化学療法を受ける患者のストーマケア 本編は P.17 ❶ ざ瘡様皮疹 ①前胸部 上腹部に小さな 紅色丘疹を生じることが多い ②このような紅色丘疹が全身に生じ 掻痒感と軽度の疼痛を伴うことがある ③ストーマ装具貼付部の皮膚に 紅色丘疹が生じ 数日で壊疽性 膿皮症様の皮疹へと悪化した症例 ① ② ③ ① 乾燥と痂疲形成が生じた皮膚 2 ② ❷ 症例写真 消化器最新看護 Vol.21 No.3 ストーマケア方法の指導によって 皮膚障害は改善した
化 学 療 法 の 薬 剤 の 開 発 発 展 によりがん 治 療 は 著 しく 進 歩 し, 進 行 再 発 大 腸 がん のストーマ 保 有 患 者 でも,3~4 年 の 延 命 が 可 能 となった その 結 果, 化 学 療 法 を 受 けるストーマ 保 有 患 者 は, がんと 告 知 さ れた 苦 痛 ストーマを 保 有 しての 生 活 の 苦 痛 だけでなく, 化 学 療 法 の 有 害 事 象 による 苦 痛 を 抱 え,がんと 闘 いながら, ストーマと 共 に 生 活 を 送 っている 看 護 師 は, 化 学 療 法 を 受 けるストーマ 保 有 患 者 を 支 援 するために, 患 者 の 抱 える 苦 痛 や 治 療 によるリスクとベネフィットを 理 解 した 上 で, 日 常 生 活 やストーマセルフケ アを 指 導 する 必 要 がある ストーマ 造 設 後 に 化 学 療 法 を 受 ける 患 者 の 心 理 状 態 と 支 援 ストーマでの 生 活 と 治 療 の 有 害 事 象 によ る 苦 痛 のため, ストーマになって 日 常 生 活 が 大 変 な 上 に,がんの 治 療 の 副 作 用 がつ らい 何 のために 生 きているのか 分 からな い 治 療 をやめようと 思 う と,ストー マ 外 来 や 看 護 外 来 で 患 者 が 訴 えることがあ る また, 下 痢 をするとストーマの 処 理 が 大 変 治 療 で 体 がだるい 時 に,ストー マ 装 具 を 交 換 するのがつらい 手 の 先 が しびれてストーマケアができない と, 治 療 の 有 害 事 象 によってストーマケアが 困 難 であることを 訴 え, 治 療 を 少 し 休 んでも いいのかな? と 相 談 を 受 けることがある 一 方 で, 重 篤 な 有 害 事 象 が 生 じているに もかかわらず, 治 療 を 続 けなければ 命 に かかわる, 中 止 されると 困 る という 思 い から, 患 者 が 苦 痛 を 我 慢 し, 医 療 者 へ 正 し く 症 状 を 報 告 しないことによって, 結 果 的 に 治 療 が 中 止 となることもある このように, 患 者 は 化 学 療 法 とストーマ ケアに 対 する 多 くの 苦 痛 や 思 い 悩 みを 抱 えながら 生 活 を 送 っている そこで, 看 護 師 はその 思 いに 寄 り 添 いながら, 治 療 によ るリスクを 低 減 し,ベネフィットが 得 られ るようにケアを 提 供 する 必 要 がある その ためには, 次 の3つが 必 要 となり,その 知 識 や 技 術 を 習 得 しなければならない 1 患 者 の 治 療 の 目 的 を 正 しく 知 る 2 実 施 される 治 療 と,ストーマケアに 影 響 する 有 害 事 象 について 理 解 する 17
3 12の 上 で, 化 学 療 法 を 受 けるストー マ 保 有 患 者 の 日 常 生 活 支 援 とセルフケ ア 指 導 を 行 う 化 学 療 法 の 目 的 と 必 要 な 支 援 について 知 る 大 腸 がんに 対 する 化 学 療 法 は, 次 に 述 べ る 目 的 で 行 われている 看 護 師 は, 患 者 が 受 ける 治 療 の 目 的 と 治 療 に 対 する 思 いを 理 解 し, 必 要 な 看 護 を 提 供 する( 図 1) がんの 縮 小, 手 術 部 位 の 縮 小,がんの 治 癒 を 目 指 し, 手 術 前 に 行 われる 治 療 である 術 前 の 化 学 療 法 によって,これらのベネ フィットが 期 待 される 反 面, 患 者 は 治 療 が 奏 効 しなければ, 手 術 前 に 病 気 が 悪 化 した り 病 巣 が 大 きくなったりするのではないか という 不 安 を 抱 える そこで 看 護 師 は, 治 療 の 効 果 について 医 師 から 患 者 に 伝 えられ る 場 面 に 同 席 し, 患 者 と 共 に 正 しい 情 報 を 得 た 上 で,セルフケア 指 導 や 心 理 的 支 援 を 行 う 再 発 予 防 を 目 的 とした 治 療 で, 根 治 的 手 術 後 に 一 定 期 間 実 施 し, 完 遂 することでベ ネフィットが 得 られる しかし, 目 に 見 え ないがん 細 胞 に 対 する 治 療 のため, 患 者 は 治 療 によるベネフィットへの 期 待 よりも 有 害 事 象 によるリスクへの 不 安 が 強 く, 有 害 事 象 が 生 じた 場 合 は 治 療 への 意 欲 低 下 を 招 き, 治 療 完 遂 の 障 害 となる そこで 看 護 師 は, 患 者 がどのように 術 後 補 助 化 学 療 法 に ついて 理 解 しているかを 確 認 した 上 で, 有 害 事 象 に 対 するセルフケア 支 援 を 実 施 し, 治 療 によるリスクを 低 減 することが 必 要 で ある がん 細 胞 の 増 殖 を 抑 えることを 目 的 とし た 治 療 である 治 療 の 奏 効 や 有 害 事 象 の 程 度 を 評 価 しながら 段 階 的 に 行 われ, 治 療 を 続 けることで 延 命 やQOL 維 持 などのベネ フィットが 得 られる しかし,がんの 進 行 を 抑 えられなくなり, 抗 がん 剤 を 変 更 しな がら 治 療 を 続 けることで, 徐 々に 治 療 によ るリスクが 高 まる そこで 看 護 師 は, 有 害 事 象 に 対 するセルフケア 指 導 や 日 常 生 活 支 援 だけでなく, 患 者 の 治 療 に 対 する 思 いや 人 生 設 計 などを 聴 きながら, 治 療 を 選 択 す るための 意 思 決 定 を 支 援 する 必 要 がある また, 治 療 を 続 けること を 求 めるあ まり, 患 者 は 多 少 の 有 害 事 象 を 我 慢 し,そ の 症 状 を 正 しく 医 療 者 に 報 告 しないことが 18
ある その 結 果, 有 害 事 象 が 重 篤 化 し, 治 療 が 継 続 できなくなるだけでなく, 生 命 の 危 機 的 状 況 を 引 き 起 こすこともある 治 療 によるリスクを 低 減 するためには, 医 療 従 事 者 に 正 しく 症 状 を 報 告 することを, 患 者 に 教 育 することも 必 要 である がんの 終 末 期 に 行 われる 苦 痛 症 状 の 緩 和 を 目 的 とした 治 療 であり,ベネフィットよ りもリスクの 方 が 生 じやすい そのため, 化 学 療 法 に 対 する 思 いや 期 待 することなど について, 患 者 家 族 と 十 分 に 話 し 合 うこ とが 重 要 である そして, 治 療 中 は, 化 学 療 法 による 有 害 事 象 とがんの 終 末 期 におけ る 症 状 を 見 極 め, 治 療 のリスクを 低 減 しな がら, 安 全 に 化 学 療 法 を 実 施 することが 必 要 となる 大 腸 がんに 対 する 化 学 療 法 と ストーマケアに 影 響 する 有 害 事 象 について 理 解 する 抗 がん 剤 は, 殺 細 胞 薬 と 分 子 標 的 薬 に 分 類 される 殺 細 胞 薬 は,がん 細 胞 の 分 裂 増 殖 を 抑 え ることで 抗 腫 瘍 効 果 を 得 る しかし, 正 常 細 胞 の 分 裂 増 殖 も 同 じように 抑 えられるた め, 有 害 事 象 となって 症 状 が 現 れる 大 腸 がんで 用 いられる 殺 細 胞 薬 のキード ラッグは,フルオロウラシル,オキサリプ ラチン,イリノテカンがあり,この3 剤 を 組 み 合 わせることで 治 療 の 効 果 を 上 げる また,カペシタビンやテガフール ウラシ ルも 併 用 されている 分 子 標 的 薬 は, 特 有 あるいは 過 剰 に 発 現 している 特 定 の 分 子 ( 抗 体 )を 狙 い 撃 ちし て,その 機 能 を 抑 え, 最 終 的 にはがん 細 胞 の 分 裂 増 殖 を 抑 えることで 効 果 を 得 る 標 的 となる 分 子 ( 抗 体 )の 役 割 が 阻 害 される と, 皮 膚 障 害 や 爪 の 異 常 などの 有 害 事 象 が 生 じる 大 腸 がんの 治 療 は, 殺 細 胞 薬 と 分 子 標 的 薬 のセツキシマブやパニツムマブを 併 用 す ることで,さらに 高 い 腫 瘍 効 果 が 得 られて いる 近 年 は, 経 口 抗 がん 剤 のレゴラフェ ニブも 開 発 され,さらなる 延 命 効 果 が 期 待 されている ストーマケアに 影 響 する 大 腸 がんの 化 学 療 法 による 有 害 事 象 は, 皮 膚 障 害 と 末 梢 神 経 障 害 である 皮 膚 障 害 には,フルオロウ ラシル,カペシタビン,テガフール ウラ シル,レゴラフェニブによる 手 足 症 候 群 と,セツキシマブ,パニツムマブによるざ 瘡 様 皮 疹 や 爪 囲 炎 がある 末 梢 神 経 障 害 は, 手 足 症 候 群 の 症 状 やオキサリプラチン によって 生 じる 手 足 症 候 群 手 足 症 候 群 の 発 生 機 序 は, 抗 がん 剤 が 皮 膚 の 基 底 細 胞 に 影 響 したり, 手 や 足 先 に 多 19
く 分 布 しているエクリン 汗 腺 から 薬 剤 が 分 泌 するためだと 推 測 されている 手 足 症 候 群 による 自 覚 症 状 には, 反 復 した 物 理 的 刺 激 によって 生 じる 手 と 足 先 のしびれや 感 覚 障 害 がある 悪 化 すると,やけどをした 時 のような 痛 みが 伴 い, 手 や 足 指 にひび 割 れ や 潰 瘍 ができ,さらには 歩 行 困 難 や 把 握 困 難 が 生 じる( 表 1) その 結 果, 日 常 生 活 が 制 限 され,ストーマケアも 難 渋 すること につながる 手 足 症 候 群 は, 治 療 の1クー ル 終 了 後 から 生 じることが 多 い ざ 瘡 様 皮 疹 ざ 瘡 様 皮 疹 は, 特 定 分 子 ( 抗 体 )の 役 割 阻 害 によって 生 じる 有 害 事 象 である 転 移 再 発 大 腸 がんの 患 者 の 約 80%に, 特 定 分 子 ( 抗 体 )であるEGFR( 上 皮 成 長 因 子 受 容 体 ) が 発 現 している EGFRが 陽 性 の 場 合,セツキシマブやパ ニツムマブを 投 与 し,EGFRを 阻 害 すること で,がんの 増 殖 や 進 展 を 抑 制 する 実 はこ のEGFRは, 皮 膚 の 基 底 細 胞 に 存 在 している ため, 阻 害 されると 本 来 の 役 割 機 能 である 表 皮 の 正 常 な 成 長 や 角 化 の 促 進 ができなく なり,ざ 瘡 様 皮 疹 や 爪 囲 炎 などの 皮 膚 障 害 が 生 じる ざ 瘡 様 皮 疹 とは, 非 感 染 性 のニキビのよ うな 皮 疹 で, 頭 部 から 全 身 に 生 じる ストー マ 保 有 患 者 の 場 合 には,ストーマ 装 具 貼 付 部 にもざ 瘡 様 皮 疹 が 生 じ, 稀 ではあるが, 悪 化 すると 壊 疽 性 膿 皮 症 様 の 潰 瘍 を 形 成 す ることがある( 表 2, 写 真 1) 末 梢 神 経 障 害 大 腸 がん 治 療 のキードラッグであるオキ サリプラチンによって, 感 覚 障 害 型 の 末 梢 20
神 経 障 害 が 生 じる 薬 剤 投 与 直 後 から 数 日 以 内 に 生 じる 急 性 末 梢 神 経 障 害 では, 寒 冷 刺 激 によって, 口 周 囲 や 手 足 に 電 気 が 走 る ようなビリッとした 痛 みやしびれが 現 れる 慢 性 末 梢 神 経 障 害 では, 手 や 足 に 正 座 をし た 後 のようなしびれと 感 覚 鈍 麻 が 生 じる 末 梢 神 経 障 害 は, 治 療 を 続 けることで 症 状 が 強 くなり, 悪 化 すると 治 療 が 終 了 した 後 の 回 復 が 難 しくなる そのため, 末 梢 神 経 障 害 によって 日 常 生 活 やストーマケアに 支 障 が 生 じていないか, 適 宜 症 状 の 程 度 を 確 認 することが 必 要 となる ストーマ 保 有 患 者 の 日 常 生 活 支 援 と ストーマセルフケア 指 導 を 行 う ストーマ 保 有 患 者 が 化 学 療 法 を 受 けなが ら 円 滑 にストーマケアを 行 うためには, 皮 膚 障 害 予 防 と 適 切 かつ 簡 便 なストーマ 装 具 の 管 理 が 必 要 となる 皮 膚 障 害 の 予 防 的 ケアに 必 要 なことは, 保 清 保 湿 外 的 刺 激 からの 保 護 の 3つである 患 者 指 導 において, 患 者 に 標 準 的 なケアの 説 明 だけしかしていないにも かかわらず, 有 害 事 象 が 生 じると, セル フケアを 実 施 できていないのは, 患 者 のコ ンプライアンスが 低 いからだ と 評 価 して いることはないだろうか セルフケア 支 援 とは, 個 々の 患 者 に 必 要 なケアを 具 体 的 に 示 し, 実 現 可 能 な 方 法 を 指 導 することである 患 者 が 主 体 的 にセル フケアを 計 画 し, 看 護 師 は 実 行 できるため のプログラムを 一 緒 に 作 ることが 重 要 であ る そして, 治 療 の 完 遂 や 継 続 のためには, 定 期 的 に 患 者 と 共 にセルフケアの 実 際 を 振 り 返 り, 問 題 があれば できなくしている 要 因 にアプローチする これらの 支 援 によっ て, 患 者 のアドヒアランスを 高 めると 共 に, 患 者 は 自 律 して 治 療 による 副 作 用 をコント ロールすることができる 保 清 保 清 の 方 法 ( 表 3)で 最 も 大 切 なことは, 皮 膚 を 乾 燥 させないことである 看 護 師 は, 患 者 から 現 在 の 保 清 方 法 を 聴 取 し, 継 続 す ることと 変 更 しなければならないことを 明 確 にした 上 で, 具 体 的 なセルフケア 指 導 を 行 う 21