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270 廃棄物資源循環学会誌,Vol. 29, No. 4, pp. 270-277, 2018 特集 : 海洋プラスチックごみ 磯辺篤彦 * 要旨 東アジアや東南アジアから発生する大型プラスチックごみ ( マクロプラスチック ) は, 世界の合計値の 55 % を占める マクロプラスチックの海洋での移動は海流と風による 海洋に流出したマクロプラスチックは, 海岸に漂着したのち, 紫外線や物理的な刺激によって破砕され, プラスチック微細片 ( マイクロプラスチック ) となる 海洋に浮遊するマイクロプラスチックは海流とストークス ドリフトによって輸送されるが, 生物付着に伴う沈降等, 表層からのさまざまな消失過程を伴う マイクロプラスチックの行方, すなわち海洋での移動や消失過程を包括する海洋プラスチック循環の全容は, まだ解明されていない キーワード : マクロプラスチック, マイクロプラスチック, 海洋プラスチック循環 1. はじめに 人為的な海岸漂着ごみのうち,70 % ( 個数比 ) 程度は廃プラスチックである 1) 海水よりも軽く自然に分解しづらいプラスチックは, 海面近くを漂いつつ風や海流で遠くに運ばれるため, 漂流 漂着ごみとなる条件をよく満たすのであろう われわれの研究グループは, 環境省の研究助成 ( 地球環境研究総合推進費 :2007 2009 ( 平成 19 21) 年, 環境研究総合推進費 :2010 2012 ( 平成 22 24) 年, 同 :2015 2017 ( 平成 27 29) 年 [ 研究代表は筆者 ]) を受け, 海洋科学の立場から海洋プラスチックごみの輸送過程に関する研究を推進してきた この未開拓のテーマについて, 国内外の大勢の研究者から助言を受けつつ積みあげた成果は, 当該研究分野の最先端といってよいと思う コンピュータ シミュレーショ 2,3) ンを使った漂流予報や, 海岸に設置したライブカメ 4,5) ラ ( ウェブカメラ ) による海ごみ監視技術の確立, あるいは海岸漂着したプラスチックごみから生成される 6,7) マイクロプラスチックの輸送過程等, これまで多くの論文が国際学術誌に公表され, これら研究は,2018 ( 平成 30) 年度から実施される環境省環境研究総合推進費 / 戦略的研究開発 II ( プロジェクトリーダーは筆者 ) 原稿受付 2018. 5. 31 * 九州大学応用力学研究所 連絡先 : 816-8580 福岡県春日市春日公園 6-1 E-mail : aisobe@riam.kyushu-u.ac.jp において, さらなる発展が期待されている 人目につきやすく海岸景観を損ねる大型の漂着プラスチックごみ ( 以降, マクロプラスチック ) については, 十分な効果とはいえないまでも, 国や地方自治体が主管する海岸清掃事業等を通して対策が講じられてきた NPO による海岸清掃活動や啓発活動も地道な継続をみせている ところが, マイクロプラスチック ( メソやナノプラスチックの意味を含める ) は, 目につきにくいこともあって, それらの存在が広く社会に認識されたのは最近のことである 社会的な認識のみならず,Web of Science や Scopus 等でキーワード検索をかければ, 関連する研究論文の増加は, せいぜい過去 5 年以内であることがわかる ところが,Carpenter ら 8) が最初に海域での浮遊を報告したマイクロプラスチックは, その後に海洋や海岸に広く分布することがわかるにつれて研究者の関心を集め, 今では関連する研究論文が週に一編以上のペースで発表されるに至った 9) 海洋を漂流するマクロプラスチックの輸送 ( 移動と行方 ) は, 海流と海上風に支配される 海面下を移動するマイクロプラスチックは, 直接に風の影響を受けることはないが, 海洋最上層の乱流や波浪の影響に加え, 後述するように表層からのさまざまな消失過程を伴う 物理的輸送や消失過程を包括した 海洋プラスチック循環 への理解は, 上述のとおり研究の歴史が極めて浅く, 全容解明には程遠いのが現状である したがって現状では, 将来のマイクロプラスチックの海域浮遊量を予測することが難しく, たとえば室内実験で得た海洋生物 海洋生 12

271 態系へのリスク評価も, 現実に敷衍しづらい 本稿では, 海洋プラスチック循環の解明に向けたわれわれの取り組みを紹介する チックごみに対し, すでに相応の寄与をしているはずである 加害 被害の視座を超えて, 海洋プラスチック汚染は人類共通の問題との認識が必要であろう 2. 海洋プラスチックごみの発生 2. 1 マクロプラスチックの発生 Jambeck ら 10) は, 不適切な処理や投棄によってリユースやリサイクルの経路に乗らない廃棄プラスチック (mismanaged plastic wastes) の国別発生量を推算している さらに, このうち 15 40 % が海洋を漂流 漂着するマクロプラスチックになると考えた 廃棄プラスチック発生量の国別ランキング (2010 年現在の重量 / 年 ; 表 1) をみれば, 中国の年間 900 万 ton 弱は別格としても, 東南アジア 5 カ国 ( 下線 ) が上位 10 位以内に入る 中国と東南アジア各国を合算した年間の発生重量は1,772 万 ton 程度であって, これは全世界の合計である約 3,200 万 ton の 55 % を占める わが国にとっては, 海流 ( 黒潮 対馬暖流 ) の上流部から, 全世界の半数強に及ぶ廃棄プラスチックが流れ出すのである もちろん, 年間投棄重量の推算にあたってはさまざまな仮定が必要であり, 海洋プラスチックごみの発生量推定には, さらなる算定モデルの精緻化が求められる それでも, 同じ仮定のもと推算された世界の半数強を占める東アジアや東南アジアの負荷量は, どのような算定モデルであっても相対的に高くなることは想像できる わが国で年間に回収される廃プラスチックのうち 15 % 程度は輸出に回されている 11) 海外での発生量には, 日本で消費され輸出されたプラスチックも含まれるはずである 何よりも, わが国は他のアジア諸国に先駆けて経済発展を達成し, 経済規模に応じたプラスチックの消費を続けてきた ほとんど自然で分解することのないプラスチックであれば, いま地球を循環する海洋プラス 2. 2 マイクロプラスチックの発生海岸に漂着したマクロプラスチックを半年ほど放置しておけば, 紫外線や寒暖差による劣化が十分に進行し 12), これに海岸砂との摩擦等の物理的な刺激が加わることで破砕が進行する たとえば, 海岸に散乱するプラスチックフロートの断面には,100 μm 程度の細かな傷が散見される ( 図 1) 13) 同じ期間を陸に置いたものに比べ, 海中に置いた場合はプラスチック劣化の進行は遅い 12) そもそも海中であれば, 水温は気温ほど変動しないし, 物理的な刺激は海岸に比べて弱い これらを勘案すれば, マイクロプラスチックの生成は漂流中ではなく, 主として漂着後の海岸であると考えられる たとえば新島の和田浜海岸では, 漂着マクロプラスチックの平均滞留時間 ( 漂着から海へ再漂流するまでの時間 ) は約半年と見積もられている 14) この期間は, 海岸の地形条件や, 気象 海象条件にも依存するだろうが, 漂着マクロプラスチックが劣化するのに十分な時間である また, マイクロプラスチックの海岸での平均滞留時間は 8 51 日と見 表 1 国別の海洋投棄プラスチック重量 (10 位まで ; Jambeck ら 10) による ) 順位 国名 2010 年の重量 (ton/ 年 ) 1 中国 8,819,717 2 インドネシア 3,216,856 3 フィリピン 1,883,659 4 ベトナム 1,833,819 5 スリランカ 1,591,179 6 タイ 1,027,739 7 エジプト 967,012 8 マレーシア 936,818 9 ナイジェリア 851,493 10 バングラディシュ 787,327 図 1 石垣島の海岸に散布する塩化ビニル製の漁業用フロート ( 上 ) と切断断面の拡大写真 ( 下 ) 拡大写真の下向き三角形位置に破砕の痕跡が観察される 13) 13

272 磯辺篤彦 積もられていて 15), この間にも劣化や破砕は進行し, さらに細かな小片へと変化していくと考えられる このように, マクロプラスチックが漂流と海岸漂着, そして再漂流を繰り返すことで, 次第に細かなマイクロプラスチックが生成されるのであろうが, この一連の過程に要する期間等, 詳細な生成機構については, ほとんど研究が進んでいない たとえプラスチック材料工学の専門家であっても, マイクロプラスチックに至るまでの劣化は, これまで研究の動機づけがなかったであろう ただ, 世界の海洋における浮遊マイクロプラスチックの現存量 (3.) を勘案すれば, プラスチック製品が世界に出回っ 16) てのち約 60 年という期間は, 廃プラスチックが海洋に流出し, 大量のマイクロプラスチックが形成され, そして海洋に広く浮遊するには十分であった 3. 海洋プラスチックごみの移動 3. 1 マクロプラスチックの移動マクロプラスチックは, 主には海流と風によって, 投棄された場所から遠くの海岸に運ばれる 寄せては返す波 ( 風波やうねり ) は海面で最も目立つ運動だが, 寄せては返す過程で漂流物の移動距離が相殺されるため, さほど浮遊物の漂流に重要ではない 海面に浮かぶマクロプラスチックは, 水中に没した部分に海流の圧力を, 空中に出た部分に風の圧力を受けて漂流する 大抵の場合, 風速は海流の速さより一桁は大きい したがって, 空中に出た容積 ( 厳密には, 風向に垂直な投影面積 ) の大きなマクロプラスチックほど動きが速い たとえば漁業ブイは, 容積のほとんどを空中に出して漂流するため, 風によって速やかに運ばれていく 一方で, 口の空いたビンやペットボトルは, 中に海水が入り込むことで海面下に沈み, 海流に押されてゆっくりと漂流する 17) 風と海流は必ずしも同じ向きとは限らない 冬季の東アジアでは, 北西や北東からの季節風が卓越する一方で, 黒潮や対馬暖流は風に逆らうように南西から北東へと向かう このとき, 海面を漂流するマクロプラスチックは, 海面下に沈む容積の違いによって, 漂流速度や行き先を変える たとえば, 北風が続く冬の日本海に面した海岸では, 水面に浮かぶ漁業ブイやポリタンクの大量漂着が起こりやすい 一方で, レジ袋等, 海面下を漂流するマクロプラスチックは, 海岸に漂着することなく, 対馬暖流に乗って北上を続けるであろう その結果, 記載文字より中国や韓国で投棄されたと推測されるマクロプラスチックが, 遠く離れた日本海北部の海岸で見つかることも珍しくない 現代の海洋学や気象学をもってすれば, 海流や風に運 ばれる漂流物の起源地推定や, 数週間程度までの漂流予測は, 実のところそれほど難しくはない 現在では, 世界の海で活躍する海洋観測ロボット ( アルゴ フロート ) が既に 3,500 基を超えた これらは, 大洋を海流に流されながら, 海面から深海までの昇降を繰り返し, その間に観測した水温 塩分データを, 人工衛星を介して陸上局へ配信する あるいは, 人工衛星による地球観測網は, 世界の海の海面水温や水位分布を常に監視している そして, これら膨大な観測データを利用することで, 計算誤差を自律的に軽減する機能を備えた, 海流のコンピュータ シミュレーションが運用されている 現在, われわれは, この同化プロダクトと呼ばれるシミュレーションの出力結果を, インターネットを介して手に入れ, 時々刻々と変化する全地球上の海流分布 ( 流速や流向分布 ) を, オフィスにいながら観測することができる また, 海上を吹く風については, むしろ海流に先んじて同化プロダクトの整備が進んでいる そして, これら同化プロダクト, すなわちコンピュータの中に作られた もう一つの地球 における海流や風の分布を解析することで, 現実に漂流物が移動する様子を再現し, あるいは予測する試みが行われている 2,3) ただ, マクロプラスチックの漂流計算には, 海面下に沈む容積の推定が厄介な問題として残される 雑多なマクロプラスチックが海面に浮き沈みする程度は多様だろうし, 特定のプラスチックごみであっても, 漂流が長引くにつれて, 海面下に沈む容積が変わることもある 海面下に沈む容積によって, 漂流に対する海流と風の寄与が変わり, これによってマクロプラスチックの行方が大きく左右される 海洋観測ロボットや人工衛星, さらには同化プロダクトといった最新技術があっても, マクロプラスチックが海面下に沈む容積の推定値といった地道な統計量がない限り, マクロプラスチックの起源地推定や漂流予報には不確実さが残る 3. 2 マイクロプラスチックの移動 3.2.1 浮遊マイクロプラスチックの現存量マイクロプラスチックの移動を解説する前に, まず, 現状での海域浮遊量について整理しておこう われわれは 2014 年から環境省の助成を得て, 東京海洋大学練習船 海鷹丸 と 神鷹丸 の 2 隻を運用する体制で, わが国沖合の浮遊調査を実施している この沖合調査は, 2017 年から, 北海道大学, 長崎大学, そして鹿児島大学も参加して 5 隻体制に拡大された 世界でも, これだけの規模で組織だった観測を継続している例はなく, わが国は海洋プラスチック汚染研究で疑いなく先端的である これらの調査結果は, 環境省ウェブサイト (http : 14

273 //www. env. go. jp/press/100893. html) で公開されるとともに,Isobe ら 18) 等, 学術論文の基礎資料として利用されている 加えて, 環境省環境研究総合推進費の助成を受けて, 筆者たちの研究グループは, 浮遊マイクロプラスチック調査を世界で初めて南極海で成功させ (Isobe ら 19) ), また, 南極海から東京に至る西太平洋の南北横断調査も行った マイクロプラスチックの採集は, 動物プランクトンや稚仔魚のネット採集に準拠している 筆者たちは, 目合い 0.3 mm の網を船で曳きつつ, 網を通過した海水ごとマイクロプラスチックをこし採った 浮遊するマイクロプラスチックは, ほとんどがポリエチレンやポリプロピレンで海水よりも軽いため, 網は海面近く ( 海面から深さ 1m 程度 ) に固定した これらの調査結果によれば, 日本近海の東アジア海域は, 特に重点的に調査が行われた夏季において, 浮遊マイクロプラスチックのホット スポットである 海面近くの海水 1 m 3 あたりに浮遊する個数 ( 以降, 浮遊密度 ) は3.7 個を数え, この値は他海域と比べて一桁高い ( 表 2) 水深方向に積分をした海表面 1 km 2 あたりの浮遊個数に換算しても, 世界の海洋における平均値の 27 倍である ( 図 2) 18) 南極海における浮遊密度は, 東アジア海域に比べて 2 桁は少ないものである ( 表 2) 浮遊するサイズ ( 最大長さ ) は, ほとんどが 2mm 以下で, これは他の海域と比べてかなり小さい 19) このことは, 採取したマイクロプラスチックの多くが, 長い年月をかけて漂流と漂着を繰り返し, その過程で十分に微細片化が進行したことをうかがわせる このように, 生活圏から最も遠い南極海ですら, マイクロプラスチックの浮遊が確認された すでに世界の中でプラスチック片が浮遊しない海など存在しないのだろう 実際に, 太平洋や大西洋, あるいはインド洋の中央であろうと, 浮遊するマイクロプラスチックが発見されているのである 20) 3.2.2 マイクロプラスチックの輸送過程海洋を漂流するマイクロプラスチックの分布は, おそらく物理的な輸送過程, すなわち海流や波浪だけでは決まらない ただ研究の歴史は極めて浅く, 海流や波浪の 表 2 マイクロプラスチックの観測浮遊密度 (Isobe ら 19) による ) 海 域 浮遊密度 ( 個 m 3 ) 東アジア海域 3.70 北大西洋 ( 収束域 ) 1.70 瀬戸内海 0.39 北極海 0.34 地中海 0.15 北太平洋 0.12 南極海 0.031 図 2 海表面 1 km 2 あたりに浮遊するマイクロプラス 18) チックの浮遊個数 みで輸送過程を論じた研究すら,Isobe ら 6) を嚆矢として, 続く Sherman ら 21), Cozar ら 22), そして Iwasaki ら 7) 等いくつかを数えるのみである そもそも輸送過程を論じようにも, 単に浮遊マイクロプラスチックの発見に留まるのではなく, その分布を定量的に組織的に観測した研究例は多くない それでも, 断片的な観測結果をもとにして, 海洋でのマイクロプラスチックの輸送過程が明らかになりつつある しかし同時に, データが積みあがるに伴って, 私たちの海洋プラスチック循環に対する理解は極めて不十分との認識も広がりつつある ( 詳しくは 4.) 本章での解説は物理的な輸送過程に限定する まず鉛直 ( 水深 ) 方向の輸送である 日本周辺でみる限り, マイクロプラスチックの 80 90 % は, 海水よりも比重の小さなポリエチレンやポリプロピレンである 6) したがって, 海が静穏ならば, 上向浮上速度をもつマイクロプラスチックは海面近くを漂うであろう もちろん, 実際の海洋表層には物質を上下に攪拌する作用 ( 乱流鉛直混合 ) がある その結果, マイクロプラスチックの浮遊密度は海面から指数関数的に減少し, 浮遊層は海面から深さ 1m 程度までに集中するようである 23,24) ただし, マイクロプラスチックの鉛直分布は観測時の波高や風速 ( すなわち, 乱流鉛直混合の程度 ) に依存する したがって, 海域で採集したマイクロプラスチックの浮遊密度は, その場限りのものであって, 同じ位置でも他の観測日との比較や, あるいは他海域との比較はあまり意味がない Isobe ら 18) は, 観測時の風速や波高データを用いて, 水深方向の鉛直積分値 ( 単位は, たとえば mg km 2 や浮遊数 km 2 ) を求め, この鉛直混合に依存しない積分値を利用した海域比較や季節変動の検証, あるいは統合データセットの作成を提案している 続いて水平方向の輸送について解説する 瀬戸内海で 15

274 磯辺篤彦 4. おわりに 海洋プラスチックごみの行方 図 3 6) 海洋でのマイクロプラスチックの輸送過程 実施した観測結果を踏まえて,Isobe ら 6) は, 海洋におけるマイクロプラスチックの漂流モデル ( 図 3) を提案した 比重の小さなマイクロプラスチックは, 海水中で浮力を得て上昇する その速さ ( 終端速度 ) は, 浮力と周辺海水による摩擦力の平衡で決まる 小さな物体ほど, 体積のわりに表面積が大きいため, 浮力よりも摩擦力が効いて上向きの終端速度が小さくなる よって, 波や風による乱れが強い海洋最表層で, 終端速度の小さなマイクロプラスチックは深い層を漂流し, 一方で比較的大型のプラスチック片 ( メソプラスチック ) は海面近くを漂う傾向にある さて, 海上で寄せては返す波は, 海水を完全には返しきらず, 結果として波の寄せる方向に緩やかな流れを生むことがある この流れがストークス ドリフトである 総じて浅海の波は海岸へ向かうため, ストークス ドリフトも岸に向かう 風波に伴うストークス ドリフトは海面で最速となり, 下層にいくほど速度を落とす 結果として, 海面近くを漂うメソプラスチックは, 速いストークス ドリフトによって選択的に海岸へと流れ寄せられる 海岸近くまで寄せたメソプラスチックには漂着機会が増える 漂着すれば紫外線や寒暖差で劣化が進行し, 加えて海岸砂との摩擦等, 物理的な刺激でマイクロプラスチックに破砕されていく 小さなマイクロプラスチックになってしまえば, 波にさらわれて再び海へと漂流を始め, 今度はストークス ドリフトに運ばれることなく, 海流によって海岸を離れ遠く沖合へ向かう 海洋は, メソプラスチックをマイクロプラスチックへと, 効率よく 変換する機能をもつのである 沿岸海洋だけではなく, このような海流と波浪の複合的な輸送過程は, 日本海におけるマイクロプラスチック分布をよく説明した 7) 自然で分解しづらいプラスチックごみであれば, 次第に破砕が繰り返されることで地球に蓄積するマイクロプラスチックが, 今後も増え続けることは疑いない しかし, 今のところ私たちは, マイクロプラスチックが地球のどこを循環し, どこに滞留するのか明快に答えることができない 実海域から採集したマイクロプラスチックの浮遊密度を, サイズごとにプロットしてみよう ( 図 4) サイズが小さくなるほど, 浮遊密度 ( 棒グラフ ) の増加が著しい 一片のプラスチックが破砕を繰り返せば, 次第に細片数は増えていくだろう したがって, この浮遊密度の増加は当然である ここで,5 mm サイズのマイクロプラスチック ( 図 4の白丸の位置 ) の総体積 ( プラスチック密度を一定とすれば総質量 ) を計算する 続いて, この総体積を一定に保ったまま破砕が繰り返されると仮定し, サイズの減少に応じた浮遊密度を求めた ( 図中の破線 ; サイズを直径, その 1/10 を高さとした円柱換算で体積を計算 ) すなわち破線は,5 mm サイズの浮遊密度から期待される, 各サイズの浮遊密度である サイズが1mm 程度までは, 棒グラフは破線の変化におおむね対応している ところが,1 mm を下回ったあたりから両者の乖離が目立つ 海面近くで採取された 1 mm 以下のマイクロプラスチックは, 期待されるよりも, はるかに少ない浮遊密度であった 不用意に捨てられたプラス サイズ ( 横軸 ) の区切り線は 0.1 mm 刻み 破線は本文参照 図 4 東アジア海域で採集したマイクロプラスチックの 18) サイズ別浮遊密度 16

275 文献 31) に加筆図 5 消失過程 (sink) と生成過程 (source) を含む海洋プラスチック循環の模式図 チックごみは, 小河川から大河川へと移行し, ついには海洋に至る その後は漂流と漂着を繰り返しつつ, マクロプラスチックからマイクロプラスチックに破砕を続け, そして私たちの前から姿を消すのである 1 mm 以下のマイクロプラスチックは, どこへ消えたのであろうか 一つの可能性は, 採集からの漏れである 網の目合いよりも小さな浮遊物は, 採集されず網をくぐり抜けてしまう ( 図 4の横軸下限も, 目合いの 0.3 mm であることに注意 ) たとえ最大長さが 0.3 mm より長くとも, 細長い形状であれば網をすり抜けることができる ただ, 目合いの 3 倍である 1 mm からの浮遊密度の急減は, いくぶん大きすぎるようにも思われる 実際に, 生物起源の微細片は, プラスチックのように 1 mm 以下で急減しないとの報告もある 20) それでも, やはり 1 mm 以下の浮遊密度の急減は, 採集の漏れによるのかもしれない もしそうならば, 微細なマイクロプラスチックは, 私たちの算定をはるかに超えて ( 図 4 破線を参照のこと ), 膨大な数で海面近くを浮遊していることになる ただ残念ながら,0.3 mm を下回るような微細なマイクロプラスチックを採集し, 計量する手法は未だ確立していない 海洋プラスチック汚染研究にとって大きな課題である 一方でマイクロプラスチックの海洋表層からの消失も, 浮遊量を考慮するにあたって重要な過程であろう 海洋を長く漂ううち, 生物が表面に付着することで重くなったマイクロプラスチックは, 次第に沈降を始めるとの報告がある 25) 体積 表面積比の大きな微細マイクロプラスチックほど, その効果も大きいだろう あるいは, 海 26-28) 洋生物が摂食したのち, 糞や死骸 ( 海洋学ではデトリタスと呼ぶ ) に混じって沈降するのかもしれない 実際に, 浮遊密度が急減する 1 mm は, 動物プランクトンの大きさに近い 高緯度では海氷への取り込みが報告されている 29) 砂浜海岸での吸収も無視できない 30) 廃プ ラスチックの流出と, マイクロプラスチックの生成過程, 海流や波浪による輸送過程, 漂着 再漂流といった海岸との交換過程, そして, これら消失過程を包括する海洋プラスチック循環の解明が, 浮遊濃度の将来予測には重要であろう しかし, ほとんどの過程は未解明かあるいは研究が未着手であり, まさに海洋学にとってプラスチック循環の解明は新たな挑戦なのである このような状況を踏まえてわれわれは, 環境省環境研究総合推進費戦略的研究開発 II 海洋プラスチックごみに係る動態 環境影響の体系的解明と計測手法の高度化に係る研究 として, 海洋プラスチック循環 ( 図 5) の解明と将来予測, これを踏まえた海洋生物や生態系へのリスク評価, そしてモニタリングの高度化を含む総合的な海洋プラスチック汚染の研究プロジェクトを開始した 謝辞本稿で言及したわれわれの研究の大半は, 環境省環境研究総合推進費 (4-1502) および同戦略的研究開発 II による 参考文献 1) J. G. B. Derraik : The Pollution of the Marine Environment by Plastic Debris : AReview, Marine Pollution Bulletin, Vol. 44, pp. 842-852 (2002) 2) S. Kako, A. Isobe, S. Seino, and A. Kojima : Inverse Estimation of Drifting-object Outflows using Actual Observation Data, Journal of Oceanography, Vol. 66, pp. 291-298 (2010) 3) S. Kako, A. Isobe, S. Magome, H. Hinata, S. Seino and A. Kojima : Establishment of Numerical Beach Litter Hindcast/Forecast Models : An Application to Goto Islands, Japan, Marine Pollution Bulletin, Vol. 62, pp. 293-302 (2011) 4) S. Kako, A. Isobe and S. Magome : Sequential Monitoring of Beach Litter using Webcams, Marine Pollution 17

276 磯辺篤彦 Bulletin, Vol. 60, pp. 775-779 (2010) 5) S. Kako, A. Isobe, T. Kataoka, K. Yufu, S. Sugizono, C. Plybon and T. A. Murphy : Sequential Webcam Monitoring and Modeling of Marine Debris Abundance, Marine Pollution Bulletin, doi : 10.1016/j. marpolbul. 2018.04.075 (2018) 6) A. Isobe, K. Kubo, Y. Tamura, S. Kako, E. Nakashima and N. Fujii : Selective Transport of Microplastics and Mesoplastics by Drifting in Coastal Waters, Marine Pollution Bulletin, Vol. 89, pp. 324-330 (2014) 7) S. Iwasaki, A. Isobe, S. Kako, K. Uchida and T. Tokai : Fate of Microplastics and Mesoplastics Carried by Surface Currents and Wind Waves : A Numerical Model Approach in the Sea of Japan, Marine Pollution Bulletin, Vol. 121, pp. 85-96 (2017) 8) E. J. Carpenter and K. L. Smith Jr. : Plastics on the Sargasso Sea Surface, Science, Vol. 175, pp. 1240-1241 (1972) 9) L. G. A. Barboza and B. C.G. 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277 Three-dimensional Distribution of Plastic Pellets in Sandy Beaches : Shifting Paradigms, Scientific Reports, Vol. 4, 4435 (2014) 31) B. D. Hardesty, J. Harari, A. Isobe, L. Lebreton, N. Maximenko, J. Potemra, E. van Sebille, A. D. Vethaak and C. Wilcox : Using Numerical Model Simulations to Improve the Understanding of Micro-plastic Distribution and Pathways in the Marine Environment, Frontiers in Marine Science, Vol. 4, 30, doi : 10. 3389/fmars. 2017. 00030 (2017) Occurrence, Transport, and Fate of Marine Plastic Debris Atsuhiko Isobe Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University (6-1 Kasugakouen, Kasuga-shi, Fukuoka 816-8580 Japan) Abstract Mismanaged plastic wastes generated in East and Southeast Asian countries account for 55% of the worldʼs total amount of macroplastics. These macroplastics released into the ocean environment are being carried by ocean currents and wind (i. e. lee-way drift) on the surface of the sea. In the ocean, they are then gradually fragmentized into microplastics due to their being exposed to ultraviolet radiation and mechanical erosion on beaches. Pelagic microplastics are carried by ocean currents and the Stokes drift in conjunction with removal processes such as settling due to biofouling. The fate of microplastics in the circulation of ocean plastics, including both physical transport and removal processes, remains unknown. Keywords : macroplastics, microplastics, ocean plastic circulation 19