労働保険特別会計の改革と雇用保険制度

ISSUE BRIEF 労 働 保 険 特 別 会 計 の 改 革 と 雇 用 保 険 制 度 国 立 国 会 図 書 館 ISSUE BRIEF NUMBER 674(2010. 3.23.) はじめに Ⅰ 労 働 保 険 特 別 会 計 改 革 の 流 れ 1 労 働 保 険 特 別 会 計 とは 2 改 革 に 至 る 経 緯 3 これまでの 改 革 Ⅱ 平 成 22 年 の 雇 用 保 険 法 改 正 の 概 要 1 失 業 等 給 付 の 国 庫 負 担 ( 閣 法 第 2 号 ) 2 雇 用 保 険 二 事 業 の 財 政 基 盤 の 強 化 ( 閣 法 第 8 号 ) 3 雇 用 保 険 の 適 用 範 囲 の 拡 大 ( 閣 法 第 8 号 ) おわりに 労 働 保 険 特 別 会 計 については 施 設 整 備 の 無 駄 遣 い や 失 業 等 給 付 の 国 庫 負 担 が 問 題 とされ 改 革 が 行 われてきた 無 駄 遣 い については 労 働 福 祉 事 業 と 雇 用 福 祉 事 業 で 行 われてきた 施 設 整 備 運 営 が 平 成 17 年 度 までに 廃 止 された 平 成 18 年 には 国 庫 負 担 の 廃 止 を 含 む 検 討 と 雇 用 保 険 三 事 業 の 廃 止 を 含 む 見 直 し が 決 定 し 平 成 19 年 の 法 改 正 で 国 庫 負 担 は 当 面 の 措 置 として 負 担 率 が 削 減 された 雇 用 保 険 三 事 業 は そのうち 雇 用 福 祉 事 業 が 廃 止 され 雇 用 安 定 事 業 及 び 能 力 開 発 事 業 の 二 事 業 となった 経 済 情 勢 の 変 化 と 政 権 交 代 を 受 け 政 府 の 方 針 にも 変 化 がみられる 第 174 回 国 会 に 政 府 が 提 出 した 2 つの 雇 用 保 険 法 改 正 案 には 国 庫 負 担 の 復 帰 に 向 けた 措 置 と 雇 用 保 険 二 事 業 の 強 化 が 盛 り 込 まれている また 非 正 規 労 働 者 への 適 用 範 囲 拡 大 なども 盛 り 込 まれているが 非 正 規 労 働 者 やワーキングプアへの 総 合 的 な 対 策 が 課 題 として 残 される 社 会 労 働 課 まつい ( 松 井 ゆうじろう 祐 次 郎 ) 調 査 と 情 報 第 674 号

はじめに 労 働 保 険 特 別 会 計 は 一 連 の 特 別 会 計 改 革 の 中 でも 象 徴 的 な 存 在 とみられてきた 行 財 政 改 革 の 流 れの 中 で 雇 用 保 険 三 事 業 ( 現 在 は 雇 用 安 定 事 業 と 能 力 開 発 事 業 の 二 事 業 ) の スパウザ 小 田 原 や 私 のしごと 館 などが 無 駄 遣 い の 典 型 例 として 国 会 審 議 や 報 道 で 取 り 上 げられてきた これまでに 多 くの 施 設 整 備 を 行 ってきた 労 災 保 険 の 労 働 福 祉 事 業 と 雇 用 保 険 三 事 業 のうちの 雇 用 福 祉 事 業 が 廃 止 されるなどの 改 革 が 行 われてきた 本 稿 は 労 働 保 険 特 別 会 計 の 改 革 の 流 れを 振 り 返 るとともに 特 に 雇 用 保 険 制 度 につい て 第 174 回 国 会 に 提 出 された 2 つの 雇 用 保 険 法 改 正 案 の 概 要 と 課 題 を 整 理 する 雇 用 保 険 制 度 を 含 む 雇 用 政 策 の 今 後 の 課 題 についても 簡 単 に 触 れる Ⅰ 労 働 保 険 特 別 会 計 改 革 の 流 れ 1 労 働 保 険 特 別 会 計 とは (1) 前 身 労 働 保 険 特 別 会 計 の 前 身 は 昭 和 22 年 に 設 置 された 労 働 者 災 害 補 償 保 険 ( 以 下 労 災 保 険 という) 特 別 会 計 と 失 業 保 険 特 別 会 計 の 2 つの 特 別 会 計 である 労 災 保 険 特 別 会 計 は 労 働 基 準 法 ( 昭 和 22 年 法 律 第 49 号 )に 定 められた 使 用 者 の 災 害 補 償 責 任 をいわば 代 行 する 機 能 を 果 たす 1 労 災 保 険 制 度 の 保 険 経 理 のために 労 働 基 準 法 と 同 日 に 施 行 された 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 ( 昭 和 22 年 法 律 第 50 号 )に 基 づき 設 置 された 2 失 業 保 険 特 別 会 計 は 当 時 の 失 業 保 険 法 ( 昭 和 22 年 法 律 第 146 号 )に 基 づき 被 保 険 者 である 労 働 者 が 失 業 した 場 合 に 保 険 金 を 支 給 し その 生 活 の 安 定 を 図 ることを 目 的 とし た 失 業 保 険 制 度 において 国 と 事 業 主 及 び 被 保 険 者 の 三 者 で 負 担 する 保 険 給 付 に 必 要 な 費 用 の 収 支 を 事 務 費 も 含 めて 経 理 するために 設 置 された (2) 設 置 の 経 緯 労 働 保 険 特 別 会 計 は 昭 和 47 年 に 失 業 保 険 特 別 会 計 と 労 災 保 険 特 別 会 計 を 統 合 して 設 けられた 3 失 業 保 険 と 労 災 保 険 の 小 規 模 事 業 者 への 適 用 範 囲 拡 大 4 に 伴 い 保 険 料 の 納 付 事 務 負 担 の 軽 減 と 効 率 的 な 徴 収 を 図 るため 両 保 険 の 保 険 料 の 徴 収 を 一 元 化 することを 目 的 としている この 時 両 保 険 の 保 険 料 は 労 働 保 険 料 に 一 本 化 され 徴 収 勘 定 を 設 けて 経 理 するこ ととした 徴 収 された 労 働 保 険 料 は 徴 収 勘 定 に 収 納 され そのまま 労 災 保 険 にかかる 部 分 は 労 災 勘 定 に 失 業 保 険 にかかる 部 分 は 失 業 勘 定 に 繰 り 入 れられ 両 勘 定 は これを 主 財 源 に 保 険 給 付 業 務 を 行 うこととなった 1 労 災 保 険 制 度 の 現 状 と 課 題 週 刊 社 会 保 障 2006.8.14-21, p.152. 2 昭 和 6 年 に 成 立 した 労 働 者 災 害 扶 助 責 任 保 険 法 による 保 険 制 度 の 保 険 経 理 のための 特 別 会 計 であった 災 害 扶 助 責 任 保 険 特 別 会 計 を 引 き 継 いでいる 6-1 労 働 保 険 特 別 会 計 財 務 諸 表 ( 労 災 勘 定 )(オ) 注 記 事 項 ( 公 会 計 貸 借 対 照 表 等 ) 厚 生 労 働 省 平 成 12 年 特 別 会 計 等 財 務 書 類 の 作 成 ガイドライン に 基 づく 特 別 会 計 財 務 書 類 2001.5. <http://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/other/zaimu0105/zaimu6/5.html> 3 労 働 保 険 特 別 会 計 法 の 制 定 時 の 法 令 (792)1972.7.23, p.1. 4 それまで 両 保 険 とも 労 働 者 5 人 未 満 の 事 業 所 は 適 用 対 象 外 であったが 昭 和 44 年 の 法 改 正 により 以 後 段 階 的 に 適 用 を 拡 大 することとなった 1

(3) 付 帯 事 業 両 保 険 とも 保 険 料 を 徴 収 し 労 災 や 失 業 という 保 険 事 故 に 伴 う 給 付 を 行 うために 設 け られた 制 度 であったが 初 期 から 保 険 事 業 以 外 の 付 帯 事 業 が 行 われてきた 労 災 保 険 制 度 では 発 足 当 初 から 業 務 災 害 に 関 して 労 働 者 のために 必 要 な 施 設 の 設 置 を 行 っている 昭 和 22 年 には 職 場 復 帰 のための 傷 痍 者 訓 練 所 の 設 置 や 国 立 病 院 との 外 科 後 処 置 の 契 約 締 結 を 行 い 昭 和 24 年 以 降 は 全 国 に 次 々と 労 災 病 院 を 開 設 した 5 失 業 保 険 制 度 では 昭 和 28 年 から 失 業 保 険 福 祉 施 設 として 職 業 訓 練 所 簡 易 宿 泊 所 等 の 設 置 が 始 まり 昭 和 30 年 には 設 置 運 営 に 関 する 規 定 も 明 文 化 された 被 保 険 者 の 福 祉 の 増 進 を 図 るとともに 失 業 という 保 険 事 故 の 発 生 を 事 前 に 防 止 し また 失 業 期 間 を 短 縮 することによって 制 度 全 体 としての 支 出 を 減 少 させることが 目 的 とされた 6 (4) 失 業 保 険 から 雇 用 保 険 へ 昭 和 49 年 に 失 業 保 険 法 が 廃 止 され 新 たに 雇 用 保 険 法 ( 昭 和 49 年 法 律 第 116 号 )が 制 定 されて 雇 用 保 険 制 度 が 発 足 し 労 働 保 険 特 別 会 計 の 失 業 勘 定 は 雇 用 勘 定 とな った 雇 用 保 険 制 度 では 小 規 模 な 農 林 水 産 業 を 除 き 全 産 業 全 業 種 を 規 模 に 関 わらず 適 用 対 象 とするとともに 事 業 主 負 担 の 保 険 料 を 財 源 にいわゆる 雇 用 保 険 三 事 業 ( 図 1) を 行 うこととされた 7 失 業 保 険 制 度 を 発 展 させ 単 に 失 業 者 の 生 活 保 障 ( 失 業 に 対 する 事 後 的 な 保 障 )にとどまらず 失 業 の 防 止 早 期 の 再 就 職 促 進 さらには 雇 用 機 会 の 創 出 増 大 労 働 者 の 能 力 の 開 発 向 上 など 積 極 的 な 雇 用 政 策 の 一 翼 を 担 うこと 8 を 目 的 とすると ともに 労 働 者 の 福 祉 の 増 進 を 図 ることとしたのである 図 1 雇 用 保 険 三 事 業 の 変 遷 昭 和 50 年 4 月 ~ 昭 和 52 年 10 月 ~ 平 成 元 年 6 月 ~ 平 成 19 年 4 月 ~ 1 雇 用 安 定 事 業 雇 用 調 整 給 付 金 など 1 雇 用 改 善 事 業 雇 用 状 態 是 正 失 業 予 防 の ための 事 業 主 への 各 種 助 成 雇 用 調 整 給 付 金 など 2 能 力 開 発 事 業 事 業 主 が 行 う 職 業 訓 練 の 助 成 援 助 公 共 職 業 訓 練 など 3 雇 用 福 祉 事 業 雇 用 促 進 住 宅 勤 労 者 福 祉 施 設 就 職 資 金 融 資 など 2 雇 用 改 善 事 業 事 業 主 への 各 種 助 成 など 3 能 力 開 発 事 業 4 雇 用 福 祉 事 業 1 雇 用 安 定 事 業 2 能 力 開 発 事 業 3 雇 用 福 祉 事 業 1 雇 用 安 定 事 業 2 能 力 開 発 事 業 ( 注 ) 各 事 業 の 概 要 は 事 業 名 の 追 加 または 廃 止 を 伴 う 法 改 正 施 行 時 の 事 業 概 要 を 記 したもので あり その 間 の 事 業 内 容 の 変 更 は 反 映 していない ( 出 典 ) 雇 用 保 険 法 各 改 正 時 の 条 文 とともに 次 の 資 料 を 参 考 に 筆 者 作 成 労 働 省 職 業 安 定 局 雇 用 保 険 課 編 著 雇 用 保 険 法 ( 労 働 法 コンメンタール 6), 労 務 行 政 研 究 所, 1978; 濱 口 桂 一 郎 労 働 法 政 策 ミネルヴァ 書 房, 2004, pp.104-120. 5 第 2 編 第 3 章 第 6 節 労 働 者 災 害 補 償 制 度 労 働 省 編 労 働 省 史 厚 生 労 働 省, 2001, pp.107-111. 6 第 2 編 第 5 章 第 7 節 失 業 保 険 同 上, pp.130-134. 7 第 4 編 第 5 章 第 8 節 第 2 項 雇 用 保 険 制 度 の 内 容 ( 失 業 保 険 法 時 代 と 異 なる 部 分 を 中 心 に) 同 上, pp.581-585. 8 西 村 健 一 郎 労 働 保 険 の 課 題 と 将 来 週 刊 社 会 保 障 2006.8.14-21, p.157. 2

2 改 革 に 至 る 経 緯 (1) 施 設 整 備 の 意 義 労 働 保 険 特 別 会 計 の 改 革 に 至 るきっかけの1つに 施 設 整 備 に 対 する 批 判 があった そ のような 整 備 が 許 されてきた 背 景 を 雇 用 福 祉 事 業 の 勤 労 者 福 祉 施 設 を 例 に 考 えてみたい 勤 労 者 福 祉 施 設 の 意 義 は 企 業 間 特 に 大 企 業 と 中 小 企 業 の 間 の 福 利 厚 生 の 格 差 是 正 に あると 説 明 されていた 9 個 々の 中 小 企 業 では 実 施 困 難 な 福 祉 施 設 制 度 については その 共 同 化 共 通 化 など の 方 法 により 中 小 企 業 全 体 における 労 働 者 福 祉 の 向 上 を 図 ることが 望 まれる 10 との 指 摘 もあり 勤 労 者 福 祉 施 設 には 雇 用 保 険 料 の 事 業 主 負 担 分 によって 全 体 の 9 割 を 占 める 中 小 企 業 サラリーマンに 格 安 で 心 と 体 を 癒 やす 機 会 を 提 供 する 11 という 意 義 があった また 長 時 間 労 働 や 過 労 死 が 問 題 とされた 1980 年 代 には 内 需 拡 大 の 政 策 意 図 も 相 ま って 労 働 時 間 短 縮 が 国 政 の 重 要 課 題 12 となり 余 暇 生 活 の 充 実 の 必 要 性 が 指 摘 される 中 で 勤 労 者 の 福 祉 施 設 の 整 備 が 閣 議 決 定 13 された 労 働 省 が 各 界 の 有 識 者 14 を 集 めて 開 催 し た 労 働 時 間 短 縮 政 策 会 議 の 提 言 15 においても 国 民 が 安 い 費 用 で 利 用 できる 余 暇 レジャ ー 学 習 施 設 の 整 備 の 必 要 性 が 指 摘 された (2) 施 設 整 備 への 批 判 労 働 保 険 特 別 会 計 の 問 題 点 として 労 災 勘 定 の 労 働 福 祉 事 業 における 労 災 病 院 やリハビ リテーション 関 係 施 設 および 雇 用 勘 定 の 雇 用 保 険 三 事 業 ( 当 時 )における 勤 労 者 福 祉 施 設 等 の 施 設 整 備 への 批 判 が 強 まったきっかけは バブル 期 に 計 画 された 豪 華 施 設 で バブル 崩 壊 後 の 平 成 10 年 に 営 業 開 始 した 勤 労 者 福 祉 施 設 スパウザ 小 田 原 であった 勤 労 者 福 祉 施 設 は 平 成 17 年 度 末 までに 全 て 譲 渡 又 は 廃 止 されたが 例 えば スパウザ 小 田 原 は 455 億 円 の 整 備 費 が 投 じられながら 売 却 額 が 8 億 5000 万 円 に 留 まるなど 16 たたき 売 り 状 態 17 でこれまでの 無 駄 遣 い が 強 調 される 結 果 となった 9 高 梨 昌 勤 労 者 福 祉 施 設 中 小 企 業 労 働 者 には 必 要 朝 日 新 聞 2003.9.6. 労 働 省 平 成 6 年 労 働 者 福 祉 施 設 制 度 等 調 査 によると 平 成 6 年 の 時 点 で 従 業 員 1,000 人 以 上 の 企 業 では 96.2%が 体 育 余 暇 施 設 を 保 有 していたが 100~299 人 では 67.4% 30~99 人 では 41.8%しか 保 有 していなかった ( 労 働 省 平 成 8 年 版 労 働 経 済 の 分 析 pp.289-290.) 平 成 19 年 の 時 点 では 余 暇 施 設 ( 運 動 施 設 保 養 所 ) を 保 有 していた のは 従 業 員 1,000 人 以 上 の 企 業 でも 63.2%と 減 少 したが 100~299 人 では 35.8% 30~99 人 では 22.4% と 企 業 規 模 間 の 格 差 は 依 然 として 大 きい ( 厚 生 労 働 省 大 臣 官 房 統 計 情 報 部 平 成 19 年 就 労 条 件 総 合 調 査 報 告 p.36.) 10 労 働 省 平 成 8 年 版 労 働 経 済 の 分 析 p.289. 11 高 梨 前 掲 注 9 12 濱 口 桂 一 郎 労 働 法 政 策 ミネルヴァ 書 房, 2004, p.254. 13 第 6 次 雇 用 対 策 基 本 計 画 1988.6.17 閣 議 決 定 その 以 前 の 数 次 の 雇 用 対 策 基 本 計 画 にも 勤 労 者 福 祉 施 設 の 整 備 が 盛 り 込 まれていたが 労 働 時 間 短 縮 や 余 暇 の 充 実 との 関 連 で 盛 り 込 まれた 点 が 異 なる 14 労 働 時 間 短 縮 政 策 会 議 のメンバーは 産 業 界 労 働 界 地 方 自 治 体 の 首 長 研 究 者 報 道 関 係 者 など 各 分 野 から 幅 広 く 参 集 した 15 労 働 省 編 労 働 時 間 短 縮 に 関 する 提 言 労 働 時 間 短 縮 政 策 会 議 報 告 大 蔵 省 印 刷 局, 1989.3. 16 独 立 行 政 法 人 雇 用 能 力 開 発 機 構 勤 労 者 福 祉 施 設 (2070 施 設 )の 譲 渡 の 終 了 について <http://www.ehdo.go.jp/profile/jouto_05.html>; 勤 労 者 福 祉 施 設 処 分 終 了 建 設 4406 億 売 却 は127 億 円 売 れ 残 り 92 施 設 読 売 新 聞 2006.4.9. 17 池 冨 仁 ほか 特 別 会 計 を 解 体 せよ! 週 刊 ダイヤモンド 2006.3.4, p.143. 3

(3) 天 下 り 批 判 同 時 に 労 災 勘 定 の 労 働 福 祉 事 業 と 合 わせて 約 3600 億 円 ( 平 成 17 年 度 予 算 )の 所 管 の 法 人 への 補 助 金 も 批 判 された これらの 法 人 へは 労 働 省 厚 生 労 働 省 OB が 再 就 職 して いるが 天 下 り 批 判 と 合 わせて 業 務 の 非 効 率 性 や 無 駄 が 指 摘 された 18 例 えば スパウザ 小 田 原 の 運 営 委 託 を 受 けていた 財 団 法 人 勤 労 者 リフレッシュ 事 業 振 興 財 団 は 施 設 が 営 業 開 始 した 平 成 10 年 の 4 月 1 日 現 在 で 常 勤 役 員 3 名 全 員 が 労 働 省 OB であった 19 この 財 団 は 施 設 の 譲 渡 完 了 に 伴 い 平 成 16 年 3 月 末 に 解 散 した 3 これまでの 改 革 (1) 改 革 の 基 本 方 針 現 在 行 われている 特 別 会 計 改 革 の 基 本 方 針 を 定 めた 法 律 は 平 成 18 年 6 月 2 日 に 施 行 された 簡 素 で 効 率 的 な 政 府 を 実 現 するための 行 政 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 ( 平 成 18 年 法 律 第 47 号 以 下 行 革 推 進 法 という )である 同 法 第 23 条 に 定 められた 労 働 保 険 特 別 会 計 の 見 直 しの 要 点 は 次 のとおりである 1 労 働 保 険 特 別 会 計 において 経 理 される 事 業 は 労 災 保 険 の 保 険 給 付 に 係 る 事 業 及 び 雇 用 保 険 の 失 業 等 給 付 に 係 る 事 業 に 限 ることを 基 本 とする 2 労 災 保 険 の 労 働 福 祉 事 業 および 雇 用 保 険 三 事 業 は 廃 止 を 含 めた 見 直 しを 行 う 3 失 業 等 給 付 の 国 庫 負 担 のあり 方 については 廃 止 を 含 めて 検 討 する 以 上 3 項 目 のうち 1と2は 施 設 整 備 等 保 険 事 業 以 外 の 事 業 への 批 判 を 受 け これ らの 事 業 の 廃 止 を 含 めた 見 直 しを 行 うことによって 労 働 保 険 特 別 会 計 において 行 う 事 業 を 基 本 的 に 保 険 事 業 に 限 るとするものであり 3は 財 政 再 建 と 官 から 民 へ の 流 れ の 中 で 失 業 等 給 付 は 労 使 の 保 険 料 負 担 のみに 拠 るべきという 考 え 方 もあることから 諸 外 国 の 国 庫 負 担 のあり 方 も 踏 まえ 国 庫 負 担 の 廃 止 を 含 めて 検 討 するというものである 20 (2) 平 成 19 年 の 改 革 平 成 19 年 に 行 われた 雇 用 保 険 法 等 の 改 正 ( 平 成 19 年 法 律 第 30 号 )は 行 革 推 進 法 に おいて 示 された 特 別 会 計 改 革 の 基 本 方 針 に 沿 った 見 直 しを 含 むものであった 具 体 的 には 1 雇 用 福 祉 事 業 を 労 災 保 険 の 労 働 福 祉 事 業 とともに 廃 止 し 雇 用 保 険 三 事 業 を 二 事 業 とす る 見 直 し 2 国 庫 負 担 の 引 き 下 げ が 行 われた 国 庫 負 担 の 改 正 内 容 は 失 業 等 給 付 のう ち 高 年 齢 雇 用 継 続 給 付 に 係 る 国 庫 負 担 を 廃 止 するとともに 当 分 の 間 失 業 等 給 付 に 係 る 国 庫 負 担 を 本 則 に 定 められている 負 担 割 合 25%の 55%である 13.75% 21 に 引 き 下 げるも のである 18 同 上, pp.142-143. 19 第 142 回 国 会 衆 議 院 労 働 委 員 会 議 録 第 11 号 平 成 10 年 4 月 28 日 p.6. 川 内 博 史 衆 議 院 議 員 の 質 疑 と 伊 吹 文 明 労 働 大 臣 及 び 政 府 委 員 の 答 弁 20 行 革 推 進 法 に 盛 り 込 まれた 特 別 会 計 の 見 直 し 方 針 には 財 政 制 度 等 審 議 会 が 財 務 大 臣 に 報 告 した 特 別 会 計 の 見 直 しについて 制 度 の 再 点 検 と 改 革 の 方 向 性 2005.11.21. <http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/tosin/zaiseia171121/zaiseia171121c_01.pdf > の 内 容 が 反 映 されて いる この 方 針 は 主 に 平 成 17 年 度 の 財 政 制 度 等 審 議 会 における 議 論 を 受 けたものである 財 務 省 財 政 制 度 等 審 議 会 歳 出 合 理 化 部 会 及 び 財 政 構 造 改 革 部 会 合 同 部 会 議 事 要 旨 等 参 照 <http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/zaisei3.htm> 21 本 則 に 定 められた 国 庫 負 担 割 合 は 金 額 的 に 失 業 等 給 付 のほとんどを 占 める 一 般 求 職 者 給 付 の 場 合 給 付 額 の 1/4 すなわち 25%である 平 成 19 年 の 改 正 後 は 25%の 55% つまり 25% 55%=13.75%となった 4

(3) 独 立 行 政 法 人 雇 用 能 力 開 発 機 構 の 改 革 平 成 19 年 までの 改 革 によって 雇 用 福 祉 事 業 は 廃 止 されたが その 後 能 力 開 発 事 業 において 独 立 行 政 法 人 雇 用 能 力 開 発 機 構 が 運 営 する 公 共 職 業 能 力 開 発 施 設 に 対 する 批 判 が 高 まった 特 に 青 少 年 向 けの 職 業 体 験 などを 行 う 私 のしごと 館 と 職 業 能 力 開 発 の 指 導 員 養 成 などを 行 う 職 業 能 力 開 発 総 合 大 学 校 が 批 判 の 対 象 となった 私 のしごと 館 は 関 西 文 化 学 術 研 究 都 市 に 設 置 され 平 成 15 年 10 月 に 全 面 開 館 した 土 地 の 購 入 費 等 を 含 めた 建 設 費 は 581 億 円 平 成 16 年 度 から 平 成 19 年 度 までの 各 年 度 の 運 営 費 は 14.6~19.8 億 円 であった それに 対 し 各 年 度 の 入 館 料 等 の 自 己 収 入 は 1.1~1.7 億 円 であり 大 幅 な 赤 字 垂 れ 流 し と 批 判 された 22 平 成 19 年 12 月 に 閣 議 決 定 された 独 立 行 政 法 人 整 理 合 理 化 計 画 23 において 私 のし ごと 館 は 運 営 を 包 括 的 に 民 間 に 委 託 し 第 三 者 委 員 会 による 外 部 評 価 を 実 施 し その 結 果 を 踏 まえて 1 年 以 内 に 存 廃 を 含 めその 在 り 方 について 検 討 を 行 う とされた これを 受 けて 平 成 20 年 7 月 に 包 括 的 民 間 委 託 に 係 る 一 般 競 争 入 札 が 行 われ 民 間 受 託 者 が 決 定 し 同 年 9 月 から 2 年 間 の 契 約 で 民 間 委 託 が 開 始 されるとともに 政 府 の 行 政 改 革 推 進 本 部 長 決 定 に 基 づく 行 政 減 量 効 率 化 有 識 者 会 議 ( 以 下 行 政 減 量 会 議 という) や 厚 生 労 働 省 職 業 能 力 開 発 局 長 が 開 催 した 私 のしごと 館 のあり 方 検 討 会 で 検 討 が 行 われた 結 論 として 私 のしごと 館 は 遅 くとも 平 成 22 年 8 月 までに 廃 止 し 建 物 の 有 効 活 用 に 向 けた 検 討 を 行 うことなどが 閣 議 決 定 24 された 厚 生 労 働 省 は これを 受 け 民 間 委 託 契 約 が 終 了 する 平 成 22 年 8 月 に 廃 止 する 方 針 であったが その 後 政 府 予 算 の 縮 減 など を 背 景 に 予 定 を 前 倒 しし 同 年 3 月 に 廃 止 することを 決 めた 25 職 業 能 力 開 発 総 合 大 学 校 については 会 計 検 査 院 が 平 成 18 年 度 決 算 の 検 査 報 告 26 におい て 職 業 訓 練 指 導 員 の 養 成 が 設 置 目 的 であるにもかかわらず 就 職 対 象 者 の 90% 以 上 は 職 業 訓 練 指 導 とは 関 連 のない 民 間 企 業 に 就 職 している と 指 摘 した 行 政 減 量 会 議 が 平 成 20 年 9 月 に 決 定 した 方 針 27 で 指 導 員 養 成 業 務 の 廃 止 を 打 ち 出 した 長 妻 昭 厚 生 労 働 大 臣 が 平 成 22 年 1 月 に 職 業 能 力 開 発 総 合 大 学 校 の 本 校 ( 神 奈 川 県 相 模 原 市 )を 視 察 した 後 本 校 の 校 地 を 売 却 し 東 京 校 ( 東 京 都 小 平 市 )に 集 約 する 方 針 を 固 めている 28 なお 行 政 減 量 会 議 は 雇 用 能 力 開 発 機 構 の 存 廃 についても 議 論 し 法 人 自 体 を 廃 止 する 方 針 を 決 定 している 22 厚 生 労 働 省 私 のしごと 館 のあり 方 検 討 会 今 後 の 私 のしごと 館 のあり 方 について( 私 のしごと 館 のあり 方 検 討 会 報 告 書 ) 2008.12.<http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/12/dl/s1210-5a.pdf>; 批 判 的 な 報 道 の 例 として は 雇 用 保 険 料 が 消 えていく 私 のしごと 館 と NHK 関 連 会 社 の 妙 な 関 係 建 設 費 580 億 円 収 入 1 億 円 なのに 運 営 費 15 億 円 設 計 9 億 円 共 同 受 注 ビデオ 制 作 5 億 に 人 件 費 も 東 京 新 聞 2005.12.18. 23 独 立 行 政 法 人 整 理 合 理 化 計 画 ( 閣 議 決 定 ) 2007.12.24, p.47. <http://www.gyoukaku.go.jp/siryou/tokusyu/h191224/gourika_zentai.pdf> 24 雇 用 能 力 開 発 機 構 の 廃 止 について( 閣 議 決 定 ) 2008.12.24. <http://www.kantei.go.jp/jp/singi/gyokaku/kettei/081224honbun.pdf> 25 厚 生 労 働 省 第 3 回 私 のしごと 館 に 係 る 建 物 等 の 有 効 活 用 検 討 会 議 事 録 2009.11.26. <http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/txt/s1126-8.txt>; 独 立 行 政 法 人 雇 用 能 力 開 発 機 構 私 のしごと 館 の 早 期 閉 館 について 2009.11. <http://www.ehdo.go.jp/new/n_2009/pdf/shigotokan.pdf > 26 会 計 検 査 院 特 殊 法 人 等 から 移 行 した 独 立 行 政 法 人 の 業 務 運 営 の 状 況 について ( 平 成 18 年 度 会 計 検 査 院 法 第 30 条 の 2 の 規 定 に 基 づく 報 告 書 )2007.9. <http://report.jbaudit.go.jp/org/h18/zuiji1/2006-h18-3048-0.htm> 27 行 政 減 量 効 率 化 有 識 者 会 議 雇 用 能 力 開 発 機 構 の 存 廃 についての 方 針 ( 大 綱 ) 2008.9.17. <http://www.gyoukaku.go.jp/genryoukourituka/dai56/shiryou1-1.pdf> 28 職 業 能 力 大 学 校 本 校 売 却 へ 厚 労 相 が 方 針 事 業 仕 分 け の 際 に 批 判 集 中 朝 日 新 聞 2010.1.30. 5

Ⅱ 平 成 22 年 の 雇 用 保 険 法 改 正 の 概 要 政 府 は 第 174 回 通 常 国 会 に 雇 用 保 険 法 の 改 正 法 案 を 2 本 提 出 した 雇 用 保 険 法 の 一 部 を 改 正 する 法 律 案 ( 閣 法 第 2 号 平 成 22 年 1 月 成 立 平 成 22 年 法 律 第 2 号 )と 続 け て 提 出 された 雇 用 保 険 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 案 ( 閣 法 第 8 号 )である 前 者 は 平 成 21 年 度 第 2 次 補 正 予 算 関 連 であり 後 者 は 平 成 22 年 度 予 算 案 関 連 である なお 労 働 保 険 特 別 会 計 の 失 業 等 給 付 及 び 雇 用 保 険 二 事 業 の 収 支 状 況 と 雇 用 保 険 料 率 の 推 移 については 巻 末 別 表 を 参 照 されたい 1 失 業 等 給 付 の 国 庫 負 担 ( 閣 法 第 2 号 ) 失 業 等 給 付 の 国 庫 負 担 は 平 成 19 年 の 改 革 で 13.75%に 引 き 下 げられた 29 が 平 成 21 年 の 雇 用 保 険 法 改 正 ( 平 成 21 年 法 律 第 5 号 )の 際 衆 参 両 院 で 4 分 の 1 に 戻 すことを 検 討 すること との 附 帯 決 議 が 全 会 一 致 で 附 された 30 民 主 党 は 平 成 21 年 8 月 の 総 選 挙 の マニフェストで 雇 用 保 険 における 国 庫 負 担 を 法 律 の 本 則 である 1/4 に 戻 す と 公 約 した 政 権 交 代 後 の 同 年 10 月 厚 生 労 働 省 は 平 成 22 年 度 予 算 の 概 算 要 求 にこれを 盛 り 込 んだ 31 ところが 平 成 22 年 度 予 算 案 には 反 映 されず 32 平 成 21 年 12 月 に 閣 議 決 定 された 明 日 の 安 心 と 成 長 のための 緊 急 経 済 対 策 ( 以 下 緊 急 経 済 対 策 という) 33 に 基 づき 平 成 21 年 度 第 2 次 補 正 予 算 案 に 国 庫 負 担 として 3500 億 円 が 計 上 された 同 予 算 案 は 平 成 22 年 1 月 28 日 に 成 立 した これを 受 け 閣 法 第 2 号 において 平 成 21 年 度 における 失 業 等 給 付 費 の 一 部 に 充 てるため 国 庫 は 3500 億 円 を 負 担 する ( 雇 用 保 険 法 附 則 第 14 条 ) と 定 められた 3500 億 円 の 根 拠 は 22 年 1 月 から 3 月 及 び 22 年 度 の 国 庫 負 担 復 帰 相 当 分 34 と 説 明 されており 15 か 月 間 限 定 で 国 庫 負 担 が 本 則 に 戻 されたに 等 しい 金 額 が 措 置 されたことになる 一 方 で 恒 久 的 な 国 庫 負 担 のあり 方 については 閣 法 第 2 号 において 平 成 22 年 度 中 に 検 討 し 平 成 23 年 度 において 安 定 した 財 源 を 確 保 した 上 で 附 則 第 13 条 に 規 定 する 国 庫 負 担 に 関 する 暫 定 措 置 を 廃 止 するものとする ( 雇 用 保 険 法 附 則 第 15 条 )と 定 められ 議 論 が 先 送 りされている 結 果 として 補 正 予 算 による 緊 急 対 策 という 性 格 と 恒 久 的 な 国 庫 負 担 引 き 上 げに 向 けた 暫 定 的 な 措 置 という 性 格 を 併 せ 持 つ 曖 昧 な 措 置 となった 29 4 頁 参 照 雇 用 保 険 法 の 本 則 の 国 庫 負 担 率 は 改 正 せず 附 則 により 当 分 の 間 の 措 置 として 本 則 の 55%に 引 き 下 げた 30 第 171 回 国 会 衆 議 院 厚 生 労 働 委 員 会 議 録 第 4 号 平 成 21 年 3 月 18 日 p.25; 同 参 議 院 厚 生 労 働 委 員 会 会 議 録 第 5 号 平 成 21 年 3 月 27 日 pp.1-2. 31 厚 生 労 働 省 平 成 22 年 度 予 算 概 算 要 求 について 2009.10.15. <http://www.mhlw.go.jp/seisaku/kaigi/2009/10/dl/k1019-1h.pdf> 32 将 来 にわたる 支 出 増 につながるとして 財 務 省 が 難 色 を 示 したと 報 道 されている 失 業 手 当 強 化 へ 給 付 向 けに 3 千 億 円 朝 日 新 聞 2009.12.3. 33 明 日 の 安 心 と 成 長 のための 緊 急 経 済 対 策 2009.12.8 閣 議 決 定 <http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2009/1208kinkyuukeizaitaisaku.pdf> 34 第 7 回 厚 生 労 働 省 政 策 会 議 議 事 要 旨 2010.1.14. <http://www.mhlw.go.jp/seisaku/kaigi/2010/01/k0114-2.html> 6

2 雇 用 保 険 二 事 業 の 財 政 基 盤 の 強 化 ( 閣 法 第 8 号 ) (1) 失 業 等 給 付 の 積 立 金 からの 借 り 入 れ 閣 法 第 8 号 には 雇 用 保 険 二 事 業 の 財 源 不 足 を 補 うため 特 別 会 計 に 関 する 法 律 ( 平 成 19 年 法 律 第 23 号 )を 改 正 し 平 成 22 年 度 および 平 成 23 年 度 限 りの 暫 定 的 な 措 置 として 失 業 等 給 付 の 積 立 金 から 借 り 入 れる 仕 組 みを 導 入 することが 盛 り 込 まれている 緊 急 経 済 対 策 により 雇 用 調 整 助 成 金 の 支 給 要 件 が 緩 和 されたことにより 雇 用 保 険 二 事 業 の 支 出 が 増 加 し 雇 用 安 定 資 金 を 大 幅 に 取 り 崩 さなければならない 見 込 みとなったことがその 背 景 にある 35 この 仕 組 みは 先 に 緊 急 対 策 として 3500 億 円 の 国 庫 負 担 が 投 入 されたばかりの 失 業 等 給 付 から 財 政 の 逼 迫 がより 懸 念 される 雇 用 保 険 二 事 業 に 資 金 を 貸 し 出 すことを 可 能 とす るものである 平 成 22 年 度 予 算 案 では 4400 億 円 が 計 上 されている この 仕 組 みは 全 額 事 業 主 負 担 が 原 則 である 雇 用 保 険 二 事 業 の 資 金 不 足 を 労 使 折 半 の 保 険 料 と 国 庫 負 担 が 投 入 されている 失 業 等 給 付 の 資 金 を 貸 し 出 すという 形 で 労 働 者 と 国 庫 に 一 部 負 担 させるものと 捉 えることもできる 過 去 の 無 駄 遣 い がこの 資 金 不 足 の 一 因 であるとすれば 労 働 者 と 国 庫 に 余 分 な 負 担 を 強 いることになるのではないか といった 議 論 に 発 展 する 可 能 性 がある (2) 弾 力 条 項 の 発 動 停 止 雇 用 保 険 二 事 業 の 保 険 料 率 について 弾 力 条 項 ( 労 働 保 険 の 保 険 料 の 徴 収 等 に 関 する 法 律 ( 昭 和 44 年 法 律 第 84 号 以 下 徴 収 法 という ) 第 12 条 第 8 項 )の 発 動 を 停 止 する 措 置 が 盛 り 込 まれている( 徴 収 法 改 正 附 則 第 11 条 ) 弾 力 条 項 とは 法 改 正 に 拠 らず 財 政 状 況 によって 自 動 的 に 保 険 料 率 を 改 定 する 仕 組 みである 結 果 として 平 成 22 年 度 の 保 険 料 率 は 現 行 規 定 のままだと 3.0/1000 のところ 改 正 案 ( 閣 法 第 8 号 )では 3.5/1000 となる 3 雇 用 保 険 の 適 用 範 囲 の 拡 大 ( 閣 法 第 8 号 ) (1) 非 正 規 労 働 者 に 対 する 適 用 範 囲 の 拡 大 閣 法 第 8 号 では 非 正 規 労 働 者 に 対 する 適 用 範 囲 の 拡 大 を 図 ろうとしている 短 時 間 労 働 者 の 適 用 基 準 について 6 か 月 以 上 の 雇 用 見 込 み と 厚 生 労 働 省 職 業 安 定 局 長 による 通 達 として 発 せられている 業 務 取 扱 要 領 に 規 定 されているところを 31 日 以 上 に 緩 和 し 雇 用 形 態 を 問 わず 31 日 以 上 雇 用 されることが 見 込 まれない 者 を 適 用 除 外 ( 雇 用 保 険 法 改 正 第 6 条 )する 形 で 法 律 に 明 文 化 しようとするものである 30 日 以 内 の 期 間 を 定 めて 雇 用 される 者 および 日 々 雇 用 される 者 は 日 雇 労 働 被 保 険 者 と して 適 用 を 受 ける 可 能 性 がある( 雇 用 保 険 法 第 42~43 条 )ため これまで 適 用 範 囲 の 穴 となっていた 31 日 以 上 6 か 月 未 満 の 雇 用 見 込 み に 該 当 する 部 分 が 埋 まり 労 働 時 間 36 等 の 条 件 を 満 たした 全 ての 労 働 者 に 雇 用 保 険 適 用 への 道 が 開 かれることになる ただし 適 用 対 象 者 であっても 勤 続 期 間 が 短 いために 受 給 要 件 を 満 たさず 受 給 できない 35 労 働 政 策 審 議 会 職 業 安 定 分 科 会 雇 用 保 険 部 会 報 告 書 2009.12.28, pp.4-5. <http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000003hce-img/2r98520000003hdw.pdf> 36 日 雇 労 働 被 保 険 者 を 除 き 週 20 時 間 以 上 雇 用 保 険 法 改 正 第 6 条 7

者 や 受 給 期 間 が 満 了 した 長 期 失 業 者 などもいる こうした 者 への 生 活 支 援 や 就 労 支 援 が 課 題 として 残 される (2) 遡 及 適 用 期 間 の 改 善 閣 法 第 8 号 には 適 用 範 囲 の 拡 大 に 関 してこのほかに 事 業 主 が 被 保 険 者 資 格 取 得 の 届 出 を 行 わなかったため 雇 用 保 険 に 未 加 入 とされた 者 に 対 して 現 行 の 遡 及 適 用 期 間 である 2 年 を 超 えて 遡 及 適 用 する 措 置 が 盛 り 込 まれている( 雇 用 保 険 法 改 正 第 14 条 第 2 項 第 2 号 第 22 条 第 5 項 ) 遡 及 適 用 については 平 成 11 年 に 通 算 して 20 年 以 上 雇 用 保 険 料 を 納 付 してきた 労 働 者 が 退 職 時 まで 事 業 主 が 被 保 険 者 資 格 取 得 届 を 公 共 職 業 安 定 所 に 提 出 することを 失 念 し ていた 事 例 についての 行 政 相 談 があった この 例 では 法 定 の 遡 及 適 用 期 間 である 2 年 し か 遡 及 されず 本 来 210 日 分 の 受 給 資 格 があるにもかかわらず 90 日 分 しか 受 給 できな かった これを 受 けて 総 務 庁 行 政 監 察 局 ( 当 時 )は 遡 及 適 用 期 間 の 改 善 などを 図 るよう 労 働 省 ( 当 時 )にあっせんした 37 雇 用 保 険 料 の 納 付 先 ( 労 働 基 準 監 督 署 )と 資 格 取 得 届 の 届 出 先 ( 公 共 職 業 安 定 所 )が 異 なるため 収 納 システムと 個 々の 労 働 者 のデータが 別 管 理 となっており 38 保 険 料 を 納 付 しているにもかかわらず 資 格 取 得 が 漏 れている 事 例 は 珍 しい 話 ではない と 指 摘 され ている 39 おわりに 雇 用 保 険 制 度 は 保 険 事 業 と 職 業 訓 練 や 雇 用 調 整 助 成 金 などを 含 む 雇 用 保 険 二 事 業 によ って 成 り 立 っている 日 本 では 雇 用 政 策 のほとんどを 雇 用 保 険 制 度 の 枠 内 で 行 っており 失 業 等 給 付 の 国 庫 負 担 と 不 況 時 の 緊 急 対 策 を 除 くと 一 般 会 計 による 雇 用 政 策 が 極 めて 少 な い 40 国 庫 負 担 と 雇 用 保 険 二 事 業 の 事 業 主 負 担 のあり 方 を 議 論 する 際 には 雇 用 政 策 全 体 をみて その 負 担 のあり 方 を 検 討 する 必 要 がある 例 えば 失 業 等 給 付 の 国 庫 負 担 に 関 する 過 去 の 財 政 制 度 等 審 議 会 の 議 論 の 中 でも 国 庫 負 担 の 廃 止 等 をするなら 国 庫 による 失 業 扶 助 制 度 を 検 討 すべき との 意 見 もあった 41 失 業 扶 助 とは 雇 用 保 険 を 受 給 できない 失 業 者 に 対 して 国 が 現 金 を 支 給 する 制 度 であり 欧 州 の 多 くの 国 で 採 用 されている 受 給 要 件 を 満 たさない 者 や 受 給 期 間 が 満 了 した 長 期 失 37 総 務 庁 行 政 監 察 局 事 業 主 が 雇 用 保 険 被 保 険 者 資 格 取 得 届 の 提 出 を 失 念 したため 不 利 益 を 被 った 被 保 険 者 に 係 る 失 業 等 給 付 の 基 本 手 当 の 所 定 給 付 日 数 の 算 定 (あっせん) 1999.7.13. <http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/daijinkanbou/990713_a.pdf> 38 第 156 回 国 会 参 議 院 厚 生 労 働 委 員 会 会 議 録 第 10 号 平 成 15 年 4 月 24 日 p.28. 西 川 きよし 参 議 院 議 員 の 質 疑 に 対 する 青 木 豊 厚 生 労 働 大 臣 官 房 審 議 官 ( 当 時 )の 答 弁 39 北 見 昌 朗 労 務 管 理 の 怖 い 落 とし 穴 2 雇 用 保 険 の 資 格 取 得 に 漏 れはないか! ベンチャー リンク 2001.7, pp.66-67. 40 財 団 法 人 日 本 経 済 団 体 連 合 会 ( 日 本 経 団 連 ) 官 民 協 力 による 若 年 者 雇 用 対 策 の 充 実 について 労 働 市 場 のマ ッチング 機 能 強 化 に 向 けて 2007.4.17, p.13. <http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/030.pdf> 日 本 経 団 連 は 事 業 主 の 相 互 扶 助 である 雇 用 保 険 二 事 業 の 無 原 則 な 拡 大 は 行 うべきではなく 事 業 を 絶 えず 精 査 し 事 業 主 拠 出 の 雇 用 保 険 料 で 負 担 することが 説 明 できない 施 策 については 一 般 会 計 による 負 担 も 検 討 し ていくべきである と 主 張 している 41 財 務 省 財 政 制 度 等 審 議 会 財 政 制 度 分 科 会 歳 出 合 理 化 部 会 及 び 財 政 構 造 改 革 部 会 合 同 部 会 議 事 要 旨 <http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/gijiyosi/zaiseic/zaiseic181031.htm> 8

業 者 または 雇 用 保 険 の 適 用 を 受 けない 自 営 業 者 が 廃 業 した 場 合 や 職 業 経 験 のない 若 者 が 職 に 就 けない 場 合 などが 対 象 となる 類 似 の 制 度 として 平 成 21 年 度 一 般 会 計 第 1 次 補 正 予 算 による 緊 急 対 策 として 現 在 行 われている 緊 急 人 材 育 成 支 援 事 業 がある 雇 用 保 険 を 受 給 できない 失 業 者 が 職 業 訓 練 を 受 講 する 場 合 に 生 活 費 を 支 援 する 制 度 である この 事 業 は 平 成 22 年 度 までの 予 定 だが 現 在 恒 久 的 な 制 度 創 設 に 向 け 労 働 政 策 審 議 会 42 等 で 検 討 が 始 まっている 日 本 の 現 在 の 制 度 でも 欧 州 の 失 業 扶 助 制 度 でも 生 活 費 の 支 援 は 職 業 訓 練 などの 就 労 支 援 とセットで 行 われている 働 かずに 給 付 を 受 けることが 得 にならないようにし モラルハザードを 防 ぐ 仕 組 みといえる しかし 最 低 賃 金 43 で 1 日 8 時 間 月 20 日 働 いて も 現 在 の 給 付 金 額 12 万 円 ( 被 扶 養 者 を 有 する 者 )に 満 たないため 働 くよりも 働 かず に 職 業 訓 練 を 受 けている 方 が 得 になってしまうという 問 題 もある 働 くことが 得 になるようにするには 同 時 に ワーキングプア 対 策 働 く 人 の 劣 悪 な 労 働 条 件 への 対 策 も 行 う 必 要 がある 雇 用 の 安 心 を 確 保 する 総 合 的 な 政 策 が 求 められている 42 厚 生 労 働 省 第 56 回 労 働 政 策 審 議 会 職 業 安 定 分 科 会 雇 用 保 険 部 会 資 料 2010.2.4. <http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/s0204-3.html> 43 平 成 21 年 度 地 域 別 最 低 賃 金 全 国 加 重 平 均 額 713 円 8 時 間 20 日 =114,080 円 厚 生 労 働 省 平 成 21 年 度 地 域 別 最 低 賃 金 改 定 状 況 <http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-02.htm> 9

10 別 表 失 業 等 給 付 雇 用 保 険 三 事 業 労 働 保 険 特 別 会 計 雇 用 勘 定 の 収 支 状 況 と 雇 用 保 険 料 率 の 推 移 ( 億 円 ) 10 年 度 11 年 度 12 年 度 13 年 度 14 年 度 15 年 度 16 年 度 17 年 度 18 年 度 19 年 度 20 年 度 21 年 度 (2 22 年 度 次 補 正 後 ) ( 予 算 案 ) 収 入 17,397 17,317 16,239 23,830 25,886 25,321 25,377 28,978 28,764 22,214 22,896 20,165 22,258 うち 保 険 料 収 入 12,929 12,335 12,164 18,251 19,211 20,242 20,435 23,856 24,528 19,402 19,664 13,697 (20,408) うち 失 業 等 給 付 に 係 る 国 庫 負 担 金 3,078 4,012 3,354 4,884 6,417 4,494 4,267 3,462 1,953 1,190 1,604 5,887 3,002 支 出 27,018 27,806 26,660 27,275 26,820 21,321 17,416 16,972 15,261 14,917 15,907 24,608 29,459 うち 失 業 等 給 付 費 25,762 26,550 25,138 26,007 25,292 19,618 14,672 13,772 12,803 12,598 13,496 22,605 26,790 差 引 剰 余 -9,621-10,489-10,421-3,445-934 4,000 7,962 12,006 13,503 7,297 6,989-4,443-7,201 積 立 金 残 高 29,354 18,865 8,443 4,998 4,064 8,064 16,026 28,032 41,535 48,832 55,821 51,400 39,799 収 入 5,660 5,399 5,324 5,346 5,255 5,123 5,193 5,254 5,401 5,168 5,230 5,199 10,039 支 出 4,680 5,392 6,015 5,839 4,853 4,124 3,892 3,683 3,578 3,195 5,649 11,992 12,350 雇 用 安 定 事 業 1,689 1,557 1,481 1,448 1,846 4,362 能 力 開 発 事 業 1,509 1,432 1,395 1,345 1,294 1,262 雇 用 福 祉 事 業 917 893 798 773 - - - - 差 引 剰 余 980 7-691 -493 402 999 1,301 1,571 1,823 1,972-419 -6,793-2,311 雇 用 安 定 資 金 残 高 3,786 3,793 3,102 2,609 3,011 4,010 5,312 6,883 8,706 10,679 10,260 3,467 1,155155 失 業 等 給 付 保 険 料 率 ( 労 使 折 半 ) 二 ( 三 ) 事 業 保 険 料 率 ( 使 用 者 負 担 ) 国 庫 負 担 率 ( 基 本 手 当 ) 8/1000 12/1000 14/1000 16/1000 12/1000 8/1000 12/1000 3.5/1000 3/1000 3.5/1000 14.00% 25.00% 13.75% ( 注 ) 空 欄 は 不 明 平 成 21 年 度 第 2 次 補 正 後 予 算 の 失 業 等 給 付 収 入 の うち 失 業 等 給 付 に 係 る 国 庫 負 担 金 には 第 2 次 補 正 予 算 に 計 上 された3,500 億 円 の 国 庫 負 担 が 含 まれて いる( 本 文 Ⅱ1 参 照 ) 平 成 22 年 度 予 算 案 の 失 業 等 給 付 収 入 の うち 保 険 料 収 入 は 概 算 要 求 額 積 立 金 残 高 と 雇 用 保 険 二 事 業 の 収 入 には 4,400 億 円 の 賃 借 が 反 映 されて いる( 本 文 Ⅱ2(1) 参 照 ) 財 政 運 営 関 係 資 料 に 掲 載 されていない 数 値 については 実 績 評 価 書 及 び 予 算 書 決 算 書 から 読 み 取 れる 範 囲 で 記 載 した 計 算 上 端 数 処 理 の 都 合 で 誤 差 が 生 ずる 場 合 がある 雇 用 福 祉 事 業 廃 止 後 も 経 過 措 置 で7~51 億 円 / 年 度 の 予 算 が 計 上 されている ( 出 典 ) 労 働 政 策 審 議 会 職 業 安 定 分 科 会 雇 用 保 険 部 会 配 付 資 料 財 政 運 営 関 係 資 料 ( 第 50 回 部 会, 2009.10.28. 28 <http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/10/dl/s1028-5a.pdf> など); 厚 生 労 働 省 平 成 14 年 度 実 績 評 価 書 (4-4-I) <http://www.mhlw.go.jp/wp/seisaku/jigyou/02jisseki/dl/4-4-1.pdf>; 財 務 省 予 算 書 決 算 書 を 基 に 筆 者 作 成 調 査 と 情 報 -ISSUE BRIEF- No.674