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3-1. 新学習指導要領実施後の変化 新学習指導要領の実施により で言語活動が増加 新学習指導要領の実施によるでの教育活動の変化についてたずねた 新学習指導要領で提唱されている活動の中でも 増えた ( かなり増えた + 少し増えた ) との回答が最も多かったのは 言語活動 の 64.8% であった


図表 2-1から 最も多い回答は 子どもが望む職業についてほしい (9%) であり 以下 職業に役立つ何らかの資格を取ってほしい (82.7%) 安定した職業についてほしい (82.3%) と続いていることが分かる これらの結果から 親が自分の子どもの職業に望むこととして 最も一般的な感じ方は何より

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領域別正答率 Zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz んんんんんんんんんんんんん 小学校 中学校ともに 国語 A B 算数( 数学 )A B のほとんどの領域において 奈良県 全国を上回っています 小学校国語 書く B において 奈良県 全国を大きく上回っています しかし 質問紙調査では 自分

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( ウ ) 年齢別 年齢が高くなるほど 十分に反映されている まあまあ反映されている の割合が高くなる傾向があり 2 0 歳代 では 十分に反映されている まあまあ反映されている の合計が17.3% ですが 70 歳以上 では40.6% となっています

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4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

2) 親子関係 家族との生活に満足している について と の調査と比較した 図 12-2 に 示しているように の割合は 4 かとも増加傾向が見られた 日 本 米 中

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スライド 1

回答結果については 回答校 36 校の過去 3 年間の卒業生に占める大学 短大進学者率 現役 浪人含む 及び就職希望者率の平均値をもとに 進学校 中堅校 就職多数校 それぞれ 12 校ずつに分類し 全体の結果とともにまとめた ここでは 生徒対象質問紙のうち 授業外の学習時間 に関連する回答結果のみ掲


日本のプロ野球に対する関心を示した表 3.1 および図 3.1 をみると スポーツニュース で見る (52.9) に対する回答が最く テレビで観戦する (39.0) 新聞で結果を確 認する (32.8) がこれに続く また 特に何もしていない (30.8) も目立った 2) 性別とのクロス集計の結果

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

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資料3 高校生を取り巻く状況について

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また 図 2-1から 志望校決定率 1 と 志望校決定率 2 に平成 6 年以降開きがあること 図 2-2から 9 月の業者テスト申込率 と 志望校決定率 2 に正の相関があること さらに 図 2-3から 全日制高校卒業率 と 全日制志望校未決定率 ( 志望校決定率 2 から 志望校決定率 1 を減

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Taro-自立活動とは

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Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) Title Sub Title Author Publisher 青少年の学校制服に関する意識 : 大学生を対象とした質問紙調査をもとに The consideration about consciousness to school uniform in youth people : based on questionnaire research for college student 小澤, 昌之 (Ozawa, Masayuki) 慶應義塾大学大学院社会学研究科 Publication year 2010 Jtitle 慶応義塾大学大学院社会学研究科紀要 : 社会学心理学教育学 : 人間と社会の探究 (Studies in sociology, psychology and education : inquiries into humans and societies). No.69 (2010. ),p.35-49 JaLC DOI Abstract Notes 論文 Genre Departmental Bulletin Paper URL https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=an000 6957X-00000069-0035 慶應義塾大学学術情報リポジトリ (KOARA) に掲載されているコンテンツの著作権は それぞれの著作者 学会または出版社 / 発行者に帰属し その権利は著作権法によって保護されています 引用にあたっては 著作権法を遵守してご利用ください The copyrights of content available on the KeiO Associated Repository of Academic resources (KOARA) belong to the respective authors, academic societies, or publishers/issuers, and these rights are protected by the Japanese Copyright Act. When quoting the content, please follow the Japanese copyright act.

青少年の学校制服に関する意識 大学生を対象とした質問紙調査をもとに The Consideration about Consciousness to School Uniform in Youth People Based on Questionnaire Research for College Student * 小澤昌之 Masayuki Ozawa Recently, school uniform (seifuku) is likely to be popular with young people because it is supposed to accept the fashion trend and student s idea in manufacturing process. This article considers about the significance of putting on school uniform, while tracing to the historical change in school uniform. According to the analysis result of the survey data, the student who was designated in school uniform by the school regulation (so-called seifuku shitei-ko) had a positive tendency in the commitment to the school. And there was a gender difference about wearing school uniform (male student: study achievement, female student: the satisfaction to school). As for the factor to wearing school uniform, instance for general course and private school, the seifuku shitei-ko s student had a tendency to positive effect for wearing school uniform. However, the higher student had come from social stratification (ex. the parents education years etc.), the more passive there had tended to wear school uniform. Therefore, there might influence the positive effect with student s preference and acceptance of school side in wearing school uniform. 1. 問題の所在 2000 年代以降, 学校で着用する制服である 標準服 は多様化し, 制服の着用やパーツの着こなしを自由化させた学校が増加する一方で, 制服そっくりの私服を購入したり, 他の学校の制服を入手して着用したりする なんちゃって制服 が高校生の間で男女問わず流行している 現在では, 制服のデザインやリニューアルの有無が, 受験者数や偏差値を左右する事態となっている しかし山田 (2003) は現在では制服の身体管理機能を重視する 制服 = 管理 図式は崩壊を迎え, 制服によって生徒を管理できなくなったと指摘する その背景として山田は, 第 1に現代社会が経済的に豊かになった反面, 匿名性が高く他者に無関心となったこと ( 逸脱的行動の許容 ), 第 2に家族内の良好な関係や学校経営の維 * 社会学研究科社会学専攻後期博士課程 ( 教育社会学 )

36 社会学研究科紀要第 69 号 2010 持のために管理を弾力化させた結果, 学校や親の地位が低下したことを挙げている そこで学校制服の自由化が許容された文化的要因について検討すると, 第 1に逸脱文化の許容と生徒自身の反動形成プロセスの減退が考えられる 制服のブランド化が進む 1980 年代前半ごろまで, 長いスカートや学生服などの制服の改造は, 学校の押し付けるスタイルや 生徒らしさ への反抗であると同時に, 学校外におけるメディアや消費空間での流行とは乖離した 異装 であった ( 伊藤 2002: 91) ところが1990 年代になると, 制服の着用を巡る意味づけは一変する 1980 年代における学校経営の重要な課題は, 逸脱や非行の解消であった 学校は80 年代から90 年代にかけて, 管理的な教育の廃止や, 生徒の個性や自主性を尊重する 居心地の良い学校 の構築を通して, 非行問題を減少させた一方, 学校の持つ社会化機能の低下をもたらした ( 大多和 2000) 第 2の要因としては, 少子化による学校経営側の戦略が挙げられる 1980 年代中盤から一部の女子校は, 第 2 次ベビーブーム期の子どもが中高生となる1990 年代前半を見越して, 婦人服メーカーと提携した大手制服メーカーは本格的に女子制服市場に参入し, 従来のセーラー服からスーツやブレザーに切り替えるモデルチェンジ ( 以下 MCと略す ) などを通して, 学校や保護者の声に配慮して制服 = 学校イメージを定着させることに成功した その後制服のMCは公立校にも広がったが, このころから制服は経済性 安全性といった従来の機能だけでなく, ファッション= 消費の対象として注目されるようになった ( 松田 2005b: 333 341) つまり, 1990 年代の前後に制服人気が高まった背景には, 大手制服市場による相次ぐ女子制服市場の参入と学校側によるMCにより, 着用できる制服の選択肢が増え, 男女ともおしゃれな制服を着ることが許容 重視されるようになった結果, 制服が中学 高校生でいられる 期間限定感 ( 酒井 2002) を体現できるツールとして注目されたことが考えられる 本稿では, 学校制服のファッション化の過程やその役割変化をめぐる歴史的変遷をたどりながら, 青少年の制服に対する意識や着用の実態を検討する また本稿では, 制服に対する意識と社会階層や学校生活など, 制服着用の規定が想定される要因との関連性を分析し, 制服着用の積極性 / 消極性を促進 ( ないし抑制 ) する文化的背景を考察する 2. 学校制服の着用意識の変化を巡る文化的背景 2.1 学校における制服の役割 ( 明治期 ~ 戦前まで ) 本節では, 学校制服における役割の変遷を考察する 制服における役割の変遷には, 制服が持つ身体管理機能の有効性と, 制服のファッション性が重視される過程とが相互に影響を及ぼすため, 制服の MCが進展する1980 年代までの両者の関連性を検討する 日本で最初に学校制服が制定されたのは,1879 年に学習院における男子の海軍士官型の洋装制服が起源とされる その後 1886 年の帝国大学において自費支弁による制服が制定されてから, 昭和初期までに小学校から大学に至るまで制服の着用が普及した ( 難波 2007) だが中等教育段階の制服の製作者は, 男子が通う中学校は当初から既製服メーカーであったのに対し, 高等女学校は明治期から大正末は家庭裁縫教育の一環として着用者本人が製作する場合が多かった その後大正末期に女子制服は, 職業婦人の増加や, 関東大震災時における世論からの和装制服の非活動性や装飾性に対する批判を契機に, 1930 年代までに洋服製作業者による洋装制服が全国の女子師範学校 高等女学校に浸透した 1) 学校制服の普及過程に違いが現れた背景には, 政府は 文明開化 や権威の象徴として男子に洋装制服の着用を認めた一方, 女子は一部を除いて 教場向不都合 という理由で和装 ( 袴 ) を制服として制

青少年の学校制服に関する意識 37 定したことが挙げられる ( 佐藤 1975) ただ片瀬(2003) は, 明治 30 年代から女子の制服として, 御所風 に近く庶民風でない海老茶袴が普及した過程に関して, 生徒本人がおしゃれや自由の象徴として進んで着用していたことを指摘した したがって戦前期までの制服は国家統制によるジェンダー形成が行われた一方, 女子生徒の制服は制約を受けながらも, 現代の制服おしゃれ志向に通底するような, 身体管理機能と おしゃれ を追求する差異化ツールという両義性が影響を及ぼしていたといえる 2.2 制服のブランド化現象とその現状 ( 戦後 ~ 現在 ) 本節では, 戦後から現代に至る系譜をたどりながら, 学校における制服の役割の変遷を考察する ( 表 1) 戦後以降の制服は, 公立校を中心に旧制中学校や高等女学校時代の制服を復活させた学校が多い一方, 一部の私立校の中には生徒の希望で業者のデザインを行ったところがあったが, 後に制服を校則の規定の下に学校と密接に関係づける流れが広まった ( 山口 2007) ところが1970 年代中盤に高校進学率が90% に到達すると, 学校に在籍する期間が増加する 大衆教育社会 ( 苅谷 1995) が到来し, 学校への適応類型として 向学校 / 反 ( 脱 ) 学校 という生徒文化の分化 ( 耳塚 1980) が進んだ 2) 偏差値で輪切りされた 学校格差体制 の中で, 上位校や成績の良い生徒たちの中には向学校的で学校の期待に沿った文化が, 下位校や成績の優れない生徒たちの中には, 反学校的で遊びや逸脱を志向する文化が形成された ( 伊藤 2002) その一方で,1970 年代初頭に収束した学生運動が中学 高校に広がり, 生徒指導や校則に基づく管理の対象となった制服の着用を拒否し, 私服での通学を学校側に要求する制服自由化運動 3) が起こった 長いスカートや学生服のように, 反学校的なベクトルを志向した ツッパリ ファッションと制服自由化運動は, 学校に対する姿勢や制服への親和性, 当事者の制服観等の観点で異なるが, 生徒文化の分化の中で伝統的な制服観に対する抵抗が関係づけられたと考えられる ただ,1980 年代後半にある私立女子校が,DCブランド 4) によるMCを行い, その学校の偏差値が急激に上昇してからは, 制服の見た目で学校の威信や偏差値が左右される傾向が表れるようになった 制服のMCが急激に広まった背景には, 既製服メーカーが少子化による私立校の受験者確保策として, 1980 年代に企業が導入したCI(Corporate Identity) にヒントを得て, 学校側にSI(School Identity) の提唱を行ったことや, 校内暴力対策として制服の変形を防止させることが考えられる ( 松田 2005a) メーカーは, 学校がイメージや特色を受験生に鮮明に印象づけるための統一戦略 ( 仲川 1990: 27) であるSIを学校側に紹介し, 知名度やレベルに関係なく, 学校の個別事情に即したPR 戦略を促進した 学校制服の市場においてファッション性が取り入れられ, 制服のブランド化が進んだ要因には, 次の 表 1 学校制服の変遷 ( 戦後 ~ 現在 ) 年 ~ 1970 年代前半 70 年代後半 ~ 80 年代半ば 1988 年以降現在 社会 都市化 ----------- 産業化 --------------- 消費化 ------------------- 情報化 -------------- 高度情報化 学校 学校制度の整備 校内暴力対策 多様化 学校 5 日制 文化的側面 学校文化 反学校文化 若者文化化 若者文化 制服の作用 統一 個性 ( 統一 / 抵抗 ) 差異化 多様化 ( 出典 ) 山口 (2007: 63) をもとに筆者が一部修正.

38 社会学研究科紀要第 69 号 2010 3 点が考えられる 第 1は, 制服市場におけるマクロの変化である 1970 年代ごろに, 既に婦人既製服市場は飽和状態となっていたが, 第 2 次ベビーブームに生まれた子どもが中高生となる1990 年代前半を見据え, 既製婦人服メーカーは全国に展開する大手男子詰襟服メーカーと提携し女子の制服市場に参入した その後各メーカーはシェア争いを加速化させ, デザインやサービスをめぐる差別化を勢いづかせた ( 松田 2005a) 第 2の要因は女らしさへの対応 ( 仲川 1990; 2002) である MCにより新しい制服を導入した学校に女子の制服が多いのは, 社会における情報伝達速度が高まる中で, 服装の流行が人間関係の親密度を決定するだけでなく, 女性は男性と服装によって要求される情報が異なる ( 江原 1985) ことも関係している また私服感覚の流行に沿ったものであれば, 一部の制服に見られる丈長改造に走る要素が減少するだろうという学校側の期待が大きい 第 3の要因は, 生徒文化を取り巻く状況の変化である 1990 年代前後に学校や教育行政側が推進した個性化教育により, 学校は生徒を管理する場から尊重する場となり, 誰もがそこそこ学校に適応し, 反学校 的行動は単なる嗜好の一つとして遍在化していった ( 大多和 2000: 207) その中で学業成績や進路に反映された生徒文化の分化は曖昧なものとなり, 進学校らしいスタイルや, 目立った不良的スタイルは消え失せ, どんな学校でも同じような流行のスタイルが席巻するようになったことに象徴的に現れている ( 伊藤 2002) 制服のブランド化は総じて, 制服が他の消費財と同様に消費の対象となったことで, 他者との差異化を重視する若者文化の側面 ( 山口 2007) が反映されたことを意味する 同時に制服が, 流行の中心的存在としての記号を身につけるアイテム ( 大多和 2008) となったことは, 学校が生徒指導や校則を根拠に管理してきた制服の意義が自由化され, 匿名的な都市空間に適応するための没個性の道具 ( 中村 2004) へと変貌したと考えられる 2.3 分析枠組本節では前節までの学校制服をめぐる文化的背景を踏まえた上で, 制服を着る意味の態様を検討するための視点を提示する 第 1の課題は, 現状における制服の着用実態の把握である 制服着用意識の研究に関しては, 質的 量的調査を用いた研究が蓄積しており, 制服の着用の仕方や外見により 向学校 / 反学校 のグループ分けを行うことを指摘した宮崎 (1993), 学校制服の着用とギャル系雑誌の購読に相関関係があることを指摘した佐藤 (2002), 制服に対し積極的な関心を抱く傾向は着崩しなどのファッション追求に必ずしもつながらず, 制服以外の情報による影響を指摘した松田 (2005a, 2005b) などがある 先行研究では個性化教育や制服のブランド化が進んだ1990 年代前後を機に, 制服の着こなしや流行へのキャッチアップ状況が, 生徒集団における優越性を確保する差異化要素として機能することを明らかにした ただ, 授業に対する捉え方や生徒たちの学校生活感を反映させた分析に関しては, 質的調査を中心に蓄積しているが, 制服のファッション化が進展し, 制服の着用の仕方や位置づけが多様化した2000 年代以降の先行研究は少なく, 学校生活での実態との関連性を分析することに価値があると考えられる 第 1の課題では, 制服着用と学校生活の意識項目をもとに, 生徒文化の態様と制服着用との関連性について検討する 具体的には, 学校制服の情報が, 学校充実感や学習観, 脱学校志向等の学校生活の関係項目に与える影響を分析する 第 2の課題は制服着用を規定する要因である 女子高校生への聞き取りと質問紙調査を行った上間

青少年の学校制服に関する意識 39 (2002) によれば, コギャル文化の獲得に内在する階層的差異 5) は, 生徒集団内部のポジション取りに影響を与える一方で, 学校制服は階層に関係なく否定的な過去を帳消しにし, 性的成熟をアピールするアイテムとして機能することに言及した 一方高校生の生徒集団の文化や教育達成に関連する先行研究によれば, 逸脱文化形成のプロセスにおいて階層要因の影響力が弱まる一方, 学習行動への階層要因が強まったことを指摘した大多和 (2000) や, 学歴社会イメージの進学への動機づけや学校タイプ 学業適応の対応関係が弱まり, 大学進学への希望の有無が学校適応に影響することを示した研究 ( 荒牧 2001; 阿部 2008) などがある 高校生に対する質的 量的調査において, 個性化教育による居心地の良い学校の構築が推進された1990 年代以降, 制服指定の有無に関係なく制服着用を肯定する知見が多い 一方で学校制服の着用がもたらす効果について実証的に分析した研究は乏しく, 校則 生徒管理指導の縮減 緩和 反学校 逸脱文化の限定的許容 学校適応 制服に対する肯定的評価の増加 ( 大多和 2008; 伊藤 2002) という図式のように, 教育政策の動向や生徒文化に関する先行研究の知見から学校制服の着用実態を記述する研究が多い そこで第 2の課題では, 学校制服の着用を規定する要因に関して, 先行研究で指摘された学校生活や社会化のエージェント ( 教師 家族 友人など ) だけでなく, 学校適応と関連する社会階層や進路選択過程などの進路形成要因も含めて検討を行い, 制服着用と階層的差異の関係や進路選択に与える影響について詳細に分析する 上述の課題に取り組むことは, 近年では制服のMCに学校や保護者の教育方針が反映される ( 三田村 2008) 中で, 制服の着用による連帯感や帰属意識などの機能が, 高校生の学校生活の意識や学業 地位達成に及ぼす影響を測定するのに意義があると考えられる 3. 調査概要とデータ 3.1 調査の概要本稿で用いるデータは, 慶應義塾大学 YES 研究会 ( 研究代表者 : 慶應義塾大学文学部教授渡辺秀樹 ) が,2008 年 10 月 ~ 2009 年 1 月にかけて実施した 第 5 回教育に関する社会意識調査 である 本調査は, 首都圏内の10 校 ( 国立 3 校, 私立 7 校 ) の大学生を対象に, 授業時間の一部を利用して調査を実施したものである 本稿では大学生に質問紙調査を行った松田 (2005) 等の趣旨に沿い, 高校卒業後間もない学生の高校時代における制服着用実態を分析する観点から, 高校卒業後一定年数を経過した学生 (25 歳以上 ) を除いた1100 名を対象として用いる 大学や偏差値等の構成は表 1の通りである 6) 3.2 基本データの集計結果本節では, 高校時代の制服着用実態に関する結果について整理する 最初に学校での制服の指定については, 制服のある学校出身者は86.1%( うち制服の指定があるが着用の義務がない出身者 ( 制服選択校 ) は7.4%), 制服のない学校出身者は13.3% であった 次に, 性別と学校制服に関係する項目との間でc 2 検定を行った結果 ( 表 2) によれば,2 制服ファッション通学 と4 制服おしゃれの気遣い,5 制服 = 高校選択基準 に有意差があり, 回答傾向に男女差が見られた 制服校出身者が回答できる1の高校時代に着ていた制服が好きかどうか尋ねた項目に関しては, 男女ともに6 割以上が肯定した 一方, 制服選択校および自由服校出身者が回答できる2の制服らしい衣装で通学していたかどうか尋ねた項目に関しては, 女子は過半数が肯定したものの男子は3 割台に留まった それでも, 女子は制服校 自由服校とも制服着用を肯定する意見が見られたこと

40 社会学研究科紀要第 69 号 2010 表 1 調査対象 本部所在地 設置形態 偏差値 男子 女子 A 大学 東京都 私立 47 24 91 B 大学 東京都 私立 63 19 52 C 大学 神奈川県 私立 50 73 35 D 大学 東京都 私立 66 34 29 E 大学 東京都 私立 45 37 24 F 大学 東京都 私立 52 21 51 G 大学 東京都 国立 60 159 111 H 大学 東京都 私立 59 112 61 I 大学 埼玉県 国立 56 30 36 J 大学 東京都 国立 69 64 35 表 2 制服の着用実態に関する項目 男子 女子 肯定否定肯定否定 回答総数 検定 1 高校時代に着ていた制服は好きだった 69.7 30.3 63.6 36.4 864 + 2 制服のようなファッションで登校することが多かった 35.8 64.2 52.7 47.3 205 * 3 学校で制服を指定することは必要だと思う 65.0 35.0 65.3 34.7 1036 4 制服をおしゃれに着こなすよう工夫していた 36.5 63.5 60.2 39.8 1030 *** 5 受験した高校を選ぶ際に制服を考慮した 8.1 91.9 24.4 75.6 1035 *** ( 注 )1 単位 : 肯定 否定は男女別に %, 回答総数は名 肯定 : どちらかといえばそう思う と そう思う の合計 否定 : どちらかといえばそう思わない + そう思わない の合計 2 検定 : *** p<0.001,** p<0.01,* p<0.05,+ p<0.1 3 制服がある学校出身者は 1, 制服がないまたは制服の着用義務がない学校出身者は 2 を回答した は, 単に学校に着ていく服は 制服でいい という消極的な意見だけでなく, 制服のブランド化や なんちゃって 制服の流行を受け, 制服を着ることの付加価値を積極的に肯定していると推測される 次に共通回答項目を検討すると,3の学校での制服着用指定の是非は男女とも65% 以上が肯定し, なおかつ項目間に有意差が見られなかったことは, 男女に関係なく, 制服の着用指定を容認する流れが現れたと考えられる 4の制服おしゃれの気遣いと5の制服 = 高校選択基準に関しては, 男子よりも女子の方が肯定的な回答が多い上,4に関しては女子の回答が6 割以上に達した 制服 = 高校選択基準に関

青少年の学校制服に関する意識 41 して男女とも過半数に達していない結果は, 松田 (2005a) が指摘するように, 受験校の選択には, 偏差値や成績などの情報が大きな影響を及ぼしている可能性が考えられる ただ,4や5が男子より女子の方が肯定的な意見が多かったことは, 前述の制服着用の是非と関連して, 現代の女子高校生は, かわいらしさ を表示し, 女のジェンダーを演出する記号として制服を消費し ( 片瀬 2003: 75), 他者を意識し自己表現やコミュニケーション手段として制服を着こなすと考えられる ( 羽賀 渋谷 2006: 99) 制服の着用意識に関する項目に関しては, 男女とも7 割近くが高校での制服着用を肯定しており, 制服を必要だと回答した一方, 制服のブランド化やファッション志向による影響で, 男子より女子の方が制服でのおしゃれを考慮することが判明した 本稿の結果を参照すれば, 男子 = 制服着用に関心はない, 女子 = 制服の着こなしに注目する, という二項図式が導き出されそうだが, 逆説的に捉えれば, 80 年代以前の管理教育における厳格な服装指導とは一線を画し, 男女の性別や地方 都市の違いに関係なくとも, 制服の着用規定を自由化ないし弾力化した高校がかなりの割合で増加したことが推測される 4. 分析結果 4.1 制服の着用実態と高校時代の生活意識本節では, 生徒文化の態様と制服着用との関連性について検討する 前節では, 制服校 自由服校とも概ね制服着用に関して肯定的な回答が多かったが, 具体的に学校生活の場面で, 制服着用に対する考え方がもたらす影響に関して詳細に分析した研究は少ない 本節では, 制服着用の意識項目のうち, 学校での制服指定 制服おしゃれの気遣い 制服 = 高校選択基準 の共通回答項目と学校生活の意識項目との関連性に関してt 検定を行う 表 3は前述の各項目について男女別にt 検定を行ったもので, 制服項目の肯定 否定の差異で各項目の平均値に大きな差はなかったが, 制服関係項目の違いにより学校生活項目の回答傾向にばらつきが見られた 統計的に有意な項目のみ平均値に注目すると, 学校での制服指定 は, 男女共通して有意であったものは怠学志向 (B) と教師への敬意 (G) で, 男子の場合は成績期待 (E), 授業知識の有用性 (H), 回答重視 (I), 女子の場合は授業充実感 (A) に有意性が認められた 制服おしゃれの気遣い に関しては, 女子のみ授業充実感 (A) と教師への敬意 (D) が有意であったものの, 男子に有意差が見られなかった また 制服 = 高校選択基準 に関しては, どの項目にも有意差が見られなかった 回答結果について集約すると, 学校での制服指定 については, 男女とも制服を必要だと考える学校の生徒は, 授業や学校をサボることに否定的で, 教師を尊敬する傾向を示した また制服指定を肯定する男子生徒は, 周囲の期待を含めた学業達成に対して積極的となる一方, 同様に制服指定を肯定する女子生徒は学校での充実感が高い傾向を示した 制服おしゃれの気遣い については, 制服のおしゃれに否定的な女子生徒ほど, 授業の充実や教師への敬意を肯定する傾向が見られた 一方男子生徒はおしゃれへの関心に有意差が見られず, おしゃれへの関心の有無は学校へのコミットメントに影響を与えなかった 制服 = 高校選択基準 については, 受験校を選ぶ際に制服を重視するかどうかは, 男女とも有意差が見られなかったので, 先行研究である松田 (2005a) の結果と一致した 上記の結果を踏まえた上で学校生活と制服の着用意識との関連性について考察すると, 次の3 点に集約できる 第 1に 学校での制服指定 の場合は, 制服着用を必要とする生徒ほど学校へのコミットメントに積極的な傾向を示した一方, 男子生徒の場合は学業達成, 女子生徒の場合は学校充実感というよ

42 社会学研究科紀要第 69 号 2010 表 3 制服の着用実態と学校生活の関連性 (t 検定 ) A 授業に充実感があった B 授業をさぼったり, 学校を休みたくなることがあった C 他の学校へ転校したいと思うことがあった D 学校の中にいるよりも, 学校の外での生活の方が楽しい E 成績や進路について, 親や教師の期待を重く感じた F クラスの先生とは, 普段気軽に話ができる関係だった G 一般的には, 先生には敬意を払うべきだと考えていた H 授業で得た知識は将来役に立つと思っている I テストでは途中の考え方より, 答えが気になっていた J テストや成績が良ければ, 友人から尊敬されると思っていた 3 制服指定の必要性 t 値 4 制服おしゃれの気遣い t 値 5 制服 = 高校選択の基準 肯定否定肯定否定肯定否定 男子 2.78 2.63 21.629 2.69 2.75.709 2.91 2.72 21.450 女子 3.07 2.88 22.573* 2.93 3.11 2.645** 2.92 3.02 1.286 男子 2.13 2.37 2.366* 2.26 2.19 2.731 2.20 2.21.035 女子 2.08 2.35 2.614** 2.25 2.05 21.963+ 2.22 2.16 2.531 男子 1.43 1.54 1.245 1.48 1.47 2.042 1.57 1.46 2.721 女子 1.40 1.54 1.632 1.45 1.44 2.181 1.53 1.42 21.112 男子 1.97 1.86 21.267 1.99 1.90 21.142 1.89 1.93.301 女子 1.74 1.89 1.740+ 1.82 1.75 2.841 1.81 1.79 2.173 男子 2.07 1.85 22.407* 1.99 1.99 2.103 2.20 1.97 21.460 女子 2.03 1.97 -.630 2.00 2.03.326 2.07 1.99 2.741 男子 3.12 3.12 2.098 3.13 3.10 2.291 3.27 3.10 21.148 女子 3.03 2.98 2.505 3.05 2.92 21.403 3.06 2.98 2.700 男子 3.36 3.07 24.033*** 3.18 3.29 1.529 3.05 3.27 1.706+ 女子 3.29 3.08 22.970** 3.13 3.33 3.008** 3.25 3.20 2.678 男子 2.86 2.66 22.443* 2.81 2.77 2.494 2.70 2.80.661 女子 2.85 2.81 2.479 2.80 2.89 1.169 2.76 2.85 1.134 男子 2.74 2.49 22.769** 2.73 2.61 21.363 2.77 2.64 2.861 女子 2.71 2.71.028 2.75 2.66 21.008 2.73 2.71.190 男子 2.06 1.94 21.423 2.12 1.97 21.762+ 2.25 2.00 21.645 女子 2.14 1.98 21.842+ 2.05 2.11.713 2.13 2.06 2.738 ( 注 )1 学校生活の項目に対して そう思う (4 点 ) から そう思わない (1 点 ) まで 4 件法で尋ねた得点の平均値 2 検定 : *** p<0.001,** p<0.01,* p<0.05,+ p<0.1 t 値 うに制服着用の必要性が影響を及ぼすベクトルに男女差が見られた 第 2に 制服おしゃれの気遣い は, 女子のみ, おしゃれに否定的な生徒ほど学校へのコミットメントに肯定的な傾向が見られたことは, 校則違反をしながらも脱学校をせず, むしろ学校にコミットすることで, 不安定さの解消を求め ( 山口 2007: 68) る生徒という現状に反映されている また女子生徒の他の項目と男子生徒のすべての項目に有意差がなかったことは, おしゃれへの追求や私服選びの煩わしさなどの理由に関係なく, 制服の着用自体が学校での管理の象徴というよりも, 付加価値や流行を重視した消費の対象として浸透していると教えられる ( 大多和 2008; 松田 2005a) 第 3に制服で高校を選ぶ傾向は, 高校進学後の生活意識にあまり影響を及ぼさないことである 但し逆説的に捉えれば, 受験校の選択において制服のファッション性や着用の有無によりもたらす効果は限定的で, 高校偏差値や内申点, 校風など他の要因が影響を及ぼす可能性がある 4.2 高校生の制服着用を規定する要因 本節では, 学校での制服着用を規定する要因を分析するために, 学校生活や社会化ネットワーク項目

青少年の学校制服に関する意識 43 だけでなく, 学業や地位達成などの高校入学後の進路形成項目, 親学歴や職業などの属性項目に注目する 規定要因を詳細に検討するため, 学校での制服指定の有無を従属変数, 進路形成項目と属性項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行う 分析に用いる従属変数は, 高校在学時に校則で制服の指定があった者と制服着用規定はあったが選択が出来た回答者を1, 制服の着用規定はなかった回答者を0としたダミー変数を用いる 独立変数については, 性別 ( 男性 =0, 女性 =1), 高校在学時の学校ランクの近似値として大学偏差値, 地方 / 都市の近似値として現在の居住地 ( 自宅外 =0, 自宅 =1) を設定した上で, 本人の出身階層に関係する変数として親教育年数, 親現職, 家庭の生活水準を属性項目として投入した 7) 高校進学後の所属の構成は, 高校時代の成績と出席率 8), 生活意識 9) の項目については別に設定し, 非普通科 ( 例 : 職業科高校, 通信制など ) 公立校 非大学進学校 ( 例 : 高卒後ほとんどの生徒が就職する学校など ) 文化部 その他 ( 高校時代の部活動 ) を 0, 普通科 私立校 大学進学校 運動部 を 1とするダミー変数を構成してモデルに投入した モデルの構成に当たっては, 分析枠組での知見を踏まえ, 学校での制服指定を左右する媒介カテゴリーとして, 性別と現在の所属大学 10), 在学時の校則規定 ( 自由 / 厳格 ), 出身高校 ( 都市 / 地方 ) を設定した 表 4は性別と現在の所属大学でロジスティック回帰分析を行ったものである 分析結果によれば, 男子の場合, 私立校に通学しかつ成績の高い生徒ほど制服を着用する傾向にある一方で, 父学歴に負の影響が見られた 女子の場合は, 私立の普通校に通う生徒ほど制服を着用する傾向にあるものの, 社会階層要因では, 弱い有意ながら大学偏差値と父現職に負の影響が見られた 次に所属大学に注目すると, 低位校の場合は, 社会的地位の高い職業に就く母親ほど, 子どもの制服指定に消極的となる 中位校の場合は, 私立の普通校に通う生徒ほど制服を着用する傾向だが, 通学区域の高校が制服の指定をするかどうかが影響を与える可能性がある 高位校の場合は, 首都圏内に居住して私立高に通い, かつ成績も高い生徒ほど制服を積極的に着用する一方, 社会的地位の高い職業に就く母親ほど, 子どもの制服指定に消極的となる傾向を示した 実際には首都圏内の私立高ほど制服を指定する割合が高いことから, 母親が受験校の制服の有無にセンシティブとなっている可能性がある 性別と所属大学では一部のカテゴリーを除いて, 普通科 私立校ダミーが安定かつ一貫して正の影響を及ぼしており, 出身高校における制服指定の効果が一定の影響を持つ一方, 日常の生活意識に関係する項目はほとんど影響を及ぼさなかった 表 5は出身高校の地域と高校在学時の校則対応でロジスティック回帰分析を行ったものである 地方出身者は, 規範意識の高さや友人関係の積極性のような意識面, 普通科でかつ私立高に通うという学校での通学規則の面の両方が, 制服着用の積極性に関与する 一方で学力ランクや親の出身階層, 家庭での仲の良さが制服着用の消極性に影響を及ぼしていた 首都圏出身者の場合は, 普通科 私立校に通う生徒ほど制服着用に積極的な傾向を示したものの, 社会階層や生活意識に関係する項目による影響は見られなかった 次に制服厳格校は, 弱い有意ながら負の影響を示した現在の居住地を除いて有意な影響が見られなかったのは, 校則による制服指定が生徒本人だけでなく親にも支持されたことが背景として考えられる 校則自由校の場合は, 普通科 私立校に通う生徒ほど制服を着用する傾向にある一方, 母学歴が高いほど制服の着用に消極的となる 出身高校と学校校則の対応では, 表 4と同様に, 一部を除き普通科 私立校ダミーは安定かつ一貫して正の影響を示したものの, 母教育年数を除いて, 社会階層要因が制服着用にあまり影響を及ぼさなかった ただ地方出身者は規範意識や友人関係の積極性のよう

44 社会学研究科紀要第 69 号 2010 表 4 本人の属性に注目した制服着用の規定要因 ( ロジスティック回帰分析 ) 性別 現在の所属大学 男子 女子 低位校 中位校 高位校 性別 ( 女性 =1) 2.389.768+ 2.082 現在の居住地 ( 自宅 =1).289.351.213 2.638.963** 大学偏差値 2.025 2.042+ 父教育年数 2.262*.061.015 2.223+ 2.058 母教育年数 2.162 2.106 2.072.039 2.208* 父現職.020.313+.145 2.095.176 母現職.166 2.198 2.701* 2.029.147 家庭の生活水準 -.003 2.170.077.115 2.161 普通校ダミー.779 1.518** 1.802* 1.740**.528 私立校ダミー 1.773*** 1.564*** 1.009 1.962** 1.831*** 大学進学校ダミー -.566 2.532.656 21.040+ 2.343 成績.247*.149 2.146.269.259* 授業出席率.154.343 1.034 21.474.358 運動部ダミー.364 2.001 1.050.678 2.032 規範意識尺度.025.028.123 2.017.022 家庭生活尺度.027 2.072 2.134 2.061 2.005 友人関係積極志向.114+ 2.056.065.035.017 学校生活尺度.042 2.019 2.053.061.021 脱学校志向.229.042.467.038.299 N 509 485 160 387 447 22 log likelihood 339.744*** 319.918*** 80.725*** 177.736*** 366.605*** Nagelkerke R 2.227.174.284.220.220 ( 注 )1 数値は偏回帰係数 (B) 2 検定は以下のとおり *** p<0.001,** p<0.01,* p<0.05,+ p<0.1 に, 日常の生活意識に関係する項目も制服着用に影響を及ぼした背景には, 教師による服装指導や友人との親密さのように, 社会化のエージェントによる影響が依然として根強い可能性が考えられる 本節の分析結果を要約すれば次の通りである 第 1は一部を除いて, 高校進学後の所属である普通

青少年の学校制服に関する意識 45 表 5 高校生活の実情に即した制服着用の規定要因 ( ロジスティック回帰分析 ) 出身高校 学校校則 地方 都市 厳格校 自由校 性別 ( 女性 =1).115.243.068.029 現在の居住地 ( 自宅 =1) 22.077+ 2.028 大学偏差値 2.064* 2.003 2.043.010 父教育年数 2.022 2.140.013 2.091 母教育年数 2.274**.040.014 2.161* 父現職.226 2.008.115.163 母現職 2.059.013.076 2.052 家庭の生活水準 2.231+.043.115 2.104 普通校ダミー 1.166* 1.217* 1.375 1.147** 私立校ダミー 1.930*** 1.565**.166.986** 大学進学校ダミー 2.443 2.628 2.485 2.366 成績.064.223.454.071 授業出席率.539 2.180 216.065.165 運動部ダミー.039.461.491.149 規範意識尺度.089* 2.023.034.014 家庭生活尺度 2.137*.093.094 2.037 友人関係積極志向.154* 2.103 2.170.005 学校生活尺度.044.016 2.128.042 脱学校志向.341+ 2.014.369 2.001 N 538 456 524 469 22 log likelihood 335.275*** 317.546*** 85.837*** 497.109*** Nagelkerke R 2.278.133.212.110 ( 注 )1 数値は偏回帰係数 (B) 2 検定は以下のとおり *** p<0.001,** p<0.01,* p<0.05,+ p<0.1 科 私立校ダミーは安定かつ一貫して正の影響を示したこと 第 2に, 親の学歴や職業などの階層要因は, 制服着用に負の影響を及ぼす事例が多いこと 第 3に地方出身者を除いて, 日常の生活意識に関係する項目による影響が認められなかったことである

46 社会学研究科紀要第 69 号 2010 最初に普通科 私立校ダミーが一貫して正の影響を示したことは, 学校経営や校風に影響するために, 生徒の制服着用を校則で管理する傾向が私立校に現れやすいという従来の知見と一致した ただ地方 / 都市に関係なく正の影響を示したことは, 制服着用を容認する意識が都市 地方に関係なく広がった可能性が考えられる また一部の項目で, 階層要因が制服着用に負の影響を与えた傾向については,1970 年代における制服自由化運動を経験した親による影響や, 私服通学を是認する傾向が強い地域固有の事情など複数の要因が考えられる 階層要因による影響が一部で見られたことは, 制服選択や着用に親の意向が反映される証左と単純に受け止めるのでなく, 高校の学力レベルや大学進学状況が主要な学校選択要因として働いた結果として, 親の意向を経由して, 在籍校での学校文化や教師の教育方針などの間接的な要因が影響を及ぼすと解釈すべきであろう 最後に日常の生活意識に関しては, 地方出身者の場合に社会化のエージェントによる影響が依然として根強い可能性を示した一方, 他の媒介カテゴリーに対する影響は見られなかった 逆説的に捉えれば, 日常の生活意識に関係する項目による影響が他の媒介カテゴリーに現れなかったことは, 制服のMCや生徒指導における着崩しの黙認のように, 制服にファッション性を取り入れることに対する許容度や認知度が高まるにつれ, 制服の着用において男女の違いや校則の厳格さなどの違いから生じる制約が小さくなったことが背景として考えられる 5. 考察と課題本稿におけるこれまでの分析結果で得られた知見は次の通りである 最初に生徒文化の態様と制服着用との関連性に関しては, 第 1に 学校での制服指定 の場合は, 制服着用を必要とする生徒ほど学校へのコミットメントに積極的な傾向を示した一方, 男子生徒の場合は学業達成, 女子生徒の場合は学校充実感というように制服着用の必要性が影響を及ぼすベクトルに男女差が見られた 第 2に 制服おしゃれの気遣い は, 女子のみ, おしゃれに否定的な生徒ほど学校へのコミットメントに肯定的な傾向が見られた 第 3に制服で高校を選ぶ傾向は, 高校進学後の生活意識にあまり影響を及ぼさないことである 今回の分析では, 制服指定の必要性や制服の着こなしやおしゃれを重視する生徒は, 学校に適応的な傾向を示した一方, 制服が高校を選択する基準として影響を及ぼすかどうかについては, 高校進学後の生活意識項目や成績 進路面の項目にあまり影響を及ぼさなかった結果からすれば, 先行研究の知見 ( 松田 2005b) と一致した このことは,1990 年代以降の個性化教育や 居心地の良い学校 の潮流の中で, 学校における制服指定を弾力的に運用した影響が, 結果的に学校生活の適応や制服の価値向上につながったと考えられる 制服着用を規定する要因に関しては, 第 1は一部を除いて, 高校進学後の所属である普通科 私立校ダミーは安定かつ一貫して正の影響を示した 第 2 に, 親の学歴や職業などの階層要因は, 制服着用に負の影響を及ぼす事例が多かった 第 3に地方出身者を除いて, 日常の生活意識に関係する項目による影響が認められなかった したがって, 学校制服の着用を規定する要因としては, 普通科や私立校の有無など在学校の属性が積極要因として働く一方, 親教育年数や親現職など, 親の出身階層を反映した項目が消極要因となった また, 運動部, 出席率などの在学実態を反映した項目は有意な影響が見られなかった したがって生徒本人の制服着用には, 学校校則での指定や制服のファッション性などの学校の特性による影響を強く受ける一方, 制服の指定の有無や内容等に対する親の嗜好が一定の影響を及ぼす可能性はある また, 地方出身者のみに日常の生活意識に関係する項目が一定の影響を示したことは,

青少年の学校制服に関する意識 47 制服着用を選択する際に, 教師による服装指導や友人関係のような相談ネットワークが一定の影響を与える可能性を示したといえる 一方制服着用の消極性は, カテゴリーによっては出身階層項目に違いが見られなかったように, 単純に親の出身階層による影響を認めるのではなく, 出身地域の高校の特性 ( 私立 / 公立校の在り方 ) や学力レベル, 本人の制服着用に対する必要性が規定要因に結びつくと推測される 制服着用を否定する層が自由服校に多かった要因には, 制服より毎日好きな服が着られる自由服のファッション性を支持する意見が多いが, 制服自体を否定的に捉えている訳でないという指摘 ( 土屋 堀内 2005) があるように, 生徒本人の学校で指定された制服に対する嗜好や, 教師や学校側における制服の着こなしやファッションに対する理解状況が, 制服の着用を肯定する分水嶺といえる したがって,1990 年代以降に 制服 = 管理 図式が崩れ, 生徒本人の着こなしやファッション性が許容された背景には, 消費を通した自己実現を求められる領域が拡大する一方, 向学校 / 反学校 に代表される生徒文化の分化が曖昧となる中で, 着こなしの自由さやMCなどにより, 学校へのコミットメントを促すツールとして制服の着用が重視されていると考えられる ( 大多和 2008; 伊藤 2002) 今後は, 制服着用の実態を詳細に検討する中で, 生徒の制服着用が流行によって左右される要因について, 社会階層や進路選択など地位達成の側面から検証することが課題である [ 付記 ] 本稿の調査データの使用にあたっては, 慶應義塾大学 YES 研究会の許可を得ている なお本稿は, 平成 20 年度文部科学省科学研究費補助金 ( 課題番号 : 20330108) における研究成果の一部である 注 1) 佐藤 (1975) によれば, 運動服に関しては1900 年代ごろに洋服が普及し始めた一方, 昭和初期までは女子学生自身が, 他人に洋服姿を見られることに羞恥心を感じ, 制服を洋服とすることに根強い抵抗感があったことを指摘している 一方, 運動服の洋装化と 職業婦人 の関連性に関して斉藤 (2003) は, 高等女学校のカリキュラムに洋服が採用された理由として,1 体育の充実 ( 体格を良くし乳児死亡率を下げる ),2 科学的発想の導入 ( 生活や家事の科学化を後押しする ),3 就職の奨励, の3 点を挙げている 特に3は1920 年代からごく当然な風潮として受け入れられるようになり, 女性が職業に就くことが 国家の利益になる として特に強調された 但し実生活上では 女性自身の人間形成に役に立つこと 夫の理解を助け, 母 妻としての役目を遂行する上でも役立つこと の2 点が重視された 2) 生徒文化の分化が進んだ要因には, 本来なら中学卒業で就職するか, あるいは高校進学をしない若者が, 安定成長期を契機に始まった中卒就職市場の急激な縮小によって, 就職のための 学歴資格 を取得するために 準義務化 した高校への進学を半ば強制される形で進学し, 向学校の生徒 ( 積極的進学 ) と反学校の生徒 ( 不本意進学 ) が学級内で共存したことが挙げられる ( 酒井 1994) 実際には, 学校で期待される行動様式に従わなければ, 社会の承認を得られないほど支配的な学校文化が確立し, そして就職志望の場合にも, 就職協定の慣行の成立によって学業を重視する傾向が強まったことが大きい 3) 制服自由化運動は, 主に子どもの自己決定権や親の養育権の侵害を根拠に, 制服の着用規制に対抗するもので, 子どもと親が中心に学校側に対抗するケースが多かった 制服自由化運動が始まった1980 年代前後は, 制服を廃止し私服通学が許可されたケースや, 親やマスコミの批判に呼応して, 各地の学校で制服の名称を 標準服 に改めて制服着用を義務としない動きが広まった ( 相川 1994; 山田 2003) 4) DCブランドとは,Designer s Character Brandの略で, 著名なデザイナーによるデザインを指す MCを図る学校は1980 年代後半に男女共学化や中高一貫校化の節目などに急速に増え,1992 年にピークを迎えた DCブランドは, 実績や伝統のない新設校の受験者増加に一役買っただけでなく, ブレザーやスーツスタイルの制服を主流に押し上げることに貢献した ( 山口 2007; 三田村 2008)

48 社会学研究科紀要第 69 号 2010 5) 上間 (2002) は, 経済的に余裕のある高階層の生徒は, 高校デビューの段階から, コギャル文化の卓越した担い手としてトップの地位にある一方, 有利な後ろ盾を持たない生徒は, 生徒集団でのポジション取りを続けながら, コギャル文化の獲得を行う傾向を指摘した 6) 調査対象者を大学生とした理由は, 同様の条件で行った先行研究も存在する ( 松田 2005a,bなど ) ことによる 学校制服の項目に関する調査設計を行う際には, 先行研究での調査対象者で適用されている1 調査対象者の選定過程に関して, 学校制服に対する記憶が浅くなる大学 3 年以上が多数とならないように配慮する ( 本調査では対象者 1100 名中, 大学 1 ~ 2 年生は891 名と約 8 割以上を占める ),2 当時の記憶と現在の意識が混在させることを想起させるような項目は極力避ける, という2つの方針を遵守した上で調査を実施した したがって, 分析の知見は青少年全般の制服着用の意識の分析にある程度反映され得ると考える 大学偏差値については,2009 年度代々木ゼミナール公開模試の学部別入試難易度ランキング表 (http://www.yozemi.ac.jp/rank/ gakubu/index.html) をもとに算出した なお, 分析等に用いる大学偏差値は, 学部 学科別ではなく大学全体の総合偏差値を採用した 7) 第 5 回教育に関する意識調査 は, 高校時代の生活意識と大学進学後の現在の生活の分析を主とし, 本人の属性に関わる変数 ( 性別, 年齢, 親学歴, 親職業, 家庭の生活水準 ) を加えた 調査内容の概要は, 所属高校 ( 国公私立, 普通校 / 職業校, 進学校 / 進路多様校などの学校タイプや部活動, 授業出席率, 高校時代の成績 ), 生活意識 ( 学校に対する適応の程度, 学校制服, 校則 ), 大学進学後の現在の生活 ( 大学進学の動機, 授業出席率, アルバイトの有無, 部活 サークルの加入状況 ), 現在の生活意識 ( 家庭 大学生活, 友人関係, 規範意識 ), 将来展望 ( 職業観, 具体的な将来の職業 ) により構成されている 8) 現職 は専門職 ホワイトカラー上 =5, ホワイトカラー =4, ブルーカラー 自営 =3, 非正規職 =2, 無職 その他 =1, 家庭の生活水準 は本人の家庭について, 余裕がある=7 ~ 余裕がない=1の自己申告による7 段階評価で投入した 9) 成績 は, 上 =5 ~ 下 =1の5 段階評価, 高校出席率 は 80% 以上 =1 ~ 19% 以下 =5の5 段階評価で, いずれも高校在学時の平均成績 出席率を自己申告により記入させた 10) 学校生活 (11 項目 ) 家庭生活 (4 項目 ) 規範意識 (10 項目 ) 脱学校志向 (3 項目 ) については, 関連する項目を元に主成分分析にかけた上で, 各項目で相関が見られる項目を抽出し尺度構成を行った 学校生活 尺度とは, 表 2で用いた 授業に充実感があった など, 学校での生活や校則への適応, 日常的な学習習慣に関係する項目, 家庭生活 尺度とは, 家族との仲がよい など, 家族とのコミュニケーションの良好さを尋ねた項目, 規範意識 尺度とは, カンニングやごみのポイ捨てなど, 社会的なルールや規範を尋ねた項目, 脱学校志向 は, 表 2で用いた 授業をさぼったり, 学校を休みたくなることがあった など, 学校外の生活重視や学校への逸脱傾向を示す項目である 各尺度の信頼性を示すクロンバックのαは, 規範意識 が.728, 家庭生活 が.633, 友人関係積極志向 は.633, 学校生活 が.635, 脱学校志向 は.629であり, 他の社会調査におけるクロンバックのαにおける尺度の妥当性としてはやや弱いが, ある程度尺度の信頼性が認められる 11) 8) の大学ランキングに基づき, 偏差値 50 以下の大学に通う学生を低位群, 偏差値 51-59までの大学に通う学生を中位群, 偏差値 60 以上の大学に通う学生を高位群として便宜的に区分した 参考文献阿部晃士,2008, 社会意識はどのように変わったのか 満足感 不公平感の動態と学歴意識の変容 片瀬一男 海野道郎編 失われた時代 の高校生の意識 有斐閣,pp. 167 190. 相川良子,1994, 今なぜ制服か 自由 と 責任 のちぐはぐな関係の中で市民権もつ 制服 女子教育もんだい 59: 12 17. 荒牧草平,2001, 学校生活と進路選択 高校生活の変化と大学 短大進学 尾嶋史章編 現代高校生の計量社会学 ミネルヴァ書房,pp. 63 80. 江原由美子,1985, 服装の社会学 江原由美子 山岸健編 現象学的社会学 三和書房,pp. 297 312. 羽賀敏雄 渋谷知佳子,2006, 高校生の制服着用の意識とコミュニケーション行動 弘前大学教育学部紀要 95: 93 101. 伊藤茂樹,2002, 青年文化と学校の90 年代 教育社会学研究 70: 89 103. 苅谷剛彦,1995, 大衆教育社会のゆくえ 学歴主義と平等神話の戦後史 中央公論社.

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