特 別 会 計 の 聖 域 なき 改 革 に 向 けて 地 震 再 保 険 特 別 会 計 見 直 しの 新 たな 考 え 方 前 予 算 委 員 会 調 査 室 吉 田 博 光 1.はじめに 平 成 18 年 5 月 26 日 簡 素 で 効 率 的 な 政 府 を 実 現 するための 行 政 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 ( 行 革 推 進 法 )が 参 議 院 本 会 議 で 可 決 成 立 した これは 17 年 12 月 24 日 に 閣 議 決 定 された 行 政 改 革 の 重 要 方 針 を 確 実 に 実 施 するため に 制 定 されたものである その 内 容 は 多 岐 にわたり 特 別 会 計 改 革 についても 個 別 具 体 的 な 進 め 方 が 規 定 されており 特 別 会 計 改 革 は 実 行 段 階 に 向 けて 少 し ずつ 動 き 出 した 例 えば 特 別 会 計 の 大 きな 問 題 点 のひとつとして 指 摘 されてきた 特 定 財 源 で は 特 定 財 源 制 度 に 係 る 税 の 収 入 額 については 一 般 財 源 化 を 図 ることを 前 提 とし 平 成 19 年 度 以 降 の 歳 出 及 び 歳 入 の 在 り 方 に 関 する 検 討 と 併 せて 納 税 者 の 理 解 を 得 つつ 具 体 的 な 改 正 の 案 を 作 成 するものとする ( 行 革 推 進 法 第 20 条 第 3 項 第 3 号 で 規 定 された 基 本 方 針 )とされた 他 方 地 震 再 保 険 特 別 会 計 を 取 り 上 げるならば 地 震 再 保 険 特 別 会 計 において 経 理 されている 再 保 険 の 機 能 に 係 る 事 務 及 び 事 業 については その 在 り 方 を 平 成 20 年 度 末 までに 検 討 する ものとする ( 第 24 条 )との 規 定 にとどまり 大 きな 改 革 が 実 施 されるとは 考 えにくい ところが 地 震 保 険 制 度 については 必 ずしも 特 会 による 再 保 険 が 必 須 とは 言 えないとして 特 会 の 廃 止 を 含 めた 見 直 しの 方 向 性 が 国 会 で 議 論 され る 状 況 にあり 20 年 度 末 までの 検 討 では 制 度 の 根 幹 部 分 を 含 めて 徹 底 的 に 議 論 する 必 要 がある 本 稿 では 地 震 再 保 険 特 会 の 実 態 を 概 観 しつつ 新 たな 見 直 しの 方 向 性 について 検 討 を 加 える 2. 地 震 保 険 の 概 要 2-1. 地 震 保 険 における 特 会 の 役 割 地 震 再 保 険 特 会 は その 名 の 通 り 地 震 保 険 制 度 のうち 再 保 険 を 引 き 受 ける 役 割 を 果 たしている 地 震 保 険 とは 住 宅 などが 地 震 等 によって 損 害 を 受 けた 際 その 損 失 を 填 補 するための 保 険 である 地 震 災 害 による 被 害 の 規 模 は 失 火 によ る 火 災 などと 比 べて 巨 額 に 上 るため 国 が 相 応 の 保 険 責 任 を 引 き 受 けることで 制 度 の 構 築 を 図 っている 1
具 体 的 には 保 険 契 約 者 が 民 間 保 険 会 社 と 火 災 保 険 の 契 約 を 締 結 する 際 これに 附 帯 する 形 で 地 震 保 険 が 契 約 され る( 図 表 1) 損 保 会 社 が 引 き 受 けた 地 震 保 険 は 一 端 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 ( 以 下 地 再 社 という )に 全 額 再 保 険 され 1 さらに 地 再 社 が 特 会 や 各 損 保 会 社 と 再 々 保 険 契 約 を 締 結 するほか 地 再 社 自 らも 保 険 責 任 の 一 部 を 保 有 する 地 震 災 害 等 が 発 生 すると そ れぞれの 保 険 責 任 に 応 じて 再 々 保 険 金 や 再 保 険 金 を 負 担 し 保 険 契 約 者 が 保 険 金 を 受 け 取 る 仕 組 みである このと きに 特 会 から 支 払 われる 再 々 保 険 金 の 限 度 額 については 毎 年 度 特 別 会 計 予 算 総 則 に 記 載 され 国 会 の 議 決 を 受 けるこ ととなっている 図 表 1 地 震 保 険 の 全 体 像 1 回 の 地 震 等 による 再 保 険 金 の 限 度 額 を 毎 年 議 決 再 々 保 険 契 約 再 々 保 険 料 再 々 保 険 金 再 保 険 契 約 国 会 政 府 ( 地 震 再 保 険 特 別 会 計 ) 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 再 保 険 料 再 保 険 金 再 々 保 険 契 約 保 険 会 社 損 害 保 険 契 約 に 地 震 保 険 を 附 帯 保 険 料 保 険 金 ( 居 住 用 建 物 又 は 生 活 用 動 産 ) 損 害 保 険 契 約 者 再 々 保 険 料 再 々 保 険 金 ( 出 所 ) 地 震 保 険 に 関 する 法 律 地 震 再 保 険 特 別 会 計 法 等 2-2. 国 が 再 保 険 を 引 き 受 ける 地 震 保 険 創 設 の 経 緯 昭 和 39 年 6 月 に 発 生 した 新 潟 地 震 を 受 け 国 会 では 速 やかに 地 震 保 険 等 の 制 度 の 確 立 を 根 本 的 に 検 討 すべきとの 附 帯 決 議 がなされた 2 そして 保 険 審 議 会 での 審 議 を 経 て 当 時 の 大 蔵 省 は 第 51 回 国 会 に 地 震 保 険 に 関 する 法 律 案 及 び 地 震 再 保 険 特 別 会 計 法 案 を 提 出 昭 和 41 年 5 月 11 日 に 参 議 院 本 会 議 で 可 決 成 立 し 18 日 の 公 布 ののち 地 震 保 険 が 開 始 された 国 による 再 保 険 を 前 提 とした 制 度 が 創 設 された 理 由 であるが 地 震 災 害 で 生 1 契 約 者 から 支 払 われた 保 険 料 のうち 損 保 会 社 の 事 務 取 扱 費 などに 充 てられる 付 加 保 険 料 に ついては 地 再 社 への 再 保 険 料 に 含 まれない 2 第 46 回 国 会 衆 議 院 大 蔵 委 員 会 議 録 第 55 号 ( 昭 和 39 年 6 月 19 日 )10 頁 2
ずる 可 能 性 のある 巨 額 に 上 る 保 険 金 の 支 払 いリスクを 正 確 に 予 測 することがで きず 民 間 保 険 会 社 のみではこれを 負 担 することができないからである 保 険 を 制 度 設 計 する 場 合 保 険 金 の 支 払 い 対 象 となる 事 案 の 発 生 確 率 等 から 保 険 料 を 算 出 するが 地 震 災 害 ではそのような 計 算 が 非 常 に 困 難 であり 3 純 粋 に 民 間 が 運 営 する 保 険 としての 設 計 ができなかったのである 他 方 速 やかなる 制 度 の 確 立 を 求 める 民 意 もあり 保 険 金 の 支 払 いが 巨 額 となるリスクを 国 が 引 き 受 ける 再 保 険 制 度 を 用 いて 地 震 保 険 が 確 立 された このような 背 景 もあり 保 険 金 の 支 払 総 額 が 巨 額 となった 場 合 には 国 が 大 部 分 を 負 担 する 一 方 少 額 の 場 合 には 民 間 で 賄 うスキームが 構 築 されている 現 在 のスキームは 地 震 保 険 の 保 険 金 支 払 総 額 が 750 億 円 までは 地 再 社 がすべて 負 担 し 支 払 金 額 が 750 億 円 を 超 え 1 兆 3,118 億 円 までは 国 が 50%を 負 担 1 兆 3,118 億 円 を 超 えると 国 が 95%を 負 担 することとなっている( 図 表 2) 図 表 2 保 険 金 の 負 担 スキーム 0 750 億 円 7,422 保 険 金 支 払 総 額 1 兆 3,118 億 円 31,558 5 兆 円 750 6,184 50% 35,037.9 95% 3,336 2,848 922 922.1 5% 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 負 担 分 (4,520.1 億 円 ) 損 害 保 険 会 社 負 担 分 (4,258 億 円 ) 政 府 負 担 分 (4 兆 1,221.9 億 円 ) ( 出 所 ) 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 日 本 地 震 再 保 険 の 現 状 2005 2-3. 増 加 する 地 震 保 険 の 契 約 制 度 発 足 当 初 からの 契 約 状 況 を 見 ると 昭 和 50 年 代 中 頃 から 低 迷 期 が 続 いた が 阪 神 淡 路 大 震 災 が 発 生 した 平 成 6 年 度 から 契 約 件 数 金 額 ともに 大 きく 増 加 している( 図 表 3) ただし 世 帯 加 入 率 4 を 見 ると 最 近 上 昇 傾 向 にあるも のの(16 年 度 末 時 点 で 18.5%) 昭 和 41 年 度 当 時 の 16.6%とあまり 変 わらな い 状 況 にある( 図 表 4) このような 中 18 年 度 税 制 改 正 では 個 人 所 得 課 税 の 損 害 保 険 料 控 除 が 改 組 され 地 震 保 険 料 控 除 が 創 設 されることとなった 5 3 日 本 は 地 震 災 害 の 多 発 国 であるが 1 年 間 に3 万 件 以 上 発 生 する 建 物 火 災 と 比 べると 情 報 量 が 乏 しく 偶 然 と 思 われる 災 害 の 発 生 に 一 定 の 法 則 性 を 見 出 す 大 数 の 法 則 が 適 用 できない 4 地 震 保 険 契 約 件 数 を 住 民 基 本 台 帳 に 基 づく 年 度 末 世 帯 数 で 除 したもの 5 地 震 保 険 料 控 除 の 対 象 となる 保 険 料 は 地 震 再 保 険 特 会 への 再 保 険 が 実 施 されている 保 険 に 限 3
1,000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 ( 万 件 ) 図 表 3 地 震 保 険 契 約 の 状 況 年 度 末 契 約 件 数 ( 左 目 盛 り) 年 度 末 保 険 契 約 金 額 ( 兆 円 ) 0 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 2 4 6 8 10 12 14 16 ( 年 度 末 ) 80 70 60 50 40 30 20 10 図 表 4 世 帯 加 入 率 の 推 移 ( 単 位 :%) 年 度 末 全 国 東 京 都 昭 和 41 16.6 28.6 平 成 6 9.0 17.9 7 11.6 20.7 8 13.1 22.6 9 14.2 23.7 10 14.8 24.2 11 15.4 24.7 12 16.0 24.9 13 16.2 24.6 14 16.4 24.2 15 17.2 24.8 16 18.5 26.0 ( 出 所 ) 財 務 省 決 算 の 説 明 等 2-4. 阪 神 淡 路 大 震 災 でも 少 額 にとどまった 保 険 金 の 支 払 い 地 震 保 険 制 度 創 設 後 40 年 間 で 保 険 金 の 支 払 額 が 最 多 となった 阪 神 淡 路 大 震 災 においても 保 険 加 入 の 状 況 といった 要 因 から 保 険 金 支 払 額 は 783 億 円 に とどまり( 図 表 5) 関 東 大 震 災 の 再 来 で 想 定 される 保 険 金 額 ( 現 在 のスキーム で 約 5 兆 円 )と 比 べると 少 額 となっている 6 特 に 特 会 からの 支 出 に 限 定 すると 図 表 5 保 険 金 支 払 額 の 多 い 災 害 ( 平 成 17 年 3 月 31 日 現 在 ) 地 震 名 等 発 生 日 マグニ 契 約 件 数 支 払 保 険 金 特 会 からの 支 チュード ( 件 ) ( 百 万 円 ) 出 ( 百 万 円 ) 平 成 7 年 兵 庫 県 南 部 地 震 H7.1.17 7.3 65,427 78,346 6,173 平 成 13 年 芸 予 地 震 H13.3.24 6.7 24,437 16,933 - 平 成 16 年 新 潟 県 中 越 地 震 H16.10.23 6.8 11,672 14,005 - 平 成 15 年 十 勝 沖 地 震 H15.9.26 8.0 10,458 5,907 - 平 成 12 年 鳥 取 県 西 部 地 震 H12.10.6 7.3 4,076 2,867 - 宮 城 県 北 部 を 震 源 とする 地 震 H15.7.26 6.4 2,529 2,156 - 宮 城 県 沖 を 震 源 とする 地 震 H15.5.26 7.1 2,936 1,900 - 平 成 6 年 北 海 道 東 方 沖 地 震 H6.10.4 8.2 4,103 1,333 - 平 成 6 年 三 陸 はるか 沖 地 震 H6.12.28 7.6 4,172 1,237 - 雲 仙 普 賢 岳 噴 火 H5.4.28-216 1,134 - ( 注 )H17.3.20 発 生 の 福 岡 県 西 方 沖 地 震 では 17.7.31 現 在 で 12,930 百 万 円 が 支 払 われた ( 出 所 ) 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 日 本 地 震 再 保 険 の 現 状 2005 定 するものではない 4
再 保 険 金 の 支 払 額 は 62 億 円 であり 7 その 他 の 災 害 についての 支 払 実 績 はない 地 震 多 発 国 である 我 が 国 では 毎 年 保 険 金 の 支 払 いが 多 数 発 生 しており 16 年 度 の 支 払 実 績 を 見 ても 総 件 数 は1 万 4,636 件 に 上 る( 図 表 6) しかし 巨 大 災 害 での 支 払 リスクを 負 担 する 特 会 からの 支 出 が 阪 神 淡 路 大 震 災 に 限 られてい ることからも 分 かるとおり これまでの 40 年 間 に 限 定 するならば 地 震 再 保 険 特 会 に 頼 らなければならない 事 態 には 至 っていない 状 況 となっている 図 表 6 平 成 16 年 度 における 保 険 金 の 支 払 状 況 地 震 名 等 発 生 日 マグニ 契 約 件 数 支 払 保 険 金 チュード ( 件 ) ( 百 万 円 ) 平 成 16 年 新 潟 県 中 越 地 震 H16.10.23 6.8 11,672 14,005 - 紀 伊 半 島 沖 東 海 道 沖 を 震 源 とする 地 震 H16.9.5 7.4 637 617 - 釧 路 沖 を 震 源 とする 地 震 H16.11.29 7.1 1,126 590 - 平 成 15 年 十 勝 沖 地 震 H15.9.26 8.0 514 302 - 根 室 半 島 南 東 沖 を 震 源 とする 地 震 H16.12.6 6.9 276 121 - その 他 - - 411 350 - 合 計 - - 14,636 15,987 - ( 出 所 ) 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 日 本 地 震 再 保 険 の 現 状 2005 特 会 からの 支 出 ( 百 万 円 ) 3. 特 別 会 計 の 現 状 3-1. 平 成 16 年 度 決 算 で 見 た 資 金 の 流 れ 地 震 再 保 険 特 会 の 資 金 の 流 れ を 16 年 度 決 算 で 見 ると 再 保 険 図 表 7 資 金 の 流 れ( 平 成 16 年 度 決 算 ) 歳 入 (539 億 円 ) 歳 出 (1 億 円 ) 料 収 入 が 歳 入 の 77.5%を 占 め 事 務 取 扱 費 ている( 図 表 7) このほか 雑 収 入 の 大 部 分 を 構 成 する 預 託 金 再 保 険 料 収 入 地 1 億 円 剰 余 金 の 処 分 震 利 子 収 入 も 全 体 の2 割 以 上 に 上 417 億 円 再 るが これは 積 立 金 の 規 模 が 保 険 積 立 金 として 歳 入 規 模 と 比 べて 非 常 に 大 きい 特 積 み 立 て ことに 起 因 する 他 方 歳 出 は 別 会 538 億 円 計 再 保 険 金 の 支 払 いがなかったた 雑 収 入 121 億 円 めに 事 務 取 扱 費 の1 億 円 のみと ほぼすべてが なっており 歳 入 の 99.8%を 占 預 託 金 利 子 収 入 ( 出 所 ) 決 算 書 6 なお 当 時 の 契 約 状 況 では 関 東 大 震 災 の 再 来 で 想 定 される 保 険 金 額 は2 兆 円 弱 であったため 現 在 のスキームと 単 純 に 比 較 することはできない 7 阪 神 淡 路 大 震 災 での 負 担 スキームは 現 在 と 異 なっており 支 払 保 険 金 額 のうち 660 億 円 を 超 える 部 分 について 特 会 が 50%を 負 担 し 3,360 億 円 を 超 えた 場 合 は 特 会 が 超 過 分 の 95%を 負 担 する 内 容 となっていた 5
める 538 億 円 の 剰 余 金 が 発 生 し 積 立 金 として 積 み 立 てられた 3-2. 歳 出 の 推 移 で 見 る 高 コスト 構 造 特 会 の 歳 出 は 再 保 険 金 と 事 務 取 扱 費 から 成 るが 再 保 険 金 の 支 払 いは 阪 神 淡 路 大 震 災 のみとなっており 支 払 いのなかった 年 については 制 度 の 維 持 に 伴 う 事 務 コストのみが 計 上 されている( 図 表 8) その 上 阪 神 淡 路 大 震 災 で の 再 保 険 金 支 払 額 が 62 億 円 にとどまっていることから 歳 出 累 計 額 のうち 事 務 取 扱 費 の 割 合 が 全 体 の2 割 を 超 えている 8 勿 論 不 幸 にして 巨 大 災 害 が 発 生 し 多 額 の 再 保 険 金 が 支 払 われればその 割 合 は 低 下 することとなるが それまでの 間 は 必 然 的 に 高 コスト 構 造 の 様 相 を 呈 している さらに 地 震 保 険 制 度 全 体 について 見 ると 各 損 保 の 事 務 費 は 地 再 社 に 再 保 険 料 が 支 払 われる 段 階 で 差 し 引 かれていることから 地 震 保 険 制 度 全 体 として の 事 務 費 負 担 は 大 きくなっている 地 震 保 険 の 性 質 上 非 常 に 長 いスパンで 制 度 を 設 計 しており 関 東 大 震 災 のような 巨 大 災 害 が 発 生 するまでは 事 務 費 負 担 が 大 きくなる 点 はやむを 得 ない 側 面 はあるものの 特 会 が 存 在 しなければ 特 会 におけるコストが 発 生 することもない 地 震 保 険 における 保 険 料 の 内 訳 は 他 の 保 険 制 度 と 同 様 に 純 保 険 料 と 付 加 保 険 図 表 8 歳 出 の 推 移 と 内 訳 10 58( 億 円 ) 8 6 4 2 歳 出 の 累 計 (79 億 円 ) 再 保 険 金 事 務 取 扱 費 0 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 2 4 6 8 10 12 14 16 ( 年 度 ) ( 注 ) 平 成 7~13 年 度 の 再 保 険 金 支 払 いは すべて 阪 神 淡 路 大 震 災 に 係 るものである ( 出 所 ) 決 算 書 8 災 害 がないために 被 害 も 発 生 しないことは 望 むべきところであることは 言 うまでもない 6
料 から 成 り 9 付 加 保 険 料 が 少 なければ 保 険 契 約 者 が 負 担 する 保 険 料 は 低 く 抑 え られる つまり 制 度 を 簡 素 にするほど 負 担 は 少 なくなる ところが 現 行 制 度 は 損 保 各 社 が 保 険 を 販 売 したのち 再 保 険 会 社 が 一 端 すべての 保 険 責 任 を 引 き 受 けて これを 特 会 などに 再 (々) 保 険 しているという 多 層 構 造 となってお り 見 直 しの 余 地 があるのではないか 3-3. 増 え 続 けても 不 足 する 積 立 金 これまでに 特 会 から 支 払 われた 再 保 険 金 が 少 額 にとどまったこともあり 特 会 歳 出 の 累 計 額 は79 億 円 に 過 ぎない 他 方 歳 入 の 累 計 額 は9,519 億 円 であり 9,440 億 4,158 万 円 の 歳 計 剰 余 金 が 発 生 した これは 基 本 的 に 積 立 金 として 積 み 立 てなければならず 翌 年 度 の 歳 入 に 繰 り 入 れられた 総 額 79 万 円 を 除 く 9,440 億 4,079 万 円 が 積 立 金 として 積 み 立 てられており(16 年 度 末 現 在 ) その 規 模 は 歳 入 規 模 に 比 べて 非 常 に 大 きくなっている ただし 関 東 大 震 災 の 再 来 を 想 定 すると 現 在 の 積 立 金 の 水 準 では3 兆 円 を 超 える 資 金 が 不 足 することも 事 実 である 地 震 保 険 は 長 期 間 での 収 支 均 衡 を 制 度 の 根 幹 としていることから どのような 時 点 で 巨 大 災 害 が 発 生 しても 巨 額 の 資 金 不 足 ( 負 債 ) あるいは 巨 額 の 積 立 金 が 発 生 する 可 能 性 が 高 いのである 10 4. 特 会 見 直 しの 考 え 方 4-1. 地 震 保 険 の 存 在 と 特 別 会 計 の 存 在 を 分 ける 必 要 性 地 震 保 険 制 度 は 地 震 頻 発 国 の 我 が 国 にあっては 維 持 すべき 制 度 であると 考 えられる 他 方 巨 大 災 害 発 生 時 の 保 険 金 支 払 リスクは 民 間 のみで 完 結 できる 状 況 にないことも 事 実 であろう 従 って 地 震 保 険 の 存 続 には 何 らかの 政 府 の 関 与 が 必 要 であり 特 会 での 再 保 険 の 引 受 けと 結 びつけられてきた 11 しかし 本 来 保 険 制 度 維 持 のための 政 府 関 与 の 必 要 性 と 特 会 の 必 要 性 とは 分 けて 考 え 9 純 保 険 料 とは 保 険 契 約 者 が 被 災 したときに 保 険 会 社 が 支 払 う 保 険 金 に 充 てられるものであ り 付 加 保 険 料 は 契 約 の 事 務 処 理 等 に 係 る 保 険 会 社 の 費 用 や 代 理 店 手 数 料 損 害 が 発 生 したと きの 損 害 調 査 に 係 る 費 用 等 に 充 てられるものである 10 約 500 年 での 収 支 均 衡 を 図 る 現 行 制 度 においては 数 年 後 に 関 東 大 震 災 級 の 地 震 など 巨 大 災 害 が 発 生 すると 仮 定 すれば その 時 点 で 巨 額 の 資 金 不 足 が 生 じ その 後 400 年 といった 長 期 間 債 務 の 返 済 が 完 了 しない 可 能 性 がある 一 方 今 後 400 年 間 このような 災 害 が 発 生 しないと 仮 定 すれば 積 立 金 の 金 額 は 巨 額 となる また 中 間 である 250 年 目 で 発 生 したとしても それま でに 積 み 立 てた 積 立 金 は 巨 額 となる 一 方 資 金 不 足 額 が 発 生 する 可 能 性 もある 11 なお 全 国 労 働 者 共 済 生 活 協 同 組 合 連 合 会 ( 全 労 済 )の 自 然 災 害 保 障 付 火 災 共 済 や 全 国 共 済 農 業 協 同 組 合 連 合 会 (JA 共 済 )の 建 物 更 生 共 済 などは 外 国 の 再 保 険 会 社 と 契 約 する といった 方 法 により 危 険 分 散 することで 国 の 関 与 なしに 地 震 保 険 類 似 の 制 度 を 維 持 している 7
る 必 要 がある つまり 特 会 は 今 でも 十 分 な 積 立 金 を 保 有 しておらず 政 府 の 信 用 力 をもって 制 度 の 信 頼 性 を 高 めている 状 況 にあり 大 規 模 災 害 が 発 生 すれ ば 特 会 が 外 部 から 資 金 調 達 しなければならないのである 12 つまり 関 東 大 震 災 級 の 巨 大 災 害 に 対 応 できる 巨 額 の 積 立 金 が 蓄 積 できない 間 は 政 府 の 信 用 力 をもって 借 入 れを 行 うことが 地 震 保 険 制 度 の 前 提 となっていると 言 えよう 換 言 すれば 特 会 を 代 替 する 制 度 によって 政 府 の 信 用 力 を 確 保 できれば 必 ず しも 特 会 が 再 (々) 保 険 を 引 き 受 ける 必 要 性 はないのではないか もし 特 会 が 廃 止 できれば 特 会 で 費 やしてきた 事 務 コストを 保 険 金 の 支 払 いや 保 険 料 率 引 き 下 げの 原 資 にすることができる 特 会 廃 止 の 可 能 性 については 予 算 委 員 会 に おいて2つの 方 策 が 指 摘 されており 13 この 内 容 を 参 考 にしつつ 想 定 される 新 たな 制 度 を 紹 介 する 4-2. 政 府 保 証 借 入 の 活 用 地 震 再 保 険 特 会 は 地 再 社 から 再 々 保 険 を 引 き 受 けており 制 度 の 実 態 から 見 れば 再 々 保 険 特 会 となっている 地 再 社 がすべての 保 険 責 任 を 引 き 受 けた 上 で 保 険 責 任 を 分 散 しており 地 再 社 が 政 府 の 信 用 力 を 背 景 に 借 入 れを 行 うことで 特 会 の 役 割 を 代 替 することができれば 14 特 会 なしに 現 行 制 度 と 同 様 の 地 震 保 険 を 提 供 することができる 15 国 による 政 府 保 証 は 当 該 機 関 が 政 府 保 証 を 受 けるための 法 律 上 の 規 定 があれば 可 能 であることから 特 会 廃 止 法 をもって 地 震 保 険 に 関 する 法 律 に 新 たな 規 定 を 設 ければ 実 施 できると 考 えられる また 現 在 特 会 が 保 有 している 積 立 金 については 例 えば 一 般 会 計 に 引 き 継 いだ 上 で 全 額 地 再 社 に 出 資 すれば(あるいは 特 会 から 地 再 社 に 出 資 した 12 この 場 合 の 調 達 先 は 財 政 融 資 資 金 特 別 会 計 など 地 震 再 保 険 特 会 以 外 の 会 計 からの 借 入 れが 想 定 されるが 本 特 会 以 外 からという 点 で 外 部 からの 資 金 調 達 に 変 わりない 特 に 財 政 融 資 資 金 特 会 がこのときの 資 金 を 財 投 債 の 市 中 発 行 によって 賄 えば 結 果 として 政 府 外 からの 資 金 調 達 となる なお 政 府 は 保 険 制 度 に 固 執 しており 特 例 法 の 制 定 により 税 金 で 補 填 する 可 能 性 は 低 いものと 考 えられる 13 第 164 回 国 会 参 議 院 予 算 委 員 会 会 議 録 第 17 号 ( 平 成 18 年 3 月 27 日 )31 頁 及 び 32 頁 にお ける 内 藤 正 光 議 員 の 質 疑 14 なお 地 震 保 険 制 度 は 法 律 上 の 要 件 を 満 たしたものであれば 全 労 済 やJA 共 済 などの 共 済 事 業 も 排 除 するものではないが 現 時 点 では 特 会 とこれらは 再 保 険 契 約 を 行 っていない もし 特 会 廃 止 後 にこれらが 地 震 保 険 制 度 への 参 加 を 希 望 した 場 合 共 済 が 地 再 社 に 出 資 して いないといった 関 係 上 想 定 する 制 度 の 対 象 から 漏 れる 可 能 性 があるが この 点 については 共 済 等 が 地 再 社 と 再 保 険 契 約 を 結 ばなければならない 制 度 としておくなど 簡 単 な 法 改 正 で 解 決 できよう 15 現 行 でも 地 震 保 険 に 関 する 法 律 第 8 条 では 政 府 は 地 震 保 険 契 約 による 保 険 金 の 支 払 のた め 特 に 必 要 があるときは 保 険 会 社 等 に 対 し 資 金 のあつせん 又 は 融 通 に 努 めるものとする と 規 定 している 8
のちに 出 資 による 権 利 を 一 般 会 計 に 引 き 継 げば) これまでの 保 険 制 度 をすべて 承 継 することができる 必 要 に 応 じて 地 再 社 に 対 する 損 保 各 社 の 出 資 も 国 が 引 き 継 ぐことで 地 再 社 が 政 府 による 全 額 出 資 会 社 となれば 特 会 の 存 続 と 非 常 に 似 た 制 度 となろう つまり 全 額 政 府 出 資 とする 際 新 たに 地 再 社 の 設 立 法 を 整 備 することで 地 再 社 を 特 殊 会 社 (あるいは 独 立 行 政 法 人 等 )に 改 組 すれ ば 財 政 投 融 資 による 貸 付 を 受 けることができるようになる これにより 特 別 会 計 と 同 様 必 要 に 応 じて 政 府 から 直 接 的 に 借 り 入 れることができるのであ る 4-3. 補 償 制 度 の 創 設 政 府 が 実 施 している 制 度 のうち 地 震 保 険 に 類 似 の 制 度 として 原 子 力 損 害 賠 償 制 度 における 政 府 の 補 償 契 約 がある 原 子 力 損 害 賠 償 制 度 とは 原 子 力 事 業 者 が 負 担 しなければならない 各 種 の 損 害 について 民 間 の 保 険 によって 担 保 す る 部 分 と 政 府 による 補 償 制 度 を 並 立 させるものである このうち 民 間 保 険 は 一 般 的 な 事 故 による 原 子 力 損 害 を 対 象 とする 一 方 政 府 契 約 は 地 震 や 噴 火 等 に よる 原 子 力 損 害 などを 対 象 としている 例 えば 電 力 事 業 者 が 運 転 する 原 子 力 発 電 所 など 熱 出 力 が1 万 キロワットを 超 える 原 子 炉 を 例 に 見 ると 民 間 保 険 や 政 府 の 補 償 制 度 の 限 度 額 は 600 億 円 となっ 図 表 9 原 子 力 損 害 賠 償 制 度 の 概 要 ており この 範 囲 内 責 任 額 制 限 なし 原 子 力 事 業 者 の 無 過 失 無 限 責 任 で 補 償 の 対 象 となる 原 子 力 事 業 者 による 賠 償 負 担 ( 無 限 責 任 ) 必 要 な 場 合 は 国 会 の 議 決 により 政 府 に 属 せられ た 権 限 の 範 囲 内 で 政 府 が 援 助 ( 図 表 9) この 場 合 ( 補 助 金 交 付 利 子 補 給 低 利 融 資 など) 賠 償 措 置 額 政 府 による 補 償 料 は 原 子 力 損 害 賠 償 責 任 原 子 力 損 害 賠 償 補 償 契 約 1 件 当 たり 年 額 原 子 力 発 電 所 の 保 険 契 約 ( 民 間 契 約 ) ( 政 府 契 約 ) 場 合 は600 億 円 一 般 的 事 故 による 原 地 震 噴 火 等 による 原 子 3,000 万 円 となって 子 力 損 害 力 損 害 損 害 発 生 の 原 因 が 生 じて いる 地 震 保 険 にお 10 年 以 上 経 過 したのちに 請 求 された 原 子 力 損 害 ける 再 保 険 の 引 受 け と 大 きく 異 なるのは 原 子 力 事 業 者 同 制 度 が 保 険 ではな く 補 償 として 実 施 し 被 害 者 ていることから 積 立 政 府 異 社 の 常 会 措 に 的 置 ( 巨 動 大 乱 注 ) な 天 災 地 変 ( 注 ) 異 常 に 巨 大 な 天 災 地 変 及 び 社 会 的 動 乱 による 原 子 力 損 害 につい ては 事 業 者 は 免 責 されるが 政 府 が 被 害 者 の 救 済 のために 必 要 な 措 置 を 講 じることとなっている ( 出 所 ) 財 団 法 人 原 子 力 安 全 技 術 センターホームページ 資 料 より 作 成 9
金 を 保 有 していないという 点 である 16 本 事 業 は 一 般 会 計 で 実 施 しており 政 府 が 各 事 業 者 から 毎 年 補 償 料 を 受 け 取 ることで 掛 け 捨 てタイプの 損 害 保 険 を 引 き 受 けていると 見 ることができる 地 震 保 険 において 同 様 の 制 度 を 実 施 すれば 特 会 の 事 業 を 一 般 会 計 が 引 き 継 ぐ 改 革 となり 17 多 額 の 積 立 金 が 不 要 となる もし 積 立 金 なしに 制 度 を 維 持 することができれば 財 政 融 資 資 金 への 預 託 の 必 要 性 もなくなることで 財 政 投 融 資 の 入 口 部 分 の 引 き 締 めにつながるほか 簡 素 な 制 度 の 構 築 にも 寄 与 すると 考 えられる 18 これは 現 在 実 施 されている 制 度 を 参 考 としている 点 で 政 府 保 証 の 導 入 より 実 現 可 能 性 が 高 い 手 法 と 考 えら れる 5.まとめ 特 会 改 革 の 議 論 の 中 で 地 震 再 保 険 特 会 はこれまで 中 心 的 存 在 にはなってい ないと 言 えよう この 要 因 は 地 震 保 険 制 度 の 維 持 には 特 会 が 必 須 であるとい う 国 民 の 意 識 が 最 も 影 響 したのではなかろうか しかし 聖 域 なき 改 革 によっ て 効 率 的 な 政 府 を 実 現 するためには パラダイムの 転 換 も 必 要 である 地 震 再 保 険 特 会 が 果 たす 役 割 は 地 震 保 険 制 度 のうち 民 間 でカバーできない 支 払 リス クを 政 府 の 信 用 力 によって 補 うことにある 従 って この 点 について 代 替 する 措 置 があるならば 地 震 保 険 を 存 続 しつつ 特 会 を 廃 止 することも 可 能 であろう 特 別 会 計 の 改 革 に 当 たって 見 直 しのための 選 択 肢 が 多 様 であればあるほど 効 率 化 のために 採 りうる 多 様 な 手 法 の 中 から 様 々な 議 論 によって 新 たな 制 度 の 構 築 を 図 ることができる 再 保 険 制 度 を 存 続 するという 選 択 肢 のほか 政 府 保 証 や 補 償 契 約 といった 選 択 肢 があれば それぞれについてメリットとデメリッ トを 比 較 することで 最 も 望 ましい 制 度 を 考 え 出 すことができる 地 震 保 険 制 度 を 考 え 出 した 当 時 は 特 会 の 設 置 が 最 良 の 選 択 肢 であったとしても これが 将 来 にわたって 最 良 であり 続 けるものではなく 状 況 の 変 化 に 応 じた 見 直 しは 絶 えず 行 っていく 必 要 があろう 特 別 会 計 の 見 直 しが 進 んでいる 今 こそ そのた めの 絶 好 の 機 会 であると 捉 えることができる この 好 機 を 逃 さぬためにも 政 府 は 新 たな 手 法 を 模 索 することが 必 要 であろう 16 政 府 が 再 保 険 を 引 き 受 けるのではないため 限 度 額 の 範 囲 内 ですべての 補 償 責 任 を 政 府 が 引 き 受 ける 17 国 で 発 生 する 事 務 取 扱 費 は 継 続 して 生 じてしまう 点 において 地 再 社 による 政 府 保 証 借 入 よ りコストがかかってしまう 18 積 立 金 の 存 在 の 是 非 については 様 々な 解 釈 があろう 地 震 保 険 制 度 における 特 会 の 積 立 金 に ついても 必 要 であるとする 意 見 と 廃 止 すべきであるとする 意 見 が 存 在 すると 考 えられる 10