2015 年 12 月 30 日 放 送 ESBL 産 生 菌 感 染 症 をどう 治 療 するか 国 立 国 際 医 療 研 究 センター 病 院 国 際 感 染 症 センター 長 大 曲 貴 夫 ESBL 産 生 菌 ESBL とは Extended-spectrumβ-lactamase の 略 であり この 酵 素 を 産 生 する 菌 を ESBL 産 生 菌 と 呼 びます ESBL はβ-ラクタマーゼを 分 類 する Ambler の 分 類 では,クラスA あるいはクラスDに 属 し Bush-Jacoby-Medeiros の 分 類 ではグループ2に 属 します 一 般 的 に ESBL は,ペニシリン 系 第 一 世 代 第 二 世 代 第 三 世 代 第 四 世 代 セフェム 系 薬 およびモノバクタム 系 薬 耐 性 に 関 係 し これらの 抗 菌 薬 を 分 解 する 酵 素 です ESBL を 産 生 しうるのは 主 に 腸 内 細 菌 科 のグラム 陰 性 桿 菌 具 体 的 には E. coli, Klebsiella, Proteus などです クラブラン 酸 などの 一 部 のβ-ラクタマーゼ 阻 害 剤 によって 阻 害 を 受 けるという 特 徴 も 有 しています ESBL 産 生 菌 ですが 従 来 は 医 療 関 連 感 染 の 原 因 菌 と 考 えられてきました しかし 過 去 10 年 間 に 日 本 の 医 療 機 関 で 検 出 される ESBL 産 生 菌 の 検 出 頻 度 が 急 速 に 高 まっていま す 一 般 医 療 機 関 等 での ESBL 産 生 菌 の 出 現 頻 度 を 推 し 量 るには 第 3 世 代 セファロス ポリン 耐 性 菌 の 出 現 頻 度 が 参 考 になります 厚 生 労 働 省 の 院 内 感 染 サーベイランスであ る JANIS の 統 計 によれば 第 3 世 代 セファロスポリン 耐 性 の 大 腸 菌 の 検 出 率 は 近 年 では 15% 前 後 まで 急 速 に 増 高 しています 多 くの ESBL 産 生 菌 は 第 3 世 代 セファロスポリン 耐 性 を 示 すため 第 3 世 代 セファロスポリン 耐 性 の 大 腸 菌 の 多 くは ESBL 産 生 菌 と 推 測 されます 院 内 だけでなく 市 中 でも 問 題 ESBL 産 生 菌 は 従 来 は 医 療 関 連 感 染 の 原 因 菌 として 問 題 となっていました 例 えば 2000 年 頃 には ESBL 産 生 Klebsiella Pneumonia による 院 内 感 染 の 報 告 などが 散 見 され
ます しかし 近 年 では 市 中 感 染 症 の 原 因 菌 としても 認 識 されるよ うになってきています 特 に 腎 盂 腎 炎 や 膀 胱 炎 などの 尿 路 感 染 で その 傾 向 が 顕 著 です これは 市 中 の 大 腸 菌 で ESBL 産 生 菌 が 増 加 し ており 腎 盂 腎 炎 や 膀 胱 炎 などの 尿 路 感 染 では 大 腸 菌 感 染 症 の 頻 度 が 高 いためと 考 えられていま す ESBL 産 生 菌 感 染 症 に 用 いる 抗 菌 薬 ESBL 産 生 菌 治 療 のレジメンとし て 過 去 より 良 く 用 いられており その 効 果 についての 知 見 が 最 も 多 く 蓄 積 しているのはカルバペネム 系 抗 菌 薬 です しかし 世 界 的 な 耐 性 菌 の 問 題 特 にカルバペネマー ゼ 産 生 菌 の 問 題 が 日 本 を 含 めた 各 国 で 徐 々に 大 きな 問 題 となるなかで カルバペネムのみに 依 存 することへの 反 省 も 生 ま れてきています 特 に 近 年 市 中 感 染 症 特 に 尿 路 感 染 症 で ESBL 産 生 大 腸 菌 による 感 染 症 の 問 題 が 顕 在 化 してからは このような 議 論 が 活 発 化 しています 過 去 には 大 腸 菌 以 外 の ESBL 産 生 菌 による 重 篤 な 感 染 症 が 主 に 院 内 で 問 題 となっており どうしてもカル バペネム 系 薬 を 使 用 せざるを 得 ない 状 況 でした しかし 近 年 では 大 腸 菌 による 尿 路 感 染 症 が 多 く これらの 多 くは 軽 症 から 中 等 症 で カルバペネム 系 抗 菌 薬 を 必 ずしも 使 わず とも 治 癒 することが 良 く 経 験 されています このような 事 例 を 経 験 するなかで 全 てカ ルバペネム 系 抗 菌 薬 を 用 いる 事 が 抗 菌 薬 適 正 使 用 医 療 資 源 の 適 正 使 用 の 観 点 から 適 切 かどうかについて 医 療 現 場 から 疑 問 が 生 じることは 当 然 なことです また 長 期 の 治 療 が 必 要 となった 場 合 に 現 実 的 には 内 服 薬 治 療 を 検 討 せねばならず それに 対 してどのよ うな 抗 菌 薬 を 選 択 すべきかなどの 課 題 もあります 抗 菌 薬 の 効 果 を 最 大 限 に 引 き 出 して 患 者 に 好 ましい 効 果 をもたらし 一 方 で 耐 性 菌 の 増 加 を 防 いで 有 用 な 治 療 レジメンをど
のように 確 保 していくか この 両 者 の 観 点 からの 検 討 が 必 要 です カルバペネム 系 抗 菌 薬 以 外 でESBL 産 生 菌 感 染 症 に 用 いる 抗 菌 薬 として は Piperacillin-tazobactam があ げられます 尿 路 感 染 症 大 腸 菌 感 染 症 患 者 を 中 心 とした 検 討 では 臨 床 的 効 果 はカルバペネムと 同 等 との 報 告 があります 一 方 で 免 疫 不 全 者 肺 炎 カテーテル 関 連 血 流 患 者 等 の ESBL 産 生 菌 感 染 症 患 者 を 対 象 とし た 場 合 カルバペネムと 比 較 し 死 亡 リスクが 高 いとの 報 告 もあります また Cefmetazole Flomoxef は 大 腸 菌 による 腎 盂 腎 炎 患 者 を 中 心 に 症 例 集 積 研 究 などでその 効 果 が 報 告 さ れてきています 更 なる 治 療 実 績 の 集 積 が 期 待 されているところです 内 服 薬 治 療 としては アモキシシリ ン クラブラン 酸 や ホスホマイシ ンの 使 用 が 挙 がります ホスホマイ シンの 効 果 は 欧 州 を 中 心 に 報 告 さ れていますが 日 本 で 用 いられてい るホスホマイシンと 欧 州 のそれで は 構 成 成 分 が 違 うことに 留 意 して おく 必 要 があります エンピリックセラピー ESBL 産 生 菌 感 染 症 のエンピリッ クセラピーの 選 択 の 場 合 に 検 討 す べきは 2 点 あります 第 一 には 当 該 患 者 の ESBL 産 生 菌 感 染 症 のリスク
です これらは 従 来 の 疫 学 的 検 討 結 果 によって 判 明 したリスク 因 子 を 元 に 当 該 患 者 がそのリスク 因 子 を 有 しているかどうかによってある 程 度 判 断 することが 出 来 ます 現 在 では 市 中 で 医 療 への 曝 露 がなくとも ESBL 産 生 菌 感 染 症 のリスクがあることはわかっ てきていますが これに 加 えて 最 近 の 抗 菌 薬 使 用 侵 襲 的 医 療 行 為 を 受 けた 最 近 の 入 院 歴 があるなどの 要 因 があるとリスクは 更 に 上 がり 入 院 中 で 過 去 に 抗 菌 薬 を 使 用 して いたり 集 中 治 療 室 に 入 ったなどしていれば 更 にリスクは 高 まることが 知 られています 第 二 に 検 討 すべきは 重 症 度 です 重 症 であれば 最 初 に 選 択 される 治 療 が ESBL 産 生 菌 を カバーしていない 場 合 に 治 療 不 良 の 原 因 となる 可 能 性 が 高 くなります よって 安 全 に 治 療 を 行 うために 重 症 の 状 況 で ESBL 産 生 菌 への 治 療 効 果 が 十 分 に 示 されている 薬 剤 を 元 に 治 療 を 行 います 中 等 症 - 軽 症 の 場 合 には 非 カルバペネム 系 抗 菌 薬 を 使 用 するば かりでなく 内 服 薬 などの 選 択 を 検 討 することが 必 要 です 実 際 のエンピリックセラピ ーの 選 択 は 両 者 の 兼 ね 合 いにて 決 まります エンピリックセラピーですが 尿 路 感 染 症 は 大 腸 菌 による 感 染 症 の 頻 度 が 高 く ESBL 産 生 菌 感 染 症 による 感 染 である 可 能 性 は 高 いです 治 療 については 前 にお 話 しましたよ うに 非 カルバペネム 系 抗 菌 薬 でも 治 療 可 能 なことが 分 かってきています また 同 じESBL 産 生 菌 感 染 症 でも 尿 路 感 染 症 は 他 臓 器 の 感 染 症 よりも 予 後 がよく 尿 路 感 染 であれば エンピリックセラピーが 不 適 合 でも 感 受 性 試 験 結 果 が 判 明 してから 適 切 な 治 療 を 行 え ば 予 後 は 変 わりません よって 尿 路 感 染 の 事 例 であれば もちろんカルバペネム 系 抗 菌 薬 でも 効 果 はありますが 抗 菌 薬 適 正 使 用 の 観 点 から 今 後 は 非 カルバペネム 系 抗 菌 薬 で ある Cefmetazole Flomoxef 等 を 使 用 していくことが 考 えられます また その 他 の 臓 器 感 染 で ESBL 産 生 菌 の 関 与 を 考 慮 すべきなのは やはり 院 内 で 発 生 する 感 染 症 の 場 合 でしょう この 場 合 は 院 内 での ESBL 産 生 菌 の 発 生 率 や 患 者 個 人 の 保 菌 状 態 から ESBL 産 生 菌 感 染 症 のリスクがあり 患 者 の 重 症 度 が 高 い 場 合 には ESBL 産 生 菌 感 染 症 に 対 する 適 切 な 治 療 開 始 の 遅 れによる 治 療 不 良 のリスクを 避 けるためにカルバペネム 抗 菌 薬 を 使 用 することは 考 えられるでしょう ただしこの 場 合 でも 検 出 された 原 因 微 生 物 の 種 類 とその 感 受 性 試 験 結 果 を 踏 まえて 可 能 な 際 には ESBL 産 生 菌 感 染 症 に 十 分 な 効 果 が 認 められ なおかつカルバペネム 系 抗 菌 薬 よりも 狭 域 の 抗 菌 薬 への 変 更 を 常 に 考 慮 すべきです definitive therapy ESBL 産 生 菌 感 染 症 の definitive therapy の 場 合 検 討 すべきは これまでに 検 討 され
た 臓 器 感 染 毎 での 各 薬 剤 での 治 療 成 績 と 重 症 度 です 尿 路 感 染 症 であれば Cefmetazole Flomoxef 等 の 使 用 が 考 えられます 内 服 薬 であれば 感 受 性 があればアモキシ シリン クラブラン 酸 の 使 用 が 考 えられ ます キノロン 系 の 抗 菌 薬 は 尿 路 感 染 症 の 治 療 では 有 効 性 が 高 いです ESBL 産 生 菌 感 染 症 であっても 原 因 菌 がキノロ ン 感 受 性 であれば 使 用 が 望 まれますが 実 際 には ESBL 産 生 菌 はキノロン 系 抗 菌 薬 に 耐 性 であることが 多 く 使 用 不 可 能 であることが 多 いです 尿 路 以 外 の 臓 器 の 感 染 症 では 一 般 に 患 者 背 景 は 複 雑 であり 感 染 は 重 篤 です 具 体 例 としては Klebsiella pneumonia による 肺 炎 等 が 挙 がります ESBL 産 生 菌 感 染 症 の 治 療 成 績 は 免 疫 不 全 者 で 不 良 であることもわかっています よっ て ESBL 産 生 菌 感 染 症 と 判 明 した 場 合 は 原 則 としてはカルバペネム 系 抗 菌 薬 にて 治 療 を 行 うのが 一 般 的 です もちろん 軽 症 である 場 合 や 患 者 の 状 態 が 落 ち 着 いて 内 服 薬 で の 治 療 を 検 討 できる 段 階 まできている 場 合 には 感 受 性 試 験 の 結 果 を 踏 まえて 感 受 性 を 有 する 薬 剤 への 変 更 を 検 討 して 良 いでしょうし 内 服 薬 であればアモキシシリン クラ ブラン 酸 等 への 変 更 を 検 討 して 良 いでしょう
1. Yagi T, Kurokawa H, Shibata N, Shibayama K, Arakawa Y. A preliminary survey of extended-spectrum beta-lactamases (ESBLs) in clinical isolates of Klebsiella pneumoniae and Escherichia coli in Japan. FEMS Microbiol Lett 2000;184:53-6. 2. Bell JM, Turnidge JD, Gales AC, Pfaller MA, Jones RN. Prevalence of extended spectrum beta-lactamase (ESBL)-producing clinical isolates in the Asia-Pacific region and South Africa: regional results from SENTRY Antimicrobial Surveillance Program (1998-99). Diagn Microbiol Infect Dis 2002;42:193-8. 3. Ishii Y, Alba J, Kimura S, Shiroto K, Yamaguchi K. Evaluation of antimicrobial activity of beta-lactam antibiotics using Etest against clinical isolates from 60 medical centres in Japan. Int J Antimicrob Agents 2005;25:296-301. 4. Paterson DL, Ko WC, Von Gottberg A, et al. Outcome of cephalosporin treatment for serious infections due to apparently susceptible organisms producing extended-spectrum beta-lactamases: implications for the clinical microbiology laboratory. J Clin Microbiol 2001;39:2206-12.