現 在 価 値 を 計 測 する 方 法 が 考 えられる ただ 金 融 資 産 の 時 価 が 理 論 的 に 将 来 のキャッシュフローの 現 在 価 値 であることを 踏 まえれば 企 業 価 値 =( 金 融 収 益 を 除 いた) 将 来 のキャッシュフロー の 現 在 価 値 ( 事 業 資 産 の 価 値 )+ 金 融 資 産 と 考 えることが 現 実 的 といえる なお 企 業 価 値 = 株 主 価 値 + 負 債 価 値 であり 株 主 価 値 は 株 式 の 時 価 総 額 であるため 金 融 資 産 を 保 有 し ている 場 合 の 株 式 の 時 価 総 額 は 金 融 資 産 の 価 値 だけ 上 乗 せされることになる 金 融 資 産 の 価 値 が 変 動 しても 負 債 価 値 は 変 動 しないため 企 業 価 値 は 金 融 資 産 の 減 少 分 だけ 減 少 し 株 式 の 時 価 総 額 も 金 融 資 産 の 減 少 分 だけ 減 少 することになると 考 えられる 図 表 4 金 融 資 産 の 価 格 変 動 と 企 業 価 値 金 融 資 産 の 時 価 = 金 融 資 産 に よる 将 来 のCFの 現 在 価 値 負 債 総 額 株 式 時 価 総 額 金 融 資 産 ( 現 預 金 持 合 い 株 等 ) 将 来 のCFを 加 重 平 均 自 己 資 本 コスト(= 負 債 利 子 率 (1- 法 人 税 率 ) D/(D+E)+ 事 業 CFの 現 在 価 値 株 主 資 本 コスト E/(D+E))で 割 引 き ただし D= 負 債 E= 自 己 資 本 ( 株 式 時 価 総 額 ) 事 業 で 生 み 出 す 将 来 の キャッシュフロー(CF) 年 金 資 産 の 変 動 が 企 業 価 値 に 与 える 影 響 これに 対 し 年 金 資 産 自 体 は 企 業 が 保 有 する 資 産 ではないため 年 金 資 産 の 下 落 は 直 接 企 業 価 値 に 影 響 を 与 えるわけではない ただ 年 金 資 産 が 減 少 して 将 来 の 給 付 原 資 が 不 足 する と この 不 足 分 を 追 加 負 担 することが 必 要 となる この 追 加 負 担 は 事 業 で 獲 得 する 将 来 のキャッ シュフローを 減 少 させるという 影 響 を 及 ぼす 前 述 のとおり 金 融 資 産 の 時 価 は 将 来 キャッ シュフローの 現 在 価 値 であり したがって 時 価 下 落 分 が 将 来 キャッシュフローの 減 少 と 考 え ると 給 付 のために 追 加 負 担 する 将 来 のキャッシュフローは 下 落 した 年 金 資 産 とイコールと 6/14

いうことになる この 結 果 年 金 資 産 の 下 落 分 だけ 企 業 価 値 が 減 少 することになる 極 めて 常 識 的 な 結 論 として 結 局 年 金 資 産 が 下 落 した 場 合 企 業 価 値 は 当 該 下 落 分 だけ 減 少 するこ とになるわけだ 先 に 持 合 株 式 は 追 加 投 資 が 必 要 なく 一 方 年 金 資 産 が 下 落 すると 追 加 の 資 金 拠 出 が 必 要 である 点 を 相 違 点 としてあげたが 将 来 キャッシュフローへの 影 響 の 有 無 は 別 として 少 なくとも 企 業 価 値 株 式 時 価 総 額 に 与 える 影 響 はどちらも 同 じということにな る 図 表 5 年 金 資 産 の 価 格 変 動 と 企 業 価 値 加 重 平 均 自 己 資 本 コストで 割 引 き 負 債 総 額 株 式 時 価 総 額 事 業 CFの 現 在 価 値 4 下 落 分 のCFが 減 少 事 業 で 生 み 出 す 将 来 の キャッシュフロー(CF) 3 下 落 分 を 補 填 企 業 が 保 有 する 資 産 ではない 年 金 資 産 2 下 落 で 不 足 将 来 の 給 付 による キャッシュアウトフロー 1 価 格 下 落 Ⅳ. 会 計 上 の 取 扱 いの 差 異 による 影 響 保 有 する 金 額 から 明 らかではあるが 2007 年 度 決 算 では 持 合 株 式 の 下 落 は 年 金 資 産 の 下 落 をはるかに 上 回 る 大 きな 影 響 を 与 えている 純 資 産 の 部 に 計 上 されるその 他 有 価 証 券 の 評 価 差 額 は 前 述 の 集 計 対 象 392 社 ベースで 7 兆 360 億 円 前 年 度 の 12 兆 6700 億 円 に 比 べ 額 にして 5 兆 6340 億 円 率 にして 44%もの 減 少 となっており 仮 に 後 に 述 べるいわゆる 即 時 認 識 が 行 われ 年 金 資 産 の 下 落 が 即 時 に 2007 年 度 の 決 算 に 反 映 されたとしても それを 大 幅 に 上 回 る 額 である( 評 価 差 額 は 税 効 果 が 適 用 されており 実 際 の 下 落 額 は 法 人 税 率 を 40% とすると 9 兆 円 以 上 に 上 る) 前 章 で 検 討 した 通 り 持 合 株 式 の 下 落 であっても 年 金 資 産 の 下 落 であっても ともに 企 業 価 値 は 時 価 の 下 落 分 だけ 減 少 するとすれば 株 式 市 場 の 低 迷 による 企 業 価 値 に 与 えるマイナ スの 影 響 は 年 金 資 産 の 運 用 低 迷 を 通 じてよりも 持 合 株 式 の 価 格 下 落 を 通 じてのほうが 大 きいことになる したがって 企 業 が 合 理 的 な 行 動 をとるという 前 提 に 立 てば 年 金 資 産 よ り 持 合 株 式 のリスクを 圧 縮 しようとするはずだが 価 格 変 動 リスクを 理 由 に 持 合 株 式 の 圧 縮 を 目 指 す 企 業 行 動 が 活 発 に 行 われているという 印 象 はさほどない 一 方 で 年 金 資 産 の 運 用 7/14

リスクについては 非 常 に 関 心 が 高 いような 印 象 を 受 ける そうだとすれば 企 業 は 持 合 株 式 の 便 益 を 極 めて 大 きく 評 価 しているか あるいは 持 合 株 式 を 保 有 する 会 計 上 のリスクを 年 金 資 産 ほどに 感 じていないと 考 えられる 持 合 株 式 の 便 益 の 評 価 についてはともかく 会 計 上 のリスクを 年 金 資 産 ほど 感 じていない 可 能 性 は 高 いと 考 えられる これが 前 記 3で 指 摘 し た 点 である 企 業 価 値 に 与 える 影 響 は 同 じであるといいながら 会 計 処 理 の 違 いが 両 者 のリ スクに 関 して 異 なった 認 識 を 与 えている 可 能 性 があるという 仮 説 である わかりやすく 言 え ば 持 合 株 式 の 時 価 変 動 を 損 益 計 算 書 に 表 示 するようになったとしても 企 業 はそのリスク を 従 来 と 同 じと 考 えるか すなわち 年 金 資 産 より 小 さいと 感 じるかということに 言 い 換 えて もよい 多 分 に 主 観 的 な 部 分 はあるが この 点 について 検 討 してみたい 実 際 に 新 聞 等 で 年 金 資 産 の 運 用 パフォーマンスの 低 迷 が 今 後 の 収 益 悪 化 の 一 因 になるこ とが 報 道 されるなど 過 去 に 起 こった 年 金 資 産 運 用 悪 化 の 影 響 は 将 来 の 課 題 として 伝 えられ るケースが 多 い もちろん 年 金 資 産 の 時 価 が 下 落 した 場 合 あるいは 資 産 が 目 減 りしない までも 予 定 収 益 を 確 保 できない 場 合 は 実 際 に 将 来 の 給 付 のために 追 加 資 金 を 投 入 すること になり 企 業 会 計 上 もそうした 費 用 を 計 上 していくことになる つまりその 分 だけ 将 来 のキャッ シュフローや 利 益 が 減 少 することになる これに 対 し 持 合 株 式 が 下 落 しても 追 加 の 費 用 は 発 生 しないため 将 来 の 利 益 が 減 少 するわけではない したがって 企 業 特 に 経 営 者 は 年 金 資 産 の 運 用 に 関 してより 多 くの 注 意 を 払 うことは 間 違 いない また 経 営 成 績 つまり 企 業 業 績 で 評 価 される 企 業 の 経 営 者 にとって 損 益 計 算 書 に 計 上 される 利 益 の 動 向 を 重 視 する のは 至 極 当 然 のことともいえる 企 業 収 益 が 株 価 など 企 業 評 価 に 影 響 を 与 えることは 論 を 待 たない 一 方 で 前 章 で 検 討 し た 通 り 年 金 資 産 の 価 格 変 動 も 持 合 株 式 の 価 格 変 動 も 企 業 価 値 すなわち 株 価 に 影 響 を 与 え るはずである したがって 企 業 収 益 の 変 動 と 資 産 価 格 変 動 が 株 価 等 にどういうメカニズム で 反 映 されるかを 考 えてみることとする まず 資 産 価 格 変 動 分 が 株 価 に 織 り 込 まれるとして いつ どのような 段 階 で 株 価 に 反 映 されるかを 考 えてみる この 場 合 損 益 計 算 書 に 計 上 される すなわち 企 業 収 益 に 反 映 され た 段 階 でなければ 株 価 には 反 映 されないと 考 えるのは 無 理 がある なぜなら 損 益 計 算 書 に 計 上 されなければ 企 業 価 値 に 反 映 されないのであれば 持 合 株 式 の 価 格 変 動 は 永 久 に 株 価 に 反 映 されないことになってしまうからである 常 識 的 に 考 えて 保 有 している 事 実 が 明 白 で その 影 響 も 客 観 的 に 判 断 することが 可 能 であるため 損 益 計 算 書 へ 資 産 価 値 の 変 動 が 認 識 さ れなくても 株 価 等 には 反 映 されるはずである したがって 株 式 市 場 の 変 動 に 合 わせてある 8/14

程 度 は 同 時 進 行 で 織 り 込 まれていくと 考 えるべきであろう さらに 決 算 発 表 等 で 影 響 度 合 いが 明 確 になれば 当 該 情 報 を 織 り 込 んだ 株 価 形 成 がなされると 考 えることが 自 然 である また これは 持 合 株 式 でも 年 金 資 産 でも 同 様 であると 考 えられる そうだとすると その 後 損 益 計 算 書 で 年 金 資 産 の 価 格 変 動 が 損 益 に 織 り 込 まれても その 影 響 は 株 価 には 影 響 を 与 えないはずであるし また 織 り 込 まれるべきではないはずである しかし 現 実 的 には 損 益 計 算 書 に 年 金 資 産 価 格 の 変 動 による 影 響 が 徐 々に 織 り 込 まれること から 追 加 的 に 株 価 に 影 響 を 与 える 可 能 性 を 否 定 できない 具 体 的 には 次 のような 例 が 考 え られる 仮 に ある 会 社 で 保 有 する 年 金 資 産 が 150 億 円 から 125 億 円 へ 値 下 がりしたとする 年 金 資 産 が 目 減 りする 前 の 時 点 でその 会 社 の 妥 当 株 価 が 500 円 ( 発 行 済 み 株 式 総 数 1 億 株 ) であったとすると 年 金 資 産 の 価 格 下 落 は 1 株 当 たり 25 円 であるため これを 織 り 込 んだ 妥 当 株 価 は 475 円 になると 考 えられる 年 金 資 産 価 格 の 目 減 り 分 は 遅 延 認 識 によって 費 用 処 理 され 合 計 で 25 億 円 の 利 益 が 目 減 りするわけであり この 分 の 目 減 りが 株 価 に 織 り 込 まれる ことは 理 論 的 にも 妥 当 である このケースにおいて 数 理 計 算 上 の 差 異 が 発 生 する 前 の 時 点 で 翌 期 の 予 想 1 株 当 たり 利 益 が 25 円 ( 当 期 利 益 は 25 億 円 )だったとする 妥 当 株 価 の 500 円 に 対 して 予 想 PER( 株 価 収 益 率 = 株 価 1 株 当 たり 利 益 ))は 20 倍 となるが 発 生 した 数 理 計 算 上 の 差 異 の 処 理 を 10 年 間 の 遅 延 認 識 で 行 うことにすると 予 想 1 株 当 たり 利 益 は 22.5 円 に 下 落 する 仮 に すでに 株 価 がその 下 落 を 織 り 込 んで 475 円 に 下 落 していたとすると 予 想 PER は 21.1 倍 (475 22.5 円 )へ 上 昇 することになり 結 果 的 に 本 来 は 妥 当 と 思 われる 株 価 水 準 であるにも 関 わらず 以 前 の PER 水 準 に 比 べ 割 高 になってしまった 印 象 を 与 えてしま う このように 改 めて 損 益 計 算 書 に 費 用 計 上 されると 株 価 に 追 加 的 にマイナスの 影 響 を 与 える 可 能 性 は 否 定 できない(ちなみに 遅 延 認 識 の 処 理 年 数 が 20 年 つまり PER と 同 じで あれば PER 水 準 は 変 わらない 具 体 的 には 20 年 の 償 却 であれば1 株 当 たり 利 益 は 23.75 円 となり 475 23.75=20 倍 となる) ここでは 極 めて 単 純 な 例 を 示 したため このような 勘 違 いが 起 きるわけがないとの 反 論 が あるかもしれないが 毎 年 発 生 する 数 理 計 算 上 の 差 異 が 累 積 され 遅 延 認 識 される 過 程 にお いては 適 正 な 評 価 がしにくくなる 可 能 性 は 否 定 はできない 改 めて 損 益 計 算 書 に 計 上 される ことによって 影 響 を 二 重 に 織 り 込 んでしまうという 懸 念 である このように 考 えると ここで 想 定 した 会 計 処 理 の 相 違 が 同 じ 金 融 資 産 の 価 格 変 動 であって も 異 なったリスク 認 識 を 与 えている 可 能 性 がある という 仮 説 に 納 得 される 方 は 多 いと 思 う 理 論 的 には 企 業 価 値 に 与 える 影 響 が 同 じであれば 会 計 上 の 取 扱 いがどうあれ 企 業 評 価 に 差 を 与 えるはずはないはずだが 実 際 には 評 価 する 側 にもされる 側 にも 様 々な 影 響 を 与 えてい 9/14

る 可 能 性 があるからだ 企 業 会 計 がキャッシュフローの 配 分 作 業 であることを 考 えると 年 金 資 産 の 変 動 によって 将 来 のキャッシュフローが 変 動 することを 遅 延 認 識 によって 期 間 配 分 していくことは 適 正 な 処 置 であると 考 えられる 一 方 で 同 じような 価 値 変 動 をもたらす 持 合 株 式 の 評 価 との 整 合 性 を 妨 げているようにも 感 じられる この 点 は 本 稿 の 最 後 で 検 討 する 国 際 会 計 基 準 における 即 時 認 識 とも 絡 んでくる 問 題 であろう もちろん 適 正 な 会 計 基 準 につ いては 専 門 家 の 議 論 に 任 せるべきだが 会 計 基 準 に 関 わらず 経 済 実 態 に 対 する 正 確 な 理 解 を することが 評 価 する 立 場 である 運 用 機 関 にも 評 価 される 立 場 である 企 業 にも 重 要 である ことは 間 違 いない Ⅴ. 債 務 の 変 動 リスクについて いわゆる 確 定 給 付 タイプの 年 金 あるいは 退 職 一 時 金 制 度 のリスクとして 債 務 の 変 動 リス クを 挙 げる 人 が 多 い 確 かに 企 業 会 計 にも 反 映 される PBO が 各 種 の 要 因 で 変 動 し 結 果 的 に 企 業 の 財 政 状 態 に 大 きく 影 響 を 及 ぼすことは 事 実 である ただし そのリスクの 本 質 につ いて 正 確 に 認 識 しておくことは 重 要 である PBO は 将 来 の 給 付 見 込 み 額 を 予 測 し それを 現 在 価 値 に 換 算 して 算 出 する したがって 変 動 する 要 素 として 1 将 来 給 付 見 込 み 額 が 変 動 する 2 給 付 見 込 み 額 は 変 動 しないが 現 在 価 値 への 換 算 額 が 変 動 する という2つが 考 えられる 1については さらに 制 度 の 見 直 しによるものと 前 提 条 件 の 変 化 によるものが 考 えられる 制 度 の 見 直 し すなわち 給 付 水 準 の 引 上 げや 引 下 げは 会 社 の 経 営 政 策 上 の 変 更 であり 意 図 した 変 更 でもあるため 債 務 変 動 の リスクと 考 えるべきではない(したがって 会 計 上 は 過 去 勤 務 債 務 として 数 理 計 算 上 の 差 異 とは 別 に 把 握 している) これに 対 し 前 提 条 件 の 変 化 は 新 規 採 用 や 退 職 者 の 増 減 による 人 員 数 の 見 込 み 違 いや 昇 給 や 昇 格 の 状 況 死 亡 率 の 変 動 等 である このような 給 付 見 込 み 額 の 変 動 も 数 理 計 算 上 の 差 異 として 費 用 や 債 務 の 増 減 の 原 因 となるため 一 見 退 職 給 付 会 計 固 有 のリスク 要 因 と 考 えがちである しかし 人 員 が 増 加 すれば 年 金 や 退 職 金 の 給 付 だけでな く 給 与 や 賞 与 が 増 加 する また 昇 給 や 昇 格 で 確 定 拠 出 年 金 の 掛 金 も 増 加 することになる 予 め 一 定 の 予 想 のもとに 債 務 の 予 想 額 を 求 め 掛 金 を 計 算 しているためその 差 が 調 整 される だけで この 債 務 の 変 動 は 退 職 給 付 固 有 のリスクではないはずである 同 様 に 運 用 パフォー マンスが 掛 金 算 定 や 退 職 給 付 費 用 算 定 で 見 込 んだ 予 定 利 率 や 期 待 運 用 収 益 率 を 下 回 ったから といって 損 失 が 発 生 するわけではない 予 定 していた 掛 金 や 費 用 を 上 回 ることを 損 失 と 感 じ るだけで 実 際 に 損 失 が 発 生 するのは 現 実 に 運 用 損 失 すなわち 元 本 割 れが 生 じた 場 合 のみ である このような 点 は 冷 静 に 考 えれば 分 かるとはいえ 陥 りやすい 過 ちであり 結 果 とし て 確 定 給 付 タイプの 年 金 制 度 のリスクを 実 態 以 上 に 大 きくみせている 一 因 と 考 えられる 10/14

一 方 将 来 の 給 付 見 込 み 額 が 変 動 せずに 現 在 価 値 が 変 動 する すなわち 割 引 率 の 変 動 によ る 債 務 の 変 動 は 債 務 の 変 動 に 支 払 い 能 力 が 連 動 しないことに 問 題 があるといえる なぜな ら 将 来 給 付 を 行 う 時 点 での 支 払 額 は 割 引 率 が 変 化 しても 変 わらないからだ 現 時 点 での 支 払 い 債 務 が 増 大 しても 資 産 価 格 が 債 務 に 連 動 するなりキャッシュフローの 創 出 能 力 が 高 まっ たりすれば 問 題 はないはずであるが 現 実 問 題 として 債 務 の 変 動 に 応 じて 自 動 的 に 支 払 い 能 力 が 調 整 されることはありえないため 問 題 が 発 生 する それを 考 えると 債 務 の 変 動 だ けでなく 資 産 や 企 業 収 益 を 一 体 として 考 える 問 題 ということになる Ⅵ. 数 理 計 算 上 の 差 異 の 即 時 認 識 企 業 会 計 における 退 職 給 付 の 取 扱 いについて 最 近 大 きな 話 題 となっているのが 国 際 会 計 基 準 における 退 職 給 付 会 計 の 見 直 し 論 議 である 見 直 しの 詳 細 については 割 愛 するが そ の 中 心 となるのは 遅 延 認 識 を 廃 止 し 期 末 における 資 産 と 債 務 の 状 況 をそのまま 貸 借 対 照 表 に 反 映 させようとする いわゆる 即 時 認 識 という 会 計 処 理 である つまり 当 年 度 の 資 産 価 格 債 務 評 価 額 の 変 動 をそのまますべて 表 示 することになる なお 資 産 価 格 変 動 等 の 損 益 計 算 書 ( 国 際 会 計 基 準 で 言 えば 包 括 利 益 計 算 書 )への 計 上 方 法 については3 種 類 の 方 法 が 示 されており まだ 方 向 性 は 定 まっていないが 2013 年 からの 適 用 開 始 を 目 指 して 議 論 が 進 められている 折 りしも わが 国 では 国 際 会 計 基 準 とのコンバージェンス( 共 通 化 )からア ダプション( 受 入 れ)へ 舵 取 りを 変 換 することが 伝 えられる 中 国 際 会 計 基 準 の 見 直 しが 行 われた 場 合 の 影 響 あるいは 対 応 に 関 して 次 第 に 関 心 が 高 まりつつある 企 業 会 計 が 期 末 時 点 の 資 産 債 務 の 状 況 をそのまま 表 示 するようになると 企 業 の 財 政 状 態 あるいは 収 益 のボラティリティが 高 まることになるため 企 業 はそのボラティリティを 抑 制 するように 行 動 する という 見 方 が 多 いようだ ボラティリティを 抑 制 する 行 動 は 例 えば 株 式 の 構 成 比 の 引 下 げなどにより 資 産 運 用 のリスクを 圧 縮 することや 既 存 の 確 定 給 付 タイプの 年 金 制 度 を 確 定 拠 出 年 金 に 移 行 することなどが 想 定 されているようだ この 見 方 は いかにも 説 得 力 がありそうだが 多 分 に 誤 解 に 基 づく 思 い 込 みがあるように 感 じられる な ぜなら ボラティリティが 高 いことは 企 業 評 価 にマイナスになる 逆 にボラティリティを 抑 制 すれば 企 業 評 価 にはプラスになる ことが 前 提 にあると 考 えられるからだ 確 かに 変 動 が 激 しいことは 好 ましいことではない ただ 年 金 資 産 がマーケットに 左 右 される 以 上 その 影 響 を 受 けることは 投 資 家 自 身 が 十 分 承 知 しているはずである したがっ て マーケット 変 動 に 照 らして 常 識 的 な 変 動 範 囲 であれば その 変 動 が 変 動 額 を 超 えて 企 業 評 価 に 影 響 を 及 ぼすとは 考 えにくい また 本 稿 では 持 合 株 式 の 評 価 との 比 較 も 試 みたが 11/14

遅 延 認 識 を 行 うことで 資 産 価 格 等 の 変 動 の 影 響 を 企 業 評 価 に 平 準 的 に 織 り 込 む 効 果 をもたら している 保 証 はない 逆 に 損 益 への 影 響 が 将 来 に 繰 延 べられることでその 影 響 が 継 続 した り あるいは 二 重 に 織 り 込 まれる 可 能 性 も 否 定 できないと 考 えている 加 えて ボラティリティを 抑 制 することが 必 ずしも 企 業 評 価 にプラスになるわけではない ことも 事 実 である 例 えば 年 金 資 産 として 分 別 管 理 しない 退 職 一 時 金 制 度 で 給 付 原 資 を 現 金 で 保 有 していれば 変 動 は 回 避 される ただし 保 有 資 産 がリターンを 生 まない 非 効 率 性 はむしろ 企 業 の 評 価 を 下 げることになるだろう 確 定 拠 出 年 金 に 移 行 すれば 運 用 結 果 によっ て 運 用 コストが 変 動 することはない ただ 日 本 で 確 定 拠 出 年 金 を 導 入 する 場 合 目 標 給 付 水 準 を 定 め 今 後 の 想 定 運 用 収 益 率 を 決 めることによって 掛 金 額 を 算 出 することが 一 般 的 で ある つまり 資 産 のリターンを 固 定 化 することで 掛 金 を 固 定 化 するわけである 低 い 収 益 見 込 みで 掛 金 を 固 定 化 すると 金 利 水 準 が 上 昇 した 場 合 に 相 対 的 に 高 いコストを 負 担 するこ とになる 同 程 度 の 給 付 水 準 の 確 定 給 付 制 度 のコストが 金 利 上 昇 によって 低 下 するためであ る こうしたことを 考 慮 すれば ボラティリティを 抑 制 することが 必 ずしもよいことである とは 限 らない また ボラティリティが 高 まることが 誰 にどのような 影 響 をもたらすかを 考 えることも 必 要 である 悪 影 響 を 与 えるとすれば 1 株 価 変 動 や 配 当 への 影 響 などで 株 主 へ 迷 惑 をかける 2 経 営 能 力 やリスク 管 理 等 の 点 で 経 営 者 の 評 価 が 低 下 する ことが 考 えられる もちろん 年 金 制 度 が 企 業 経 営 上 の 大 きなリスク 要 因 となるのであれば 制 度 の 見 直 しに 取 り 組 まざるを 得 ないが そういう 事 態 が 想 定 されるとすれば 年 金 制 度 を 維 持 運 営 できない 企 業 体 力 のほう に 問 題 があるはずで 企 業 年 金 制 度 や 会 計 基 準 以 前 の 問 題 である また 経 営 能 力 やリスク 管 理 能 力 の 評 価 結 果 が 遅 延 認 識 と 即 時 認 識 で 大 きく 変 わるとは 思 われない このように 考 えると 会 計 基 準 が 変 更 されることによって そのことを 理 由 に 運 営 方 法 ま してや 制 度 内 容 等 を 変 更 する 必 然 性 はないことがわかる 退 職 給 付 会 計 の 導 入 時 においては 会 計 基 準 の 変 更 が 制 度 見 直 しに 拍 車 をかけたという 事 実 があったという 意 見 はあるかもしれ ない ただ 退 職 給 付 会 計 導 入 時 は それまでまったくリスク 実 態 が 反 映 されなかった 状 態 から リスク 実 態 が 開 示 されたもので これから 行 われる 基 準 の 変 更 とは 明 らかに 状 況 が 異 なる 当 時 は 投 資 家 には 年 金 に 関 する 状 況 が 一 切 知 らされていないだけでなく 債 務 の 評 価 方 法 が 年 金 財 政 と 異 なるため 当 事 者 である 企 業 も PBOの 水 準 を 把 握 できていなかったはずで ある つまり 退 職 給 付 会 計 の 導 入 で 退 職 給 付 とりわけ 企 業 年 金 のリスクが 初 めて 認 識 さ れたと 言 ってよい 結 果 的 に 退 職 給 付 のリスクが 企 業 規 模 に 比 べて 大 きく 特 に 企 業 の 債 務 とみなされた 厚 生 年 金 基 金 の 代 行 部 分 のリスクが 企 業 実 態 に 応 じて 大 きいと 判 断 され それ が 代 行 返 上 につながったのだと 考 えられる すでにリスクの 水 準 が 明 らかである 現 在 その 12/14

表 示 方 法 が 変 わることで 企 業 年 金 制 度 の 運 営 の 舵 取 りを 大 きく 方 向 転 換 する 必 然 性 は 薄 いだ ろう Ⅶ.おわりに 投 資 家 は 企 業 への 投 資 でリスクを 負 担 しており 企 業 年 金 制 度 を 実 施 することにより 投 資 家 にさらに 運 用 リスクを 負 担 させるのは 適 切 ではない あるいは 当 社 は 本 業 のリスク 負 担 に 集 中 するため 年 金 資 産 の 運 用 リスクまで 負 担 したくない などの 意 見 を 聞 くことがあ る 退 職 給 付 会 計 の 導 入 によって 退 職 給 付 なかでも 企 業 年 金 のリスクがクローズアップさ れる 中 で こうした 見 方 が 強 くなってくる 可 能 性 がある ただ こうした 議 論 で 欠 けている のは 企 業 年 金 が 人 事 政 策 として 報 酬 制 度 の 一 環 として 行 われているという 視 点 である 年 金 資 産 運 用 が 単 なる 財 テクであると 考 えれば こうした 議 論 は 成 り 立 つのだろうが 年 金 資 産 運 用 が 財 テクとは 根 本 的 に 異 なることは 明 白 である 後 払 い 賃 金 として 退 職 給 付 が 必 要 で あり しかも 給 付 の 形 態 として 年 金 給 付 が 望 ましいとすれば 年 金 制 度 は 業 務 を 遂 行 していく うえで 必 要 な 制 度 である 年 金 制 度 を 実 施 するとなれば 確 定 給 付 タイプでは 企 業 ( 正 確 に 言 えば 株 主 ) 確 定 拠 出 年 金 では 加 入 者 というように 制 度 によって 異 なるものの 誰 かが 必 ず 資 産 運 用 リスクを 負 うことになる そうした 中 確 定 給 付 タイプのほうが 確 定 拠 出 年 金 よりも 人 材 の 定 着 など 期 待 する 人 事 効 果 が 大 きいと 考 えれば 年 金 資 産 の 運 用 リスクは 必 然 的 に 企 業 が 受 け 入 れることになる このように 考 えた 結 果 として 確 定 給 付 タイプの 制 度 を 実 施 するのであれば より 効 率 的 な 制 度 運 営 を 行 い 少 しでもコストの 低 下 を 求 めていくの は 企 業 を 経 営 していくうえで 当 然 取 り 組 むべき 課 題 である 企 業 年 金 においては 健 全 な 制 度 運 営 を 行 えば 制 度 に 対 する 従 業 員 の 信 頼 が 高 まり 結 果 的 に 労 働 生 産 性 の 向 上 などにつながることになる さらに 効 率 的 な 運 営 もあわせて 企 業 価 値 の 向 上 につながることになればすべてのステークホルダーにとって 好 い 結 果 をもたらすこ とになる こうした 好 循 環 に 期 待 したい (2008 年 9 月 22 日 記 ) 13/14

本 資 料 について 本 資 料 は お 客 さまに 対 する 情 報 提 供 のみを 目 的 としたものであり 弊 社 が 特 定 の 有 価 証 券 取 引 や 運 用 商 品 を 推 奨 するものではありません ここに 記 載 されているデータ 意 見 等 は 弊 社 が 公 に 入 手 可 能 な 情 報 に 基 づき 作 成 したものですが その 正 確 性 完 全 性 情 報 や 意 見 の 妥 当 性 を 保 証 するものでは なく また 当 該 データ 意 見 等 を 使 用 した 結 果 についてもなんら 保 証 するもの ではありません 本 資 料 に 記 載 している 見 解 等 は 本 資 料 作 成 時 における 判 断 であり 経 済 環 境 の 変 化 や 相 場 変 動 制 度 や 税 制 等 の 変 更 によって 予 告 なしに 内 容 が 変 更 されることが ありますので 予 めご 了 承 下 さい 弊 社 はいかなる 場 合 においても 本 資 料 を 提 供 した 投 資 家 ならびに 直 接 間 接 を 問 わず 本 資 料 を 当 該 投 資 家 から 受 け 取 った 第 三 者 に 対 し あらゆる 直 接 的 特 別 な または 間 接 的 な 損 害 等 について 賠 償 責 任 を 負 うものではなく 投 資 家 の 弊 社 に 対 する 損 害 賠 償 請 求 権 は 明 示 的 に 放 棄 されていることを 前 提 とします 本 資 料 の 著 作 権 は 三 菱 UFJ 信 託 銀 行 に 属 し その 目 的 を 問 わず 無 断 で 引 用 または 複 製 することを 禁 じます 本 資 料 で 紹 介 引 用 している 金 融 商 品 等 につき 弊 社 にてご 投 資 いただく 際 には 各 商 品 等 に 所 定 の 手 数 料 や 諸 経 費 等 をご 負 担 いただく 場 合 があります また 各 商 品 等 には 相 場 変 動 等 による 損 失 を 生 じる 恐 れや 解 約 に 制 限 がある 場 合 がありま す なお 商 品 毎 に 手 数 料 等 およびリスクは 異 なりますので 当 該 商 品 の 契 約 締 結 前 交 付 書 面 や 目 論 見 書 またはお 客 さま 向 け 資 料 をよくお 読 み 下 さい 編 集 発 行 : 三 菱 UFJ 信 託 銀 行 株 式 会 社 投 資 企 画 部 東 京 都 千 代 田 区 丸 の 内 1 丁 目 4 番 5 号 Tel.03-3212-1211( 代 表 ) 14/14