2016 年 4 月 28 日 日 本 銀 行 経 済 物 価 情 勢 の 展 望 (2016 年 4 月 ) 基 本 的 見 解 1 < 概 要 > わが 国 の 景 気 は 新 興 国 経 済 の 減 速 の 影 響 などから 輸 出 生 産 面 に 鈍 さが みられるものの 基 調 としては 緩 やかな 回 復 を 続 けている 2018 年 度 まで を 展 望 すると 当 面 輸 出 生 産 面 に 鈍 さが 残 るとみられるが 家 計 企 業 の 両 部 門 において 所 得 から 支 出 への 前 向 きの 循 環 メカニズムが 持 続 す るもとで 国 内 需 要 が 増 加 基 調 をたどるとともに 輸 出 も 新 興 国 経 済 が 減 速 した 状 態 から 脱 していくことなどを 背 景 に 緩 やかに 増 加 するとみら れる このため わが 国 経 済 は 基 調 として 緩 やかに 拡 大 していくと 考 え られる 消 費 者 物 価 ( 除 く 生 鮮 食 品 )の 前 年 比 は エネルギー 価 格 下 落 の 影 響 から 当 面 0% 程 度 で 推 移 するとみられるが 物 価 の 基 調 は 着 実 に 高 まり 2% に 向 けて 上 昇 率 を 高 めていくと 考 えられる この 間 原 油 価 格 が 現 状 程 度 の 水 準 から 緩 やかに 上 昇 していくとの 前 提 にたてば エネルギー 価 格 の 寄 与 度 は 現 在 の-1% 強 から 次 第 に 剥 落 していくが 2017 年 度 の 初 めまで はマイナス 寄 与 が 残 ると 試 算 される 2 この 前 提 のもとでは 消 費 者 物 価 の 前 年 比 が 物 価 安 定 の 目 標 3 である2% 程 度 に 達 する 時 期 は 2017 年 度 中 になると 予 想 される 4 その 後 は 平 均 的 にみて 2% 程 度 で 推 移 する と 見 込 まれる 2017 年 度 までの 見 通 しを 従 来 の 見 通 しと 比 べると 成 長 率 については 海 外 経 済 の 減 速 に 伴 う 輸 出 の 下 振 れなどの 影 響 から 幾 分 下 振 れている 物 価 見 通 しは 成 長 率 の 下 振 れや 賃 金 上 昇 率 の 下 振 れなどにより 2016 年 度 について 下 振 れている 金 融 政 策 運 営 については 2%の 物 価 安 定 の 目 標 の 実 現 を 目 指 し こ れを 安 定 的 に 持 続 するために 必 要 な 時 点 まで マイナス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 を 継 続 する 今 後 とも 経 済 物 価 のリスク 要 因 を 点 検 し 物 価 安 定 の 目 標 の 実 現 のために 必 要 な 場 合 には 量 質 金 利 の3つの 次 元 で 追 加 的 な 金 融 緩 和 措 置 を 講 じる 1 4 月 27 28 日 開 催 の 政 策 委 員 会 金 融 政 策 決 定 会 合 で 決 定 されたものである 2 各 政 策 委 員 は 見 通 し 作 成 にあたって 原 油 価 格 (ドバイ)は 1バレル 35 ドルを 出 発 点 に 見 通 し 期 間 の 終 盤 である 2018 年 度 にかけて 40 ドル 台 後 半 に 緩 やかに 上 昇 して いくと 想 定 している その 場 合 の 消 費 者 物 価 ( 除 く 生 鮮 食 品 )の 前 年 比 に 対 するエネル ギー 価 格 の 寄 与 度 は 2016 年 度 で-0.8%ポイント 程 度 と 試 算 される また 寄 与 度 は 2016 年 度 後 半 にマイナス 幅 縮 小 に 転 じ 2017 年 央 に 概 ねゼロになると 試 算 される 3 日 本 銀 行 は 物 価 安 定 の 目 標 を 消 費 者 物 価 指 数 ( 総 合 ベース)の 前 年 比 上 昇 率 で2% としている そのうえで 見 通 しは 天 候 など 予 測 しがたい 要 因 に 左 右 される 生 鮮 食 品 を 除 くベースの 消 費 者 物 価 指 数 で 作 成 している 4 2017 年 度 については 消 費 税 率 引 き 上 げの 直 接 的 な 影 響 を 除 くベース 消 費 税 率 につ いては 2017 年 4 月 に 10%に 引 き 上 げられること( 軽 減 税 率 については 酒 類 と 外 食 を 除 く 飲 食 料 品 および 新 聞 に 適 用 されること)を 前 提 としている 1
1.わが 国 の 経 済 物 価 の 現 状 わが 国 の 景 気 は 新 興 国 経 済 の 減 速 の 影 響 などから 輸 出 生 産 面 に 鈍 さ がみられるものの 基 調 としては 緩 やかな 回 復 を 続 けている 海 外 経 済 は 緩 やかな 成 長 が 続 いているが 新 興 国 を 中 心 に 幾 分 減 速 している そうし たもとで 輸 出 は 足 もとでは 持 ち 直 しが 一 服 している 国 内 需 要 の 面 で は 設 備 投 資 は 企 業 収 益 が 高 水 準 で 推 移 するなかで 緩 やかな 増 加 基 調 にある 個 人 消 費 は 一 部 に 弱 めの 動 きもみられるが 雇 用 所 得 環 境 の 着 実 な 改 善 を 背 景 に 底 堅 く 推 移 している 一 方 住 宅 投 資 はこのところ 持 ち 直 しが 一 服 しており 公 共 投 資 も 高 水 準 ながら 緩 やかな 減 少 傾 向 にあ る 以 上 の 内 外 需 要 を 反 映 して 鉱 工 業 生 産 は 横 ばい 圏 内 の 動 きを 続 け ているが 足 もとでは 地 震 による 影 響 もみられる 企 業 の 業 況 感 は 総 じて 良 好 な 水 準 を 維 持 しているが 新 興 国 経 済 の 減 速 の 影 響 などから 慎 重 化 している わが 国 の 金 融 環 境 は きわめて 緩 和 した 状 態 にある 物 価 面 では 消 費 者 物 価 ( 除 く 生 鮮 食 品 以 下 同 じ)の 前 年 比 は 0% 程 度 とな っている 予 想 物 価 上 昇 率 は やや 長 い 目 でみれば 全 体 として 上 昇 してい るとみられるが このところ 弱 含 んでいる 2.わが 国 の 経 済 物 価 の 中 心 的 な 見 通 し (1) 経 済 情 勢 先 行 きのわが 国 経 済 を 展 望 すると 当 面 輸 出 生 産 面 に 鈍 さが 残 ると みられるが 家 計 企 業 の 両 部 門 において 所 得 から 支 出 への 前 向 きの 循 環 メカニズムが 持 続 するもとで 国 内 需 要 が 増 加 基 調 をたどるとともに 輸 出 も 新 興 国 経 済 が 減 速 した 状 態 から 脱 していくことなどを 背 景 に 緩 や かに 増 加 するとみられる このため わが 国 経 済 は 基 調 として 緩 やかに 拡 大 していくと 考 えられる 見 通 し 期 間 中 の 成 長 率 については 2017 年 4 月 に 予 定 される 消 費 税 率 引 き 上 げに 伴 う 駆 け 込 み 需 要 とその 反 動 による 振 れはあるとみられるが 基 2
調 として 潜 在 成 長 率 を 上 回 ると 予 想 される 5 見 通 しの 背 景 にある 前 提 は 以 下 のとおりである 第 1に 日 本 銀 行 が 2%の 物 価 安 定 の 目 標 の 実 現 を 目 指 し これ を 安 定 的 に 持 続 するために 必 要 な 時 点 まで マイナス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 を 継 続 するもとで 実 質 金 利 は 見 通 し 期 間 を 通 じてマイナスで 推 移 するなど 金 融 環 境 はきわめて 緩 和 した 状 態 が 続 き 景 気 に 対 し 刺 激 的 に 作 用 していくと 想 定 している 6 第 2に 海 外 経 済 については 幾 分 減 速 した 状 態 が 当 面 続 くとみられる が 先 進 国 が 堅 調 な 成 長 を 続 けるとともに その 好 影 響 が 波 及 し 新 興 国 も 減 速 した 状 態 から 脱 していくとみられることから 緩 やかに 成 長 率 を 高 め ていくと 予 想 している 第 3に 公 共 投 資 は 緩 やかな 減 少 傾 向 にあるが 先 行 きは 2016 年 度 予 算 の 早 期 執 行 の 影 響 などから 徐 々に 下 げ 止 まり 見 通 し 期 間 の 中 盤 以 降 は オリンピック 関 連 投 資 の 本 格 化 もあって 横 ばい 圏 内 の 動 きになると 想 定 している 第 4に 政 府 による 規 制 制 度 改 革 などの 成 長 戦 略 の 推 進 や そのもと での 女 性 や 高 齢 者 による 労 働 参 加 の 高 まり 企 業 による 生 産 性 向 上 に 向 け た 取 り 組 みと 内 外 需 要 の 掘 り 起 こしなどが 続 くとともに デフレからの 脱 却 が 着 実 に 進 んでいくにつれて 企 業 や 家 計 の 中 長 期 的 な 成 長 期 待 は 緩 やかに 高 まっていくと 想 定 している 以 上 を 前 提 に 見 通 し 期 間 の 景 気 展 開 をやや 詳 しく 述 べると 2016 年 度 については 輸 出 は 当 面 鈍 さが 残 るとみられるが その 後 は 新 興 国 経 5 わが 国 の 潜 在 成 長 率 を 一 定 の 手 法 で 推 計 すると このところ 0% 台 前 半 と 計 算 されるが 見 通 し 期 間 の 終 盤 にかけて 徐 々に 上 昇 していくと 見 込 まれる ただし 潜 在 成 長 率 は 推 計 手 法 や 今 後 蓄 積 されていくデータにも 左 右 される 性 格 のものであるため 相 当 の 幅 をもってみる 必 要 がある 6 各 政 策 委 員 は 既 に 決 定 した 政 策 を 前 提 として また 先 行 きの 政 策 運 営 については 市 場 の 織 り 込 みを 参 考 にして 見 通 しを 作 成 している 具 体 的 には 長 短 金 利 について 市 場 金 利 をもとにしつつ 展 望 レポートと 市 場 参 加 者 との 物 価 見 通 しの 違 いを 加 味 し 想 定 している 3
済 が 減 速 した 状 態 から 脱 していくことから 緩 やかな 増 加 に 向 かうと 考 え られる また 企 業 収 益 は 非 製 造 業 を 中 心 に 増 益 基 調 を 続 け 過 去 最 高 水 準 で 推 移 するとみられる そのもとで 設 備 投 資 は 金 融 緩 和 に 伴 う 実 質 金 利 の 一 段 の 低 下 効 果 もあって 増 加 基 調 を 続 けると 考 えられる 個 人 消 費 も 労 働 需 給 の 引 き 締 まりが 続 くなど 雇 用 所 得 環 境 が 着 実 に 改 善 し ていくことや エネルギー 価 格 下 落 による 実 質 所 得 の 押 し 上 げ 効 果 が 働 く ことなどから 緩 やかに 増 加 すると 予 想 される また 年 度 後 半 にかけて は 2017 年 4 月 に 予 定 される 消 費 税 率 引 き 上 げ 前 の 駆 け 込 み 需 要 が 国 内 民 間 需 要 を 押 し 上 げると 見 込 まれる 7 こうした 内 外 需 要 のもとで 成 長 率 は 潜 在 成 長 率 を 上 回 ると 予 想 される 2017 年 度 については 家 計 支 出 は 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 の 影 響 を 受 けるも のの 輸 出 が 海 外 経 済 の 成 長 などを 背 景 に 緩 やかな 増 加 を 続 けるととも に 設 備 投 資 も 緩 和 的 な 金 融 環 境 や 成 長 期 待 の 高 まり オリンピック 関 連 需 要 の 本 格 化 などを 受 けて 緩 やかな 増 加 基 調 を 維 持 すると 予 想 される こうしたもとで 成 長 率 は 潜 在 成 長 率 を 下 回 るものの 若 干 のプラスを 維 持 すると 予 想 される 2018 年 度 については 輸 出 が 緩 やかに 増 加 するとともに 国 内 民 間 需 要 も 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 の 影 響 が 剥 落 することもあって 増 加 すると 考 え られることから 成 長 率 は 再 び 潜 在 成 長 率 を 上 回 ると 予 想 される この 間 潜 在 成 長 率 については 見 通 し 期 間 を 通 じて 緩 やかな 上 昇 傾 向 をたどり 中 長 期 的 にみた 成 長 ペースを 押 し 上 げていくと 考 えられる 2017 年 度 までの 成 長 率 の 見 通 しを 従 来 の 見 通 しと 比 べると 海 外 経 済 の 減 速 に 伴 う 輸 出 の 下 振 れなどの 影 響 から 幾 分 下 振 れている 7 2 回 の 消 費 税 率 の 引 き 上 げが 年 度 毎 の 成 長 率 に 及 ぼす 影 響 について 2014 年 度 のGD P 統 計 の 確 報 化 などを 踏 まえて 改 めて 定 量 的 に 試 算 すると 2013 年 度 +0.8%ポイント 程 度 2014 年 度 -1.3%ポイント 程 度 2015 年 度 +0.0%ポイント 程 度 2016 年 度 +0.4% ポイント 程 度 2017 年 度 -0.6%ポイント 程 度 2018 年 度 +0.1%ポイント 程 度 となる ただし これらは その 時 々の 所 得 環 境 や 物 価 動 向 にも 左 右 されるなど 不 確 実 性 が 大 き く 相 当 の 幅 をもってみる 必 要 がある 4
(2) 物 価 情 勢 先 行 きの 物 価 を 展 望 すると 消 費 者 物 価 の 前 年 比 は エネルギー 価 格 下 落 の 影 響 から 当 面 0% 程 度 で 推 移 するとみられるが 物 価 の 基 調 は 着 実 に 高 まり 2%に 向 けて 上 昇 率 を 高 めていくと 考 えられる この 間 原 油 価 格 が 現 状 程 度 の 水 準 から 緩 やかに 上 昇 していくとの 前 提 にたてば エネ ルギー 価 格 の 寄 与 度 は 現 在 の-1% 強 から 次 第 に 剥 落 していくが 2017 年 度 の 初 めまではマイナス 寄 与 が 残 ると 試 算 される この 前 提 のもとでは 消 費 者 物 価 の 前 年 比 が 物 価 安 定 の 目 標 である2% 程 度 に 達 する 時 期 は 2017 年 度 中 になると 予 想 される 8 その 後 は 平 均 的 にみて 2% 程 度 で 推 移 すると 見 込 まれる 2017 年 度 までの 見 通 しを 従 来 の 見 通 しと 比 べると 成 長 率 の 下 振 れや 賃 金 上 昇 率 の 下 振 れなどにより 2016 年 度 について 下 振 れている こうした 見 通 しの 背 景 として 物 価 上 昇 率 を 規 定 する 主 たる 要 因 につい て 点 検 すると 第 1に 労 働 や 設 備 の 稼 働 状 況 を 表 すマクロ 的 な 需 給 バラ ンスは 新 興 国 経 済 の 減 速 を 背 景 に 製 造 業 の 設 備 稼 働 率 の 改 善 が 遅 れる 一 方 労 働 需 給 の 引 き 締 まりは 続 いており 全 体 として 横 這 い 圏 内 の 動 きと なっている 9 先 行 きは 失 業 率 が 緩 やかに 低 下 するなど 労 働 需 給 の 引 き 締 まりは 続 き そうしたもとで パート 時 給 をはじめとする 賃 金 への 上 昇 圧 力 は 強 まっていくとみられる 設 備 の 稼 働 率 も 輸 出 生 産 が 持 ち 直 し ていくに 伴 い 再 び 上 昇 していくと 考 えられる このため マクロ 的 な 需 給 バランスは 本 年 度 後 半 以 降 消 費 税 率 引 き 上 げに 伴 う 駆 け 込 み 需 要 に 8 2017 年 4 月 に 予 定 される 消 費 税 率 引 き 上 げが 物 価 に 及 ぼす 影 響 について 税 率 引 き 上 げが 課 税 品 目 にフル 転 嫁 されることを 前 提 に 機 械 的 に 試 算 すると 2017 年 度 の 消 費 者 物 価 の 前 年 比 は+1.0%ポイント 押 し 上 げられる 9 マクロ 的 な 需 給 バランスについては 1 潜 在 GDPを 推 計 のうえ 実 際 のGDPとの 乖 離 を 計 測 するアプローチと 2 生 産 要 素 ( 労 働 と 設 備 )の 稼 働 状 況 を 直 接 計 測 するア プローチがある 展 望 レポートにおけるマクロ 的 な 需 給 バランスの 計 測 は 従 来 から 後 者 のアプローチを 採 用 しているため GDP 成 長 率 の 変 化 と 需 給 バランスの 拡 大 縮 小 の 間 に1 対 1の 対 応 関 係 があるわけではない マクロ 的 な 需 給 バランスの 値 は 計 測 方 法 や 使 用 するデータによって 異 なり 得 るため 相 当 の 幅 をもってみる 必 要 がある 5
よる 振 れを 伴 いつつも 緩 やかにプラス 幅 を 拡 大 していくと 見 込 まれる すなわち 需 給 面 からみた 賃 金 と 物 価 の 上 昇 圧 力 は 着 実 に 強 まっていく と 予 想 される 第 2に 中 長 期 的 な 予 想 物 価 上 昇 率 については やや 長 い 目 でみれば 全 体 として 上 昇 しているとみられるが このところ 弱 含 んでいる すなわち 予 想 物 価 上 昇 率 に 関 するマーケット 関 連 指 標 やアンケート 調 査 結 果 は こ のところ 弱 含 んでいる 一 方 企 業 は 昨 年 度 以 降 エネルギー 価 格 の 下 落 から 総 合 ベースの 消 費 者 物 価 上 昇 率 が 低 迷 するなかにあっても 前 向 き な 価 格 設 定 スタンスを 維 持 しており 消 費 者 も 雇 用 所 得 環 境 の 改 善 な どを 受 けて 価 格 改 定 を 受 容 しているとみられる こうしたもとで 生 鮮 食 品 とエネルギーを 除 く 消 費 者 物 価 の 前 年 比 は 30 か 月 連 続 でプラスを 続 けており 最 近 では1%を 上 回 る 水 準 で 推 移 している この 間 今 年 の 労 使 間 の 賃 金 交 渉 においては 3 年 連 続 でベースアップが 実 現 する 見 込 みに あるものの 総 合 ベースの 物 価 上 昇 率 の 低 迷 などを 背 景 に 改 定 率 は 大 企 業 を 中 心 に 昨 年 を 幾 分 下 回 った 模 様 である もっとも 賞 与 などによる 収 益 の 還 元 が 行 われているほか 労 働 需 給 の 引 き 締 まりを 背 景 に 中 小 企 業 においても 賃 上 げの 動 きが 拡 がっている こうしたことを 踏 まえると 企 業 収 益 から 雇 用 者 所 得 への 波 及 は 維 持 されており 賃 金 の 上 昇 を 伴 いつ つ 物 価 上 昇 率 が 緩 やかに 高 まっていくというメカニズムは 着 実 に 作 用 し ていると 考 えられる ただし 企 業 収 益 が 過 去 最 高 水 準 で 推 移 しており 失 業 率 が3% 台 前 半 まで 低 下 していることとの 対 比 でみると これまでの ところ 賃 金 の 改 善 の 程 度 が 鈍 く 労 働 分 配 率 も 低 下 傾 向 を 続 けている 点 に は 留 意 する 必 要 がある 先 行 きについては 日 本 銀 行 が マイナス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 を 推 進 し 実 際 の 物 価 上 昇 率 が 高 まっていくもとで 中 長 期 的 な 予 想 物 価 上 昇 率 も 上 昇 傾 向 をたどり 物 価 安 定 の 目 標 である2% 程 度 に 向 けて 次 第 に 収 斂 していくとみられる こうしたもとで 企 業 の 価 格 賃 金 設 定 6
スタンスは 積 極 化 していくと 考 えられる 第 3に 輸 入 物 価 についてみると 原 油 価 格 をはじめとする 国 際 商 品 市 況 の 低 迷 が 輸 入 物 価 を 通 じた 消 費 者 物 価 の 下 押 し 圧 力 となる この 間 既 往 の 為 替 円 安 による 直 接 的 な 消 費 者 物 価 の 押 し 上 げ 効 果 は 次 第 に 減 衰 していくとみられるが マクロ 的 な 需 給 バランスの 改 善 や 予 想 物 価 上 昇 率 の 上 昇 を 通 じた 間 接 的 な 消 費 者 物 価 の 押 し 上 げ 効 果 は より 持 続 的 なもの と 考 えられる 3. 上 振 れ 要 因 下 振 れ 要 因 (1) 経 済 情 勢 上 記 の 中 心 的 な 経 済 の 見 通 しに 対 する 上 振 れ 下 振 れ 要 因 としては 第 1に 海 外 経 済 の 動 向 に 関 する 不 確 実 性 がある 中 国 をはじめとする 新 興 国 や 資 源 国 については 資 源 価 格 低 迷 の 影 響 もあって 不 透 明 感 が 強 い そうしたもとで 国 際 金 融 資 本 市 場 は 不 安 定 な 動 きが 続 いており 企 業 コン フィデンスなどに 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 については 引 き 続 き 留 意 する 必 要 が ある また 米 国 経 済 の 動 向 やそのもとでの 金 融 政 策 運 営 が 国 際 金 融 資 本 市 場 に 及 ぼす 影 響 欧 州 における 債 務 問 題 の 展 開 や 景 気 物 価 のモメンタ ム 地 政 学 的 リスクなどもリスク 要 因 として 挙 げられる 第 2は 2017 年 4 月 に 予 定 される 消 費 税 率 引 き 上 げの 影 響 である 駆 け 込 み 需 要 とその 反 動 の 影 響 や 実 質 所 得 減 少 の 影 響 は 消 費 者 マインドや 雇 用 所 得 環 境 物 価 の 動 向 によって 変 化 し 得 る 第 3に 企 業 や 家 計 の 中 長 期 的 な 成 長 期 待 は 規 制 制 度 改 革 の 今 後 の 展 開 や 企 業 部 門 におけるイノベーション 家 計 部 門 を 取 り 巻 く 雇 用 所 得 環 境 などによって 上 下 双 方 向 に 変 化 する 可 能 性 がある この 点 企 業 が 過 去 最 高 水 準 の 収 益 に 伴 う 潤 沢 なキャッシュフローをより 効 率 的 に 設 備 人 材 投 資 などに 活 用 していくことが 期 待 される 第 4に 財 政 の 中 長 期 的 な 持 続 可 能 性 に 対 する 信 認 が 低 下 するような 場 合 には 人 々の 将 来 不 安 の 強 まりや 経 済 実 態 から 乖 離 した 長 期 金 利 の 上 昇 7
などを 通 じて 経 済 の 下 振 れにつながる 惧 れがある 一 方 財 政 再 建 の 道 筋 に 対 する 信 認 が 高 まり 人 々の 将 来 不 安 が 軽 減 されれば 経 済 が 上 振 れ る 可 能 性 もある (2) 物 価 情 勢 上 述 のような 経 済 の 上 振 れ 下 振 れ 要 因 が 顕 在 化 した 場 合 物 価 にも 相 応 の 影 響 が 及 ぶとみられる それ 以 外 に 物 価 の 上 振 れ 下 振 れをもたらす 要 因 としては 第 1に 企 業 や 家 計 の 中 長 期 的 な 予 想 物 価 上 昇 率 の 動 向 が 挙 げられる 中 心 的 な 見 通 しでは 賃 金 の 上 昇 を 伴 いながら 実 際 の 物 価 上 昇 率 が 高 まっていくなかで 人 々の 予 想 物 価 上 昇 率 も 一 段 と 上 昇 し 物 価 安 定 の 目 標 である2% 程 度 に 向 けて 次 第 に 収 斂 していく 姿 を 想 定 して いるが エネルギー 価 格 の 低 迷 により 総 合 ベースでみた 消 費 者 物 価 の 前 年 比 が 高 まりにくい 状 況 が 長 引 くもとで 賃 金 や 予 想 物 価 の 上 昇 ペースに どのように 影 響 していくか 不 確 実 性 がある この 点 では 企 業 の 本 年 度 に おける 価 格 改 定 が 賃 金 の 動 向 も 受 けた 消 費 者 の 値 上 げに 対 するスタンス も 踏 まえつつ どのように 進 んでいくかが 重 要 である 第 2に マクロ 的 な 需 給 バランス とくに 労 働 需 給 の 動 向 がある 中 心 的 な 見 通 しでは 近 年 の 高 齢 者 や 女 性 による 労 働 参 加 の 高 まりや 最 近 みら れているパート 労 働 の 正 規 雇 用 化 が 労 働 供 給 を 下 支 えしていくことを 前 提 としているが この 点 を 巡 っては 上 下 双 方 向 の 不 確 実 性 がある 第 3に 物 価 上 昇 率 のマクロ 的 な 需 給 バランスに 対 する 感 応 度 が 挙 げら れる とくに 公 共 料 金 や 一 部 のサービス 価 格 家 賃 などは 依 然 鈍 い 動 きを 続 けており 先 行 きも 消 費 者 物 価 の 上 昇 率 の 高 まりを 抑 制 する 要 因 となる 可 能 性 がある 第 4に 原 油 価 格 といった 国 際 商 品 市 況 や 為 替 相 場 の 変 動 などに 伴 う 輸 入 物 価 の 動 向 や その 国 内 価 格 への 波 及 の 状 況 によっても 上 振 れ 下 振 れ 双 方 の 可 能 性 がある 8
4. 金 融 政 策 運 営 以 上 の 経 済 物 価 情 勢 について 物 価 安 定 の 目 標 のもとで 2つの 柱 による 点 検 を 行 い 先 行 きの 金 融 政 策 運 営 の 考 え 方 を 整 理 する 10 まず 第 1の 柱 すなわち 中 心 的 な 見 通 しについて 点 検 すると わが 国 経 済 は 2017 年 度 中 に2% 程 度 の 物 価 上 昇 率 を 実 現 し その 後 次 第 に こ れを 安 定 的 に 持 続 する 成 長 経 路 へと 移 行 していく 可 能 性 が 高 いと 判 断 され る 次 に 第 2の 柱 すなわち 金 融 政 策 運 営 の 観 点 から 重 視 すべきリスクに ついて 点 検 すると 中 心 的 な 経 済 の 見 通 しについては 海 外 経 済 の 動 向 を 中 心 に 下 振 れリスクが 大 きい 物 価 の 中 心 的 な 見 通 しについては 中 長 期 的 な 予 想 物 価 上 昇 率 の 動 向 などを 巡 って 不 確 実 性 は 大 きく 下 振 れリスク が 大 きい より 長 期 的 な 視 点 から 金 融 面 の 不 均 衡 について 点 検 すると 現 時 点 では 資 産 市 場 や 金 融 機 関 行 動 において 過 度 な 期 待 の 強 気 化 を 示 す 動 きは 観 察 されていないほか 低 金 利 に 伴 う 金 融 機 関 収 益 の 下 押 しによって 金 融 仲 介 が 停 滞 方 向 に 向 かうリスクについても 金 融 機 関 が 充 実 した 資 本 基 盤 を 備 え 前 向 きなリスクテイクを 継 続 していく 力 を 有 していることか ら 大 きくないと 判 断 している 11 もっとも 政 府 債 務 残 高 が 累 増 するな かで 金 融 機 関 の 国 債 保 有 残 高 は 全 体 として 減 少 傾 向 が 続 いているが なお 高 水 準 である 点 には 留 意 する 必 要 がある 金 融 政 策 運 営 については 2%の 物 価 安 定 の 目 標 の 実 現 を 目 指 し これを 安 定 的 に 持 続 するために 必 要 な 時 点 まで マイナス 金 利 付 き 量 的 質 的 金 融 緩 和 を 継 続 する 今 後 とも 経 済 物 価 のリスク 要 因 を 点 検 し 物 価 安 定 の 目 標 の 実 現 のために 必 要 な 場 合 には 量 質 金 利 の3つの 次 元 で 追 加 的 な 金 融 緩 和 措 置 を 講 じる 以 上 10 物 価 安 定 の 目 標 のもとでの2つの 柱 による 点 検 については 日 本 銀 行 金 融 政 策 運 営 の 枠 組 みのもとでの 物 価 安 定 の 目 標 について (2013 年 1 月 22 日 ) 参 照 11 詳 しくは 日 本 銀 行 金 融 システムレポート (2016 年 4 月 )を 参 照 9
( 参 考 ) 2015~2018 年 度 の 政 策 委 員 の 大 勢 見 通 し 対 前 年 度 比 % なお < > 内 は 政 策 委 員 見 通 しの 中 央 値 実 質 GDP 消 費 者 物 価 指 数 ( 除 く 生 鮮 食 品 ) 消 費 税 率 引 き 上 げの 影 響 を 除 くケース 2015 年 度 1 月 時 点 の 見 通 し +0.7~+0.7 <+0.7> +1.0~+1.3 <+1.1> 0.0 0.0~+0.2 <+0.1> 2016 年 度 1 月 時 点 の 見 通 し +0.8~+1.4 <+1.2> +1.0~+1.7 <+1.5> 0.0~+0.8 <+0.5> +0.2~+1.2 <+0.8> 2017 年 度 0.0~+0.3 <+0.1> +1.8~+3.0 <+2.7> +0.8~+2.0 <+1.7> 1 月 時 点 の 見 通 し +0.1~+0.5 <+0.3> +2.0~+3.1 <+2.8> +1.0~+2.1 <+1.8> 2018 年 度 +0.6~+1.2 <+1.0> +1.0~+2.1 <+1.9> ( 注 1) 大 勢 見 通 し は 各 政 策 委 員 が 最 も 蓋 然 性 の 高 いと 考 える 見 通 しの 数 値 について 最 大 値 と 最 小 値 を1 個 ずつ 除 いて 幅 で 示 したものであり その 幅 は 予 測 誤 差 など を 踏 まえた 見 通 しの 上 限 下 限 を 意 味 しない ( 注 2) 各 政 策 委 員 は 既 に 決 定 した 政 策 を 前 提 として また 先 行 きの 政 策 運 営 については 市 場 の 織 り 込 みを 参 考 にして 上 記 の 見 通 しを 作 成 している 具 体 的 には 長 短 金 利 について 市 場 金 利 をもとにしつつ 展 望 レポートと 市 場 参 加 者 との 物 価 見 通 しの 違 いを 加 味 して 想 定 している ( 注 3) 原 油 価 格 (ドバイ)については 1バレル 35 ドルを 出 発 点 に 見 通 し 期 間 の 終 盤 である 2018 年 度 にかけて 40 ドル 台 後 半 に 緩 やかに 上 昇 していくと 想 定 している そ の 場 合 の 消 費 者 物 価 ( 除 く 生 鮮 食 品 )の 前 年 比 に 対 するエネルギー 価 格 の 寄 与 度 は 2016 年 度 で-0.8%ポイント 程 度 と 試 算 される また 寄 与 度 は 2016 年 度 後 半 にマ イナス 幅 縮 小 に 転 じ 2017 年 央 に 概 ねゼロになると 試 算 される ( 注 4) 消 費 税 率 については 2017 年 4 月 に 10%に 引 き 上 げられること( 軽 減 税 率 につい ては 酒 類 と 外 食 を 除 く 飲 食 料 品 および 新 聞 に 適 用 されること)を 前 提 としているが 各 政 策 委 員 は 消 費 税 率 引 き 上 げの 直 接 的 な 影 響 を 除 いた 消 費 者 物 価 の 見 通 し 計 数 を 作 成 している 消 費 税 率 引 き 上 げの 直 接 的 な 影 響 を 含 む 2017 年 度 の 消 費 者 物 価 の 見 通 しは 税 率 引 き 上 げが 課 税 品 目 にフル 転 嫁 されることを 前 提 に 物 価 の 押 し 上 げ 寄 与 を 機 械 的 に 計 算 したうえで(+1.0%ポイント) これを 政 策 委 員 の 見 通 し 計 数 に 足 し 上 げたものである ( 注 5)2015 年 度 の 消 費 者 物 価 ( 除 く 生 鮮 食 品 )は 実 績 値 10
政 策 委 員 の 経 済 物 価 見 通 しとリスク 評 価 (1) 実 質 GDP ( 前 年 比 %) ( 前 年 比 %) 3.0 3.0 2.5 2.5 2.0 2.0 1.5 1.5 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 0.0-0.5-0.5-1.0-1.0-1.5-1.5 2010 2011 年 度 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 (2) 消 費 者 物 価 指 数 ( 除 く 生 鮮 食 品 ) ( 前 年 比 %) ( 前 年 比 %) 3.5 3.5 3.0 3.0 2.5 2.5 2.0 2.0 1.5 1.5 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 0.0-0.5-0.5-1.0-1.0 2010 2011 年 度 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 ( 注 1) 実 線 は 実 績 値 点 線 は 政 策 委 員 見 通 しの 中 央 値 を 示 す ( 注 2) は 各 政 策 委 員 が 最 も 蓋 然 性 が 高 いと 考 える 見 通 しの 数 値 を 示 すとともに その 形 状 で 各 政 策 委 員 が 考 えるリスクバランスを 示 している は リスクは 概 ね 上 下 にバランスしている は 上 振 れリスクが 大 きい は 下 振 れリスクが 大 きい と 各 政 策 委 員 が 考 えていることを 示 している ( 注 3) 消 費 者 物 価 指 数 ( 除 く 生 鮮 食 品 )は 消 費 税 率 引 き 上 げの 直 接 的 な 影 響 を 除 いたベース 11