職 種 限 定 契 約 における 配 転 命 令 の 可 否 東 京 海 上 日 動 火 災 保 険 事 件 東 京 地 判 平 19.3.26 判 時 1965 号 3 頁 佐 藤 敬 二 ( 立 命 館 大 学 ) Ⅰ 事 実 の 概 要 X( 原 告 )は 損 害 保 険 業 等 を 目 的 とするY 社 ( 被 告 )において 損 害 保 険 の 契 約 募 集 等 に 従 事 する 外 勤 の 正 規 従 業 員 である 契 約 係 社 員 (リスクアドバ イザー 以 下 RA)である RAは 専 属 専 業 の 強 い 販 売 力 を 有 するグル ープ 全 体 のリテール 戦 略 を 担 う 存 在 とY 社 により 位 置 づけられており 内 勤 社 員 とは 異 なって 賃 金 体 系 は 個 々の 業 績 が 強 く 反 映 する 構 造 となっていた さら に 転 勤 がないものとして 募 集 採 用 手 続 きが 行 われており 内 勤 社 員 への 転 換 制 度 もなく またXらの 志 望 動 機 も 転 勤 がないことや 地 域 との 結 びつきを 挙 げていることの 反 映 として 現 に 業 務 内 容 も 顧 客 との 個 人 的 信 頼 を 基 礎 にして いた Y 社 は 総 資 産 及 び 経 常 利 益 において 業 界 一 位 の 企 業 であり RAには 内 勤 従 業 員 とは 別 の 就 業 規 則 を 適 用 し そこでは 会 社 は 業 務 の 都 合 により 従 業 員 に 配 置 転 換 勤 務 の 異 動 または 出 向 を 命 ずることができる としていた Y 社 は 平 成 17 年 10 月 に RA 制 度 を 平 成 19 年 7 月 までに 廃 止 すること 廃 止 後 RAは 退 職 して 代 理 店 を 開 業 するか 職 種 変 更 して 継 続 雇 用 されるか 退 職 して 新 しい 仕 事 を 自 己 開 拓 するかを 選 択 すること 退 職 する 場 合 には 支 援 金 を 支 払 う という 方 針 を 提 案 通 知 した RA 制 度 廃 止 は 業 界 を 取 り 巻 く 環 境 が 厳 しくなるおそれが 指 摘 される 中 損 害 保 険 販 売 の 各 手 段 別 に 効 率 性 を 算 定 し RAの 効 率 性 が 悪 く 収 支 均 衡 を 図 ることが 困 難 であること 希 望 退 職 を 募 ることでは 抜 本 的 解 決 となりえないこと 理 由 としていた 継 続 雇 用 された 場 合 変 更 後 の 職 種 も 損 害 保 険 に 関 する 業 務 ではあるが 収 入 は 減 額 される 可 能 性 が 高 いものであった 多 数 派 組 合 とは 廃 止 を 前 提 とした 処 遇 につき 合 意 が 成 立 したが 廃 止 自 体 についての 協 議 を 求 めたXらの 所 属 する 少 数 派 組 合 との 間 では 合 意 は 成 立 しなかった そこでXが 自 らの 労 働 契 約 が 職 種 限 定 契 約 で あり RA 制 度 の 廃 止 は 労 働 契 約 に 違 反 し 労 働 条 件 を 不 利 益 に 変 更 する 無 効 な ものであると 主 張 して 平 成 19 年 7 月 以 降 もRAの 地 位 にあることの 確 認 を 求 めた 1
Ⅱ 判 旨 将 来 の 法 律 関 係 であっても 発 生 することが 確 実 視 できるような 場 合 にま で 確 認 の 訴 えを 否 定 するのは 相 当 でな く 現 時 点 における 被 告 の 言 動 や 態 度 から Xらの 権 利 者 としての 地 位 に 対 する 危 険 が 現 実 化 することが 確 実 であ ると 認 められる 場 合 には 即 時 確 定 の 利 益 を 肯 定 するのが 相 当 であるので 確 認 の 利 益 を 認 めることができる RAの 業 務 内 容 勤 務 形 態 及 び 給 与 体 系 には 他 の 内 勤 職 員 とは 異 なる 職 種 としての 特 殊 性 及 び 独 自 性 が 存 在 し そのためYは RAという 職 種 及 び 勤 務 地 を 限 定 して 労 働 者 を 募 集 し それに 応 じた 者 と 契 約 係 特 別 社 員 としての 労 働 契 約 を 締 結 し 正 社 員 への 登 用 にあたっても 職 種 及 び 勤 務 地 の 限 定 の 合 意 は 正 社 員 としての 労 働 契 約 に 黙 示 的 に 引 き 継 がれたものと 見 ることができる それゆえ YとXらRAとの 間 の 労 働 契 約 は Xらの 職 務 をRAとしての 職 務 に 限 定 する 合 意 を 伴 うものと 認 めるのが 相 当 である 労 働 者 と 使 用 者 との 間 の 労 働 契 約 関 係 が 継 続 的 に 展 開 される 過 程 をみてみ ると 社 会 情 勢 の 変 動 に 伴 う 経 営 事 情 により 当 該 職 種 を 廃 止 せざるを 得 なくな るなど 当 該 職 種 に 就 いている 労 働 者 をやむなく 他 職 種 に 配 転 する 必 要 性 が 生 じるような 事 態 が 起 こることも 否 定 し 難 い 現 実 である このような 場 合 に 労 働 者 の 個 別 の 同 意 がない 以 上 使 用 者 が 他 職 種 への 配 転 を 命 ずることができな いとすることは あまりにも 非 現 実 的 であり 労 働 契 約 を 締 結 した 当 事 者 の 合 理 的 意 思 に 合 致 するものとはいえない そのような 場 合 には 職 種 限 定 の 合 意 を 伴 う 労 働 契 約 関 係 にある 場 合 でも 採 用 経 緯 と 当 該 職 種 の 内 容 使 用 者 にお ける 職 種 変 更 の 必 要 性 の 有 無 及 びその 程 度 変 更 後 の 業 務 内 容 の 相 当 性 他 職 種 への 配 転 による 労 働 者 の 不 利 益 の 有 無 及 びその 程 度 それを 補 うだけの 代 償 措 置 又 は 労 働 条 件 の 改 善 の 有 無 等 を 考 慮 し 他 職 種 への 配 転 を 命 ずるについて 正 当 な 理 由 があるとの 特 段 の 事 情 が 認 められる 場 合 には 当 該 他 職 種 への 配 転 を 有 効 と 認 めるのが 相 当 である 本 件 は YがRA 制 度 を 廃 止 してXらを 他 職 種 に 配 転 することに 経 営 政 策 上 首 肯 しうる 高 度 の 合 理 的 な 理 由 があるこ と 及 び 他 職 種 の 業 務 内 容 は 不 適 当 ではないことが 認 められる しかし 他 方 で RA 制 度 の 廃 止 によりXらの 被 る 不 利 益 は 職 種 限 定 の 労 働 契 約 を 締 結 した 重 要 な 要 素 である 転 勤 のないことについて 保 障 がなく 大 幅 な 減 収 となるこ 2
とが 見 込 まれる そうだとすると YがXらに 提 示 した 新 たな 労 働 条 件 の 内 容 をもってしては RA 制 度 を 廃 止 してXらの 職 種 を 変 更 することにつき 正 当 性 があるとの 立 証 は 未 だされているとはいえない ので 請 求 を 認 容 する Ⅲ 検 討 本 判 決 は 争 点 として (1) 平 成 19 年 7 月 1 日 以 降 のXらのRAとしての 地 位 の 確 認 の 利 益 の 有 無 (2)XらとYとの 間 の 労 働 契 約 は XらがRAとして の 職 務 に 従 事 することを 内 容 とする 職 種 限 定 契 約 であると 認 められるか 否 か (3)RA 制 度 を 廃 止 し XらをRAから 他 職 種 へ 職 種 変 更 することについての 正 当 性 の 有 無 を 設 定 している 本 稿 では(2)と (3)の 争 点 に 限 定 して 検 討 したい (1) 1. 職 種 限 定 契 約 の 認 定 方 法 最 高 裁 は 日 産 自 動 車 村 山 工 場 事 件 判 決 において (2) 配 転 にあたって 労 働 者 との 個 別 合 意 が 必 要 な 場 合 を ( 当 該 職 種 ) 以 外 の 職 種 には 一 切 就 かせないと いう 趣 旨 の 職 種 限 定 の 合 意 のある 場 合 との 判 断 基 準 を 設 定 した 原 審 を 是 認 し ており これは 職 種 変 更 の 配 転 について 勤 務 地 変 更 の 配 転 に 関 する 東 亜 ペイント 事 件 最 高 裁 判 決 (3) の 枠 組 を 適 用 したものと 理 解 されている その 後 九 州 朝 日 放 送 事 件 判 決 においても (4) 同 様 の 枠 組 によって 判 断 した 原 審 判 決 を 是 認 している 他 方 で 直 源 会 相 模 原 南 病 院 事 件 判 決 においては (5) 業 務 内 容 をもとにして 職 を 系 統 化 して 配 転 は 系 統 内 職 種 に 限 定 されていると 解 した 原 審 を 認 める 結 論 となっている 日 産 自 動 車 村 山 工 場 事 件 最 高 裁 判 決 以 降 の 下 級 審 判 決 をみると 職 種 限 定 契 約 の 認 定 については 以 下 のような 判 断 となっている まず 職 種 限 定 を 認 めた 判 断 としては (1) 募 集 採 用 の 経 緯 から 特 定 があったとされるものと (6) (2) それに 加 えて 専 門 性 の 高 いことを 挙 げるもの (7) がある 裁 判 例 の 中 には 就 業 規 則 の 配 転 条 項 について 職 種 が 限 定 された 労 働 者 を 配 転 できる 根 拠 とはな らないと 明 示 しているものもある (8) 次 に 職 種 限 定 を 否 定 した 判 断 としては (1) 募 集 採 用 の 経 緯 から 職 種 限 定 の 合 意 がみられないことや 先 例 のあること (あるいは 限 定 する 慣 行 のないこと)を 挙 げるもの (9) (2)(1)に 加 えて 専 門 性 の 高 くないことを 挙 げるもの (10) (3)(1)に 加 えて 長 期 雇 用 が 前 提 とされてい 3
ることを 挙 げるもの (11) がある 就 業 規 則 の 配 転 条 項 については 日 産 自 動 車 村 山 工 場 事 件 第 一 審 判 決 のように それを 根 拠 として 配 転 合 意 を 導 き 出 して いる 判 断 は 少 なく 採 用 時 の 合 意 内 容 を 推 測 する 一 要 素 として 扱 っているが 配 転 条 項 を 排 除 する 明 示 の 合 意 を 要 求 していたり 誓 約 書 の 提 出 などによって 合 意 があったと 認 定 していたりする (12) 配 転 前 の 旧 職 が 廃 止 ないし 縮 小 され る 事 案 についても 職 種 限 定 契 約 の 成 立 や 権 利 濫 用 を 認 めた 裁 判 例 も 出 されて いる (13) それに 対 して 学 説 は 最 高 裁 判 所 が 是 認 している 職 種 限 定 契 約 の 判 断 につき 最 高 度 の 限 定 水 準 であって 職 種 限 定 合 意 をほとんど 認 定 できないこととなり またそのように 解 する 論 拠 も 明 らかでない (14) また 職 種 限 定 を 判 断 するため の 要 素 についても 当 事 者 の 予 見 しえない 事 態 就 業 規 則 の 配 転 条 項 や 時 代 の 一 般 的 趨 勢 をもとに 当 事 者 の 合 意 の 存 在 を 認 めることは 契 約 解 釈 の 限 界 を 越 えている (15) 等 として 批 判 するものが 大 半 である さらに 近 時 の 裁 判 例 で は 職 種 限 定 合 意 を 推 測 する 要 素 として 高 度 の 専 門 性 を 要 求 する 傾 向 にあるこ とに 対 しても 資 格 の 特 殊 性 に 目 を 向 けるべきであることが 指 摘 されている (16) 2. 職 種 限 定 契 約 のもとでの 配 転 命 令 の 拘 束 力 本 判 決 は 職 種 限 定 契 約 の 場 合 には 原 則 として 配 転 には 労 働 者 との 合 意 が 必 要 であると 考 えており その 旨 を 明 示 する 裁 判 例 も 多 い そこでは 労 働 者 との 合 意 のないことから 配 転 命 令 の 拘 束 力 を 否 定 する 裁 判 例 が 多 いが 拘 束 力 の 有 する 可 能 性 を 認 める 裁 判 例 もみられる 認 める 場 合 としてはたとえば (1) 労 働 者 の 同 意 権 の 濫 用 あるいは 同 意 しないことが 信 義 則 違 反 と 認 められ 場 合 を 挙 げるもの (17) (2) 高 度 の 合 理 性 のある 場 合 を 挙 げるもの (18) (3) 長 期 雇 用 を 前 提 とした 場 合 には 当 初 の 職 種 限 定 合 意 に 影 響 があるとするもの (19) があ る 学 説 としては 以 下 のものが 示 されている (1) 継 続 雇 用 ができなくなった 場 合 には 整 理 解 雇 の 要 件 を 満 たさなくとも 解 雇 することができると 解 するもの (20) (2) 契 約 内 容 の 変 更 を 申 し 入 れざるをえない 特 段 の 事 情 のあるときに 労 働 者 がそれを 拒 否 することに 対 して 信 義 誠 実 義 務 違 反 の 問 題 が 生 じるとする 4
もの (21) (3) 長 期 雇 用 を 前 提 とした 採 用 の 場 合 には 当 分 の 間 は 職 種 が 限 定 さ れているが 長 期 間 のうちには 他 職 種 に 配 転 されることの 合 意 が 成 立 している と 解 するもの (22) (4) 契 約 内 容 の 変 更 には 労 働 者 のその 都 度 の 合 意 が 必 要 であ り 合 意 内 容 を 変 更 したい 使 用 者 は 内 容 変 更 を 申 し 入 れるか 変 更 解 約 告 知 で 対 処 すべきとするもの (23) (5) 職 種 限 定 合 意 が 契 約 関 係 の 全 過 程 を 通 じて 使 用 者 も 拘 束 し 使 用 者 は 労 働 者 の 合 意 に 基 いて 変 更 するか 業 務 上 の 不 都 合 を 甘 受 す るしかないとするもの (24) である 3. 本 判 決 の 検 討 (1) 本 判 決 は 業 務 内 容 勤 務 形 態 及 び 給 与 体 系 の 特 殊 性 及 び 独 自 性 を 根 拠 として 職 種 限 定 合 意 を 認 定 した 点 に 第 一 の 特 徴 がある とりわけ 顧 客 との 関 係 を 断 絶 するような 配 転 を 行 わないことに 積 極 的 な 意 義 を 見 出 していた 職 種 であり それに 対 応 して 内 勤 職 員 とは 異 なった 採 用 手 続 きや 処 遇 がなされて いたことが 主 たる 根 拠 となっていると 考 えられる Yが 主 張 しているように 就 業 規 則 や 雇 用 契 約 に 職 種 を 限 定 する 文 言 がないのであるから 採 用 手 続 きや 処 遇 のみの 検 討 であれば 日 産 自 動 車 事 件 最 高 裁 判 決 が 是 認 した 原 審 判 決 の 言 う ( 当 該 職 種 ) 以 外 の 職 種 には 一 切 就 かせないという 趣 旨 を 厳 格 に 解 して 職 種 限 定 の 合 意 を 否 定 する 裁 判 例 と 類 似 した 判 断 にいたることも 考 えられるが それらと 異 なった 判 断 となっているのは 業 務 の 特 殊 性 の 認 定 によることが 大 きい この 業 務 の 特 殊 性 は 広 い 意 味 では 他 の 裁 判 例 の 言 う 専 門 性 の 一 環 と 捉 えられるかもしれないが(Xの 主 張 にもそのような 趣 旨 が 伺 われる) こ こでは 当 該 業 務 に 必 要 な 専 門 知 識 の 有 無 あるいは 高 度 性 を 問 題 にするのでは なく(Yはこの 観 点 から 高 度 な 専 門 性 の 欠 如 を 主 張 している) 会 社 としての 当 該 職 種 の 位 置 づけを 問 題 にしていることが 注 目 されるべき 判 断 である また 使 用 者 が 職 種 限 定 契 約 を 使 用 者 が 業 務 上 の 都 合 により 労 働 者 を 就 労 させるべ き 当 該 職 種 の 仕 事 がなくなれば 雇 用 関 係 を 終 了 させる 意 思 をもって 締 結 したも の と 主 張 したことを 明 確 に 否 定 している 点 就 業 規 則 上 の 配 転 条 項 が 職 種 限 定 を 否 定 する 根 拠 にはならず 就 業 規 則 に 職 種 限 定 の 規 定 がないことも 職 種 限 定 の 不 存 在 に 直 結 するものではないとしている 点 も 他 の 裁 判 例 と 比 較 して 注 目 できる 5
(2) その 上 で 本 判 決 は 他 職 種 への 配 転 を 命 ずるについて 正 当 な 理 由 があ ると 特 段 の 事 情 が 認 められる 場 合 には 配 転 命 令 が 有 効 となる 可 能 性 を 認 めた 点 に 第 二 の 特 徴 がある このように 考 えた 場 合 には 正 当 な 理 由 の 存 否 が 問 題 となるが 本 判 決 は 使 用 者 における 変 更 の 必 要 性 変 更 後 の 業 務 内 容 労 働 者 の 被 る 不 利 益 採 用 の 経 緯 と 職 務 の 特 殊 性 代 償 措 置 を 考 慮 要 素 としてあ げ 本 件 事 案 への 判 断 としては 職 種 変 更 に 高 度 の 必 要 性 のあることと 他 職 種 の 業 務 内 容 が 不 適 当 でないことは 認 めたものの 労 働 者 の 被 る 不 利 益 の 点 から 結 論 として 配 転 命 令 が 正 当 ではないと 判 断 している 他 の 裁 判 例 が 高 度 な 必 要 性 というにとどまっているの 対 して 本 判 決 は 正 当 な 事 由 を 判 断 する 考 慮 要 素 を 提 示 している 点 が 独 自 の 判 断 となっている 配 転 命 令 の 有 効 性 を 検 討 する 際 には 労 働 契 約 上 の 合 意 にもとづいた 判 断 を 行 うことが 基 本 であり そのために 本 来 はまず 労 働 契 約 上 で 特 定 された 職 種 を 確 定 し 次 に 労 働 契 約 の 履 行 の 過 程 において 当 初 の 合 意 が 変 更 されているのか 否 かを 検 討 していくことになるはずである (25) その 上 で 合 意 の 範 囲 内 であ れば 使 用 者 の 指 揮 命 令 権 を 認 め 範 囲 外 であれば 新 たな 合 意 が 必 要 となる と いう 枠 組 みで 判 断 されることになる (26) 日 本 においては 採 用 時 に 職 種 等 が 具 体 的 に 明 示 されることが 少 ないことを 背 景 に 配 転 につき 包 括 的 な 合 意 があると し そこから 最 高 裁 判 決 のように 配 転 を 命 ずるにつき 労 働 者 の 新 たな 合 意 が 必 要 である 場 合 を 他 職 種 に 一 切 就 かせない という 高 度 な 職 種 限 定 合 意 の 場 合 に 限 るという 解 釈 が 存 在 している しかしこの 見 解 は 多 くの 論 者 が 既 に 指 摘 しているように 職 種 等 は 重 要 な 労 働 条 件 であり 労 働 契 約 において 決 定 さ れるべきであるし また 1998 年 の 労 基 法 改 正 が 使 用 者 の 労 働 条 件 明 示 義 務 を 強 化 したように 職 種 等 について 明 確 にしていこうとする 流 れがあり さらに 成 果 主 義 賃 金 制 度 という 新 たな 雇 用 システムのもとでは ( 最 高 裁 判 決 のよう な) 配 転 法 理 が 貫 徹 する 基 盤 はなくなるものと 思 われる とも 指 摘 されている (27) ように 疑 問 が 大 きい 本 判 決 が 労 働 契 約 上 職 種 が 限 定 されているかどうかの 判 断 に 際 し 専 門 的 知 識 の 高 度 性 ではなく 職 種 の 特 殊 性 から 職 種 限 定 合 意 を 認 定 した 点 は 評 価 して よい しかし 他 方 で この 根 拠 付 けが 次 の 配 転 命 令 が 有 効 となる 可 能 性 を 認 める 理 由 にもつながっている つまり 本 判 決 は 一 切 職 種 変 更 をしないという 6
職 種 限 定 の 労 働 契 約 と 職 種 限 定 を 行 っていない 労 働 契 約 の 中 間 形 態 として 本 件 の 労 働 契 約 を 位 置 づけ 本 件 のような 職 種 の 特 殊 性 に 基 づく 職 種 限 定 契 約 で あれば 配 転 命 令 が 有 効 となる 可 能 性 があるが それには 職 種 限 定 をおこなって いない 労 働 契 約 におけるよりは 高 度 の 合 理 性 が 必 要 であると 考 えているように 読 める しかし この 判 断 では 職 種 変 更 に 合 意 が 必 要 とされる 労 働 契 約 の 射 程 範 囲 はますます 狭 くなってしまう 問 題 が 生 じる さらに 本 件 のような 職 種 限 定 契 約 のもとで 配 転 命 令 の 可 能 性 を 認 める 根 拠 として 本 判 決 は 労 働 契 約 関 係 の 継 続 的 な 展 開 過 程 において 配 転 の 必 要 性 も 生 じ その 場 合 に 労 働 者 の 個 別 合 意 なしに 配 転 できることが 当 事 者 の 合 理 的 意 思 に 合 致 することを 根 拠 として 挙 げている 本 判 決 の 言 う 合 理 的 意 思 が 労 働 契 約 締 結 時 の 意 思 であるの か 労 働 契 約 展 開 の 中 で 形 成 されてきた 意 思 であるのかは 不 明 であるが 労 働 契 約 締 結 時 にそのような 意 思 が 形 成 されていたとは 考 えにくい 現 に 本 判 決 が 認 定 するように Yにおいても 本 事 件 が 発 生 するまでは 職 種 を 限 定 することに 積 極 的 意 義 を 見 出 していたのである 労 働 契 約 展 開 の 中 で 合 理 的 な 場 合 には 配 転 に 応 じるとの 意 思 が 形 成 されることはありえることであるが(たとえば 争 いとなっている 配 転 命 令 以 前 には 労 働 者 が 配 転 に 応 じていた 等 ) 本 判 決 の 中 で は 配 転 命 令 のできないことは あまりにも 非 現 実 的 としか 述 べられておら ず 根 拠 が 示 されているとはいえない 一 般 的 にいえば 本 件 のような( 本 判 決 に 従 えば) 限 定 の 度 合 いの 弱 いもの であっても 職 種 限 定 契 約 が 締 結 され 使 用 者 もそれを 積 極 的 なものと 位 置 づ けて 継 続 的 に 労 働 契 約 が 展 開 していた 場 合 においては 労 働 契 約 の 展 開 の 中 で はむしろ 労 働 者 側 に 対 して 職 を 保 障 する 要 請 が 強 くなり 職 に 対 する 労 働 者 の 人 格 的 利 益 も 強 くなっていくのではないだろうか この 場 合 には 職 に 対 す る 使 用 者 の 位 置 づけの 変 わることがあったとしても 職 種 限 定 契 約 の 下 では 使 用 者 は 労 働 者 の 合 意 に 基 づいて 変 更 するか 業 務 上 の 不 都 合 を 甘 受 するしかな いこととなるであろう (1) 確 認 の 利 益 については 拙 稿 配 転 無 効 確 認 訴 訟 中 の 解 雇 通 告 につき 地 位 確 認 請 求 を 為 すことの 要 否 法 学 教 室 133 号 (1991 年 )102 頁 以 下 におい て 確 認 の 利 益 は 究 極 的 には 即 時 確 定 の 必 要 性 によって 判 断 されるべきであり とりわけ 配 転 事 例 においては 即 時 確 定 の 利 益 を 厳 密 に 考 えることは 不 適 当 で ある と 論 じている 7
(2) 日 産 自 動 車 村 山 工 場 事 件 最 一 小 判 平 1.12.7 労 判 554 号 6 頁 判 決 の 検 討 としては 拙 稿 熟 練 労 働 者 の 職 種 変 更 と 労 働 契 約 上 の 職 種 の 特 定 労 旬 1261 号 (1991 年 )17 頁 以 下 (3) 東 亜 ペイント 事 件 最 二 小 判 昭 61.7.14 労 判 477 号 6 頁 (4) 九 州 朝 日 放 送 事 件 最 一 小 判 平 10.9.10 労 判 757 号 20 頁 (5) 直 源 会 相 模 原 南 病 院 事 件 最 二 小 決 平 11.6.11 労 判 773 号 20 頁 (6) 2 大 京 事 件 大 阪 地 判 平 16.1.23 労 働 経 済 判 例 速 報 1864 号 21 頁 3 古 賀 タクシー 事 件 福 岡 地 判 平 11.3.24 労 判 757 号 31 頁 4 直 源 会 相 模 原 南 病 院 事 件 東 京 高 判 平 10.12.10 労 判 761 号 118 頁 5ヤマトセキュリティ 事 件 大 阪 地 決 平 9.6.10 労 判 720 号 55 頁 10 大 成 会 福 岡 記 念 病 院 事 件 福 岡 地 決 昭 58.2.24 労 判 404 号 25 頁 (7) 1 東 武 スポーツ 事 件 宇 都 宮 地 判 平 18.12.28 労 判 932 号 14 頁 6 学 校 法 人 東 邦 大 学 事 件 東 京 地 判 平 10.9.21 労 判 753 号 53 頁 7 福 井 工 業 大 学 事 件 福 井 地 判 昭 62.3.27 労 判 494 号 54 頁 8エア インディア 事 件 東 京 地 判 平 4.2.27 労 判 608 号 15 頁 9アール エル ラジオ 日 本 事 件 東 京 高 判 昭 58.5.25 労 民 集 34 巻 3 号 441 頁 (8) 3 10 判 決 (9) 11 電 電 公 社 事 件 札 幌 地 判 平 18.9.29 労 判 928 号 37 頁 13ノースウェスト 航 空 事 件 千 葉 地 判 平 18.4.27 労 判 921 号 57 頁 17 日 本 レストランシステム 事 件 大 阪 地 判 平 16.1.23 労 判 873 号 59 頁 21 日 本 経 済 新 聞 社 事 件 東 京 高 判 平 14.9.24 労 判 844 号 87 頁 東 京 地 判 平 14.3.25 労 判 827 号 91 頁 22 日 経 ビーピー 事 件 東 京 地 判 平 14.4.22 労 判 830 号 52 頁 23 合 食 事 件 東 京 地 判 平 11.11.19 労 働 経 済 判 例 速 報 1743 号 11 頁 24 古 賀 タクシー 事 件 福 岡 高 判 平 11.11.2 労 判 790 号 76 頁 25 上 州 屋 事 件 東 京 地 判 平 11.10.29 労 判 774 号 12 頁 27 ソニーマーケティング 事 件 大 阪 地 決 平 10.4.27 労 働 経 済 判 例 速 報 1676 号 8 頁 28 JR 西 日 本 事 件 大 阪 地 判 平 7.12.28 労 判 691 号 68 頁 29 東 海 旅 客 鉄 道 事 件 大 阪 地 判 平 6.12.26 労 判 672 号 30 頁 30 マリンクロットメ ディカル 事 件 東 京 地 判 平 7.3.31 労 判 680 号 75 頁 (10) 14 大 阪 医 科 大 学 事 件 大 阪 地 判 平 17.9.1 労 判 906 号 70 頁 15 菅 原 学 園 事 件 さいたま 地 判 平 17.6.30 労 判 901 号 50 頁 16 藤 田 観 光 事 件 東 京 地 判 平 16.11.15 労 判 886 号 30 頁 18 東 京 サレジオ 事 件 東 京 高 判 平 15.9.24 労 判 864 号 34 頁 東 京 地 判 平 15.3.24 労 判 864 号 42 頁 20 目 黒 電 機 製 造 事 件 東 京 地 判 平 14.9.30 労 働 経 済 判 例 速 報 1826 号 3 頁 26 九 州 朝 日 放 送 事 件 福 岡 高 判 平 8.7.30 労 判 692 号 57 頁 31 少 年 写 真 新 聞 社 ( 第 一 ) 事 件 東 京 地 判 平 7.1.26 労 判 676 号 64 頁 32 少 年 写 真 新 聞 社 ( 第 二 ) 事 件 東 京 地 判 平 7.1.26 労 判 676 号 90 頁 (11) 12 精 電 舎 事 件 東 京 地 判 平 18.7.14 労 判 922 号 34 頁 14 大 阪 医 科 大 学 事 件 大 阪 地 判 平 17.9.1 労 判 906 号 70 頁 19 名 古 屋 港 水 族 館 事 件 名 古 屋 地 判 平 15.6.20 労 判 865 号 69 頁 (12) 前 者 が13 判 決 後 者 は 22 判 決 など (13) 1 10 11 判 決 (14) たとえば 野 田 進 労 働 者 の 職 種 換 配 転 と 権 利 の 濫 用 ジュリスト 1276 号 (2004 年 )163 頁 以 下 (15) 片 岡 曻 労 働 法 理 論 の 継 承 と 発 展 ( 2001 年 有 斐 閣 )229 頁 (16) 小 西 啓 文 東 京 サレジオ 学 園 事 件 労 働 法 学 研 究 会 報 2333 号 (2004 年 ) 43 頁 (17) 3 判 決 は 労 働 者 に 配 置 転 換 を 命 じることに 強 い 合 理 性 が 認 められ 労 8
働 者 が 配 置 転 換 に 同 意 しないことが 同 意 権 の 濫 用 と 認 められる 場 合 とし 10 判 決 は 使 用 者 が 経 営 上 の 合 理 性 に 基 き 一 定 の 部 署 ないし 職 種 を 廃 止 するこ とを 必 要 とする 場 合 において 右 措 置 に 伴 い 必 然 的 に 生 ずる 剰 員 につき 解 雇 の 方 途 を 選 ばずあえて 配 転 を 命 ずることにした 場 合 に 当 該 労 働 者 がこれに 応 諾 しないことが 労 働 契 約 上 の 信 義 に 反 すると 認 められる 特 段 の 事 情 があるとき とする 10 判 決 は 後 述 の 変 更 解 約 告 知 の 枠 組 とも 類 似 している (18) 4 判 決 は 業 務 上 の 特 段 の 必 要 性 及 び 当 該 従 業 員 を 移 動 させるべき 特 段 の 合 理 性 があり かつこれらの 点 についての 十 分 な 説 明 がなされた 場 合 とする (19) 8 判 決 は 職 種 限 定 は 若 年 定 年 制 を 前 提 としており 定 年 延 長 に 伴 って 職 種 限 定 の 合 意 は 変 更 されたと 判 断 している (20) 萩 沢 清 彦 アナウンサーとして 雇 用 された 労 働 者 の 他 職 種 への 配 置 転 換 判 タ 340 号 (1977 年 )90 頁 以 下 (21) 安 枝 英 訷 国 際 線 航 空 会 社 でエア ホステスの 業 務 に 従 事 していた 従 業 員 に 対 して 地 上 職 勤 務 を 命 じた 配 転 命 令 が 有 効 とされた 事 例 判 例 評 論 409 号 ( 1993 年 )56 頁 (22) 菅 野 和 夫 労 働 法 ( 第 七 版 補 正 二 版 2007 年 弘 文 堂 )389 頁 この 場 合 には 長 期 雇 用 を 予 定 せずに 職 種 や 所 属 部 門 を 限 定 して 雇 用 される 労 働 者 に ついては 職 種 限 定 の 合 意 が 認 められやすい と 主 張 される (23) 和 田 肇 人 事 異 動 と 労 働 者 の 働 き 方 転 換 期 労 働 法 の 課 題 ( 西 谷 敏 中 島 正 雄 奥 田 香 子 編 2003 年 旬 報 社 )195 頁 藤 内 和 公 人 事 制 度 講 座 21 世 紀 の 労 働 法 第 4 巻 ( 日 本 労 働 法 学 会 編 2000 年 有 斐 閣 )259 頁 (24) 藤 原 稔 弘 業 務 縮 小 を 理 由 とする 異 職 種 配 転 と 承 諾 拒 否 権 の 制 限 労 判 413 号 (1983 年 )16 頁 以 下 倉 田 賀 世 看 護 婦 に 対 する 配 転 命 令 の 効 力 労 旬 1460 号 (1999 年 )12 頁 以 下 (25) 野 田 進 労 働 契 約 における 合 意 講 座 21 世 紀 の 労 働 法 第 4 巻 ( 日 本 労 働 法 学 会 編 2000 年 有 斐 閣 )37 頁 (26) ただし 使 用 者 の 労 務 指 揮 権 の 根 拠 ならびに 限 界 についての 検 討 が 必 要 で ある 土 田 道 夫 労 務 指 揮 権 の 現 代 的 展 開 ( 1999 年 信 山 社 ) 参 照 (27) 中 村 和 夫 アナウンサーに 対 する 配 転 の 効 力 法 政 研 究 4 巻 1 号 (1999 年 )145 頁 以 下 9