7 氏 名 佐 藤 逹 男 学 位 の 種 類 博 士 ( 経 済 学 ) 報 告 番 号 甲 第 425 号 学 位 授 与 年 月 日 2016 年 3 月 31 日 学 位 授 与 の 要 件 学 位 規 則 ( 昭 和 28 年 4 月 1 日 文 部 省 令 第 9 号 ) 第 4 条 第 1 項 該 当 学 位 論 文 題 目 中 島 飛 行 機 の 産 業 技 術 史 的 研 究 審 査 委 員 ( 主 査 ) 須 永 徳 武 林 采 成 老 川 慶 喜 ( 跡 見 学 園 女 子 大 学 副 学 長 観 光 コミュニティ 学 部 教 授 ) 1
Ⅰ. 論 文 の 内 容 の 要 旨 第 2 次 世 界 大 戦 は 各 国 の 産 業 力 を 基 盤 とする 総 力 戦 と 位 置 付 けられるが 特 に 航 空 機 の 開 発 力 と 持 続 的 生 産 力 が 総 力 戦 体 制 の 基 軸 であり 言 い 換 えれば 航 空 戦 力 の 消 耗 戦 ともいえるものであった 戦 時 期 日 本 に 於 いても 航 空 戦 力 の 重 要 性 が 認 識 されるに 応 じて 航 空 機 産 業 は 最 重 点 産 業 に 指 定 され その 増 産 が 物 資 動 員 計 画 の 基 軸 に 位 置 付 けられた この 結 果 戦 時 期 日 本 の 航 空 機 生 産 力 は 世 界 第 5 位 の 水 準 を 達 成 するが こうした 生 産 力 上 昇 を 主 に 担 ったの が 本 論 文 で 対 象 とされた 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 など 民 間 航 空 機 製 造 会 社 であった 本 論 文 は 戦 時 期 に 急 膨 張 して 日 本 最 大 の 航 空 機 製 造 会 社 となった 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 を 対 象 に 同 社 の 設 立 の 経 緯 陸 海 軍 とのの 沿 革 と 陸 海 軍 との 関 係 機 体 およびエンジンの 開 発 生 産 の 実 態 および 経 営 数 値 などを 分 析 することで 戦 時 期 における 日 本 航 空 機 産 業 の 実 態 の 一 端 を 明 らかにすることを 目 的 にした 研 究 成 果 である 近 年 経 済 統 制 政 策 や 物 資 動 員 システムなどを 中 心 に 戦 時 経 済 研 究 の 進 展 が 見 られる しかし 最 重 点 産 業 であったにも 拘 らず 機 密 性 の 高 い 軍 事 工 業 で あったが 故 に 航 空 機 産 業 の 実 態 を 具 体 的 に 解 明 し 得 る 残 存 資 料 は 著 しく 乏 し い この 結 果 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 に 限 らず 戦 時 航 空 機 産 業 の 実 態 について は 未 だ 不 明 な 点 が 多 く 残 されている 本 論 文 はそうした 戦 時 経 済 研 究 の 現 状 に 鑑 み その 限 界 を 超 えようとするものである 以 下 で 本 論 文 の 各 章 の 内 容 を 概 観 し その 意 義 について 確 認 したい 序 章 本 論 文 の 課 題 では これまでの 戦 時 日 本 の 航 空 機 産 業 と 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 に 関 する 研 究 史 が 検 討 され 航 空 機 体 およびエンジンそれ 自 体 の 検 討 言 い 換 えれば 航 空 機 性 能 の 具 体 的 検 討 がなされていない 点 が 指 摘 される こ うした 研 究 史 の 問 題 点 を 踏 まえて 本 論 文 では 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 企 業 とし ての 沿 革 やその 経 営 活 動 を 検 討 するだけでなく 航 空 機 製 造 技 術 にも 踏 み 込 ん だ 分 析 を 加 えるとする 具 体 的 には 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 が 開 発 した 航 空 機 体 とエンジン 性 能 に 関 して 三 菱 重 工 業 製 航 空 機 および 米 軍 機 と 比 較 し その 航 空 機 技 術 水 準 の 検 討 を 行 うことが 明 示 される その 際 に 多 量 生 産 における 航 空 機 体 エンジンの 生 産 能 率 についても 実 績 データを 用 いて 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 の 生 産 能 率 と 比 較 検 討 することも 述 べられる このように 序 章 では こ れまでの 研 究 史 の 問 題 点 が 指 摘 され その 克 服 に 向 けた 本 論 文 の 課 題 が 提 示 さ れている 第 1 章 戦 時 期 日 本 の 航 空 機 産 業 の 状 況 では まず 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 2
の 発 展 を 意 識 しながら 日 本 の 航 空 機 産 業 の 発 展 過 程 が 全 体 的 に 概 観 される 本 章 によれば 日 本 の 航 空 機 産 業 は 欧 米 に 比 較 して 約 10 年 遅 れて 航 空 機 製 造 会 社 が 設 立 され 黎 明 期 を 迎 える その 後 大 正 期 から 昭 和 期 にかけてそうし た 航 空 機 製 造 会 社 は 14 社 を 確 認 することができるが 陸 軍 と 海 軍 の 対 立 や 航 空 戦 力 の 位 置 付 けに 関 する 差 異 から これらの 会 社 は 陸 軍 あるいは 海 軍 系 へと 系 列 化 されて 行 く それらの 会 社 の 中 で2 大 メーカーへと 成 長 した 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 と 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 のみが 系 列 を 超 えて 陸 海 軍 双 方 の 航 空 機 を 生 産 するが この 両 社 においても 工 場 設 備 機 械 設 備 組 立 施 設 労 働 者 は 陸 軍 向 けと 海 軍 向 けに 分 かたれていたことが 指 摘 された 次 に 日 本 と 米 国 における 軍 用 航 空 機 の 生 産 力 が 主 に USSBS(アメリカ 戦 略 爆 撃 調 査 団 報 告 )のレポートを 用 いて 具 体 的 かつ 数 量 的 に 比 較 されている その 検 討 結 果 によれば 日 中 戦 争 期 においては 日 米 両 国 の 軍 用 航 空 機 の 生 産 力 はほぼ 拮 抗 する 状 況 にあった しかし アジア 太 平 洋 戦 争 期 になると 日 米 両 国 の 産 業 力 格 差 が 軍 用 航 空 機 生 産 に 明 確 に 反 映 する 具 体 的 に 1941-1945 年 の 日 米 両 国 の 軍 用 航 空 機 生 産 機 数 が 示 され 日 本 が 69,888 機 を 生 産 したのに 対 し 米 国 はその 約 4.3 倍 に 該 当 する 297,199 機 が 生 産 されていたことが 明 らかにさ れた また 単 に 生 産 機 数 の 対 比 のみならず 本 章 では 機 種 構 成 に 関 しても 検 討 が 加 えられ アジア 太 平 洋 戦 争 の 進 展 につれて 日 本 が 戦 闘 機 の 生 産 比 率 を 高 めたのに 対 し 米 国 ではむしろ 大 型 爆 撃 機 の 生 産 比 率 が 高 まったことが 統 計 的 に 明 らかにされる そして この 結 果 として 生 産 機 数 で 4.3 倍 の 格 差 であっ た 日 米 両 国 の 生 産 力 は 生 産 重 量 比 でみるとさらに 大 きな 10 倍 の 格 差 にあった ことが 指 摘 されている 戦 時 期 に 入 ると 日 本 は 軍 用 航 空 機 の 生 産 力 拡 充 計 画 の 立 案 と 改 訂 を 繰 り 返 し 航 空 機 産 業 を 最 重 点 産 業 に 位 置 付 けて 戦 時 物 資 動 員 政 策 の 柱 に 据 えていた しかし 立 案 された 生 産 力 拡 充 は 熟 練 工 の 不 足 資 材 や 部 品 の 欠 乏 さらに 物 資 輸 送 力 の 低 下 などを 要 因 として 破 綻 した 点 があきらかにされる また 生 産 力 拡 充 計 画 において 航 空 機 産 業 のみを 肥 大 化 させた 反 面 で 自 動 車 産 業 の 規 模 が 小 さく 機 械 工 業 が 欧 米 に 比 較 して 未 発 達 であった 点 も 航 空 機 増 産 計 画 の 隘 路 であったことを 指 摘 する 第 2 章 中 島 飛 行 機 の 沿 革 と 陸 海 軍 では 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 設 立 から 事 業 展 開 がまず 取 り 上 げられ 次 いで 発 注 者 である 陸 海 軍 が 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 航 空 機 製 造 事 業 をどの 様 に 評 価 していたかが 検 討 される 同 社 は 1917 年 に 海 軍 機 関 将 校 であった 中 島 知 久 平 により 設 立 されたが 中 島 は 欧 米 に 対 比 し て 日 本 の 航 空 機 産 業 の 発 展 が 遅 れている 主 要 因 を 予 算 システムに 縛 られた 官 営 事 業 体 制 にあると 認 識 し 民 間 航 空 機 産 業 の 発 展 を 企 図 して 同 社 を 設 立 した とする しかし そうした 中 島 知 久 平 の 意 図 に 反 して 中 島 飛 行 機 は 戦 時 期 の 3
航 空 機 増 産 政 策 に 相 応 してその 生 産 能 力 を 急 拡 大 し 結 果 的 にアジア 太 平 洋 戦 争 期 に 日 本 最 大 の 航 空 機 製 造 会 社 となっていく この 点 に 関 し 本 論 文 ではこ の 急 成 長 が 必 ずしも 同 社 の 意 図 ではなかった 点 を 同 社 社 長 の 中 島 喜 代 一 の 発 言 を 用 いて 指 摘 した また 同 社 の 急 成 長 に 必 要 であった 事 業 資 金 は 日 本 興 業 銀 行 に 対 する 政 府 の 命 令 融 資 にほぼ 依 存 していた 点 を 指 摘 し これにより 同 社 は 次 第 に 準 国 策 会 社 的 性 格 を 強 めていったとする そして 最 終 的 には 国 営 化 され 第 Ⅰ 軍 需 工 廠 となったことが 指 摘 される この 点 に 関 して 本 論 では 中 島 知 久 平 が 目 指 した 民 営 化 は 企 業 管 理 を 強 化 する 戦 時 体 制 の 最 終 段 階 で 挫 折 した 点 また 軍 用 航 空 機 製 造 は 国 営 体 制 がより 戦 争 遂 行 という 国 家 目 的 に 叶 うとされた 点 が 強 調 された そして この 国 営 体 制 を 背 景 にして 中 島 飛 行 機 は 敗 戦 の 1945 年 1-8 月 期 まで 機 体 およびエンジン 生 産 量 を 他 の 航 空 機 製 造 事 業 会 社 に 比 して 落 ち 込 ませず むしろその 生 産 シェアが 上 昇 した 事 実 が 明 らかにされている 次 に 1936 年 度 陸 軍 原 価 調 査 を 利 用 して 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 事 業 活 動 を 検 討 する 同 調 査 は 同 社 の 財 務 管 理 における 課 題 を 指 摘 した 同 社 の 会 計 処 理 が 杜 撰 であることを 指 摘 して これが 同 社 の 事 業 経 営 上 の 大 きな 問 題 点 とさ れる そして 重 役 監 査 役 など 経 営 陣 の 認 識 不 足 を 厳 しく 批 判 した また 財 務 管 理 では 同 社 の 間 接 費 計 上 の 過 大 も 同 時 に 批 判 された こうした 点 を 明 ら かにした 上 で 同 年 度 の 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 名 古 屋 航 空 機 製 作 所 に 対 する 原 価 調 査 にも 検 討 を 加 え 中 島 飛 行 機 とは 対 照 的 に 同 製 作 所 の 経 営 活 動 が 健 全 と 評 価 されていた 点 も 明 らかにされた さらに 1936 年 度 陸 軍 原 価 調 査 から 約 7 年 後 の 1943 年 9 月 から 10 月 にかけ て 実 施 された 第 三 回 行 政 査 察 について 検 討 が 加 えられる この 行 政 査 察 の 主 目 的 は 1944 年 度 の 航 空 機 生 産 目 標 を 1943 年 度 の 2 倍 半 と 設 定 し 航 空 機 製 造 工 場 の 査 察 を 通 じてその 実 現 可 能 性 を 調 査 する 点 にあったとされるが 本 論 文 ではこの 目 的 を 航 空 機 製 造 の 2 大 メーカーであった 中 島 飛 行 機 および 三 菱 重 工 業 に この 生 産 目 標 を 強 制 することにあったと 指 摘 する 査 察 の 結 果 も 紹 介 され 中 島 飛 行 機 に 対 して 放 漫 経 営 である とするなど かなり 批 判 的 であ ったとされる そして 中 島 飛 行 機 が 原 材 料 加 工 での 歩 留 や 発 生 屑 の 回 収 率 材 廃 率 工 廃 率 のどれをとっても 三 菱 重 工 業 に 見 劣 りした 点 や 査 察 使 へ 経 理 資 料 の 提 供 を 回 避 し アルミ 屑 の 横 流 しの 疑 義 を 生 じさせたことを 指 摘 し こ うした 事 実 が 行 政 査 察 において 中 島 飛 行 機 に 批 判 的 な 査 察 結 果 をもたらした と 論 じられている そして 1936 年 度 原 価 調 査 報 告 で 指 摘 された 財 務 管 理 の 改 善 が 政 府 陸 海 軍 が 満 足 するレベルにまで 達 していなかったと 評 価 す る その 反 面 で 行 政 査 察 報 告 書 に 記 された 中 島 飛 行 機 が この 際 拡 張 し なければ 損 と 考 える 露 骨 な 例 と 考 えていたとする 記 述 に 対 しては 1943 年 の 4
段 階 で 既 に 準 国 策 会 社 的 性 格 となり 経 営 の 自 主 性 を 喪 失 していた 点 を 考 慮 すると 厳 しすぎる 批 判 であったと 評 価 している 第 3 章 中 島 飛 行 機 の 機 体 事 業 では 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 機 体 事 業 の 実 態 が 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 のそれと 対 比 して 検 討 される 本 論 文 によれば 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 は 会 社 設 立 から 敗 戦 までの 28 年 間 において 陸 海 軍 機 48 機 種 の 試 作 20 機 種 の 制 式 化 さらに 20 機 種 の 改 造 型 を 開 発 製 造 したとされ る アジア 太 平 洋 戦 争 期 に 限 ると 陸 軍 機 に 関 しては 試 作 のみが 2 機 種 原 型 制 式 化 が 3 機 種 改 造 型 制 式 化 が 6 機 種 で 合 計 11 機 種 を 開 発 製 造 され 海 軍 機 に 関 しては 試 作 のみが 3 機 種 原 型 制 式 化 が 3 機 種 改 造 型 制 式 化 が 4 機 種 で 合 計 10 機 種 さらに 転 換 生 産 された 機 種 が 4 機 種 あったことが 資 料 に 基 づき 明 らかにされた 同 様 に アジア 太 平 洋 戦 争 期 の 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 に ついても 調 査 され 陸 軍 機 では 試 作 のみが 2 機 種 原 型 制 式 化 1 機 種 改 造 制 式 化 4 機 種 海 軍 機 では 試 作 のみが 3 機 種 原 型 制 式 化 2 機 種 改 造 型 制 式 化 10 機 種 あったことがやはり 明 らかにされる そして 制 式 化 機 種 数 では 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 と 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 は 拮 抗 した 水 準 にあったと 評 価 される また 陸 軍 戦 闘 機 の 主 力 機 種 は 中 島 飛 行 機 が 開 発 製 造 した 97 式 戦 闘 機 1 式 戦 闘 機 隼 2 式 戦 闘 機 鍾 馗 および 4 式 戦 闘 機 疾 風 であり これ ら 以 外 では 川 崎 航 空 機 株 式 会 社 の 3 式 戦 闘 機 飛 燕 5 式 戦 闘 機 であった 海 軍 の 艦 載 戦 闘 機 では その 主 力 は 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 が 開 発 製 造 した 零 戦 で あり 局 地 戦 闘 機 ではやはり 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 の 開 発 製 造 した 雷 電 さ らに 川 西 航 空 機 株 式 会 社 の 紫 電 紫 電 改 が 主 力 であった 点 が 示 される これを 踏 まえて 陸 軍 戦 闘 機 が 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 製 海 軍 戦 闘 機 は 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 製 という 棲 み 分 けが 出 来 ていたと 指 摘 される こうした 戦 闘 機 の 開 発 製 造 状 況 を 踏 まえて 次 に 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 が 開 発 製 造 した 機 体 について 搭 載 エンジン 出 力 翼 面 荷 重 水 平 最 大 速 度 航 続 距 離 火 力 防 御 性 能 を 技 術 的 かつ 具 体 的 に 検 討 される こうした 検 討 は 同 時 期 の 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 製 戦 闘 機 あるいは 米 軍 戦 闘 機 との 比 較 を 通 じて 進 められている そして 機 体 の 徹 底 的 な 軽 量 化 がその 特 色 であり 防 弾 装 備 な ど 軍 機 として 防 御 性 を 犠 牲 にしていたことが 指 摘 される これに 対 して 米 軍 機 の 機 体 は 強 力 な 防 弾 性 を 備 えた 機 体 であったとし その 理 由 として 日 本 が 大 馬 力 エンジンの 開 発 製 造 が 遅 れたのに 対 し アメリカ 軍 機 は 大 馬 力 エンジン を 搭 載 し 過 度 な 軽 量 化 を 図 る 必 要 がなかった 点 が 指 摘 されている また 大 型 爆 撃 機 の 機 体 性 能 でも 爆 弾 搭 載 量 をはじめ 日 米 間 の 製 造 機 体 に は 隔 絶 した 差 があったことも 指 摘 される アメリカ 軍 が 4 発 機 を 主 力 としたの に 対 して 日 本 軍 は 双 発 機 しか 制 式 化 できなかった 第 2 次 大 戦 の 末 期 に 中 島 飛 行 機 が 試 作 した 4 発 爆 撃 機 連 山 は それまでの 日 本 爆 撃 機 の 性 能 水 準 を 5
大 きく 凌 駕 するものであったが この 時 期 にはすでにこれを 量 産 する 状 況 に 日 本 がなかったことも 指 摘 されている さらにアジア 太 平 洋 戦 争 期 における 日 本 の 航 空 機 生 産 システムについて 検 討 が 進 められる 日 本 における 航 空 機 生 産 システムは サブ 組 立 まではジョブ ショップ 方 式 であり 中 島 飛 行 機 および 三 菱 重 工 業 両 社 の 最 終 組 立 ラインは プロダクション ライン 方 式 とジョブ ショップ 方 式 が 混 在 していたとする アメリカ 戦 略 爆 撃 調 査 団 (USSBS)の 報 告 において 中 島 飛 行 機 の 機 体 生 産 シス テムは 三 菱 重 工 業 のそれに 比 較 して 進 んでいたとする 評 価 を 紹 介 し 1941-1945 年 の 中 島 飛 行 機 の 生 産 機 数 (19,519 機 )と 三 菱 重 工 業 の 生 産 機 数 (12,513 機 ) の 差 から 見 ても 中 島 飛 行 機 が 三 菱 重 工 業 より 機 数 面 では 多 量 生 産 を 達 成 していたことを 明 らかにする ただし 本 論 文 では 両 社 の 生 産 性 を 一 人 当 た り 生 産 重 量 の 指 標 に 即 してあらためて 生 産 能 率 を 検 証 し 直 し 1944 年 4 月 に 両 社 が 均 衡 するまでは むしろ 三 菱 重 工 業 の 生 産 能 率 が 優 位 にあった 事 実 を 明 らかにした こうした 指 標 に 照 らせば 1941 年 4 月 時 点 の 中 島 飛 行 機 の 生 産 能 率 は 三 菱 重 工 業 の 約 1/4 に 過 ぎず 両 者 の 間 には 顕 著 な 差 があったことも 新 た な 事 実 として 指 摘 されている こうした 生 産 能 率 と 月 産 機 数 の 間 には 正 の 相 関 が 認 められたとする 本 論 文 で 検 証 された 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 の 生 産 能 率 の 向 上 度 合 いは 習 熟 曲 線 による 計 算 結 果 にほぼ 合 致 する しかし 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 生 産 能 率 の 向 上 度 合 いは 習 熟 曲 線 による 計 算 結 果 を 上 回 る 水 準 にあったことも 明 らかにされる そして その 要 因 として 中 島 飛 行 機 の 勤 労 度 が 三 菱 重 工 業 の 半 分 という 極 端 に 低 い 状 態 から 月 産 機 数 が 増 大 し 勤 労 度 が 向 上 した 効 果 と 指 摘 した 最 終 組 立 ラインの 相 違 は 生 産 能 率 に 決 定 的 な 影 響 を 与 えるものではなく 月 産 機 数 増 による 習 熟 の 影 響 が 大 きかったと 結 論 付 けている 第 4 章 中 島 飛 行 機 の 航 空 エンジン 事 業 でも 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 との 対 比 をしつつ 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 のエンジン 事 業 の 実 態 が 明 らかにされる 中 島 飛 行 機 がエンジン 事 業 に 進 出 するのは 1924 年 であるが これ 以 降 の 極 め て 短 期 間 の 間 に 同 社 は 世 界 水 準 の 航 空 機 エンジンの 開 発 と 製 造 を 実 現 した 本 論 文 ではこの 短 期 間 における 急 速 な 開 発 実 績 を 同 社 のエンジン 事 業 の 特 質 と 指 摘 する 実 際 に 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 がエンジン 製 造 事 業 を 開 始 するのが 1916 年 であり 中 島 飛 行 機 は 三 菱 重 工 業 から 8 年 遅 れのスタートであった 米 国 と 比 較 すると 2 大 メーカーの 一 方 である Wright Aeronautical 社 は ライト 兄 弟 がエンジン 開 発 を 始 めた 1902 年 以 降 の 技 術 蓄 積 を 有 していたし 1925 年 に 設 立 された Pratt & Whitney 社 は 設 立 者 の F.B.Rentschler が Wright Aeronautical 社 の 社 長 を 務 めた 技 術 者 であり Wright Aeronautical 社 のチーフ エンジニア チーフ デザイナーも 同 社 設 立 と 同 時 期 に Pratt & Whitney 社 に 移 籍 していた 6
その 意 味 で Pratt & Whitney 社 もまた 設 立 時 点 で 充 分 なエンジンの 開 発 製 造 技 術 の 蓄 積 があったと 指 摘 する これに 対 して 後 発 の 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 は 多 種 類 のライセンス 導 入 多 種 類 のエンジン 開 発 を 同 時 並 行 的 に 進 めることで 開 発 時 間 の 節 約 を 実 現 したこ とが 指 摘 される すなわち 結 果 が 出 てから 次 の 開 発 に 移 るという 直 列 的 な 開 発 体 制 では 軍 の 要 求 に 間 に 合 わなかったと 述 べる 中 島 飛 行 機 の 自 主 開 発 エンジンの 成 功 率 は 6/26 と 結 果 的 には 低 水 準 に 止 まった 一 方 で それにもかか わらず 同 社 の 航 空 機 製 造 事 業 が 継 続 可 能 となったのは 中 島 一 族 が 株 式 のほと んどを 所 有 するという 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 閉 鎖 的 経 営 体 制 と 営 利 を 本 位 と しない 中 島 知 久 平 の 経 営 方 針 が 重 要 であったと 本 論 文 では 指 摘 される 日 米 両 国 の 戦 闘 機 に 搭 載 されたエンジンは 単 列 9 気 筒 から 2 列 14 気 筒 さ らに 2 列 18 気 筒 へと 性 能 向 上 が 図 られていくが 本 論 文 では 中 島 飛 行 機 と 三 菱 重 工 業 さらに 米 国 の 2 社 (Wright Aeronautical 社 および Pratt & Whitney 社 )の 代 表 的 なエンジンに 関 して 離 昇 馬 力 高 空 性 能 排 気 量 当 たり 馬 力 正 面 面 積 当 たり 馬 力 馬 力 当 たり 重 量 などが 具 体 的 かつ 技 術 的 に 比 較 検 討 され る そのなかで 中 島 飛 行 機 製 の 2 列 14 気 筒 エンジンであった 栄 は 零 戦 や 隼 などに 搭 載 された 日 本 で 最 多 の 量 産 エンジンであった 点 が 強 調 される また 日 本 ではじめて 開 発 された 実 用 2,000 馬 力 エンジンである 2 列 18 気 筒 の 誉 は 小 型 軽 量 設 計 の 極 致 で 単 位 当 たりの 効 率 では 群 を 抜 いていた と 評 価 される 中 島 飛 行 機 のエンジン 製 造 は 1941 年 から 1945 年 までに 48.5 百 万 馬 力 であ ったが 一 方 の 三 菱 重 工 業 はその 1.25 倍 の 当 たる 60.8 百 万 馬 力 の 生 産 実 績 を 示 した しかし 本 論 文 で 行 われた 独 自 推 計 によれば 中 島 飛 行 機 のエンジン 生 産 能 率 は 1941 年 11 月 の 多 摩 製 作 所 新 設 までは むしろ 三 菱 重 工 業 の 1.4 倍 から 2 倍 の 能 率 となり 三 菱 重 工 業 に 比 較 して 非 常 に 高 かったことが 明 らかに された 同 時 期 の 中 島 飛 行 機 の 機 体 生 産 能 率 が 三 菱 重 工 業 の 1/4 程 度 でしかな かったことに 対 比 し エンジン 生 産 能 率 における 中 島 飛 行 機 と 三 菱 重 工 業 との 逆 転 現 象 は 大 変 興 味 深 い 現 象 であると 指 摘 される 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 多 摩 製 作 所 の 新 設 が 契 機 となり 同 社 の 稼 働 率 は 低 下 し これに 伴 い 生 産 能 率 も 急 低 下 するが その 後 に 同 社 の 製 造 機 数 が 伸 長 し これに 対 応 して 生 産 能 率 も 回 復 し ほぼ 三 菱 重 工 業 の 生 産 能 率 に 同 等 の 水 準 で 推 移 したことも 明 らかにされた 第 5 章 中 島 飛 行 機 の 経 営 では 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 経 営 実 態 が 具 体 的 に 検 討 される 本 論 文 は 同 社 の 経 営 の 特 徴 を 閉 鎖 的 経 営 と 指 摘 し 創 業 者 の 中 島 知 久 平 がそれにこだわった 理 由 を 株 式 が 分 散 すれば その 中 に 営 利 を 本 意 とする 異 質 の 株 主 が 現 れ 運 営 上 円 滑 を 書 く 恐 れがある と 考 えた 点 に あると 指 摘 した 7
次 に 中 島 飛 行 機 は 戦 後 の 財 閥 解 体 の 対 象 企 業 となるが 本 論 文 では 中 島 が 企 業 集 団 として 財 閥 の 要 件 を 有 していたかを 検 討 し 財 閥 とは 位 置 付 けられな いと 結 論 する また 中 島 飛 行 機 の 企 業 風 土 として 技 術 優 先 自 由 な 雰 囲 気 群 雄 割 拠 とする 特 徴 を 指 摘 した 続 いて 貸 借 対 照 表 収 益 性 機 体 およびエンジン 価 格 の 分 析 を 通 じて 中 島 飛 行 機 の 経 営 状 況 が 検 討 される 貸 借 対 照 表 の 分 析 からは 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 が 1938 年 11 月 に 資 本 金 額 を 5 千 万 円 に 増 資 した 以 降 航 空 機 増 産 のため の 資 金 需 要 を 命 令 融 資 に 依 存 したため 急 速 に 借 金 体 質 と 転 じていったことが 指 摘 される これまで 日 本 の 航 空 機 産 業 は 太 平 洋 戦 争 期 に 膨 大 な 戦 時 利 得 を 取 得 したと 考 えられてきた しかし 中 島 飛 行 機 の 財 務 分 析 を 通 じて 本 論 文 では 中 島 飛 行 機 が 敗 戦 までに 新 たに 蓄 積 した 純 資 産 を 1700 万 円 と 推 計 し 同 社 が 決 して 膨 大 な 戦 時 利 得 を 獲 得 してはいなかった 点 を 明 らかにした さらに 生 産 高 純 利 益 率 を 計 算 し 戦 時 期 に 生 産 高 が 急 増 したにもかかわらず 生 産 高 純 利 益 率 が 継 続 的 に 低 下 し ついに 1944 年 12 月 期 では 0.6%に 落 ち 込 んだ 事 実 を 明 らかにする そして こうした 利 益 率 の 低 迷 要 因 として 自 己 資 本 比 率 が 異 常 に 低 位 である 一 方 で 配 当 率 があらかじめ 決 定 されていた 点 を 指 摘 している 同 様 に 三 菱 重 工 業 の 同 時 期 の 生 産 高 純 利 益 率 も 計 算 し 三 菱 重 工 業 の 利 益 率 は 中 島 飛 行 機 と 異 なり 平 均 して 7~8% 台 を 維 持 していた 点 また 三 菱 重 工 業 の 1944 年 12 月 期 の 利 益 率 が 4%を 維 持 していた 事 実 を 明 らかにしている 本 論 文 では こうした 中 島 飛 行 機 と 三 菱 重 工 業 との 収 益 性 の 差 異 を 製 造 原 価 の 差 異 に 求 める 見 解 が 示 された すなわち 太 平 洋 戦 争 期 における 中 島 飛 行 機 製 機 体 の 重 量 単 価 の 平 均 値 を 三 菱 重 工 業 製 機 体 のそれと 比 較 すると 1.14 倍 であったとされる また 中 島 飛 行 機 製 エンジンの 馬 力 単 価 の 平 均 値 も 三 菱 重 工 業 製 のそれに 比 較 して 1.84 倍 であったことが 示 される そして 飛 行 機 価 格 はその 原 価 を 反 映 す ることから 重 量 単 価 馬 力 単 価 を 基 準 として 見 て 場 合 中 島 飛 行 機 の 製 造 原 価 は 三 菱 重 工 業 より 高 価 格 であり その 点 も 収 益 性 の 差 異 の 要 因 と 述 べられた 終 章 中 島 飛 行 機 の 残 したもの では それまでの 論 述 を 踏 まえて 敗 戦 後 に 財 閥 指 定 を 受 けた 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 解 体 過 程 に 検 討 が 加 えられるととも に 同 社 が 戦 前 期 日 本 の 航 空 機 産 業 においてどういう 存 在 であったかが 総 括 さ れる 戦 後 GHQ の 財 閥 解 体 指 令 によって 富 士 産 業 ( 旧 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 )および 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 は 共 に 解 体 分 割 される しかし 両 社 の 分 割 経 緯 を 見 る と 解 体 分 割 に 対 する 両 社 の 対 応 は 対 照 的 であったとされる 持 株 会 社 整 理 委 員 会 は 富 士 産 業 については 経 営 の 健 全 性 を 考 慮 し 少 数 会 社 への 分 割 方 針 であったが 富 士 産 業 はむしろ 小 規 模 な 11 社 への 分 割 を 選 択 する 他 方 で 三 菱 重 工 業 に 対 しては 財 閥 支 配 力 の 低 下 を 目 的 に 多 数 会 社 への 分 割 方 針 であったが 8
最 終 的 に 三 菱 重 工 業 は 地 域 分 割 の 3 社 体 制 で 結 着 する この 相 違 を 新 興 企 業 の 中 島 飛 行 機 では 遠 心 力 が 働 き 財 閥 の 一 部 門 であった 伝 統 企 業 の 三 菱 重 工 業 では 求 心 力 が 働 いたと 指 摘 された 中 島 飛 行 機 で 遠 心 力 が 働 いた 要 因 として 本 論 文 は 日 中 戦 争 期 から 急 膨 張 した 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 に 共 有 される 企 業 文 化 の 不 在 言 い 換 えればその 時 間 的 余 裕 がなかった 点 が 指 摘 される 中 島 知 久 平 というカリスマ 経 営 者 が 公 職 追 放 となった 状 態 で 群 雄 割 拠 といわれた 中 島 飛 行 機 には 将 来 の 再 興 の 意 志 を 持 ちそれを 実 行 に 移 し 得 る 経 営 者 が 存 在 し なかったとも 指 摘 された 本 論 文 の 総 括 として 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 が 事 業 活 動 を 行 なった 28 年 間 は 航 空 機 産 業 の 民 営 化 を 旗 印 に 中 島 知 久 平 により 創 立 された 個 人 企 業 が 太 平 洋 戦 争 期 には 日 本 第 1 の 航 空 機 製 造 会 社 となるまでに 急 膨 張 するが その 過 程 で 国 策 会 社 的 性 格 を 強 め 最 終 的 には 民 有 国 営 化 された 歴 史 と 述 べられて いる そして 中 島 飛 行 機 に 期 待 されたのは 企 業 としての 経 営 効 率 ではなく 技 術 開 発 力 と 生 産 力 であった 点 が 強 調 された また 企 業 としての 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 は 放 漫 経 営 と 批 判 されたが 同 社 が 日 本 の 航 空 機 産 業 の 発 展 さ らに 日 本 の 陸 海 軍 航 空 戦 力 の 増 強 に 果 たした 大 きな 実 績 を 本 論 文 は 高 く 評 価 し ている 時 間 の 切 迫 した 緊 急 増 産 が 喫 緊 の 課 題 であった 状 況 下 で 準 国 策 会 社 的 とされた 中 島 飛 行 機 で 経 営 効 率 を 度 外 視 して 増 産 対 策 が 最 優 先 され た 点 は 必 然 的 であったとも 評 価 されている Ⅱ. 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 本 論 文 の 課 題 は 戦 時 期 に 軍 用 航 空 機 製 造 で 急 成 長 した 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 を 対 象 として 同 社 の 設 立 の 経 緯 陸 海 軍 とのの 沿 革 と 陸 海 軍 との 関 係 機 体 およびエンジンの 開 発 また 製 造 実 績 や 経 営 活 動 などを 具 体 的 に 検 討 し 戦 時 期 における 日 本 航 空 機 産 業 の 実 態 を 解 明 することにあった 近 年 戦 時 統 制 経 済 期 の 日 本 経 済 について 経 済 政 策 産 業 発 展 物 資 動 員 体 制 の 構 築 と 運 用 実 態 など 多 様 な 側 面 から 研 究 が 進 められ 同 時 に 関 係 史 料 の 復 刻 なども 相 次 ぎ その 研 究 は 急 速 に 進 展 したと 言 って 良 い しかし そう した 研 究 の 進 展 にもかかわらず 当 該 期 の 最 重 点 産 業 とされ 戦 時 産 業 政 策 の 基 軸 に 位 置 付 けられた 航 空 機 産 業 に 関 する 研 究 は 未 だに 乏 しい 戦 闘 機 や 爆 撃 機 などの 製 造 に 特 化 した 航 空 機 産 業 は 軍 事 工 業 として 陸 海 軍 の 厳 しい 統 制 下 に 置 かれた さらに 敗 戦 による 戦 争 責 任 問 題 にも 関 連 することから 戦 後 に 関 係 史 料 の 焼 却 廃 棄 も 大 規 模 に 行 われた これらのことを 原 因 として 戦 時 期 航 空 機 産 業 研 究 には 研 究 史 料 の 残 存 状 況 が 隘 路 となり 研 究 の 進 展 を 阻 害 してき 9
た そうしたなかで 本 論 文 は USSBS(アメリカ 戦 略 爆 撃 調 査 団 )レポート 美 濃 部 洋 二 文 書 防 衛 省 防 衛 研 修 所 資 料 をはじめとして 内 外 の 残 された 資 料 を 渉 猟 し 現 時 点 でほぼ 網 羅 的 と 言 える 史 料 調 査 の 成 果 を 組 み 合 わせて 従 来 の 戦 時 航 空 機 産 業 史 研 究 の 水 準 を 大 きく 超 える 成 果 となっている 本 論 文 の 第 一 の 貢 献 は 当 該 研 究 の 資 料 水 準 を 大 きく 前 進 させた 点 にある 本 論 文 は 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 の 航 空 機 製 造 事 業 を 主 たる 研 究 対 象 としている が 中 島 飛 行 機 に 直 接 間 接 に 関 連 するこれまでの 研 究 として 高 橋 泰 隆 山 崎 志 郎 麻 島 昭 一 大 河 内 曉 男 などの 研 究 が 存 在 する また 本 論 文 で 比 較 研 究 の 対 象 とされた 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 の 事 業 や 米 国 の 航 空 機 産 業 に 関 しては 前 田 裕 子 西 川 純 子 岡 崎 哲 二 笠 井 雅 直 などの 研 究 が 存 在 する 本 論 文 では そうした 先 行 研 究 の 批 判 的 検 討 を 踏 まえて それらの 研 究 で 解 明 されていない 論 点 を 中 心 に 研 究 が 進 められている その 点 で 本 論 文 はこれまでの 戦 時 期 日 本 航 空 機 産 業 史 の 研 究 水 準 を 大 きく 引 き 上 げる 研 究 成 果 となっている この 点 が 本 論 文 の 第 二 の 貢 献 である また 本 論 文 は これまでの 経 済 史 研 究 では 具 体 的 に 取 り 上 げられることが 少 なかった 航 空 機 の 機 体 およびエンジンに 関 し 技 術 的 側 面 に 大 きく 踏 み 込 ん で 研 究 されている 従 来 の 中 島 飛 行 機 研 究 では 対 象 とされなかった 機 体 およ びエンジンの 技 術 的 側 面 や 製 造 過 程 に 関 して もう 一 方 の 航 空 機 製 造 会 社 であ った 三 菱 重 工 業 と 対 比 して 具 体 的 かつ 計 量 的 に 検 討 が 加 えられている これ により 中 島 飛 行 機 による 航 空 機 製 造 技 術 の 実 態 や 製 造 過 程 を 具 体 的 に 明 示 する ことに 成 功 している 航 空 工 学 の 専 門 技 術 者 としての 筆 者 の 知 識 と 経 験 が 十 全 に 活 かされた 論 文 と 評 価 できよう こうした 航 空 技 術 の 知 見 を 背 景 にして 研 究 が 進 められた 成 果 である 点 が 本 論 文 の 第 三 の 貢 献 と 評 価 することができる このように 本 論 文 は これまでの 戦 時 経 済 研 究 で 遅 れた 分 野 であった 軍 用 航 空 機 産 業 史 研 究 に 関 して 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 を 中 心 に 比 較 対 象 としての 三 菱 重 工 業 の 軍 用 航 空 機 事 業 にまで 踏 み 込 んで 研 究 を 進 めたもので 戦 時 航 空 機 産 業 研 究 の 水 準 を 大 きく 向 上 させただけでなく 近 年 の 戦 時 経 済 研 究 にも 大 きく 貢 献 する 研 究 である 本 論 文 で 見 出 された 多 数 の 新 たな 事 実 や 研 究 内 容 の 独 自 性 さらに 戦 時 経 済 研 究 の 進 展 に 果 たした 貢 献 に 鑑 み 本 論 文 が 博 士 論 文 とし て 十 分 にその 水 準 に 到 達 していると 評 価 することができる ただし 本 論 文 にも 今 後 の 課 題 とすべき 点 も 存 在 する 第 一 に 本 論 文 ではこれまで 明 らかにされていなかった 数 多 くのファインデ ィングファクトが 示 されている しかし 本 論 文 では そうした 新 たに 見 出 さ れた 事 実 が 事 実 の 提 示 に 止 まり 戦 時 期 日 本 の 航 空 機 産 業 史 研 究 あるいは 戦 時 経 済 研 究 にどのような 意 義 を 有 するものかが 十 分 に 考 察 され 位 置 付 けられ ているとは 言 い 難 い 10
第 二 に 本 論 文 は 渉 猟 した 多 彩 な 史 料 を 利 用 した 研 究 成 果 であるが 歴 史 研 究 における 史 料 利 用 は 当 該 史 料 の 記 述 および 内 容 に 関 し 周 到 に 検 討 された 上 で 用 いることが 原 則 である しかし 本 論 文 では 中 島 知 久 平 の 伝 記 や 中 島 飛 行 機 株 式 会 社 関 係 者 などの 発 言 や 伝 聞 記 述 が 十 分 な 史 料 批 判 を 経 ずに 引 用 利 用 さ れている 箇 所 が 散 見 される この 点 は 経 済 史 研 究 として 問 題 点 と 言 わざるを 得 ない こうした 難 点 はあるが 本 論 文 が 戦 時 日 本 の 航 空 機 産 業 史 研 究 に 与 えた 貢 献 に 比 較 すれば 重 大 な 瑕 疵 とは 言 えず 今 後 の 研 究 のなかで 改 善 明 示 が 進 むも のと 思 われる 本 論 文 は 問 題 意 識 の 明 確 性 研 究 の 独 創 性 高 い 実 証 水 準 こ れらの 点 で 十 分 に 博 士 論 文 に 値 するものと 評 価 できるものである 11