議 院 内 閣 制 の 二 つのモデルと 実 定 憲 法 論 堀 内 健 志 目 次 1. 序 問 題 の 所 在 2. 議 院 内 閣 制 の 二 つのモデル 3. 実 定 憲 法 解 釈 論 としての 議 院 内 閣 制 4. 結 び 1. 序 問 題 の 所 在 (1) 憲 法 学 上 の 統 治 組 織 論 に 登 場 する 国 家 機 関 相 互 間 の 諸 態 様 は もともと 近 代 立 憲 主 義 の 歴 史 的 発 展 過 程 に 即 して 生 成 展 開 され てきたものである 権 力 分 立 原 理 や 議 院 内 閣 制 といった 制 度 もその 例 外 ではない 従 っ て これらの 統 治 組 織 原 理 は その 背 景 と なっている 歴 史 的 政 治 的 な 状 況 すなわち 絶 対 君 主 制 のもとその 権 威 に 基 づく 行 政 府 と 人 民 の 意 思 を 反 映 する 議 会 との 間 の 二 元 的 対 立 を 背 景 とする 国 家 社 会 構 造 において 理 解 されたものであることはよく 知 られている が このような 政 治 状 況 が 克 服 解 消 され た 今 日 の 現 代 民 主 制 のもとにおいても 権 力 分 立 原 理 や 議 院 内 閣 制 がなお 実 定 憲 法 上 の 制 度 として 存 続 し そのような 統 治 制 度 を 前 提 とした 憲 法 条 項 がみられるし また 学 説 上 も かかる 制 度 についての 解 説 がなされている これをどのように 理 解 すべきであるか と いう 問 題 は 憲 法 論 上 古 くしてまた 新 しい 難 題 である (2) 今 日 の 通 説 的 見 解 によると わが 国 の 日 本 国 憲 法 は 議 院 内 閣 制 を 採 用 していると いう その 根 拠 としては まず 第 一 に 憲 法 66 条 3 項 で 内 閣 は 行 政 権 の 行 使 につい て 国 会 に 対 し 連 帯 して 責 任 を 負 ふ と 規 定 し 行 政 府 が 議 会 に 対 して 責 任 を 負 う 近 代 立 憲 主 義 における 責 任 政 治 の 原 則 が 表 明 され ている そして もう 一 つ 憲 法 69 条 は 内 閣 は 衆 議 院 で 不 信 任 の 決 議 案 を 可 決 し 又 は 信 任 の 決 議 案 を 否 決 したときは 十 日 以 内 に 衆 議 院 が 解 散 されない 限 り 総 辞 職 をしな ければならない と 規 定 し ややわかりにく い 言 い 回 しであるが 解 釈 上 ここに 内 閣 が 衆 議 院 の 信 任 を 失 った 場 合 に 解 散 権 をもってこ れに 対 抗 しうるものとされる 近 代 立 憲 主 義 的 な 二 元 的 構 造 が 伺 われる (3) 従 来 わが 国 の 学 説 上 行 政 府 の 議 会 に 対 する 責 任 にこの 制 度 の 本 質 を 見 る 責 任 本 質 説 と 二 元 的 構 造 に 力 点 をおく 対 等 均 衡 説 と があり 後 者 の 立 場 からは 憲 法 70 条 で 内 閣 が 解 散 権 を 行 使 したとしても 衆 議 院 議 員 総 選 挙 の 後 に 初 めて 国 会 が 召 集 があったとき は 内 閣 は 総 辞 職 をしなければならない ことになっているので わが 国 は 議 院 内 閣 制 というよりも 議 会 がより 強 い 議 会 支 配 制 に 近 いものではないかといった 議 論 もなされた これは 議 院 内 閣 制 の 本 質 をフランス 第 三 共 和 制 以 後 の 解 散 権 が 行 使 されない 議 会 優 位 型 として 捉 えるか イギリス 古 典 型 などにみ られた 議 会 と 政 府 との 均 衡 型 として 捉 えるか によってその 位 置 づけが 異 なるといったこと が 背 景 にあった が いずれにしても 議 会 と 政 府 との 関 係 を 前 提 として 議 会 による 民 主 的 統 制 のあり 方 が 議 論 されることになる (4)さて 周 知 のごとく 平 成 17 年 8 月 8 日 かねてから 話 題 になっていた 郵 政 民 営 化 法 案 をめぐり 自 民 党 内 部 は 大 きく 意 見 が 割 れ 衆 議 院 ではかろうじて 過 半 数 の 賛 成 を 得 て 通 147
過 したものの 参 議 院 では 僅 少 差 ながら 否 決 される 事 態 となり 小 泉 総 理 大 臣 はこの 法 案 が 国 会 内 では 承 認 を 得 られないとみて 衆 議 院 を 解 散 した 9 月 11 日 に 行 われた 総 選 挙 で 連 立 与 党 が 衆 議 院 の 総 議 席 の 3 分 の 2 を 上 回 る 圧 倒 的 多 数 の 議 席 を 獲 得 して 新 たな 国 会 において 同 法 案 は 可 決 成 立 した このような 解 散 権 の 行 使 のあり 方 を 憲 法 学 上 の 議 院 内 閣 制 との 関 係 でどのように 理 解 す べきかという 問 題 が 提 起 されうるわけであ る 2. 議 院 内 閣 制 の 二 つのモデル a 権 力 分 立 モデル 議 院 内 閣 制 は 歴 史 的 にみると 絶 対 君 主 制 から 制 限 君 主 制 或 いは 権 力 分 立 へという 近 代 立 憲 主 義 の 発 展 経 緯 を 反 映 して 国 家 元 首 の 権 力 の 衰 退 さらには 消 滅 最 終 的 には 会 議 政 ( 議 会 支 配 制 )にいたる 過 程 の 間 にみられ る 元 首 内 閣 議 会 間 の 諸 々の 政 治 的 相 互 関 係 の 一 態 様 として 把 握 されうるものであっ た (1) 議 会 と 行 政 府 との 間 の 関 係 で いまアメリ カ 大 統 領 制 のように 連 邦 議 会 と 大 統 領 がそれ ぞれ 別 個 に 選 出 され 議 会 に 責 任 を 負 う 体 制 に ないもの( 隔 絶 型 )と 議 会 が 完 全 に 政 治 権 力 を 掌 握 し 政 府 は 議 会 の 命 令 に 従 う 実 行 委 員 会 のごとき 体 制 である 会 議 政 ( 議 会 支 配 制 ) 及 びこれとちょうど 反 対 の 関 係 で 議 会 と 政 府 が 対 照 をなす 独 裁 制 ( 主 従 型 )とを 度 外 視 する そうすると その 中 間 的 な 両 者 の 協 同 型 を なすものとしては 君 主 が 国 務 大 臣 の 任 命 権 を 持 ちこれに 対 して 議 会 は 君 主 じしんに 対 し ては 責 任 追 及 ができず 議 会 が 担 当 国 務 大 臣 に 対 する 責 任 追 及 をするという 絶 対 君 主 の 力 が 比 較 的 強 かった19 世 紀 ドイツにみられる 君 主 政 原 理 の 体 制 ( 大 臣 共 同 責 任 制 )がある が さらに 内 閣 が 議 会 に 対 しても 責 任 を 負 う つまりここでは 議 会 が 内 閣 に 対 して 不 信 任 決 議 権 を 行 使 し これに 対 して 国 王 が 議 会 解 散 権 をもって 対 抗 する 古 典 的 な 均 衡 型 議 院 内 閣 制 が 確 立 する これがイギリス 古 典 型 議 院 内 閣 制 と 言 われるものである かかる 協 同 型 構 造 は 王 政 復 古 期 のフラン ス(オルレアン 型 )や 共 和 制 下 の 大 統 領 制 の もとでも(ヴァイマール 憲 法 )みられる フ ランス 第 五 共 和 制 憲 法 は この 協 同 型 にも 類 似 するが 大 統 領 が 政 府 の 責 任 追 及 ができな いので 半 大 統 領 制 と 称 される この 大 統 領 が 1962 年 以 降 直 接 公 選 制 となり その 民 主 的 正 当 性 が 確 保 される ドイツ 基 本 法 では 政 府 の 議 会 解 散 権 が 厳 しく 制 限 されているが 同 時 に 不 信 任 決 議 の ほうも 建 設 的 なものに 限 定 されていて( 基 本 法 67 条 ) 均 衡 型 となっている ここでは 大 統 領 は 連 邦 議 会 議 員 を 含 む 連 邦 会 議 で 選 出 されることになっている 一 方 において 1875 年 フランス 第 三 共 和 制 憲 法 下 大 統 領 の 議 会 解 散 権 規 定 が 死 文 化 し た 結 果 議 会 優 位 の 議 院 内 閣 制 となった とい うのも 1877 年 5 月 16 日 マクマオン 元 帥 が 議 会 を 解 散 して 優 位 に 立 とうとしたところ 予 想 に 反 して 議 会 多 数 派 が 代 議 院 に 送 り 込 まれて しまい 自 らの 目 的 を 達 成 することができな かったことがその 後 解 散 権 が 行 使 されないと いう 慣 例 をつくってしまったのである この 体 制 は 第 四 共 和 制 においても 議 会 解 散 権 を 制 限 することにより 引 き 継 がれることになっ た フランス 責 任 本 質 型 議 院 内 閣 制 がこれで ある b 民 主 主 義 モデル また 他 方 においては 19 世 紀 後 半 のイギリ スで 選 挙 権 の 拡 大 にともない 国 民 の 政 治 過 程 への 参 加 が 実 現 し 議 会 の 多 数 政 党 の 指 導 者 が 内 閣 を 組 閣 すると ここに 有 権 者 下 院 内 閣 のルートが 確 立 し この 民 主 的 内 閣 が 国 王 の 権 力 の 名 目 化 にともない 国 民 の 意 思 を 代 弁 する 形 で 権 限 範 囲 を 拡 大 し 議 会 に 優 148
議 院 内 閣 制 の 二 つのモデルと 実 定 憲 法 論 位 する 内 閣 の 指 導 的 な 地 位 が 確 立 する これ が 内 閣 統 治 型 である 議 院 内 閣 制 を a でみたような 議 会 と 政 府 との 間 の 権 力 分 立 モデルの 視 点 からみると 二 元 的 均 衡 型 よりも 議 会 優 位 議 会 支 配 制 の ほうが 国 政 への 民 意 の 反 映 度 が 強 く 一 元 型 は 内 閣 の 解 散 権 を 限 定 する 方 向 へ 傾 く けれ ども 現 代 民 主 制 モデルのもと 国 政 の 中 心 が 内 閣 に 移 り これに 民 意 を 反 映 させるという 視 点 よりすると むしろ 両 機 関 間 にのみ 視 野 を 限 定 せずに 国 民 による 意 思 決 定 を 重 視 す るための 解 散 権 の 位 置 づけが 民 主 的 要 請 に 適 合 することになる (2) そして 論 者 によっては このような 権 力 分 立 モデルと 民 主 主 義 モデルとを 分 けて 後 者 の 把 握 こそ 真 の 意 味 での 議 院 内 閣 制 だとさ れるのである (3) もっとも ここで 民 主 主 義 というの は 議 会 が 国 民 の 一 般 意 思 を 具 現 するとする 議 会 制 民 主 主 義 とは 異 なる 国 民 による 議 会 政 府 の 正 当 づけという 視 点 からの 現 代 民 主 制 を 意 味 しているごとくである が この 民 主 主 義 の 二 つの 構 想 を 実 定 憲 法 論 と して 果 たして 二 者 択 一 的 に 決 めつけてよいの かについては 吟 味 を 要 するように 思 われる 3. 実 定 憲 法 解 釈 論 としての 議 院 内 閣 制 (1) 解 散 権 のあり 方 という 憲 法 上 の 問 題 を めぐり 権 力 分 立 モデルにおける 二 元 的 均 衡 型 と 議 会 支 配 制 的 な 責 任 本 質 型 現 代 民 主 主 義 モデルといった 類 型 が 提 示 されているが とりわけ 今 日 においては この 最 後 者 が 有 力 に 主 張 されるようになっている (2)いうまでもなく これらの 思 考 モデル は 日 本 国 憲 法 には 改 正 がないので 一 つの 憲 法 のもとでその 中 での 議 院 内 閣 制 の 理 解 にそうした 違 いがあるということである (3)そして かかるモデルの 背 後 には 君 主 主 権 国 民 主 権 人 民 主 権 といった 主 権 論 についてのフランス 憲 法 学 史 上 の 認 識 が ベースとしてあって それらの 歴 史 的 発 展 段 階 に 対 応 した 統 治 組 織 論 があるとされる さきの 国 民 を 含 む 議 会 政 府 の 三 極 構 造 は 積 極 的 市 民 が 選 挙 人 団 として 組 織 される 人 民 主 権 論 からくる 当 然 の 帰 結 であると 主 張 される (4)このような 歴 史 的 観 念 としての 議 院 内 閣 制 モデルの 展 開 は 実 定 法 上 の 議 院 内 閣 制 概 念 を 考 える 上 で 有 益 なもので ある 多 くの 憲 法 上 の 統 治 組 織 原 理 は 近 代 立 憲 主 義 の 歴 史 的 発 展 過 程 のなかで 生 成 し 発 展 してきたものであることは 否 定 できない からである (5)が 問 題 は わが 国 の 日 本 国 憲 法 上 の 議 院 内 閣 制 はどのようなものである か ということである 戦 後 の 日 本 国 憲 法 制 定 過 程 の 議 論 やそ れ 以 降 の 展 開 は さきに 見 た 現 代 民 主 制 モデ ルで 一 貫 してきたわけではない 制 憲 時 は 憲 法 69 条 の 不 信 任 決 議 に 対 抗 して 解 散 権 が 行 使 されるべきものと 考 えられていた かかる 意 味 で 均 衡 型 である が 苫 米 地 事 件 の 最 高 裁 判 決 においていわゆる 統 治 行 為 の 法 理 にな らうような 判 決 が 出 され その 後 の 憲 政 は 憲 法 7 条 のみによる 解 散 が 常 態 化 した 学 説 は 議 会 制 民 主 主 義 の 進 展 にむしろ 肯 定 的 で 議 院 内 閣 制 の 概 念 としては 議 会 支 配 制 的 な 責 任 本 質 制 を 支 持 する 立 場 が 有 力 に 主 張 さ れ 内 閣 による 政 治 的 運 用 に 利 用 される 7 条 解 散 には 批 判 的 であった これも 民 主 主 義 の 一 つのあり 方 である さきの 民 主 主 義 モデルは これとは 別 に 国 民 による 直 接 民 主 制 的 決 着 の 機 会 をむ しろ 歓 迎 すべきものと 評 価 する 内 閣 による 解 散 権 の 行 使 を 民 主 主 義 的 性 格 を 有 するもの として 積 極 的 に 意 義 づけする ここに 現 代 民 主 制 における 議 院 内 閣 制 の 理 念 が 提 示 され ている 均 衡 的 把 握 と 責 任 制 とが 調 和 的 に 把 握 されうる 149
4. 結 び こうした 日 本 国 憲 法 の 解 釈 論 において し かし つぎのような 疑 問 を 抱 いている すなわち うえのごとき 議 院 内 閣 制 をめぐ るいくつかのモデルは いずれも 日 本 国 憲 法 のもとでの 解 釈 学 説 であるが しかし 上 述 した 権 力 分 立 モデルは 歴 史 的 には 君 主 主 権 を 背 景 としていたとされていた ま た 民 主 主 義 モデルというものは 議 会 じし んを 国 民 の 一 般 意 思 を 具 現 するものとなす 国 民 主 権 をストレートに 反 映 するものと は 別 の つまり 議 会 主 権 から 切 り 離 さ れた 人 民 主 権 をベースとしているという 構 造 をなすものとされていた そして その 故 にこれらのうち 最 後 者 である 民 主 主 義 モデ ルが 適 切 であると 主 張 されるのである が こうした 説 明 は 妥 当 であろうか この 見 解 は 日 本 国 憲 法 が 一 定 の 人 民 主 権 を 採 用 するものと 前 提 したうえで あらかじ めその 帰 結 としていた 内 容 のものを 解 釈 論 と して 適 切 であるといっているに 過 ぎないので はないか このようなロジックは 日 本 国 憲 法 という 実 定 法 にそくした つまり こ れを 出 発 点 としての 解 釈 論 といえるのだろう か かかる 論 法 は 議 会 制 民 主 主 義 を 強 調 す る 立 場 からは 別 の 帰 結 をも 同 様 に 主 張 されう るのではないか つまり 議 会 代 表 制 民 主 主 義 の 立 場 からは これを 日 本 国 憲 法 が 採 用 しているが 故 に 議 会 支 配 制 的 な 責 任 本 質 説 が 妥 当 であり 議 会 政 府 の 二 元 的 な 構 成 は 認 められない と どちらも 民 主 主 義 論 の 一 つのあり 方 を 述 べているのである 日 本 国 憲 法 の 実 定 法 の 解 釈 論 とは 言 えないの ではないか また 権 力 分 立 モデルといわれるものも 君 主 主 権 下 の 産 物 ではあっても 今 日 の 日 本 国 憲 法 の 解 釈 論 のもとでは 君 主 主 権 を 通 して 主 張 されているものではあるま い 民 主 主 義 体 制 の 下 で そのような 見 解 が なお 有 意 義 であるとして 主 張 されうるという ことであろう そうすると それらのいずれもが 日 本 国 憲 法 の 解 釈 論 として 妥 当 しうるということ になるのではないか これらを 念 頭 に 置 きな がら 実 定 法 にそくして 解 釈 し 直 す 必 要 があ るだろう (1)まず わが 憲 法 は 君 主 主 権 の 憲 法 ではないので 議 院 内 閣 制 の 権 力 分 立 モデ ルはそのままでは 妥 当 しない が 議 会 と 政 府 との 間 の 対 抗 図 式 と 政 府 の 議 会 に 対 する 責 任 は 今 日 の 憲 法 でも 無 意 味 になったわけで はなく 憲 法 69 条 において 議 会 による 政 府 の 不 信 任 決 議 権 と 内 閣 による 総 辞 職 衆 議 院 の 解 散 権 とが 制 度 づけられている また 憲 法 66 条 3 項 では 国 会 に 対 する 内 閣 の 連 帯 責 任 が 規 定 されている これらは 議 会 と 政 府 と の 間 の 二 元 的 構 造 を 前 提 とする (2)つぎに わが 憲 法 は 国 民 主 権 の 憲 法 である が 他 方 では 代 表 制 民 主 主 義 を 採 用 していることは 憲 法 前 文 の そ もそも 国 政 は 国 民 の 厳 粛 な 信 託 によるもの であつて その 権 威 は 国 民 に 由 来 し その 権 力 は 国 民 の 代 表 者 がこれを 行 使 し その 福 利 は 国 民 がこれを 享 受 する この 憲 法 は かかる 原 理 に 基 くものである というところ から 明 らかである この 国 民 主 権 はいか なる 国 家 権 力 といえども その 権 威 は 国 民 に 由 来 し その 正 当 づけを 受 けなければ 行 使 で きないという 意 味 であるされている (3) 国 会 は 憲 法 43 条 で 両 議 院 は 全 国 民 を 代 表 する 選 挙 された 議 員 でこれを 組 織 す る とされるので 代 表 議 会 といえる 憲 法 前 文 でも 日 本 国 民 は 正 当 に 選 挙 された 国 会 における 代 表 者 を 通 じて 行 動 し 主 権 が 国 民 に 存 することを 宣 言 し この 憲 法 を 確 定 する とも 言 っている 国 民 じしん が 直 接 この 憲 法 を 制 定 するということではな いし それは 事 実 にも 反 しよう (4) 議 院 内 閣 制 について かかる 意 味 での 民 主 主 義 モデル を 考 えると 何 より 150
議 院 内 閣 制 の 二 つのモデルと 実 定 憲 法 論 もまず 議 会 中 心 型 の 議 会 が 強 化 された 責 任 本 質 型 が 想 起 されよう 議 会 の 信 任 を 失 った 政 府 は 総 辞 職 することが 要 請 される 逆 に 内 閣 による 衆 議 院 の 解 散 権 はできるだけ 限 定 的 に 解 釈 されるべきで 例 えば 憲 法 7 条 の みによる 解 散 権 は 天 皇 の 国 事 行 為 の 儀 礼 的 演 出 的 行 為 を 言 い そこからは 内 閣 の 政 治 的 決 定 権 は 到 底 導 出 され 得 ないということ になろう いわゆる 国 民 代 表 (ないし 議 会 が 人 民 の 意 思 を 背 景 とする 半 代 表 )の 立 場 からの 一 つの 論 理 帰 結 である (5)これに 対 して 現 代 民 主 制 の 議 院 内 閣 制 での 民 主 主 義 モデル では す でにみたごとく 内 閣 による 衆 議 院 の 解 散 権 は 直 接 国 民 に 信 を 問 う 機 会 をつくると いう 意 味 において 直 接 民 主 主 義 の 要 請 にか なうので 憲 法 69 条 による 場 合 に 限 らず む しろ 積 極 的 に 憲 法 7 条 による 解 散 権 も 広 く 認 められるべきものとされる ここでは 国 民 による 正 当 づけを 受 けた 内 閣 の 地 位 が 強 調 される けれども その 結 果 としては 権 力 分 立 モデルに 見 られた 議 会 と 政 府 との 間 の 均 衡 型 すなわち 二 元 的 構 造 がここに 新 たな 形 で 民 主 主 義 体 制 のもと 再 現 されていること は 看 過 されえまい さらには 改 めて 国 民 による 正 当 づけ を 問 い 解 散 総 選 挙 後 の 新 たな 国 会 の 召 集 に 伴 って 内 閣 が 総 辞 職 をする( 憲 法 70 条 )とい う 議 会 と 政 府 との 間 での 均 衡 型 が 調 和 的 に 機 能 することになる これが 人 民 主 権 でかつ 半 直 接 的 で あるといって 理 論 づけされることがある (6)さて これらをしかしいま 読 み 直 して みると さきの(4)の 場 合 もいまの(5)の 場 合 も いずれも 民 主 主 義 国 民 主 権 のもとでの 国 家 権 力 に 対 する 国 民 に よる 正 当 づけのあり 方 の 一 態 様 ということ で 理 解 されうるようにみえる わが 国 憲 法 はしかしそれ 以 上 に 君 主 主 権 人 民 主 権 さらにこのなかの 半 代 表 半 直 接 というようなそのいずれかのモデルを 選 択 す ることを 宣 明 にしているわけではなく 憲 法 じしんはもともと 国 民 主 権 のもと 有 権 者 団 をも 含 めてどんな 国 家 機 関 といえど も それじしんが 国 家 を 正 当 づける 次 元 で 語 られた 法 である 国 民 の 一 般 意 思 を 独 占 することはできず それを 個 々に 具 現 するために 国 民 による 正 当 づけを 受 けな くてはならない という 構 成 をとっているに 過 ぎない 議 院 内 閣 制 は かかる 枠 組 みの 中 で 内 閣 が 自 己 の 存 在 をもとにして 議 会 に 対 し 責 任 を 負 う 立 憲 主 義 体 制 でありそれ 以 上 で もそれ 以 下 でもない 現 代 民 主 制 モデルのも とで 優 位 に 立 つ 内 閣 が 自 由 な 解 散 権 を 獲 得 し たということにはならないだろう (7) 最 後 に 平 成 17 年 の 郵 政 民 営 化 法 案 が 衆 議 院 でやっと 可 決 したものの 参 議 院 では 否 決 された これに 対 して 内 閣 が 衆 議 院 を 解 散 し 総 選 挙 後 国 民 の 支 持 を 得 て 再 び 国 会 に 法 案 を 提 出 して 可 決 成 立 させた と いう 一 連 の 出 来 事 に 対 して どのように 見 る かである 憲 法 は 59 条 で 衆 議 院 で 可 決 し 参 議 院 でこれと 異 なつた 議 決 をした 場 合 は 衆 議 院 での 三 分 の 二 以 上 の 多 数 で 再 び 可 決 させるか 法 律 の 定 めるところにより 衆 議 院 が 両 議 院 の 協 議 会 を 開 くことができ るようになっている これが 議 会 内 での 通 常 の 手 続 きである が 政 府 はこの 法 案 を 議 会 内 で 上 記 の 規 定 通 りに 手 続 きしても 成 立 させることはできな いとみた しかも この 郵 政 民 営 化 法 案 成 立 を 内 閣 の 最 重 要 課 題 としてきたのであるか ら その 不 成 立 を 内 閣 に 対 する 不 信 任 決 議 と 同 様 の 意 思 表 明 とみることはそれ 程 に 無 理 は ない そう 考 えると 憲 法 69 条 の 要 件 に 準 じ て 内 閣 が 総 辞 職 をするか または 解 散 権 を 行 使 するかの 選 択 に 至 る 単 純 に 政 府 の 恣 意 的 な 憲 法 7 条 解 散 と 言 うこともできないのでは ないか 解 散 総 選 挙 が 常 に 政 府 の 思 い 通 りの 151
支 持 をもたらすものとは 限 らないし 新 国 会 召 集 後 には 総 辞 職 が 待 っているのである 繰 り 返 しになるが 現 代 民 主 制 の 民 主 主 義 モデルからもたらされるごとくに 内 閣 が 全 く 自 由 に 解 散 権 を 政 治 的 に 濫 用 行 使 しても よいという 論 理 にはならないはずである そ こには なお 権 限 濫 用 抑 制 を 眼 目 として 形 成 された 立 憲 主 義 的 権 力 分 立 を 背 景 とした 議 院 内 閣 制 の 存 立 基 盤 があるというべきではなか ろうか 注 ⑴ ルネ カピタン 時 本 義 昭 訳 議 院 内 閣 制 ( 龍 谷 大 学 社 会 学 部 紀 要 16 号 ( 平 成 3 年 )89 頁 以 下 ⑵ このような J カダール(Jacques Cadart)の 議 院 内 閣 制 論 についての 高 橋 和 之 教 授 による 紹 介 は 国 民 内 閣 制 の 理 念 と 運 用 ( 有 斐 閣 平 成 6 年 )394 頁 参 照 ⑶ 大 石 眞 議 院 内 閣 制 講 座 憲 法 学 第 五 巻 ( 日 本 評 論 社 平 成 5 年 )239 頁 以 下 同 立 憲 民 主 制 ( 信 山 社 1996 年 )179 頁 以 下 152