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心臓弁膜症とはどんな病気 心臓にある弁の異常による病気の総称です 心臓には4つの部屋があり 各部屋の間には血液が 一方向に流れるよう片開きの扉の働きをする弁 逆流防止弁 があります 弁膜の異常は狭窄と逆 流 閉鎖不全 の2つがあります 狭窄は扉の開きが悪くなり 心臓の次の部屋や動脈に血液が送 り出さ

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心臓血管外科カリキュラム Ⅰ. 目的と特徴心臓血管外科は心臓 大血管及び末梢血管など循環器系疾患の外科的治療を行う診療科です 循環器は全身の酸素 栄養供給に欠くべからざるシステムであり 生体の恒常性維持において 非常に重要な役割をはたしています その異常は生命にとって致命的な状態となり 様々な疾患

Background 日常診療において 手術や手技のために 経口抗凝固療法を一時中断し ヘパリンによるブリッジ療法が用いられることが多々ある しかし ブリッジ療法による血栓塞栓症の予防に対するエビデンスは限定的で 一部の患者群を除き推奨の根拠は乏しいのが現状である

日経メディカルの和訳の図を見ても 以下の表を見ても CHA2DS2-VASc スコアが 2 点以上で 抗凝固療法が推奨され 1 点以上で抗凝固療法を考慮することになっている ( 参考文献 1 より引用 ) まあ 素直に CHA2DS2-VASc スコアに従ってもいいのだが 最も大事なのは脳梗塞リスク

ASSAF-K 登録用紙 記入方法

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平成20年5月20日

前回処方薬のワーファリン錠からリクシアナ錠に切り替えることについて 処方医から患者に休薬期間の指示はなかった また 患者に PT-INR について確認したが分からないという返答であった PT-INR 等が治療域下限以下になった上での切り替えであるか不明であるため疑義照会を行った 疑義照会の会話例 患

プラザキサ服用上の注意 1. プラザキサは 1 日 2 回内服を守る 自分の判断で服用を中止し ないこと 2. 飲み忘れた場合は 同日中に出来るだけ早く1 回量を服用する 次の服用までに 6 時間以上あけること 3. 服用し忘れた場合でも 2 回量を一度に服用しないこと 4. 鼻血 歯肉出血 皮下出

天理よろづ相談所学術発表会 2015 天理医学紀要 2016;19(2):90-94 DOI: /tenrikiyo 血栓一次予防 - 循環器領域から - 近藤博和 天理よろづ相談所病院循環器内科 はじめに循環器疾患における主要な血栓一次予防として, 二つの病態があげら

Medical Tribune 2008年7月10日号特別企画

障害程度等級表 心臓機能障害 1 級 心臓の機能の障害により 自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの 2 級 - 3 級 心臓の機能の障害により 家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの 4 級 心臓の機能の障害により 社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

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d 運動負荷心電図でSTの低下が0.1mV 以上の所見があるもの ( イ ) 臨床所見で部分的心臓浮腫があり かつ 家庭内での普通の日常生活活動若しくは社会での極めて温和な日常生活活動には支障がないが それ以上の活動は著しく制限されるもの又は頻回に頻脈発作を繰り返し 日常生活若しくは社会生活に妨げと

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対象と方法 本研究は 大阪医科大学倫理委員会で承認を受け 対象患者から同意を得た 対象は ASA 分類 1 もしくは 2 の下肢人工関節置換術が予定された患者で 術前に DVT の存在しない THA64 例 TKA80 例とした DVT の評価は 下肢静脈エコーを用いて 術前 術 3 日後 術 7

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TAVIを受ける 患者さんへ

10 糖尿病患者における抗血栓療法の出血リスク. 図 1 心房細動患者におけるワルファリンの強度と虚血 出血イベント ( 文献 1 改変 ) プロトロンビン時間の INR(international normalized ratio) が2.5の場合をレファレン スとしたイベント発症のオッズ比を示す

帝京大学 CVS セミナー スライドの説明 感染性心内膜炎は 心臓の弁膜の感染症である その結果 菌塊が血中を流れ敗血症を引き起こす危険性と 弁膜が破壊され急性の弁膜症による心不全を発症する危険性がある 治療には 内科治療として抗生物質の投与と薬物による心不全コントロールがあり 外科治療として 菌を

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心臓カテーテル検査についての説明文

日本血栓止血学会誌 第18巻 第6号

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密接な関連性を持つ AF と心不全 筒井 AF は心不全の主要な合併症の 1 つであり, わ が国では心不全患者の約 40% が AF を合併していると みられています 1) AF は心不全の発症 増悪の危険 因子 2), 心不全は AF 発症の危険因子 2, 3) として両者は 密接に関連し合って

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など

Argatroban

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を


目 次 1. はじめに 2. 臨床研究とは 3. 研究の目的 意義 4. 研究の対象と方法 5. 研究への自由意志参加 同意取消しの自由 6. 研究責任者 組織 7. 研究の場所 期間 8. 研究試料と情報の取り扱い 9. 研究結果の扱い 10. 研究資金源 11. 利益相反 12. 研究参加者の負

「周術期肺塞栓症の予防」についての取り組み~当院で術後静脈血栓塞栓症(VTE)をきたした症例から学ぶ

循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 1

運動療法の効果 運 動療 法は 心 臓手 術を受けるに至った 冠 動脈 疾 患の危険因子を減らす2次予防だけでなく 手術を受けたことによるいろいろな問題点を改善します 1 運動能力 体力が向上します 心臓手術後の運動療法は運動能力を改善させます 弁膜症の場合 弁置換術によって心機能は正常化しま すが

ラクナ梗塞穿通枝の細動脈硬化アテローム血栓性脳梗塞大動脈弓 頚部動脈または頭蓋内主幹動脈の狭窄または閉塞心原性脳塞栓症心房細動 急性心筋梗塞 左室血栓 人工弁置換を伴った脳梗塞その他の脳梗塞血液凝固異常血管攣縮血管壁異常 21 Vol や薬物中毒のような血管が収縮しやすくなる疾患などで

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第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syn

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NOAC 時代の非弁膜症性心房細動 (NVAF) 患者に対する抗凝固療法 RWE で臨床試験結果を検証 上野欧州心臓学会 (ESC) 会期中に 4 人の先生方にお集ま りいただきました 先日の Late breaking clinical trials session では Connolly 先生が

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はじめに 公益財団法人循環器病研究振興財団理事長 山口武典 最近 ヘルスコミュニケーション の重要性が よく指摘されるようになりました 一見 難しそうですが かみくだいていうと よし きょうから 心機一転 健康的な生活に切り替えるぞ という決断 ( 意思決定 ) を促す きっかけ情報 を提供し その

03 【資料1】急性期の診療提供体制構築に向けた考え方(案)_final

リクシアナ錠は 血液を固まりにくくして 血管の中に血栓 ( 血液の塊 ) が できないようにするお薬です リクシアナ錠は 1 日 1 回服用するお薬です 医師の指示通りに毎日きちんと 服用してください しんぼうさいどう 心房細動は 不整脈のひとつです 心房細動になると 心臓が正しいリズムで拍動できな

2019/7/9 市民公開講座 2019 健やかな高齢社会を生きるために心臓を守ろう ~ 心不全を知るコトから始めよう ~ 藤枝市立総合病院循環器内科渡辺明規 2019 年 7 月 7 日藤枝市民会館 1

(2) 確認事項と対処 まず1~3の項目をチェックする 確認事項 対処 1 飲み忘れはなかったか 入院患者でも 服用を目視で確認してない場合は コンプライアンスの状況に注意する 2 併用薬 食事内容に変化はなかったか ビタミンK 含有量の多い食品やいわゆる健康食品などの摂取を十分にチェックする 患者

そして胸痛を訴える患者さんなら早く心電図を見たくなります なおガイドラインでは 胸痛患者さんが ER に到着してから 10 分以内に心電図をとる ようにと記載されています AMI の時は慌てる必要はありませんが 常に時間を意識してスピーディな対応をしましょう 心電図をとるのに前後してモニターの装着も

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第 114 回大阪急性期 総合医療センター治験審査委員会会議記録概要 開催日時 : 2017 年 11 月 15 日 ( 水 ) 16:00~16:30 開催場所 : 大阪急性期 総合医療センター本館 3 階保健教室 出席委員名 : ( 院内委員 ) 谷尾 井上 山口 田尻 勝二 髙野 中島 丸尾

study のデータベースを使用した このデータベースには 2010 年 1 月から 2011 年 12 月に PCI を施行された 1918 人が登録された 研究の目的から考えて PCI 中にショックとなった症例は除外した 複数回 PCI を施行された場合は初回の PCI のみをデータとして用いた

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心臓血管外科 取得可能専門医 認定医及び到達目標など 専門医 認定医 名称 取得年数最短通常 基本となるもの 外科専門医 5 年目 5 年 ~7 年 心臓血管外科専門医 7 年目 7 年 ~10 年 取得可能なもの 循環器専門医 6 年目 6 年 ~10 年 移植認定医 6 年目 6 年 ~10 年


資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

狭心症と心筋梗塞 何を調べているの? どのように調べるの? 心臓の検査虚血チェック きょけつ の きょうさく狭窄のチェック 監修 : 明石嘉浩先生聖マリアンナ医科大学循環器内科

日本心血管インターベンション治療学会 専門医認定医制度審議会活動実績一覧表 本学会関連学会一覧表 2018 年 7 月 6 日現在 Ⅰ-1: 研究業績として認める本学会関連学会 ( 国内 ) 一般社団法人日本内科学会 一般社団法人日本循環器学会 一般社団法人日本心臓病学会 一般社団法人日本下肢救済

年301 番 循環器系の疾患 (Cardiovascular Disease) 責任者: 石原正治主任教授 坂口太一主任教授 内科学循環器内科 朝倉正紀教授 峰隆直特任准教授 内藤由朗講師 赤堀宏洲講師 奥原祥貴講師 織原良行助教 正井久美子助教 増山理特別招聘教授 伊賀幹二非常勤講師 駒村和雄非常

3 病型別 初発再発別登録状況病型別の登録状況では 脳梗塞合計が最も多く 3,200 件 ( 66.7%) 次いで脳内出血 1,035 件 (21.6%) くも膜下出血 317 件 ( 6.6%) であった 初発再発別の登録状況では 初発の診断が 3,360 件 (70.1%) 再発が 1,100

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

大規模臨床データベースにおける プロジェクト設計の評価基準

3 病型別 初発再発別登録状況病型別の登録状況では 脳梗塞の診断が最も多く 2,524 件 (65.3%) 次いで脳内出血 868 件 (22.5%) くも膜下出血 275 件 (7.1%) であった 初発再発別の登録状況では 初発の診断が 2,476 件 (64.0%) 再発が 854 件 (22

ケ心ア房ガ細イド動患者さんとご家族の方へ

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エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

り ( 狭窄といいます ) 血管が急にけいれんして狭くなったり( 攣縮 ) 血の塊( 血栓 ) が出来て詰まってしまうことがあります 冠動脈が狭く十分に心臓の筋肉に血液が供給されない状態で 胸が締め付けられるような感覚 痛みなどを伴った場合 狭心症とよび 循環器専門施設で冠動脈の状態をカテーテルで調

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す 高齢者に多い不整脈でありまして 特に脳梗塞の原因としても重要になってくるわけです ご存知のように脳梗塞はラクナ梗塞 アテローム血栓性脳梗塞 そして心原性脳塞栓 この 3 つの病型に分類されます ラクナは穿通枝ですから小さい梗塞ですけれども アテローム血栓 性脳梗塞は心筋梗塞と同じ様なメカニズムで

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心臓財団虚血性心疾患セミナー ハイリスク患者の術前評価 原和弘 ( 三井記念病院内科 ) はじめに非心臓手術の周術期には, 心筋梗塞, 不整脈, 心不全などの心血管イベントが生じて, 本来の手術以上に危険が生じる可能性があります. このような危険を回避するために, 日本循環器学会, 米国心臓協会,

参考ガイドライン : 2011 Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections CDC 2011 Update to The Society of Thoracic Surgeons and the

脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

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Transcription:

11 抗血栓療法とは, 血栓症の予防 治療を意味する. 抗血栓療法には, 抗血小板療法, 抗凝固療法, 血栓溶解療法が含まれる. 抗血小板療法は血小板の作用を抑制して, 主に脳梗塞, 心筋梗塞, 末梢動脈血栓症などの動脈血栓症の予防に用いられる. 抗凝固療法は, 凝固因子の作用を抑制して, 深部静脈血栓, 肺塞栓症, 心房細動に伴う脳塞栓などの静脈血栓症の予防に用いられる. 一方, すでに発症した血栓症に対する治療法を血栓溶解療法と呼ぶ. 1) 心房細動における脳梗塞発症のリスク評価と抗凝固療法従来から, 心房細動に伴う左房内血栓の発生, それに引き続いて発症する脳梗塞を予防するために, ワルファリンが抗凝固療法の中心的役割を果たしている. しかし, 近年の新しい経口抗凝固薬の登場によって心房細動に対する抗凝固療法の様相は大きく変わりつつある. 日本循環器学会, 日本心臓病学会, 日本心電学会, 日本不整脈学会の 4 学会合同研究班による 心房細動治療 ( 薬物 ) ガイドライン (2013 年改訂版 ) 1 で推奨されている抗凝固療法について述べる. クラスⅠ 脳梗塞や出血のリスク評価に基づいた抗凝固療法の実施 [ レベル A] CHADS2 スコア 2 点以上の場合, 適応があれば新規経口抗凝固薬の投与をまず考慮する [ レベル A] CHADS2 スコア 2 点以上の高リスク患者へのダビガトラン [ レベル B], リバーロキサバン [ レベル A], アピキサバン [ レベル A], エドキサバン [ レベル A], ワルファリン [ レベル A] のいずれかによる抗凝固療法 CHADS2 スコア 1 点の中等度リスク患者へのダビガトラン [ レベル B] か, アピキサバン [ レベル A] による抗凝固療法 ワルファリン療法時の PT-INR を 2.0~3.0 での管理 [ レベル A] 70 歳以上, 非弁膜症性心房細動患者へのワルファリン療法時の PT-INR1.6~ 2.6 での管理 [ レベル B] 腎機能中等度低下例への新規経口抗凝固薬の用量調節 [ レベル A] CHADS2 スコア 1 点の中等度リスク患者へのリバーロキサバン, エドキサバンもしくはワルファリンによる抗凝固療法 [ レベル B] 心筋症,65 歳から 74 歳, もしくは心血管疾患 ( 心筋梗塞の既往, 大動脈プラーク, 末梢動脈疾患など ) のリスクを有する患者への抗凝固療法 [ レベル B] 抗凝固療法の適応に関する定期的再評価 [ レベル A] 心房粗動患者への心房細動に準じた抗凝固療法 [ レベル B] クラス IIb 冠動脈疾患を合併する患者で, 経皮的冠動脈インターベンションや外科的血

12 抗血栓療法中の区域麻酔 神経ブロック : 総論 行再建術を行う際の抗血小板療法と抗凝固療法の併用 [ レベル C] 60 歳未満の孤立性心房細動患者への抗血栓療法 [ レベル C] PT-INR 2.0~3.0 で, 治療中に虚血性脳血管障害や全身性塞栓症を発症した場合の抗血小板薬の追加や,PT-INR 2.5~3.5 でのコントロール [ レベル C] 経口抗凝固薬を投与できない場合の抗血小板薬の投与 [ レベル C] クラス III 機械弁に対するダビガトラン療法 [ レベル B] CHADS2 スコアとは, 心房細動を有する患者で脳梗塞発症のリスクを予測する指標である.Congestive heart failure,hypertension,age>75,diabetes mellitus,stroke/tia の頭文字をとって命名された. 前 4 つの項目は 1 点, 最後の脳梗塞 TIA の既往のみ 2 点とし, 合計 0~6 点となる.CHADS2 スコアと脳梗塞の年間発症率には高い相関がみられる. 一過性脳虚血発作 : TIA:transient ischemic attack 2 2) 弁膜症 1 僧帽弁狭窄症クラス I 心房細動を伴う症例, あるいは血栓塞栓症の既往のある症例に対するワルファリン投与 適切なワルファリン療法が行われていたにもかかわらず, 血栓塞栓症を生じたか, 左房内血栓を生じた心房細動症例に対するアスピリンの併用 適切なワルファリン療法が行われていたにもかかわらず, 血栓塞栓症を生じた症例に対するより高用量でのワルファリン投与, ただし出血のリスクに注意する 経食道エコーで左房内血栓が明らかな PTMC 予定症例におけるワルファリ ン投与. ただしワルファリン投与でも血栓が消失しない場合は PTMC は施行しないクラス IIb 洞調律の僧帽弁狭窄症例で左房径が 55 mm 以下の症例に対するワルファリ ン投与 2 僧帽弁閉鎖不全症と僧帽弁逸脱症クラス I TIA の既往のある僧帽弁逸脱症例に対するアスピリン 50~100 mg の投与 心不全を合併する 65 歳以上の僧帽弁閉鎖不全症に対する PT-INR 2.0~2.5 でのワルファリン投与 血栓塞栓症の既往のある症例に対するワルファリン投与 血栓塞栓症や, 原因不明の TIA の既往がなく, 心房細動もない僧帽弁逸脱症の症例に対しては, いかなる抗血栓療法も行うべきではない. 経皮経静脈的僧帽弁交連切開術 : PTMC:percutaneous transvenous mitral commissurotomy

13 3 僧帽弁輪部石灰化クラス I 血栓塞栓症や, 原因不明の TIA を生じた心房細動のない僧帽弁輪部石灰化症例に対する抗血小板療法クラス IIb 抗血小板薬投与にもかかわらず, 血栓塞栓症や, 原因不明の TIA の再発がみられた僧帽弁輪部石灰化症例に対するワルファリン療法 4 大動脈弁膜症 虚血性脳卒中の既往のある動脈硬化性の大動脈弁病変例に対するアスピリン 50~100 mg/ 日の投与 3) 心臓外科手術 1 人工弁置換術, 弁形成術クラス I 人工弁置換術後 (3 カ月未満 ) の症例に対する PT-INR 2.0~3.0 でのワルファリン投与 僧帽弁形成術後 (3 カ月未満 ) の症例に対する PT-INR 2.0~2.5 でのワルファリン投与 以下の症例 ( 術後 3 カ月以降 ) に対するワルファリン投与 機械弁 AVR+ 低リスク 二葉弁または Medtronic Hall 弁 PT-INR 2.0~2.5 他のディスク弁または Starr-Edwards 弁 2.0~3.0 AVR+ 高リスク 2.0~3.0 MVR 2.0~3.0 生体弁 AVR+ 高リスク 2.0~2.5 MVR+ 高リスク 2.0~2.5 弁形成術 僧帽弁形成術 + 高リスク 2.0~2.5 クラス II 適切なワルファリン療法を行っていたにもかかわらず, 血栓塞栓症を発症した症例に対する PT-INR 2.0-3.0 でのワルファリン投与 適切なワルファリン療法を行っていたにもかかわらず, 血栓塞栓症を発症した症例に対するアスピリン, またはジピリダモールの併用クラス III 機械弁症例にワルファリンを投与しない 機械弁症例にアスピリンのみ投与する 生体弁症例にワルファリン, アスピリンのいずれも投与しない 大動脈弁置換術 : AVR:aortic valve replacement 僧帽弁置換術 : MVR:mitral valve replacement

14 抗血栓療法中の区域麻酔 神経ブロック : 総論 高リスクとは, 心房細動, 血栓塞栓症の既往, 左心機能の低下, 凝固更新状態のいずれかを有する場合をさす. 2 冠動脈バイパス術クラス I アスピリン 81~162 mg/ 日の投与 ( 術後 48 時間以内の投与開始が推奨される ) アスピリン禁忌症例でのチクロピジン, クロピドグレル投与クラス IIb ワルファリンの投与 4) カテーテルインターベンションクラス I PCI に際し, 活性化凝固時間 250 秒以上を目標として未分画ヘパリンの静脈内投与 禁忌のない症例に対するアスピリン(81~330 mg/ 日 ) 投与 ステント留置症例に対するチクロピジンもしくはクロピドグレルのアスピリンとの併用投与 ヘパリン起因性血小板減少症の症例に対するアルガトロバン投与クラス IIb 3 5)PCI に伴う抗血小板療法クラス I アスピリン未服用患者では,PCI 前にアスピリン (81~325 mg) を投与す る ( 少なくとも 2 時間前までの投与が望ましい ). その後,81~162 mg/ 日 を出血のリスクに注意して生涯に亘り継続投与する [ レベル A] クロピドグレル未服用患者では,PCI の少なくとも 6 時間前までに loading dose(300~600 mg) を投与し, その後は, 出血リスクに注意して 75 mg/ 日の投与に移行することが望ましい [ レベル A] ベアメタルステント留置後や薬剤溶出性ステント留置後はアスピリン(81~ 162 mg/ 日 ) とクロピドグレル (75 mg/ 日 ) の併用投与が望ましい. 投与期間は, 前者では少なくとも 1 カ月間, 後者では少なくも 12 カ月間程度の併用投与が推奨される [ レベル A] アスピリン服用の禁忌患者( アスピリン抵抗性, アレルギーなど ) では, クロピドグレルを投与する [ レベル B] クロピドグレル服用の禁忌患者では, チクロピジン (200 mg/ 日 ) を投与す る [ レベル A] 経皮的冠動脈形成術 : PCI:percutaneous coronary intervention 4 6) 静脈血栓塞栓症の薬物的予防法 1 低用量未分画ヘパリン 8 時間もしくは 12 時間ごとに未分画ヘパリン 5,000 単位を皮下注射する. 脊

15 髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔の前後では, 未分画ヘパリン 2,500 単位皮下注射 (8 時間ないし 12 時間ごと ) に減量することも考慮する. 施行対象 : 高リスク症例において単独で使用する. 最高リスク症例では間欠的空気圧迫法あるいは弾性ストッキングと併用する. 2 用量調節未分画ヘパリン最初に約 3,500 単位の未分画ヘパリンを皮下注射し, 投与 4 時間後の APTT が正常上限となるように,8 時間ごとに未分画ヘパリンを前回投与量 ±500 単位で皮下注射する. 施行対象 : 最高リスク症例において, 単独で使用する. 3 用量調節ワルファリンワルファリンを内服し,PT-INR が 1.5~2.5 となるように調節する. 最高リスクにおいて単独で使用する. 開始時期 : 疾患ごとに異なるが, 出血の合併症に十分注意し, 必要ならば手術後 ( なるべく出血性合併症の危険性が低くなってから ) 開始する. 施行期間 : 少なくとも十分な歩行が可能となるまで継続する. 血栓形成のリスクが継続し長期予防が必要な場合には, 未分画ヘパリンはワルファリンに切り替えて継続投与することを考慮する. 活性化トロンボプラスチン時間 : APTT:activated partial thromboplastin time 参考文献 1. 日本循環器学会, 日本心臓病学会, 日本心電学会, 日本不整脈学会合同研究班 編 : 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2012 年度合同研究班報告 ): 心房細動治療 ( 薬物 ) ガイドライン (2013 年改訂版 ).2014.1 2. 日本循環器学会, 日本冠疾患学会, 日本胸部外科学会, 日本血栓止血学会, 日本小児循環器学会, 日本神経学会, 日本心血管インターベンション学会, 日本人工臓器学会, 日本心臓血管外科学会, 日本心臓病学会, 日本脳卒中学会, 日本脈管学会, 日本臨床血液学会合同研究班 編 : 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2008 年合同研究班報告 ): 循環器疾患における抗凝固 抗血小板療法に関するガイドライン (2009 年改訂版 ). 2015/10/7 更新版 3. 日本循環器学会, 日本冠疾患学会, 日本冠動脈外科学会, 日本胸部外科学会, 日本心血管インターベンション治療学会, 日本心臓血管外科学会, 日本心臓病学会, 日本糖尿病学会合同研究班 編 : 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2010 年度合同研究班報告 ): 安定冠動脈疾患における待機的 PCI のガイドライン (2011 年改訂版 ) 4. 日本循環器学会, 日本心臓病学会, 日本胸部外科学会, 日本心臓血管外科学会, 日本静脈学会, 日本呼吸器学会, 日本血栓止血学会合同研究班 編 : 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2008 年合同研究班報告 ): 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン (2009 年改訂版 )