第148回日本医学会シンポジウム



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第 148 回 日 本 医 学 会 シンポジウム 新 しいがん 免 疫 療 法 日 時 : 平 成 27 年 12 月 24 日 ( 木 )13:00~17:00 場 所 : 日 本 医 師 会 館 大 講 堂 113 8621 東 京 都 文 京 区 本 駒 込 2 28 16 TEL 03 3946 2121 FAX 03 3942 6517 13:00 開 会 の 挨 拶 髙 久 史 麿 ( 日 本 医 学 会 長 ) 13:05 はじめに 間 野 博 行 ( 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 教 授 細 胞 情 報 学 ) Ⅰ.がん 免 疫 療 法 の 現 況 ( 座 長 ) 間 野 博 行 ( 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 教 授 細 胞 情 報 学 ) 13:15 総 論 新 たな 時 代 を 迎 えたがん 免 疫 療 法 河 上 裕 ( 慶 應 義 塾 大 学 医 学 部 先 端 医 科 学 研 究 所 長 ) Ⅱ.がん 免 疫 療 法 のトランスレーショナルリサーチ ( 座 長 ) 岩 井 佳 子 ( 産 業 医 科 大 学 医 学 部 教 授 分 子 生 物 学 ) 13:40 1.がん 免 疫 療 法 の 新 しいパラダイム: 免 疫 チェックポイント 岩 井 佳 子 ( 産 業 医 科 大 学 医 学 部 教 授 分 子 生 物 学 ) 14:05 2. 臨 床 の 場 におけるがん 免 疫 療 法 西 川 博 嘉 ( 国 立 がん 研 究 センター 先 端 医 療 開 発 センター 免 疫 TR 分 野 長 ) 14:30 3. 日 本 発 がん 治 療 抗 体 薬 モガムリズマブ 石 田 高 司 ( 名 古 屋 市 立 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 准 教 授 血 液 腫 瘍 内 科 学 )

Ⅲ.がん 免 疫 療 法 の 開 発 ( 座 長 ) 上 田 龍 三 ( 愛 知 医 科 大 学 教 授 腫 瘍 免 疫 寄 附 講 座 ) 14:55 1.T 細 胞 輸 注 療 法 ~ 遺 伝 子 改 変 T 細 胞 療 法 を 中 心 に~ 池 田 裕 明 ( 三 重 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 教 授 遺 伝 子 免 疫 細 胞 治 療 学 ) 15:20 2.グローバルながん 免 疫 療 法 開 発 の 取 り 組 み 土 井 俊 彦 ( 国 立 がん 研 究 センター 東 病 院 副 院 長 ) 15:45 休 憩 16:00 総 合 討 論 ( 司 会 ) 間 野 博 行 岩 井 佳 子 上 田 龍 三 16:55 閉 会 の 挨 拶 門 田 守 人 ( 日 本 医 学 会 副 会 長 ) 17:00 終 了 第 148 回 日 本 医 学 会 シンポジウム 組 織 委 員 間 野 博 行 岩 井 佳 子 上 田 龍 三

Ⅰ.がん 免 疫 療 法 の 現 況 総 論 新 たな 時 代 を 迎 えたがん 免 疫 療 法 河 上 裕 慶 應 義 塾 大 学 医 学 部 先 端 医 科 学 研 究 所 長 細 胞 情 報 研 究 部 門 がん 免 疫 療 法 は, 細 菌 成 分 からなる Coleyワクチンに 始 まった 非 特 異 的 免 疫 賦 活 剤,サイトカイン, 抗 腫 瘍 モノクローナ ル 抗 体, 免 疫 細 胞 療 法,がん 抗 原 ワクチン など,それぞれ 歴 史 的 な 開 発 状 況 に 合 わせ て 発 展 してきた. 今 までに, 抗 腫 瘍 抗 体 療 法 ( 患 者 自 身 が 作 る 抗 体 ではない), 同 種 抗 原 に 対 するT 細 胞 /NK 細 胞 治 療 である 同 種 造 血 幹 細 胞 移 植,IL2/IFN-γ などのサイ トカイン 治 療 ががん 免 疫 療 法 として, 限 定 されたがんに 対 して 効 果 が 認 められてき た. 最 近, 長 年, 期 待 されていた 抗 腫 瘍 T 細 胞 応 答 を 利 用 するがん 免 疫 療 法 として, 免 疫 チェックポイント 阻 害 療 法 (PD-1/ PD-L 1 阻 害,CTLA-4 阻 害 )と 培 養 T 細 胞 利 用 養 子 免 疫 療 法 ( 腫 瘍 浸 潤 T 細 胞,TCR/ CAR 遺 伝 子 導 入 T 細 胞 )が, 従 来, 免 疫 療 法 が 効 く 特 殊 ながんとされた 悪 性 黒 色 腫 や 腎 がんを 超 えて, 肺 がん, 胃 がん, 大 腸 が ん, 肝 がん, 頭 頚 部 がん, 膀 胱 がん, 尿 路 がん, 卵 巣 がん, 子 宮 がん, 肉 腫, 白 血 病, 悪 性 リンパ 腫 など 多 様 ながん 種 に 対 して, 進 行 がんに 対 しても 持 続 的 な 腫 瘍 縮 小 効 果 を 示 し, 臨 床 の 場 でのがん 免 疫 療 法 の 位 置 付 けを 一 変 させた.その 結 果,Science 誌 は 2013 年 にCancer immunotherapyを,がん 治 療 のパラダイムシフトを 起 こしたとして Breakthrough of the Yearに 選 んだ. 現 在, 世 界 中 で 多 数 の 企 業 とアカデミアががん 免 疫 療 法 の 開 発 に 参 画 し,がん 治 療 開 発 の 方 向 性 が 変 わりつつある. 一 方,まだ 効 果 が 認 められないがん 種 や 患 者 も 多 く, 治 療 効 果 予 測 による 症 例 選 択 などの 個 別 化 治 療 を 可 能 にするバイオマーカーの 同 定, 治 療 効 果 が 期 待 できない 症 例 を 効 くように 変 える 方 法 も 含 めた, 抗 腫 瘍 T 細 胞 応 答 に 重 要 な 複 数 ポイントを 制 御 する 複 合 免 疫 療 法 によ る 治 療 効 果 の 改 善 が 期 待 されている.この ためには 日 本 でも 臨 床 試 験 を 実 施 して,そ の 臨 床 検 体 を 用 いたヒトがん 免 疫 病 態 のさ らなる 解 明 が 重 要 である.

Ⅱ.がん 免 疫 療 法 のトランスレーショナルリサーチ 1.がん 免 疫 療 法 の 新 しいパラダイム: 免 疫 チェックポイント 岩 井 佳 子 産 業 医 科 大 学 医 学 部 教 授 分 子 生 物 学 講 座 免 疫 チェックポイント 阻 害 剤 の 登 場 でが ん 免 疫 療 法 は 飛 躍 的 に 発 展 し,がんに 対 す る 治 療 戦 略 そのものが 大 きく 変 わりつつあ る. 世 界 に 先 駆 けて2014 年 に 本 邦 で 製 造 販 売 が 承 認 された PD-1 抗 体 nivolumab をは じめとする 免 疫 チェックポイント 阻 害 剤 は これまでのがん 免 疫 療 法 に 対 する 評 価 を 一 変 させ, 有 望 な 治 療 法 として 期 待 されてい る. 免 疫 システムには, 免 疫 系 を 活 性 化 する アクセルと 抑 制 するブレーキが 存 在 する. 従 来 のがん 免 疫 療 法 がアクセルを 踏 むこと に 重 点 を 置 いてきたのに 対 して,ブレーキ 解 除 によって 免 疫 系 のアクセルが 入 るよう にしたのが 免 疫 チェックポイント 阻 害 剤 で ある. T 細 胞 上 に 発 現 するCD28ファミリー 分 子 には,T 細 胞 活 性 化 を 促 進 するもの( 共 刺 激 分 子 )と 抑 制 するもの( 共 抑 制 分 子 ) がある.CTLA-4やPD-1などの 共 抑 制 分 子 は 免 疫 チェックポイント として 機 能 し, 自 己 への 不 適 切 な 免 疫 応 答 や 過 剰 な 炎 症 反 応 を 抑 制 する. PD-1とCTLA-4は 免 疫 応 答 の 異 なる 局 面 を 制 御 する. 制 御 性 T 細 胞 に 恒 常 的 に 発 現 するCTLA-4は 主 にリンパ 組 織 におけ る 抗 原 提 示 を 制 御 するのに 対 して, 活 性 化 後 期 の 抗 原 特 異 的 なエフェクターT 細 胞 に 発 現 するPD-1は, 炎 症 局 所 でキラーT 細 胞 が 腫 瘍 細 胞 を 攻 撃 する 場 面 で 作 用 す る. 抗 体 による 副 作 用 はノックアウトマウ スの 表 現 型 と 相 関 し, 自 己 免 疫 症 状 の 発 症 頻 度 はCTLA-4 抗 体 にくらべてPD-1 抗 体 で 低 い. 過 剰 な 免 疫 応 答 による 組 織 傷 害 から 生 体 を 守 ることがPD-1 本 来 の 生 理 的 役 割 であ るが,がん 細 胞 はPD-L1を 発 現 することに よって,T 細 胞 の 活 性 化 を 抑 制 し, 宿 主 の 免 疫 監 視 から 逃 れる.PD-1/PD-L1 抗 体 は この 抑 制 性 シグナルを 阻 害 することで 免 疫 応 答 を 増 強 する. PD-1を 標 的 とした 免 疫 療 法 はがん 細 胞 ではなくリンパ 球 を 標 的 とするので,がん が 突 然 変 異 を 起 こしても 効 果 が 長 期 間 持 続 する.また,がん 抗 原 の 特 異 性 によらない のでさまざまな 種 類 のがんに 適 応 可 能 であ る. 既 に 適 応 となったメラノーマに 続 いて, 現 在, 肺 がんをはじめとするさまざまなが んで 臨 床 治 験 が 進 んでいる.

2. 臨 床 の 場 におけるがん 免 疫 療 法 西 川 博 嘉 国 立 がん 研 究 センター 先 端 医 療 開 発 センター 免 疫 TR 分 野 長 過 剰 な 免 疫 応 答 をコントロールし, 免 疫 応 答 のホメオスタシスを 維 持 するため, 免 疫 系 は 免 疫 抑 制 活 性 を 有 する 制 御 性 T 細 胞 や,エフェクターT 細 胞 に 免 疫 抑 制 シグ ナルを 伝 達 する 免 疫 チェックポイント 分 子 (PD-1やCTLA-4など) 等 の 様 々な 免 疫 抑 制 機 構 を 有 している.がん 細 胞 は 生 体 が 持 つ 免 疫 監 視 機 構 により 排 除 されるが,やが て 様 々な 免 疫 抑 制 ネットワークを 巧 みに 組 み 合 わせて 免 疫 系 から 逃 避 する.よって, 臨 床 的 に 診 断 される がん は, 多 様 な 免 疫 逃 避 機 構 を 持 つ 免 疫 学 的 に 選 択 (edit)さ れたがん 細 胞 の 集 団 となっている. このように 免 疫 系 から 逃 避 した がん を 生 体 が 本 来 有 するがん 免 疫 応 答 を 再 度 賦 活 化 し 排 除 するには, 様 々な 手 段 を 複 合 的 に 組 み 合 わせる 必 要 がある. 近 年, 免 疫 抑 制 分 子 シグナルを 阻 害 し,がん 浸 潤 T 細 胞 の 再 活 性 化 を 促 す 免 疫 チェックポイント 分 子 阻 害 剤 ( 抗 PD-1 抗 体 や 抗 CTLA-4 抗 体 など)が, 悪 性 黒 色 腫 や 非 小 細 胞 肺 癌 など で 全 生 存 期 間 を 延 長 することが 示 され, 臨 床 応 用 が 進 んでいる. 一 方 で,これらの 免 疫 チェックポイント 阻 害 剤 の 効 果 は, 単 剤 では30% 程 度 の 患 者 でしか 認 められず,ま た 併 用 療 法 においても 約 半 数 の 患 者 には 十 分 な 腫 瘍 縮 小 効 果 がみられないという 課 題 もある.そのため,レスポンダーを 同 定 す るバイオマーカー( 例 えば, 生 体 がすでに がん に 対 する 免 疫 応 答 を 惹 起 し, 腫 瘍 内 に CD8 + T 細 胞 浸 潤 が 多 い 患 者 で 抗 腫 瘍 効 果 が 認 められるなど)を 明 らかにすること も 重 要 で, 生 体 の 免 疫 反 応 を 適 切 にモニタ リングすることが 必 須 である. 加 えて, 免 疫 チェックポイント 阻 害 剤 でがん 免 疫 応 答 が 誘 導 されない 患 者 の 免 疫 抑 制 機 構 を 十 分 に 明 らかにし, 適 切 な 併 用 療 法 など 新 たな がん 免 疫 療 法 を 開 発 することが 枢 要 である. 本 シンポジウムでは,がん 免 疫 療 法 を 臨 床 の 場 での 適 切 ながん 治 療 につなげるた め, 免 疫 チェックポイント 阻 害 剤 の 現 状, 今 後 の 期 待 と 新 たながん 免 疫 療 法 開 発 につ いて 述 べたい.

3. 日 本 発 がん 治 療 抗 体 薬 モガムリズマブ 石 田 高 司 名 古 屋 市 立 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 准 教 授 血 液 腫 瘍 内 科 学 ヒト 化 CCR4 抗 体 (モガムリズマブ)は, 日 本 における 産 学 共 同 前 臨 床 研 究 を 基 盤 に, 日 本 でFirst in Cancer Patientがなさ れた. 次 いで 成 人 T 細 胞 白 血 病 リンパ 腫 (ATL)に 対 する 第 II 相 試 験 が 実 施 され, 再 発 又 は 難 治 性 ATLを 適 応 症 として 国 内 医 薬 品 製 造 販 売 承 認 を 取 得 した(2012 年 3 月 ).この 時, 体 外 診 断 用 医 薬 品 が 同 時 承 認 され, 本 剤 の 適 応 はCCR4 陽 性 例 に 限 定 さ れた. 日 本 において 分 子 標 的 薬 とコンパニ オン 診 断 薬 の 同 時 承 認 は 初 であり,がん 分 子 標 的 治 療 薬 適 正 使 用 のモデルケースと なっている. 次 いで, 末 梢 性 T 細 胞 リンパ 腫 (PTCL)および 皮 膚 T 細 胞 性 リンパ 腫 (CTCL)に 対 する 第 II 相 試 験 が 実 施 され, 再 発 又 は 難 治 性 のCCR4 陽 性 PTCLおよび CTCL の 適 応 追 加 承 認 を 取 得 した(2014 年 3 月 ).さらに, 未 治 療 ATLに 対 する 第 II 相 試 験 の 結 果, 化 学 療 法 未 治 療 CCR4 陽 性 ATLを 適 応 症 とする 一 部 変 更 承 認 を 取 得 した(2014 年 12 月 ).これら 臨 床 試 験 が 示 す 如 く,モガムリズマブはCCR4 発 現 腫 瘍 細 胞 を 強 力 に 殺 傷 する. 加 えて 本 剤 は CCR4 陽 性 制 御 性 T 細 胞 (Treg)を 標 的 と する. 腫 瘍 組 織 内 のTregは,がん 免 疫 療 法 が 克 服 すべき 大 きな 課 題 である.すなわち, 宿 主 内 で 腫 瘍 のいわば 兵 隊 として, 腫 瘍 を 宿 主 の 免 疫 機 構 から 防 御 するTregの 制 御 が, 広 く 腫 瘍 の 制 御 につながることは 自 明 の 理 である. 筆 者 らは,いちはやく,この Treg 除 去 作 用 に 着 眼 し, 固 形 がんを 対 象 と して 本 剤 の 医 師 主 導 治 験 を 開 始 し (UMIN000010050), 現 在 は 本 剤 と PD-1 抗 体 など, 他 の 免 疫 治 療 薬 との 併 用 企 業 治 験 が 世 界 中 で 展 開 されるに 至 る. 一 方 で, 本 剤 のTreg 除 去 は 重 篤 な 免 疫 関 連 有 害 事 象 を 惹 起 する 危 険 をはらむ. 過 去 に 人 類 は Tregを 選 択 的 に 除 去 する 薬 剤 を 有 した 経 験 がない. 人 類 初 の Treg 除 去 薬,モガム リズマブ の 臨 床 導 入 にあたり, 我 々 日 本 の 医 療 従 事 者 および 医 学 研 究 者 は, 最 善 最 良 な 使 用 方 法 を 確 立 する 責 務 を 有 する. モガムリズマブが 日 本 で 適 切 に 育 薬 され, 日 本 のみならず 世 界 中 のATL 患 者,T 細 胞 リンパ 腫 患 者,そして 多 くの 固 形 がん 患 者 に 福 音 をもたらす 日 の 到 来 が 期 待 される.

Ⅲ.がん 免 疫 療 法 の 開 発 1.T 細 胞 輸 注 療 法 ~ 遺 伝 子 改 変 T 細 胞 療 法 を 中 心 に~ 池 田 裕 明 三 重 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 教 授 遺 伝 子 免 疫 細 胞 治 療 学 がんの 免 疫 監 視 機 構 のコンセプトが 1950 年 代 にバーネット,トーマスらによっ て 提 示 されて 以 来, 免 疫 系 のがんを 認 識 し 排 除 するポテンシャルに 大 きな 関 心 が 寄 せ られ,その 能 力 の 治 療 への 応 用 に 期 待 がか けられてきた.しかしその 期 待 の 具 現 化 に は 半 世 紀 以 上 を 要 したことになる.2013 年 に Sience 誌 が Breakthrough of the year にがん 免 疫 療 法 を 選 出 した.その 主 な 根 拠 は 免 疫 チェックポイント 阻 害 療 法 とキメラ 抗 原 受 容 体 (Chimeric antigen receptor: CAR)-T 細 胞 療 法 が 悪 性 黒 色 腫 や 白 血 病 等 の 進 行 期 の 悪 性 腫 瘍 の 患 者 さんに 対 して 顕 著 な 臨 床 効 果 を 示 したことによる. がんワクチンの 開 発 に 目 を 移 すと,1990 年 代 よりリンパ 球 により 認 識 されるヒト 腫 瘍 の 抗 原 が 分 子 として 同 定 され 始 めて 以 来,その 同 定 されたがん 抗 原 を 用 いたワク チン 療 法 の 開 発 が 精 力 的 に 行 われてきた. 前 立 腺 がん 患 者 の 末 梢 血 単 核 球 から 作 製 し た 樹 状 細 胞 に 前 立 腺 がん 抗 原 タンパクとサ イトカインタンパクの 合 成 品 を 取 り 込 ませ た 細 胞 ワクチン 製 剤 が2010 年 に 米 国 初 の 治 療 用 がんワクチンとしてFDAの 承 認 を 得 た.しかしながら, 多 くのがんワクチン 製 剤 の 開 発 はその 後 順 調 に 進 んでいるとは 言 い 難 い. 今 後 はがんワクチンという 戦 略 の 持 つ 問 題 点 の 再 考 を 行 い,チェックポイ ント 阻 害 療 法 との 併 用 等 の 新 たな 工 夫 によ りその 問 題 点 を 克 服 する 治 療 法 の 開 発 が 必 須 になると 考 えられる. 一 方, 近 年 の 遺 伝 子 改 変 T 細 胞 療 法 の 臨 床 試 験 における 顕 著 な 臨 床 効 果 は 企 業 等 の 関 心 を 急 速 に 集 めており, 本 アプローチは 細 胞 療 法 であり 遺 伝 子 治 療 であるという 方 法 論 の 抱 える 複 雑 さを 克 服 して 製 薬 化, 医 療 化 が 今 後 急 ピッチで 進 むと 考 えられる. しかしながら,その 顕 著 な 効 果 は 副 作 用 の 出 現 可 能 性 と 表 裏 一 体 であることも 明 らか になりつつあり, 特 に 人 為 的 に 作 製 された 抗 原 受 容 体 は, 生 体 における 自 己 反 応 性 T 細 胞 排 除 のチェック 機 構 を 経 ていない 為 に 不 測 の 交 差 反 応 性 を 示 す 可 能 性 がある. 遺 伝 子 改 変 T 細 胞 療 法 が 今 後 克 服 すべき 問 題 として, 有 害 事 象 の 最 小 化 / 予 見 法 / 手 当 の 確 立,がん 個 別 変 異 を 含 む 新 規 標 的 の 開 発, 輸 注 T 細 胞 の 機 能 性 / 生 存 性 /メモリー 形 成 能 の 改 善, 非 自 己 細 胞 の 利 用 法 の 開 発 等 が 挙 げられる. 本 シンポジウムではがんワクチン 療 法, 細 胞 輸 注 療 法 の 現 状 と 今 後 の 展 望 を 概 観 す ると 共 に, 我 々が 現 在 開 発 を 進 める 遺 伝 子 改 変 T 細 胞 療 法 についても 紹 介 し, 現 在 の 課 題 とその 克 服 の 可 能 性, 将 来 の 展 望 につ いて 議 論 したい.

2.グローバルながん 免 疫 療 法 開 発 の 取 り 組 み 土 井 俊 彦 国 立 がん 研 究 センター 東 病 院 副 院 長 / 先 端 医 療 科 長 がん 免 疫 療 法 は,がん 治 療 を 大 きく 変 え る 治 療 法 となりつつある. 現 在, 注 目 され ているのが 免 疫 チェックポイント 阻 害 薬 で ある. 我 が 国 における 基 礎 研 究 からうまれ た PD 1 抗 体 を 始 め,さまざまな 薬 剤 の 開 発 が 急 速 に 進 められている. 当 初, 悪 性 黒 色 腫 を 中 心 に 開 発 が 行 われたため, 疾 患 頻 度 の 少 ない 日 本 では 臨 床 開 発 は 立 ち 後 れた. 現 在 では 多 種 多 様 の 癌 腫 に 後 期 開 発 が 展 開 されている 中,TR 研 究 の 立 ち 後 れ, 次 世 代 免 疫 治 療 の 臨 床 開 発 も 遅 れ 始 めている. グローバルでは, 免 疫 拠 点 施 設 ネットワー クを 中 心 とした 早 期 開 発 がおこなわれてい るなか 日 本 の 施 設 は, 基 礎 研 究 の 評 価 は 高 いが 参 加 できないでいる.グローバルでは, がん 領 域 のみでなく, 感 染, 移 植, 自 己 免 疫 をふくめて 免 疫 全 体 で 開 発 が 進 めら れているため, 国 内 においても 多 領 域 にま たがる 強 力 なネットワーク 化 が 必 要 であろ う. 我 が 国 では, 腫 瘍 疾 患 特 異 的 な 開 発 を 中 心 としているなか,immuno-oncology と して 疾 患 横 断 的 な 考 えで 開 発 がトレンドと なっている 中, 基 礎 研 究 にマッチした が ん 免 疫 / 腫 瘍 免 疫 の 確 立 も 必 要 である.グ ローバル 開 発 に 遅 滞 なく 参 加 するために, 1) 副 作 用 マネジメント 2) 免 疫 モニタリ ングに 基 づくバイオマーカー 探 索 3) 我 が 国 におおい 癌 腫 のがん 免 疫 応 答 基 礎 データ 収 集 4) 人 種 間 差, 個 人 間 差 の 検 証 など 課 題 は 多 い. 制 御 性 T 細 胞, 骨 髄 由 来 免 疫 抑 制 細 胞 (MDSC),タイプIIナチュラルキ ラーT(NKT) 細 胞 など, 多 彩 な 細 胞 を 標 的 とする 治 療 法 やナノテクノロジーに 基 づ く 遺 伝 子 導 入 治 療,CAR-T 細 胞 治 療 など 従 来 の 治 療 概 念 を 根 底 から 変 えるものも 多 い. 免 疫 治 療 は,エンドポイント,コスト ベネフィット, 長 期 毒 性 など 臨 床 試 験 のス トラテジーの 概 念 も 変 えつつある. 早 期 が ん 免 疫 療 法 の 開 発 にはがん 免 疫 を 包 括 的 に 解 析 理 解 する 必 要 があると 考 えられる.

総 合 討 論 ( 司 会 ) 間 野 博 行 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 教 授 細 胞 情 報 学 岩 井 佳 子 産 業 医 科 大 学 医 学 部 教 授 分 子 生 物 学 愛 知 医 科 大 学 教 授 上 田 龍 三 腫 瘍 免 疫 寄 附 講 座