論 文 中 国 株 式 市 場 における 増 資 形 態 の 特 殊 性 同 志 社 大 学 経 済 学 研 究 科 教 授 新 関 三 希 代 同 志 社 大 学 経 済 学 研 究 科 後 期 課 程 兪 傑 1.はじめに 中 国 株 式 市 場 では 経 済 発 展 に 伴 う 資 金 需 要 の 大 幅 な 伸 びを 背 景 に 有 償 増 資 が 活 発 に 行 われている 日 本 や 米 国 においては 大 規 模 な 有 償 増 資 の 多 くが 公 募 増 資 によって 行 われ ているが 中 国 では 第 三 者 割 当 増 資 によって 実 施 されている 2005 年 10 の 新 証 券 法 によって 上 場 企 業 の 第 三 者 割 当 増 資 に 関 す る 規 定 が 整 備 されてから 2013 年 までに 上 海 深 圳 証 券 取 引 所 A 株 株 式 市 場 および 新 興 目 次 1.はじめに 2.IPOの 制 度 の 変 遷 と 概 況 3. 第 三 者 割 当 増 資 の 概 況 4. 第 三 者 割 当 増 資 の 実 証 分 析 5.おわりに 市 場 で 行 われた 第 三 者 割 当 増 資 は1,168 件 に 達 し 資 金 調 達 額 は21,301 億 元 にも 上 ってい る( 図 表 3 参 照 ) これは 公 募 増 資 による 資 金 調 達 額 の10 倍 になっており 普 通 株 式 の 新 規 発 行 総 額 の 約 8 割 を 占 める 水 準 に 達 して いる 一 方 新 規 公 開 増 資 (IPO)は2013 年 まで に1,160 件 に 達 し 資 金 調 達 額 は17,876 億 元 に も 上 っている( 図 表 2 参 照 ) しかし リー マンショック 後 の 中 国 株 式 市 場 の 低 迷 を 背 景 にIPOは 規 制 され 2013 年 におけるIPOの 件 数 は0 件 になっている とりわけ 中 国 A 株 株 式 市 場 でのIPOの 一 時 停 止 は 第 三 者 割 当 増 資 の 件 数 を 急 増 させることになった 資 本 市 場 が 整 備 されている 日 本 や 米 国 において このようなIPOの 停 止 ( 規 制 )は 考 えにくい 状 況 である 本 稿 では 中 国 特 有 の 増 資 形 態 IPOと 第 三 者 割 当 増 資 の 概 況 について 説 明 す る 24
( 図 表 1)IPO 制 度 の 変 遷 期 間 制 度 中 国 証 券 監 督 委 員 会 の 役 割 上 場 実 績 1980 年 代 半 ば ~1992 年 末 1993 年 ~ 1995 年 1996 年 ~ 2000 年 2001 年 ~ 2004 年 2004 年 ~ 規 則 無 審 批 制 枠 管 理 審 批 制 指 標 管 理 許 可 制 通 道 制 株 式 市 場 の 集 中 管 理 が 行 われる 1992 年 10 国 務 院 証 券 委 員 会 中 国 証 券 監 督 委 員 会 が 誕 生 する 政 府 が 毎 年 発 行 株 数 を 計 画 管 理 する 1993 年 は50 億 株 1995 年 は55 億 株 を 発 行 できることを 規 定 する 1996 年 は150 億 株 1997 年 は300 億 株 を 発 行 できること を 規 定 する 1997 年 7 1 日 証 券 法 を 実 施 する 総 合 型 の 証 券 会 社 に 規 模 に 応 じた 通 道 ( 主 幹 事 とし て 上 場 を 担 当 できる 会 社 数 ) を 与 える 許 可 制 新 規 上 場 の 是 非 を 個 別 に 審 査 認 可 する 保 証 推 薦 制 ( 資 料 ) 中 国 証 券 監 督 委 員 会 上 海 証 券 取 引 所 深 圳 証 券 取 引 所 のホームページより 作 成 1991 年 12 までに 中 国 全 国 の 株 式 会 社 は3,220 社 内 株 式 公 開 発 行 の 会 社 は89 社 1992 年 12 までに 上 海 深 圳 取 引 所 の 上 場 会 社 は53 社 発 行 済 株 式 数 は73.21 億 株 政 府 は 約 200 社 の 企 業 を 指 定 し 上 場 枠 を 与 える 資 金 調 達 額 は 約 400 億 元 政 府 は1,000 社 の 国 有 企 業 の 上 場 枠 を 決 定 する 業 界 大 手 企 業 の 上 場 を 優 先 させ 約 700 社 が 上 場 資 金 調 達 額 は4,000 億 元 超 上 場 会 社 は 約 200 社 資 金 調 達 額 は2,000 億 元 超 2013 年 までに 上 場 会 社 は1,160 社 資 金 調 達 額 は1 兆 7,876 億 元 さらに 中 国 における 第 三 者 割 当 増 資 の 多 くは 発 行 価 格 が 市 場 価 格 以 上 となるプレミ アム 状 態 で 実 施 されている( 図 表 9 参 照 ) これは 約 9 割 がディスカウント 状 態 で 実 施 されている 日 本 や 米 国 の 第 三 者 割 当 増 資 とは 大 きく 異 なる 点 である このような 特 殊 な 第 三 者 割 当 増 資 の 実 施 が 中 国 株 式 市 場 に 与 える 影 響 はどのようなものか 実 証 的 に 解 明 する 2.IPOの 制 度 の 変 遷 と 概 況 中 国 の 新 規 上 場 (IPO)の 制 度 は 図 表 1 のように ルールなし 政 府 主 導 そし て 政 府 審 査 認 可 という 三 つの 段 階 に 分 け られる 第 一 段 階 は 1980 年 代 の 半 ばから 中 国 証 券 監 督 委 員 会 が 設 立 された1992 年 10 ま でである この 時 期 は 新 規 上 場 に 関 する 具 体 的 なルールがなく 上 場 する 企 業 の 所 在 地 における 地 方 政 府 主 導 で 行 われていた 各 地 方 政 府 には 統 一 の 審 査 基 準 がなく 審 査 の 一 貫 性 に 欠 ける 問 題 が 深 刻 になっていた そこ で 新 規 上 場 のルール 作 りが 急 務 となり 中 国 証 券 監 督 委 員 会 が 誕 生 した 第 二 段 階 は 1993 年 から2000 年 までの 期 間 である 中 国 証 券 監 督 委 員 会 の 誕 生 によって 地 方 政 府 が 主 導 した 新 規 上 場 は 中 央 政 府 に よる 集 中 管 理 となった 具 体 的 に 政 府 は 国 有 企 業 の 中 で 標 的 企 業 を 選 出 し 発 行 株 数 や 公 募 価 格 まで 決 めていた この 段 階 で 約 900 社 の 国 有 企 業 が 上 場 し 資 金 調 達 額 は 約 5,000 億 元 となった しかし 政 府 が 選 んだ 企 業 しか 上 場 は 許 されず 業 績 悪 化 による 資 金 繰 りが 苦 しい 国 有 企 業 を 救 う 手 段 として 頻 繁 に 使 われていた そのため 市 場 の 効 率 性 が 低 下 し 中 国 株 式 市 場 の 発 展 にダメージを 与 えることになった 第 三 段 階 は2001 年 以 降 である とりわけ 大 きな 転 換 点 が2004 年 にある 2001 年 から 2004 年 までに 新 規 上 場 市 場 の 効 率 性 向 上 を 図 るため それまで 政 府 に 決 定 権 があった 発 行 25
( 図 表 2) 新 規 上 場 の 状 況 上 海 メインボード 深 圳 メインボード 中 小 板 創 業 板 年 度 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 2005 3 29 0 0 12 29 0 0 2006 13 1,180 0 0 52 161 0 0 2007 23 4,380 0 0 100 391 0 0 2008 5 734 0 0 71 301 0 0 2009 9 1,251 0 0 54 424 36 204 2010 26 1,920 0 0 204 2,028 117 963 2011 38 1,014 0 0 115 1,019 128 791 2012 25 356 0 0 55 349 74 351 2013 0 0 0 0 0 0 0 0 合 計 142 10,864 0 0 663 4,702 355 2,310 比 率 (%) 12.24 60.77 0.00 0.00 57.16 26.30 30.60 12.92 ( 資 料 ) 上 海 万 得 信 息 技 術 株 式 会 社 のデータベースより 作 成 規 模 ( 発 行 株 数 や 公 募 価 格 )に 関 して 国 有 証 券 会 社 が 決 定 できるようになった 具 体 的 に 政 府 は 証 券 会 社 の 規 模 に 応 じて 各 証 券 会 社 の 上 場 担 当 枠 を 決 めた 2004 年 以 降 こ の 枠 が 撤 廃 され 証 券 会 社 の 保 証 推 薦 ( 日 本 の 主 幹 事 にあたる)による 上 場 に 転 換 した このように 自 由 化 された 中 国 IPO 市 場 は 大 き く 発 展 し 2005 年 から2013 年 までに1,160 社 が 上 場 し その 資 金 調 達 額 は1 兆 7,876 億 元 に 達 した 図 表 2は 中 国 株 式 市 場 における 新 規 上 場 の 概 況 を 市 場 別 にまとめている 2005 年 以 降 大 型 IPOは 上 海 メインボード( 日 本 の 東 証 1 部 にあたる)に 上 場 中 小 ベンチャー 企 業 のIPOは 深 圳 取 引 所 傘 下 の 中 小 板 創 業 板 ( 日 本 のマザーズにあたる)に 上 場 している IPO 制 度 の 自 由 化 は 中 小 企 業 の 資 金 調 達 の 追 い 風 となり 2005 年 から2013 年 までの 中 小 板 創 業 板 のIPOの 件 数 は 全 体 の9 割 弱 を 占 めた ただし 発 行 審 査 委 員 会 の 限 られたメ ンバー(メインボード:25 名 創 業 板 :35 名 ) での 審 査 数 には 限 りがあり 現 状 では 上 場 を 希 望 する 多 くの 企 業 が 審 査 待 ちの 状 態 にあ る 実 際 2015 年 7 の 時 点 で563 社 の 企 業 が 審 査 会 議 の 待 機 状 態 にある こうした 状 況 は IPO 行 列 問 題 として 指 摘 されてきた 多 くの 企 業 を 上 場 させることが 資 金 面 でマー ケットに 悪 影 響 を 及 ぼしていたことから 2005 年 以 降 上 場 の 一 時 停 止 が4 回 も 行 われ ていた こ の IPO 行 列 問 題 を 解 消 す る た め 2015 年 6 に 中 国 証 券 監 督 委 員 会 は 登 録 制 改 革 を 検 討 することを 発 表 した 登 録 制 改 革 の 実 施 により 新 規 上 場 における 審 査 は 市 場 に 委 ねられた これにより 審 査 の 効 率 化 が 実 現 され 適 切 な 資 金 配 分 を 促 すことが 図 られた しかし 登 録 制 改 革 の 実 施 には 証 券 法 の 改 正 が 必 要 となり 現 在 中 国 証 券 監 督 26
( 図 表 3) 三 つの 増 資 の 概 況 第 三 者 割 当 増 資 公 募 増 資 株 主 割 当 増 資 年 度 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 2005 1 127 3 267 3 6 2006 49 809 6 102 2 4 2007 145 2,634 30 675 7 228 2008 107 1,646 28 518 9 152 2009 117 2,674 13 232 10 106 2010 153 2,985 10 377 18 1,438 2011 175 3,530 10 289 15 422 2012 155 3,374 6 115 7 121 2013 266 3,522 5 70 13 476 合 計 1,168 21,301 111 2,645 84 2,953 比 率 (%) 85.69 79.19 8.15 9.84 6.16 10.97 ( 資 料 ) 上 海 万 得 信 息 技 術 株 式 会 社 のデータベースより 作 成 委 員 会 がどこまで 権 限 を 縮 小 するかが 注 目 さ れている IPOの 一 時 停 止 は 2012 年 11 から2014 年 1 までの14ヶ 間 が 最 も 長 いものであっ た リーマンショック 後 上 海 指 数 は2009 年 6 の3,400ポイントから2012 年 11 の2,000 ポイントまで 大 きく 下 落 した その 間 上 場 待 ちの 企 業 が800 社 にも 上 り 新 規 上 場 によ る 株 式 市 場 の 拡 大 がさらなる 株 価 下 落 を 招 く リスクが 生 じていた このリスクを 回 避 する ため 中 国 証 券 監 督 委 員 会 は 新 規 公 開 の 企 業 に 対 するより 厳 しい 精 査 を 行 い 実 質 的 に 新 規 上 場 をストップさせた 3. 第 三 者 割 当 増 資 の 概 況 図 表 3は 2005 年 から2013 年 にかけての 中 国 A 株 株 式 市 場 で 行 われた 第 三 者 割 当 増 資 公 募 増 資 そして 株 主 割 当 増 資 の 概 況 をまと めている 2005 年 に 第 三 者 割 当 増 資 に 関 する 法 律 が 整 備 されて 以 降 件 数 や 調 達 資 金 額 が 著 しく 伸 びていることが 確 認 できる ( 注 1) 2008 年 にリーマンショックの 影 響 を 受 けてや や 減 少 しているが 2009 年 以 降 再 び 増 加 傾 向 を 示 している これに 対 して 公 募 増 資 の 件 数 等 は リーマンショック 以 降 回 復 の 様 子 が 見 られない また 株 主 割 当 増 資 の 件 数 等 は 増 加 と 減 少 の 変 動 が 大 きい 2013 年 ま で に 第 三 者 割 当 増 資 の 件 数 は 1,168 件 に 上 り 増 資 額 は21,301 億 元 ( 約 408,445 億 円 )に 達 している これらはいず れも 全 体 の 約 8 割 を 占 めており 有 償 増 資 の 多 くが 第 三 者 割 当 増 資 で 行 われていることが わかる 日 本 においても2005 年 から2013 年 に かけての 第 三 者 割 当 増 資 の 件 数 は 合 計 で 996 件 と 全 体 の 約 7 割 を 占 めている しかし その 調 達 額 ( 合 計 で44,290 億 円 )は 有 償 増 資 全 体 の3 割 弱 にすぎない これは 米 国 と 27
( 図 表 4) 第 三 者 割 当 増 資 の 特 徴 ( 資 料 ) 上 海 万 得 信 息 技 術 株 式 会 社 のデータベースより 作 成 同 様 日 本 においての 大 規 模 な 資 金 調 達 が 公 募 増 資 ( 調 達 額 の 合 計 は78,640 億 円 )によっ て 実 施 されていることを 意 味 している ( 注 2) 中 国 における 公 募 増 資 の 調 達 額 合 計 が2,645 億 元 ( 約 50,718 億 円 )であることから 増 資 規 模 において 公 募 増 資 と 第 三 者 割 当 増 資 が 日 本 と 中 国 で 対 称 的 になっていることがわか る 中 国 においては 公 募 増 資 に 関 して 厳 格 な 規 制 が 存 在 する ( 注 3) そのため 日 本 や 米 国 で 行 われているような 公 募 増 資 の 案 件 を 実 施 することができず 代 替 手 段 として 第 三 者 割 当 増 資 を 用 いた 資 金 調 達 が 行 われている つまり 中 国 では 広 く 一 般 投 資 家 からの 資 金 調 達 が 可 能 な 場 合 であっても 第 三 者 割 当 増 資 で 資 金 調 達 が 行 われている さらに 2013 年 の 第 三 者 割 当 増 資 の 件 数 は 2012 年 の155 件 より111 件 も 増 加 している そ のうち 機 関 投 資 家 による 引 き 受 けの 件 数 は 37 件 から73 件 に 倍 増 している これは 上 述 のように2012 年 11 から2014 年 1 にかけ て 中 国 A 株 株 式 市 場 でIPOが 長 期 間 停 止 し たことによる 影 響 である 中 国 証 券 監 督 委 員 会 は 約 800 社 の 企 業 を 新 規 上 場 させた 場 合 の 更 なる 市 場 の 混 乱 を 避 けるため IPOを 一 時 停 止 させたのである このようなベア 市 場 環 境 の 下 ファンドは 運 用 パフォーマンスを 向 上 させるべく 第 三 者 割 当 増 資 に 積 極 的 に 参 加 した また IPO 申 し 込 み 専 門 ファンドも 第 三 者 割 当 増 資 の 引 き 受 けに 方 針 を 転 じた これによって 第 三 者 割 当 増 資 の 実 施 がさら に 増 加 していった 図 表 4は 2006 年 から2013 年 までの 第 三 者 割 当 増 資 の 一 件 当 たりの 発 行 金 額 と 株 式 発 行 率 を 示 している 一 件 当 たりの 株 式 発 行 率 は 各 年 度 いずれも30%を 上 回 っており 2011 年 と2012 年 は50%を 超 えている 一 方 日 本 や 米 国 の 場 合 は 一 件 当 たりの 株 式 発 行 率 が 約 20 28
( 図 表 5) 市 場 別 第 三 者 割 当 増 資 の 概 況 上 海 メインボード 深 圳 メインボード 中 小 板 創 業 板 年 度 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 2006 26 439 20 352 3 18 0 0 2007 99 2,009 38 588 8 37 0 0 2008 62 1,013 35 545 10 88 0 0 2009 73 1,883 27 678 17 114 0 0 2010 74 1,812 37 863 42 310 0 0 2011 81 2,065 39 1,065 55 399 0 0 2012 74 2,056 38 899 38 405 5 14 2013 115 1,975 55 961 75 511 21 75 合 計 604 13,253 289 5,950 248 1,881 26 89 ( 資 料 ) 上 海 万 得 信 息 技 術 株 式 会 社 のデータベースより 作 成 ( 図 表 6) 業 種 別 第 三 者 割 当 増 資 の 概 況 製 造 業 通 信 情 報 不 動 産 業 棚 卸 小 売 業 年 度 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 2006 26 457 3 36 9 144 2 18 2007 70 903 10 58 25 251 4 39 2008 49 485 11 110 16 498 6 88 2009 51 619 10 183 19 589 8 120 2010 81 988 19 332 4 59 10 165 2011 88 1,471 24 201 7 196 12 217 2012 72 959 24 270 2 24 9 125 2013 146 1,862 51 449 0 0 8 64 合 計 583 7,744 152 1,638 82 1,761 59 835 ( 資 料 ) 上 海 万 得 信 息 技 術 株 式 会 社 のデータベースより 作 成 %であり 中 国 第 三 者 割 当 増 資 の 規 模 が 大 き いことがわかる そして 中 国 第 三 者 割 当 増 資 の 金 額 は 一 件 当 たり10 億 元 ( 約 180 億 円 ) を 超 え 日 本 の 約 4 倍 になっている 図 表 5は 市 場 別 に 第 三 者 割 当 増 資 の 件 数 と 金 額 を 示 している 2006 年 から2013 年 まで に 上 海 深 圳 メインボードにおける 増 資 件 数 は8 割 弱 金 額 は9 割 強 になっている 上 海 深 圳 メインボードの 上 場 企 業 には 大 手 企 業 が 多 く そのような 企 業 が 第 三 者 割 当 増 資 の 主 役 となった また 一 件 当 たりの 調 達 金 額 は 上 海 深 圳 取 引 所 に 上 場 している 企 業 が20 億 元 を 超 えており 中 小 板 は 平 均 7.6 億 元 そして 創 業 板 は3.4 億 元 となっている また 2009 年 10 設 立 された 創 業 板 は 2012 年 から 第 三 者 割 当 増 資 の 案 件 が 出 ており 件 数 と 金 額 の 急 増 が 目 立 っている 図 表 6の 業 種 別 件 数 や 金 額 から 中 国 にお 29
プロジェクト 投 資 ( 図 表 7) 資 金 用 途 別 第 三 者 割 当 増 資 の 概 況 企 業 買 収 経 営 統 合 運 転 資 金 資 本 金 充 当 資 本 再 構 成 業 界 転 換 ローン 返 済 年 度 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 2006 33 210 11 506 2 72 3 21 0 0 2007 80 603 47 1,080 2 225 14 464 1 2 2008 52 670 42 682 1 116 9 143 2 22 2009 57 795 40 1,302 5 357 10 186 4 31 2010 87 1,145 42 787 5 624 6 220 9 169 2011 101 893 59 1,938 2 324 10 361 1 3 2012 62 813 62 1,495 11 627 12 219 6 174 2013 119 1,176 94 1,518 28 502 10 163 10 68 合 計 591 6,304 397 9,307 56 2,847 74 1,778 33 469 ( 資 料 ) 上 海 万 得 信 息 技 術 株 式 会 社 のデータベース 上 海 深 圳 取 引 所 の 開 示 情 報 より 作 成 ( 図 表 8) 割 当 先 別 第 三 者 割 当 増 資 の 概 況 大 株 主 のみ 機 関 投 資 家 のみ 関 連 会 社 のみ 大 株 主 機 関 投 資 家 関 連 会 社 個 人 投 資 家 を 含 む 年 度 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 件 数 金 額 ( 億 元 ) 2006 10 431 21 191 1 14 10 139 0 0 2007 32 622 50 943 4 28 43 911 4 29 2008 35 651 23 257 4 149 25 424 15 117 2009 28 911 19 322 5 126 16 404 47 904 2010 18 285 33 834 9 289 34 1,024 58 544 2011 13 616 38 585 9 182 43 1,374 69 714 2012 25 840 37 719 11 178 34 1,156 44 428 2013 31 287 73 769 8 98 59 1,331 91 691 合 計 192 4,643 294 4,621 51 1,064 264 6,763 328 3,426 ( 資 料 ) 上 海 万 得 信 息 技 術 株 式 会 社 のデータベース 上 海 深 圳 取 引 所 の 開 示 情 報 より 作 成 ける 第 三 者 割 当 増 資 は 製 造 業 の 上 場 企 業 が 中 心 になっていることがわかる 中 国 上 場 企 業 の 半 数 が 製 造 業 であることから その 資 金 需 要 は 旺 盛 である また 通 信 情 報 業 界 の 発 展 に 伴 う 資 金 調 達 は 大 幅 に 増 加 している 2006 年 のわずか3 件 から2013 年 にはその17 倍 の51 件 にも 達 し 増 資 金 額 も 約 13 倍 に 伸 びて いる 一 方 で 2000 年 代 中 国 経 済 を 支 えた 不 動 産 業 は 購 入 制 限 や 頭 金 の 比 率 の 引 き 上 げ 等 の 厳 しい 政 策 の 影 響 を 受 け 2010 年 から 増 資 の 規 模 が 激 減 し 2013 年 には1 件 も 実 施 さ れていない 図 表 7の 資 金 使 途 別 件 数 や 金 額 から 調 達 した 資 金 の 主 な 使 い 道 は プロジェクト 投 資 と 企 業 買 収 経 営 統 合 であることがわかる 両 者 合 計 の 件 数 と 金 額 は 全 体 の7 割 以 上 を 占 めている また リーマンショック 後 の 中 国 経 済 減 速 の 下 調 達 した 資 金 を 運 転 資 金 30
( 図 表 9) 発 行 価 格 と 市 場 価 格 の 関 係 ディスカウント 市 場 価 格 プレミアム 合 計 上 海 証 券 取 引 所 での 件 数 34 11 30 75 深 圳 証 券 取 引 所 での 件 数 6 11 10 27 新 興 市 場 での 件 数 10 4 24 38 合 計 件 数 50 26 64 140 比 率 (%) 35.71 18.57 45.71 100.00 資 本 金 に 充 当 し ローンを 返 済 するケースが 大 幅 に 増 加 している 図 表 8は 割 当 先 別 の 件 数 や 金 額 を 示 して いる 中 国 において 第 三 者 割 当 増 資 は 主 に 大 株 主 機 関 投 資 家 そして 関 連 会 社 が 単 独 または 合 同 で 引 き 受 けている 三 者 単 独 ま たは 合 同 で 受 けた 件 数 と 金 額 は 全 体 の8 割 以 上 を 占 めている これは 大 株 主 の 持 株 比 率 上 昇 によるコーポレート ガバナンスの 改 善 機 関 投 資 家 招 致 によるモニタリング 機 能 の 強 化 そして 関 連 会 社 の 吸 収 合 併 による 同 業 競 争 回 避 による 企 業 価 値 向 上 の 効 果 を 示 唆 する また 個 人 投 資 家 を 含 むケースの 増 加 が 目 立 っているが これは 2005 年 9 か ら 始 まった 株 式 分 置 改 革 による 上 場 企 業 株 式 の 全 流 通 が 原 因 だと 思 われる 株 式 分 置 改 革 とは 国 家 中 央 企 業 の 持 株 国 家 株 そして 国 家 法 人 株 といった 非 流 通 株 ( 売 買 制 限 される 株 )を 市 場 で 流 通 できるようにする 改 革 である 4. 第 三 者 割 当 増 資 の 実 証 分 析 2008 年 1 1 日 から2010 年 9 30 日 まで 上 海 深 圳 証 券 取 引 所 で 公 表 されている 適 時 開 示 情 報 から 得 られる140 件 の 第 三 者 割 当 増 資 に 関 して 増 資 実 施 が 中 国 株 式 市 場 に 与 え るインパクトを 実 証 分 析 する ( 注 4) 新 株 の 発 行 価 格 と 増 資 実 施 時 の 市 場 価 格 と の 関 係 を 見 てみると 図 表 9のように6 割 超 がプレミアム 状 態 ( 市 場 価 格 と 等 しいケース を 含 む)になっていることがわかる なお プレミアム 率 (( 発 行 価 格 - 市 場 価 格 ) 市 場 価 格 )の 標 本 平 均 は9.3%であり 最 大 値 は 148.09%と 市 場 価 格 の 約 2.5 倍 もの 価 格 で 新 株 を 引 き 受 けていた 中 国 の 第 三 者 割 当 増 資 に おいては 市 場 価 格 の90% 以 上 の 価 格 で 新 株 を 発 行 しなくてならないという 規 制 がある この 規 制 を 考 慮 したとしても 市 場 価 格 より 安 い 価 格 で 新 株 が 発 行 される 日 本 や 米 国 のケ ースとは 大 きく 異 なる 中 国 特 有 の 増 資 形 態 で ある これは 広 く 一 般 投 資 家 から 公 募 増 資 という 形 で 目 標 資 金 を 十 分 調 達 できる 割 高 な 価 値 を 有 する 企 業 であっても 第 三 者 割 当 増 資 を 用 いて 資 金 調 達 を 行 っていることを 示 し ている そもそも 第 三 者 割 当 増 資 は 資 金 調 達 を 行 う 企 業 が 特 定 の 第 三 者 にあらかじめ 決 められ 31
( 図 表 10) 市 場 別 の 平 均 累 積 超 過 収 益 率 の 推 移 た 価 格 と 枚 数 で 新 株 を 引 き 受 けてもらう 増 資 形 態 である この 増 資 によって 市 場 には 二 つの 負 のインパクトを 与 えることになる 第 一 に 増 資 を 行 う 企 業 が 割 当 先 となる 株 主 を 選 ぶことができ 割 当 を 受 けない 既 存 株 主 の 所 有 権 が 希 薄 化 するという 不 利 益 が 生 じる 第 二 に 発 行 金 額 や 発 行 価 格 等 の 増 資 に 関 す る 条 件 が 企 業 経 営 者 と 特 定 の 割 当 先 の 相 対 交 渉 で 決 定 されるため 一 般 投 資 家 には 不 透 明 な 新 株 発 行 となる しかしながら 中 国 株 式 市 場 において 第 三 者 割 当 増 資 は 正 のインパクトを 与 えること が 確 認 できる 図 表 10は 第 三 者 割 当 増 資 の 実 施 を 公 表 した 日 (アナウンスメント 日 :t) の 前 後 10 日 間 の 累 積 超 過 収 益 率 の 推 移 を 市 場 平 均 別 で 示 している ( 注 5) どの 市 場 におい てもアナウンスメント 日 の4 日 前 から 正 の 平 均 累 積 超 過 収 益 率 が 確 認 され 第 三 者 割 当 増 資 を 実 施 する 企 業 の 株 価 が 上 昇 していること がわかる これは 上 場 企 業 の 第 三 者 割 当 増 資 が 市 場 に 正 のインパクト 正 のアナウンス メント 効 果 を 与 えることを 示 している この 正 のアナウンスメント 効 果 は 日 本 や 米 国 の 第 三 者 割 当 増 資 のケースでも 確 認 され ているが ( 注 6) 中 国 においてはさらに 特 徴 的 な 累 積 超 過 収 益 率 の 推 移 が 見 られる 図 表 11は プレミアム 状 態 とディスカウント 状 態 別 の 平 均 累 積 超 過 収 益 率 の 推 移 をアナウンス メント 日 前 後 30 日 で 示 したものである どち らも 平 均 累 積 超 過 収 益 率 がアナウンスメント 日 の4 日 前 から 正 となっているが アナウン スメント 日 以 降 の 推 移 は 対 照 的 である プレ ミアム 状 態 で 実 施 される 第 三 者 割 当 増 資 に 関 しては 30 日 後 でも 市 場 に 好 感 されて 正 の 累 積 超 過 収 益 率 が 確 認 される 一 方 ディスカ ウント 状 態 で 実 施 される 第 三 者 割 当 増 資 は3 日 後 から 株 価 が 下 落 し 20 日 後 には 負 の 累 積 超 過 収 益 率 となっている 中 国 においては 新 株 の 転 売 に 関 する 規 制 が 日 本 や 米 国 より 厳 しく 1 年 間 はその 譲 渡 32
( 図 表 11) 発 行 価 格 別 の 平 均 累 積 超 過 収 益 率 の 推 移 が 禁 止 されている さらに 割 当 先 が 大 株 主 や 外 国 人 投 資 家 の 場 合 3 年 間 譲 渡 が 禁 止 さ れている したがって 新 株 を 引 き 受 けた 投 資 家 は この 短 期 の 株 価 上 昇 によるキャピタ ル ゲインとプレミアム 分 ( 発 行 価 格 - 市 場 価 格 )を 相 殺 することはできない 市 場 価 格 以 上 で 新 株 を 引 き 受 ける 投 資 家 は 増 資 を 実 施 する 企 業 の 将 来 パフォーマンスを 評 価 して いることになる これは 他 の 一 般 投 資 家 に 企 業 価 値 向 上 の 保 証 を 与 えることになり よ り 強 い 正 のインパクトを 与 えていると 考 えら れる 実 際 プレミアム 状 態 の 第 三 者 割 当 増 資 は 主 に 企 業 買 収 経 営 統 合 を 目 的 とした 資 金 調 達 であることが 期 待 されている 対 照 的 に ディスカウント 状 態 での 増 資 は 運 転 資 金 資 本 金 充 当 のための 資 金 調 達 であると みなされている ( 注 7) 5.おわりに 本 稿 は 中 国 株 式 市 場 で 実 施 される 増 資 の 多 くが 第 三 者 割 当 増 資 で 行 われるという 特 殊 性 を 説 明 した これは 日 本 や 米 国 が 公 募 増 資 の 形 態 で 行 うような 案 件 も 中 国 では 第 三 者 割 当 増 資 という 形 態 で 行 われていることを 意 味 している また 中 国 証 券 監 督 委 員 会 によ る 市 場 調 整 新 規 公 開 増 資 (IPO)の 一 時 停 止 による 影 響 も 第 三 者 割 当 増 資 の 件 数 を 増 大 させることになっている 中 国 特 有 のこれら 増 資 形 態 の 概 況 を 整 理 し 中 国 企 業 の 資 金 調 達 の 現 状 を 理 解 することは 現 在 の 日 本 経 済 と 中 国 経 済 の 密 接 な 関 係 からも 非 常 に 意 味 の あることである また 中 国 においての 第 三 者 割 当 増 資 は 発 行 価 格 が 市 場 価 格 以 上 となるプレミアム 状 態 のものが 多 く その 公 表 が 株 式 市 場 に 正 の インパクトを 与 えることを 実 証 的 に 示 した 33
第 三 者 割 当 増 資 の 実 施 を 公 表 する 前 後 で 当 該 企 業 の 累 積 超 過 収 益 率 は 平 均 的 に 正 の 値 に なっていた とりわけ プレミアム 状 態 で 増 資 が 実 施 される 企 業 の 場 合 公 表 後 30 日 を 経 ても 正 の 累 積 超 過 収 益 率 が 推 計 されている これは 増 資 を 行 う 企 業 の 将 来 的 な 企 業 価 値 向 上 を 期 待 した 市 場 の 反 応 と 解 釈 できる 以 上 日 本 や 米 国 では 見 られない 中 国 特 有 の 第 三 者 割 当 増 資 に 関 して 実 証 的 に 分 析 を 行 ってきた 今 後 長 期 的 な 観 点 から 中 国 株 式 市 場 における 増 資 形 態 と 将 来 パフォーマ ンス 企 業 価 値 との 関 係 性 日 本 市 場 への 影 響 を 分 析 していくことにする [ 参 考 文 献 ] W r u c k, K. ( 1 9 8 9 ) E q u i t y O w n e r s h i p Concentration and Firm Value:Evidence from Private Equity Financing, Journal of Financial Economics, 1989(23),pp.3-28. Hertzel, M., and R. Smith(1993) Market Discounts and Shareholder Gains for Placing Equity Privately, Journal of Finance,1993(48), pp.459-485. Kato, K., and J. Schallheim(1993) Private Equity Financings in Japan and Corporate Grouping(Keiretsu), Pacific-Basin Finance Journal,1993(1),pp.287-307. 新 関 三 希 代 兪 傑 (2012) 中 国 における 第 三 者 割 当 増 資 の 実 分 析, 経 済 学 論 叢,2012(64), pp.105-152. り 収 集 している ( 注 3) 公 募 増 資 ができる 上 場 企 業 は 直 近 3 年 間 の 加 重 平 均 自 己 資 本 利 益 率 が6% 以 上 でなければな らない また 直 近 24ヵ 以 内 に 公 募 増 資 を 行 っ た 場 合 当 年 の 営 業 利 益 が 前 年 の50% 以 上 である こと 等 の 規 制 がある ( 注 4) データは データ 情 報 会 社 Windから 収 集 して いる 分 析 対 象 は 上 海 深 圳 証 券 取 引 所 A 株 株 式 市 場 と 新 興 市 場 で 行 ったケースのみであり B 株 の 第 三 者 割 当 増 資 のケース 増 資 発 表 後 に 新 株 の 発 行 を 中 止 したケース 複 数 回 実 施 したケース そして 発 行 に 関 する 全 てのデータが 収 集 できなか ったケースは 除 外 している ( 注 5) 累 積 超 過 収 益 率 の 算 出 方 法 は 新 関 兪 (2012) を 参 照 ( 注 6) Wruck(1989) Hertzel and Smith(1993) そしてKato and Schallheim(1993) 等 参 照 ( 注 7) 累 積 超 過 収 益 率 と 資 金 用 途 との 関 係 増 資 を 実 施 した 企 業 のパフォーマンスと 株 価 の 長 期 的 関 係 については 現 在 執 筆 中 の 論 文 で 紹 介 する 1 ( 注 1) 新 関 兪 (2012)において 中 国 株 式 市 場 に おける 公 募 増 資 第 三 者 割 当 増 資 そして 株 主 割 当 増 資 に 関 する 制 度 の 変 遷 がまとめられている ( 注 2) データは 東 京 証 券 取 引 所 のホームページよ 34