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別紙3

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特 集 雇 用 の 変 化 と 社 会 保 険 健 康 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 と 課 題 田 極 春 美 ( 三 菱 UFJ リサーチ&コンサルティング 主 任 研 究 員 ) 我 が 国 では, 国 民 皆 保 険 の 理 念 の 下, 原 則 としてすべての 国 民 が 公 的 医 療 保 険 制 度 に 加 入 し, 保 険 給 付 を 受 ける 公 的 医 療 保 険 制 度 は, 健 康 保 険 など 被 用 者 を 対 象 にした 被 用 者 保 険 と 被 用 者 以 外 を 対 象 とした 国 民 健 康 保 険,75 歳 以 上 を 対 象 とした 高 齢 者 医 療 制 度 に 大 別 される 現 在, 制 度 間 や 被 保 険 者 被 扶 養 者 間 で 給 付 率 は 統 一 されてい るが, 保 険 料 の 計 算 方 法 や 保 険 料 額 は 異 なる 新 たに 健 康 保 険 の 適 用 対 象 となるのは, 国 民 健 康 保 険 の 加 入 者 か 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 であるため, 健 康 保 険 の 被 保 険 者 となること で, 保 険 料 負 担 が 減 る 人 もいれば, 新 たに 保 険 料 を 負 担 することになる 人 もいる また, 適 用 対 象 となる 短 時 間 労 働 者 を 多 く 雇 用 する 企 業 では 保 険 料 負 担 が 増 える さらに, 各 保 険 者 が 拠 出 する 後 期 高 齢 者 支 援 金 等 の 額 は 被 扶 養 者 数 を 含 めた 加 入 者 数 が 反 映 されるた め, 被 扶 養 者 が 減 る 保 険 者 ではこの 財 政 負 担 が 減 るが, 被 保 険 者 とそれに 伴 う 被 用 者 が 増 える 保 険 者 では 負 担 額 が 増 える 平 成 31 年 9 月 末 までに 更 なる 適 用 拡 大 について 検 討 す ることとされているが, 短 時 間 労 働 者 への 適 用 拡 大 は 当 事 者 関 係 者 の 財 政 負 担 に 大 きな 影 響 をもたらすため, 今 後 も 紆 余 曲 折 が 予 想 される 健 康 保 険 は,フルタイムの 常 用 雇 用 者 を 対 象 とした 制 度 設 計 運 営 が 行 われてきたが, 制 度 創 設 時 とは 社 会 経 済 構 造 や 就 業 形 態 等 も 大 きく 変 わっている こうした 変 化 や 超 高 齢 社 会 への 備 えの 観 点 からも, 大 局 的 な 視 点 で 議 論 が 行 われることを 望 む 目 次 Ⅰ はじめに Ⅱ 問 題 の 所 在 公 的 医 療 保 険 制 度 の 構 造 と 適 用 Ⅲ 公 的 医 療 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 Ⅳ 今 後 の 課 題 等 Ⅴ おわりに Ⅰ はじめに 平 成 24 年 8 月 10 日, 公 的 年 金 制 度 の 財 政 基 盤 及 び 最 低 保 障 機 能 の 強 化 等 のための 国 民 年 金 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 ( 平 成 24 年 法 律 第 62 号 ) ( 以 下, 年 金 機 能 強 化 法 という)が 成 立 した 同 法 の 成 立 により, 来 年, 平 成 28 年 10 月 から, 短 時 間 労 働 者 への 厚 生 年 金 健 康 保 険 の 適 用 拡 大 が 行 われることとなった 16 新 たに 厚 生 年 金 健 康 保 険 の 適 用 対 象 となるの は,1 週 の 所 定 労 働 時 間 が 20 時 間 以 上 であるこ と,2 賃 金 が 月 額 8.8 万 円 ( 年 収 106 万 円 ) 以 上 であること,3 勤 務 期 間 が 1 年 以 上 見 込 まれるこ と,4 学 生 ではないこと,5 従 業 員 501 人 以 上 の 企 業 であること,といった 5 つの 要 件 を 満 たす 短 時 間 労 働 者 である その 対 象 者 数 は 約 25 万 人 と 見 込 まれているが,この 要 件 では 適 用 対 象 者 とな らない 週 所 定 労 働 時 間 が 20 時 間 以 上 30 時 間 未 満 の 短 時 間 労 働 者 が 全 体 で 400 万 人 いると 推 計 され ていること 1) を 踏 まえると, 今 回 の 適 用 拡 大 は 非 常 に 限 定 的 であると 評 価 しても 差 し 支 えないだろ う 年 金 機 能 強 化 法 は 順 調 に 成 立 したわけではな い 社 会 保 険 の 適 用 拡 大 によって, 新 たに 適 用 対 象 となる 労 働 者 を 雇 用 する 事 業 主 は 保 険 料 負 担 が

論 文 健 康 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 と 課 題 増 えるなど 影 響 も 大 きく, 短 時 間 労 働 者 を 多 く 雇 用 している 流 通 業 界 等 を 中 心 に 適 用 拡 大 に 対 する 反 対 も 強 かった 2) また, 消 費 税 引 き 上 げに 伴 う 事 業 主 の 事 務 負 担 の 増 大 や, 雇 用 に 及 ぼす 影 響 な どに 対 する 懸 念 の 声 もあった こうした 状 況 を 受 け, 年 金 機 能 強 化 法 案 は, 国 会 審 議 の 中 で, 民 主 党 ( 当 時, 政 権 与 党 ), 自 由 民 主 党 及 び 公 明 党 の 三 党 による 協 議 を 経 て, 一 部 修 正 が 行 われた 主 な 修 正 内 容 は,1 適 用 対 象 となる 賃 金 要 件 の 引 き 上 げ,2 施 行 時 期 の 延 期,3 3 年 以 内 の 見 直 し 規 定 である 国 会 に 提 出 された 年 金 機 能 強 化 法 案 では, 賃 金 要 件 を 7.8 万 円 以 上 としていたため, 約 45 万 人 が 新 たに 適 用 対 象 となると 見 込 まれていた しかし, 賃 金 要 件 を 8.8 万 円 以 上 に 引 き 上 げたた め, 新 たな 適 用 対 象 者 は 当 初 想 定 より 20 万 人 少 ない 25 万 人 という 規 模 に 縮 小 された また, 施 行 時 期 について, 当 初 は 平 成 28 年 4 月 とし ていたが, 平 成 28 年 10 月 に 延 期 された さ らに, 施 行 後 3 年 までに 適 用 範 囲 をさらに 拡 大 する と 適 用 拡 大 の 方 向 を 明 記 していた 規 定 につ いては, 施 行 後 3 年 以 内 に 検 討 を 加 え,その 結 果 に 基 づき, 必 要 な 措 置 を 講 じる と 中 立 的 な 表 現 に 抑 えられた こうして 平 成 28 年 10 月 から 開 始 される 適 用 拡 大 は 限 定 的 なものとなったが, 年 金 機 能 強 化 法 成 立 以 降 も, 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 報 告 書 ( 平 成 25 年 8 月 6 日 )をはじめ, 社 会 保 障 制 度 改 革 プログラム 法 3), 経 済 財 政 諮 問 会 議 経 済 財 政 運 営 と 改 革 の 基 本 方 針 2014 ( 平 成 26 年 6 月 24 日 閣 議 決 定 )などでも 短 時 間 労 働 者 に 対 する 社 会 保 険 の 更 なる 適 用 拡 大 は 課 題 として 取 り 上 げられ ている 年 金 機 能 強 化 法 の 附 則 により, 平 成 31 年 9 月 30 日 までに 検 討 を 加 え,その 結 果 に 基 づき, 必 要 な 措 置 を 講 じる とされていることか ら, 更 なる 適 用 拡 大 に 向 けた 議 論 は 今 後 も 続 く 見 込 みである 本 稿 では,こうした 背 景 を 踏 まえ, 平 成 28 年 10 月 からの 適 用 拡 大 というよりもむしろ 今 後 の 更 なる 適 用 拡 大 に 焦 点 を 当 てた 上 で, 健 康 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 と 課 題 について 分 析 考 察 することとする Ⅱ 問 題 の 所 在 公 的 医 療 保 険 制 度 の 構 造 と 適 用 最 初 に, 我 が 国 の 公 的 医 療 保 険 制 度 の 構 造 につ いて 概 略 を 整 理 し,そもそも 健 康 保 険 制 度 におけ る 適 用 とはどういうことか, 適 用 拡 大 に 際 し てどのような 配 慮 が 求 められるのかなど, 適 用 に 関 する 問 題 の 根 源 に 触 れておきたい この 理 由 は, 従 来 より, 健 康 保 険 と 厚 生 年 金 では 被 保 険 者 の 適 用 に 際 して 同 じ 基 準 が 用 いられており, 年 金 機 能 強 化 法 でも 同 時 に 適 用 拡 大 を 行 うこととなってい るが, 両 者 では 制 度 改 革 に 際 して 考 慮 すべき 内 容 やステイクホルダーとそれぞれへの 影 響, 被 保 険 者 となることのメリットなど 異 なる 部 分 も 多 いか らである 1 多 元 的 な 医 療 保 険 制 度 体 系 と 国 民 皆 保 険 我 が 国 の 医 療 保 険 制 度 は, 長 らく, 被 用 者 保 険 と 国 民 健 康 保 険 の 二 元 的 な 制 度 体 系 で あった 平 成 20 年 4 月 に 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 が 開 始 となったため, 現 在 は 3 つの 制 度 体 系 となっ ている 職 域 をベースとする 被 用 者 保 険 について 4) は 健 康 保 険 法 船 員 保 険 法, 各 種 共 済 組 合 法 等 の 各 法 により, 国 民 健 康 保 険 については 国 民 健 康 保 険 法 により, 高 齢 者 医 療 制 度 については 高 齢 者 の 医 療 の 確 保 に 関 する 法 律 ( 高 齢 者 医 療 確 保 法 ) により,それぞれ 運 営 されている この ような 多 元 的 な 制 度 体 系 の 下 で, 各 法 律 を 根 拠 と する 複 数 の 医 療 保 険 者 ( 以 下, 保 険 者 とする) が 制 度 を 運 営 しているというのが 我 が 国 の 医 療 保 険 制 度 の 特 徴 である そして, 原 則 としてすべて の 国 民 がいずれかの 保 険 に 加 入 することで 国 民 皆 保 険 を 実 現 している 5) 平 成 25 年 3 月 末 時 点 に 6) おける 各 医 療 保 険 の 加 入 者 数 は, 健 康 保 険 が 約 6448 万 人 ( 全 体 の 約 51%), 船 員 保 険 が 約 13 万 人, 各 種 共 済 が 約 900 万 人 ( 約 7%), 国 民 健 康 保 険 が 約 3768 万 人 ( 全 体 の 30%), 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 が 約 1517 万 人 ( 約 12%)である 7) 3 つの 類 型 別 に 加 入 者 数 をみれば, 被 用 者 保 険 が 約 6 割, 国 民 健 康 保 険 が 約 3 割, 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 が 約 1 割 という 状 況 である 先 に すべての 国 民 がいずれかの 保 険 に 加 入 す 日 本 労 働 研 究 雑 誌 17

る と 述 べたが, 我 が 国 の 公 的 医 療 保 険 制 度 では, 国 民 は 自 分 が 加 入 する 保 険 者 を 自 由 に 選 択 するこ とはできない 8) 75 歳 以 上 の 高 齢 者 の 場 合 は, 就 業 の 有 無 にかかわらず, 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 の 加 入 者 ということになり, 住 所 地 の 都 道 府 県 後 期 高 齢 者 医 療 広 域 連 合 がその 運 営 主 体 ( 保 険 者 )と なる 9) 一 方,75 歳 未 満 の 場 合 は, 被 用 者 保 険 の 適 用 対 象 者 であれば 被 用 者 保 険 の 被 保 険 者 とな る また,その 家 族 については, 保 険 者 が 被 扶 養 者 として 認 定 すれば 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 とな る 75 歳 未 満 で 被 用 者 保 険 の 被 保 険 者 被 扶 養 者 のいずれにも 該 当 しない 場 合 は, 住 所 地 の 市 町 村 が 保 険 者 となる 国 民 健 康 保 険 の 加 入 者 というこ とになる 10) つまり, 国 民 健 康 保 険 は, 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 の 対 象 者 ではなく, 被 用 者 保 険 の 被 保 険 者 被 扶 養 者 でもないなど, 他 の 公 的 医 療 保 険 制 度 ではカバーされない 者 を 広 く 加 入 者 として 受 け 止 める 国 民 皆 保 険 制 度 の 最 終 的 な 支 え 手 (ラストリゾート) 11) となっている 国 民 健 康 保 険 法 第 5 条 では, 市 町 村 又 は 特 別 区 ( 以 下 単 に 市 町 村 という )の 区 域 内 に 住 所 を 有 する 者 は, 当 該 市 町 村 が 行 う 国 民 健 康 保 険 の 被 保 険 者 とす る と 規 定 しており, 住 所 を 有 する 者 は 法 律 上 当 然 に 12) 国 民 健 康 保 険 の 被 保 険 者 となる 形 式 を 採 っている このように 第 5 条 で 国 民 皆 保 険 の 下 地 をつくりながら, 法 第 6 条 により, 被 用 者 保 険 の 被 保 険 者 被 扶 養 者, 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 の 被 保 険 者 など 他 の 制 度 でカバーされる 者 を 市 町 村 国 民 健 康 保 険 の 適 用 除 外 者 として 規 定 することで, 重 複 加 入 を 避 ける 仕 組 みとなっている こうした 制 度 体 系 のもとで, 個 人 は, 生 涯 を 通 じてみると, 被 用 者 保 険 の 被 保 険 者 の 時 期 もあれ ば, 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 や 国 民 健 康 保 険 の 加 入 者, 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 の 加 入 者 の 時 期 もあると いったように, 就 業 状 況 や 年 齢 等 により, 加 入 す る 制 度 や 保 険 者 が 変 わりうるものとなっている 前 述 のとおり, 国 民 健 康 保 険 は 適 用 除 外 規 定 に 該 当 しない 限 り 法 律 上 当 然 に 被 保 険 者 となる 制 度 で あり, 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 は 75 歳 以 上 であれば 就 業 の 有 無 にかかわらず 被 保 険 者 となる 制 度 であ る しかし, 被 用 者 保 険 では 被 保 険 者 としての 資 格 を 有 するか 否 かという 判 断 がなされ, 被 保 険 者 18 としての 資 格 を 有 している 場 合 は 適 用 対 象 とな る つまり, 就 業 により 当 然 に 被 用 者 保 険 の 被 保 険 者 となるわけではない 被 用 者 であるが 被 保 険 者 として 適 用 されない 場 合, 例 えば, 被 用 者 保 険 の 被 保 険 者 となっている 配 偶 者 がいる 場 合 で, 被 扶 養 者 の 要 件 を 満 たしていれば 配 偶 者 が 加 入 する 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 となるが, 一 定 額 以 上 の 収 入 があって 被 扶 養 者 として 認 定 されない 場 合 など は, 国 民 健 康 保 険 の 被 保 険 者 となる 被 用 者 保 険 で 最 も 多 くの 加 入 者 をカバーしてい るのは 健 康 保 険 制 度 である 健 康 保 険 制 度 では, 組 合 管 掌 健 康 保 険 ( 保 険 者 は 各 健 康 保 険 組 合 )と 全 国 健 康 保 険 協 会 管 掌 健 康 保 険 ( 協 会 けんぽ) ( 保 険 者 は 全 国 健 康 保 険 協 会 )の 2 種 類 の 保 険 があ る 健 康 保 険 組 合 は 大 企 業 が 中 心 であり, 全 国 健 康 保 険 協 会 は 中 小 企 業 が 中 心 となっている 健 康 保 険 組 合 と 全 国 健 康 保 険 協 会 はどちらも 同 じ 公 法 人 であるが, 健 康 保 険 組 合 では 解 散 が 認 められる のに 対 し, 全 国 健 康 保 険 協 会 は 解 散 が 認 められな い, 全 国 健 康 保 険 協 会 には 給 付 費 等 に 対 する 定 率 の 国 庫 負 担 があるが, 健 康 保 険 組 合 にはないなど, いくつか 違 いがある 13) 現 在, 加 入 者 数 は, 協 会 けんぽが 約 3500 万 人 ( 被 保 険 者 が 約 2000 万 人, 被 扶 養 者 が 約 1500 万 人 ), 組 合 健 保 が 約 3000 万 人 ( 被 保 険 者 が 約 1600 万 人, 被 扶 養 者 が 約 1400 万 人 ) である 2 被 用 者 保 険 における 適 用 と 認 定 健 康 保 険 法 では, 被 保 険 者 とは 適 用 事 業 所 に 使 用 される 者 及 び 任 意 継 続 被 保 険 者 と 定 義 され ており( 健 康 保 険 法 第 3 条 第 1 項 ), 任 意 継 続 被 保 険 者 の 場 合 を 除 くと, 労 働 者 が 健 康 保 険 制 度 の 被 保 険 者 となるか 否 かはまず 勤 務 する 事 業 所 が 健 康 保 険 制 度 の 適 用 事 業 所 か 否 かという 事 業 所 単 位 での 判 断 が 必 要 となる 現 行 法 では, 適 用 事 業 所 の 範 囲 は, 制 度 創 設 当 初 と 比 較 すると 広 くなっ ている 法 人 の 事 業 所 であれば, 健 康 保 険 法 第 3 条 第 3 項 の 法 定 16 業 種 14) か 否 か,あるいは 常 時 雇 用 者 数 が 5 人 以 上 か 否 かといった 要 件 に 関 わら ず 適 用 事 業 所 となる( 強 制 適 用 事 業 所 ) また, 個 人 の 事 業 所 であっても, 法 定 16 業 種 で 常 時 5 人 以 上 の 従 業 員 を 使 用 する 場 合 は 適 用 事 業 所 となる

論 文 健 康 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 と 課 題 ( 強 制 適 用 事 業 所 ) さらに,これらに 該 当 しない 個 人 の 事 業 所 についても 所 定 の 手 続 きを 踏 むこと で 任 意 適 用 事 業 所 となることができるため, 現 在 の 健 康 保 険 法 では 事 業 所 単 位 でみると,かなり 広 く 適 用 されると 考 えてよい 事 業 所 が 健 康 保 険 制 度 の 適 用 事 業 所 任 意 適 用 事 業 所 である 場 合 に, 次 に, 労 働 者 個 人 単 位 での 被 保 険 者 の 資 格 要 件 を 満 たすか 否 かという 判 断 がなされる 健 康 保 険 法 では, 例 えば,2 カ 月 以 内 の 期 間 を 定 めて 臨 時 に 使 用 される 者 や 4 カ 月 以 内 の 季 節 的 業 務 に 使 用 される 者 等 は, 被 保 険 者 となることができない としている( 健 康 保 険 法 第 3 条 第 1 項 ) 健 康 保 険 法 では,こうした 就 業 期 間 についての 規 定 がある 一 方 で,パートタイム 労 働 者 などの 短 時 間 労 働 者 に 関 する 規 定 は 設 けら れていない パートタイム 労 働 者 などの 短 時 間 労 働 者 の 適 用 基 準 を 示 すものとしては, 昭 和 55 年 6 月 6 日 に, 厚 生 省 保 険 局 保 険 課 長 社 会 保 険 庁 医 療 保 険 部 健 康 保 険 課 長 社 会 保 険 庁 年 金 保 険 部 厚 生 年 金 保 険 課 長 の 3 者 連 名 で 出 された 内 翰 ( 以 下, 55 年 内 翰 とする)がある この 55 年 内 翰 では, 被 用 者 について 健 康 保 険 及 び 厚 生 年 金 保 険 が 適 用 されるべきか 否 かは, 健 康 保 険 法 及 び 厚 生 年 金 保 険 法 の 趣 旨 から 当 該 就 労 者 が 当 該 事 業 所 と 常 用 的 使 用 関 係 にあるかどうかにより 判 断 す べきもの としている そして, 留 意 点 として, 1 常 用 的 使 用 関 係 にあるか 否 かは, 当 該 就 労 者 の 労 働 日 数, 労 働 時 間, 就 労 形 態, 職 務 内 容 等 を 総 合 的 に 勘 案 して 認 定 すべきものであること, 2 その 場 合,1 日 又 は 1 週 の 所 定 労 働 時 間 及 び 1 月 の 所 定 労 働 日 数 が 当 該 事 業 所 において 同 種 の 業 務 に 従 事 する 通 常 の 就 労 者 の 所 定 労 働 時 間 及 び 所 定 労 働 日 数 のおおむね 4 分 の 3 以 上 である 就 労 者 については, 原 則 として 健 康 保 険 及 び 厚 生 年 金 保 険 の 被 保 険 者 として 取 り 扱 うべきものであるこ と(いわゆる 4 分 の 3 要 件 ),3 2に 該 当 す る 者 以 外 の 者 であっても1の 趣 旨 に 従 い, 被 保 険 者 として 取 り 扱 うことが 適 当 な 場 合 があると 考 え られるので,その 認 定 に 当 たっては, 当 該 就 労 者 の 就 労 の 形 態 等 個 々 具 体 的 事 例 に 即 して 判 断 すべ きものであること が 示 されている 現 在, 健 康 保 険 厚 生 年 金 では,この 内 翰 で 示 された 4 分 の 3 要 件 を 基 準 として, 短 時 間 労 働 者 に 対 する 適 用 判 断 が 行 われている より 具 体 的 にいえば, 正 社 員 の 週 所 定 労 働 時 間 が 40 時 間 の 事 業 所 の 場 合, 週 30 時 間 以 上 のパートタイム 労 働 者 が 健 康 保 険 の 適 用 対 象 となり, 被 保 険 者 としての 資 格 を 有 することになる なお, 現 行 法 においては 被 保 険 者 の 適 用 に 関 する 賃 金 要 件 はない したがって, 例 えば, 時 給 700 円 の 短 時 間 労 働 者 が 週 30 時 間, 月 120 時 間 勤 務 した 場 合, 月 収 は 8 万 4000 円 と なる 現 行 法 では 適 用 対 象 となるが, 平 成 28 年 10 月 からの 適 用 拡 大 では, 月 8.8 万 円 の 賃 金 要 件 があるため, 適 用 対 象 外 となる 15) 現 行 法 において,4 分 の 3 要 件 に 満 たない 短 時 間 労 働 者 については, 健 康 保 険 の 被 保 険 者 の 配 偶 者 である 場 合, 年 収 が 130 万 円 以 上 であれば, 国 民 健 康 保 険 の 被 保 険 者 ( 年 金 の 場 合 は 国 民 年 金 の 第 1 号 被 保 険 者 )となるが, 年 収 が 130 万 円 未 満 で あれば, 配 偶 者 の 被 扶 養 者 と 認 定 され, 配 偶 者 の 加 入 する 健 康 保 険 の 被 扶 養 者 ( 年 金 の 場 合 は 国 民 年 金 の 第 3 号 被 保 険 者 )ということになる 先 の 例 の 場 合, 年 収 は 100 万 8000 円 となるので, 年 収 要 件 だけで 判 断 すれば, 被 扶 養 者 と 認 定 されう る 3 公 的 医 療 保 険 制 度 における 負 担 と 給 付 我 が 国 の 医 療 保 障 制 度 は,ドイツやフランスと 同 様 に 社 会 保 険 方 式 を 採 用 している 社 会 保 険 方 式 以 外 の 医 療 保 障 制 度 としては,イギリスの NHS(NationalHealthService)を 代 表 とする 税 方 式 がある 社 会 保 険 方 式 や 税 方 式 というのは, 医 療 保 障 の 財 源 が 保 険 料 なのか 税 なのかといった 財 源 の 違 いだけではなく, 加 入 者 の 権 利 性 や 制 度 運 営 に 対 する 国 家 の 関 与 の 度 合 いなど, 実 は 大 き な 違 いがある 民 間 医 療 保 険 においては, 基 本 的 に, 個 人 はリ スクに 応 じた 保 険 料 を 負 担 し, 保 険 契 約 の 内 容 に 応 じた 保 険 給 付 を 受 ける 例 えば, 保 険 給 付 の 内 容 が 同 じであれば, 年 齢 が 高 くなるほど 生 活 習 慣 病 等 の 疾 病 リスクが 高 まるため, 年 齢 が 高 い 人 ほ ど 保 険 料 は 高 くなる 仕 組 みとなっている 当 然 な がら, 保 険 料 を 支 払 わない 限 り 保 険 給 付 を 受 ける ことができない これに 対 して, 公 的 医 療 保 険 で 日 本 労 働 研 究 雑 誌 19

は, 個 人 単 位 での 給 付 反 対 給 付 均 等 原 則 が 求 め られず, 保 険 集 団 としての 収 支 相 等 の 原 則 が 求 め られる 程 度 であり, 実 際 に, 保 険 料 負 担 方 法 とし てはリスクに 応 じた 保 険 料 負 担 ではなく 負 担 能 力 に 応 じた 保 険 料 負 担 ( 応 能 負 担 )の 仕 組 みが 取 り 入 れられている 要 するに, 公 的 医 療 保 険 制 度 に おいては, 高 所 得 者 ほど 多 くの 保 険 料 を 負 担 する 仕 組 みとなっている また, 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 の 場 合 は, 保 険 料 の 負 担 がないが, 被 保 険 者 と 同 様 の 保 険 給 付 が 受 けられる 我 が 国 の 公 的 医 療 保 険 制 度 における 保 険 料 負 担 がどのようになっているのか 概 要 を 述 べる 健 康 保 険 制 度 と 国 民 健 康 保 険 では 保 険 料 の 算 出 方 法 が 大 きく 異 なる 健 康 保 険 制 度 では, 労 務 の 提 供 の 対 価 として 事 業 主 から 支 払 われる 報 酬 月 額 ( 給 与 )をもとに 標 準 報 酬 月 額 が 決 定 される 標 準 報 酬 月 額 は, 第 1 級 (5 万 8000 円 )から 第 47 級 (121 万 円 16) )まで の 47 の 等 級 区 分 があり,それぞれ 被 保 険 者 の 報 酬 月 額 に 該 当 する 等 級 の 標 準 報 酬 月 額 が 適 用 され る 17) 平 成 15 年 からは 毎 月 の 給 与 の 他 に, 賞 与 も 保 険 料 の 賦 課 対 象 となり, 標 準 賞 与 額 が 適 用 さ れる この 標 準 報 酬 月 額 標 準 賞 与 額 に 保 険 料 率 を 乗 じたものが 保 険 料 額 となる なお, 保 険 料 率 は 健 保 組 合 ごとに 異 なっている 協 会 けんぽにつ いては, 保 険 者 は 全 国 健 康 保 険 協 会 という 1 つの 全 国 組 織 であるが, 保 険 料 率 については 都 道 府 県 単 位 の 設 定 となっている 保 険 料 率 は 健 康 保 険 組 合 及 び 全 国 健 康 保 険 協 会 といった 保 険 者 が 定 める もの( 厚 生 労 働 大 臣 の 認 可 が 必 要 )であるが, 料 率 については 3 ~ 12%の 範 囲 内 と 上 限 下 限 が 定 められている( 健 康 保 険 法 第 160 条 ) 保 険 者 は 費 用 支 出 に 見 合 った 収 入 を 得 ることができるよう, 保 険 料 率 を 設 定 することが 求 められる 単 純 に 考 えれば, 同 じ 費 用 支 出 額 の 保 険 者 があった 場 合, 平 均 標 準 報 酬 月 額 が 高 ければ 保 険 料 率 は 低 くなる が, 逆 に 報 酬 額 が 低 いと 保 険 料 率 は 高 くなるとい うことになる 同 じ 所 得 の 被 保 険 者 がいた 場 合, 加 入 する 保 険 者 によって 保 険 料 が 異 なるというこ とでもある 平 成 26 年 度 健 保 組 合 予 算 早 期 集 計 結 果 の 概 要 によると, 健 保 組 合 の 平 均 は 8.861%, 協 会 けんぽの 全 国 平 均 が 10.0%であった 先 程 述 20 べた 方 法 で 算 出 された 保 険 料 額 については, 事 業 主 と 被 保 険 者 が 折 半 して 負 担 し 18) ( 健 康 保 険 法 第 161 条 第 1 項 ), 事 業 主 が 被 保 険 者 負 担 分 と 合 わせ て 納 付 する 義 務 を 負 っている ただし, 健 康 保 険 組 合 の 場 合 は, 規 約 により, 保 険 料 の 事 業 主 負 担 割 合 を 高 めることができる( 健 康 保 険 法 第 162 条 ) 次 に 国 民 健 康 保 険 の 保 険 料 負 担 19) についてで あるが, 個 人 の 所 得 や 資 産 といった 経 済 的 負 担 能 力 に 応 じて 賦 課 される 部 分 ( 応 能 割 )と 1 世 帯 当 たり, 被 保 険 者 1 人 当 たりの 定 額 負 担 といった 形 で 賦 課 される 部 分 ( 応 益 割 )とがある 応 能 割 と 応 益 割 については 50:50 となることが 望 ましい とされている 国 保 の 保 険 料 賦 課 限 度 額 ( 上 限 額 ) は 年 65 万 円 となっている 一 方, 低 所 得 者 に 対 しては 保 険 料 軽 減 措 置 があり,その 財 源 は 公 費 と なっている 国 保 においては, 被 用 者 保 険 におけ る 事 業 主 負 担 に 相 当 するものがないこと, 財 政 基 盤 が 弱 いことなどを 理 由 に 多 額 の 公 費 が 投 入 され ている 20) このように, 健 康 保 険 制 度 と 国 民 健 康 保 険 制 度 では 保 険 料 の 賦 課 対 象 や 算 出 方 法 が 大 きく 異 な る 健 康 保 険 制 度 では 稼 得 所 得 ( 給 与 賞 与 )の みを 賦 課 対 象 ( 応 能 割 のみ)としているのに 対 し, 国 民 健 康 保 険 制 度 では 応 能 割 以 外 に 応 益 割 が 設 け られている 21) 被 用 者 と 被 用 者 以 外 では 稼 得 形 態 や 所 得 捕 捉 率 等 も 異 なっており, 保 険 料 の 賦 課 対 象 や 算 出 方 法 が 異 なるのも 理 解 はできる 一 方 で, 市 町 村 国 民 健 康 保 険 の 被 保 険 者 が 様 変 わりしているという 点 も 見 逃 せない 国 民 皆 保 険 から 間 もない 昭 和 40 年 度 では, 市 町 村 国 民 健 康 保 険 の 加 入 者 ( 世 帯 主 の 職 業 )は 農 林 水 産 業 が 約 4 割, 自 営 業 者 が 4 分 の 1 を 占 めていた( 合 計 で 7 割 ) しかし, 現 在 は, 無 職 者 が 4 割 強, 被 用 者 が 3 割 強 を 占 める 状 況 である したがって, 国 民 健 康 保 険 については 以 前 であれば 農 林 水 産 業 従 事 者 と 自 営 業 者 の 保 険 といえたが, 現 在 は 無 職 者 と 被 用 者 の 保 険 といってもよいかもし れない 国 民 健 康 保 険 の 被 用 者 の 所 得 分 布 ( 基 礎 控 除 後 )をみると,100 万 円 未 満 が 約 4 割,100 万 円 以 上 200 万 円 未 満 が 約 3 割,200 万 円 以 上 が 約 3 割 となっている 国 民 健 康 保 険 における 被 用 者 の 中 には, 現 行 の 被 用 者 保 険 の 適 用 要 件 では 被

論 文 健 康 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 と 課 題 保 険 者 資 格 が 得 られない 者 も 含 まれており,この 点 が 問 題 といえる 次 に 保 険 給 付 について 述 べると, 療 養 の 給 付 に ついては, 健 康 保 険 制 度 と 国 民 健 康 保 険 制 度, 健 康 保 険 制 度 中 でも 被 保 険 者 と 被 扶 養 者 とでは, 従 来, 給 付 率 が 異 なっていたが, 平 成 15 年 4 月 か らは 給 付 率 の 統 一 化 が 図 られ, 全 制 度 で 給 付 率 が 7 割 に 統 一 された 22) 我 が 国 の 公 的 医 療 保 険 には 高 額 療 養 費 制 度 があり, 患 者 自 己 負 担 額 の 上 限 が 設 けられている 高 額 療 養 費 制 度 では, 年 齢 と 所 得 に 応 じてこの 患 者 自 己 負 担 限 度 額 が 異 なるもの の,それ 以 外 の 理 由 による 違 いはない このよう に 療 養 の 給 付 面 においては, 年 齢 と 所 得 によって 給 付 率 が 異 なる 部 分 があるものの, 各 制 度 や 被 保 険 者 被 扶 養 者 といった 資 格 では 同 じ 状 況 となっ ている 一 方, 被 用 者 保 険 では 支 給 される 傷 病 手 当 金 出 産 手 当 金 などの 一 部 の 現 金 給 付 について は, 国 民 健 康 保 険 では 任 意 給 付 の 扱 いであり, 法 定 されていない 23) このように, 公 的 医 療 保 険 制 度 においては, 保 険 料 負 担 に 応 じた 保 険 給 付 とはなっていないた め 24), 同 じ 給 付 内 容 であれば 個 人 は 保 険 料 負 担 をできるだけ 少 なくしたいと 考 えても 不 思 議 では ない 被 用 者 保 険 と 国 民 健 康 保 険 の 被 用 者 の 保 険 料 負 担 について 着 目 すると, 被 用 者 保 険 では 扶 養 家 族 についての 保 険 料 負 担 はないが, 国 民 健 康 保 険 では 世 帯 人 数 に 応 じた 保 険 料 負 担 がある 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 の 場 合, 保 険 料 の 負 担 がなく 保 険 給 付 を 同 様 に 受 けられるため, 被 保 険 者 となる 場 合 のメリットがわかりにくい 状 況 となっている 4 高 齢 者 医 療 制 度 との 関 係 平 成 18 年 に 高 齢 者 の 医 療 の 確 保 に 関 する 法 律 が 成 立 し, 平 成 20 年 4 月 から 現 行 の 高 齢 者 医 療 制 度 が 開 始 された 65 歳 以 上 74 歳 以 下 を 対 象 とした 前 期 高 齢 者 医 療 制 度 と 75 歳 以 上 を 対 象 とした 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 がある この うち, 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 は 他 制 度 とは 完 全 に 独 立 した 制 度 であり,75 歳 以 上 の 者 は 就 業 の 有 無 等 に 関 わらず, 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 の 加 入 者 とな る 一 方, 前 期 高 齢 者 医 療 制 度 は 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 とは 全 く 異 なるもので,65 歳 から 74 歳 まで の 者 は 現 在 加 入 している 医 療 保 険 制 度 に 加 入 した まま, 当 該 高 齢 者 の 医 療 給 付 費 に 対 して, 保 険 者 間 で 財 政 調 整 を 行 う 仕 組 みである 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 の 財 源 は, 後 期 高 齢 者 の 保 険 料 が 約 1 割, 現 役 世 代 の 保 険 料 からの 支 援 金 が 約 4 割, 公 費 が 約 5 割 といった 負 担 割 合 で 賄 うこ ととなっている 各 保 険 者 が 負 担 する 後 期 高 齢 者 支 援 金 の 額 は 後 期 高 齢 者 支 援 金 単 価 に 加 入 者 数 を 乗 じて 算 出 される( 加 入 者 割 ) ここでの 加 入 者 数 とは 被 保 険 者 のみならず 被 扶 養 者 も 含 めた 人 数 であり,0 歳 から 74 歳 までの 被 保 険 者 被 扶 養 者 の 合 計 人 数 である したがって, 扶 養 率 が 高 い 保 険 者 ほど 被 保 険 者 1 人 あたりの 保 険 料 負 担 が 重 くなる 仕 組 みである 平 成 22 年 度 以 降, 特 例 措 置 により 被 用 者 保 険 分 については 3 分 の 1 の 総 報 酬 割 が 導 入 された 現 在, 国 会 に 提 出 されている 持 続 的 な 医 療 保 険 制 度 を 構 築 するための 国 民 健 康 保 険 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 案 では 段 階 的 に 全 面 総 報 酬 割 に 移 行 していく 予 定 であり, 平 成 27 年 度 が 2 分 の 1,28 年 度 が 3 分 の 2,そして 29 年 度 からは 全 面 的 に 総 報 酬 割 とすることと なっている 前 期 高 齢 者 医 療 制 度 では, 前 期 高 齢 者 医 療 給 付 費 について, 各 保 険 者 は 自 らの 加 入 者 に 対 する 給 付 を 行 うが, 財 源 は 加 入 者 の 前 期 高 齢 者 1 人 あた りの 保 険 給 付 費 及 び 前 期 高 齢 者 に 係 る 後 期 高 齢 者 支 援 金 について, 全 国 平 均 並 みの 前 期 高 齢 者 が 加 入 しているとした 場 合 の 加 入 者 数 を 乗 じた 金 額 を 負 担 することになる このように, 前 期 高 齢 者 納 付 金 と 後 期 高 齢 者 支 援 金 等 の 被 用 者 保 険 からの 拠 出 金 については 一 部 総 報 酬 割 が 導 入 されているものの 加 入 者 数 に 応 じ た 負 担 があるため, 被 保 険 者 数 被 扶 養 者 数 の 増 加 により,これらの 拠 出 額 も 増 えるという 構 造 に なっている 平 成 23 年 度 の 健 康 保 険 組 合 の 保 険 料 収 入 は 6.5 兆 円 であるが, 後 期 高 齢 者 支 援 金 前 期 高 齢 者 納 付 金 等 の 拠 出 額 は 約 2.9 兆 円 であり, 保 険 料 収 入 に 対 する 割 合 は 4 割 を 超 える 規 模 と なっており, 保 険 者 にとって 大 きな 負 担 となって いる 被 用 者 保 険 においては, 被 扶 養 者 数 が 増 え ると 後 期 高 齢 者 支 援 金 等 の 負 担 が 増 えるというこ とになる 日 本 労 働 研 究 雑 誌 21

22 Ⅲ 公 的 医 療 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 健 康 保 険 の 適 用 拡 大 によって 具 体 的 にどのよう な 影 響 があるのか,ここでは 述 べてみたい 少 し データは 古 くなるが, 適 用 拡 大 による 影 響 等 を 分 析 したものとして, 健 康 保 険 組 合 連 合 会 就 業 形 態 の 多 様 化 が 医 療 保 険 制 度 に 与 える 影 響 等 に 関 す る 調 査 研 究 報 告 書 ( 平 成 23 年 6 月 )がある こ の 調 査 研 究 は 筆 者 が 携 わったものであるが, 健 康 保 険 における 適 用 拡 大 を 雇 用 保 険 並 みと 仮 定 した 場 合 のシミュレーションを 行 い,その 影 響 等 を 分 析 したものである 平 成 28 年 10 月 からの 適 用 拡 大 は 限 定 的 な 内 容 となり, 財 政 影 響 が 大 きな 保 険 者 に 対 する 調 整 措 置 25) が 行 われることが 決 まっ ていることから, 適 用 拡 大 の 影 響 は 以 下 に 記 載 す る 内 容 と 比 べて 影 響 は 小 さくなるものと 思 われ る しかし, 今 後 もより 一 層 の 適 用 拡 大 に 向 けた 議 論 が 行 われる 予 定 であることから, 更 なる 適 用 拡 大 を 行 った 場 合 にどのような 影 響 があるのかを 明 らかにしておくことは 意 義 があると 考 える そ こで, 更 なる 適 用 拡 大 を 行 った 場 合 に 健 康 保 険 制 度 や 健 康 保 険 組 合 にどのような 影 響 があるか, 以 下 に 整 理 した 1 健 康 保 険 制 度 への 影 響 週 所 定 労 働 時 間 が 20 時 間 以 上 の 短 時 間 労 働 者 を 健 康 保 険 制 度 の 適 用 対 象 者 とした 場 合 の 影 響 と して 次 の 3 点 が 挙 げられる 第 一 に, 当 然 ながら 健 康 保 険 の 被 保 険 者 数 は 増 加 するが, 一 方 で 健 康 保 険 の 被 扶 養 者 数 が 減 少 す るということである 試 算 の 結 果, 健 康 保 険 全 体 では, 適 用 拡 大 により 被 保 険 者 数 は 約 477 万 人 ( 適 用 拡 大 前 の 被 保 険 者 数 の 13.4%) 増 加 する 見 込 みとなった 適 用 拡 大 により 新 たに 適 用 対 象 とな る 短 時 間 労 働 者 の 特 徴 としては,1 女 性 が 多 いこ と( 新 たな 適 用 者 の 4 人 に 3 人 が 女 性 ),2 国 保 加 入 者 よりも 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 からの 資 格 異 動 者 が 多 いこと( 具 体 的 には, 国 保 からの 異 動 者 が 181 万 人 であるのに 対 し, 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 から の 異 動 者 が 296 万 人 となった),3 業 種 により 偏 り がみられること,である このうち,3 つ 目 の 点 について 詳 細 を 述 べると, 小 売 業 が 約 179 万 人 ( 適 用 対 象 者 の 37.5%), 飲 食 店 宿 泊 業 が 67 万 人 ( 同 14.0%), 生 活 関 連 サービス 業 が 約 41 万 人 ( 同 8.6%), 事 業 関 連 等 サービス 業 が 約 38 万 人 ( 同 8.0%)であった 小 売 業 と 飲 食 店 宿 泊 業 だけで 新 適 用 対 象 者 の 5 割 を 超 える 計 算 である 第 二 に, 平 均 標 準 報 酬 月 額 が 大 幅 に 低 下 すると いうことである 試 算 によれば, 新 適 用 対 象 者 の 平 均 月 収 は 約 7 万 8000 円 であり, 健 康 保 険 組 合 の 被 保 険 者 における 平 均 標 準 報 酬 月 額 の 2 割 程 度 の 水 準 となった( 平 成 22 年 度 予 算 ベース) 既 に 適 用 対 象 となっているフルタイムに 近 い 有 期 契 約 労 働 者 と 比 較 しても, 労 働 時 間 が 短 いこと,また 賃 金 水 準 も 低 いことから, 標 準 報 酬 月 額 は 相 対 的 に 低 くなる また, 新 たな 適 用 対 象 者 の 8 割 強 が 時 給 制 日 給 制 の 賃 金 支 払 い 形 態 であり, 賞 与 の ない 者 が 多 い したがって, 新 たな 適 用 対 象 者 が 多 くなるほど, 健 康 保 険 制 度 における 被 保 険 者 全 体 の 平 均 標 準 報 酬 月 額 が 低 下 することが 予 想 され る 第 三 に, 健 康 保 険 財 政 が 現 在 よりも 悪 化 する 可 能 性 が 高 くなるということである 健 康 保 険 全 体 でみると, 適 用 拡 大 により, 健 康 保 険 の 被 扶 養 者 から 新 たに 被 保 険 者 となる 人 は 約 296 万 人 であ る この 対 象 者 については, 被 扶 養 者 として 既 に 医 療 給 付 費 や 後 期 高 齢 者 支 援 金 前 期 高 齢 者 納 付 金 などは 健 康 保 険 制 度 内 で 発 生 負 担 しているた め, 制 度 全 体 でみれば,この 対 象 者 の 保 険 料 は 支 出 増 加 を 伴 わない 純 然 たる 収 入 増 といえる 一 方, 国 民 健 康 保 険 から 健 康 保 険 の 被 保 険 者 へ 移 行 する 人 は 約 181 万 人 であり,その 被 扶 養 者 は 約 47 万 人 の 見 込 みである 被 保 険 者 の 保 険 料 収 入 と, 被 保 険 者 及 び 被 扶 養 者 に 係 る 医 療 給 付 費, 後 期 高 齢 者 支 援 金 前 期 高 齢 者 納 付 金 などが 新 たな 増 加 分 となる 試 算 では, 保 険 料 率 を 8.2%( 平 成 21 年 の 協 会 けんぽの 保 険 料 率 )とした 場 合, 適 用 拡 大 による 新 たな 被 保 険 者 数 の 増 加 により 保 険 料 収 入 は 約 3200 億 円 の 増 加 となるが, 医 療 給 付 費 が 約 3800 億 円, 後 期 高 齢 者 支 援 金 が 約 987 億 円, 前 期 高 齢 者 納 付 金 が 約 873 億 円,それぞれ 増 加 す る 見 込 みとなるため, 健 康 保 険 制 度 全 体 では 約 2460 億 円 のマイナスが 発 生 することが 見 込 まれ

論 文 健 康 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 と 課 題 る ここで 注 目 したい 点 は,そもそも 新 たな 適 用 対 象 者 の 保 険 料 収 入 が 医 療 給 付 費 を 下 回 るという ことである このマイナス 分 を 保 険 料 だけで 賄 う とすると, 現 在 の 健 康 保 険 の 被 保 険 者 全 体 の 保 険 料 率 を 一 律 1.64 分 引 き 上 げることが 必 要 となる 計 算 である 2 健 康 保 険 組 合 への 影 響 等 先 の 調 査 研 究 の 中 では, 健 康 保 険 制 度 全 体 への 影 響 だけではなく,3 つの 健 康 保 険 組 合 における 適 用 拡 大 の 影 響 等 に 関 するシミュレーションを 行 った この 結 果,1 被 保 険 者 数 が 2 倍 近 くにな る 健 康 保 険 組 合 (A B 健 康 保 険 組 合 )がある 一 方 で,ほとんど 被 保 険 者 数 が 変 わらない 健 康 保 険 組 合 (C 健 康 保 険 組 合 )もあること,2 被 保 険 者 数 が 増 える 健 康 保 険 組 合 では 医 療 給 付 費 を 始 め, 後 期 高 齢 者 支 援 金 前 期 高 齢 者 納 付 金 等 も 増 えるが, 新 たに 適 用 される 短 時 間 労 働 者 の 標 準 報 酬 月 額 が 総 じて 低 いため 財 政 が 悪 化 すること,3 一 方 で, 被 扶 養 者 数 が 減 る 健 康 保 険 組 合 ではこれらの 支 出 額 が 減 り, 財 政 が 改 善 すること,4 結 果 的 に 保 険 料 率 が 高 い 健 康 保 険 組 合 でより 保 険 料 率 を 引 き 上 げる 必 要 性 が 生 じ, 保 険 料 率 が 低 い 健 康 保 険 組 合 では 保 険 料 率 を 引 き 下 げることが 可 能 な 状 況 が 発 生 し, 健 保 組 合 間 の 格 差 を 拡 大 させること,など が 示 された( 表 参 照 ) また, 短 時 間 労 働 者 への 適 用 拡 大 により, 健 康 保 険 組 合 における 資 格 取 得 喪 失 等 に 係 る 業 務 量 が 増 えることが 示 唆 された 例 えば,B 健 康 保 険 組 合 の 場 合, 被 保 険 者 数 が 現 在 の 1.88 倍 に 増 え ると 見 込 まれたが,これは 現 在 の 業 務 量 から 推 計 すると 担 当 者 1 名 を 増 員 する 業 務 量 となるという ことであった Ⅳ 今 後 の 課 題 等 Ⅲで 述 べた 適 用 拡 大 の 影 響 等 については, 前 提 条 件 として 雇 用 保 険 並 みの 適 用 拡 大 としたため, 賃 金 要 件 等 が 加 味 されていない この 結 果, 賃 金 の 低 い 短 時 間 労 働 者 が 比 較 的 多 く 含 まれることと なり,この 影 響 が 強 く 反 映 された 結 果 となったと いえる しかし, 影 響 の 大 小 はあるものの,これ らの 試 算 の 結 果 は, 健 康 保 険 における 短 時 間 労 働 者 への 適 用 拡 大 を 進 める 上 でのいくつかの 課 題 を 明 らかにしたといえる 第 一 に, 大 幅 な 適 用 拡 大 を 進 めた 場 合 には, 現 表 週 所 定 労 働 時 間 20 時 間 以 上 の 短 時 間 労 働 者 を 対 象 に 適 用 拡 大 を 図 った 場 合 の 各 健 康 保 険 組 合 への 影 響 A 健 保 組 合 B 健 保 組 合 C 健 保 組 合 業 種 小 売 業 外 食 産 業 電 気 機 器 産 業 被 保 険 者 数 約 10 万 人 約 1.5 万 人 約 3.1 万 円 扶 養 率 0.54 0.62 1.10 保 険 料 率 約 8.0% 約 7.0% 約 6.0% 適 用 拡 大 の 影 響 加 入 者 数 +10.5 万 人 +1.6 万 人 0.4 万 人 前 期 高 齢 者 加 入 率 +8.5% +8.9% +0.1% 医 療 給 付 費 増 加 額 1 + 約 183 億 円 +27 億 円 4 億 円 後 期 高 齢 者 支 援 金 2 +45.4 億 円 +6.8 億 円 1.4 億 円 前 期 高 齢 者 納 付 金 3 33.8 億 円 2.9 億 円 0.8 億 円 1+2+3 +194.6 億 円 +30.9 億 円 6.2 億 円 必 要 保 険 料 率 約 10.636% 約 10.223% 約 5.703% 出 所 : 健 康 保 険 組 合 連 合 会 就 業 形 態 の 多 様 化 が 医 療 保 険 制 度 に 与 える 影 響 等 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書 ( 平 成 23 年 6 月 )をもとに 作 成 注 : 平 成 22 年 の 各 健 保 組 合 の 数 値 をもとに, 週 所 定 労 働 時 間 20 時 間 以 上 のみを 要 件 とした 適 用 拡 大 を 行 った 場 合 の 各 健 保 組 合 の 被 保 険 者 数 被 扶 養 者 数 の 変 化 を 把 握 し,それに 伴 い, 医 療 給 付 費, 後 期 高 齢 者 支 援 金, 前 期 高 齢 者 納 付 金 がどのように 変 化 するかシミュレーションを 行 った これらの 費 用 増 減 と 平 均 標 準 報 酬 額 の 低 下 により 最 終 的 に 必 要 保 険 料 率 がどうなるか 計 算 している 日 本 労 働 研 究 雑 誌 23

行 と 同 じ 保 険 料 率 では 健 康 保 険 財 政 は 全 体 として 今 よりも 悪 化 することが 予 想 されるが,これをど のように 穴 埋 めしていくかという 問 題 である 収 支 相 等 の 原 則 からすれば, 支 出 に 見 合 う 保 険 料 を 賦 課 徴 収 することが 求 められる 必 要 な 保 険 料 収 入 を 得 るためには, 平 均 標 準 報 酬 月 額 が 下 がれ ば 保 険 料 率 を 引 き 上 げるということになろう し かし,これは 容 易 なことではない 前 述 のとおり, 保 険 料 は 被 保 険 者 と 事 業 主 が 折 半 して 負 担 してい るため, 保 険 料 率 の 引 上 げについては 被 保 険 者 の みならず, 事 業 主 の 了 解 を 得 ることが 必 要 だから である 現 行 法 では, 各 健 康 保 険 組 合 は 3 ~ 12%の 範 囲 で 保 険 料 率 を 設 定 することとなってお り, 上 限 と 下 限 が 定 められている 平 成 24 年 度 の 保 険 料 率 別 組 合 数 の 割 合 をみると, 保 険 料 率 が 9.5% 以 上 の 組 合 が 全 健 保 組 合 の 22.0%を 占 めて おり, 協 会 けんぽの 平 均 保 険 料 率 である 10.0% 以 上 となった 健 康 保 険 組 合 が 48 組 合 あった 近 年, 保 険 料 率 が 高 い 健 康 保 険 組 合 などを 中 心 に 健 康 保 険 組 合 を 解 散 し, 協 会 けんぽに 移 行 する 動 きもみ られる 平 成 18 年 度 には 1541 あった 健 保 組 合 が 平 成 24 年 度 には 1431 組 合 にまで 減 少 してい る 26) 協 会 けんぽの 場 合, 旧 政 管 健 保 の 時 代 よ り 給 付 費 等 に 対 する 定 率 ( 現 在 16.4%)の 国 庫 負 担 が 投 入 されている( 平 成 26 年 度 予 算 額 で 1.2 兆 円 ) 適 用 拡 大 により 保 険 料 率 を 引 き 上 げなけれ ばならない 健 保 組 合 の 中 には, 解 散 に 追 い 込 まれ てしまうところも 出 てくると 思 われる 第 二 に 後 期 高 齢 者 支 援 金 前 期 高 齢 者 納 付 金 の 負 担 のあり 方 の 問 題 が 挙 げられる 前 述 のとおり, 現 行 の 後 期 高 齢 者 支 援 金 や 前 期 高 齢 者 納 付 金 の 負 担 額 の 計 算 方 法 では, 加 入 者 数 ( 被 保 険 者 数 と 被 扶 養 者 の 合 計 )が 大 きな 影 響 を 与 える つまり, 適 用 拡 大 により 被 保 険 者 数 とその 被 扶 養 者 数 が 増 えれば, 支 援 金 納 付 金 の 負 担 額 も 増 える 仕 組 み となっている これらの 高 齢 者 医 療 制 度 に 対 する 被 用 者 保 険 からの 拠 出 額 は 保 険 料 収 入 の 4 割 を 超 える 規 模 となっており, 財 政 影 響 が 大 きい 短 時 間 労 働 者 が 多 い 小 売 業 や 外 食 産 業 などでは 平 均 標 準 報 酬 月 額 が 低 く 保 険 料 率 が 高 い 健 康 保 険 組 合 が 多 いため, 適 用 拡 大 による 財 政 影 響 が 特 に 大 きい 被 用 者 保 険 の 被 扶 養 者 からの 異 動 者 が 新 適 用 対 象 24 者 のおよそ 6 割 を 占 めていることから, 適 用 拡 大 は 納 付 金 支 援 金 の 負 担 者 の, 被 用 者 保 険 の 保 険 者 間 でいわば 付 け 替 えという 側 面 も 持 つといえる だろう これについては, 今 回 の 適 用 拡 大 に 際 し て, 負 担 が 重 くなる 健 保 組 合 の 状 況 を 政 府 も 認 識 しており, 短 時 間 労 働 者 など 賃 金 が 低 い 加 入 者 が 多 く,その 保 険 料 負 担 が 重 い 医 療 保 険 者 に 対 し, その 負 担 を 軽 減 する 観 点 から, 賃 金 が 低 い 加 入 者 の 高 齢 者 支 援 金 介 護 給 付 金 の 負 担 について, 被 用 者 保 険 間 で 広 く 分 かち 合 う 特 例 措 置 を 導 入 す ることが 明 記 されており, 具 体 的 な 検 討 が 行 われ ている また, 負 担 方 法 については 段 階 的 に 加 入 者 割 から 総 報 酬 割 に 切 り 替 えが 進 んでいく 予 定 で あるため, 支 援 金 等 についての 適 用 拡 大 の 影 響 は 緩 和 されていくものと 思 われる 第 三 に 扶 養 認 定 基 準 との 整 合 性 の 問 題 がある 短 時 間 労 働 者 の 適 用 拡 大 を 進 める 際 には, 現 行 の 扶 養 認 定 基 準 の 目 安 となっている 年 収 130 万 円 を 見 直 し, 被 保 険 者 の 適 用 基 準 との 整 合 性 を 図 る 必 要 性 がある 健 康 保 険 の 標 準 報 酬 等 級 月 額 の 下 限 は 5 万 8000 円 であり, 年 換 算 すると 約 70 万 円 となり, 扶 養 認 定 基 準 の 半 額 程 度 となってい る つまり, 年 収 70 万 円 でも 保 険 料 負 担 をして いる 被 保 険 者 がある 一 方 で, 年 収 130 万 円 未 満 で あればそれ 以 上 の 収 入 があっても 保 険 料 負 担 をし なくてよいという 矛 盾 がある 被 保 険 者 の 適 用 を 進 める 上 でも 扶 養 認 定 基 準 との 整 合 性 を 図 ること が 望 まれる 第 四 に 賃 金 要 件 の 必 要 性 である 現 行, 健 康 保 険 と 厚 生 年 金 の 適 用 は 同 じとなっており, 今 後 も 厚 生 年 金 と できる 限 り 同 一 の 基 準 で 適 用 拡 大 す ることが 基 本 である とされている 27) 今 回, 賃 金 が 月 額 8.8 万 円 以 上 であることとした 理 由 と して, 月 額 7.8 万 円 以 上 を 厚 生 年 金 の 適 用 対 象 と した 場 合 には 国 民 年 金 の 保 険 料 より 低 い 負 担 で, 基 礎 年 金 に 加 えて 厚 生 年 金 が 受 け 取 れるため, 年 金 における 公 平 性 が 確 保 されないことが 問 題 とし て 指 摘 され, 今 回 の 8.8 万 円 以 上 となった 健 康 保 険 の 場 合, 給 付 率 は 統 一 化 されているため 厚 生 年 金 のような 問 題 はないが, 賃 金 が 低 い 程 保 険 料 負 担 は 重 くなるため,どこかで 線 引 きすることが 妥 当 と 思 われる

論 文 健 康 保 険 制 度 における 適 用 拡 大 の 影 響 と 課 題 Ⅴ おわりに ⅢとⅣで 述 べた 内 容 は, 週 所 定 労 働 時 間 20 時 間 以 上 という 要 件 のみで 適 用 拡 大 を 行 った 場 合 の 影 響 分 析 である このため, 推 計 では 適 用 拡 大 の 対 象 者 が 477 万 人 となったが, 平 成 28 年 10 月 か らの 適 用 拡 大 については 賃 金 要 件 や 企 業 規 模 の 要 件 なども 盛 り 込 まれた 結 果, 対 象 者 数 は 約 25 万 人 に 絞 られた 厚 生 労 働 省 の 推 計 によれば, 今 回 の 適 用 拡 大 に 限 定 した 場 合, 国 民 健 康 保 険 の 被 保 険 者 からの 適 用 者 が 約 15 万 人, 健 康 保 険 の 被 扶 養 者 からの 適 用 者 が 約 10 万 人 となっている ま た, 新 たな 適 用 者 のうち 約 20 万 人 が 健 康 保 険 組 合, 約 5 万 人 が 協 会 けんぽの 被 保 険 者 になるとい う 見 込 みである さらに, 後 期 高 齢 者 支 援 金, 前 期 高 齢 者 納 付 金 のうち 後 期 高 齢 者 支 援 金 部 分, 介 護 納 付 金 については, 負 担 が 大 幅 に 増 える 保 険 者 に 配 慮 して,この 部 分 は 被 用 者 保 険 で 薄 く 負 担 す るよう 調 整 措 置 が 導 入 される 予 定 である この 結 果, 適 用 拡 大 による 財 政 影 響 は, 健 保 組 合 への 加 入 者 増 の 影 響 が 約 300 億 円 の 増 加, 加 入 者 減 の 影 響 で 約 100 億 円 の 減 額 により, 差 引 約 200 億 円 の 負 担 増 加 となっている 一 方 で 協 会 けんぽでは 約 50 億 円, 共 済 では 約 30 億 円, 国 保 では 50 億 円 の 負 担 減 で,これに 伴 い 公 費 支 出 も 約 200 億 円 の 負 担 減 となる 見 込 みである 一 方 で 事 業 主 負 担 は 医 療 保 険 部 分 で 約 200 億 円 の 負 担 増 となってい る 今 回 の 適 用 拡 大 は 限 定 的 なものであるが,こ れを 適 用 拡 大 の 試 行 的 事 業 として 位 置 付 けると, 今 回 の 5 つの 適 用 要 件 と 保 険 者 に 対 する 調 整 措 置 はよく 練 られたものと 評 価 できる 今 回 の 適 用 拡 大 は 適 用 しやすいところを 中 心 に 適 用 したといえ る 今 後, 更 なる 適 用 拡 大 を 図 る 場 合, 適 用 拡 大 が 難 しい 対 象 者 に 対 してどのように 適 用 拡 大 を 図 ることが 適 当 か,しっかりとした 制 度 設 計 を 行 う ことが 必 要 である また, 当 事 者 関 係 者 が 得 か 損 か といったように 近 視 眼 的 に 適 用 問 題 を 捉 えるのではなく, 超 高 齢 社 会 の 中 でも 国 民 皆 保 険 を 堅 持 していくためには, 労 働 者 を 増 やし 社 会 保 障 の 支 え 手 を 増 やしていくことが 必 要 不 可 欠 であ る 1) 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 報 告 書 ( 平 成 25 年 8 月 6 日 )42 頁 2) 日 本 チェーンストア 協 会 や 日 本 百 貨 店 協 会, 日 本 スーパー マーケット 協 会 等, 流 通 サービス 産 業 を 代 表 する 16 団 体 で 組 織 する 流 通 サービス 産 業 年 金 制 度 等 改 革 検 討 協 議 会 は, 平 成 23 年 12 月 21 日, パート 労 働 者 への 社 会 保 険 適 用 拡 大 に 対 する 反 対 意 見 をとりまとめ, 関 係 機 関 に 提 出 して いる ここでは, 適 用 拡 大 はパート 労 働 者 の 多 様 な 働 き 方 を 狭 め 雇 用 機 会 の 喪 失 につながりかねないこと, 短 時 間 労 働 を 選 択 しているパート 労 働 者 が 本 当 に 社 会 保 険 加 入 を 望 んでい るか 検 証 されていないこと, 健 康 保 険 への 適 用 拡 大 は, 健 康 保 険 組 合 の 過 重 な 負 担 とパート 労 働 者 にとって 新 たな 不 公 平 を 生 じかねないことなど, 適 用 拡 大 に 対 する 反 対 意 見 が 述 べ られている 3) 正 式 な 名 称 は 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るため の 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 ( 平 成 25 年 12 月 13 日 法 律 第 112 号 ) 同 法 第 6 条 第 2 項 では, 検 討 を 加 え,その 結 果 に 基 づいて 必 要 な 措 置 を 講 ずるもの の 一 つとして 短 時 間 労 働 者 に 対 する 厚 生 年 金 保 険 及 び 健 康 保 険 の 適 用 範 囲 の 拡 大 が 盛 り 込 まれている 4) 具 体 的 には, 国 家 公 務 員 共 済 組 合 法, 地 方 公 務 員 等 共 済 組 合 法, 私 立 学 校 教 職 員 共 済 法 がある 保 険 者 数 はそれぞれ 国 家 公 務 員 が 20 共 済 組 合, 地 方 公 務 員 等 が 64 共 済 組 合, 私 学 教 職 員 が 1 事 業 団 である 5) 国 民 健 康 保 険 法 第 6 条 には 適 用 除 外 規 定 があり, 生 活 保 護 法 による 保 護 を 受 けている 世 帯 に 属 する 者 は 国 民 健 康 保 険 の 適 用 対 象 外 となり, 生 活 保 護 法 の 医 療 扶 助 対 象 となる 6) 加 入 者 には, 被 保 険 者 の 他 被 扶 養 者 も 含 まれる 7) 厚 生 労 働 省 平 成 26 年 版 厚 生 労 働 白 書 8)ドイツの 公 的 医 療 保 険 制 度 では, 医 療 保 険 構 造 法 (1992 年 12 月 成 立 )により,1996 年 から 被 保 険 者 が 保 険 者 ( 疾 病 金 庫 )を 選 択 することができるようになった 詳 細 は 健 康 保 険 組 合 連 合 会 ドイツの 医 療 保 険 制 度 改 革 追 跡 調 査 報 告 書 ( 平 成 21 年 6 月 ) 9) 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 には 約 1500 万 人 の 高 齢 者 が 加 入 して いるが, 都 道 府 県 ごとに 設 置 されている 後 期 高 齢 者 医 療 広 域 連 合 は, 保 険 者 ではなく 運 営 主 体 という 位 置 づけで ある 10) 厳 密 にいえば,65 ~ 75 歳 未 満 の 障 害 認 定 者 は 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 の 対 象 となる また, 生 活 保 護 対 象 者 など 公 費 によ り 医 療 給 付 を 受 けることができる 者 は 公 的 医 療 保 険 の 対 象 外 となる したがって,これらの 対 象 者 は 職 域 保 険 の 被 保 険 者 被 扶 養 者 ではないが, 国 民 健 康 保 険 においても 適 用 対 象 外 と なる 11) 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 社 会 保 障 制 度 改 革 国 民 会 議 報 告 書 ( 平 成 25 年 8 月 6 日 )33 頁 12) 社 会 保 険 実 務 研 究 所 新 国 民 健 康 保 険 基 礎 講 座 ( 平 成 22 年 8 月 ) 13) 詳 細 は 健 康 保 険 組 合 連 合 会 健 康 保 険 組 合 論 ( 医 療 政 策 と 健 康 保 険 組 合 の 役 割 )の 構 築 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書 ( 平 成 22 年 5 月 ) 14) 法 定 16 業 種 とは,1) 物 の 製 造, 加 工, 選 別, 包 装, 修 理 又 は 解 体 の 事 業,2) 土 木, 建 築 その 他 工 作 物 の 建 設, 改 造, 保 存, 修 理, 変 更, 破 壊, 解 体 又 はその 準 備 の 事 業,3) 鉱 物 の 採 掘 又 は 採 取 の 事 業,4) 電 気 又 は 動 力 の 発 生, 伝 導 又 は 供 給 の 事 業,5) 貨 物 又 は 旅 客 の 運 送 の 事 業,6) 貨 物 積 卸 しの 事 業,7) 焼 却, 清 掃 又 はとさつの 事 業,8) 物 の 販 売 又 は 配 給 の 事 業,9) 金 融 又 は 保 険 の 事 業,10) 物 の 保 管 又 は 日 本 労 働 研 究 雑 誌 25

賃 貸 の 事 業,11) 媒 介 周 旋 の 事 業,12) 集 金, 案 内 又 は 広 告 の 事 業,13) 教 育, 研 究 又 は 調 査 の 事 業,14) 疾 病 の 治 療, 助 産 その 他 医 療 の 事 業,15) 通 信 又 は 報 道 の 事 業,16) 社 会 福 祉 法 ( 昭 和 二 十 六 年 法 律 第 四 十 五 号 )に 定 める 社 会 福 祉 事 業 及 び 更 生 保 護 事 業 法 ( 平 成 七 年 法 律 第 八 十 六 号 )に 定 める 更 生 保 護 事 業 である 15) 現 行, 健 康 保 険 の 適 用 対 象 となっている 者 を 適 用 対 象 外 に するというものではない 16) 持 続 可 能 な 医 療 保 険 制 度 を 構 築 するための 国 民 健 康 保 険 法 等 の 一 部 を 改 正 する 法 律 案 では 標 準 報 酬 月 額 の 上 限 額 121 万 円 を 139 万 円 に 引 き 上 げる 予 定 である 17) 健 康 保 険 法 第 41 条 により, 保 険 者 は 毎 年 1 回 被 保 険 者 全 員 の 標 準 報 酬 月 額 を 決 定 しなおすことが 求 められている 標 準 報 酬 月 額 は 毎 年 7 月 1 日 に 決 定 し, 決 定 された 標 準 報 酬 月 額 は, 原 則 としてその 年 の 9 月 から 翌 年 8 月 までの 1 年 間 は 固 定 することとなっている 18) 任 意 継 続 保 保 険 者 の 場 合 は 被 保 険 者 が 全 額 を 負 担 する 19) 市 町 村 国 保 では, 保 険 料 ではなく 保 険 税 での 徴 収 が 認 めら れている( 国 民 健 康 保 険 法 第 76 条 ) 保 険 税 とした 場 合 には 地 方 税 法 の 規 定 に 従 うこととなるので, 徴 収 権 の 消 滅 時 効 が 保 険 料 は 2 年 であるのに 対 し,5 年 と 長 くなるなど, 違 いが 存 在 する 20) 健 康 保 険 組 合 連 合 会 国 民 健 康 保 険 の 財 政 構 造 と 機 能 分 析 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書 ( 平 成 26 年 3 月 ) 参 照 21) 国 保 に 応 益 割 が 設 けられている 点 について, 島 崎 謙 治 日 本 の 医 療 制 度 と 政 策 ( 東 京 大 学 出 版 会,2011 年 )は 国 保 は 稼 得 形 態 が 異 なる 者 で 構 成 されていることから, 共 通 負 担 分 を 設 定 するほうが 被 保 険 者 の 納 得 を 得 やすいから と 説 明 している 22)ただし, 一 部 負 担 については, 義 務 教 育 就 学 前 の 子 供 は 2 割,70 歳 以 上 75 歳 未 満 は 2 割 ( 現 役 並 み 所 得 者 は 3 割, 平 成 26 年 3 月 末 までに 既 に 70 歳 に 達 している 者 は 1 割 ), 後 期 高 齢 者 医 療 制 度 は 1 割 ( 現 役 並 み 所 得 者 は 3 割 )となって おり, 給 付 率 が 7 割 とならない 対 象 者 もいる 23) 厚 生 労 働 省 保 険 局 平 成 25 年 度 国 民 健 康 保 険 事 業 年 報 によると, 市 町 村 国 保 では 傷 病 手 当 金, 出 産 手 当 金 を 給 付 し ている 保 険 者 はない 職 域 保 険 である 国 保 組 合 は 164 件 ある が,このうち 傷 病 手 当 金 の 給 付 を 行 っている 保 険 者 が 113 件, 出 産 手 当 金 の 給 付 を 行 っている 保 険 者 が 34 件 であった 24) 例 えば, 傷 病 手 当 金 は 標 準 報 酬 日 額 の 3 分 の 2 とされてお り, 保 険 料 負 担 が 多 い 者 ほど 多 く 支 給 される 仕 組 みとなって おり,これにはあてはまらない 25) 負 担 が 増 える 保 険 者 に 対 して, 後 期 高 齢 者 支 援 金, 前 期 高 齢 者 に 係 る 後 期 高 齢 者 支 援 金 部 分, 介 護 納 付 金 についての 負 担 緩 和 措 置 を 講 じる 予 定 である 26) 健 康 保 険 組 合 連 合 会 組 合 決 算 概 況 報 告 27) 第 26 回 社 会 保 障 審 議 会 医 療 保 険 部 会 ( 平 成 19 年 4 月 12 日 ) 参 考 文 献 厚 生 労 働 省 (2014) 平 成 26 年 版 厚 生 労 働 白 書. 健 康 保 険 組 合 連 合 会 (2009) ドイツの 医 療 保 険 制 度 改 革 追 跡 調 査 報 告 書. 健 康 保 険 組 合 連 合 会 (2010) 健 康 保 険 組 合 論 ( 医 療 政 策 と 健 康 保 険 組 合 の 役 割 )の 構 築 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書. 健 康 保 険 組 合 連 合 会 (2011) 就 業 形 態 の 多 様 化 が 医 療 保 険 制 度 に 与 える 影 響 等 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書. 健 康 保 険 組 合 連 合 会 (2014) 国 民 健 康 保 険 の 財 政 構 造 と 機 能 分 析 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書. 島 崎 謙 治 (2011) 日 本 の 医 療 制 度 と 政 策 東 京 大 学 出 版 会. 社 会 保 険 実 務 研 究 所 (2010) 新 国 民 健 康 保 険 基 礎 講 座. たごく はるみ 三 菱 UFJ リサーチ&コンサルティン グ 主 任 研 究 員 最 近 の 主 な 著 作 に イギリス NHS 改 革 の これまでと 最 新 の 動 向 健 保 連 海 外 医 療 保 障 No.93( 健 保 連,2012) 医 療 政 策 専 攻 26