宇 宙 科 学 II ( 電 波 天 文 学 ) 第 3 回 電 波 望 遠 鏡 と 観 測 量 前 回 の 復 習 1
電 磁 波 の 特 徴 電 磁 波 は 波 と 粒 子 ( 光 子 )の 性 質 をもつ (electro-magnetic wave / photon) 電 場 磁 場 の 振 動 としての 波 あるエネルギーをもった 粒 子 ( 光 子 ) 周 波 数 νと 波 長 λの 関 係 c = ν λ 光 子 のエネルギーと 周 波 数 の 関 係 E = h ν 温 度 と 周 波 数 の 関 係 T ~ h ν / k 電 磁 波 と 電 波 電 波 も 光 も 電 磁 波 の 一 種 ただし 波 長 ( 周 波 数 )が 大 きく 異 なる 短 波 長 長 波 長 電 波 : 周 波 数 1THz 以 下 ( 波 長 0.3mm 以 上 )の 電 磁 波 を 指 す ことが 多 い 2
身 近 な 電 波 電 波 時 計 40, 60 KHz AMラジオ 500 1600 KHz FMラジオ 70 100 MHz (VHF) アナログテレビ 100 200 MHz (VHF) 地 デジ 470 770 MHz (UHF) 携 帯 電 話 800 2000 MHz GPS 衛 星 1.2 1.5 GHz 衛 星 放 送 12 GHz c.f. 電 波 天 文 100 MHz ~ 1 THz 電 波 望 遠 鏡 で 何 が 計 れるか? 3
電 波 の 強 度 フラックス(flux): 電 波 の 強 さを 表 す 量 単 位 時 間 単 位 周 波 数 あたりに 単 位 面 積 を 通 過 する 電 磁 波 のエネルギー 単 位 例 : W m -2 Hz -1 単 位 面 積 電 波 天 文 でよく 使 う 単 位 ジャンスキー Jy (フラックス:fluxの 単 位 ) 1 Jy = 10-26 W m -2 Hz -1 K. Jansky 実 際 の 電 波 天 体 の 強 度 は~ 数 1000 Jyから1 μjyレ ベル 日 常 使 用 している 電 波 に 比 べたらはるかに エネルギーが 小 さい 4
携 帯 電 話 はまぶしい? 携 帯 電 話 出 力 P = 1 W, 帯 域 幅 B = 1 MHz 等 方 放 射 (どの 方 向 にも 等 しく 電 波 を 出 していること)を 仮 定 月 においた 携 帯 電 話 (D=380000 km)の 場 合 f = P / B / (4 π D 2 ) ~ 5 x 10-25 W m -2 Hz -1 ~ 50 Jy P D 携 帯 電 話 は 月 においてもかなり 明 るい 電 波 源 に! 地 球 上 の 携 帯 は 桁 違 いに 明 るい 電 波 源 もうひとつの 観 測 量 : 輝 度 輝 度 (brightness): 単 位 時 間 単 位 周 波 数 単 位 立 体 角 あたりに 単 位 面 積 を 通 過 する 電 磁 波 のエネルギー フラックスのうち ある 特 定 の 方 向 ( 立 体 角 ) からきているものを 表 す 単 位 例 : W m -2 Hz -1 str -1 単 位 面 積 5
輝 度 とフラックス デジタルカメラ(CCD)で 例 えていうと 輝 度 : 各 画 素 での 信 号 強 度 フラックス: すべての 画 素 を 積 分 した 信 号 強 度 電 波 写 真 の 例 ( 超 新 星 残 骸 Cas A): 天 球 面 上 の 各 点 での 輝 度 から 電 波 写 真 が 得 られる フラックスはこれをすべて 積 分 したもの ある 立 体 角 から 来 ているフラックスが 輝 度 輝 度 と 輝 度 温 度 輝 度 は 通 常 温 度 (K:ケルビン)の 単 位 を 用 いる(これを 輝 度 温 度 という) 輝 度 温 度 は 電 波 を 出 している 領 域 が 黒 体 輻 射 で 何 度 の 放 射 に 相 当 しているかを 表 して いる 天 体 が 実 際 に 黒 体 輻 射 をしている 場 合 輝 度 温 度 は 天 体 の 温 度 に 相 当 する 電 波 望 遠 鏡 は 温 度 計 である といってもよい!? 6
電 波 スペクトル 電 波 観 測 から 得 られるのは 各 周 波 数 ごとの 電 波 強 度 ( 輝 度 あるいはフラックス) これをスペクトルと 呼 ぶ 電 波 強 度 スペクトルの 例 周 波 数 連 続 波 スペクトルと 線 スペクトル 連 続 波 : 広 い 帯 域 に 渡 って 連 続 的 にでる 電 波 ( 例 : 黒 体 輻 射 ) 線 スペクトル: 特 定 の 周 波 数 で 出 る 放 射 ( 例 : 原 子 分 子 輝 線 ) 連 続 波 スペクトルの 例 ( 宇 宙 背 景 放 射 ) 線 スペクトルの 例 (NGC4258の 水 メーザー) 7
線 スペクトル 原 子 分 子 内 のエネルギー 遷 移 に 伴 う 放 射 線 幅 の 狭 い 線 状 のスペクトルが 得 られる 理 論 的 に 放 射 される 周 波 数 がわかっている (すなわち 特 定 のスペクトル 線 の 観 測 から 原 子 分 子 の 存 在 を 確 認 できる) 可 視 光 での 単 色 光 に 相 当 例 :トンネルのナトリウムランプ スペクトル 線 の 例 中 性 水 素 21cm 線 水 素 原 子 中 の 超 微 細 構 造 の 変 化 (スピンの 変 化 )による 放 射 ν=1420.405 MHz (λ=21.106 cm) 水 素 原 子 (HI) p e p e スピン 平 行 21cm 線 スピン 反 平 行 中 性 水 素 21cm 線 でみた 系 外 銀 河 NGC2403 8
分 子 のスペクトル 線 の 例 CO: 一 酸 化 炭 素 中 毒 を 起 こす HCN: 猛 毒 (c.f. KCN : 青 酸 カリ) CH 3 OH: 目 散 る アルコール 他 NH 3 (アンモニア) CS( 硫 化 炭 素 ) 電 波 天 文 学 者 は 危 ない 分 子 が 大 好 き!? 左 : 可 視 光 ( 左 )で 見 たオリオン 座 右 : 一 酸 化 炭 素 の 出 す 電 波 を 重 ねた もの 星 を 作 る 材 料 となる 冷 たい 分 子 ガスの 分 布 がわかる ドップラー 効 果 電 波 を 放 射 する 天 体 が 運 動 していると その 運 動 速 度 によっ て 観 測 周 波 数 が 変 化 する (ドップラー 効 果 ) ドップラー 効 果 を 使 うと 視 線 に 沿 った 方 向 の 天 体 の 運 動 速 度 ( 視 線 速 度 )を 得 ることができる HI 太 陽 から 遠 ざかる 運 動 速 度 太 陽 に 近 づく 速 度 0 水 素 ガスで 見 た 銀 河 系 の 回 転 9
電 波 望 遠 鏡 で 計 れるもの:まとめ 電 波 望 遠 鏡 でスペクトルを 得 ることで 電 波 強 度 分 布 ( 電 波 写 真 ) 天 体 の 温 度 特 定 の 原 子 分 子 の 存 在 天 体 の 視 線 速 度 などがわかる 電 波 強 度 周 波 数 / 速 度 電 波 望 遠 鏡 の 仕 組 み 10
望 遠 鏡 の 分 解 能 分 解 能 を 決 める 要 因 : 波 長 と 望 遠 鏡 の 口 径 Θ =λ / D Θ: 分 解 能 λ: 波 長 D: 望 遠 鏡 口 径 望 遠 鏡 を 大 きくすると より 細 かくものが 見 える また 集 光 力 も 増 えるので 感 度 も 向 上 する 大 きい 望 遠 鏡 ほど 分 解 能 感 度 とも 良 い (その 分 建 設 費 も 高 いが ) アンテナの 基 本 性 質 多 くのアンテナは 回 転 放 物 面 (パラボラ)を 利 用 放 物 線 (e.g., y=ax 2 )の 特 徴 : 正 面 から 入 射 した 波 面 が 等 位 相 で 焦 点 に 集 まる 等 位 相 面 P1 P2 P1_R1_F = P2_R2_F F: 焦 点 主 鏡 はFを 焦 点 とする 放 物 面 になる R1 放 物 面 (パラボラ) R2 11
アンテナの 分 解 能 (ビーム 幅 ) 斜 め 入 射 した 波 面 には 位 相 差 が 生 じる この 位 相 差 が180 度 (=π radian)になると 波 が 打 ち 消 しあい 観 測 できない P3 θ/2 P1 P2 F: 焦 点 P1 -R1-F = P2 -R2-F 焦 点 に 集 まる 電 波 は 位 相 が P3-P2 の 長 さ 分 だけずれる この 長 さがλ/2になると 波 が 打 ち 消 しあって 見 えなくなるから θ/2 x D ~ λ/ 2 R1 放 物 面 (パラボラ) R2 よって 分 解 能 は θ ~ λ/ D ビームパターン どんなアンテナも 有 限 のビーム 幅 を 持 つ したがって 観 測 天 体 が 点 源 であっても 実 際 の 観 測 ではビーム 幅 分 の 広 がりを 持 って 観 測 される (この 広 がりをビームパターンという) 通 常 主 ビームに 加 えて 弱 いサイドローブを 持 つ ( 傾 いた 方 向 から 来 る 電 波 にも 感 度 を 持 つ) 点 源 を 観 測 したときの 観 測 電 波 強 度 サイドローブ ビーム 幅 θ メインビーム サイドローブ 観 測 方 向 12
カセグレンアンテナ 受 信 機 を 主 焦 点 に 置 くのは 不 便 なことが 多 いので 通 常 は 副 鏡 とあわせてカセグレンアンテナを 構 成 す ることが 多 い 副 鏡 は 回 転 双 曲 面 になる (S1_F2) (S1_F1) = P1 R1 主 鏡 S1 F1: 主 焦 点 P2 副 鏡 S2 R2 F2: カセグレン 焦 点 (S2_F2) (S2_F1) 副 鏡 は 主 焦 点 F1とカセグレ ン 焦 点 F2からの 距 離 の 差 が 一 定 の 面 となり 双 曲 面 にな る 巨 大 望 遠 鏡 :1 Jodrel bank 76m ( 英 国, 1957 年 建 設 ) Effelsberg 100m (ドイツ, 1972 年 建 設 ) もともとは 宇 宙 線 の 電 波 を 検 出 する ために 建 設 された( 検 出 できなかった) 13
巨 大 望 遠 鏡 :2 グリーンバンク91m( 米 国 WV) 100m 鏡 を 再 建 (2000 年 完 成 ) 1988 年 11 月 15 日 崩 壊 した 写 真 は 崩 壊 の 当 日 崩 壊 直 前 に とられたもの アレシボ305m 鏡 コーネル 大 学 がプエル トリコに 建 設 (1963 年 ) 地 形 を 利 用 して 建 設 世 界 最 大 の 面 積 を 持 つ (ただし 球 面 鏡 で 動 かない など かなり 特 殊 な 望 遠 鏡 ) 巨 大 望 遠 鏡 :3 レーダーの 出 力 も 世 界 最 大 (1Mワット: 100Vなら10000A) 14
日 本 の 大 型 望 遠 鏡 野 辺 山 45m( 国 立 天 文 台 ) ミリ 波 の 望 遠 鏡 で 世 界 最 大 宇 宙 航 空 研 究 機 構 臼 田 64m 鏡 日 本 最 大 の 電 波 望 遠 鏡 VERAの 望 遠 鏡 VERA 20m x 4 台 からなる 基 線 長 2300kmの 電 波 干 渉 計 (VLBI) VERA 石 垣 島 局 干 渉 計 の 各 アンテナは 通 常 のカセグレン 望 遠 鏡 であることが 多 い 15
日 本 のVLBIネットワークの 望 遠 鏡 大 学 や 研 究 機 関 などで 有 する 口 径 10m~64mの 望 遠 鏡 を 組 み 合 わせて 観 測 を 行 う ASTE / ALMA 南 米 チリのアタカマ 高 地 ( 標 高 5000mレベル)にあるミリ 波 サブミリ 波 観 測 用 の 電 波 望 遠 鏡 ASTE 10m 望 遠 鏡 ( 主 に 単 一 鏡 観 測 ) 国 際 協 力 で 建 設 中 のALMA( 上 は 想 像 図 下 は 現 状 ) 16
もっとも 身 近 な(?)パラボラアンテナ 衛 星 放 送 の 受 信 アンテナ 通 常 はオフセット 型 のパラボラで 主 焦 点 を 用 いることが 多 い F: 焦 点 オフセット パラボラ 面 放 物 面 (パラボラ) 衛 星 放 送 のアンテナの 例 受 信 機 天 体 からの 電 波 は 微 弱 なので アンテナで 集 めた 電 波 を 処 理 するためには 増 幅 してやる 必 要 がある これを 行 うのが 焦 点 に 設 置 される 受 信 機 電 波 天 文 用 では 冷 却 されることが 多 い( 絶 対 温 度 ~10 度 ) VERAの 受 信 機 (22GHz & 43 GHz) VERAの 受 信 機 のデュワー 内 部 低 雑 音 アンプを 冷 却 して 使 用 する 17
スーパーヘテロダイン 受 信 受 信 した 電 波 の 周 波 数 を 扱 いやすい 別 の 周 波 数 ( 通 常 は 低 い 周 波 数 )に 変 換 して 受 信 する そのためには 受 信 電 波 と 基 準 信 号 を 混 ぜ 合 わせる ラジオから 電 波 望 遠 鏡 まで 最 も 基 本 的 な 電 波 の 受 信 方 法 アンテナから の 信 号 アンプ( 増 幅 器 ) 信 号 の 流 れ 観 測 周 波 数 ν 0 ミキサー 中 間 周 波 数 帯 の 信 号 周 波 数 ν 2 = ν 0 - ν 1 基 準 信 号 発 生 器 ~ 周 波 数 ν 1 分 光 器 などへ 衛 星 放 送 受 信 システム 衛 星 放 送 もスーパーヘテロダイン 受 信 方 式 12GHz 帯 の 信 号 を 受 信 して 1~2GHz 帯 に 変 換 して 処 理 焦 点 に 置 かれた 受 信 装 置 で 増 幅 し 周 波 数 変 換 する 18
レポート 問 題 1 アレシボ メッセージ 1974 年 11 月 に 球 状 星 団 M13 宛 てにアレシボ 天 文 台 からメッセージが 送 られた(あくまで デモンストレーションだが active SETIの 最 初 の 例 SETI = Search for Extra-Terrestrial Intelligence) メッセージは0/1の 信 号 1679 個 (=73x23)で 並 べると 右 図 のようになる この 図 には 1~10までの 数 生 命 のもとに なる 元 素 (CHONP)の 原 子 番 号 DNAの 構 成 人 間 の 絵 などが 含 まれる アレシボ 天 文 台 球 状 星 団 M13 アレシボメッセージ 19
レポート 問 題 1 アレシボ 望 遠 鏡 ( 直 径 D = 300 m)から 球 状 星 団 M13 ( 距 離 d = 8000 pc)の 方 向 に 向 けて 出 された 電 波 は 出 力 P=10 6 W 周 波 数 ν= 2.4 GHz 帯 域 幅 B = 10 Hzであった 1)この 望 遠 鏡 のビーム 幅 (θ=λ/d)を 求 めよ 2)M13の 距 離 での この 望 遠 鏡 のビームの 広 がり の 面 積 Sを 求 めよ 3) 上 記 のビームの 広 がりを 考 慮 して 球 状 星 団 M13の 星 でこの 電 波 を 観 測 した 場 合 の 電 波 強 度 (フラックス)は 何 Jyになるか 求 めよ 地 球 d θ S M13 有 効 数 字 は 一 桁 でよい 提 出 はレポートボックスへ(5 月 12 日 〆 ) 参 考 距 離 1 pc = 3.09 x 10 13 km 波 長 と 周 波 数 の 関 係 c = ν x λ, c=3.0 x 10 5 km フラックスの 単 位 Jy (ジャンスキー) 1 Jy = 10-26 W m -2 Hz -1 フラックスは 単 位 時 間 単 位 周 波 数 あたりに 単 位 面 積 を 通 過 するエネルギー 20