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Transcription:

NTT のネットワークと ともに 40 年 NTT アドバンステクノロジ( 株 ) 特 別 顧 問 石 川 宏 Hiroshi Ishikawa ラジオ 少 年, 電 電 公 社 に 入 社 小 学 生 の 頃 から 秋 葉 原 に 通 い, 部 品 を 集 めてラジオを 作 る,ラジオ 少 年 でありました. 早 稲 田 大 学 修 士 課 程 を 修 了 し, 平 山 博 教 授 の 推 薦 で, 何 の 迷 いもなく 1967 年, 日 本 電 信 電 話 公 社 ( 以 下, 電 電 公 社 ), 今 の NTT に 入 社 し ました. 入 社 直 後 の 幹 部 の 挨 拶 で 開 口 一 番, 日 本 にはア メリカのような 防 衛 産 業 はない.その 代 わりを 担 うのが, 電 電 公 社 の 技 術 開 発. 裾 野 が 広 く 日 本 の 産 業 を 引 っ 張 っ ている. 君 たち 技 術 系 の 責 任 は 重 い. と 言 われ, 以 来 そ の 言 葉 が 今 もよみがえります. 新 入 社 員 の 真 っ 白 な 頭 に このことが 何 の 疑 いもなくすり 込 まれ, 技 術 者 として 情 熱 をかきたてられました. 電 電 公 社 の 独 占 の 弊 害 とよく いわれますが, 少 なくとも 私 は, 他 ができないのだから こそ 責 任 を 果 たそう,と 意 気 に 感 じたものでした. 通 信 ソサイエティマガジン に, 私 の 技 術 者 歴 を 書 く 光 栄 を 得 ましたので, 果 たしてその 責 任 を 果 たせたか, 反 省 をし つつ 振 り 返 りたいと 存 じます. テーマごとに 一 くくりに 記 述 したことから, 前 後 関 係 が 必 ずしも 正 確 でないこと, 企 業 名 組 織 名 に, 通 称 を 用 いたことをお 許 し 頂 きたい. 初 仕 事 は TSS の 開 発 理 工 系 出 身 者 は 電 電 公 社 入 社 時 に, 研 究 部 門 と 事 業 部 門 に 配 属 分 けされ, 更 に 事 業 部 門 は 技 術 専 門 分 野 を 定 め て,それを 基 本 に 人 事 育 成 がなされます. 私 は 事 業 部 門, 専 門 は データ 通 信 の 配 属 となりました. 当 時, 電 電 公 社 は, 電 信 電 話 に 次 ぐ 新 しい 事 業 として,データ 通 信 事 業 ( 後 の NTT データの 母 体 )を 開 始 しておりました.デー タ 通 信 はデータ 伝 送 システムと 情 報 処 理 を 統 合 した 技 術 と 定 義 され, 最 も 先 端 的 な 分 野 でした. 今 にして 思 えば, 当 時 既 に 電 信 電 話 の 将 来 を 予 想 し, 次 の 新 しい 事 業 を 立 ち 上 げた 幹 部 の 先 見 性 はすばらしいものです. 私 の 担 当 したシステムは, 科 学 技 術 計 算 システム (DEMOS:Dendenkosha Multi-access Online System) で, 大 形 計 算 機 (といっても 今 のパーソナルコンピュー タ( 以 下,パソコン)より 性 能 が 落 ちる)を 多 数 の 利 用 者 と 通 信 回 線 で 結 び, 相 互 に 干 渉 することなく 共 同 利 用 す るシステムで,いわゆる TSS(Time Shearing System) でありました. 当 時 の 米 国 の 状 況 は MIT(Massachusetts Institute of Technology)が IBM の 機 械 を 使 い,CTSS (Compatible Time Shearing System)を 開 発 し, 更 に MULTICS(Multiplexed Information and Computing Service) (1) の 開 発 が 開 始 されたところでした. 純 国 産, 日 本 で 初 めての 商 用 サービス という 錦 の 御 旗 の 下, 電 4 通 信 ソサイエティマガジン No.16[ 春 号 ]2011

My Frontier Life 電 公 社 は 大 阪 大 学 のシステムで 実 績 のある 日 本 電 気 と 組 み, 開 発 を 開 始 したものです. ハードウェアは 汎 用 コンピュータを 用 いることが 方 針 として 決 まっており,NEAC2200 モデル 500 でした. 手 元 にこのマシンの 諸 元 があります. IBM1401 の 流 れをく むキャラクタマシン (2) で(まだバイトという 概 念 はあり ません),クロック 5.3 MHz,メインメモリは 磁 気 コアメ モリで 最 大 512 キロキャラクタ, 本 体 重 量 800 kg, 消 費 (3) 電 力 4.2 kv A, 国 産 機 で 初 めてモノリシック 集 積 回 路 を 全 面 的 に 採 用 した 大 形 機 とあります. 私 が 今 使 って いるパソコンは 2 年 前 のもので,RAM 2 GByte,クロッ ク 2 GHz ですから,3 桁 以 上 性 能 が 高 く, 重 量, 消 費 電 力 は 2 桁 小 さいということになります. ソフトウェアは,NEAC の 標 準 OS は 使 わず,TSS 用 と しての 専 用 OS を 開 発 することとなりました.TSS におい ては 動 作 中 の 利 用 者 のプログラムは 全 部 をメインメモリ に 置 くことはメインメモリが 不 足 してできません.その ため 端 末 からの 入 出 力 待 ちの 時 間 などで 利 用 者 プログラ ムが 走 っていない 間,あるいは 長 時 間 特 定 のプログラム が 占 有 しないように, 二 次 記 憶 装 置 ( 当 時 は 磁 気 ドラム) にはき 出 されます.IBM360 以 降 のハードウェアにおい ては( 現 在 のパソコンも), 仮 想 記 憶 装 置 という 機 構 が 準 備 されていますが, 当 時 のハードにはなく,ベースレジ スタとソフトウェアによって 実 現 しました.また 利 用 者 に 提 供 する 基 本 となる,FORTRAN コンパイラもコアメモ リの 占 有 を 小 さくするため 新 規 開 発 となりました.また, 利 用 者 のプログラムやデータを 記 憶 する 集 合 ディスク パック 装 置 も 新 規 開 発 となり, 更 にシステムの 処 理 能 力 評 価 を GPSS(General Purpose Simulation System) (4) に より 並 行 して 行 うという, 現 在 で 言 うコンカレントエン ジニアリングによる 大 形 プロジェクトでした. 私 の 担 当 は,システムの 高 信 頼 性 の 実 現 でした. 新 入 社 員 でありながら,まだフォールトトレランスなどとい う 概 念 のないときに, 汎 用 機 でできるだけ 高 い 信 頼 性 を 実 現 するよう,システム 構 成 やソフトウェアの 方 式 を 検 討 しました.これらの 開 発 は, 我 々 電 電 公 社 の 技 術 者 と 日 本 電 気 の 技 術 者 が, 工 場 で 机 を 並 べ 一 体 となって 行 わ れました. 毎 日 のように 新 しいアイデアを 出 し, 開 発 工 程 も 一 体 で 行 っていました.また,OS 開 発 の 一 部,コー ディングからデバッグ, 結 合 試 験 まで 一 連 の 作 業 を 担 当 し,マシンの 前 で 寝 袋 にくるまり, 泊 まり 込 みで 日 夜 頑 張 ったものです. 最 近 のように 発 注 者 が 仕 様 を 定 め, 受 注 者 がそれに 従 っ て 開 発 を 行 うというクールな 関 係 で は,とてもこのような 大 規 模 で 先 端 的 なシステム 開 発 は 成 功 しなかったと 思 います. 大 規 模 システムでは, 明 確 な 設 計 方 針 があり,それを 現 場 の 作 業 者 まで 共 有 することが 重 要 です. 開 発 現 場 で の 創 意 工 夫 で, 性 能 やバグの 発 生 が 桁 違 いに 向 上 するこ と, 大 規 模 システムの 開 発 は 良 い 人 間 関 係 から,など 教 えられることが 多 く, 後 の 現 場 重 視 の 姿 勢 はこの 体 験 からです.プロジェクトリーダは,データ 通 信 本 部 調 査 役 大 前 義 次 氏 (その 後 茨 城 大 学 教 授 )で, 世 界 に 冠 たる システムを 作 ろう が 合 言 葉 でした.また 川 村 敏 郎 氏 ( 後 に 日 本 電 気 副 社 長 ), 浜 口 友 一 君 ( 後 に NTT データ 社 長 ) はじめ, 様 々な 優 秀 な 方 と 御 一 緒 しました. DEMOS は, 苦 労 の 末 1971 年 3 月 に 東 京 で, 同 年 6 月 に 大 阪 で,1972 年 8 月 に 名 古 屋 でそれぞれサービスが 開 始 され,1973 年 度 末 ユーザ 数 458, 端 末 数 520 を 数 えました[1].その 後,DEMOS は, 電 電 公 社 が 開 発 し た 標 準 大 形 電 子 計 算 機 DIPS(Dendenkosha Information Processing System)による,DEMOS-E に 引 き 継 がれ, 当 初 の 目 的 を 達 成 しました. 最 近,シンクライアント,クラウドコンピューティン グが 時 流 ですが, 当 時 の 端 末 はプリンタとキーボードの みでしたから,まさしくセンタ 集 中 で, 歴 史 は 繰 り 返 す を 実 感 致 します. 私 の 担 当 した 高 信 頼 機 能 については, サービス 開 始 時 に 間 に 合 わず,その 後 のバージョンアッ プで 追 加 されました. 少 々 凝 りすぎと 反 省 しています. 自 分 たちに 与 えられた, 時 間 と 開 発 リソースを 考 え, 適 切 なものと 割 り 切 る 姿 勢 も 重 要 と 痛 感 致 しました. ディジタルデータ 交 換 網 の 開 発 次 に 開 発 に 関 わったのはディジタルデータ 交 換 網 [2] でした. 従 来 のデータ 通 信 システムは,コンピュ ータ を 中 心 とし, 多 数 の 端 末 が 専 用 線 を 通 じてスター 形 に 接 続 される 形 式 のものが 大 部 分 でした.しかし,1970 年 代 になり,コンピュータが 広 い 分 野 に 普 及 し, 社 会 活 動 が 多 様 化 してくるのに 伴 い, 一 つの 端 末 で 様 々 なコン ピュ ータと 通 信 したいとの 要 望 が 出 てきており, 更 に, 分 散 設 置 された 複 数 のコンピュータを 結 合 してより 高 度 のシステムを 構 成 する,いわゆるコンピュ ータネット ワーク 形 成 の 動 きが 出 てきていました.そのため, 専 用 線 を 電 電 公 社 から 借 用 し, 利 用 者 が 設 置 したコンピュー 私 の 技 術 者 歴 5

タにより,データを 蓄 積, 交 換 し,データ 網 を 構 成 した り, 公 衆 網 ( 電 話 網 )で 集 線 し,それを 専 用 線 で 高 速 に コンピュータに 接 続 するなど, 自 由 な 回 線 の 利 用 形 態 を 認 めよとの 要 望 が, 電 電 公 社 や 郵 政 省 に 出 されていまし た.これらの 回 線 開 放 の 要 望 に 公 衆 電 気 通 信 法 の 改 正 で 応 える 一 方, 電 電 公 社 自 身 でそのような 要 望 に 応 える 新 しいネットワークを 開 発 するということになりました. 当 時, 電 電 公 社 の 電 気 通 信 研 究 所 では, 二 つの 方 式 の ディジタルデータ 交 換 網 を 開 発 していました. 回 線 交 換 方 式 とパケット 交 換 方 式 です. 前 者 はディジタル 伝 送 されたデータをディジタルのまま 交 換 し,ディジタル の 1 リンクを 構 成 し, 高 速 の(といっても 最 大 48 kbit/s) データ 伝 送 するネットワークです. 後 者 は 蓄 積 交 換 シス テムで, 現 在 のインターネットでも 使 われているパケッ トによるネットワークでした. 開 発 当 初,その 二 つの 方 式 は 並 行 して 行 われ, 私 としては DEMOS の 開 発 経 験 か らして,コンピュ ータ 通 信 は,データはバースト 的 に 流 れるので,パケット 方 式 が 親 和 性 があると 固 く 信 じて おり,パケット 方 式 に 絞 り 商 用 化 すべきと 考 えておりま した.しかし 社 内 では 2 方 式 とも 譲 らず,なかなか 絞 り きれず, 適 用 領 域 が 異 なるとして, 結 局 2 方 式 が 導 入 さ れました. その 後,ISDN(Integrated Services Digital Network) (5) になって, 回 線 交 換 方 式 とパケット 交 換 方 式 は 一 つのサービスとして 統 合 されることになります. 私 は 1976 年 から, 技 術 局 において, 片 山 泰 祥 君 ( 現 在,NTT 常 務 取 締 役 )や 成 瀬 秀 夫 君 ( 現 在, フジクラ 取 締 役 )などとともに,ディジタルデータ 交 換 網 の 導 入 計 画, 料 金 体 系, 番 号 方 式, 標 準 化 など 外 部 条 件 を 担 当 しました. 当 時,データグラムかバーチャルコー ルかの 議 論 が 盛 んにありました.パケットは ARPANET (Advanced Research Projects Agency Network)がルー ツですが,もともとコールという 概 念 がなくパケット 一 つ 一 つが 独 立 で, 通 信 の 接 続 関 係 (コネクション)はエン ドシステム 同 士 で 行 うとするもので,データグラムと 呼 ばれていました.それに 対 し,カナダ,フランス,イギ リスそして 日 本 の 電 気 通 信 事 業 者 ( 電 電 公 社 )は,デー タグラムでは 網 の 品 質 を 保 証 できないとして,バーチャ ルコールを 開 発 すべきと 主 張 していました. このプロトコルは,ITU-T( 当 時 は CCITT)の Study Group VII で X.25 として 標 準 化 されました.この 標 準 化 に 当 たって,NTT 研 究 所 の 石 野 福 弥 氏 ( 後 に 早 稲 田 大 学 教 授 )が 活 躍 しますが, 私 もそのサポートで 何 度 もジュ ネーブに 足 を 運 びました.X. 25 は, 通 信 の 開 始 時 に 経 路 を 設 定 し, 以 降 のパケットは 同 じ 経 路 を 通 るバーチャ (6) ルコール 方 式 を 基 本 とし,フロー 制 御 を 行 い,ネット ワークによる 品 質 を 保 証 するサービスで,これを 採 用 し ました. 一 方 のデータグラムは,ネットワークの 機 能 は 軽 く, 後 のインターネットで TCP/IP として 標 準 となり ました. 網 品 質 を 保 証 する(ギャランティ)か, 保 証 し ない(ベストエフォート)かの 議 論 は,その 後 も 続 くこ とになります. もう 一 つお 話 ししておきたいのは, 料 金 方 式 です. 当 時 は 電 話 網 の 距 離 別 時 間 課 金 が 常 識 で, 回 線 交 換 方 式 は それに 準 ずるにしても,パケット 方 式 はどのようにすべ きか 大 いに 議 論 がありました.ユーザごとに, 利 用 した リソースに 応 じ 情 報 量 課 金 とすること, 回 線 効 率 が 高 い ので 全 国 一 律 料 金 にできることを 社 内, 郵 政 省 に 理 解 し てもらうのに, 大 変 苦 労 しました. 窓 口 の 営 業 局 ととも に 準 備 した 資 料 は, 積 み 上 げると 1 m を 超 えたことを 記 憶 します.これらの 議 論 に, 大 学 間 コンピュータネット ワークを 推 進 しておられた, 故 猪 瀬 博 教 授 の 絶 大 なる 後 押 しがありました. NTT のパケット 交 換 網 は 最 盛 期 85 万 回 線 の 利 用 者 を 抱 え, 法 人 向 けネットワークとして 発 展 し, 最 近 その 使 命 を 終 えました.また,パケット 開 発 に 関 わった, 多 く の 技 術 者 は 後 のインターネット 事 業 の 中 核 として 活 躍 し ています. 開 発 以 外 のことも 電 電 公 社 事 業 部 門 の 人 材 育 成 方 針 は, 転 々 公 社 と 呼 ばれ,2 ~ 3 年 で 転 勤 します. 専 門 技 術 をしっかり 持 つことの 他 に, 将 来 経 営 幹 部 になるためと 称 し, 人 事 異 動 が 定 期 的 に 行 われました. 私 の 場 合 は, 近 畿 電 気 通 信 局 の 調 査 課 長, 技 術 局 総 括 調 査 員, 四 国 電 気 通 信 局 の 保 全 部 長 を 体 験 させてもらいました. 前 者 は, 技 術 局 の 行 う 商 用 試 験 の 現 場 協 力 や, 地 方 独 自 の 技 術 開 発 を 行 う 他, 若 手 技 術 系 社 員 の 育 成, 技 術 系 新 入 社 員 の 採 用 業 務 を 担 当 します.その 際, 故 喜 田 村 善 一 教 授 をはじめ, 大 阪 大 学, 京 都 大 学 の 多 士 済 々の 先 生 方 にお 近 づきになること ができました. 技 術 局 の 総 括 担 当 においては, 電 電 公 社 の 技 術 戦 略 の 中 枢 に 触 れ, 前 田 光 治 技 術 局 長, 桑 原 守 二 総 括 調 査 役 の 薫 陶 を 得 ました.また, 保 全 部 長 は 電 気 通 信 設 備 全 体 の 保 守 の 担 当 でした. 現 場 の 大 勢 の 人 たちに 6 通 信 ソサイエティマガジン No.16[ 春 号 ]2011

My Frontier Life 支 えられて 通 信 設 備 が 維 持 されていること, 技 術 開 発 の 責 任 は 大 きいことを 改 めて 認 識 した 次 第 です. 新 電 話 サービス 1982 年, 武 蔵 野 電 気 通 信 研 究 所 交 換 応 用 研 究 室 長 と なりました. 主 に 移 動 通 信 網 ( 携 帯 電 話 のネットワーク) の 開 発 や,ファクシミリネットワークの 開 発 を 担 当 する 研 究 室 で, 研 究 部 長 の 加 藤 満 左 夫 氏, 統 括 調 査 役 の 塚 田 啓 一 氏 の 方 針 で, 自 由 な 雰 囲 気 が 残 っておりました. 当 時 は 研 究 室 長 の 予 算 の 自 由 裁 量 の 範 囲 が 大 きく, 全 体 予 算 の 範 囲 であれば 新 しい 研 究 を 立 ち 上 げることができ ました.また, 私 の 専 門 のデータ 部 門 から 見 ると, 同 じ ソフトウェアを 扱 っていながら, 交 流 はほとんどなく, ネットワークの 制 御 にコンピュータを 利 用 することはま だ 行 われていませんでした. この 頃, 日 本 の 電 話 保 有 台 数 は 米 国 に 次 いで 2 位,し かし 電 話 機 当 りの 通 話 回 数 は 米 国 の 半 分 以 下 でありまし た.また 市 外 トラヒックを 見 ると, 米 国 では 800 番 サー ビス(フリーホン)を 始 めとする 新 電 話 サービスの 伸 び がすさまじい. 日 本 はそれまで, 電 話 設 備 が 不 足 し, 電 話 架 設 を 申 し 込 みがあったらすぐに 付 けること, 全 国 を ダイヤルでつながるようにすることを 目 標 にしてきまし たので, 新 しい 電 話 サービスまで 手 が 回 っていませんで した.そこで,サービス 機 能 の 面 で 米 国 に 追 いつくもの を 開 発 しようと 取 り 組 みました. その 際, 柔 軟 で 多 量 のデータを 処 理 できるコンピュー タを 利 用 することを 前 提 に 考 えました.またサービスを 個 別 に 開 発 するのではなく, 新 サービスのための 網 機 能 をどのように 配 備 するかネットワークアーキテクチャを 定 め, 統 一 的 な 考 え 方 で 機 能 を 追 加 できるようにしまし た[3],[4]. 新 サービスのための 網 機 能 は, 呼 制 御 機 能 の 他,ディジタル 信 号 処 理 機 能, 制 御 用 のデータです が,それらを 特 性 に 応 じ 2 層 に 分 離 配 備 し, 層 間 を 共 通 (7) 線 信 号 網 で 結 ぶというものです. 制 御 用 データは 交 換 機 個 々に 分 散 させるのではなく,サービス 制 御 局 に 集 中 させ, 一 方 音 声 を 変 換 蓄 積 したり,マルチ 接 続 のた めのディジタル 信 号 処 理 機 能 は,トラヒックの 流 れに 応 じ 分 散 させるという 考 えでした.これは 後 に,インテリ ジェントネットワーク(IN) (8) と 呼 ばれました[5]. 交 換 応 用 研 究 室 では, 相 沢 洌 君, 重 松 直 樹 君 とともに 手 始 めにフリーホンサービス( 商 品 名 フリーダイヤル) を 開 発 し,その 後,この 体 系 で 提 供 された 新 電 話 サービ スはマスコーリングサービス(テレドーム)[6], 呼 数 カ ウントサービス( テレゴング), 全 国 ユニバーサル 番 号 サービス(eコール), 仮 想 専 用 網, 音 声 蓄 積 サービス ( 伝 言 ダイヤル)などです.これらのサービスは 現 在 も, NTT コミュニケーションズ,NTT 東 日 本,NTT 西 日 本 に 引 き 継 がれ, 高 収 益 を 上 げています. 付 け 加 えれば,この 研 究 室 の 主 流 であった, 移 動 通 信 網 のチーム( 小 山 稔 君, 中 島 昭 久 君 など)は,ドコモ 社 発 足 と 同 時 に 転 籍 し,ドコモにおけるネットワーク 開 発 の 中 核 となります. 私 は,コンピュータシミュレーション を 駆 使 し[7], 階 層 構 成 ネットワークの 設 計 方 法 を 研 究 し,1985 年 早 稲 田 大 学 より 学 位 を 授 与 されました. ネットワークアーキテクチャの 確 立 1985 年, 研 究 所 から 再 び 技 術 部 ( 以 前 の 技 術 局,その 後,ネットワークシステム 開 発 センタ)へ 転 勤 となりま した.それはちょうど, 電 電 公 社 が 民 営 化 し,NTT となっ たその 日 でありました. 担 当 は 通 信 網 部 門 長 で,NTT の ネットワークの 基 本 構 想 を 練 る, 重 要 な 担 当 でした. それより 前,1978 年 に 国 際 コンピュ ータ 通 信 会 議 において, 電 電 公 社 副 総 裁 の 故 北 原 安 定 氏 は 現 代 社 会 におけるコンピュ ータと 電 気 通 信 と 題 し, 記 念 講 演 を 行 い, 高 度 情 報 通 信 システム (INS:Information Network System)の 構 想 を 提 唱 されていました.この INS を 実 現 するネットワークの 具 体 化 の 推 進 が, 私 の 役 割 となりました. 具 体 的 には,ネットワークのディジタル 化, 共 通 線 ネットワークアーキテクチャの 基 本 モデル[9] 大 規 模 なネットワークを 構 築 する 場 合, 統 一 的 な 構 造 を 定 めるの がよい. 何 を 集 中 して, 何 を 分 散 配 備 するか, 考 え 方 を 整 理 し, それをネットワークアーキテクチャと 名 付 けた. 私 の 技 術 者 歴 7

信 号 網 の 全 面 的 導 入,それによる ISDN の 提 供 [8],IN (Intelligent Network)による 高 度 電 話 サービスの 提 供 などです.このため, 研 究 所 から 専 門 家 を 集 め, 当 初 20 名 程 度 の 部 門 は 100 名 を 超 える 大 部 隊 となり, 組 織 も 通 信 網 技 術 部 となりました. 検 討 分 野 は,ネットワーク 構 成 法 のみならず,アクセス 系,ネットワーク 品 質,ネッ トワークの 信 頼 性,トラヒック 理 論, 信 号 方 式,インタ フェ ース 条 件,OSI プロトコル, 番 号 方 式, 料 金 方 式, 階 層 ソフトウェアなど 多 岐 にわたり,ネットワークに 関 わる 全 ての 知 見 を 集 めました.そのとき INS 通 信 網 基 本 計 画 として, 定 めたネットワークアーキテクチャ( 図 1) [9]は,NTT のネットワークの 構 築,オープン 化 のため の 標 準 となり, 海 外 でも 広 く 認 められ, 第 三 世 代 の 携 帯 電 話 網 に 影 響 を 与 えました. 新 ノードシステムの 開 発 1990 年 に 研 究 開 発 本 部 長 戸 田 巌 氏 から 声 が 掛 かり, 新 ノードシステム の 開 発 に 交 換 システム 研 究 所 長 とし て, 取 り 組 むこととなりました. 新 ノードシステムは, 従 来 のディジタル 交 換 機 D70 の 後 継 機 種 の 位 置 付 けで, 本 格 的 なマルチメディア 時 代 の 到 来 に 向 け, 既 存 の 電 話 サービスのほか,ISDN,B-ISDN (Broadband Integrated Services Digital Network) (9), IN 系 サービスを 同 一 設 計 思 想 で 実 現 するものです[10]. ハードウェア,ソフトウェア 共 に, 新 規 設 計 新 規 開 発 の 大 型 プロジェクトで,ねらいは 1 要 求 条 件 に 応 じ 柔 軟 なシステム 構 成 がとれる 2 ネットワークのオープン 化, 最 新 技 術 に 対 する オープン 化 に 柔 軟 に 対 応 する 3 ソフトウェアの 生 産 性 の 向 上 を 図 る 4 オペレーションの 高 度 化 を 図 る という 高 い 目 標 を 掲 げていました.そして,ネットワー クアーキテクチャ と 同 様,トップダウン 形 のアーキテ クチャを 定 め,ハードウェアのモジュール 化 を 図 り,ソ フトウェアについても CTRON(Communication and Central TRON) (10) をベースとした 階 層 化 ソフトウェア 構 造 を 採 用 しました. このシステムの 開 発 には, 研 究 所 員 のみならず, 日 本 電 気, 日 立, 富 士 通, 沖 電 気,ノーザンテレコムの 開 発 メーカの 皆 さんを 含 めると, 千 人 を 超 える 人 たちが 参 加 しました.そのための 開 発 情 報 の 共 有 化 ツールも 併 せて 整 備 し, 全 員 の 仕 事 の 進 捗 状 況 を 共 有 化 し, 開 発 の 効 率 化 を 図 りました. 全 所 員 を 集 めて 講 演 を 行 う 繰 り 返 し 施 政 方 針 講 演 を 行 うと,しだいに 組 織 として 一 体 感 が 出 てくる. 大 型 プロジェクトのトップとしての 重 要 な 仕 事 は,プ ロジェクトの 構 成 員 からいかにして 能 力 を 引 き 出 すかで す.どのような 組 織 でも, 構 成 員 は 次 のような 3 層 構 造 になっているといわれています. 第 1 層 は, 刺 激 を 与 え るだけで, 自 発 的 に 能 力 を 発 揮 する 人. 第 2 層 は, 安 定 を 保 証 すれば 成 果 を 出 す 人, 第 3 層 は 刺 激 を 与 えても, 安 定 を 保 証 しても 成 果 を 出 せない 人.そして,その 割 合 は2:6:2などといわれています. 任 された 組 織 は, 幸 い 上 の 層 に 分 布 が 偏 る 優 れた 組 織 でしたが, 組 織 運 営 を 成 功 させるには, 最 大 多 数 の 層 の 成 果 にかかっていま す.そのため,たびたび 全 員 を 講 堂 に 集 め 所 内 講 演 を 行 い, 情 報 を 共 有 し, 力 を 鼓 舞 しました( 図 2). NTT の 中 には,この 大 きな 開 発 の 是 非 について 議 論 も ありました. 開 発 の 意 義 を 確 信 し, 反 対 を 振 り 切 って 社 内 意 識 統 一 を 図 りながらの 開 発 でした. 新 ノードシステ ムの 開 発 は 後 任 の 鈴 木 滋 彦 氏 (その 後 NTT アドバンステ クノロジ 社 長 )に 引 き 継 がれて 完 成 し,1996 年 から NTT の 設 備 ビル( 電 話 局 )に 大 量 に 導 入 され, 大 幅 なネット ワークコストの 削 減 が 図 られました.その 後 の 変 化 にも 対 応 し, 現 在 も 現 役 でサービスを 提 供 しています. マルチメディア 時 代 への 対 応 1994 年 NTT は マルティメディア 基 本 構 想 という, 経 営 戦 略 を 発 表 しました[11]. 当 時 の 副 社 長 の 宮 津 純 一 郎 氏 が 構 想 されたもので, 従 来 の 電 話 サービスの 維 持, 8 通 信 ソサイエティマガジン No.16[ 春 号 ]2011

My Frontier Life 高 度 化 に 加 え, 高 速 コンピュータ 通 信, 映 像 通 信 など 魅 力 ある 新 しいサービスの 積 極 的 な 展 開 を 図 ろうとする ものでした.NTT の 経 営 もインフラストラクチャ 整 備 か ら 新 たなサービスを 開 拓 する 需 要 開 拓 形 経 営 への 転 換 の 意 思 表 示 でありました. 私 は,1994 年 にこのための 司 令 塔 であるネットワーク 部 長 と, 合 わせて 技 術 局 の 流 れ をくむ, 開 発 部 隊 の 責 任 者,ユーザシステム 部 長 を 兼 務 することとなりました. マルチメディアはインターネットがその 中 心 的 役 割 を 果 たすと 予 見 されましたが, 当 時 はまだ 愛 好 家 のための もので,モデムと 電 話 回 線 のダイヤルアップが 主 体 で, 料 金 が 高 く 低 速 でした.それを 料 金 を 気 にせず 使 える 常 時 接 続 にすること, 映 像 も 伝 送 可 能 な 高 速 化 が 主 要 課 題 でした. 地 域 IP 網 と ISDN を 組 み 合 わせた, 常 時 接 続 形 のアクセス 系 を 提 案 し 開 発 を 開 始 しました. 現 在 の, NTT 東 西 会 社 によるフレッツサービスの 原 形 となったも のです.また, 光 回 線 の FTTH(Fiber To The Home)サー ビスとしては 映 像 伝 送 サービスが 本 命 と 考 えられ, 研 究 所 とともに 様 々な 方 式 の 試 作 を 行 いました. 浦 安, 横 須 賀, 立 川 で,CATV 会 社 の 協 力 の 下,900 世 帯 のモニタ を 対 象 に マルチメディア 共 同 利 用 実 験 として, 大 掛 かりな 実 験 を 行 いました.その 後 も FTTH の 研 究 開 発 は 進 み, 現 在 それは,IP 多 重 による 方 式, 光 波 長 多 重 によ る 方 式 に 集 約 され, 前 者 は NTT ぷらら 社 により ひかり TV, 後 者 は NTT 東 西 会 社 により フレッツ テレビ として 提 供 されています. 高 速 インターネットには 光 が 本 命 とは 承 知 してい ても, 本 格 導 入 まで 時 間 があり,かとい っ て ISDN で は 不 十 分 で し た.1990 年 代 に 米 国 で は VOD(Video on Demand) のサービスとして, 既 設 のメタルケー ブルで 高 速 伝 送 のできる ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line) (11) に 注 目 が 集 まっていました.イン ターネットへの 適 用 のため,1997 年 頃 NTT のアクセ ス 網 研 究 所 において, 細 い 銅 線 ( 我 が 国 では 米 国 と 違 い 0.32 mm 銅 線 が 一 部 に 使 われている)のための 損 失, ISDN の 時 分 割 伝 送 方 式 (いわゆるピンポン 伝 送 )の 漏 話 雑 音 による 伝 送 速 度 劣 化,あるいはケーブルの 分 岐 の 影 響 などを 調 査 するため,フィールド 試 験 が 行 われました. その 結 果 お 客 様 の 収 容 条 件 によ っ て 伝 送 速 度 が 異 なる, ベストエフォート 形 のサービスという 条 件 で 提 供 するこ ととなります. ここで 一 つエピソード.1994 年 に 技 術 調 査 部 の 飯 塚 久 夫 君 ( 現 在 ビッグローブ 社 長 )とともに,ワシントン DC 郊 外 のベルアトランティ ックの 電 話 局 に ADSL による VOD の 見 学 に 行 ったことがあります.その 際, 孫 正 義 氏 (ソフトバンク 社 長 )を 御 案 内 しました. 私 も 感 動 しまし たが,そのときの 孫 さんの 興 奮 の 様 子 が 忘 れられません. ソフトバンク 社 の ADSL 事 業 による 大 発 展 の 原 点 はここ にあると 思 います. ネットワークのオープン 化 後 先 になりましたが,1985 年 に 明 治 以 来 独 占 が 続 い ていた 電 気 通 信 市 場 に 競 争 原 理 が 導 入 されることとな りました. 電 電 公 社 は 民 営 化 され 日 本 電 信 電 話 株 式 会 社 (NTT)となる 一 方, 新 規 に 電 気 通 信 事 業 者 (NCC:New Common Carrier)が 参 入 できるようにし, 複 数 の 事 業 者 により 通 信 サービスが 提 供 されることとなりました. 電 電 公 社 は, 競 争 による 刺 激 がないため, 合 理 化 の 努 力 の 不 足, 労 働 意 欲 の 低 下 など 独 占 の 弊 害 が 指 摘 され,そのた め 新 規 参 入 を 認 め 競 争 による 市 場 メカニズムを 通 じ 電 電 公 社 の 効 率 化 を 図 ることとしたものです. 私 は 通 信 網 技 術 部 長,あるいはネットワーク 部 長 として,NCC を 迎 え 撃 つための 新 規 サービスの 開 発 とともに, ネットワーク の 相 互 接 続 の 問 題 に 少 なからず 関 わることとなります. エンドユーザ 間 を 接 続 して 初 めて 成 立 する 通 信 サービ スの 場 合, 利 用 者 から 見 ると, 通 信 する 相 手 の 数 が 多 い 方 が 利 便 性 は 高 く, 大 きなネットワークを 持 っている 事 業 者 が 有 利 で,NCC は 圧 倒 的 に 不 利 になります. 通 信 事 業 は 自 然 に 寡 占 化 されることから 自 然 独 占 と 呼 ばれ たりします.したがって 新 たな 通 信 事 業 者 が 参 入 する 場 合, 孤 立 した 独 立 のネットワークはあり 得 ず, 既 存 事 業 者 との 相 互 接 続 が 必 須 になります. 通 信 事 業 者 間 の 接 続 条 件 や 接 続 点 を 明 らかにし, 接 続 に 必 要 な 機 能 情 報 を 提 供 することを,NTT は ネットワークのオープン 化 と 呼 びました. 競 争 の 導 入 は,いわゆる 長 距 離 系 NCC の 参 入 により 採 算 の 良 い 県 間 の 長 距 離 通 信 の 分 野 から 始 まりました. そのため 相 互 接 続 点 を POI(Point of Interface)と 定 め, 原 則, 県 に 一 つの 関 門 中 継 交 換 機 を 新 たに 設 置 しました. 技 術 的 に 見 ても,まだ 電 話 網 はアナログからディジタル への 移 行 期 であ っ たため,NCC への 通 話 品 質 を 一 定 に すること, 相 互 接 続 のための 機 能 ( 事 業 者 識 別 のための 番 号 翻 訳, 発 ID 送 出, 回 線 接 続, 課 金, 故 障 時 の 切 分 私 の 技 術 者 歴 9

NTT ネットワークのオープン 化 [13] NTT のネットワークに, 相 互 接 続 点 (POI)を 用 意 し, 様 々な 参 入 事 業 者 (NCC)が 事 業 展 開 できるようにした. け 機 能 など)を 集 約 する 必 要 性 からそのようになったも のです. その 後,NTT は 1995 年 に 更 なる 競 争 環 境 整 備 (ボト ルネック 解 消 )のため 全 ての 接 続 要 望 に 応 える. 他 事 業 者 と NTT との 相 互 接 続 の 条 件 に 関 してイコールフッ ティングを 確 保 する という,オープン 化 宣 言 ともいう べき 画 期 的 な 発 表 を, 当 時 の 社 長 児 島 仁 氏 から 行 いま した[12].それに 基 づき,ネットワークのオープン 化 を 次 々と 行 っていきました( 図 3)[13].まず 地 域 系 市 場 での 競 争 に 対 応 するため, 相 互 接 続 点 を 市 内 交 換 機 に 広 げること,NTT の 加 入 回 線 を 活 用 した 事 業 も 可 能 とす る,アクセス 系 のオープン 化 が 図 られました.これらに より, 市 内 網 を NCC に 開 放 することとなり, 今 まで 各 県 に 1 ~ 2 か 所 しかなかった POI は, 全 ての 電 話 局 に 拡 大 し, 地 域 系 通 信 業 者,CATV 系 通 信 事 業 者 を 含 めた 新 たな 参 入 者 が 続 きました. 更 に, 競 争 は 単 純 な 料 金 の 競 争 からサービスの 競 争 も 可 能 とするよう 要 望 がありました.そのためネットワー クとネットワークの 間 で, 制 御 用 の 信 号 を 送 受 するた め,NTT の 共 通 線 信 号 網 を NCC の 信 号 網 と 直 接 接 続 す ることとなりました. 加 えて,NTT の 市 内 交 換 機 と NCC のサービス 制 御 局 と 連 動 させるため, 市 内 交 換 機 ソフト ウェアを 改 造 し, 付 加 機 能 をメニュー 化 しオープン 化 し ました[14].これにより,フリーホンサービスや 仮 想 専 用 網 のような 高 度 サービスを, 複 数 事 業 者 にまたがって 提 供 することができるようになりました.ネットワーク 機 能 をソフトレベルまでオープン 化 した 例 は 世 界 にあり ません. 以 上 の 他, 利 用 者 が 事 業 者 を 変 えても 電 話 番 号 を 持 ち 回 れるナンバポータビリティ[15]の 実 現, 電 柱 管 路 の 開 放, 網 同 期 クロックの 開 放 など, 積 極 的 なオー プン 化 が 図 られました. これらのネットワークのオープン 化 を 可 能 としたの は,NTT が 従 前 からネットワークのディジタル 化, 共 通 線 信 号 化, 光 化 を 推 進 していたためです.またネット ワークの 構 造 自 体 をオープンにしなければならず,それ には 前 述 のネットワークアーキテクチャが 役 に 立 ちまし た. 技 術 的 検 討 は, 加 納 貞 彦 氏 (その 後 早 稲 田 大 学 教 授 ) を 中 心 に 行 われ, 事 業 者 間 の 標 準 化 は, 当 時 私 が 議 長 を していた 電 信 電 話 技 術 委 員 会 (TTC)において 行 われま した. 時 間 が 後 になりますが, 高 速 インターネットのため に,NTT のメタルケーブルを 活 用 し,NCC による ADSL の 提 供 が 強 く 要 請 され, 技 術 的 制 度 的 議 論 の 末,NTT の 加 入 電 話 回 線 を MDF(Main Distributing Frame)で 直 接 NCC に 接 続 することとなりました.これは 究 極 のオー プン 化 でドライカッパと 呼 ばれています.その 接 続 の ために 必 要 となる,NCC 所 有 の 設 備 (スプリッタ, 集 合 モデムなど)を NTT の 電 話 局 に 設 置 すること(コロケー ション)を 可 能 とし,NCC による ADSL サービスを 提 供 しやすくする 環 境 が 整 えられています( 図 4)[16]. 以 降, 我 が 国 においては,ボトルネックは 完 全 に 解 消 され, 膨 大 な 設 備 を 用 意 しなくとも 事 業 が 可 能 となりました. 当 初 NTT では オープン 化 は 敵 に 塩 を 送 るもの とし て, 社 内 に 強 い 抵 抗 がありました.しかし, 私 はネット 10 通 信 ソサイエティマガジン No.16[ 春 号 ]2011

My Frontier Life コロケーション(ADSL の 例 )[16] NTT の 通 信 用 建 物 ( 電 話 局 )に,NCC の 設 備 を 設 置 することをコロケーションという. 空 調, 電 力,クロックなども 提 供 する.ADSL の 場 合, メタルケーブルは NTT の MDF から NCC のスプリッタ( 通 話 の 音 声 周 波 数 帯 とデータの 高 周 波 数 帯 を 分 離 する 装 置 )に 接 続 され, 通 話 の 情 報 は 再 び NTT 側 に 戻 ってくるため,POI は 利 用 者 ごとに 2 点 となる. ワークのオープン 化 は 通 信 市 場 の 活 性 化 をもたらし, 情 報 通 信 産 業 全 体 を 発 展 させるとともに,NTT 自 身 の 体 質 も 改 善 され 発 展 できると 信 じておりました. 結 果 として, NTT のネットワークは 世 界 で 最 も 開 かれたネットワーク となり, 競 争 の 進 展 で 急 速 な 料 金 の 低 下 をもたらし,そ の 後 の 携 帯 通 信 インターネットを 含 む 情 報 通 信 の 大 発 展 に 寄 与 することとなったと 確 信 しています. 最 後 の 大 仕 事 は,NTT の 再 編 成 民 営 化 5 年 目 に 当 たる 1990 年,NTT の 巨 大 性, 独 占 性 の 弊 害 を 除 去 する 措 置 として,NTT の 構 造 的 措 置 ( 再 編 成 )の 議 論 が 始 まりました.NTT は 上 に 述 べた,ネッ トワークの 完 全 なオープン 化 によりボトルネック 独 占 は 解 消 されたと 主 張 しましたが, 様 々 な 長 い 議 論 の 後, NTT は 1996 年, 持 株 会 社 の 下 に, 長 距 離 会 社 ( 国 際 通 信 事 業 を 含 む)と,2 社 の 地 域 会 社 に 再 編 成 するという 方 針 を 受 諾 しました. このことはネットワークの 分 割 を 意 味 します.ネット ワークの 責 任 者 として, 今 まで 手 塩 にかけてきたネット ワークを 分 断 することとなり,やむにやまれぬ 気 持 ちで した.ただし 救 いは, 研 究 部 門 が 日 本 の 国 際 競 争 力 の 源 泉 であるということが 認 められ, 基 盤 的 研 究 は 持 株 会 社 に 継 承 されることとなったことでした. NTT における 私 の 最 後 の 仕 事 が, 地 域 会 社 と NTT 長 距 離 会 社 との 間 の 接 続 形 態 は, 地 域 会 社 と NCC との 間 のものと 同 等 にする [17]ために, 再 編 成 後 のネット ワークを 長 距 離, 東 日 本, 西 日 本 に, 物 理 的 に3 分 割 す ることだったというのは, 皮 肉 なことでした. む す び 1998 年,NTT 常 務 取 締 役 を 最 後 に NTT を 退 職 し, 関 連 会 社 に 転 出 しました.そこでも,NTT のネットワーク の 保 守,ADSL や 光 アクセスの 開 通 工 事,インターネット プロバイダの 立 上 げなど,ネットワークの 仕 事 は 続 きま した. NTT のネットワークとともに 40 年 でありまし た. 様 々な 環 境 激 変 の 中, 巨 大 インフラストラクチャで ある NTT のネットワークを, 常 に 最 新 最 良 の 状 態 に 改 良 し 続 け, 世 界 で 最 も 進 んだブロードバンドネットワー クに 到 達 できたことは, 技 術 者 冥 利 に 尽 きます. 大 形 電 子 計 算 機, 電 子 交 換 機, 光 システムなどの 開 発 が, 知 的 財 産 の 確 保, 人 材 の 育 成, 周 辺 技 術 への 波 及 などを 含 め ると, 産 業 界 に 果 たした 役 割 は 大 変 大 きなものでした. とはいえ, 手 掛 けたシステムの 中 に, 残 念 ながら 思 い の 外, 短 命 に 終 わりつつあるシステムもあります.それ は,ISDN,PHS(Personal Handyphone System) (12), ATM(Asynchronous Transfer Mode) (13) などです.こ れらは, 世 界 で 先 頭 切 って 開 発 したものですが,その 後 に 開 発 された 技 術, 特 にインターネットによる IP 技 術 私 の 技 術 者 歴 11

の 経 済 優 位 性 により, 主 流 の 座 を 譲 ったものです.だか らといって 研 究 開 発 は 後 追 いの 2 位 で 良 いはずはあ りません. 1 位 を 目 指 し, 必 要 なリスクは 取 らないと いけません. 更 に 最 近,インターネットのぜい 弱 性 が 指 摘 されており, 品 質 を 保 証 したネットワークの 必 要 性 が 叫 ばれ, 次 世 代 ネットワーク(NGN:Next Generation Network) (14) が 主 流 になる 日 も 近 いと 考 えております. 日 本 は 今, 閉 塞 状 況 といわれています.もの 作 りにお いて 隣 の 国 々にお 株 を 取 られてしまいました. 誤 解 を 恐 れず 言 えば, 日 本 を 救 うために NTT の 技 術 力 組 織 力 を 使 わない 手 はありません. 通 信 に 競 争 を 導 入 したとき, 新 規 参 入 業 者 に 比 べ,NTT の 力 が 大 きすぎるので,NTT を 弱 くして 競 争 環 境 を 整 えるという, 非 対 称 規 制 は 適 切 なものであったかもしれません.しかし 昨 今 の 状 況 を 見 ると, 競 争 事 業 者 も 十 分 に 力 を 付 けて 活 躍 しており, そろそろ NTT に 対 する 規 制 を 緩 め, 対 等 に 競 争 できるよ うにする 時 代 になっているのではないでしょうか. 加 え てグローバル 競 争 の 時 代, 国 内 予 選 で 苦 労 した NTT をも う 一 度 復 活 させ, 本 戦 に 参 加 させるのがよろしいのでは, と 考 えます. 最 後 に, 通 信 ソサイエティの 若 手 会 員 の 皆 さん, 技 術 革 新 で 我 が 国 の 産 業 力 向 上 に 寄 与 するという 原 点 に 立 ち 返 って, 世 界 市 場 に 向 け 頑 張 る 必 要 がありま す. 遠 慮 は 無 用, 志 を 高 く 持 って 奮 起 して 頂 きたい. 実 名 を 挙 げた 方 々 以 外 にもたくさんの 人 たちにお 世 話 になりました. 苦 楽 を 共 にした 仲 間 たち,これは 私 のも う 一 つの 大 切 なネットワークです. 改 めて 感 謝 申 し 上 げ ます. 家 族 の 温 かい 支 援 のあったことも 付 記 致 したい. 記 憶 を 頼 りにしたため 正 確 性 を 欠 いていること, 耳 障 り な 自 慢 話 となったことをお 許 し 下 さい. 意 見 はあくまで も 個 人 的 なものです. [ 用 語 解 説 ] MULTICS(Multiplexed Information and Computing Service): 様 々な 斬 新 で 貴 重 なアイデアを 盛 り 込 み,MIT とゼネラル エレクトリック (GE) 社 が 開 発 した TSS システム. 必 ずしも 十 分 な 性 能 が 出 ず, 商 用 には 至 らなかったが,その 後 MULTICS に 関 わっていた 人 々が AT & T に 移 籍 し, その 反 省 を 踏 まえ UNIX システムを 開 発.UNIX は 多 くの 領 域 で MULTICS の 影 響 を 受 けたといわ れている. キャラクタマシン:キャラクタ 単 位 でデータ を 扱 うコンピュータ.キャラクタマシンのメモ リ 構 成 はデータ 部 6 bit に 加 え 2 bit の 制 御 ビッ トがあり, 都 合 8 bit 単 位 である. 制 御 ビットで 可 変 長 データを 扱 うことができた. モノリシック 集 積 回 路 : 単 一 のシリコン 上 に 全 ての 回 路 を 搭 載 した 集 積 回 路. 現 在 の 集 積 回 路 の こと.ハイブリッド 集 積 回 路 に 対 比 した 言 葉. GPSS(General Purpose Simulation System): 汎 用 シミュレーション 言 語. 離 散 系 のシミュレー ションを 行 う. ISDN(Integrated Services Digital Network): サービス 総 合 ディジタル 網. 交 換 機 中 継 回 線 加 入 者 線 まで 全 てディジタル 化 されたディ ジ タ ル 回 線 網.64 kbit/s の B チ ャ ネ ル 2 本 と 16 kbit/s の D チャネルからなる.D チャネルに は 網 制 御 信 号 の 他 パケットデータも 伝 送 できる. フロー 制 御 :ネットワークの 中 に 準 備 されたバッ ファの 量 以 上 にパケットが 流 入 すると, 過 負 荷 が 生 じパケット 損 が 発 生 する.それを 防 止 するため 帰 還 信 号 により, 流 入 パケットを 制 御 する 方 式. 当 時 電 電 公 社 は,エンドツーエンドで 送 達 確 認 を 行 うフロー 制 御 方 式 を 提 案 していた. 共 通 線 信 号 網 : 電 話 網 や ISDN において, 全 て の 交 換 機 を 有 機 的 に 動 作 させるために, 電 話 番 号 や 交 換 機 状 態 などの 信 号 を 交 換 機 間 でやり 取 りする 必 要 がある.そのための 信 号 を 伝 送 する ネットワークを 共 通 線 信 号 網 という. 信 号 はパ ケットの 形 で 伝 送 される. 交 換 機 がこの 網 の 端 末 の 位 置 付 けで, 高 い 品 質 が 要 求 され 完 全 二 重 化 している. 通 常 は 開 放 されることはない. IN(Intelligent Network):ネットワーク 内 にサー ビス 制 御 局 と 呼 ぶコンピュータを 設 置 し,その データベースや 処 理 機 能 を 使 って 高 度 (インテ リジェント)な 通 信 サービスを 提 供 可 能 にした ネットワーク. B-ISDN( Broadband Integrated Services Digital Network): 広 帯 域 サービス 総 合 ディジタル 通 信 網.ITU-T 標 準 の 一 つ で 150 ~ 622 Mbit/s の 伝 送 速 度 を 持 つ 高 速 な ISDN のこと. 動 画 (いわゆ るテレビ 電 話 なども 含 む)などの 広 帯 域 アプリ (13) ケーションの 利 用 を 目 的 の 一 つとし,ATM 技 術 12 通 信 ソサイエティマガジン No.16[ 春 号 ]2011

My Frontier Life を 前 提 としていた. CTRON(Communication and Central TRON): 坂 村 健 教 授 ( 東 京 大 学 )によって 提 唱 された TRON プロジェクトによって 仕 様 が 作 成 された, 通 信 機 器 制 御 に 特 化 したリアルタイムオペレー ティングシステム. ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line): 一 般 のアナログ 電 話 加 入 回 線 を 使 用 する, 上 り と 下 りの 速 度 が 非 対 称 (Asymmetric)な 高 速 ディ ジタル 伝 送 技 術. 通 常 のアナログ 電 話 が 4 khz 程 度 の 帯 域 のため,それより 上 の 帯 域 を 用 い, 高 速 伝 送 を 行 う.ADSL のほか,VDSL(Very highbit-rate DSL), 長 距 離 向 きの Reach DSL,HDSL (High-bit-rate DSL),SDSL(Symmetric DSL)な どがある. PHS(Personal Handyphone System): 通 信 のパーソナル 化 を 目 指 して,ISDN と IN をベース に 開 発 された 移 動 通 信 システム. 時 分 割 多 重 方 式 のエアインタフェースで ISDN の 加 入 者 線 を 延 長 し,IN により 追 跡 接 続 する 方 式. ATM(Asynchronous Transfer Mode): 多 重 化 方 式 の 一 つで,データを 53 Byte の 固 定 長 デー タに 分 割 して ATM セル という 単 位 で 送 受 信 する 方 式.セルフルーチングスイッチによるハー ドウェアによる 交 換 機 を 前 提 とし, 高 速 の 品 質 保 証 サービスを 目 指 した. NGN(Next Generation Network): 従 来 の 電 話 網 がもつ 信 頼 性 安 定 性 を 確 保 しながら,IP ネットワークの 柔 軟 性 経 済 性 を 備 えた, 次 世 代 の 情 報 通 信 ネットワーク.2008 年 3 月 から 商 用 サービス 開 始. [1] 郵 政 省, 昭 和 48 年 度 通 信 白 書 電 電 公 社 の 情 報 通 信 事 業,Dec. 1974. [2] 高 月 敏 晴, 石 川 宏, ディジタルデータ 交 換 網, 信 学 誌, vol. 61, no. 12, pp. 1341-1346, Dec. 1978. [3] 石 川 宏, 相 沢 洌, 重 松 直 樹, 高 度 電 話 網 方 式 の 構 想, 信 学 技 報,SE84-40, May 1984. [4] 重 松 直 樹, 相 沢 洌, 石 川 宏, 遠 隔 接 続 制 御 方 式, 特 許 公 報, 特 許 1659797, Feb. 27, 1984. [5] H. Ishikawa, New concept in telecommunications network architecture, NTT Review, vol. 1, no. 1, pp. 79-86, 1989.5. [6] 大 貫 雅 史, 石 川 宏, 相 沢 洌, 木 村 勝 重, マルチ 接 続 による 情 報 案 内 交 換 方 式, 特 許 公 報, 特 許 1965318, Nov. 22, 1984. [7] 石 川 宏,パソコン シミュレーション 入 門, 企 画 センター, 1983. [8] 石 川 宏, サービス 総 合 デジタル 網, 信 学 誌,vol. 70, no. 11, pp.1171-1178, Nov. 1987. [9] 石 川 宏, ネットワークアーキテクチャとネットワークのオー プン 化, 信 学 論 (B-I),vol. J74-B-I, no. 11, pp. 855-862, Nov. 1991. [10] 鈴 木 滋 彦, 石 川 宏, 新 ノードシステムの 実 用 化, 信 学 誌, vol. 81, no. 8, pp. 789-815, Aug. 1998. [11] 宮 津 純 一 郎,NTT 改 革,NTT 出 版,2003. [12] NTT 広 報 部, ネットワークのオープン 化 について, NTT 報 道 発 表 資 料,1995. [13] 石 川 宏, 福 沢 進, ネットワークのオープン 化 今 後 の 通 信 産 業 の 飛 躍 のために, NTT 技 術 ジャーナル,pp. 12-15, Oct. 1995. [14] 大 宮 知 己, 祖 父 江 和 夫, 大 西 邦 宏, 信 号 網 接 続 の 取 り 組 み, NTT 技 術 ジャーナル,pp. 30-36, Oct. 1996. [15] 菱 沼 千 明, 石 川 宏, 着 信 選 択 方 式, 特 許 公 報, 特 許 2577592,Jan. 19, 1988. [16] NTT 東 日 本, 相 互 接 続 ガイドブック,http://www.ntt-east. co.jp/info-st/conguide/index-e.html [17] 郵 政 省, 日 本 電 信 電 話 株 式 会 社 の 再 編 成 に 関 する 基 本 方 針 の 公 表, 報 道 発 表 資 料,Dec. 4, 1997. 石 川 宏 ( 名 誉 員 :フェロー) 1965 早 大 理 工 電 気 通 信 卒.1967 同 大 学 大 学 院 修 士 課 程 了. 同 年, 日 本 電 信 電 話 公 社 入 社.1980 四 国 通 信 局 保 全 部 長, 1982 交 換 応 用 研 究 室 長,1985 日 本 電 信 電 話 株 式 会 社 通 信 網 技 術 部 長,1990 交 換 システム 研 究 所 長,1994 ネットワーク 部 長 兼 ユーザシステム 部 長,1996 取 締 役,1997 常 務 取 締 役 再 編 成 室,2002 NTT エムイー 代 表 取 締 役 社 長,2004 NTT ア ドバンステクノロジ 代 表 取 締 役 社 長. 現 在, 同 社 特 別 顧 問, 東 京 特 殊 電 線 非 常 勤 役 員. 工 博. 元 電 信 電 話 技 術 委 員 会 標 準 化 会 議 議 長,PHS MoU Group 初 代 議 長. 日 本 産 業 技 術 内 閣 総 理 大 臣 賞, 前 島 賞 ( 発 明 ), 日 本 ITU 協 会 賞, 本 会 功 績 賞 など 受 賞. 経 済 同 友 会 幹 事.IEEE, 日 本 工 学 アカデミー,もっ たいない 学 会, 情 報 処 理 学 会,オペレーションズリサーチ 学 会 各 会 員. 早 稲 田 電 気 工 学 会 会 長, 六 本 木 男 声 合 唱 団 団 員. ishikawa@m.ieice.org 私 の 技 術 者 歴 13