2016 年 日 本 語 教 育 国 際 研 究 大 会 口 頭 発 表 2016 年 9 月 10 日 ( 土 ) インドネシア 日 本 語 学 習 者 の 言 語 学 習 状 況 調 査 と 語 彙 学 習 調 査 アンケート 調 査 による 結 果 と 分 析 AGUS SUHERMAN SURYADIMULYA(PADJADJARAN UNIVERSITY) 広 瀬 英 史 ( 静 岡 文 化 芸 術 大 学 ) 石 井 丈 司 ( 株 式 会 社 ラーンズ) 中 原 茂 樹 ( 株 式 会 社 ラーンズ) 1.はじめに 1.1. 研 究 背 景 語 彙 教 育 は 言 語 教 育 の 中 で 後 回 しにされてきた 'Second Language Vocabulary Acquisition'に 関 して Michael West(1930)がよく 引 用 されるが この 当 時 と 変 化 がないまま 21 世 紀 に 至 っている 第 二 言 語 教 育 では 語 彙 習 得 の 重 要 性 は 多 くの 人 の 認 めるところである Nation (2001)では 英 文 読 解 において 未 知 語 が 延 べ 語 数 の 2%(5%とも) を 超 えるとテキストの 内 容 理 解 は 困 難 であるという し かし 学 習 者 の 語 彙 習 得 に 関 する 見 解 は 学 習 者 の 興 味 や 勉 強 時 間 記 憶 力 の 差 などにより 習 得 の 差 が 出 るなどである そして 語 彙 習 得 の 方 法 は 主 に 学 習 者 の 自 主 学 習 によるというのが 現 状 である 授 業 で 語 彙 を 扱 うとしても 読 解 クラスで 触 れるか 多 読 を 中 心 とした 課 題 で 新 出 語 を 取 りあげるかくらいである または 検 定 対 策 問 題 集 での 語 彙 問 題 に 限 られる このような 語 彙 教 育 で 語 彙 の 本 質 ( 語 彙 の 性 質 )を 学 ぶことはできない 上 記 のような 状 況 に 陥 っている 要 因 は 語 彙 研 究 の 遅 れと 構 成 要 素 である 単 語 数 の 多 さにある たとえ ば 日 本 語 の 場 合 文 法 の 構 成 要 素 はせいぜい 数 百 であるが 語 彙 ( 上 級 )では1 万 語 の 単 語 が 必 要 と なる しかし 現 在 コーパスによって 語 彙 研 究 が 進 展 して きた multi-word units が 明 らかになり collocation や
chunk などが 学 習 の 中 心 として 取 りあげられるようにな 調 査 対 象 者 :インドネシア 人 日 本 語 学 習 者 ってきたのである 特 に 英 語 教 育 においては 語 彙 教 アクセス 数 : 1639 育 を 重 視 する 動 きが 見 られるようになってきた ただ 有 効 回 答 : 日 本 語 教 育 においては まだまだ 語 彙 教 育 に 変 調 査 方 法 :Web アンケート 化 が 見 られたとは 言 い 難 い 調 査 項 目 : 学 習 歴 / 日 本 語 能 力 試 験 レベル/ 日 1. 2 本 発 表 の 目 的 こうした 状 況 で 語 彙 に 関 するアンケートとテストを 実 施 し その 結 果 を 出 すことで 教 授 者 と 学 習 者 に 語 彙 力 を 正 確 に 把 握 する 指 針 を 与 えることができると 考 え た また 教 授 者 にとっては 学 習 者 の 具 体 的 な 語 彙 力 が 把 握 できることで 語 彙 教 育 としてどのようなこと をすれば 良 いのか どのような 力 を 付 けるための 指 導 を すれば 良 いのか 等 の 参 考 にできると 考 えた 本 語 学 習 時 間 / 学 外 での 日 本 語 学 習 時 間 / 日 本 語 とメディアとの 関 わり/ 辞 書 する 質 問 / 語 彙 習 得 / 日 本 語 学 習 の 動 機 / 日 本 語 能 力 試 験 に 関 する 質 問 広 瀬 英 史 と 石 井 丈 司 がアンケート 項 目 の 選 定 を 行 い 中 原 茂 樹 が Web でアンケートが 実 施 できる 環 境 を 整 えた そして アグスがインドネシアでアンケートを 実 施 した *1 本 発 表 は インドネシアの 日 本 語 学 習 者 を 対 象 と した 日 本 語 学 習 アンケート 結 果 と 分 析 結 果 を 報 告 す ることが 主 たる 目 的 である 2.2 アンケートの 意 義 る 以 下 アンケート 結 果 と 分 析 の 意 義 について 述 べ 2. 本 調 査 の 意 義 表 1 2.1.アンケートについて アンケート 期 間 :2016.01.21-2016.05.03
人 数 1. 性 別 男 249 ( 26.8% ) 女 679 ( 73.2% ) 2. 職 業 高 校 生 53 ( 5.7% ) 大 学 生 786 ( 84.7% ) 社 会 人 88 ( 9.5% ) 回 答 なし 1 ( 0.1% ) 3. 日 本 語 学 習 歴 1 年 113 ( 12.2% ) 2 年 112 ( 12.1% ) 3 年 275 ( 29.6% ) 4 年 184 ( 19.8% ) それ 以 上 242 ( 26.1% ) 回 答 なし 2 ( 0.2% ) 4.JLPT N5 取 得 117 ( 12.6% ) N4 取 得 207 ( 22.3% ) N3 取 得 210 ( 22.6% ) N2 取 得 73 ( 7.9% ) N1 取 得 18 ( 1.9% ) 取 得 なし 303 ( 32.7% ) 合 計 日 本 語 との 接 触 をしているのかについて 調 査 した これ によって 語 彙 習 得 の 授 業 教 材 学 習 環 境 を 創 り 出 していったらよいかについて 考 える 上 で 貴 重 な 資 料 となる 3)Web 辞 書 作 成 に 関 するニーズ 1)インドネシアの 詳 細 な 調 査 がこれからの 日 本 語 教 日 本 でも 英 語 を 中 心 としながら Weblio をはじめと 育 を 考 える 上 で 貴 重 な 資 料 となる して 無 料 の Web 辞 書 やアプリがつくられている こうし Japan foundation 2012 年 度 日 本 語 教 育 機 た 中 で 現 状 でどのような 使 用 状 況 であるのか また 関 調 査 結 果 概 要 ( 抜 粋 )PDF (p6)によると 利 用 者 がどのような 記 載 を 辞 書 に 求 めているのかにつ インドネシアの 日 本 語 学 習 者 は 国 別 では 中 国 に 続 い いて 調 査 した て 第 2 位 であり 2009 年 の 調 査 より 21.8 ポイントも 今 後 どのような 辞 書 を 開 発 したらよいかについて 考 増 加 している インドネシアは 地 域 言 語 の 数 が 多 い える 上 で 貴 重 な 資 料 となる 国 であり 小 学 校 で 公 用 語 としてインドネシア 語 を 学 び またさらに 英 語 も 学 んでいく 多 文 化 社 会 であり 3. 分 析 結 果 詳 細 に 関 しては 別 稿 を 設 けるが ここでは 顕 著 な 特 多 言 語 社 会 であり マルチリンガルな 人 々が 多 い 国 で 徴 について 指 摘 する 適 宜 統 計 処 理 を 加 えて 検 討 し ある インドネシアでの 詳 細 な 調 査 は これからの 日 本 た 結 果 を 示 す 語 教 育 を 考 える 上 で 貴 重 な 資 料 となる 3.1 メディアとの 関 わり 本 調 査 では 特 に 辞 書 と 語 彙 に 関 して 調 査 した メディアとの 関 わりに 関 して かなり 顕 著 な 差 が 出 て 2) 語 彙 の 学 習 に 関 する 状 況 調 査 いる 語 彙 の 習 得 に 関 してどのような 学 習 をし どのような 表 2 メディアの1 日 平 均 視 聴 時 間
回 答 0~ 15~ 30 分 ~ 1 時 間 ~ 1 時 間 30 分 2 時 間 ~ 2 時 間 30 分 3 時 間 時 間 合 計 なし 15 分 30 分 1 時 間 1 時 間 30 分 ~2 時 間 2 時 間 30 分 ~3 時 間 以 上 1. 日 本 語 0 213 130 179 120 111 54 49 72 ドラマ 23.0% 14.0% 19.3% 12.9% 12.0% 5.8% 5.3% 7.8% 100% 2. 日 本 語 1 398 184 150 65 51 25 22 32 バラエ ティ 42.9% 19.8% 16.2% 7.0% 5.5% 2.7% 2.4% 3.4% 100% 3. 日 本 語 アニメ 4. 日 本 語 ニュース 5. 日 本 語 関 連 ネッ ト SNS 表 2 から 成 分 分 析 によって 1 ドラマ アニ メ 2 ネット SNS 3 ニュース の3つに 分 類 でき る 3 ニュース に 関 しては 習 熟 度 とは 無 関 係 に 学 習 者 にとって 興 味 の 薄 いものである これを 授 業 に 取 り 込 むことは レアリアとしての 効 果 は 考 えられるとしても 学 習 者 の 興 味 につながるかというとこの 結 果 からは 疑 問 である これと 対 象 的 なのが2 ネット SNS である といえる 3 272 108 156 99 96 51 31 112 29.3% 11.6% 16.8% 10.7% 10.3% 5.5% 3.3% 12.1% 100% 1 684 156 60 17 7 1 1 1 73.7% 16.8% 6.5% 1.8% 0.8% 0.1% 0.1% 0.1% 100% 0 369 272 139 64 30 19 11 24 39.8% 29.3% 15.0% 6.9% 3.2% 2.0% 1.2% 2.6% 100% 1 ドラマ アニメ に 関 しては みなさんの 経 験 や アンケート 前 では Web 辞 書 の 充 実 を 考 えていたが アンケートを 行 ってみると 学 習 者 の 使 用 辞 書 は 大 半 がスマホのアプリである スマホの 急 速 な 利 用 が 増 えて いる 質 の 良 いスマホアプリに 対 応 した 辞 書 の 作 成 が 急 務 である 学 習 者 の 辞 書 の 使 用 場 面 を 見 ると 授 業 宿 題 が 多 い 辞 書 を 使 って 正 しい 意 味 を 理 解 させるた めには 授 業 と 先 生 の 役 割 は 不 可 欠 であるといえる また ネットの 記 事 を 見 ている 時 の 項 目 で 辞 書 使 用 率 が 高 い 日 本 語 能 力 が 高 くなるほど この 割 合 が 増 えているのも 特 徴 的 である 利 便 性 の 高 さ 関 心 度 嗜 好 の 多 様 化 に 応 えられる 等 のネットの 特 徴 が 今 後 の 辞 書 使 用 と 語 彙 習 得 の 鍵 となるであろう 感 覚 どおりで コアなファンは 長 時 間 の 視 聴 をしており 3.3 語 彙 の 習 得 23に 比 べると 短 から 長 時 間 まで 帯 状 に 広 く 広 がって ベネッセ 教 育 総 合 研 究 所 (2014)の 中 高 生 の 英 語 いる これを 使 用 した 教 材 は 好 き 嫌 いが 出 てしまい 教 学 習 に 関 する 実 態 調 査 に 関 する 報 告 書 に 英 語 を 室 のみんなが 興 味 を 持 つものという 点 では 難 しいとい 勉 強 する 上 で 大 切 なことは 何 だと 思 いますか ( 複 数 える 回 答 可 )の 質 問 に 対 して 1 位 英 語 でたくさん 会 話 3.2 辞 書 に 関 する 質 問 をする( 中 学 生 53.4% 高 校 生 59.8%) 2 位
単 語 をたくさん 覚 える 学 生 46.5% 高 校 生 59.8%) は 決 して 低 くはないが その 割 合 は 下 がる 一 方 習 とある 日 本 人 の 英 語 学 習 において 語 彙 習 得 の 意 熟 度 の 低 い 学 習 者 は 1 授 業 2テスト を 特 に 重 識 の 高 さが 窺 われる 視 している 3 検 定 においてはどの 習 熟 度 層 からも インドネシアの 日 本 語 学 習 においても 語 彙 習 得 の 選 ばれており 語 彙 習 得 の 意 義 が 読 みとれる 4ド 意 識 の 高 さが 窺 われる 単 語 学 習 で 日 本 語 力 が 向 ラマ 5 映 画 10 アニメ などの 視 聴 系 は 中 間 に 位 上 しているか に 対 し はい の 回 答 が 98.4%であった 置 する 9 ニュース 12 ブログ といった 分 量 が 多 く ここでは 効 果 的 な 単 語 学 習 (の 意 識 ) について 少 しかたい 文 章 ( 音 声 )や 逆 に 6バラエティ 11 とりあげる 表 3 をみると 1 授 業 2テスト の 選 ツイッター といったフランクな 文 章 ( 音 声 )にも 効 果 択 率 が 高 いのがわかる ここからも 授 業 と 先 生 の 役 が 高 いとは 思 われていないといえる 割 が 不 可 欠 である( 期 待 されている)といえる 3.4 学 習 動 機 表 3 単 語 を 覚 えるには 何 が 学 習 効 果 につながると 思 うか< 複 数 回 答 可 > JLPT N1 取 得 N2 取 得 N3 取 得 N4 取 得 N5 取 得 取 得 なし 合 計 n 18 73 210 207 117 303 1. 授 業 38.9% 63.0% 75.2% 87.0% 87.2% 80.2% 79.3% 2.テスト 27.8% 50.7% 62.4% 69.1% 73.5% 64.4% 64.3% 3. 検 定 61.1% 82.2% 79.5% 75.4% 76.1% 64.7% 73.2% 4.ドラマ 27.8% 30.1% 42.9% 36.7% 37.6% 30.0% 35.3% 5. 映 画 27.8% 31.5% 45.2% 36.2% 38.5% 37.3% 38.4% 6.バラエティ 22.2% 30.1% 31.4% 20.8% 22.2% 14.9% 22.2% 7. 読 書 77.8% 58.9% 55.2% 44.0% 41.9% 33.3% 44.6% 8. 日 本 人 との 会 話 83.3% 82.2% 78.6% 72.0% 72.6% 53.8% 68.6% 9.ニュース 33.3% 38.4% 33.3% 18.4% 19.7% 13.5% 22.2% 10.アニメ 27.8% 38.4% 44.8% 33.8% 45.3% 38.3% 39.4% 11.ツイッター 16.7% 13.7% 27.6% 16.4% 19.7% 10.9% 17.3% 12.ブログ 27.8% 26.0% 22.9% 15.5% 17.9% 11.9% 17.3% 13.ネットの 記 事 61.1% 47.9% 47.1% 31.4% 36.8% 22.4% 34.6% 合 計 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100% 成 分 分 析 を 行 ってみると 習 熟 度 によって 差 が 見 ら れる 習 熟 度 の 高 い 学 習 者 は 7 読 書 13 ネットの 記 事 といった 読 物 系 を 選 択 し 1 授 業 2テスト 学 習 動 機 に 関 して 日 本 語 学 習 の 目 的 の 結 果 をとりあげる 選 択 肢 にあげた 項 目 はいずれも 選 択 率 が 高 い ただ 習 熟 度 によってその 目 的 に 違 いがありそ うである 表 4 日 本 語 学 習 の 目 的 < 複 数 回 答 可 > JLPT N1 取 得 N2 取 得 N3 取 得 N4 取 得 N5 取 得 取 得 なし 合 計 n 18 73 210 207 117 303 1. 日 本 の 文 化 や 社 会 をもっと 知 るため 61.1% 56.2% 59.5% 61.4% 63.2% 55.8% 58.9% 2. 日 本 語 自 体 に 興 味 があるため 50.0% 60.3% 61.0% 66.2% 75.2% 58.7% 62.9% 3. 将 来 日 本 に 留 学 し たいため 22.2% 56.2% 58.1% 59.9% 74.4% 56.1% 59.1% 4. 日 本 のTV 番 組 や アニメなどを 理 解 し 16.7% 32.9% 43.8% 29.0% 38.5% 30.0% 33.9% たいため 5. 日 本 人 との 会 話 が したいため 50.0% 42.5% 51.4% 49.8% 59.0% 39.9% 47.5% 6. 特 に 目 的 はない 5.6% 6.8% 5.2% 9.7% 4.3% 13.5% 8.9% 合 計 100% 100% 100% 100% 100% 100% 100%
そこで 成 分 分 析 を 行 ってみると 1 日 本 の 文 化 や 社 会 をもっと 知 るため 2 本 語 自 体 に 興 味 があるため 4.おわりに 今 回 指 摘 したのは アンケートの 一 部 である このあ 5 日 本 人 と 会 話 がしたいため はレベル 差 によらず 目 と さらに 詳 細 な 分 析 を 行 う 的 とする 項 目 である 他 方 3 将 来 日 本 に 留 学 した また 今 回 のアンケート 結 果 は WEB にて 公 開 ので いため 4 日 本 のTV 番 組 やアニメなどを 理 解 したい 待 たれたい ため は 習 熟 度 が 高 い 学 習 者 になると 大 きな 目 的 の 一 つとしてあげる 項 目 ではなくなるようである *1)アンケートの 実 施 にあたっては 八 田 直 美 先 生 (ジャパンファンデーション) アムリ 先 生 (スラバヤ 大 学 ) イス マトゥル 先 生 (ブラウィジャヤ 大 学 ) ソニ ムルヤワン 先 生 (ウニコ 厶 大 学 ) スシ 先 生 (ウピ 大 学 ) ベティ 先 生 (サ ラスワティ 外 大 ) ヘル 先 生 (サラスワティ 外 大 ) ダニー 先 生 ( 元 ウィディヤタマ 大 学 )をはじめ 多 くの 先 生 方 にご 協 力 をいただいた 参 考 文 献 Michael West.(1930) peaking-vocabulary in a foreign language. Modern Language Journal.14: 514 Nation.(2001) Learning vocabulary in another language. Cambridge University Press ベネッセ 教 育 総 合 研 究 所 (2014) 中 高 生 の 英 語 学 習 に 関 する 実 態 調 査 2014 速 報 版 木 村 治 生 編 ベネッ セホールディングス ベネッセ 教 育 総 合 研 究 所 2014 年 10 月 1 日 P15