JEMS 公 開 シンポジウム 2014 年 5 月 24 日 International Workshops on Genotoxicity Testing (IWGT) IWGTの 紹 介 と 最 近 の 動 き 田 辺 三 菱 製 薬 株 式 会 社 研 究 本 部 安 全 性 研 究 所 宇 野 芳 文
International Workshops on Genotoxicity Testing (IWGT) 遺 伝 毒 性 試 験 に 関 する 国 際 ワークショップ < 目 次 > 1. IWGTの 紹 介 2. IWGTの 成 果 とレギュラトリーサイエンスへの 貢 献 3. 今 後 の 展 望
1. IWGTの 紹 介 1990 年 頃 の 遺 伝 毒 性 試 験 法 は 国 際 的 に 標 準 化 さ れておらず, 各 極 各 国 の 規 制 当 局 にデータを 提 出 する 際 に 試 験 のやり 直 しを 求 められるケース 等 が あった( 例 :Amesの 使 用 菌 株 すら 不 統 一 ). David Kirkland 博 士 ( 英 国 ), 林 真 先 生 らは 試 験 法 の 標 準 化 を 図 るべく 国 際 会 議 の 開 催 を 企 画 し, 多 く の 賛 同 者 を 得 て 第 1 回 IWGT( 正 式 にはIWGTP)が 1993 年 に 開 催 される 運 びとなった.
1-1. 目 的 1. IWGTの 紹 介 各 極 ( 各 国 )で 遺 伝 毒 性 の 試 験 法 や 評 価 アプローチ が 異 ならないようにして, 地 域 固 有 の 要 求 を 満 たすために 不 必 要 な 試 験 が 繰 り 返 されないようにする. 試 験 性 能 が 変 動 しないようにする. 試 験 結 果 が 食 い 違 わないようにする. リスクの 記 述, 評 価, 管 理 のために 試 験 データを 利 用 する 際 に 不 当 な 相 違 が 生 じないようにする. IWGTの 目 的 はICHと 類 似 するが, 対 象 が 医 薬 品 だけ ではない 点 が 大 きく 異 なる(あらゆる 物 質 が 対 象 ).
1. IWGTの 紹 介 1-2. 組 織 構 成 IWGT steering committee(iwgt-sc) 日 米 欧 の 各 極 から2 名 程 度 ( 原 則, 産 官 各 1 名 ). 現 在 の 議 長 はMartus 博 士 (ノバルティス 社 ). IWGT working group(iwgt-wg) IWGT-SCを 中 心 に 議 論 が 必 要 なトピックスを 選 択 し, トピック 毎 に 議 長, 副 議 長,ラポーターを 指 名. WGは 産 官 学 から 国 際 的 専 門 家 を 招 聘 して 形 成 ( 地 理 的, 学 問 的, 分 野 的 なバランスを 考 慮 ). IWGT meeting(iwgt 会 議 ) 4 年 に1 度 の 国 際 環 境 変 異 原 学 会 (ICEM)と 併 催. IWGT-WGごとに 議 論 ( 必 要 時 は 全 体 討 論 も).
1. IWGTの 紹 介 1-3. 会 議 の 進 め 方 と 成 果 の 報 告 専 門 家 は 議 論 に 必 要 な 実 験 データを 持 ち 寄 り( 未 発 表 データ 含 む),IWGT 会 議 で 報 告 する. 議 論 には 一 般 参 加 者 も 自 由 に 加 わることができる. 議 論 を 踏 まえ,データに 基 づいて 推 奨 事 項 を 纏 める (data-driven consensus). 根 拠 のない 意 見 や 不 確 かな 情 報 は 採 用 しない. 議 論 の 結 果 は 論 文 化 する. 努 力 事 項 : 多 様 なデータベースから 真 の 試 験 性 能 を 深 く 理 解 ; 誤 解 ができるだけ 生 じない 推 奨 事 項 を 提 示 ; 単 一 試 験 で 全 ての 遺 伝 毒 性 物 質 を 検 出 でき ないことを 認 識 ; 調 和 のために 歩 み 寄 るか, 理 にか ない 適 切 な 複 数 アプローチの 容 認 を 目 指 す.
2. IWGTの 成 果 とレキ ュラトリーサイエンスへの 貢 献 産 官 学 の 国 際 的 専 門 家 が 一 堂 に 会 し 最 新 のデータ に 基 づき 合 意 を 形 成 することから,IWGT 推 奨 事 項 は 最 先 端 のものであり, 高 い 信 頼 性 がある. すなわち,IWGTの 推 奨 事 項 は 規 制 ガイドラインの 作 成 改 訂 に 多 大 な 影 響 を 与 える. 規 制 ガイドラインに 先 駆 けてIWGT 推 奨 事 項 に 則 り 規 制 対 応 試 験 が 実 施 されているのが 実 際 で,その 意 味 でもレキ ュラトリーサイエンスへの 影 響 は 大 きい.
2. IWGTの 成 果 とレキ ュラトリーサイエンスへの 貢 献 2-1. IWGTの 歴 史 と 成 果 第 1 回 IWGT:1993 年 にオーストラリア メルホ ルンで 開 催 成 果 :Mutation Res. (1994) 312, 195-318. 第 2 回 IWGT:1999 年 に 米 国 ワシントンで 開 催 成 果 :Environ. Mol. Mutagen. (2000) 35, 159-263. 第 3 回 IWGT:2002 年 に 英 国 フ リマスで 開 催 成 果 :Mutation Res. (2003) 540, 119-181. 第 4 回 IWGT:2005 年 に 米 国 サンフランシスコで 開 催 成 果 :Mutation Res. (2007) 627, 1-117. 特 集 号. 第 5 回 IWGT:2009 年 にスイス ハ ーセ ルで 開 催 成 果 :Mutation Res. (2011) 723, 73-120.
2. IWGTの 成 果 とレキ ュラトリーサイエンスへの 貢 献 2-1. IWGTの 歴 史 と 成 果 ( 続 き) 第 1 回 : Ames, 染 色 体 異 常, 小 核 等 の 汎 用 試 験 法 の 初 の 国 際 合 意. 当 時 改 訂 中 だったOECDガイドラ インに 影 響 し,ICH-S2A/S2B(1995/1997)に 反 映. 第 2 回 以 降 : 既 存 ガイドラインを 補 完 し,OECDやICH- S2(R) 等 のガイドライン 改 訂 作 成 時 に 反 映. 第 2 回 :MLAとin vivo 小 核 WGはガイドラインに 無 い 事 項 を 推 奨. Cometはガイドラインがない 状 態 での 規 制 対 応 試 験 実 施 を 推 進. 第 3 回 IWGT:MLAとin vivo 小 核 の 更 なる 推 奨 事 項 の 提 示 等 ( 小 核 : ラット 末 梢 血 小 核 の 自 動 解 析 可 能 性 と 陽 性 対 照 群 省 略 の 提 言, 多 臓 器 小 核 にも 言 及 ).また, 評 価 戦 略 が 初 めて 取 り 上 げられた 会 議.
2. IWGTの 成 果 とレキ ュラトリーサイエンスへの 貢 献 2-1. IWGTの 歴 史 と 成 果 ( 続 き) 第 4 回 :in vivo 小 核 自 動 解 析 の 規 制 面 からの 受 け 入 れ 可 能 性, CometとMLAの 更 なる 推 奨 事 項 の 提 示, 遺 伝 毒 性 評 価 の 戦 略 (in vitro 試 験 でのhazard/risk 評 価, 代 謝 の 考 慮,in vivo 特 異 的 な 陽 性 反 応, 標 準 的 遺 伝 毒 性 試 験 で 陰 性 の 発 がん 物 質 のフォローアップ). 第 5 回 :in vitro 遺 伝 毒 性 試 験 の 細 胞 毒 性 測 定 と 最 高 用 量,MLAの 更 なる 議 論, 予 測 性 を 高 めるためのin vitro 試 験 アプローチ, 背 景 データの 利 用 法, 小 核 とCometの 一 般 毒 性 試 験 への 組 み 込 み,in vivo 陽 性 結 果 のフォローアップ. 未 だガイドラインに 反 映 しきれない 事 項 も 含 めて 国 際 的 合 意 形 成 がなされるので,IWGTの 成 果 を 基 に 規 制 対 応 しているのが 実 際 :Cometはその 典 型 例 ( 今 年,ようやくOECDガイドラインが 発 行 の 運 びに).
2. IWGTの 成 果 とレキ ュラトリーサイエンスへの 貢 献 2-2. 最 新 のトピックス: 第 6 回 IWGT 2013 年 10 月 31 日 ~11 月 2 日 にフ ラシ ル イク アスで 開 催. 成 果 はMutation Res.へ 投 稿 準 備 中. トピックスと 日 本 のWGメンバー Cometアッセイ: 小 島 先 生 ( 副 議 長 ), 北 本 先 生, 田 中 先 生, 宇 野 Pig-aアッセイ: 堀 端 先 生, 木 本 先 生 肝 小 核 試 験 : 宇 野 ( 議 長 ), 森 田 先 生 ( 副 議 長 ), 濱 田 先 生, 伊 東 先 生, 大 山 先 生, 高 沢 先 生 生 殖 細 胞 の 突 然 変 異 : 本 間 先 生 遺 伝 毒 性 の 定 量 的 解 析 : 福 島 先 生, 笠 松 先 生 近 未 来 の 遺 伝 毒 性 試 験 法 ( 全 体 ): 本 間 先 生
2. IWGTの 成 果 とレキ ュラトリーサイエンスへの 貢 献 2-2. 最 新 のトピックス: 第 6 回 IWGT( 続 き) 肝 小 核 試 験 : 肝 細 胞 における 小 核 誘 発 を 検 出 エンドポイントが 染 色 体 異 常 で,Cometアッセイ (DNA 損 傷 )やTG 動 物 突 然 変 異 試 験 ( 遺 伝 子 突 然 変 異 )とは 異 なる. 代 謝 活 性 化 を 要 する 遺 伝 毒 性 物 質 ( 特 に, 不 安 定 な 反 応 性 代 謝 物 を 産 生 するもの)を 検 出 で きる 可 能 性 が 高 い. 近 年, 日 本 発 のデータが 多 数 報 告 されつつあり, 標 準 的 手 法 や 強 み 弱 み 等 につき 国 際 的 議 論 を 始 めるのに 丁 度 良 いタイミング( 戦 略 的 意 図 ).
2. IWGTの 成 果 とレキ ュラトリーサイエンスへの 貢 献 2-2. 最 新 のトピックス: 第 6 回 IWGT( 続 き) 肝 小 核 試 験 法 : 小 核 誘 発 には 肝 細 胞 分 裂 が 必 要 部 分 肝 切 除 (PH) 法, 若 齢 動 物 法, 反 復 投 与 法 ( 成 熟 動 物 ) いずれの 手 法 も 十 分 な 感 度 を 有 すると 思 われるが 更 にデータが 必 要 ( 特 異 性 ). 手 法 の 大 枠 は 合 意 したが, 時 間 の 関 係 で 細 部 の 議 論 ができなかった 事 項 は, 各 ラボで 実 施 さ れている 手 法 を 併 記 することとなった. 肝 小 核 試 験 は,in vitro 遺 伝 毒 性 ( 染 色 体 異 常 ) 試 験 で 陽 性,in vivo 赤 血 球 小 核 試 験 で 陰 性 のときの 2nd in vivo 試 験 として 有 用 だろうという 点 は 合 意.
3. 今 後 の 展 望 遺 伝 毒 性 の 試 験 法 や 評 価 戦 略 は 日 進 月 歩 であり, 産 官 学 が 一 堂 に 会 し 最 新 のデータに 基 づき 科 学 的 に 議 論 するIWGTの 重 要 性 は 益 々 高 まり,レギュラト リーサイエンスに 大 きな 影 響 を 与 え 続 けると 考 える. 日 本 発 の 優 れた 新 規 の 試 験 法 ( 例 : 肝 小 核 試 験 )や 評 価 戦 略 を 世 界 に 発 信 浸 透 させる 意 義 も 大 きい. すなわち, 国 際 的 規 制 ガイドラインの 策 定 や 改 訂 に 際 し, 欧 米 に 追 随 するのではなく, 日 本 が 主 導 権 を 握 る 布 石 となり 得 る 重 要 な 国 際 会 議 とも 言 える. 第 7 回 IWGTは2017 年 に 日 本 大 阪 で 開 催 予 定.