地 盤 品 質 判 定 士 通 信 40 地 盤 品 質 判 定 士, 地 盤 品 質 判 定 士 補,ならびに 判 定 士 協 議 会 関 係 者 の 皆 様 へ 地 盤 品 質 判 定 士 による 熊 本 地 震 地 盤 災 害 現 地 調 査 速 報 平 成 28 年 4 月 14 日 ( 前 震 )と 16 日 ( 本 震 )の 地 震 によって, 熊 本 から 大 分 にかけての 広 い 範 囲 で 甚 大 な 被 害 を 被 りました 直 接 の 被 災 および 関 連 で 亡 くなられた 方 々に 深 く 哀 悼 の 意 を 表 しますとともに, 被 災 者 の 皆 様 に 心 よりお 見 舞 い 申 し 上 げます 当 該 地 震 では 多 くの 戸 建 て 住 宅 が 被 災 しており 胸 が 痛 みます 今 回, 地 盤 品 質 判 定 士 の 大 久 保 拓 郎 氏 が 現 地 調 査 速 報 を 寄 稿 してくれましたので, 判 定 士 通 信 40 としてお 届 けします 寄 稿 文 は 次 ページをご 参 照 ください なお,( 公 社 ) 地 盤 工 学 会 では, 本 地 震 災 害 の 社 会 的 重 要 性 に 鑑 み, 九 州 地 方 を 中 心 とした 産 学 のメンバーからなる 平 成 28 年 熊 本 地 震 地 盤 災 害 調 査 団 ( 団 長 : 北 園 芳 人 熊 本 大 学 名 誉 教 授 )を 編 成 して, 現 地 調 査 を 実 施 して,4 月 27 日 ( 水 )14:30~16:30 に 福 岡 市 立 中 央 市 民 センター 3 階 ホールにおいて, 速 報 会 熊 本 地 震 地 盤 災 害 説 明 会 被 害 の 状 況 とこれから 私 たちが 気 をつける こと を 実 施 しています 下 記 URL 参 照 https://www.jiban.or.jp/index.php?option=com_content&view=article&id=1847:20160427ku mamoto-jisinsaigaihokokukai&catid=52:2008-09-15-02-30-46&itemid=29 上 記 サイトでは 当 日 の 説 明 資 料 (ppt)の pdf 版 が 公 開 されています 併 せて 参 考 にして 下 さい 追 伸 地 盤 品 質 判 定 士 通 信 は, 関 係 者 の 情 報 交 換 の 場 です 地 盤 品 質 判 定 士 の 方 々からの 寄 稿 を 歓 迎 致 します 2016 年 5 月 2 日 ( 月 ) 地 盤 品 質 判 定 士 協 議 会 事 務 局 -1-
平 成 28 年 熊 本 地 震 災 害 調 査 速 報 平 成 28 年 4 月 30 日 地 盤 品 質 判 定 士 大 久 保 拓 郎 平 成 28 年 4 月 14 日 から 16 日 にかけて 熊 本 県 を 中 心 に 九 州 地 方 を 襲 った 地 震 は 平 成 28 年 熊 本 地 震 と 命 名 され, 熊 本 県 を 中 心 に 大 規 模 な 被 害 が 発 生 した 活 断 層 の 活 動 状 況 や 土 砂 災 害 建 物 の 被 害 などについては, 各 種 団 体 が 精 力 的 に 調 査 を 行 っているが, 宅 地 地 盤 の 観 点 からも 被 災 状 況 を 確 認 する 必 要 があると 考 えて,4 月 23 日 に 半 日 程 度 ではあるが 現 地 調 査 を 行 った 調 査 範 囲 も 精 度 も 不 十 分 なものではあるが, 今 後 現 地 で 調 査 を 行 う 際 の 一 助 になればと 考 えて, 速 報 を 公 開 する 調 査 ルート 今 回 の 調 査 ルートを Figure 1~Figure 3 に 示 す 熊 本 空 港 から 初 めに 益 城 町 に 向 かい, 次 いで 白 川 沿 いに 阿 蘇 へ 向 かったのち 熊 本 市 街 地 へ 向 かう, 延 長 約 80km の 調 査 行 となった なお, 被 災 地 では 空 き 巣 が 頻 発 しており, 県 外 ナンバーの 車 で 移 動 しながら 写 真 撮 影 をし ていると 警 官 に 声 をかけられる 今 後 調 査 される 方 には, 名 刺 のほかに, 学 会 の 会 員 証 な どを 携 行 することをお 勧 めする 今 回 は 市 街 地 では 車 内 からの 撮 影 を 行 った Figure 1 調 査 ルート( 広 域 図 ) 1
Figure 2 調 査 ルート( 拡 大 図 ) Figure 3 調 査 ルート( 詳 細 図 ) 基 図 には 地 理 院 地 図 色 別 標 高 図 (いずれも 国 土 地 理 院 )を 使 用 2
被 災 状 況 益 城 町 周 辺 熊 本 空 港 のターミナルビルが 被 害 を 受 けているため, 熊 本 空 港 発 着 便 は 減 便 となってい た 熊 本 空 港 に 着 く1 時 間 くらい 前 から, 空 港 では 使 えるトイレが 少 ないため, 出 来 るだ け 機 内 で 済 ませるようにとのアナウンスが 繰 り 返 される 熊 本 空 港 のターミナルは, 益 城 町 に 所 在 している 益 城 町 は 木 山 川 沿 いの 低 地 と,その 両 岸 に 広 がる 丘 陵 地 に 広 がっている 右 岸 側 の 丘 陵 地 に 位 置 する 空 港 から 益 城 町 の 中 心 部 へ 向 けて 南 下 すると,すぐに 見 慣 れない 光 景 が 視 界 に 入 る のり 面 の 崩 壊 や 倒 れた 墓 石 などは, 地 震 災 害 の 現 場 ではよく 目 にするが, 写 真 1 2 のように, 間 知 ブロックの 擁 壁 が 裏 込 めコンクリートごと 叩 き 壊 されたように 崩 れている のは 初 めて 見 る 現 象 である 見 たところ, 盛 土 の 崩 落 による 土 圧 で 破 壊 されているのでは なく, 加 速 度 によって 擁 壁 が 直 接 壊 されたように 見 受 けられる 丘 陵 地 から 低 地 へ 下 る 道 は, 緊 急 工 事 で 復 旧 した 跡 が 見 える( 写 真 3) この 道 は 益 城 町 の 最 大 の 避 難 所 である 総 合 体 育 館 へのアクセス 道 路 であるため, 優 先 度 が 高 かったと 推 測 される 低 地 に 降 りると 一 面 に 田 んぼが 広 がり,もともと 家 屋 は 存 在 していない 堤 防 や 畔 には 写 真 4 のような 液 状 化 の 痕 跡 が 点 在 している 益 城 町 の 役 場 がある 市 街 地 へは 車 で 入 るルートが 見 つからないため, 丘 陵 地 の 縁 に 沿 っ て 右 岸 側 を 上 流 へと 向 かう ある 程 度 の 高 さのある 擁 壁 は,ほとんどが 損 傷 しているよう に 見 受 けられた 家 屋 は, 屋 根 のブルーシートを 除 くとほとんど 損 傷 のないように 見 える 建 物 もあるが, 写 真 8 のように 比 較 的 新 しいのに 全 壊 している 建 物 も 多 い この 辺 りはほ とんどの 家 が 在 来 工 法 のようである また, 土 壁 の 納 屋 や 倉 は 大 半 が 損 傷 を 受 けているよ うに 見 えた 木 山 川 を 越 える 橋 は, 橋 台 で 段 差 が 生 じて 通 行 できない 箇 所 が 多 く,なんとか 通 れる 橋 を 探 して, 断 層 露 頭 を 確 認 しながら 左 岸 側 にわたる やはり 丘 陵 沿 いに 広 がる 集 落 を 通 り ながら 下 流 へ 向 かう こちらは 外 観 からは, 右 岸 側 に 比 べて 被 害 が 少 ないように 見 える 断 層 の 露 頭 には 左 岸 側 の 方 が 近 いが, 損 傷 のない 練 石 積 みや 建 物 も 存 在 する ただし, 無 事 な 擁 壁 の 隣 の 擁 壁 が 崩 れていることもあり, 施 工 の 違 いで 差 が 出 ているのかもしれない また, 土 壁 の 建 物 の 被 害 は 左 岸 側 でもやはり 目 立 つ 3
K_01: 間 知 ブロック 積 擁 壁 が 壊 れて, 建 物 が 傾 いている K_02: 間 知 ブロック 積 擁 壁 が 中 ほどで 折 れ た 例 K_03: 大 規 模 避 難 所 へのアクセス 道 路 は, 最 優 先 で 仮 復 旧 が 行 われている K_04: 堤 防 や 田 んぼの 中 の 道 路 では, 液 状 化 の 痕 跡 が 多 数 みられる K_05: 水 路 護 岸 の 石 積 みが 崩 れ, 敷 地 が 押 し 出 している K_06: 道 路 盛 土 のブロック 積 み 擁 壁 が 根 元 から 倒 れている 4
K_07: 階 段 の 僅 かな 盛 土 が 崩 れて, 地 山 の 吹 き 付 け 工 にまで 被 害 が 及 んだと みられる K_08: 比 較 的 新 しい 建 物 でも 全 壊 した 例 も ある 右 隣 の 家 は 外 見 上 は 問 題 がな い K_09: 角 部 が 破 壊 した 擁 壁 K_10: 異 工 種 の 継 ぎ 目 で 破 断 した 擁 壁 家 屋 は 完 全 に 傾 いている K_11: 復 旧 に 当 たりガレキは 積 み 上 げられ ている ここは 裏 込 めがきれいに 崩 落 している K_12: 台 地 の 上 の 擁 壁 は,どのような 力 が 加 わったか 俄 かには 理 解 できない 5
K_13: 鉄 筋 の 入 ったブロック 塀 はこのよう にきれいに 倒 れている 鉄 筋 が 入 っ ていない 塀 はバラバラに 崩 れてい る K_14: 低 地 のやや 右 岸 側 ( 北 側 ) 不 明 瞭 な 亀 裂 とともに, 道 や 畔 が 10mく らいの 幅 を 持 って 横 ずれしている K_15: 低 地 左 岸 側 の 断 層 露 頭 直 近 の 様 子 K_16: 矢 印 間 に 断 層 の 亀 裂 が 確 認 できる K_17: 土 壁 の 建 物 は, 文 字 通 りペチャンコ になっているものも 多 い K_18: 左 岸 側 でも 崩 れている 擁 壁 は 多 い 6
K_19: 左 側 の 間 知 ブロックは 損 傷 がないが, きちんとした 擁 壁 構 造 ではないブ ロックは 崩 壊 している K_20:やや 高 めに 盛 っている 宅 地 は, 崩 落 しているところが 多 い 印 象 である K_21: 益 城 町 の 廃 棄 物 仮 置 き 場 現 在 は 整 然 と 分 別 して 保 管 されているが, 解 体 が 本 格 化 すると 廃 棄 物 処 理 も 問 題 となる K_22: 左 側 の 道 路 中 央 の 亀 裂 は,やや 盛 り 上 がっている 白 川 上 流 益 城 町 から 北 上 して, 白 川 に 沿 って 阿 蘇 方 面 へと 向 かった 丘 陵 の 上 では 空 港 を 過 ぎる と 被 害 は 急 に 目 立 たなくなる もっとも 益 城 町 に 比 べて 被 害 が 目 立 たないだけで, 地 震 災 害 の 跡 はいたるところに 存 在 する しかし, 擁 壁 の 損 傷 で 目 立 ったのは 写 真 23 のやせ 尾 根 の 周 辺 だけである 国 道 57 号 線 は 比 較 的 きれいな 状 態 だったが, 阿 蘇 大 津 ゴルフ 場 を 過 ぎたあたりから 山 沿 いの 斜 面 崩 壊 が 目 に 付 くようになる( 写 真 25) また, 切 盛 境 界 の 亀 裂 や 空 石 積 の 損 傷 な ども 見 られるようになる 斜 面 崩 壊 は 外 輪 山 に 近 づくにつれて 数 を 増 したが,カルデラに 入 る 手 前 の 立 野 で 通 行 止 めとなっていた ここを 抜 けると 阿 蘇 大 橋 の 大 崩 壊 まで 直 ぐであ るので,U ターンして 熊 本 市 内 へと 向 かう 7
K_23: 周 辺 では 擁 壁 の 損 傷 は 少 ないが,や せ 尾 根 の 保 護 擁 壁 は 崩 落 したよう である K_24: 国 道 57 号 線 阿 蘇 に 近 づくと, 切 盛 り 境 界 の 亀 裂 が 目 に 付 くようにな る K_25: 同 じく, 斜 面 が 高 くなるにつれて, 崩 壊 も 徐 々に 確 認 できるようにな る K_26: 高 さのない 盛 り 土 だが, 空 石 積 みの 石 が 飛 び 出 している K_27: 治 山 工 事 の 末 端 の 崩 壊 K_28: 立 野 付 近 では, 多 数 の 崩 壊 が 見 られ る 8
熊 本 市 街 熊 本 市 の 中 心 部 の 被 害 は,もっぱら 建 物 と 管 構 造 物 のように 見 受 けられた 練 石 積 みが 崩 れたところもあるようだが, 無 事 な 擁 壁 が 大 半 である 建 物 も 写 真 29 のように 派 手 に 壊 れたケースはまれで, 周 辺 の 建 物 は 一 見 したところ 無 傷 である もっとも, 写 真 30 のよう に 遠 目 には 何 事 もないが,よく 見 ると 開 口 部 の 周 辺 が 大 きく 破 損 しているところも 多 い また, 屋 根 に 被 害 を 受 けた 家 屋 も 多 く,その 分 布 には 偏 りがあるように 感 じた K_29: 報 道 でも 有 名 になったビルだが, 周 囲 に 同 じような 壊 れ 方 をした 建 物 は 見 られない K_30: 遠 目 には 無 事 な 建 物 も,よく 見 ると 構 造 的 な 損 傷 があるケースも 多 い おわりに 今 回 は 時 間 が 限 られた 中, 予 備 調 査 として 震 源 付 近 を 中 心 に 広 く 回 ってみた 阿 蘇 の 外 輪 山 の 内 側 や, 八 代 方 面 などは 回 れなかった 上, 益 城 町 中 心 部 や 西 原 村 など 最 も 被 害 の 大 きかった 地 域 は, 車 のルートが 見 つからずに 調 査 を 断 念 している 精 度 も 包 括 性 も 無 い 調 査 ではあるが, 感 覚 的 には 被 害 の 傾 向 はつかめたように 思 う 宅 地 地 盤 の 被 害 という 点 では, 益 城 町 が 突 出 していた 震 源 に 近 く, 緩 斜 面 に 集 落 が 広 がるため,ひな 壇 造 成 の 弱 点 が 露 わになったのではないだろうか もっとも, 震 度 7クラ スの 揺 れを 複 数 回 経 験 したことを 考 えると, 現 在 の 設 計 思 想 からすれば 想 定 通 りとも 考 え られる また, 液 状 化 の 痕 跡 はいたる 所 で 確 認 できた 都 市 近 傍 の 地 震 では,やはり 液 状 化 によるダメージは 大 きい 今 後 は 地 域 や 地 形 による 被 害 の 傾 向 を 詳 しく 分 析 するとともに, 従 来 の 宅 地 の 地 震 対 策 の 妥 当 性 やハード 対 策 の 限 界 についても 考 える 必 要 を 感 じた 以 上 9