目 に 見 えない 宇 宙 の 風 に 聞 き 耳 を 立 てる 皆 さん こんにちは 去 年 に 続 いて 今 年 もお 話 しできることをうれしく 思 っています 本 当 に 時 間 の 経 つのは 早 いものですね 今 回 のタイトルは 宇 宙 の 風 に 聴 く です 風 をテーマに 最 新 の 宇 宙 論 の 視 点 からお 話 してみたいと 思 います 私 にとって 風 の 魅 力 とは 詩 人 のような 表 現 ですが 姿 は 見 えないけれども 音 を 連 れて 来 る とい うことです 日 本 文 化 では 音 連 れ とも 言 います 私 たちはよく 今 日 はすごい 風 の 音 がするね いい 音 だね などと 言 いますが 風 自 身 には 音 がなく 何 かにぶつかって 音 を 立 てる これが 風 の 魅 力 です しかも その 風 は 見 えないけれども 風 が 通 った 跡 だけは 見 える 私 はここに 風 のロマ ンを 感 じます 私 の 憧 れでもあった 詩 人 の 岸 田 衿 子 さんがとてもいい 詩 をお 書 きになっています 風 を 見 た 人 はいなかった 風 の 通 った 跡 ばかり 見 えた 風 のやさしさも 怒 りも 砂 だけが 教 えてくれ た それとこんな 詩 もありましたね かぜに いろをつけたひとだれ かぜに はねのあるのをみ たひとだれ かぜを みたいとおもったら かざぐるまを みていてごらん かざぐるまを ほしければ かぜのなかを さがしてごらん 素 敵 な 表 現 ですね この 人 間 と 風 との 関 わりはたいへん 古 くからありました 古 今 和 歌 集 の 巻 四 の 百 六 十 九 歌 藤 原 敏 行 の 有 名 な 短 歌 があります 秋 来 ぬと 目 にはさやかに 見 えねども 風 の 音 にぞおどろかれぬる 秋 が 来 たかどうか 目 でははっきりわからないけれど 風 が 吹 いてくる 音 を 聴 くと あ もう 秋 だなと わかる また 私 が 大 好 きなガストン バシュラールというフランスの 思 想 家 は 風 のなかに 誰 かが いるという 表 現 をしていますね 宇 宙 を 研 究 する 立 場 から 言 いますと 地 球 にいる 私 たちは 広 大 無 辺 な 宇 宙 という 海 原 の 浜 辺 に いるようなものです そして 実 際 には 出 かけて 行 くことなどできないはるか 彼 方 から 吹 いてくる 宇 宙 からの 風 を からだいっぱいに 受 けて あの 遠 い 海 の 向 こうには 何 があるのかな と 想 像 して いる 子 どものような 存 在 です それと 同 じことを 天 文 学 者 もやっているのですね 宇 宙 からの 情 報 といえば はるか 彼 方 の 星 から 来 る 光 と 電 波 しか 私 たちにとっての 手 がかりはありません くりかえしになりますが 地 球 とは 宇 宙 の 浜 辺 のようなもの そして 宇 宙 の 浜 辺 である 地 球 にいて 私 たちは 電 波 望 遠 鏡 や 通 常 の 光 学 望 遠 鏡 で 遠 くからやって 来 る 宇 宙 の 様 子 に 聞 き 耳 を 立 て そして 目 をこらしているのです
そして ときにはボイジャーのような また 今 回 のはやぶさのように 探 査 機 という 私 たちの 感 覚 器 官 の 延 長 としての 凧 を 飛 ばして その 宇 宙 の 彼 方 から 吹 いてくる 風 の 音 に 耳 を 澄 ませたり 目 を 凝 らしたりして 胸 をときめかせているわけですね 耳 を 澄 ますと 生 命 の 謎 がけてくる それでは これからいくつかの 音 を 聴 いていただきます 宇 宙 から 吹 いてくる 風 の 音 ですよ いかがでしたか とてもにぎやかな 音 でしたね いま 聴 いていただいた 音 は このホールにも 電 波 として 届 いています 私 たちの 耳 では 感 じることができないけれども アンテナを 通 じて 電 気 の 信 号 に 変 えて そして 人 間 の 耳 に 聞 こえるようにすると こんなににぎやかな 音 がする じつは こういう 音 の 中 に いったい 人 間 とは 何 者 なのか と いう 根 源 的 な 命 題 解 決 へのいとぐち があるのです この 自 分 とは 何 か という 問 いかけの 答 えは 簡 単 にわかるものではありません つ まり 私 たちは 自 分 の 顔 さえ 見 ることができないからです 鏡 に 映 る 自 分 の 顔 は 左 右 反 対 ですし 写 真 に 写 っている 顔 は 小 さいツブツブの 点 の 集 合 から 構 成 される 画 像 に 過 ぎません 皆 さんはご
自 分 の 顔 は 一 番 自 分 が 知 っている とお 思 いかもしれませんが じつは 一 番 見 えないのが 自 分 なのです では 自 分 を 知 るためにはどうしたらいいか それは 自 分 に 影 響 を 与 えている 周 りのものの 状 況 から 想 像 することを 通 してしか 知 る 方 法 はありません 私 も 自 分 の 表 情 を 見 ることができませんが あえて 言 えば 皆 さんの 表 情 のなかに 見 て 取 れるような 気 がしています そのように 考 えていくと 相 手 のことを 知 ることが 自 分 のことを 知 ることにつながるということです ね それが 宇 宙 研 究 の 目 的 です 私 たちが 遠 くの 銀 河 を 見 たり 太 陽 を 見 たりしながら いろんな ことを 考 えるのは 謎 に 満 ちた 自 分 とは 何 なのか という 問 いかけへの 答 を 探 しているということな のです 宇 宙 の 研 究 は 自 分 探 しの 旅 なのですね さて 次 に 聴 いていただいた 音 ですが それは 木 星 さんからの 電 波 つまり 木 星 から 吹 いてくる 風 の 音 です 今 夜 も 頭 上 に 大 きく 赤 々と 輝 いている 木 星 です その 次 に 聴 いていただいた 音 は 詩 的 な 表 現 をすれば 土 星 さんの 輪 が 回 っている 音 です グルグルグルと 回 っている 土 星 から 出 ている 電 波 の 音 これも 宇 宙 からの 風 の 音 ですね それから もうひとつ お 聞 かせしていましたね カタカタカタカタという 機 械 が 壊 れたときのような 音 でしたが これは 星 の 臨 終 の 音 です 超 新 星 爆 発 をして もう 私 たちの 視 界 から 消 え 去 ってしま う 直 前 に 出 している 電 波 の 音 です さて 最 後 にお 聞 かせした 音 は たいへん 大 きな 意 味 をもつ 音 です 私 たちのこの 宇 宙 は 今 から 百 三 十 七 億 年 の 昔 に 小 さなひとつぶの 光 として 誕 生 しましたよ ということの 証 拠 になる 音 つ まり ビッグバンの 残 り 火 としての 電 波 雑 音 です このように 宇 宙 の 風 に 耳 を 澄 ますことによって 宇 宙 の 根 源 的 な 性 質 がわかってきて そこから 生 き 物 がどのように 誕 生 したのか その 進 化 の 歴 史 をたどることもできるのです 宇 宙 からやって 来 る 電 波 を 調 べると 私 たちのからだをつくっている 主 成 分 であるアミノ 酸 と 同 じア ミノ 酸 が 宇 宙 にはたくさんあることがわかります 宇 宙 のなかには 命 の 材 料 がたくさんある そこか らどのようなプロセスで 人 間 になったのかという 謎 にも 迫 れるようになってきました 私 たちは 宇 宙 の 風 に 耳 を 傾 け 目 を 凝 らすことで 自 分 はいったいどこから 来 て どこに 行 こうとしているのかと いう 人 間 にとっては いちばん 根 源 的 な 謎 が 解 けてくる それが 宇 宙 の 風 に 耳 を 澄 ますということ の 意 味 なのですね
あなたがいる ここにこの 宇 宙 の 始 まりがある 最 近 では 全 国 の 大 学 や 研 究 所 が 共 同 で 使 うことができる 共 同 利 用 研 究 施 設 があります そこのス ーパーコンピュータに 先 ほどご 紹 介 した 宇 宙 のはじまりだと 思 われる 音 を 入 れて これがあと 数 十 億 年 くらい 経 ったらどういう 音 に 変 わるのかをシミュレーションして 計 算 することができます 一 方 日 本 がハワイのマウナケア 山 の 山 頂 4200 メートルに すばる という 口 径 8.2 メートルの 光 学 赤 外 線 望 遠 鏡 を 設 置 したことはご 存 知 ですね レンズの 直 径 がこの 部 屋 ぐらいの 世 界 一 の 望 遠 鏡 です そのすばる 望 遠 鏡 で 百 億 光 年 彼 方 の 星 の 分 布 を 調 べてみると なんと スーパーコンピ ュータによる 予 測 とこの 百 億 光 年 にある 星 のパターンが 百 パーセント 一 致 したわけです というこ とは さっき 聞 いていただいた 音 は 今 から 百 数 十 億 年 前 に 出 た 音 だったということが 推 測 できます ね つまり さらにくわしく 調 べると 今 から 137 億 年 前 に 宇 宙 の 始 まりがあったということの 一 つの 証 拠 になるわけです 私 たちの 宇 宙 に 始 まりがあったということは 今 では 実 証 可 能 な 事 実 として 論 理 的 にも 理 解 されて います そのもうひとつの 証 拠 として 宇 宙 の 膨 張 があります その 膨 張 の 仕 方 は 驚 くほど 単 純 明 快 です 実 際 に ゴムひもで 実 験 すると 良 くわかります こういう 風 にゴムひもに 等 間 隔 に 印 をつ けてひっぱります すると ある 場 所 を 基 準 にして 考 えると そこから 二 倍 遠 いところの 膨 張 の 速 さ
は 二 倍 に 三 倍 遠 いところでは 三 倍 の 速 さで 遠 ざかっていることがわかりますね これとまったく 同 じことが 宇 宙 で 起 こっているのが 観 測 事 実 としてわかっているのです このことから 見 えてくるのは 驚 くべき 結 果 で どこを 中 心 として 周 りを 眺 めてみても 周 りの 光 景 は 同 じように 見 えているということですね つまり 地 球 から 遠 くにある 天 体 が 遠 ざかる 運 動 を 調 べてみると さきほどのゴムひもの 実 験 からわかるように より 遠 くにある 天 体 ほど より 速 く 観 測 地 点 からの 距 離 にぴったり 比 例 するような 速 さで 遠 ざかっているのです なぜこんなに 一 様 に 膨 張 しているのか その 原 因 はわかりません しかし 重 要 なことは 膨 張 がそのような 性 質 をもって いるということは どこにいても 周 りの 状 況 は 同 じだということなのですから 膨 張 の 中 心 はない ということを 意 味 しているということです 1929 年 アメリカの 天 文 学 者 ハッブルの 発 見 です この 発 見 は 宇 宙 の 構 造 が 実 に 巧 妙 にできていることから 神 の 意 思 によって 宇 宙 がつくられて いるのだと 宗 教 界 が 主 張 したとしても さして 突 拍 子 なことではありません もちろん 私 たちは だからといって 宇 宙 の 開 闢 と 神 をすぐに 結 びつけることはしませんけれどね しかし 人 智 を 超 え た 宇 宙 の 性 質 であることには 驚 きを 禁 じえないというのも 正 直 なところです こんなにもきれいに 宇 宙 が 制 御 されていることの 不 思 議 さです そこで 仮 に という 話 ですが もし 自 然 科 学 者 が 神 という 言 葉 を 使 うのであれば 神 の 定 義 がなければいけません その 定 義 如 何 によっては 科 学 の 立 場 からも 神 の 存 在 を 肯 定 することもできるでしょう これからの 科 学 哲 学 宗 教 がか かえる 大 きな 問 題 です 宇 宙 の 膨 張 には 中 心 がない ということは 今 あなたがいるこの 場 所 が 宇 宙 の 中 心 であり 宇 宙 はここから 始 まったといっても 間 違 いないということです 不 思 議 ですが これは 科 学 的 事 実 なの です