原 著 論 文 バレーボール 研 究 第 9 巻 第 1 号 May 2007 バレーボールのスパイクスピードと 体 幹 屈 曲 力 との 関 係 中 西 康 己 * *, 都 澤 凡 夫 The relationship between spike speed and trunk flection power in volleyball Yasumi NAKANISHI *, Tadao MIYAKOZAWA * 本 研 究 では, 体 幹 の 屈 曲 力 の 発 揮 特 性 がバレーボールのスパイクスピードにどのように 関 係 しているのかを 9 名 の 女 子 バレーボール 選 手 を 対 象 に 検 討 し,スパイクスピードと 体 幹 屈 曲 における 筋 出 力 発 揮 特 性 との 関 係 を 明 らか にすることを 目 的 とした 本 研 究 の 結 果 は 以 下 の 通 りである (1) スパイクスピードが 遅 い 被 験 者 は 60deg/sec,120deg/sec の 角 速 度 ではスパイクスピードが 速 い 被 験 者 との 差 は 大 きくなかったが,240deg/sec,300deg/sec という 高 速 度 条 件 ではスパイクスピードとピークトルクに 有 意 な 相 関 関 係 が 見 られるようになった (2) ピークトルク 発 揮 角 度 から,スパイクスピードが 速 い 被 験 者 はスパイクスピードが 遅 い 被 験 者 と 比 較 して 力 の 立 ち 上 がりが 良 いことが 示 唆 された このことから 速 い 筋 収 縮 速 度 で 高 い 力 を 発 揮 できることが,ボール スピードの 向 上 につながることが 明 らかになった (3) スパイクスピードを 上 げるためには, 静 的 な 筋 力 を 追 及 するトレーニングよりもスピードを 伴 う 高 い 筋 力 を 追 求 することが 重 要 であると 考 えられる キーワード:バレーボール,スパイクスピード, 体 幹 屈 曲 力, 筋 収 縮 速 度,ピークトルク The purpose of this study was to examine the relationship between spike speed and trunk flection power in volleyball. The subjects of this study were nine volleyball female players. In this study, Cybex TMC was used to examine the muscle characteristics of kinetic movement in trunk flection-extension exercise. The results were follows; 1) There were significant correlations between spike speed and peak torque at 240 and 300deg/sec by higher speed hitter. 2) It was found out that it was related with the improvement of the ball speed that the high power could be performed at a high-speed muscle contraction velocity. 3)The results suggests that dynamic resistance training with speed is important more than static muscle training to increase a spike speed. Key word: volleyball, spike speed, trunk flection power, muscle contraction velocity, Peak Torque Ⅰ.は じ め に 体 育 科 学 の 分 野 で 筋 力 の 発 揮 特 性 を 対 象 とした 研 究 は 数 多 く 行 われてきている 特 に 1970 年 代 以 降 は 等 速 性 運 動 機 器 を 用 いた 研 究 が 盛 んに 行 われてきたが, 他 の 身 体 部 位 と 比 較 すると 体 幹 の 筋 力 特 性 についての 研 究 は 少 ない 体 幹 筋 力 発 揮 特 性 の 研 究 では, 健 常 者 と 腰 痛 症 患 者 の 筋 力 発 揮 特 性 の 比 較 ( 後 藤 ら 3),1993; 李 ら 10),1993)や 等 尺 性 運 動 の 体 幹 筋 力 測 定 ( 石 橋 ら 5),1994)が 行 われてい る 等 速 での 体 幹 筋 力 についての 研 究 ( 斉 藤 ら 11),1993; 田 中 12),1994)では, 高 速 度 での 体 幹 筋 力 発 揮 特 性 を 検 討 しておらず,150deg/sec までの 角 速 度 で 測 定 している に 過 ぎない また, 筋 力 の 発 揮 特 性 が 明 らかに 異 なると 思 われるス ポーツ 選 手 を 被 験 者 として,ヒトの 体 幹 筋 力 の 発 揮 特 性 や トレーナビリティを 明 らかにした 研 究 はほとんどない し かしながら,スポーツ 場 面 では, 筋 力, 特 に 体 幹 筋 力 と 筋 収 縮 速 度 との 関 係 など, 筋 力 の 発 揮 特 性 と 捉 えることは 重 * 筑 波 大 学 University of Tsukuba 要 である これまで,バレーボールのスパイク 動 作 におけ る 体 幹 の 重 要 性 について, 画 像 分 析 によって 明 らかにしよ うとした 研 究 がある( 都 澤 ら 8),1999) この 研 究 はバレー ボールのスパイク 動 作 時 における 体 幹 の 両 胸 郭 腰 部 の 回 旋 の 重 要 性 を 示 唆 している しかし, 体 幹 屈 曲 方 向 につい て,そのスピード,トルクの 発 揮 についてのキネティクス 的 な 分 析 は 行 なわれていないため,スパイク 動 作 における 体 幹 の 屈 曲 速 度,その 際 に 発 揮 されるトルク 及 びピーク 出 力 時 の 屈 曲 角 度 などの 特 性 は 明 らかになっていない 例 え ば, スパイクを 打 つ 際, 速 い 筋 収 縮 速 度 で 高 い 力 を 発 揮 することは,ボールスピードに 影 響 を 与 えられる と 証 明 できれば, 競 技 の 測 定 評 価 やトレーニング 及 びその 計 画 へ 寄 与 すると 考 えられる そこで 本 研 究 では, 体 幹 の 屈 曲 力 の 発 揮 特 性 が,バレー ボールのスパイクスピードにどのように 関 係 しているのか を 検 討 した 被 験 者 は, 競 技 としてバレーボールを 専 門 と し, 大 学 選 手 権 大 会 等 の 公 式 試 合 に 出 場 するため,1 週 間 に 10 時 間 以 上 はスパイクを 打 つバレーボール 選 手 とし た スピードガンを 用 いてスパイクスピードを 測 定 し, 次 に 体 幹 屈 曲 運 動 における 筋 力 を 60deg/sec 120deg/sec 180deg/sec 240deg/sec 300deg/sec の 角 速 度 で 測 定 及
6 原 著 論 文 中 西 :バレーボールのスパイクスピードと 体 幹 屈 曲 力 との 関 係 び 比 較, 検 討 した その 結 果 から,スパイクスピードと 体 幹 屈 曲 における 筋 出 力 発 揮 特 性 との 関 係 を 明 らかにするこ とを 目 的 とした Ⅱ. 研 究 方 法 1. 被 験 者 被 験 者 はバレーボールを 専 門 競 技 とし,T 大 学 女 子 バレーボール 部 に 所 属 する 9 名 とした 各 被 験 者 のプロ フィールは 表 1 に 示 すとおりである 2. 測 定 装 置 及 び 器 具 等 速 性 の 体 幹 屈 曲 における 筋 力 発 揮 特 性 を 測 定 するため に,Cybex TMC(Trunc Modular Conponen; Cybex 社 製 ) を 使 用 した また,スパイクスピードの 測 定 にはスピード ガン(2ZM-1010;ミズノ 社 製 )を 使 用 した 3. 測 定 の 手 順 ⑴ 体 幹 屈 曲 の 測 定 手 順 Cybex TMC のマニュアルにしたがって 被 験 者 に 測 定 肢 位 を 取 らせた 胸 部 は 胸 部 パッド, 背 部 は 肩 甲 骨 パッドで 固 定 した 肩 の 位 置 は 股 関 節 の 真 上 で, 背 中 は 床 に 対 して 垂 直 とし,これを 解 剖 学 的 0 とした 運 動 時 は 胸 部 パッ ドのグリップを 持 ち, 運 動 を 行 った 被 験 者 を Cybex TMC に 固 定 し, 解 剖 学 的 0 を 入 力 したのち, 運 動 範 囲 を 屈 曲 側 - 10 から 90 に 設 定 した その 後 安 全 を 期 すた めにダイナモメーターにあるストッパーを 固 定 した これ により 被 験 者 が 設 定 した 運 動 範 囲 である 100 以 上 の 屈 曲 運 動 が 不 可 能 な 状 態 にした 屈 曲 運 動 は, 験 者 の 合 図 によ り 運 動 範 囲 内 を 最 大 努 力 で,1 回 屈 曲 させた 屈 曲 後, 体 幹 を 解 剖 学 的 0 の 位 置 まで 戻 し, 次 の 試 技 まで 被 験 者 の 楽 な 姿 勢 で 30 秒 間 休 憩 をした 測 定 条 件 として 体 幹 屈 曲 に 関 して 低 速 から 高 速 までの 測 定 角 速 度 を 設 定 した 体 幹 屈 曲 の 設 定 角 度 は,バレー ボールのスパイク 技 術 の 特 性 を 踏 まえて, 高 速 度 (150deg/ sec 以 上 ) での 体 幹 筋 力 発 揮 特 性 を 検 討 すること,また 過 去 の 文 献 との 比 較 をするため 60deg/sec 120deg/sec 180deg/sec 240deg/sec 300deg/sec の 5 種 類 と し た 測 定 はそれぞれの 角 速 度 で 3 セットずつ 行 った な お,120deg/sec の 測 定 が 終 了 した 時 点 で, 一 度 被 験 者 を Cybex TMC から 解 放 して 休 憩 をとった 測 定 中 に 被 験 者 が 身 体 の 異 常 や 疲 労 を 感 じた 時 は 途 中 であっても 中 断 し, 休 憩 をとるようにした 測 定 前 には 十 分 に 測 定 試 技 の 練 習 を 行 った ⑵ スパイクスピードの 測 定 手 順 事 前 に 準 備 しておいたスピードガンを 用 いて, 被 験 者 の スパイクスピードを 測 定 した 被 験 者 は, 全 員 が 共 通 した ボール(センターポジションで 直 上 に 投 げ 上 げられたトス) と 自 分 の 専 門 のポジションから 最 も 得 意 な( 自 己 申 告 )ポ ジション,テンポ( 速 さ), 高 さのボール( 以 下,コンビ ネーション)の 2 種 類 のトスを 打 った 被 験 者 には, 全 員 表 1 各 被 験 者 のプロフィール 身 長 体 重 最 高 到 達 点 VB 経 験 年 数 ポジション 被 験 者 1 178cm 68kg 290cm 10 年 センター 被 験 者 2 175cm 68kg 285cm 11 年 センター 被 験 者 3 174cm 68kg 298cm 10 年 ライト 被 験 者 4 173cm 65kg 289cm 11 年 レフト 被 験 者 5 171cm 63kg 298cm 9 年 レフト 被 験 者 6 177cm 66kg 287cm 9 年 レフト 被 験 者 7 177cm 65kg 280cm 9 年 センター 被 験 者 8 169cm 60kg 278cm 11 年 ライト 被 験 者 9 174cm 65kg 283cm 8 年 レフト が 上 記 2 種 類 のどちらのトスも 自 分 が 打 ちやすいコースに スピードガンを 置 くよう, 要 求 できるようにした そして, スピードガンに 直 接 ボールが 当 たらないように 防 球 ネット 越 しにスピードガンを 設 置 して,その 防 球 ネットに 向 かっ てスパイクを 打 つように 指 示 した ネットに 当 たる 等 の 明 らかな 失 敗 試 技 は 除 いて3 球 ずつ 測 定 した 4. 計 測 項 目 体 幹 屈 曲 における 全 ての 試 技 において,トルクの 最 高 値 をピークトルクとし,ピークトルクが 発 揮 された 際 の 角 度 をピークトルク 発 揮 角 度 として 計 測 した 5. 分 析 方 法 体 幹 屈 曲 で 計 測 した 2 つの 項 目 について, 各 角 速 度 ごと に 3 回 の 平 均 と 標 準 偏 差 を 求 めて,スパイクスピードの 各 最 高 値 との 相 関 係 数 を 算 出 した 有 意 性 は 危 険 率 5% 未 満 で 判 定 した Ⅲ. 結 果 3.1 体 幹 屈 曲 の 測 定 結 果 各 被 験 者 の 体 幹 屈 曲 におけるピークトルクの 結 果 ( 平 均 ) を 図 1 に 示 した 被 験 者 全 員 の 体 幹 屈 曲 運 動 におけるピークトルクの 平 均 は,60deg/sec の 角 速 度 で は 196.2 ± 10.7N m,120deg/ sec では 195.5 ± 9.9Nm,180deg/sec では 193.2 ± 27.2Nm で 顕 著 な 差 は 見 られなかった 240deg/sec では 175.7 ± 32.1Nm,300deg/sec で は 133.3Nm を 示 し,240deg/sec の 角 速 度 以 上 では 顕 著 に 低 下 する 傾 向 が 見 られた 被 験 者 全 員 の 体 幹 屈 曲 運 動 におけるピークトルクの 発 揮 角 度 の 平 均 ( 図 2)は, 角 速 度 が 60deg/sec では 63.6 ± 8.3deg,120deg/sec で は 42.9 ± 25.7deg,180deg/sec で は 32.6 ± 16.7deg,240deg/sec では 42.2 ± 5.3deg であった また,300deg/sec という 高 速 な 条 件 では 50.9 ± 15.1deg を 示 した 60deg/sec から 180deg/sec と 角 速 度 が 速 くな るのに 伴 いピークトルク 発 揮 角 度 は 屈 曲 方 向 に 移 行 する 傾 向 を 示 したが,180deg/sec から 300deg/sec にかけては 伸 展 方 向 に 移 行 する 傾 向 を 示 した
バレーボール 研 究 第 9 巻 第 1 号 (2007) 7 3.2 スパイクスピードの 測 定 結 果 スパイクスピードの 測 定 結 果 を 表 2に 示 した 被 験 者 には, 全 員 共 通 のトスと 自 分 が 最 も 得 意 なコンビ ネーションの2 種 類 のトスを 打 たせたが, 全 員 共 通 のト スは 70.9 ± 5.5km/h, 得 意 なコンビネーションは 70.3 ± 8.4km/h と 有 意 な 差 が 出 なかったため, 体 幹 屈 曲 との 相 関 係 数 は, 全 員 共 通 のトスと 得 意 なコンビネーションのトス とを 合 わせた 全 ての 値 の 中 の 最 高 値 で 算 出 することにし た 3.3 体 幹 屈 曲 力 とスパイクスピードの 相 関 関 係 体 幹 屈 曲 とスパイクスピードの 相 関 関 係 は, 図 3から 図 12 に 示 した 体 幹 屈 曲 運 動 におけるピークトルクとスパイクスピード の 相 関 係 数 は,60deg/sec では r=0.26,120deg/sec では r=0.30,180deg/sec では r=0.49,240deg/sec では r=0.65, 300deg/sec で は r=0.72 と な り,240deg/sec と 300deg/ sec で 有 意 な 相 関 が 見 られた 被 験 者 の 体 幹 屈 曲 運 動 におけるピークトルク 発 揮 角 度 と スパイクスピードの 相 関 係 数 は 60deg/sec では r=-0.54, 120deg/sec で は r=-0.53,180deg/sec で は r=-0.16, 240deg/sec では r=-0.18,300deg/sec では r=0.65 となり, 300deg/sec で 有 意 な 相 関 が 見 られた Ⅳ. 考 察 本 研 究 で 測 定 したピークトルクの 値 は, 体 幹 筋 力 が 発 揮 する 大 きさを 表 す 指 標 となる ピークトルクが 大 きいとい うことは, 瞬 間 最 大 筋 力 が 大 きいということである 井 上 4) (2001)が 報 告 した, 一 般 男 性 のピークトルク の 平 均 値 は, 角 速 度 60deg/sec,120deg/sec で は そ れ ぞ れ 175 ± 21Nm,166 ± 22Nm で あ り,240deg/sec, 300deg/sec ではそれぞれ 105 ± 38Nm,56 ± 28Nm であっ た これらの 数 値 と 低 下 傾 向 を 本 研 究 の 被 験 者 のピークト ルク( 図 1)と 比 較 すると, 角 速 度 が 速 くなることに 伴 う ピークトルクの 低 下 が 小 さかった この 理 由 として, 日 常 生 活 の 体 幹 運 動 速 度 は 速 いものでもおよそ 90deg/sec で ある(Davis,G.J. 2),1987)ことを 踏 まえると, 一 般 男 性 に 高 速 での 体 幹 屈 曲 が 要 求 されることは 少 ない それに 比 べ, バレーボール 選 手 はボールに 加 速 度 を 与 えるためにスピー ドを 伴 った 体 幹 屈 曲 が 要 求 される 常 識 的 に 見 て 女 性 の 筋 力 は 男 性 より 低 いにもかかわらず,その 角 速 度 条 件 でも 一 般 男 性 より 女 子 バレーボール 選 手 のピークトルクが 優 って いることは,まさにトレーニングの 効 果 と 言 える 特 に 240deg/sec 及 び 300deg/sec という 高 速 条 件 で, 一 般 男 性 の 値 の 約 1.7 倍 及 び 2.4 倍 のピークトルクを 示 すことは, 速 い 筋 収 縮 速 度 で 高 い 筋 出 力 を 要 求 されるバレーボール 選 手 の 特 性 を 示 している 次 にスパイクスピードが 速 い 被 験 者 とそうでない 被 験 図 1 体 幹 屈 曲 時 のピークトルク 図 2 体 幹 屈 曲 時 のピークトルク 発 揮 角 度 表 2 各 被 験 者 の 2 種 類 のトスにおけるスパイクスピードの 結 果 (km/h) 共 通 得 意 なコンビネーション 最 高 値 平 均 標 準 偏 差 被 験 者 1 71 71 70 60 61 63 71 66.0 5.2 被 験 者 2 64 63 63 59 55 58 64 60.3 3.6 被 験 者 3 81 85 83 84 86 82 86 83.5 1.9 被 験 者 4 64 67 67 58 59 70 70 64.2 4.8 被 験 者 5 69 74 74 75 74 75 75 73.5 2.3 被 験 者 6 65 73 82 71 76 79 82 74.3 6.1 被 験 者 7 68 74 68 71 73 71 74 70.8 2.5 被 験 者 8 71 65 73 72 73 74 74 71.3 3.3 被 験 者 9 71 66 73 71 75 73 75 71.5 3.1 全 体 平 均 70.9 70.3 74.6 70.6 3.6 者 を 比 較 した 角 速 度 180deg/sec まで, 全 被 験 者 におい て 195Nm 前 後 のピークトルクを 発 揮 できており, 個 人 差 はさほど 大 きくなかった しかしながら,240deg/sec や 300deg/sec という 高 速 条 件 になると 発 揮 できる 筋 力 に 個 人 差 が 大 きくなった つまり,スパイクスピードが 速 い 被 験 者 は 240deg/sec や 300deg/sec といった 高 速 でも 力 を 発 揮 できている 逆 に,スパイクスピードが 比 較 的 遅 い 被 験 者 は 高 速 条 件 でピークトルクの 低 下 が 大 きくなった そ れゆえ, 高 速 条 件 でスパイクスピードとピークトルクに 有 意 な 相 関 関 係 が 見 られるようになったと 考 えられる スピードを 伴 う 筋 の 収 縮 については,スプリントトレー ニングによって 速 筋 タイプである Type II b 線 維 の 増 加 が 認 められていることが 報 告 されている (Jansson,E. ら 6),1990) バレーボールのスパイク 動 作 の 際 には,スピー ドを 伴 う 体 幹 の 屈 曲 を 繰 り 返 すことが 要 求 される また, ダッシュやジャンプなどのような 自 己 の 体 重 を 支 配 するこ
8 原 著 論 文 中 西 :バレーボールのスパイクスピードと 体 幹 屈 曲 力 との 関 係 図 3 60deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルクと 図 4 120deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルクと 図 5 180deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルクと 図 6 240deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルクと 図 7 300deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルクと 図 8 60deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルク 発 揮 角 度 と 図 10 180deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルク 発 揮 角 度 と 図 9 120deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルクと とが 要 求 される 運 動 場 面 がほとんどであるため,トレーニ ング 効 果 により 速 筋 線 維 が 増 加 し, 一 般 男 性 と 比 較 しても,
バレーボール 研 究 第 9 巻 第 1 号 (2007) 9 図 11 240deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルク 発 揮 角 度 と 図 12 300deg/sec における 体 幹 屈 曲 時 のピークトルク 発 揮 角 度 と 高 速 条 件 でも 高 いピークトルクが 発 揮 できたと 推 察 され る 勝 田 ら 7) (1993)は, パワーは 力 と 速 度 ( 動 きの 速 さ) の 二 つの 要 因 を 含 んでおり,トレーニング 効 果 は 特 異 的 で ある すなわち, 力 の 要 素 の 大 きいトレーニングでは 速 度 よりも 力 の 向 上, 速 度 の 要 素 の 大 きいトレーニングでは 力 よりも 速 度 の 向 上 が 生 じ,その 結 果 を 反 映 したパワーの 改 善 がなされる としている このことから,バレーボール のスパイクスピードを 上 げるためには, 静 的 な 高 い 筋 力 を 追 及 するトレーニングよりもスピードを 伴 う 筋 力 を 追 求 し てトレーニングをすることが 重 要 であると 考 えられる そ れによって, 速 筋 タイプである Type II b 線 維 が 増 加 し, スパイクスピードが 上 がる 可 能 性 も 考 えられる また,そ のようなトレーニングをスパイクスピードの 遅 い 選 手 が 行 うと,スパイクスピードが 速 い 選 手 のような 筋 力 発 揮 タイ プに 移 行 していく 可 能 性 が 期 待 される ピークトルク 発 揮 速 度 は, 体 幹 筋 力 の 力 の 立 ち 上 がりを 見 る 指 標 となる ピークトルク 発 揮 速 度 は,60deg/sec か ら 180deg/sec までは 発 揮 角 度 が 小 さくなり,180deg/sec から 300deg/sec までは 大 きくなった( 図 1) ピークトル ク 発 揮 速 度 が 大 きいということは, 屈 曲 運 動 の 場 合 はピー クトルクに 達 するのに 時 間 を 要 したことを 意 味 する これ は,Andersson,E. ら 1) (1988)の エリート 競 技 者 は 一 般 群 に 比 べてどの 運 動 様 式 においても 速 くピークトルクを 発 揮 する 位 置 に 達 する という 結 果 を 支 持 するものとなった 速 くピークトルクを 発 揮 できる 位 置 に 達 するということは 力 の 立 ち 上 がりが 良 いと 解 釈 でき,この 結 果 からスパイク スピードの 最 速 値 が 高 かった 被 験 者 はスパイクスピードの 最 速 値 が 低 かった 被 験 者 と 比 較 して 力 の 立 ち 上 がりが 良 い ことが 示 唆 された これも,スパイクスピードの 最 速 値 が 高 かった 被 験 者 が 速 い 筋 収 縮 を 行 なっていることを 裏 付 け るものである 筋 力 に 影 響 する 要 因 としては, 筋 断 面 積, 神 経 系 の 要 因, 筋 線 維 組 成, 解 剖 学 的 要 因 など 様 々な 原 因 が 挙 げられるが, 瞬 発 的 な 筋 収 縮 には 参 画 する 運 動 ニュー ロンの 発 射 頻 度 の 増 加, 動 員 する 運 動 単 位 の 増 加, 筋 線 維 タイプなどが 関 与 していて,トレーニングで 改 善 される ことが 報 告 されている( 森 谷 ら 9),1999) このことから, バレーボール 選 手 においても 筋 力 の 発 揮 特 性 のタイプに 差 があるため,プレーで 要 求 される 筋 力 発 揮 特 性 に 合 わせた トレーニングの 必 要 性 が 示 唆 された Ⅴ. 結 論 本 研 究 では, 体 幹 の 屈 曲 力 を 中 心 にさらに 肩 関 節 の 屈 曲 力 内 旋 力 の 筋 収 縮 速 度 の 変 化 に 伴 う 発 揮 特 性 が,バレー ボールのスパイクスピードにどのように 関 係 しているかを 検 討 した 本 研 究 の 結 果 は 以 下 の 通 りである 体 幹 屈 曲 のピークトルクは,スパイクスピードが 速 い 被 験 者 では,240deg/sec や 300deg/sec といった 高 速 でも 力 を 発 揮 できていた スパイクスピードの 遅 い 被 験 者 で は 60deg/sec,120deg/sec の 角 速 度 ではスパイクスピー ドが 速 い 被 験 者 との 差 は 大 きくないが, 角 速 度 が 速 くなる に 伴 ってピークトルクの 低 下 が 大 きくなった そのため 高 速 度 条 件 でスパイクスピードとピークトルクに 有 意 な 相 関 が 見 られるようになった ピークトルク 発 揮 速 度 から,ス パイクスピードが 速 かった 被 験 者 はスパイクスピードが 遅 かった 被 験 者 と 比 較 して 力 の 立 ち 上 がりが 良 いことが 示 唆 された このことから, 速 い 筋 収 縮 で 高 い 力 を 発 揮 できる ことが,スパイクのボールスピードの 向 上 につながること が 明 らかとなった これらのことから,バレーボールのスパイクスピードを 上 げるためには, 静 的 な 高 い 筋 力 を 追 及 するトレーニング よりもスピードを 伴 う 高 い 筋 力 を 追 求 することが 重 要 であ ると 考 えられる 例 えば, 体 幹 のトレーニング, 特 に 腹 筋 系 のトレーニングでも 疲 労 等 により 速 い 筋 収 縮 を 維 持 でき なくなった 時 点 で 終 了 することが 必 要 かもしれない 引 用 参 考 文 献 1) Andersson, E., Sward,L., and Thorstensson, A. (1988). Trunk muscle strength in athletes. Medicine and Science in Sports and Exercise, vol.20, pp.587 593. 2) Davis, G. J. (1987). A Compendium of Isokinetics in Clinical Usage and Rehabilitation Techniques. S&S Publishers, pp.89 92 3) 後 藤 博 史, 稗 田 寛, 高 木 久 雄 他 (1993). 腰 痛 患 者 の 体 幹 筋 力 測 定. 理 学 診 療, 第 4 巻,pp.22 25
10 原 著 論 文 中 西 :バレーボールのスパイクスピードと 体 幹 屈 曲 力 との 関 係 4) 井 上 一 彦 (2001). 等 速 性 の 体 幹 屈 曲 伸 展 運 動 における 筋 力 発 揮 特 性 について. 筑 波 大 学 修 士 論 文 5) 石 橋 賢 太 郎, 伊 礼 修, 古 泉 豊 他 (1994). 腰 痛 患 者 疾 患 におけ る 腰 椎 前 弯 の 検 討 : 体 幹 筋 力 評 価 と QCT 法 による 筋 量 測 定. 理 学 診 療, 第 5 巻,pp.81 85 6) Jansson, E., Esbjornsson, M., Holm, I. And Jacobs, I.(1990). Increase in the propotion of fast-twitch muscle fibers by sprint training in males. Acta. Physical Scand., vol.140, pp.359 363 7) 勝 田 茂 他 (1993). 骨 格 筋 繊 維 の 構 造 と 機 能. 筋 力, 筋 パワー. 運 動 生 理 学 20 講. 朝 倉 書 店,pp.1 14 8) 都 澤 凡 夫, 塚 本 正 仁 (1999)スパイク 理 論 に 関 する 研 究 :フォアス イングについて.バレーボール 研 究, 第 1 巻, 第 1 号,pp.9 15 9) 森 谷 敏 夫, 吉 武 康 栄. 神 経 筋 システムの 適 応. 森 谷 敏 夫 編 (1999). 運 動 と 生 体 諸 機 能 : 適 応 と 可 逆 性.ナップ 社,pp.57 74 10) 李 俊, 中 村 耕 三, 山 口 修 他 (1993). 腰 痛 症 における 体 幹 筋 の 機 能 : 伸 展 力 屈 曲 比 の 検 討. 理 学 診 療, 第 4 巻,pp.95 98 11) 斉 藤 明 義, 金 沢 伸 彦, 布 袋 屋 浩 他 (1993).PNF による 体 幹 筋 力 強 化. 臨 床 スポーツ 医 学.Vol.11,pp.889 895 12) 田 中 正 一 (1994). 体 幹 の 筋 力 とその 評 価. 総 合 リハビリテーショ ン,22 号,pp.211 216