被 災 生 活 が 引 き 起 こす 栄 養 障 害 The Suffering Life Caused Malnutrition 黒 崎 ひろみ * 中 野 晋 ** Hiromi KUROSAKI and Susumu NAKANO * 大 学 院 ソシオテクノサイエンス 研 究 部 助 教 ** 大 学 院 ソシオテクノサイエンス 研 究 部 教 授 1.はじめに 近 年 日 本 では, 突 発 的 かつ 甚 大 な 被 害 を 及 ぼすと 懸 念 される 海 溝 型 地 震 への 防 災 対 策 が 進 められて いる. 海 溝 型 地 震 は 地 震 被 害 に 加 えて 津 波 被 害 も 想 定 されており,ハード 対 策 だけでなくソフト 対 策 の 重 要 性 も 叫 ばれている. 国 や 自 治 体 を 中 心 として 両 方 向 からの 対 策 が 着 々と 進 められ, 構 造 物 の 耐 震 化 等 のハード 対 策 以 外 にも, 自 主 防 災 組 織 の 活 性 化 や 学 校 防 災 教 育 の 定 着 に 向 けた 動 きも 盛 んにな ってきている. 他 方,4 年 の 新 潟 県 中 越 地 震 を 皮 切 りに, 能 登 半 島 沖 地 震, 新 潟 県 中 越 沖 地 震, 岩 手 宮 城 内 陸 地 震 と9 年 現 在 まで 被 害 地 震 が 多 発 しており, 被 災 生 活 を 余 儀 なくされる 人 々も 後 を 絶 たない 状 況 である. 著 者 らが 能 登 半 島 沖 地 震 以 降 の 被 災 地 で 体 験 談 を 収 集 したところ, 多 少 の 不 便 はあるものの, 生 活 自 体 に 大 きな 支 障 が 出 ていることは 少 ないと 感 じた.これは1995 年 の 兵 庫 県 南 部 地 震 の 教 訓 により, 被 災 者 の 生 活 が 見 直 され, 被 災 地 近 辺 を 中 心 とした 物 資 の 供 給 などにより, 被 災 者 の 衣 食 住 の 快 適 化 が 進 められたためと 推 定 できる. 特 に 食 に 関 しては 上 記 のどの 被 災 地 でも 炊 き 出 しや 食 品 の 提 供 が 行 われており, 食 べ 物 が 不 足 している 地 域 はなかった. 新 潟 県 中 越 沖 地 震 の 被 災 地 である 柏 崎 市 内 では 被 災 翌 日 から,おにぎり, 汁 物,パン,イカ 焼 きなどの 炊 き 出 しに 加 え, 大 手 菓 子 メーカーが 自 社 の 菓 子 を 無 料 で 配 布 するなど,その 対 応 の 早 さと 手 厚 さには 目 を 見 張 るものが あった. 当 時 の 被 災 者 らは, 多 くの 方 の 支 援 を 受 けて 大 変 ありがたく 思 っている. 不 便 はあるが 不 足 はない. と 話 していた.しかし, 被 災 生 活 が 長 期 になるにつれ, 体 調 不 良 を 訴 える 被 災 者 が 増 えてき た. 一 般 的 には, 被 災 生 活 のストレス, 睡 眠 運 動 不 足, 食 生 活 の 偏 りなどが 原 因 とされており, 避 難 所 内 での 運 動 の 促 進 や 専 門 家 による 心 のケア 等 がなされている. 一 方 で, 炊 き 出 し 等 の 栄 養 の 偏 り については, 人 の 善 意 を 否 定 しかねないこともあり,ほとんど 議 論 がなされていない.そこで 本 研 究 では, 柏 崎 市 内 の 被 災 者 の 証 言 に 基 づいた 栄 養 摂 取 と 病 気 の 関 係 を 示 し, 柏 崎 市 および 岩 手 宮 城 内 陸 地 震 の 被 災 地 である 一 関 市 内 の 医 療 従 事 者 の 証 言 および 医 薬 品, 医 薬 部 外 品, 栄 養 補 助 食 品 の 売 り 上 げをもとに 皮 膚 疾 患 と 被 災 生 活 の 関 係 を 示 す. 2. 栄 養 と 食 生 活 (1) 栄 養 素 とその 働 き
人 体 は 炭 水 化 物 ( 糖 質 ) たんぱく 質 脂 肪 といった 栄 養 素 で 機 能 している. 人 間 の 体 を 形 成 する 上 で 要 となる 上 記 の 栄 養 素 を 三 大 栄 養 素 と 呼 ぶ.これに 加 えて,ビタミンとミネラルが 加 わり 五 大 栄 養 素 とも 呼 ばれている.ただし, 人 体 の 構 成 上, 三 大 栄 養 素 は 必 要 不 可 欠 であり,ビタミン,ミ ネラルはその 補 助 である.また,ヒトが 経 口 摂 取 した 食 物 はそれら 単 品 で 体 を 作 るわけではなく, 摂 取 した 食 物 同 士 が 持 つ 栄 養 素 が 化 学 反 応 を 起 こすことで 体 が 作 られ, 活 動 のエネルギーとなっている 1). 以 下 に 三 大 栄 養 素 の 役 割 を 簡 単 に 紹 介 する. a) 炭 水 化 物 ( 糖 質 ) 体 を 動 かすためのエネルギーとなる 栄 養 素 である. 炭 水 化 物 は 摂 取 したあと 糖 質 として 体 に 吸 収 さ れ, 炭 水 化 物 1gあたり4kcalの 熱 量 となる.ただし,ごはんやパンなどのでんぷん( 複 合 糖 質 )として ではなくジュース, 菓 子, 果 物 といった 単 純 糖 質 の 形 で 摂 り 過 ぎた 場 合 は 糖 質 の 吸 収 が 速 くなり,そ れによって 血 糖 値 の 上 昇 も 速 くなる.これは 糖 尿 病 に 代 表 される 糖 代 謝 異 常 を 招 いたり, 合 併 症 へ 導 いたりすることに 繋 がる 2).また,これらは 血 液 中 の 中 性 脂 肪 の 上 昇 を 促 し, 脂 肪 肝 などの 原 因 になり 得 る 3) ため, 過 剰 摂 取 には 注 意 が 必 要 である. b) たんぱく 質 英 語 で protein という.エネルギーのもとなるが, 本 来 は, 筋 肉, 皮 膚, 血 液, 骨, 酵 素, 髪 の 毛, 神 経 伝 達 物 質 などの 基 となる 栄 養 素 である. 炭 水 化 物 や 脂 肪 を 取 り 入 れない 場 合, 体 に 必 要 なエ ネルギーは,たんぱく 質 からも 供 給 される.そうなった 場 合, 筋 肉 などが 減 り, 過 度 の 食 事 制 限 など をおこなった 場 合, 肌 荒 れ, 貧 血, 骨 粗 しょう 症, 脱 毛,ホルモンバランスの 異 常 等 の 悪 影 響 を 及 ぼ す 4). c) 脂 質 脂 肪 ( 脂 質 )は, 炭 水 化 物 と 同 様 にエネルギーを 作 り 出 す 栄 養 素 である.エネルギー 効 率 は 高 く 炭 水 化 物 やたんぱく 質 の 熱 量 (4kcal/g)に 対 し,9kcal/gにもなる. 脂 肪 分 を 取 り 入 れる 場 合 には, 脂 溶 性 ビタミンであるビタミンA.D.E.Kを 多 く 含 む 食 品 と 一 緒 に 食 べると, 体 への 吸 収 率 が 高 まりよいとされ ている.ただし, 過 剰 摂 取 は 肥 満 や 高 脂 血 漿 を 誘 引 する 5). 近 年, 摂 取 量 の 減 少 が 懸 念 され, 余 剰 摂 取 が 推 奨 されているビタミン,ミネラルは, 三 大 栄 養 素 が 潤 滑 に 人 間 活 動 に 利 用 されるための 補 助 的 役 割 しか 果 たさない.さらに, 減 量 等 や 便 秘 に 有 効 とされ 第 六 の 栄 養 素 として 見 直 されている 食 物 繊 維 は, 適 量 ならば 効 果 を 発 揮 するものの, 過 剰 摂 取 すれば 五 大 栄 養 素 の 働 きを 阻 害 する. (2) 現 代 人 の 栄 養 摂 取 状 態 図 -1~3は 厚 生 労 働 省 が 発 表 した 平 成 16 年 国 民 健 康 栄 養 調 査 結 果 6) の 一 部 を 示 したものである. 図 -1はエネルギーの 栄 養 素 別 摂 取 構 成 比 の 年 次 推 移 (1 歳 以 上 総 数 )を 示 している. 摂 取 した 三 大 栄 養 素 の 比 率 は 昭 和 5 年 と 比 較 して 大 差 ない. 一 方, 総 摂 取 カロリーは 当 時 よりkcal 近 く 減 少 してい る.すなわち, 三 大 栄 養 素 の 摂 取 量 が 全 体 の1 割 減 と 大 幅 に 減 少 していることがわかる. 図 -2は, 男 女 それぞれの 肥 満 者 (BMI 25)の 割 合 を, 図 -3は 低 体 重 (やせ)の 者 (BMI<18.5)の 割 合 を, 年 前, 年 前 と 現 在 について 比 較 したものである.また 図 -2, 3とも 被 験 者 は 歳 以 上 であ
る.ここでBMIとはBody Mass Indexの 略 で, 体 重 (kg) 身 長 (m) 身 長 (m) で 算 出 される 体 格 指 数 のことで, 肥 満 度 を 測 るた めの 国 際 的 な 指 標 である.なお, 医 学 的 に 最 も 病 気 が 少 ない 数 値 として22を 標 準 とし, 18.5 以 下 なら 痩 せ,25 以 上 を 肥 満 と している. 図 -2より, 男 性 は 年 前 の 昭 和 59 年 から 肥 満 者 は 急 激 に 増 加 しているが, 女 性 は 肥 満 者 の 割 合 が 減 少 していることがわかる. 一 方, たんぱく 質 脂 質 炭 水 化 物 % % 4% 6% 8% % 昭 和 5 年 2,188kcal S 55 年 2,84kcal S 6 年 2,88kcal 平 成 2 年 2,26kcal H 7 年 2,42kcal H 12 年 1,948kcal H 13 年 1,954kcal H 14 年 1,9kcal H 15 年 1,9kcal H 16 年 1,92kcal 14.6 14.9 15.1 15.5 16 15.9 15.1 15.1 15 15 22.3 23.5 24.5 25.3 26.4 26.5 25.2 25.1 25 25.3 63.1 61.5 6.4 59.2 57.6 57.5 59.7 59.8 6 59.7 図 -1 栄 養 素 別 摂 取 構 成 比 図 -3より, 男 性 は 低 体 重 の 割 合 が 全 体 的 に 減 少 傾 向 にあるが, 女 性 は 代, 代 で 低 体 重 の 割 合 が 急 増 している.これは, 現 代 のモデルブームにより 若 い 女 性 の 間 でダイエットが 習 慣 化 し, 極 端 なやせ の 傾 向 にあることを 示 している. 一 方, 男 性 は 肥 満 傾 向 が 強 く 総 エネルギー 摂 取 量 が 減 少 していると 肥 満 者 割 合 [%] [%] 4 4 昭 和 59 年 平 成 6 年 平 成 16 年 肥 満 者 割 合 昭 和 59 年 平 成 6 年 平 成 16 年 -29 歳 -39 歳 4-49 歳 5-59 歳 6-69 歳 7 歳 以 上 -29 歳 -39 歳 4-49 歳 5-59 歳 6-69 歳 7 歳 以 上 (1) 男 性 (2) 女 性 図 -2 肥 満 者 (BMI 25)の 割 合 ( 歳 以 上 ) 低 体 重 者 割 合 [%] [%] 4 昭 和 59 年 平 成 6 年 平 成 16 年 低 体 重 者 割 合 4 昭 和 59 年 平 成 6 年 平 成 16 年 -29 歳 -39 歳 4-49 歳 5-59 歳 6-69 歳 7 歳 以 上 -29 歳 -39 歳 4-49 歳 5-59 歳 6-69 歳 7 歳 以 上 (1) 男 性 (2) 女 性 図 -3 低 体 重 (やせ)の 者 (BMI<18.5)の 割 合 ( 歳 以 上 )
は 考 えにくい.したがって, 図 -1に 示 した 総 エネルギー 量 の 極 端 な 減 少 は 女 性 を 中 心 に 起 こっている 現 象 であり, 三 大 栄 養 素 の 摂 取 バランスこそ 急 激 な 変 化 なく 守 られているものの, 総 摂 取 量 は 減 少 傾 向 にあることがわかる. 3. 被 災 女 性 の 証 言 による 栄 養 障 害 の 現 状 第 1 著 者 は, 新 潟 県 中 越 沖 地 震 の 被 災 地 である 柏 崎 市 で,33 歳 の 女 性 から 次 のような 症 状 証 言 を 得 た. 1 年 前 の 被 災 直 後 から 肌 荒 れに 悩 んでいる. 現 在 はサプリメントを 中 心 とした 対 策 を 行 っているが, 一 向 に 改 善 されない. 自 分 はデパートで 大 手 化 粧 品 会 社 の 美 容 部 員 を 勤 めており, 肌 荒 れは 深 刻 な 悩 みである. 表 -1は, 被 害 女 性 の 被 災 前 から 被 災 時 および 被 災 から1 年 後 までの 食 生 活 について,その 時 期 の 体 表 的 なメニューをまとめたものである.なお, 被 害 女 性 は 被 災 前, 被 災 直 後,1 年 後 と 多 少 の 推 移 は あるものの 十 分 な 睡 眠 時 間 を 取 っていた.また, 被 災 直 後 も 店 舗 が 空 いていたこと, 水 などは 自 衛 隊 から 十 分 に 支 給 されたことから, 特 に 生 活 にストレスは 感 じなかった との 証 言 を 得 ている. 被 災 前 は,1 日 3 食 を 基 本 としており 体 重 の 増 減 もほとんどない.また, 食 事 内 容 について, 摂 取 カ ロリーはやや 低 めであるものの, 内 容 は 三 大 栄 養 素 を 中 心 としたバランスの 良 い 内 容 となっている. 一 方, 被 災 時 には 家 屋 (マンション)の 倒 壊 は 免 れ, 避 難 所 生 活 も2 日 間 以 内 と 短 く, 被 災 時 から 約 1 週 間 は 非 常 食 や 炊 き 出 しを 十 分 に 受 けることができ, 摂 取 カロリーも 十 分 に 満 たしている.ただし, 摂 取 する 栄 養 のバランスは 脂 質 および 糖 質 に 偏 った, 大 変 バランスの 悪 い 食 生 活 を 送 っていることが わかる.なお,この 時 期 には 深 刻 な 肌 荒 れには 悩 まされておらず, 病 気 としてとらえられるのは 便 秘 や 食 欲 増 大 である.また, 喉 が 渇 きやすかった 疲 れやすくなった という 証 言 から 日 常 よりも 高 い 血 糖 値 となっていた 可 能 性 が 高 い 7).さらに,コンビニエンスストアや 薬 局 で ビタミンC,B1,B2, B12およびビタミンE の 医 薬 品 を 購 入 し 服 用 を 始 めている. 医 薬 品 の 効 果 について 女 性 は, 3 日 以 内 で 肌 が 少 し 綺 麗 になった と 証 言 した. 被 災 から 約 1ヶ 月 が 過 ぎたころ, 被 害 女 性 は 深 刻 な 肌 荒 れと 体 重 増 加 に 悩 まされ 始 める.この 間 に 始 めたものとして ダイエット サプリメント 摂 取 の 増 加 がある.また, 食 事 は 主 に 手 軽 な 弁 当 や 低 カロリーの 代 替 食 品 となっている.なお, 人 間 の 表 皮 の 生 まれ 変 わりの 周 期 は 正 常 者 で28 日 と 言 われ ている 8) ため,この 時 点 での 肌 荒 れについては 災 害 時 のショックによるものが 含 まれると 考 えられる. また 同 時 期 には 皮 膚 科 に 通 い 始 め, 塗 布 薬 や 経 口 薬 を 処 方 されている.ただし, 他 のサプリメントの 摂 取 も 続 けている.さらに 化 粧 品 も 無 添 加 のものや 医 薬 品 指 定 が 行 われているものに 変 えている.な お,この 時 期 のサプリメント 摂 取 量 は, 袋 等 に 書 かれている 推 奨 量 の 倍 量 を 摂 取 していた. 被 災 して 半 年 から1 年 の 間, 被 害 女 性 はほとんど 食 事 を 取 らなかった. 理 由 はダイエットと 肌 荒 れ 改 善 のために 食 品 を 摂 取 しないようにしたと 言 う. 被 災 直 後 から 比 べると, 摂 取 カロリーの 低 減 によ り 体 重 は 落 ちたものの,1ヶ 月 同 じような 食 事 制 限 を 続 けると 体 重 が 落 ちにくくなったそうだ. 人 間 に は 自 身 の 生 命 を 守 るため 恒 常 性 という 働 きがある. 恒 常 性 の 一 例 を 挙 げると, 人 が 少 ない 摂 取 カ
表 -1 被 災 前 および 被 災 時 ~1 年 の 食 生 活 被 災 前 被 災 直 後 1 週 間 1ヶ 月 半 年 ~1 年 朝 食 ご 飯 菓 子 パン おにぎり ヨーグルト 味 噌 汁 おにぎり 卵 ヨーグルト オレンジジュース 間 食 小 さなパンやチョコレート 菓 子 パン チョコレート2~4 欠 片 コンビニ 弁 当 をご 飯 なしで 昼 食 ご 飯 またはパン おにぎり おにぎり コンビニ 弁 当 を 半 分 肉 または 魚 豚 汁 などの 汁 物 豚 汁 などの 汁 物 野 菜 サラダ お 好 み 焼 きなど 間 食 クッキー1 枚 程 度 お 菓 子 1 袋 程 度 お 菓 子 半 袋 程 度 サプリメント 食 品 チョコレート2~3 欠 片 チョコレート2~4 欠 片 チョコレート2~5 欠 片 飴 ガムなど 多 数 飴 ガムなど 多 数 飴 ガムなど 多 数 夕 食 ご 飯 おにぎり おにぎり ダイエット 食 品 ダイエット 食 品 味 噌 汁 豚 汁 などの 汁 物 豚 汁 などの 汁 物 野 菜 サラダまたはスープ お 好 み 焼 きなど 果 物 肉 または 魚 間 食 お 菓 子 1 袋 程 度 チョコレート2~4 欠 片 サプリメント サプリメント * サプリメント 食 品 とは 栄 養 機 能 補 助 食 品 として 認 知 されているバータイプやドリンクタイプの 食 品 ロリーで 生 活 を 続 ければ 体 はその 状 態 を 危 険 と 判 断 し,その 環 境 に 対 応 できるように 少 ない 摂 取 カロ リーで 現 在 の 体 重 を 維 持 しようとする 働 きである. 被 害 女 性 はダイエットに 励 むあまり, 極 端 な 食 事 制 限 を 続 け, 体 の 恒 常 性 によりさらに 体 重 が 落 ちにくくなるという 悪 循 環 に 陥 っていた. 結 果 として 食 事 ではカロリーが 気 になるため, 栄 養 をサプリメントで 補 おうとして, 体 の 栄 養 循 環 のバランスを 崩 している. 被 害 女 性 は, 肌 荒 れ, 便 秘, 軽 度 な 骨 粗 しょう 症, 貧 血, 生 理 不 順 などの 病 気 を 起 こし てしまっていた.サプリメントではこれらの 症 状 を 軽 減 する 効 果 が 期 待 されるものを 常 飲 し,その 種 類 は12 種 類 にも 上 っていた.しかし, 栄 養 素 は 互 いが 化 学 反 応 を 起 こしながら 体 内 に 吸 収 され 活 用 さ れるため, 偏 った 栄 養 摂 取 では 結 果 的 に 体 内 のバランスを 崩 すことになる.このため, 被 害 女 性 の 各 種 病 状 は 改 善 されることなく 悪 化 の 一 途 を 辿 った. なお,この 被 害 女 性 は 最 終 的 に 栄 養 士 の 指 導 を 受 け, 被 災 前 の 食 生 活 を 送 ることにより 病 状 は 少 し ずつ 改 善 されている. 4. 医 薬 品 栄 養 補 助 食 品 の 販 売 数 と 皮 膚 科 検 診 者 数 の 推 移 図 -4は, 新 潟 県 中 越 沖 地 震 の 被 害 を 受 けた 柏 崎 市 内 の 薬 局 での 医 薬 品 の 販 売 数 を 経 時 変 化 で 示 した ものである.なお 図 中 の 栄 養 補 助 食 品 はコンビニエンスストアに 置 かれているビタミン 剤 やミネ ラル 剤 のサプリメントの 販 売 総 数 を 示 している.アスコルビン 酸 はビタミンCの 源 末,チョコラBBは ビタミンB 主 製 剤,ハイチオールCはビタミンC 主 製 剤,システナは 皮 膚 の 生 まれ 変 わりを 促 すL-シス テイン 主 製 剤 であり,どれも 肌 荒 れに 効 果 があるとして 販 売 されている 医 薬 品 である. 薬 局 に 勤 める 薬 剤 師 は, 紫 外 線 が 強 くなる 春 先 から 秋 口 まではこれらの 商 品 はよく 売 れる と 証 言 しており, 販 売 数 は 証 言 通 りとなっている.すなわち, 医 薬 品 の 販 売 数 の 推 移 には, 災 害 発 生 との 顕 著 な 因 果 関 係 は 見 られなかった. 一 方,コンビニエンスストア 等 で 手 軽 に 購 入 できる 栄 養 補 助 食 品 は,
販 売 個 数 6 5 4 アスコルビン 酸 チョコラBB ハイチオールC システナ 栄 養 補 助 食 品 2 年 月 3 年 1 月 3 年 4 月 3 年 7 月 3 年 月 4 年 1 月 4 年 4 月 4 年 7 月 4 年 月 5 年 1 月 5 年 4 月 5 年 7 月 5 年 月 6 年 1 月 6 年 4 月 6 年 7 月 6 年 月 7 年 1 月 7 年 4 月 7 年 7 月 7 年 月 8 年 1 月 8 年 4 月 8 年 7 月 8 年 月 図 -4 医 薬 品 および 栄 養 補 助 食 品 販 売 数 の 推 移 災 害 発 生 の7 年 7 月 から 急 激 に 売 り 上 げを 伸 ばしている. 店 長 は, これらのサプリメントは 季 節 を 問 わずある 一 定 の 売 り 上 げを 残 しており,これだけ 急 激 に 売 り 上 げが 伸 びるのは 初 めて と 証 言 して いる.すなわち, 災 害 発 生 によりサプリメントの 需 要 が 増 し, 急 激 な 売 り 上 げの 増 加 に 繋 がったと 考 えられる. 図 -5は, 柏 崎 市 内 の4つの 皮 膚 科 の 検 診 者 数 の 推 移 を 示 したものである. 新 潟 県 中 越 沖 地 震 が 発 生 し た7 年 7 月 を 境 に 急 激 に 検 診 者 数 が 増 加 している.これら 検 診 者 の 内 訳 は 火 傷 が2 名, 裂 傷 が4 名, 紫 斑 が1 名 で 残 りは 脂 漏 性 皮 膚 炎, 蕁 麻 疹 などの 急 性 の 肌 荒 れであった. 特 に 地 震 から1 週 間 以 上 経 った 後 の 検 診 者 数 が 増 えており, 被 災 から1 年 以 上 経 った 現 在 でも 通 院 者 数 は 変 わらないとの 証 言 を 得 てい る.これより 柏 崎 市 では 被 災 生 活 が 起 因 して 皮 膚 疾 患 を 負 った 患 者 が 増 加 したと 考 えられる. 図 -6は,8 年 6 月 14 日 に 発 生 した 岩 手 宮 城 内 陸 地 震 の 被 災 地 のひとつである 岩 手 県 一 関 市 の 皮 膚 科 検 診 者 数 の 推 移 を 示 したものである.2 件 の 皮 膚 科 とも 被 災 後 に 検 診 者 数 が 増 加 している.しかし, その 内 訳 は 裂 傷 が12 件, 紫 斑 が6 件 と, 地 震 の 直 接 の 原 因 による 怪 我 がほとんどであった. 皮 膚 科 医 に よると, 急 性 の 皮 膚 疾 患 で 通 院 している 患 者 はおらず, 被 災 生 活 との 関 連 は 見 られない となってい る.すなわち, 一 関 市 では 被 災 生 活 と 皮 膚 疾 患 との 関 連 は 見 られなかった. 5.まとめ 新 潟 県 中 越 沖 地 震 の 被 災 地 である 柏 崎 市 では, 住 民 の 証 言 や 皮 膚 科 検 診 者 数 の 増 加 など, 被 災 生 活 と 病 気 のある 程 度 の 関 連 性 が 見 られた.しかし, 岩 手 宮 城 内 陸 地 震 の 被 災 地 である 一 関 市 では 被 災 生 活 と 皮 膚 疾 患 の 明 確 な 関 連 性 は 見 られなかった. 今 後 は 調 査 対 象 地 域 を 拡 大 させるとともに 証 言 数 を 増 やし 検 討 を 行 う 必 要 がある. 謝 辞 : 本 調 査 の 一 部 は 徳 島 大 学 学 長 裁 量 経 費 の 研 究 助 成 によって 実 施 された.また, 災 害 復 旧 のお 忙 しい 中,ヒヤリング 調 査 にご 協 力 いただきました 方 々に 深 謝 いたします.
皮 膚 科 検 診 者 数 ( 人 ) 6 5 4 A B C D A,B,C,Dは 皮 膚 科 名 4 年 4 月 4 年 6 月 4 年 8 月 4 年 月 4 年 12 月 5 年 2 月 5 年 4 月 5 年 6 月 5 年 8 月 5 年 月 5 年 12 月 6 年 2 月 6 年 4 月 6 年 6 月 6 年 8 月 6 年 月 6 年 12 月 7 年 2 月 7 年 4 月 7 年 6 月 7 年 8 月 図 -5 皮 膚 科 検 診 者 数 の 推 移 皮 膚 科 検 診 者 数 ( 人 ) 25 15 5 E F E,Fは 皮 膚 科 名 7 年 1 月 7 年 2 月 7 年 3 月 7 年 4 月 7 年 5 月 7 年 6 月 7 年 7 月 7 年 8 月 7 年 9 月 7 年 月 7 年 11 月 7 年 12 月 8 年 1 月 8 年 2 月 8 年 3 月 8 年 4 月 8 年 5 月 8 年 6 月 8 年 7 月 8 年 8 月 8 年 9 月 図 -6 岩 手 県 一 関 市 の 皮 膚 科 検 診 者 数 参 考 文 献 1) Ogawa K, Tsubono Y, Nishino Y, Watanabe Y, Ohkubo T, Watanabe T, Nakatsuka H, Takahashi N, Kawamura M, Tsuji I, Hisamichi S: Validation of a food-frequency questionnaire for cohort studies in rural Japan, Public Health Nutr., pp.147-157, 3 2) Murakami K, Okubo H, Sasaki S.: Effect of dietary factors on incidence of type 2 diabetes, a systematic review of cohort studies, J Nutr Sci Vitaminol, pp.292-3, 5 3) American Gastroenterological Association: American Gastroenterological Association Medical Position Statement/ Nonalcoholic Fatty Liver Disease, Gastroenterology, pp.172-174, 2
4) 小 宮 秀 一, 佐 藤 方 彦, 安 河 内 朗 : 体 組 成 の 測 定 法 / 体 組 成 の 科 学, 朝 倉 書 店,pp.21-46, 1988 年 5) 池 田 義 雄, 井 上 修 二 : 肥 満 の 定 義 と 診 断 法 / 新 版 肥 満 の 臨 床 医 学, 朝 倉 書 店, pp.129-147, 1993 年 6) 日 本 医 師 会 : 平 成 16 年 国 民 健 康 栄 養 調 査 結 果 (1151 号 ),7 年 7) 乾 幸 治 : 糖 蛋 白 代 謝 異 常 症, 日 本 臨 床 / 領 域 別 症 候 群 シリーズ 第 8 巻,pp.392-395, 1995 年 8) 日 本 皮 膚 科 学 会 アトピー 性 皮 膚 炎 診 療 ガイドライン 作 成 委 員 会 : 日 本 皮 膚 科 学 会 アトピー 性 皮 膚 炎 診 療 ガイドライン, 日 本 皮 膚 科 学 会 誌 118(3),pp.325-342, 8 年