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明 治 学 院 大 学 機 関 リポジトリ http://repository.meijigakuin Title 現 代 フランス 文 学 における 亡 命 文 学 の 意 義 と 役 割 ミラン クンデラ アンドレイ マキーヌ アゴタ クリストフを 中 心 に Author(s) 塩 谷, 祐 人 Citation Issue Date 2015-04-10 URL http://hdl.handle.net/10723/2455 Rights Meiji Gakuin University Institutional Rep http://repository.meijigakuin.ac.jp/

現 代 フランス 文 学 における 亡 命 文 学 の 意 義 と 役 割 ミラン クンデラ アンドレイ マキーヌ アゴタ クリストフを 中 心 に Milan Kundera, Andreï Makine et Agota Kristof : La fonction des écrivains exilés dans la littérature «française» contemporaine 大 学 院 文 学 研 究 科 Faculté des Lettres 2015 年 2 月 5 日 Le 5 février 2015 塩 谷 祐 人 Enya Masato

現 代 フランス 文 学 における 亡 命 文 学 の 意 義 と 役 割 ミラン クンデラ アンドレイ マキーヌ アゴタ クリストフを 中 心 に Milan Kundera, Andreï Makine et Agota Kristof : La fonction des écrivains exilés dans la littérature «française» contemporaine 明 治 学 院 大 学 大 学 院 文 学 研 究 科 提 出 博 士 論 文 Thèse présentée à la Faculté des Lettres de l'université de Meiji Gakuin, pour le Diplôme de Docteur ès Lettres 塩 谷 祐 人 Enya Masato 2015 年 2 月 5 日 Le 5 février 2015 論 文 指 導 石 川 美 子 教 授 Approuvée par le professeur Madame Yoshiko Ishikawa

目 次 序 論 003 定 義 が 困 難 な 亡 命 003 本 論 における 亡 命 および 亡 命 文 学 の 定 義 と 範 疇 008 本 論 で 扱 う 主 な 作 家 および 本 論 の 構 成 012 第 1 部 フランス 文 学 の 外 部 / 内 部 の 亡 命 作 家 020 第 1 章 フランス 文 学 が 内 包 する 国 有 化 の 機 能 020 国 家 的 モデルとしてのフランス 文 学 021 フランスの 威 光 とフランス 語 が 支 える 国 民 文 学 025 世 界 文 学 から 見 た 亡 命 文 学 031 第 2 章 囚 われと 逃 走 の 亡 命 文 学 アンドレイ マキーヌの 例 035 なぜマキーヌはフランスの 作 家 と 見 なされるのか 035 なぜマキーヌはフランスの 作 家 とは 言 いきれないのか 048 第 3 章 ミラン クンデラの 無 知 をどう 読 むか 055 無 知 が 示 す 所 属 への 抵 抗 056 クンデラのフランスでの 立 場 の 変 化 064 無 知 の 翻 訳 によるクンデラの 逃 走 と 叛 逆 069 第 1 部 結 論 076 第 2 部 亡 命 作 家 の 言 語 078 第 1 章 二 つの 言 語 の 間 アンドレイ マキーヌの 普 遍 言 語 078 併 置 される 世 界 と 世 界 を 分 断 する 言 語 079 如 何 にしてマキーヌは 普 遍 言 語 へ 辿 り 着 いたのか 086 マキーヌの 普 遍 言 語 とは 何 か 095 第 2 章 哀 しみの 中 の 執 筆 アゴタ クリストフの 挑 戦 101 クリストフにとっての 言 語 101 クリストフの 作 品 にある 矛 盾 110 現 実 を 否 認 する 手 段 としてのマゾヒスト 的 行 為 116 1

第 3 章 ミラン クンデラの 言 語 不 滅 と 緩 やかさ を 中 心 に 121 クンデラのヨーロッパ 観 121 不 滅 のフランス 語 と 緩 やかさ のチェコ 語 125 言 語 の 差 異 を 越 えて 131 第 2 部 結 論 139 第 3 部 国 民 文 学 と 世 界 文 学 の 間 で 141 第 1 章 国 の 言 語 と 小 説 の 言 語 141 外 国 人 としてのフランス 語 クリストフとマキーヌの 例 142 マキーヌが 示 す 共 同 体 の 言 語 と 個 人 の 言 語 147 ミラン クンデラの 脱 フランス 語 150 国 の 言 語 と 小 説 の 言 語 155 第 2 章 理 想 の 小 説 を 求 めて 160 絶 対 的 な 現 実 と 相 対 的 な 小 説 160 クンデラの 理 想 とする 小 説 と フランス 文 学 への 反 感 166 第 3 章 フランス 文 学 の 中 の 亡 命 文 学 174 普 遍 性 とフランスへの 同 化 が 共 存 する 場 174 亡 命 文 学 の 従 属 と 叛 逆 181 第 3 部 結 論 185 結 論 187 参 考 文 献 191 2

現 代 フランス 文 学 における 亡 命 文 学 の 意 義 と 役 割 ミラン クンデラ アンドレイ マキーヌ アゴタ クリストフを 中 心 に 序 論 生 まれ 育 った 国 を 離 れ 遥 か 遠 いフランスという 地 に 移 り 住 むことを 余 儀 なくされた 作 家 たちがいる 政 治 的 民 族 的 あるいは 宗 教 的 な 理 由 によって 引 き 起 こされた 作 家 と 権 力 との 対 立 が 彼 らに 外 国 で 新 たな 生 活 を 始 めるという 選 択 を 強 いたからであり その 結 果 彼 らは 母 語 以 外 の 言 語 を 表 現 の 手 段 に 選 び 彼 の 地 で 他 者 の 言 語 を 使 いながら 文 学 の 世 界 に 身 を 投 じることとなったのである こうした 特 殊 な 状 況 の 中 で 彼 らは 程 度 の 差 こそあるものの 国 家 とは 何 かと 考 えを 巡 らし 個 人 の 所 属 とは 何 かを 問 い 他 の 国 にいる 居 心 地 の 悪 さを 感 じ 自 らが 異 端 である という 思 いを 抱 き 拠 り 所 を 失 ったという 不 安 に 耐 え 自 国 の 文 化 への 愛 着 を 深 めながら 文 学 作 品 を 生 み 出 していく 移 り 住 んだ 国 で 得 た 自 由 や 新 しい 表 現 手 段 を 手 に 入 れた 喜 び そして 祖 国 と 距 離 を 置 くことで 作 品 を 作 りだせる 利 点 などを 強 調 しながら 創 作 に 心 血 を 注 ぐ 作 家 も 多 いが これもまた 自 らの 居 場 所 を 著 作 の 中 に 求 め 失 ったものを 作 品 の 中 で 取 り 戻 そうとする 失 意 の 裏 返 しであると 言 うこともできるだろう そうした 意 味 で 1975 年 に 祖 国 のチェコスロヴァキアを 離 れざるを 得 なかったミラン クンデラが フラン スに 居 を 構 え 長 年 をかけて 作 家 としてのキャリアを 積 み 重 ねた 後 に わが 祖 国 ガリマー ル 1 と 題 した 記 事 を 1990 年 に 書 いた 意 味 は 大 きい フランスに 生 活 の 場 と 文 学 的 活 動 の 場 を 移 し 様 々な 理 由 から 故 郷 に 戻 ることができな いまま フランス 語 で 執 筆 する 作 家 たち 彼 らが 作 り 出 す 小 説 をひとつのジャンルとして 捉 え 本 論 文 ではこれを 亡 命 文 学 と 位 置 付 け 現 代 フランス 文 学 における 亡 命 文 学 の 意 義 と 役 割 またその 亡 命 文 学 を 形 成 する 作 家 たちが 抱 える 諸 問 題 を 論 じていく 亡 命 文 学 とは 何 か そして 亡 命 文 学 を 通 すことで 見 えてくるものは 何 か を 解 き 明 か す 手 がかりを 得 て 亡 命 文 学 研 究 の 指 針 を 提 案 することは 現 代 のフランス 文 学 の 有 り 様 を 考 える 上 で 非 常 に 重 要 であり 意 義 のあることになるに 違 いない 定 義 が 困 難 な 亡 命 フランス 文 学 における 亡 命 文 学 を 論 じる 前 に 我 々はここで 何 をもって 亡 命 と 呼 ぶ のかを 確 認 しておく 必 要 があるだろう なぜなら 亡 命 および 亡 命 文 学 とは 次 に 挙 げる 三 つの 主 な 理 由 によって 多 様 な 解 釈 を 許 しているからである 第 一 の 理 由 は 亡 命 や 亡 命 者 という 用 語 自 体 の 定 義 の 曖 昧 さにある フランス 語 でいう exil( 亡 命 )は 祖 国 から 外 に 追 放 され その 地 に 戻 ることが 禁 じられている 状 態 を 意 味 し ているが その 語 は 国 を 離 れることを 強 制 する bannissement( 追 放 )や その 単 語 自 体 に patrie( 祖 国 )を 含 んでいる expatriation( 祖 国 からの 追 放 ) 法 的 にある 場 所 から 追 い 出 すことを 意 味 する expulsion( 国 外 退 去 ) 自 らの 意 思 によって 危 機 を 回 避 する 為 にその 1 Milan Kundera, «Gallimard, c'est ma patrie», Le Nouvel Observateur, le 22 mars 1990. ガリマール は クンデラの 作 品 を 出 版 しているフランスの 大 手 の 出 版 社 である 3

地 を 離 れるévasion( 逃 避 ) 集 団 で 国 外 への 逃 亡 を 行 うことを 意 味 するexode( 集 団 移 住 ) 他 の 国 で 生 活 することを 選 び 主 に 経 済 的 な 理 由 などによってその 選 択 には 制 限 があると しても 望 めば 祖 国 に 戻 ることも 可 能 である émigration( 移 住 )など 類 似 した 語 が 多 くあ る 同 様 に exilé( 亡 命 者 )という 語 に 関 しても banni( 追 放 者 )や expatrié( 祖 国 を 離 れた 者 ) émigré( 移 住 者 ) réfugié( 難 民 )などの 同 義 の 語 を 挙 げることができるが そ れらの 語 は 一 般 的 にもまた 国 境 を 越 えた 作 家 が 書 く 文 学 を 語 る 時 にも 違 いが 明 確 にされ ないまま 使 用 されている 場 合 も 少 なくない 2 亡 命 を 主 軸 に 据 えて 多 種 多 様 な 25 編 の 論 文 を 集 めた 亡 命 と 文 学 の 編 者 であるジャック ムニエは その 論 集 の 前 書 きで 亡 命 と いう 語 の 同 義 語 とその 多 様 性 について 考 え 次 のような 自 問 で 論 集 の 口 火 を 切 っている 例 えば 亡 命 者 と 移 住 者 を 同 一 視 できるだろうか 祖 国 を 離 れたものはどうであろう 追 放 者 は? 流 刑 者 は? 自 発 的 な 亡 命 者 というのは 存 在 するのか しないのか もし 存 在 するのな らば 受 動 的 な 亡 命 者 と 区 別 するべきではないのであろうか 3 この 疑 問 によって 導 かれることになる 諸 論 文 は ホメーロスやロビンソン クルーソー フリオ コルタサル ダンテ ミラン クンデラなど 時 代 や 国 籍 を 越 えて 多 岐 にわたる 作 家 や 作 品 について 論 じており 亡 命 という 語 が 如 何 に 幅 広 く 捉 えられているかを 証 明 し ている 亡 命 の 理 由 が 政 治 的 に 強 制 されたものであるのか 否 か 主 に 経 済 的 な 原 因 で 国 を 離 れる ことになったのか あるいは 市 民 権 を 剥 奪 されているのか 生 まれ 故 郷 の 国 籍 を 有 したまま フランスで 過 ごしているのか またフランス 国 籍 を 取 得 しているのか それとも 一 時 的 に フランスでの 立 場 が 保 証 されているだけなのかといった 客 観 的 な 事 実 に 因 って 亡 命 者 や 難 民 を 区 別 することは ある 程 度 ならば 可 能 かもしれない あるいは 自 らの 意 思 で 国 を 離 れた 人 々と 権 力 によって 離 れることを 強 いられた 人 々で 区 別 することはできるか もしれない しかし 仮 に 政 治 的 な 理 由 で 国 を 離 れた 人 物 でも 祖 国 の 政 変 によって 帰 国 が 許 されるようになれば 立 場 も 変 わり また 生 まれ 故 郷 を 後 にしてから 市 民 権 を 剥 奪 され る 場 合 や フランスで 生 活 を 続 けているうちにフランス 国 籍 を 取 得 する 場 合 があることを 2 例 えばプチ ロベール 仏 語 辞 典 (Le Nouveau Petit Robert de la langue française)の exilé の 項 を 引 いてみると 亡 命 の 状 態 にあるもの (Qui est en exil)とあり 参 照 のひとつに réfugié が 挙 げられて いるが réfugié の 項 を 引 いてみれば 危 険 ( 戦 争 や 政 治 的 あるいは 宗 教 的 な 理 由 に 因 る 迫 害 など)を 避 ける 為 に 出 生 国 から 逃 げなくてはならなかった 人 のことを 指 す (Se dit d'une personne qui a dû fuir son pays d'origine afin d'échapper à un danger (guerre, persécutions politiques ou religieuses, etc.)) とあり exilé とréfugié の 違 いは 明 確 にされておらず むしろ 同 義 の 語 として 扱 われている また exil も ある 人 物 の 戻 ることを 禁 じての 祖 国 からの 追 放 (Expulsion de qqn hors de sa patrie, avec défense d'y rentrer)とあり expulsion やexpatriation との 区 別 ははっきりしない また émigré を 引 いてみて も 自 分 の 国 に 関 した 政 治 的 経 済 的 などの 理 由 によって 祖 国 を 追 放 された 人 ( Personne qui s'est expatriée pour des raisons politiques, économiques, etc., par rapport à son pays)と 定 義 されており expatrié や exilé とのはっきりとした 使 い 分 けは 示 されていない 3 Equipe de recherche sur le voyage, Exil et littérature, présenté par Jacques Mounier, Grenoble, ELLUG, 1986, p.5 : «Peut-on, par exemple, assimiler aux exilés les émigrés? Les expatriés? Les relégués? Les déportés? Existe-t-il, ou non, des exils volontaires? Et, dans l'affirmative, ne faudrait-t-il pas les distinguer des exils subis?» 4

考 慮 するならば 住 む 場 所 を 変 えた 人 々の 立 場 は 流 動 的 であると 言 わざるを 得 ないだろう また 自 らの 意 思 で 国 を 離 れた 人 々の 中 には 法 的 に 強 制 されたわけではないものの 国 を 出 る 以 外 には 生 き 延 びていく 手 段 がなかった 場 合 などもあり 一 概 に 亡 命 者 (exilé) 移 住 者 (émigré) 難 民 (réfugié)と 決 定 することは 困 難 を 極 める さらに 亡 命 や 亡 命 文 学 の 定 義 を 困 難 にしている 二 つ 目 の 理 由 として 亡 命 と 文 学 が 長 きに 渡 って 関 わり 合 いをもってきたということを 挙 げることができる 祖 国 を 離 れ る 人 物 を 主 人 公 にした 物 語 であれば 紀 元 前 2000 年 頃 の 古 代 エジプトで 書 かれたと 考 え られている シヌヘの 物 語 にまでその 起 源 を 遡 ることができ 祖 国 喪 失 の 憂 き 目 にあっ た 最 も 有 名 な 英 雄 のひとりユリシーズを 主 人 公 にしてホメーロスが オデュッセイア を 創 作 したのは 紀 元 前 800 年 頃 のことであると 伝 えられている 登 場 人 物 ではなく 実 際 に 作 家 本 人 が 国 を 追 われる 場 合 も 紀 元 前 600 年 にはエフェソスの 詩 人 であるイポナックス が 故 郷 を 追 われており より 有 名 な 名 を 挙 げるなら 自 身 の 作 品 愛 の 技 法 が 原 因 で 4 ア ウグストゥス 帝 によってローマから 僻 地 トミスへ 流 刑 に 処 され その 地 で 望 郷 の 苦 しみを 綴 った 悲 歌 を 書 き 記 したオウィディウスが 生 まれたのは 紀 元 前 43 年 頃 とされてい る つまり 生 まれ 育 った 国 からの 追 放 や 故 郷 を 後 にするという 事 例 は 近 代 社 会 の 産 物 ではなく 人 間 が 集 団 で 生 活 を 始 めてから 常 に 人 々の 歴 史 とともに 存 在 していたのである それに 加 えて 国 家 が 民 族 的 な 意 味 合 いを 強 めた 19 世 紀 そして 国 家 間 の 対 立 が 世 界 規 模 に 広 まった 20 世 紀 を 通 じて 経 済 的 な 困 難 や 政 治 的 な 迫 害 を 避 けてより 暮 らしやすい 場 所 を 求 めて 国 を 出 るものたちや 生 き 延 びる 為 に 住 み 慣 れた 国 や 親 しい 者 との 別 離 とい う 苦 渋 の 選 択 を 自 らに 強 いた 者 など 国 を 離 れる 人 々の 理 由 や 意 義 も 倍 加 していくことに なった 亡 命 は 用 語 の 使 い 分 けにおいても またその 示 す 内 容 においても 一 様 に 語 ること が 難 しく その 曖 昧 さゆえにあらゆる 作 家 を 亡 命 者 して 扱 うことが 可 能 であり それは 突 き 詰 めて 言 えば 亡 命 と 文 学 を 結 びつけて 考 察 することが 無 意 味 に 空 転 して 終 わることを 示 しかねない 事 実 アルゼンチンで 活 動 したポーランドの 作 家 ヴィトールド ゴンブロ ヴィッチは 次 のように 書 き 残 している 結 局 誰 のことをいうのだろうか 亡 命 作 家 という 定 義 に 誰 を 含 めるべきなのか ア ダム ミツキエヴィッチは 本 を 書 き X 氏 も 書 いている もちろん 立 派 で しっかりとした しかも 多 くの 読 者 がいる 本 だ 二 人 とも 作 家 で きちんと 書 き 加 えるならば 亡 命 して いる 作 家 である しかし 二 人 を 較 べられる 点 は ここまでである ランボー ノルヴィド カフカ スウォヴァツキ... 人 の 数 だけ 亡 命 があるものだ 5 4 オウィディウスが 追 放 された 原 因 には 諸 説 あるが そのうちのひとつが 愛 の 技 法 に 描 かれた 性 の 描 写 であるとされている 5 Witold Gombrowicz, Journal, Tome I 1953-1958, traduit du polonais, Paris, Éditions Gallimard, 1995, p.92-93 [collection Folio] : «En effet, de qui s'agit-il? Qui nous faut-il comprendre dans la définition d'«écrivain exilé»? Adam Mickiewicz a écrit des livres, et M. X...en écrit aussi, des livres honnêtes, ma foi, corrects, et même ayant une belle audience ; tous les deux sont «écrivains» et notons-le bien, écrivains en exil - mais la comparaison s'arrête là. Rimbaud? Norwid? Kafka? Slowacki?... Autant d'hommes, autant d'exils.» 5

ゴンブロヴィッチが 日 記 に 記 したこの 指 摘 は 充 分 に 説 得 力 のあるものであり 確 かに 亡 命 の 性 質 は 様 々な 要 因 によって 変 わるため 亡 命 文 学 を 限 定 することは 難 しい 極 端 に 言 えば 人 間 はイデアの 世 界 から 切 り 離 され 肉 体 の 中 に 閉 じ 込 められているといったプラト ン 的 な 考 え 方 に 基 づくなら すべての 人 間 は 多 かれ 少 なかれ 亡 命 者 であるとさえ 言 うこと ができるであろう 実 際 ギリシアの 学 者 であるプルタルコスは このプラトンの 考 えを 元 にして 亡 命 について 語 っている 亡 命 に 伴 うあらゆる 不 幸 を 認 めつつ プルタルコスは 積 極 的 に 亡 命 の 状 態 を 受 け 入 れるように 促 し 次 のように 述 べているのである 一 般 的 に 話 や 歌 で 言 われているように 亡 命 が 不 幸 であるということを 受 け 入 れようではな いか いやはや 食 べ 物 の 中 にも 味 覚 を 刺 激 する 苦 いものも 酸 味 の 強 いものもあるではな いか しかしながら それらを 甘 くて 心 地 よいものと 混 ぜたなら その 苦 々しい 風 味 はなく なるのだ 6 プルタルコスはこのように 言 った 後 で それ 自 体 で 家 領 土 仕 事 場 医 療 所 という 場 所 がないように 祖 国 という 場 所 もない 7 と 言 葉 を 継 ぎ 次 のように 説 明 する なぜならプラトンが 言 うように 人 間 は 大 地 に 植 えられた 地 上 の 植 物 ではなく 逆 さま になって 空 へ 向 く 体 を 垂 直 に 立 て 頭 が 根 である 天 上 の 植 物 であるからだ 8 こうした 普 遍 的 な 人 間 の 視 点 に 立 てば 亡 命 の 定 義 が 困 難 になるどころか 祖 国 を 後 に するという 意 味 での 亡 命 自 体 が 意 味 を 失 うことになる これは 亡 命 を 特 殊 な 状 況 とは 見 なさないゴンブロヴィッチのような 人 々の 系 譜 に 繋 がっていくと 考 えることができるが ここに 亡 命 の 定 義 を 揺 るがす 第 三 の 理 由 すなわち 文 学 を 含 めて 芸 術 を 生 み 出 す 者 たちはそもそも 自 律 した 存 在 であり 国 や 祖 国 とは 無 関 係 であるという 主 張 が 立 ち 上 って くる 次 に 挙 げるゴンブロヴィッチの 言 葉 もまた 芸 術 家 にとっての 居 場 所 というものを 認 めず 独 立 したひとつの 存 在 としてその 自 律 に 重 きを 置 く 立 場 を 示 している 芸 術 が 孤 独 や 完 全 なる 自 律 といった 要 素 によって 満 たされ 育 つということを 忘 れないよう にしよう 芸 術 が 満 足 を 得 て 存 在 意 義 を 見 出 すのは 芸 術 の 中 においでである 祖 国?い や 卓 越 した 人 物 というのは 自 らの 卓 越 性 からなり 自 分 自 身 の 家 にいる 時 でさえ ひとり 6 Plutarque, De l'exil, Œuvres morales, Tome VIII, texte établi et traduit par Jean Hani, Paris, Les Belles Lettres, 1980, p.150 : «Admettons, comme le vulgaire le déclare dans ses discours et dans ses chansons, que l'exil soit un malheur. Eh bien! Parmi les aliments aussi il en est beaucoup d'amers, d'aigres et qui irritent le goût ; mais, en les mélangeant à d'autre qui sont doux et agréables, nous leur ôtons leur mauvaise saveur.» 7 Ibid., p.152 : «il n'y a pas de lieu qui en lui-même soit une patrie, non plus qu'une maison, un champ, une forge ou un hôpital.» 8 Ibid., p152 : «Car l'homme, comme dit Platon, n'est pas une "plante terrestre", rivée au sol, mais une "plante céleste", une plante inversée et tournée vers le ciel, la tête, qui en est comme la racine, maintenant le corps vertical.» 6

の 外 国 人 なのである 9 文 学 や 芸 術 の 自 律 性 や 普 遍 性 を 信 じ 作 家 を 文 学 の 世 界 にしか 属 さない 無 国 籍 の 人 々と 見 なすことは 否 定 できるものではなく むしろ 文 学 のある 種 の 理 想 に 基 づいた 見 通 しの 良 い 開 かれた 考 え 方 と 言 えるであろう では 亡 命 と 文 学 を 結 びつけて 論 じることは 文 学 をひとつの 枠 組 みに 押 し 込 み その 開 かれた 可 能 性 を 閉 じてしまうものなのであろうか 実 はそうではない 芸 術 作 品 と 祖 国 を 出 ることにいかなる 関 連 も 認 めないゴンブロヴィッチの 上 に 挙 げた 発 言 は ルーマ ニアからパリに 移 り 住 んだシオランが 語 った 亡 命 者 の 利 点 と 難 点 に 関 するテクスト 10 に 対 しての 批 判 であるが 拠 り 所 を 無 くした 詩 人 にとって 脅 威 となる 危 険 が 利 点 にもなる と 考 えているシオランは 亡 命 という 状 況 の 苦 しみを 忘 れた 亡 命 者 は 凡 庸 になり どこで もない 場 所 に 落 ち 着 いた 作 家 を 堕 落 したものとして 皮 肉 を 込 めて 次 のように 書 いている 自 分 を 自 分 の 運 命 に 合 わせるもの 運 命 に 苦 しまないもの 運 命 を 楽 しむもの 誰 もその 苦 しみの 若 さを 救 うことはできない 苦 しみは 軽 くなっていく これがホームシック ノスタ ルジーである 後 悔 はその 光 沢 を 失 い その 後 悔 自 体 も 色 あせていき 哀 歌 のようにいえば すぐにも 廃 れへと 落 ちていくのだ では 無 の 都 市 であり 祖 国 の 裏 返 しである 亡 命 の 中 に 身 を 置 くこと 以 上 に 何 が 普 通 であろう 亡 命 の 地 で 楽 しんでいる 限 り 詩 人 は 自 分 の 感 情 の 元 になるものや 自 分 の 不 幸 の 源 を 栄 光 への 渇 望 と 同 じく 浪 費 する 鼻 にかけ 利 用 す る 不 幸 は もはや 彼 を 苛 むことはない 不 幸 とともに 彼 は 例 外 であるためのエネルギーと 孤 独 である 理 由 を 失 ったのだ 11 そしてシオランは こう 締 めくくる 名 誉 ある 失 墜 が 彼 を 待 っている 多 様 性 もなく 元 々の 心 配 もないので インスピレーションは 干 上 がる ほどなく 無 名 であることを 甘 受 し あたかも 凡 庸 さに 当 惑 したように どこでもない 場 所 のブルジョワの 仮 面 をつけるのだ 12 9 Witold Gombrowicz, Journal, Tome I 1953-1958, p.93 [collection Folio] : «n'oublions pas que l'art est chargé et nourri d'éléments de solitude et de parfaite autonomie, c'est en lui-même qu'il trouve satisfaction et sa raison d'être. Une patrie? Mais tout homme éminent, du simple fait de son éminence, est un étranger, même à son propre foyer.» 10 Cioran, «Avantage et inconvénients de l'exil», La Table ronde, avril 1952. 11 Cioran, La Tentation d'exister, Paris, Éditions Gallimard, 1956, p.856 [Œuvres, Quarto Gallimard] : «Celui de s'adapter à son sort, de ne plus en souffrir, de s'y plaire. Personne ne peut sauver la jeunesse de ses chagrins ; ils s'usent. Ainsi en est-il du mal du pays, de toute nostalgie. Les regrets perdent de leur lustre, eux-mêmes se défraîchissent, et à l'instar de l'élégie, tombent vite dans la désuétude. Quoi alors de plus normal que de s'établir dans l'exil, Cité du Rien, partie à rebous? Dans la mesure où il s'y délecte, le poète dilapide la matière de ses émotions, les ressources de son malheur, comme son rêve de gloire. La malédiction dont il tirait orgueil et profit ne l'accablant plus, il perd, avec elle, et l'énergie de son exception et les raisons de sa solitude.» 12 Ibid., «Une déchéance honorable l'attend. Faute de diversité, d'inquiétudes originales, son inspiration se dessèche. Bientôt, résigné à l'anonymat et comme intrigué par sa médiocrité, il prendra le masque d'un bourgeois de nulle part.» 7

もちろん シオランはフランスに 生 きる 自 らの 立 場 を 肯 定 しようとするあまり 亡 命 を 理 想 化 している という 指 摘 も 免 れえないものではあるだろう 事 実 この 発 言 から 40 年 後 シオラン 自 身 がインタビューでベケットについて 語 る 中 で 作 家 は 誰 しもある 意 味 で 亡 命 者 である 13 と 述 べることになっている しかし 当 時 のシオランが 祖 国 との 切 断 と その 癒 えない 傷 に 亡 命 者 の 意 義 を 見 出 し 亡 命 作 家 とはカオスの 渦 巻 く 水 の 中 から 現 われ そのカオスの 中 で 作 品 を 書 くものであると 理 解 していたという 点 は 強 調 されていいだろう 彼 にとって 亡 命 とは 不 幸 と 隣 り 合 わせであるからこそ 作 家 を 育 むものとして 機 能 する もし 芸 術 を 自 律 したものとしてのみ 読 み 解 くのであれば 困 難 を 抱 えつつ 不 安 定 な 状 況 で 他 者 の 言 語 によって 創 作 を 続 ける 作 家 の 作 品 に 認 められる 混 沌 や 叛 逆 あるいは 諦 めや 苦 しみを 見 落 としかねない 故 に 上 記 に 挙 げたように 亡 命 という 語 が 一 様 に 定 義 できない ものであることを 前 提 としながらも 本 論 では 次 に 示 すように 亡 命 を 捉 えておきたい 本 論 における 亡 命 および 亡 命 文 学 の 定 義 と 範 疇 まず exil( 亡 命 )や exilé( 亡 命 者 ) émigration( 移 住 ) émigré( 移 民 ) réfugié( 避 難 民 )といった 用 語 の 曖 昧 さを 避 けるために ここでは 亡 命 を 幅 広 い 意 味 で 捉 え あ らゆる 理 由 において 国 を 去 ることを 余 儀 なくされ 生 まれ 故 郷 に 戻 ることが 政 治 的 経 済 的 心 情 的 な 理 由 により 妨 げられている 状 態 にある 人 々を 亡 命 者 としておきたい そ もそも 亡 命 (exil) という 語 は 追 放 や 追 放 の 地 を 示 すラテン 語 の exsilium に 由 来 し 不 幸 苦 しみ を 意 味 していたが 14 この 語 は 12 世 紀 になって 母 国 からの 追 放 と 戻 ることの 禁 止 や 追 放 された 人 物 の 立 場 を 意 味 するようになり ある 場 所 の 外 での 生 活 を 強 制 されること という 広 義 な 解 釈 が 生 まれた こうした 経 緯 を 踏 まえてみ れば もちろん 亡 命 には 様 々な 形 態 があり 移 住 や 避 難 といった 類 似 した 状 況 が 指 摘 でき ることは 確 かであるが そうした 多 様 性 がある 一 方 で 必 然 的 に 生 まれ 育 った 場 所 との 切 断 や 自 らの 出 自 を 支 える 国 やコミュニティーとの 関 わりが 根 本 的 な 問 題 のひとつになる と 言 えるであろう 移 住 者 の 文 学 を 研 究 するマリー ドゥラペリエールが 指 摘 するように 国 を 離 れた 作 家 によって 書 かれた 如 何 なる 作 品 も それらを 隔 てている 違 いがあるにも 拘 らず その 起 源 においてでさえ 祖 国 との 切 断 という 傷 痕 を 避 けることができなかった 15 13 Cioran, Entretiens, Paris, Editions Gallimard, 1995, p.270 : «Tout écrivain est d'une certaine manière un exilé.» 14 マリー=クレール ビシャール=トミヌは ルネサンス 期 の 恋 愛 詩 である ロランの 歌 の 中 では 亡 命 (exill) という 語 が 比 喩 として 不 幸 の 同 義 語 で 使 われていることを 指 摘 している Marie-Claire Bichard-Thomine, «L'amour en exil, La métaphore amoureuse de l'exil chez quelques poètes de la Renaissance», L'Exil, textes réunis par Jaques Monier, Grenoble, Ellug, 1986, p. 57 : «L'histoire du mot nous apprend du reste que le premier sens attesté d'exil est celui, figuré, de "malheur, tourment" : v.2935 de La Chanson de Roland, " Ki tei ad mort France ad mis en exill [Celui qui t'a tué mis la France en exil.]» 15 Maria Delaperrière, Littérature et émigration - Europe centrale et orientale, Paris, Institut d'études slaves, 1996, p.7 : «[aucune des œuvres écrites par l'émigré] en dépit des différences qui les séparent, n'a pas pu échapper, dans sa genèse même, aux stigmates de la rupture avec la patrie.» またドゥラペリエールは 亡 命 (exil) 移 民 (émigré) 集 団 的 移 住 (exode) といった 用 語 を 明 確 に 区 別 すること 無 く 使 用 し とりわけその 目 的 が 集 団 的 な 移 住 の 歴 史 的 な 側 面 をとることになるとき には 移 住 を 果 たした 作 家 の 第 一 の 目 的 はこの( 切 断 という) 特 異 な 経 験 を 示 すところにある そのと 8

のである 歴 史 と 社 会 学 の 見 地 から 亡 命 を 研 究 したポール タボリも ドゥラペリエール と 意 見 を 同 じくするに 違 いない 亡 命 の 基 本 的 な 条 件 を 示 しつつ ポール タボリは 次 の ように 祖 国 からの 出 発 に 亡 命 の 原 則 を 置 いている 亡 命 者 とは 追 いやる 力 が 政 治 的 なものか 経 済 的 なものか 純 粋 に 精 神 的 なものである の 違 いはあれ 母 国 を 離 れることを 強 制 された 人 物 のことである 物 理 的 な 力 で 強 制 された のか そういった 直 接 的 な 圧 力 がなくとも 国 を 去 る 決 断 をしたのかは 本 質 的 な 違 いをもた らさない 16 原 因 が 政 治 的 なものであれ 経 済 的 なものであれ また 自 ら 望 んだものであれ 強 制 され たものであれ 祖 国 との 切 断 は 亡 命 作 家 の 心 に 永 遠 に 刻 まれることになるのであり 亡 命 に 特 有 の 価 値 がはっきり 見 て 取 ることができるのは 直 接 的 にせよ 間 接 的 にせよ 強 いられ た 移 動 があり その 移 動 が 決 定 的 な 断 絶 を 意 味 する 時 である 言 い 換 えるならば ある 場 所 とりわけ 母 国 から 別 の 場 所 への 移 動 が 亡 命 作 家 を 誕 生 させるのであり その 後 の 環 境 や 社 会 的 な 立 場 によって 移 民 や 難 民 と 指 し 示 す 用 語 が 分 岐 していく この 前 提 はあらゆる 時 代 を 通 じて 有 効 であるだけに 亡 命 を 定 義 する 上 で 強 調 しておきたい 点 のひ とつである フィレンツェから 追 放 されたジャン ド メディシス 枢 機 卿 の 台 詞 を 想 像 し て 書 いたピエトロ アルチオニオの 文 を 引 用 しながら 論 集 亡 命 の 編 者 であるアラン ニデルストは なぜ 亡 命 が 不 幸 であるのかを 次 のように 端 的 に 説 明 している 亡 命 が 非 常 に 悪 いものだと 考 えられるべき 理 由 が3つある 第 一 に 亡 命 者 は 祖 国 の 地 の 外 で 生 きるからだ 第 二 に 祖 国 での 名 誉 を 享 受 することができないからだ そして 第 三 に 親 し い 者 たちと 切 り 離 されるからだ 17 つまり 亡 命 は 祖 国 や 近 しい 者 たちとの 切 断 の 体 験 と 言 い 換 えることができ 亡 命 作 家 とは き 作 家 は 歴 史 の 目 撃 者 となるのであり 亡 命 の 地 は 自 由 の 場 所 として 開 かれるのである と 述 べている が ここでの émigré( 移 住 ) exode collectif( 集 団 的 な 移 住 ) terre de l'exil( 亡 命 の 地 ) とい った 用 語 が 混 在 している 理 由 も それら 全 てに 共 通 する 原 則 として 断 絶 の 経 験 を 置 いているからで あろう: «La vocation première des écrivains émigrés est de rendre compte de cette expérience unique, surtout lorsqu elle prend la dimension historique d un exode collectif. C est alors que l écrivain se transforme en témoin de l histoire et que la terre de l exil s ouvre comme un espace de la liberté.» (Ibid.) 16 Paul Tabori, The anatomy of exile - a semantic and historical study, London, Harrap, 1972, p.37 : «An exile is a person who is compelled to leave his homeland - though the forces that send him on his way be political, economic, or purely psychological. It does not make an essential difference whether he is expelled by physical force or whether he makes the decision to leave without such an immediate pressure.» 17 Alcionio Pietro, «Medices Legatus De exilio Libri II», Alain Niderst が «Souffrir et chérir l'exil» (L'exil, réunis par Alain Naderst, Paris, Klincksieck, 1996, p.12)で 引 用 : «Il y a trois raisons pour lesquelles l'exil doit être considéré comme un mal extrême. D'abord, parce que l'exilé vit en dehors du sol de sa patrie ; ensuite parce qu'il ne peut jouir des honneurs de sa patrie ; enfin parce qu'il est privé de ses proches.» 9

こうした 不 遇 による 切 断 が 引 き 起 こす 哀 しみや 憂 鬱 を 単 に 苦 々しい 思 いの 元 とするだけで はなく 創 造 へと 繋 げる 人 々だと 言 えるだろう 生 涯 に 二 度 の 亡 命 を 経 験 し イタリアで 客 死 したフランスの 詩 人 クレマン マロを 研 究 したフランソワーズ ジュコフスキーは 次 のように 指 摘 する 亡 命 とは 観 たり 理 解 したりするために 必 要 な 距 離 のことを 指 すだけでなく 二 つの 場 所 の 間 二 つの 時 の 間 でひっぱられている 亡 命 者 に 特 徴 的 な 分 離 は 創 意 に 必 要 な 憂 鬱 をつくり 出 すように 思 える ( 中 略 ) 新 しく 豊 かなこの 亡 命 の 詩 学 は この 場 と 別 の 場 を 絶 え 間 ない 対 話 と 想 像 の 力 で 近 づけるのである 18 祖 国 との 断 絶 を 主 題 として それを 巧 みに 扱 いながら 作 品 を 作 り 出 すことができる 状 況 は 亡 命 作 家 の 利 点 のひとつなのであり 彼 らは 切 断 を 苦 しみとして 否 定 するのではなく 政 治 的 文 化 的 言 語 的 に 馴 染 みある 領 土 から 別 の 国 への 移 動 を 受 け 入 れ 新 たな 地 で 祖 国 のことを 語 り 始 める 彼 らは 時 には 亡 命 を 強 いた 運 命 を 喜 劇 に 変 え 時 には 祖 国 での 不 遇 の 生 活 を 皮 肉 り また 時 には 亡 命 先 での 満 たされぬ 思 いを 綴 りながら 新 たな 読 者 を 獲 得 しつつ 亡 命 作 家 として 生 まれ 変 わる 生 まれ 故 郷 である 国 の 痕 跡 を 完 全 に 消 してしまっ た 後 では 亡 命 という 語 は 特 権 的 なすべての 意 味 を 失 い それゆえ 亡 命 文 学 もとり わけ 特 別 なジャンルではなくなる 反 対 に 亡 命 とは 何 かが 問 われる 時 には 共 同 体 自 治 区 国 家 人 種 文 化 言 語 といった 領 土 を 決 定 するものが 大 きく 関 わってくるのは そのためである つまり 亡 命 の 問 題 とは 亡 命 する 主 体 のみに 関 わるのではなく 主 体 と 領 土 の 関 係 に 関 わるもの すなわち 亡 命 者 が 新 たに 結 ぶ 出 発 した 場 所 と 到 着 した 場 所 と の 関 係 に 関 わるものなのであり この 関 係 こそが 亡 命 者 の 存 在 を 決 定 する ゆえに exil ( 亡 命 ) を 定 義 し 難 くしている 原 因 のひとつである 用 語 の 曖 昧 さに 関 しては あえて 本 論 においては ひとつの 領 土 から 別 の 領 土 へ 切 断 の 意 識 を 伴 って 移 動 し 元 の 国 へ 戻 ること ができない 状 況 として 移 住 や 避 難 を 含 めた 包 括 的 な 用 語 としておきたい しかし 切 断 の 経 験 を 亡 命 者 の 定 義 の 根 幹 を 成 す 要 因 と 見 るならば 先 に 述 べた 亡 命 文 学 の 定 義 を 複 雑 にしている 原 因 の 二 つ 目 に 例 を 挙 げたように 紀 元 前 から 現 代 に 至 るまでさまざまな 作 家 が 亡 命 作 家 の 対 象 に 入 ることになる そこで 各 時 代 における 亡 命 とそこから 生 まれる 文 学 作 品 の 詳 細 な 考 察 と 比 較 は 別 の 機 会 に 譲 り 本 論 では 国 を 離 れ て 新 たな 国 で 新 たに 獲 得 した 言 語 を 用 いて 文 学 作 品 を 創 造 する 人 々とその 作 品 が フ ランス 文 学 の 中 でどのような 意 義 を 持 っているかを 考 察 すべく 対 象 をとりわけ 現 代 の 作 品 に 限 定 し さらにフランス 語 に 執 筆 言 語 を 変 えた 作 家 のみを 扱 うものとしたい これは 前 項 で 指 摘 した 亡 命 文 学 を 論 じる 際 に 生 じる 第 三 番 目 の 問 題 すなわち 文 学 を 普 遍 的 なも のと 見 なす 見 解 への 回 答 を 準 備 することも 目 的 としているが ここではひとつの 普 遍 的 な 18 Françoise Joukovsky, «Le temps de l'exil : Marot et Marguerite de Navarre», L'Exil, réunis par Alain Niderst, Paris, Klincksieck, 1996, p.45 : «Non seulement l'exil est la distance nécessaire pour voir et pour comprendre, mais la dissociation caractéristique de l'exilé, tiraillé entre deux lieux et deux moments, semble constituer la part de mélancolie nécessaire à l'invention. [...] Neuve et féconde, cette poésie de l'exil rapproche l'ici et l'ailleurs, par un constant dialogue et par la force de l'imagination.» 10

文 学 野 を 想 定 するのではなく 特 定 の 国 やコミュニティーから 切 り 離 されてもなおその 関 係 を 保 ちつつ その 上 でフランスと 新 たな 関 係 を 築 く 作 家 たちの 作 品 を 対 象 とすることで 次 のような 仮 説 を 打 ち 立 て 亡 命 文 学 の 意 義 に 迫 りたいと 考 えているからである その 仮 説 とは 民 族 的 な 意 識 の 高 まりと 国 民 国 家 の 成 立 によりヨーロッパ 諸 国 の 間 に 競 争 関 係 が 築 かれた 19 世 紀 を 経 て 現 代 における 亡 命 文 学 は 国 境 のない 普 遍 的 な 文 学 として 機 能 するのではなく むしろひとつの 国 と 別 の 国 を 結 びつけることで 特 定 の 国 の 歴 史 や 文 化 そして 言 語 によって 形 成 される 国 民 文 学 19 を 外 に 開 くものとして 機 能 するというも のである 現 代 における 亡 命 文 学 とは どこにも 属 さない 文 学 である とか 間 にある 文 学 である と 見 なすだけでは 充 分 ではない それは 国 や 国 家 あるいは 国 語 や 国 民 文 学 といった 概 念 と 絶 えず 向 き 合 うものとして 見 直 す 必 要 があるだろう 19 世 紀 以 降 の 現 実 に 即 して 考 えるならば 普 遍 的 な 世 界 文 学 を 志 向 する 大 きな 流 れがあ る 一 方 で 各 国 の 国 民 文 学 がそれぞれの 国 で 成 立 することによって 世 界 文 学 の 土 壌 が 構 成 されていることも 否 定 できない 世 界 文 学 を 各 国 の 文 学 の 力 関 係 がぶつかり 合 う 場 とし て 捉 えて 分 析 することを 提 案 したパスカル カザノヴァが 世 界 文 学 空 間 で 次 のように 書 いている 文 学 は 普 遍 的 だと 信 じて 文 学 においては 外 国 人 は 存 在 しない と 断 言 しても 無 駄 である 現 実 には 国 民 的 帰 属 というのは 最 も 重 く 最 も 強 制 力 が 強 い 決 定 要 因 のひとつなのだ 支 配 されている 度 合 いが 強 い 国 が 問 題 になる 時 には それはいっそう 顕 著 になる 20 こうした 視 点 から 祖 国 を 離 れてフランスを 拠 点 に 執 筆 活 動 を 行 う 作 家 たちの 作 品 を 見 てみ ると 彼 らがフランス 文 学 に 属 するものでありながら 同 時 にフランス 文 学 の 外 部 にある ものというパラドクスによって 支 えられていることが 浮 き 彫 られる 亡 命 文 学 の 働 きとし て 注 目 しておきたいのは まさにこうしたフランス 文 学 という 国 民 文 学 の 中 に 超 国 家 的 な 文 脈 を 導 き 入 れ 国 民 文 学 の 土 壌 と 世 界 文 学 の 土 壌 が 互 いを 打 ち 消 し 合 うことなく 重 なり 合 う 場 を 作 りだしているところにある 本 論 はこうした 目 的 から 亡 命 作 家 の 中 でも 特 定 の 文 化 や 歴 史 を 共 有 し 共 通 の 言 語 を 使 用 する 国 民 国 家 というひとつのコミュニティーを 離 れてフランスという 別 のコミュニ ティーの 中 で 作 品 を 生 み 出 していった また 生 み 出 し 続 けている 作 家 たちに 分 析 の 範 囲 を 定 めたいと 思 う 今 日 まで 亡 命 と 文 学 の 関 係 はときおり 論 じられており 日 本 でも 主 19 国 民 文 学 という 用 語 に 関 しても 定 義 が 必 要 であろう 一 国 民 の 特 性 を 示 した ある 国 特 有 の 文 学 であり その 国 で 広 く 読 まれている 文 学 作 品 のことを 指 す 国 民 文 学 という 語 は 一 国 民 の 特 性 が 何 かを 定 義 することも 困 難 な 現 代 においては 時 代 錯 誤 的 な 語 にも 思 える 本 論 において 国 民 文 学 と 呼 ん でいるのは 地 理 的 にある 特 定 の 国 の 領 土 の 中 で 生 産 され 流 通 し 読 まれている 文 学 のことであり その 地 で 使 用 されている 言 語 で 書 かれ またひとつの 国 の 歴 史 と 結 びつき その 国 の 文 化 を 形 成 してい ると 見 なされている 文 学 のことである 20 Pascale Casanova, La République mondiale des Lettres, Paris, Édition du Seuil, 1999, p.249 : «La croyance littéraire universaliste a beau affirmer qu'«en littérature il n'y a pas d'étrangers», en réalité l'appartenance nationale est l'une des déterminations les plus pesantes, les plus contraignantes, et cela d'autant plus qu'il s'agit d'un pays plus dominé.» 11

にアメリカに 亡 命 を 果 たしたロシア 人 作 家 を 扱 った 亡 命 文 学 論 21 が 出 版 され またフ ランスと 同 様 に 外 国 人 を 多 く 受 け 入 れてきたアメリカでは 亡 命 文 学 の 事 典 22 も 編 まれ ている フランスに 目 を 転 じてみれば 先 に 挙 げたように 時 代 や 国 に 囚 われることなく 亡 命 という 状 況 の 中 で 作 られた 文 学 作 品 を 様 々な 角 度 から 分 析 した 亡 命 と 文 学 23 と 題 された 論 文 集 や 1919 年 から 2000 年 までの フランスの 作 家 と 見 なされる 外 国 出 身 の 作 家 に 焦 点 を 当 てた 言 語 の 亡 命 者 24 など 亡 命 と 文 学 を 結 びつけて 幅 広 く 捉 えて 論 じ たものから 時 代 や 言 語 を 限 定 して 論 じたものまで 数 多 くとは 言 えないまでも 亡 命 文 学 を 論 じている 文 献 を 読 むことができる しかし 上 述 した 通 り 亡 命 はどのような 解 釈 も 許 す 語 であり とりわけ 社 会 的 な 問 題 であると 同 時 に 個 人 的 な 問 題 でもある その 亡 命 を 論 じる 為 には 作 家 ひとりひとりの 経 歴 や 国 を 離 れることになった 原 因 あるいは 受 け 入 れ 先 の 国 と 作 家 の 祖 国 の 関 係 など 多 岐 に 渡 って 異 なる 分 析 を 必 要 とする さらに 作 家 は 国 に 所 属 するのではなく 普 遍 的 な 存 在 として 考 えられるべきであるという 思 いもある そ うしたことが 亡 命 文 学 というジャンルを 打 ち 立 てることへの 抵 抗 を 促 してきた その ため 亡 命 文 学 はいまだ 充 分 に 研 究 が 進 んでいる 分 野 とは 言 えず 議 論 が 交 わされるこ とも 多 いとは 言 えない その 中 で 本 論 はフランスの 豊 富 な 文 化 資 産 に 支 えられ そこに 同 化 され また 同 化 に 反 発 しながらフランス 文 学 に 新 たな 領 域 を 準 備 するものとして 亡 命 文 学 を 捉 え フランス 文 学 に 対 しての 内 部 性 と 外 部 性 の 相 互 作 用 の 場 として 亡 命 文 学 の 機 能 を 考 察 することで 亡 命 文 学 の 秘 密 を 解 き 明 かす 鍵 を 手 にいれることをねらいとしたい 本 論 で 扱 う 主 な 作 家 および 本 論 の 構 成 外 部 からやってきた 作 家 が 祖 国 の 痕 跡 を 含 んだままフランス 文 学 の 内 部 でどのように 機 能 しているかに 注 目 する 本 論 文 においては フランス 語 で 直 接 執 筆 している 作 家 およびフ ランス 語 で 書 かれている 作 品 を 研 究 の 対 象 とし 主 に 先 に 名 を 挙 げたミラン クンデラ (Milan Kundera,1929-)に 加 え ロシア 出 身 のアンドレイ マキーヌ(Andreï Makine,1957-) ハンガリー 出 身 のアゴタ クリストフ(Agota Kristof,1935-2011)を 中 心 に 据 えつつ 幾 人 かの 亡 命 作 家 を 比 較 検 討 することになる プレイヤード 版 が 編 纂 され るほど 今 ではフランスで 欠 くことのできない 重 要 な 作 家 となったクンデラは ひとつの 国 の 歴 史 に 囚 われない 世 界 文 学 を 志 向 する 作 家 であり その 考 えを 自 らの 文 学 作 品 と 文 芸 批 評 の 両 面 から 示 してきた 自 身 が 国 境 を 越 えたからこそ クンデラはヨーロッパの 東 西 を 通 じた 普 遍 的 な 真 実 を 小 説 によって 描 き 出 すことが 可 能 になったが 同 時 に 国 という 軛 が 簡 単 には 断 ち 切 ることのできないものであることも 知 っており 各 国 の 歴 史 と 結 びつ いた 各 々の 国 の 文 学 が 総 体 として 世 界 文 学 を 構 成 していると 強 く 意 識 し それを 口 にする 数 少 ない 作 家 となっている マキーヌは 積 極 的 に 己 の 出 自 を 創 作 に 活 かしながら 憧 れの 21 沼 野 充 義 亡 命 文 学 論 東 京 作 品 社 2002 年 22 Martin Tucker, Literary Exile in the twentieth century - an analysis and biographical dictionary, New York, Greenwood Press, 1991. 23 Equipe de recherche sur le voyage, Exil et littérature, présenté par Jacques Mounier, Grenoble, ELLUG, 1986. 24 Anne-Rosine Delbart, Les Exilés du langage Un siècle d écrivains français venus d ailleurs (1919-2000), Limoges, Presse Universitaires de Limoges, 2005. 12

国 であるフランスで 作 家 になった 人 物 であり そうした 傾 向 は 亡 命 作 家 のひとつの 典 型 的 な 例 を 示 しているようにも 見 えるが マキーヌはその 中 でも 自 国 とフランスを 対 比 し ま たフランスに 移 ることでロシアとフランスのみならず アフリカからアジアをも 小 説 の 舞 台 として 視 野 に 入 れて 執 筆 ができるようになった 作 家 の 一 人 である クリストフはフラン スではなくフランス 語 圏 スイスに 移 り 住 んだという 点 においても 注 目 しておきたい 作 家 で あるが それ 以 上 に 彼 女 は 祖 国 との 切 断 を 受 け 入 れず 自 身 は 亡 命 先 のスイスに 居 を 構 え フランス 語 による 執 筆 で 作 家 として 認 められているものの いわゆるフランスが 支 え る 文 化 の 一 端 としてのフランス 文 学 からもっとも 遠 い 位 置 にある 作 家 として フランス 文 学 における 亡 命 作 家 の 立 場 を 悲 壮 と 満 足 の 入 り 交 じった 複 雑 な 感 情 を 込 めた 言 葉 で 綴 っ ている 彼 らはそれぞれが 異 なった 特 徴 的 な 状 況 の 中 で フランス 文 学 における 自 らの 立 場 を 模 索 しているのであり その 比 較 は 亡 命 文 学 に 通 底 する 特 色 をより 明 確 に 示 すことを 可 能 にしてくれるであろう 1929 年 に 当 時 のチェコスロヴァキアに 生 まれたミラン クンデラは 妻 のヴェラとと もに 1975 年 に 祖 国 を 離 れてフランスに 移 り 住 んだ 当 時 クンデラがチェコ 語 で 書 いた 作 品 は 既 にフランス 語 に 翻 訳 されており とりわけ 初 期 の 作 品 冗 談 (La Plaisanterie, 1968 25 )はフランスの 作 家 であるルイ アラゴンが 序 文 を 書 いて 紹 介 したこともあって クンデラはフランスに 亡 命 を 果 たす 以 前 から フランス 国 内 でも 著 名 な 作 家 のひとりと 見 なされていた 26 だがそれでも 作 家 として 確 かな 地 位 を 築 き 上 げ 数 多 くの 読 者 がいる チェコスロヴァキアを 離 れることは クンデラにとって 生 まれ 育 った 国 で 得 たあらゆるも のを 失 うことを 意 味 していた 彼 はその 喪 失 を 受 け 入 れながら 新 たな 生 をフランスで 開 始 する 必 要 に 迫 られる クンデラの 作 品 の 邦 訳 を 手 がけ 作 家 本 人 とも 親 交 のある 西 永 良 成 が 1980 年 に 行 ったインタビューで クンデラは 次 のように 応 えている 祖 国 チェコに 住 むことを 禁 じられ チェコ 人 のためにチェコ 語 で 発 表 することが 許 されない という 今 の 私 の 状 況 は 個 人 的 にはずいぶん 悲 しい 状 況 であることはたしかです ただそ うした 不 利 な 状 況 でも 芸 術 的 利 点 に 変 えることは 可 能 です 27 一 方 クンデラよりも 後 の 世 代 に 属 するアンドレイ マキーヌは 1957 年 に 生 まれ 当 時 のソヴィエト 連 邦 からパリに 着 いたのはソヴィエト 連 邦 解 体 の 4 年 前 1987 年 のこと である マキーヌとクンデラとの 決 定 的 な 違 いを 挙 げるとするならば それはマキーヌが フランスに 移 り 住 んだ 当 時 まったく 無 名 だったことであろう 誰 の 目 を 引 くことも 期 待 25 クンデラの 作 品 は チェコ 語 版 や 改 訂 版 などが 複 数 あり またフランス 語 の 翻 訳 もクンデラ 自 身 が 過 去 の 翻 訳 を 否 定 し 作 者 本 人 が 見 直 した 決 定 版 が 後 に 出 版 されているため 初 出 の 年 を 一 概 に 決 定 する ことは 難 しい そのため 本 論 では フランス 語 の 初 出 の 年 を 記 すことにし 場 合 に 応 じて 適 切 な 版 の 出 版 年 を 指 示 を 加 えた 上 で 挙 げることにする 26 1968 年 には クロード ガリマールの 招 待 を 受 けて クンデラはパリを 訪 れている そこでクンデラ はメキシコの 作 家 でパリに 滞 在 した 経 験 をもつカルロス フェンテスに 出 会 っている 同 年 フェンテ スがフリオ コルタサルやガルシア マルケスと 共 にプラハを 訪 れた 際 には クンデラと 一 緒 に 時 を 過 ごしたという 27 海 中 央 公 論 社 1981 年 1 月 号 13

できないマキーヌは 外 国 人 がフランス 語 で 書 いた 小 説 は 出 版 社 に 相 手 にされないだろう と 懸 念 し 直 接 フランス 語 で 執 筆 していたにも 拘 らず ロシア 語 からの 翻 訳 だと 偽 って 出 版 交 渉 を 行 わなければならなかったほどである 彼 の 人 生 が 一 変 するのは 自 伝 的 小 説 の フランスの 遺 言 書 (Le Testament français, 1995)の 出 版 に 因 るところが 大 きい マ キーヌはその 作 品 でゴンクール 賞 高 校 生 が 選 ぶゴンクール 賞 メディシス 賞 とフランス で 強 い 影 響 力 をもつ 文 学 賞 を 同 時 に 受 賞 した 以 来 マキーヌは フランスの 作 家 とし て 受 け 入 れられ 定 期 的 にフランス 語 で 小 説 を 出 版 することになる 28 クンデラの 場 合 母 語 であるチェコ 語 で 作 品 を 書 き 続 け それらの 作 品 はすぐさまフラ ンス 語 に 翻 訳 され 書 店 に 並 んだ その 一 方 で 自 著 の 翻 訳 が 誤 解 された 形 で 読 まれること を 恐 れたクンデラは 既 に 出 版 されたものも 含 めて 翻 訳 の 見 直 しを 行 い 彼 自 身 が チェ コ 語 と 同 等 の 価 値 をもつ と 認 めるフランス 語 訳 の 決 定 版 を 完 成 させることに 時 間 と 努 力 を 惜 しまなかった クンデラとフランス 文 学 の 関 係 に 変 化 が 起 きたのは 緩 やかさ (La Lenteur, 1995)を 発 表 した 時 であろう たとえチェコ 語 で 書 いたとしても その 作 品 が フランス 語 に 翻 訳 されて 出 版 されることに 疑 念 の 余 地 はほとんどなかったはずだが 1995 年 の 緩 やかさ 以 降 クンデラは 直 接 フランス 語 で 小 説 を 書 き 始 めるのである この 変 化 が 注 目 に 値 するのは 単 にクンデラが 執 筆 言 語 をフランス 語 に 変 えただけでなく 緩 や かさ に 着 手 する 少 し 前 から フランスを 舞 台 にした 小 説 をチェコ 語 で 書 き 始 めていたか らである かつてクンデラは 作 品 の 中 で 祖 国 を 描 くことに 迷 いはなく 好 んでチェコ 語 を 作 品 に 滑 り 込 ませることさえ 行 っていたが 29 時 が 経 つにつれてチェコのことを 語 る 機 会 は 少 なくなっていく そしてクンデラのその 執 筆 言 語 や 作 品 の 内 容 の 変 化 は フランス における 彼 の 受 容 のされ 方 も 変 化 させることになった つまり クンデラがチェコ 語 で 作 品 を 書 いている 時 は フランスに 住 むチェコの 作 家 と 見 なされていたが ヨーロッパのこ とを 語 り 始 め フランス 語 の 執 筆 に 乗 り 出 すやいなや フランスのメディアや 批 評 家 たち は 彼 をフランス 文 学 の 中 に 組 み 込 み フランスの 作 家 と 見 なすようになっていったので ある 一 方 クンデラ 自 身 はフランスの 作 家 という 彼 の 新 たな 位 置 づけを 受 けいれるこ とができなかった 彼 は 東 側 の 作 家 というステレオタイプなイメージから 抜 け 出 した がっていたが それはフランスの 作 家 たちの 列 に 名 を 連 ねるためではない 彼 の 望 みは より 普 遍 的 な 世 界 文 学 を 形 成 する 小 説 家 のひとりになることであり 作 品 と 特 定 のひとつ の 国 の 歴 史 とを 関 係 づけない 読 みを 読 者 に 求 めていたのである そのクンデラにとって フランスに 結 びつけられることが 如 何 に 耐 え 難 いものであったかは 想 像 に 難 くない 彼 が 祖 国 への 帰 還 をテーマにした 無 知 をフランス 語 で 執 筆 した 際 に あたかもフランス への 所 属 を 拒 むかのように まずは 翻 訳 をフランス 以 外 の 様 々な 国 で 発 表 し 初 出 から 三 年 経 った 後 にフランスで 出 版 したという 経 緯 も フランス 文 学 に 同 化 されることへの 反 発 に 理 由 のひとつがあると 考 えることができるだろう 28 マキーヌは 本 名 で 小 説 を 発 表 する 一 方 で 正 体 を 隠 して 作 品 を 世 に 送 り 出 していた ガブリエル オ スモンド(Gabriel Osmonde)という 作 家 は マキーヌのペンネームであることをマキーヌ 自 身 が2011 年 に 明 かしたのである マキーヌは 2001 年 以 来 2014 年 までに4 作 の 小 説 をオスモンドの 名 で 著 してい る 29 例 えば 笑 いと 忘 却 の 書 (Le Livre du rire et de l'oubli,1979)では チェコ 語 のリートスト(Litost) という 語 がひとつのテーマとなっている 14

マキーヌが 見 せる 亡 命 作 家 としての 立 場 は クンデラのものとは 異 なる フランスを 理 想 化 し フランスの 文 化 への 憧 憬 を 隠 さず フランスの 遺 言 書 の 出 版 後 フランス 国 籍 を 取 得 したマキーヌではあるが 彼 はロシア 人 であることを 誇 りにし その 出 自 を 効 果 的 に 使 いながらフランスで 小 説 を 書 いている 換 言 すれば マキーヌは 同 時 に 二 つの 国 に 属 し ているのである 一 方 にフランスがあり もう 一 方 に 母 国 があるというマキーヌの 二 極 的 な 考 え 方 は 彼 の 作 品 に 頻 繁 に 表 れている 例 えば アムール 川 の 時 (Au Temps du fleuve Amour, 1994)ではフランス 文 化 に 憧 れる 少 年 たちの 目 を 通 して フランスとソヴ ィエトがまったく 異 なる 世 界 であることを 強 調 し フランスの 遺 言 書 では フランス 人 の 祖 母 をもつロシア 人 を 主 人 公 に 据 えて フランスとロシアの 間 で 絶 え 間 なく 揺 れ 動 き 自 身 が 属 する 世 界 を 選 択 するというマキーヌの 大 きな 主 題 のひとつに 取 りかかった フランスの 遺 言 書 の 主 人 公 は 二 つの 国 の 間 に 居 場 所 を 見 出 すことになるが この 自 伝 的 小 説 の 主 人 公 と 同 様 マキーヌ 自 身 もロシアとフランスの 間 に 生 きている そのた め マキーヌ 自 身 の 所 属 意 識 もフランスでは 絶 えず 話 題 になってきた 2001 年 に 行 われた インタビューの 中 で 文 芸 誌 リール のかつての 責 任 者 でジャーナリストでもあるピエ ール アスリーヌは マキーヌに 次 のような 質 問 を 投 げかけている あなたは 幼 い 頃 から フランス 語 で 書 き フランス 語 を 話 していますが どのような 意 味 で あなたはいまだロ シア 人 であるのでしょうか 30 マキーヌはフランス 語 で 書 くロシアの 作 家 か あるいはロ シア 出 身 のフランスの 作 家 かという 所 属 に 関 する 問 題 は しばしば 批 評 家 や 読 者 が 関 心 を 寄 せるところであった これはマキーヌがロシアの 出 身 であることに 固 執 し 生 まれ 故 郷 をフランス 語 で 描 き 続 けていることに 起 因 する マキーヌはフランス 文 学 の 中 に 組 み 込 ま れる 時 でも また 外 国 の 作 家 であると 見 なされる 時 でも その 所 属 を 決 定 するにはある 種 の 留 保 が 要 求 される フランス 国 籍 をもつマキーヌだが 彼 のフランス 文 学 の 中 での 立 場 は 定 まることがない マキーヌは 自 分 の 特 殊 な 立 場 を 理 解 しており その 立 場 を 巧 く 使 えば 普 遍 的 な 作 家 になれると 考 えていた フランス 語 とロシア 語 の 間 に 普 遍 言 語 を 見 つけることができ ると 信 じている フランスの 遺 言 書 の 主 人 公 に 倣 って マキーヌ 自 身 も 二 つの 国 の 間 に いるという 状 況 を 利 用 し ひとつの 作 品 の 中 に 複 数 の 国 民 複 数 の 言 語 複 数 の 文 化 が 混 在 する 世 界 を 作 り 上 げる 自 己 の 作 品 の 中 に ヨーロッパからアジアまで 北 から 南 まで をまとめあげることを 願 い マキーヌはロシアを 描 く これが 可 能 であったのは まさに 彼 が 曖 昧 な 立 場 にあるからであった クンデラやマキーヌに 較 べると アゴタ クリストフの 状 況 は 亡 命 者 のまた 別 の 有 り 様 を 示 すことになるだろう 双 子 を 主 人 公 にした 三 部 作 悪 童 日 記 ( Le Grand cahier, 1986) 二 人 の 証 拠 (La Preuve, 1988) 第 三 の 嘘 (Le Troisième mensonge, 1991) の 作 者 として 知 られているアゴタ クリストフは 1935 年 にハンガリーで 生 まれ 両 親 と 二 人 の 兄 弟 と 共 に 小 さな 村 で 読 書 に 没 頭 しながら 幼 年 時 代 を 過 ごしていた 家 族 そろって 村 から 町 へ 転 居 したことや 親 愛 なる 兄 と 離 れて 寄 宿 舎 で 生 活 したことといった 節 目 はあ るものの クリストフはハンガリーで 平 凡 な 生 活 を 続 け 18 歳 で 結 婚 し 母 親 となった そ 30 Lire, février 2001 : «Vous écrivez en français et le parlez depuis l'enfance. Dans quelle mesure êtes-vous encore russe?» 15

の 彼 女 の 人 生 の 大 きな 転 換 は 1956 年 に 訪 れた 2011 年 に 生 涯 を 終 えるまで 住 み 続 ける ことになるスイスのヌーシャテルに 亡 命 したのである 彼 女 にはハンガリーを 離 れる 意 思 がなかったものの 当 時 の 夫 の 亡 命 に 巻 き 込 まれる 形 で 20 歳 の 時 に 子 どもを 連 れて 国 境 を 越 えてスイスに 移 り 住 み 工 場 で 働 きながら 戯 曲 や 詩 を 手 がけたが これらの 作 品 は 成 功 をおさめなかったようである 31 ところが 後 にフランス 語 で 書 くことを 学 んだ 彼 女 は 悪 童 日 記 を 完 成 させ これがフランスの 大 手 の 出 版 社 スイユ 社 から 出 版 されると そ の 名 は 広 く 知 られることになった 以 来 彼 女 は 祖 国 であるハンガリーや 全 体 主 義 体 制 下 の 生 活 あるいは 亡 命 者 の 状 況 を 題 材 にしながら フランス 語 で 小 説 や 戯 曲 を 書 き 続 けた 彼 女 の 亡 命 作 家 としての 姿 勢 は クンデラやマキーヌが 見 せる 立 場 とは 明 らかに 異 なっ ている クンデラはどこにも 属 さないことを 願 い マキーヌはロシアとフランスの 間 にい ることを 主 張 したが クリストフはハンガリーへの 所 属 を 常 に 語 る 亡 命 当 初 から 彼 女 は 哀 しみをもって 遠 くにある 祖 国 を 眺 めており インタビューで 彼 女 自 身 が 語 る 時 でも 小 説 の 中 で 登 場 人 物 の 口 を 借 りて 語 る 時 でも ノスタルジーや 祖 国 へ 戻 るという 願 いを 吐 露 し 続 けてきた 彼 女 のハンガリーへの 所 属 意 識 は 決 して 揺 らぐことはなく 幼 年 時 代 を 過 ごした 祖 国 に 生 涯 を 通 じて 属 していたのであった 祖 国 で 経 験 したあらゆる 出 来 事 あ らゆる 思 い 出 を 失 うことをよしとしないクリストフの 小 説 では 生 まれた 国 へ 戻 ることや ハンガリー 人 であることへの 執 着 母 語 同 国 の 仲 間 といった 主 題 が 繰 り 返 し 表 れる フランス 文 学 の 中 で 異 なった 状 況 にあるこれら 三 人 の 作 家 は 生 まれた 土 地 から 切 り 離 されるという 代 償 を 払 い それぞれのやり 方 で 亡 命 の 傷 を 昇 華 させる 術 を 見 出 した そこ では 言 語 と 自 らの 所 属 意 識 がより 明 確 になり それに 伴 って 自 分 は 何 者 であるのかが 常 に 問 題 となってくる ある 国 から 別 の 国 への 移 動 を 経 験 した 彼 らの 文 学 作 品 には 祖 国 にせ よ 辿 り 着 いた 国 にせよ ある 特 定 の 国 や 権 力 との 間 に 特 殊 な 関 係 が 生 まれるのであり 直 接 的 であろうと 間 接 的 であろうと 国 を 強 制 的 に 離 れる 以 外 の 選 択 肢 が 無 かった 作 家 た ちの 発 言 や 作 品 には 喪 失 の 意 識 や 所 属 に 関 する 意 識 が 表 れるのである スラブ 文 化 を 研 究 するマリア ドゥラペリエールは 次 のように 指 摘 していた 多 岐 にわたり 統 一 性 に 欠 け 多 種 多 様 な 経 験 の 結 果 である 移 住 の 文 学 は 何 よりもまず 自 己 の 起 源 の 文 化 へ 様 々な 伝 統 へ 個 々がもつ 集 団 的 な 記 憶 へと 立 ち 返 らせる 亡 命 は 元 のアイデンティティを 消 滅 させうるが アイデンティティが 充 分 に 根 付 いている 場 合 は 亡 命 によってアイデンティティがさらに 強 くなり 純 化 されうるものでもある 32 他 の 国 からフランスにやってきた 作 家 たちは かつていた 場 所 を 忘 れず そして 同 時 に 31 クリストフは 25 歳 の 時 にパリで 出 版 されているハンガリーの 雑 誌 に 詩 を 投 稿 している また 地 方 の 劇 団 やラジオのために 作 品 も 書 いていた 32 Maria Delaperrière, «Préface», Littérature et émigration dans les pays de l'europe centrale et orientale, dirigé par Maria Delaperrière, Paris, Institut d'étude slave, 1996, p.9-10 : «variée, disparate, fruit d'expériences multiples, la littérature d'émigration renvoie avant tout aux cultures d'origine, à des traditions différentes, à une mémoire collective particulière. L'exil peut anéantir l'identité originelle, mais il peut également la renforcer et la sublimer si son ancrage est suffisamment profond.» 16

今 いる 場 所 をなおざりにすることもなく 作 品 を 創 り 出 している 如 何 に 諸 処 の 条 件 が 個 々 の 立 場 や 状 況 を 異 なるものにしているとしても 亡 命 を 果 たした 作 家 たちの あるいは 亡 命 を 描 いた 作 家 たちの 如 何 なる 作 品 にも 祖 国 との 切 断 という 痕 が 残 っている この 痕 跡 が 重 要 なのは 祖 国 を 離 れ 母 語 以 外 の 言 語 で 作 品 を 書 くことになり そして フランス 文 学 の 文 脈 で 読 まれることになる 作 家 たちの 内 奥 にある 二 重 の 所 属 意 識 が 作 家 にとって 言 語 とは 何 か 作 家 にとって 国 家 とは 何 か またいわゆる フランス 文 学 とは 何 かという 大 きな 謎 の 一 部 を 照 らし 出 すからである 20 世 紀 は 革 命 や 大 戦 帝 国 主 義 の 侵 攻 や 全 体 主 義 の 支 配 が 人 々の 大 規 模 な 移 動 を 生 み 出 した 時 代 であったが この 世 紀 に 起 き たフランスにおける 文 学 と 亡 命 者 の 関 係 のかつて 例 を 見 ない 展 開 は こうした 意 味 で 考 察 に 値 する 東 ヨーロッパや 中 央 ヨーロッパ ロシア ラテンアメリカ アジアなどからやってきた 作 家 たちが フランスに 住 む 場 所 を 求 め そのうちの 少 なからぬ 者 たちが 直 接 フランス 語 で 小 説 を 書 き 始 めたが これらの 作 品 は 悲 劇 と 特 権 の 混 成 物 であると 言 えよう 悲 劇 であ るのは 彼 らが 祖 国 との 近 い 者 たちとの そして 母 語 との 強 いられた 切 断 の 苦 しみの 中 で 執 筆 を 続 けているからであり 特 権 であるのは 亡 命 によって 書 くことの 自 由 が 得 られ るだけではなく 新 たな 言 語 と 新 たな 境 遇 の 中 で より 複 雑 で より 深 みある 作 品 を 精 製 する 機 会 を 得 られるからである 彼 らにとってフランス 語 は 祖 国 や 望 郷 の 念 抑 圧 を 強 いる 体 制 や 外 国 軍 に 支 配 された 生 活 を 語 る 為 の 手 段 となる 上 フランス 人 が 示 す 外 国 出 身 の 作 家 の 作 品 に 対 する 関 心 は その 発 表 の 場 を 準 備 する 助 けにもなっている その 一 方 で 外 国 語 であるフランス 語 による 執 筆 行 為 は 彼 らに 作 家 としての 立 ち 位 置 を 考 えるように 常 に 仕 向 ける 彼 らは 自 らのルーツを 決 して 忘 れることがないまま フランス 語 で 執 筆 を 続 け フランスの 作 家 として 仕 事 をすることになる そのため 彼 らの 作 品 には 所 属 へ の 意 識 ノスタルジー 母 語 とフランス 語 の 間 に 起 こる 衝 突 が 小 説 のひとつの 核 として 表 れることになるのである つまり 彼 らの 執 筆 言 語 の 選 択 は 単 なる 表 現 手 段 の 選 択 であ る 以 上 に より 実 存 的 な 問 題 に 関 わる 選 択 であると 言 えよう 言 語 学 を 研 究 しているマグ ダ ストロインスカは 亡 命 文 学 を 考 える 上 で ポーランドの 亡 命 作 家 ミウォシュの も はや 自 らの 言 語 を 持 たない 詩 人 とは いったい 何 であろうか 33 という 自 問 の 言 葉 を 引 用 しているが それでは 自 らの 文 学 作 品 の 創 造 のために 言 語 を 変 えた 作 家 は いったい 何 者 であろうか この 疑 問 は 亡 命 を 経 験 した 作 家 たちがしばしば 直 面 する 問 題 である 彼 ら が 母 語 以 外 の 言 語 で 書 き 始 める 時 言 語 と 国 家 と 言 語 を 生 業 の 道 具 とする 作 家 としての 自 己 の 間 に 存 在 する 密 接 な 繋 がりを 意 識 することになる そしてこのことを 意 識 した 瞬 間 か ら 母 語 とフランス 語 の 間 に 佇 み 言 語 国 家 自 己 の 三 つ 巴 を 崩 し 新 たな 作 家 としての 自 己 を 打 ち 立 てるための 探 求 が 始 まるのである 言 語 が 問 題 となるのは 個 人 の 所 属 に 限 ったことではない 亡 命 を 果 たしたことで 多 様 に 解 釈 されうる 立 場 に 置 かれる 作 家 たちは ひとつの 国 の 歴 史 や 文 化 そして 言 語 によっ て 形 成 されている 国 民 文 学 の 定 義 も 変 える 国 民 文 学 という 概 念 が 文 学 は 言 語 や 執 筆 さ 33 Magda Stroinska, «The role of language in the re-construction of identity in exile», Exile, Language and Identity, Frankfurt am Main, Peter Lang GmbH, 2003, p.104 : «What is a poet who has no longer a language of his own?». 17

れた 作 品 による 遺 産 そして 地 理 的 な 単 位 と 切 り 離 せないものであるという 信 条 と 強 く 結 びついている 34 ものであるなら フランス 語 で 書 く 外 国 出 身 の 作 家 は この 概 念 をより 複 雑 なものにするからである とりわけ 数 世 紀 にわたって 莫 大 な 自 国 の 文 学 的 遺 産 を 引 き 継 いできたフランスにおいては 作 家 はフランス 語 で 執 筆 すると 半 ば 自 動 的 に フランス の 作 家 として 吸 収 されてしまう ルーマニア 出 身 のウジェーヌ イヨネスコやアイルラ ンド 出 身 のサミュエル ベケット ロシア 出 身 のナタリー サロートといった 作 家 たちが しばしば フランス 文 学 の 作 家 として 紹 介 されるという 事 実 が 例 証 しているように 豊 かに 蓄 えられた 文 学 文 化 資 産 と 数 世 紀 にわたって 影 響 力 を 培 ってきたフランス 語 によ って フランス 文 学 は 外 国 出 身 の 作 家 たちをいわゆる フランス 文 学 の 中 に 組 み 込 んで きた フランスでは 外 国 出 身 の 作 家 がフランス 語 で 小 説 を 書 き フランス 文 学 の 一 部 を 形 作 っていると 言 っても 過 言 ではない フランス 語 を 司 るアカデミー フランセーズ 会 員 を 務 めた 作 家 の 名 簿 にも 中 国 出 身 のフランソワ チェンやアルゼンチン 出 身 のエクトー ル ビアンシォッティの 名 を 見 ることもでき その 存 在 は 無 視 できるものではない 亡 命 作 家 は 一 度 フランス 文 学 の 中 に 組 み 込 まれると 今 度 はフランス 文 学 の 文 学 資 本 を 増 やすのに 貢 献 することになる フランス 文 学 の 方 では 彼 らの 作 品 の 価 値 をフランス の 威 光 をもって 保 証 し 普 遍 的 な 作 品 として 喧 伝 することになる もし 彼 らの 作 品 がマイ ナーな 言 語 で 書 かれ 彼 らの 祖 国 だけでしか 出 版 されなかったとしたら 彼 らは 無 名 なま ま 埋 もれてしまっていたかもしれない 35 この 相 互 作 用 がフランスにおける 亡 命 文 学 を 特 徴 づけているのであり まさにそれ 故 フランス 文 学 に 組 み 込 まれてしまった 亡 命 作 家 たちは 何 がフランス 文 学 であるのかという 定 義 を 刷 新 し フランス 文 学 の 新 たな 地 平 を 切 り 開 く 以 上 の 点 を 明 らかにするため 全 三 部 で 構 成 される 本 論 文 では 第 1 部 を フランス 文 学 の 内 部 / 外 部 にある 亡 命 作 家 の 立 場 の 分 析 に 充 てている フランスにおける 亡 命 作 家 の 立 場 は 極 めて 曖 昧 なものであるが それは 彼 らがフランスで そしてフランス 語 で 祖 国 の ことを 語 り またフランスに 安 寧 の 地 を 見 出 さず そこに 溶 け 込 むことなく 外 国 人 として 執 筆 を 続 けている 一 方 で 彼 らは 常 にフランスの 作 家 であるとみなされる 可 能 性 を 孕 んで いるところに 原 因 のひとつがある まずは 亡 命 作 家 を 取 り 巻 くこうした 相 反 する 状 況 を 明 確 にし そうした 状 況 を 作 り 出 すフランスの 同 化 作 用 を 照 らし 出 すことで フランスにお ける 亡 命 作 家 の 特 色 を 明 らかにしていく 34 Dictionnaire des termes littératures, Paris, Honoré Champion Éditeur, 2005, p.283 : «[La conception de la littérature nationale] est étroitement liée à la conviction que la littérature est indissociable d'une langue, d'une patrimoine d'œuvres écrites et d'une unité géographique.» 35 ミラン クンデラはメジャー 言 語 の 影 響 力 を 熟 知 しており ドイツ 語 で 書 いたカフカを 例 にとりなが ら 次 のように 示 唆 している 少 しのあいだ 彼 [カフカ]が 作 品 をチェコ 語 で 書 いていたと 仮 定 してみ てください この 時 今 日 誰 が 彼 の 作 品 を 知 っているでしょうか Milan Kundera, Le Rideau, 2005, Œuvre, Tome II, Paris, Éditions Gallimard, «Bibliothèque de la Pléiade», 2011, p.966 : «imaginons un instant qu'il ait écrit ses livres en tchèque. Aujourd'hui, qui les connaîtrait?» 本 論 文 では ミラン クンデラの 作 品 の 引 用 は 特 別 に 指 摘 のない 場 合 は2011 年 にガリマール 社 から2 巻 本 で 刊 行 された プレイヤード 叢 書 を 使 用 している また 作 品 集 は 通 常 Œuvres と 複 数 形 で 綴 る が クンデラのプレイヤード 版 は 作 者 本 人 の 意 向 もありŒuvre と 単 数 形 で 題 されていることも 蛇 足 な がら 書 き 足 しておく 18

このとき 亡 命 作 家 の 作 品 がフランス 文 学 の 範 疇 で 語 られる 最 も 大 きな 原 因 として 彼 ら がフランス 語 で 執 筆 していることが 挙 げられる 文 学 が 言 葉 を 使 った 芸 術 である 以 上 言 語 の 問 題 は 避 けられないものであり また 音 楽 や 絵 画 といった 芸 術 に 携 わる 亡 命 者 たちと 亡 命 作 家 の 最 も 大 きな 違 いもここにある 彼 らの 言 語 は 作 家 としての 表 現 手 段 であるのみ ならず 所 属 の 問 題 とも 切 り 離 して 考 えることはできない そこで 本 論 文 の 第 2 部 は 亡 命 作 家 にみるこうした 言 語 の 問 題 に 焦 点 を 当 てて アンドレイ マキーヌ ミラン クン デラ アゴタ クリストフの 作 品 をそれぞれ 分 析 している 複 数 の 言 語 の 間 から 普 遍 言 語 を 発 見 したマキーヌ フランス 語 とチェコ 語 の 差 異 を 取 り 払 おうとしたクンデラ そ してフランス 語 で 執 筆 することが 魂 をすり 減 らしながら 作 品 を 創 り 出 す 苦 しみであるこ とを 示 すクリストフ 彼 らがどのように 言 語 というものを 考 え どのように 作 品 で 表 して いるかを 論 じていく しかし マキーヌにせよ クンデラにせよ クリストフにせよ あるひとつの 国 の 言 語 としての フランス 語 ではなく いわゆる 小 説 家 の 言 語 としてのフランス 語 をそれ ぞれが 探 っている 一 方 で ジャンルとしてのフランス 文 学 そして 国 語 としてのフランス 語 の 引 力 からは 容 易 に 逃 れることができない そこに 亡 命 作 家 とフランス 文 学 との 特 殊 な 関 係 が 生 まれるのであり 本 論 の 最 終 部 となる 第 3 部 では 第 1 部 と 第 2 部 を 総 合 する 形 で この 特 殊 な 関 係 性 を 分 析 している フランス 語 で 書 く 亡 命 作 家 たちはフランスの 力 で 聖 別 化 され かつフランス 文 学 を 構 成 するものとして すなわちフランス 文 学 の 多 様 性 と その 文 学 資 産 の 豊 かさを 証 明 するものとしての 役 割 を 担 うことになる 亡 命 作 家 の 方 でも 自 らの 小 説 が 祖 国 の 歴 史 や 文 化 と 結 びつけられて 解 釈 され 必 然 的 に 小 さなコンテクスト で 読 まれうることを 知 っており またフランス 語 で 書 くことによってフランス 文 学 の 一 部 となることもわかっていながら いやわかっているからこそ 文 学 の 力 を 信 じ 一 義 的 な 現 実 に 対 抗 するものとして 多 義 的 な 文 学 という 構 図 を 打 ち 立 てる 本 論 の 第 3 部 では フランス 文 学 と 亡 命 文 学 のこうした 関 係 性 に 焦 点 を 当 て 現 実 的 にフランス 文 学 というシ ステムが 亡 命 者 たちの 作 品 を 保 証 し 普 遍 化 し フランス 文 学 として 拡 散 させる 一 方 で 亡 命 作 家 の 作 品 は 異 国 的 な 要 素 を 失 うこと 無 しにフランス 文 学 の 射 程 を 広 げ その 文 学 資 産 を 補 強 し より 彼 ら 自 身 の 作 品 の 特 異 性 を 際 立 たせつつ 世 界 文 学 に 理 想 を 求 めるとい う 相 互 補 完 的 な 関 係 が 築 かれていることを 説 明 する こうして 本 論 では マキーヌやクリ ストフやクンデラの 分 析 を 通 じて フランス 文 学 でありながらフランス 文 学 の 外 部 にある もの フランス 文 学 でありながらフランス 文 学 を 内 側 から 解 体 し 再 構 築 するものとしての 亡 命 文 学 の 力 を 証 明 していくことになる それでは 現 在 に 至 るまで 脈 々と 受 け 継 がれてきたフランスの 文 化 と 文 学 資 産 そして フランス 語 によって 形 作 られているフランス 文 学 の 中 で 亡 命 作 家 がどのような 状 況 に 置 かれているのかをみることから 始 めよう 19

第 1 部 フランス 文 学 の 外 部 / 内 部 の 亡 命 作 家 国 境 を 越 えた 作 家 たちが 作 り 出 す 文 学 は 一 見 すると 母 国 を 離 れることで 国 という 概 念 から 解 き 放 たれた 自 由 な 文 学 に 見 えるかもしれない ひとつの 国 に 囚 われず また 外 国 語 で 執 筆 するが 故 に 到 達 できたエクリチュールが 国 境 を 軽 々と 越 えるコスモポリタンの ような 印 象 を 与 えることもあるだろう しかし 亡 命 作 家 の 作 品 にしばしば 見 て 取 れる 独 特 な 哀 しみを 纏 った 力 強 さが 祖 国 との 関 係 の 中 からわき 起 こっていることも 忘 れてはな らない 亡 命 作 家 には 消 すことができない 祖 国 の 重 みがのしかかっているのであり 生 まれた 国 で 重 ねてきた 己 の 歴 史 と 文 学 的 環 境 を 捨 てざるを 得 なかった 作 家 たちは その 重 みから 逃 れることができない その 上 彼 らが 逃 れることができないのは 生 まれ 育 った 国 の 重 みだけではない 彼 らはときにフランスの 作 家 と 見 なされ フランス 文 学 の 中 に 吸 収 されていく フランスに 活 動 の 拠 点 を 移 した 彼 らは もうひとつの 国 すなわちフランス への 従 属 が 求 められるのである 亡 命 文 学 を 構 成 する 作 家 たちがフランスに 移 り 住 んでいるからという 理 由 で あるいは フランス 語 で 執 筆 しているからという 理 由 で フランス 文 学 の 枠 組 みで 語 られているにも 拘 らず 亡 命 文 学 とフランス 文 学 の 関 係 に 注 目 してその 意 義 を 考 察 したものは 今 日 まで なされていない しかしながら とりわけ 国 民 文 学 という 概 念 が 意 味 合 いを 強 くした 19 世 紀 以 降 外 国 出 身 の 作 家 の 立 場 は 非 常 に 曖 昧 になりつつも フランスにおいては 多 く フランス 文 学 の 作 家 として 同 化 される 傾 向 をみせており それはひとつの 国 から 逃 れてフ ランスに 移 り 住 んだ 作 家 もしくは 国 との 切 断 を 魂 に 刻 んだまま 作 品 を 創 り 出 す 作 家 にと って 個 人 として また 作 家 として 自 身 が 何 者 であるのかという 問 題 と 直 結 する 避 け 難 い 要 の 点 であるのと 同 時 に 彼 らの 創 作 活 動 自 体 にも 少 なからぬ 影 響 を 与 えていることを 見 逃 してはならない 亡 命 文 学 は 国 という 概 念 から 逃 れる 文 学 ではなく むしろ 国 と 切 り 離 せない 様 々なシステムと 関 係 を 築 き その 中 で 機 能 することが 運 命 づけられた 文 学 で ある この 第 1 部 では こうしたフランス 文 学 がもつ 外 部 を 取 り 込 む 国 民 文 学 としての 力 とそ の 構 造 に 焦 点 を 当 て 特 にアンドレイ マキーヌとミラン クンデラの 置 かれている 立 場 や 執 筆 活 動 を 例 にとりながら 亡 命 文 学 と 国 家 的 モデルとしてのフランス 文 学 の 関 係 を 明 らかにしていく 第 1 章 フランス 文 学 が 内 包 する 国 有 化 の 機 能 亡 命 文 学 をフランス 文 学 との 関 係 性 に 注 目 して 捉 えていくという 第 1 部 の 目 的 を 遂 げる ために 本 章 ではフランス 文 学 が フランスの 文 学 として 国 のひとつのモデルを 体 現 していることを 確 認 することから 始 めたい ヨーロッパで 強 い 影 響 力 を 長 い 間 もっていたフランス 語 と 豊 富 に 蓄 積 されてきた 文 化 資 産 によって 形 成 されているフランス 文 学 は フランス 人 以 外 の 手 による 作 品 もフランスの ものとする 正 当 性 と 作 品 の 普 遍 的 価 値 を 保 証 する 権 威 を 獲 得 してきた あらゆる 作 家 は 20

ひとたびフランス 語 で 執 筆 すると フランスの 文 化 の 一 部 としてみなされるようになる こうした 背 景 には 国 民 文 学 という 概 念 が 練 り 上 げられ それぞれの 国 の 国 民 文 学 が 世 界 文 学 という 土 壌 で 併 置 され それぞれの 国 民 文 学 が 文 化 資 本 を 再 生 産 し 文 学 が 自 国 の 権 威 を 高 めるものとして 機 能 してきたという 経 緯 がある それ 故 ひとつの 国 から 逃 れて フランスという 新 たな 国 に 活 動 の 場 を 移 した 作 家 たちは フランス 文 学 との 間 に 特 殊 な 関 係 を 打 ち 立 てることになるのである 国 家 的 モデルとしてのフランス 文 学 フランス 文 学 という 名 の 下 に 作 家 を 囲 み 統 制 し 伝 播 する その 意 味 で 言 えば 文 学 は 自 律 した 自 治 が 許 された 美 的 な 芸 術 世 界 であることが 常 に 許 されているわけではなく ときに 文 学 に 敷 かれたシステムも 国 家 のシステムと 類 似 した 様 相 を 見 せることになる フ ランスは とりわけその 文 化 的 な 威 信 を 以 て たとえ 外 国 の 芸 術 家 や 作 家 でもフランスの 文 化 を 担 う 者 として 認 め フランスの 中 に 取 り 込 んできた ミラン クンデラやアンド レイ マキーヌやアゴタ クリストフが 外 国 出 身 の フランスの 作 家 として 紹 介 される ことが 稀 ではないという 事 実 が 教 えているように フランスの という 国 有 化 を 示 す 語 は 亡 命 作 家 たちと 極 めて 関 係 が 深 い 多 様 な 文 化 が 混 在 する 中 で 執 筆 活 動 を 行 う 作 家 たちを 分 析 したジュヌヴィエーヴ ムイヨ=フレスは フランスに 亡 命 した 作 家 とフランス 文 学 を 切 り 離 すことの 難 しさについて 言 及 している フランス 文 学 の 伝 統 は 外 国 人 や 亡 命 者 の 偉 大 な 作 家 たちを 国 有 化 し こうした 作 家 は フランス 文 学 に 当 然 ながら 所 属 していると 見 なす 傾 向 にあるため 切 り 離 しは 難 しい 36 ジュヌヴィエーヴ ムイヨ=フレスは その 証 拠 としてアイルランドの 市 民 権 を 保 持 し 続 けたサミュエル ベケットやベルギー 人 のアンリ ミショー そして 出 自 がロシアである にも 拘 らずフランスの 作 家 に 数 えられることが 多 いナタリー サロート さらにエジプト に 生 まれたがフランスの 現 代 詩 人 と 見 なされることの 多 いエドモン ジャベスなどの 名 を 挙 げている ブルガリア 出 身 でフランスに 住 み 主 にフランス 語 で 執 筆 しているジュリア クリステヴァも ムイヨ=フレスと 同 様 に フランスのこうした 傾 向 に 注 目 した 結 局 あなたが 外 国 人 として 文 化 的 に 優 れた 者 であるならば 例 えば 偉 大 な 知 識 人 や 偉 大 な 芸 術 家 として 認 められたならば フランスは 国 をあげてあなたの 業 績 を 取 り 入 れ フラン スの 最 も 優 れた 功 績 に 組 み 込 み あなたを 他 の 国 よりも 高 く 評 価 する あなたのあまりフラ ンス 的 ではない 変 わっているところにある 種 の 目 配 せをしながらではあるが 才 気 も 華 や かさも 大 いにあるではないか と 言 って イヨネスコやシオラン ベケットがそうだ 37 36 Geneviève Mouillaud-Fraisse, Les Fous cartographes Littérature et appartenance, Paris, L'Harmattan, 1995, p.228 : «Il est difficile à isoler parce que la tradition littéraire française a tendance à «nationaliser» ses grands écrivains étrangers ou exilés, à considérer comme allant de soi leur appartenance à la littérature française.» 37 Julia Kristeva, Étrangers à nous-mêmes, Pairs, Éditions Gallimard, 1988, p.60 [collection Folio] : «Enfin, lorsque votre étrangeté devient une exception culturelle - si, par exemple, vous êtes reconnu comme un grand savant ou un grand artiste -, la nation tout entière annexera votre performance, l'assimilera à ses meilleurs réalisations et vous reconnaîtra mieux qu'ailleurs, non sans un certain 21

ムイヨ=フレスやクリステヴァのこうした 指 摘 は アンドレイ マキーヌがフランスに 受 け 入 れられた 条 件 を 見 れば よりはっきり 理 解 することができるだろう マキーヌは 自 伝 的 小 説 の 中 で 帰 化 申 請 を 断 られる 人 物 を 描 いている ソヴィエトで 育 ち フランスに 渡 り ソ 連 を 除 く 全 ての 国 への 渡 航 許 可 と 難 民 証 明 書 しか 持 たない 主 人 公 は 帰 化 手 続 きを 申 請 することになるが 必 要 書 類 を 揃 えて 提 出 し 新 たなフランスでの 生 活 を 想 像 しながら 返 事 を 待 ち 続 ける 彼 に 届 いた 回 答 は 次 のようなものであった 目 は 頭 で 考 えるよりも 早 く 理 解 する 特 にそれが 頭 では 理 解 したくない 知 らせである 時 は あの 躊 躇 いの 状 態 にある 短 い 間 視 線 はあたかも 思 考 がその 言 葉 の 意 味 を 理 解 しようとする よりも 前 に 文 面 を 変 えてしまうことができるかのように 言 葉 の 冷 酷 な 連 なりを 断 ち 切 ろう とするのだ 僕 の 目 の 前 で 文 字 が 飛 び 跳 ね 言 葉 の 破 片 や 文 の 切 れ 端 が 僕 を 打 ち 付 けた そ してまるではっきり 一 文 字 ずつ 発 音 せよとでも 言 うように 大 文 字 で 間 を 置 いて 印 刷 された 肝 心 の 言 葉 が 重 々しくのしかかってきた 不 受 理 38 この 逸 話 は 完 全 なフィクションではなく マキーヌ 本 人 の 実 体 験 に 基 づいているものであ った マキーヌ 自 身 は 帰 化 申 請 を 1991 年 に 行 ったが その 時 は 受 理 されず 文 学 賞 を 受 けて 初 めてフランス 国 籍 取 得 が 認 められたのである フィガロ 紙 の 新 たなフランスの 大 作 家 という 見 出 しの 記 事 には この 見 出 し 自 体 がフランスの 同 化 作 用 を 象 徴 していると も 言 えるだろう マキーヌの 帰 化 に 関 する 興 味 深 い 説 明 を 読 むことができる とはいえ 彼 は 昨 日 まで 無 国 籍 者 だったのだが 幸 いことに 文 学 的 な 名 声 がもたらされた フランスが 如 何 に 文 学 を 誇 りに 思 い 作 家 に 尊 敬 の 念 を 払 っているかは 周 知 のことであ る メディシス 賞 ゴンクール 賞 高 校 生 が 選 ぶゴンクール 賞 の 三 冠 を 得 て4ヶ 月 後 ア ンドレイ マキーヌはフランス 国 籍 を 取 得 したのである この 申 請 は 1991 年 彼 が 無 名 の 時 に 一 度 不 許 可 となったものである 39 マキーヌの 帰 化 が 許 可 されたのは 文 学 賞 の 獲 得 によって 彼 が フランスの 作 家 に 値 す るものと 認 められたからに 他 ならない このマキーヌの 例 は フランスの 同 化 作 用 を 示 しているだけではなく フランスにおけ clin d'œil concernant votre bizarrerie si peu française, mais avec beaucoup de brio et de faste. Tel Ionesco, Cioran, Beckett...» 38 Andreï Makine, Le Testament français, Paris, Mercure de France, 1995, p.299-300 : «Les yeux comprennent plus vite que l'esprit, surtout quand il s'agit d'une nouvelle que celui-ci ne veut pas comprendre. En ce bref moment d'indécision, le regard essaye de briser l'implacable enchaînement des mots, comme s'il pouvait changer le message avant que la pensée veuille en saisir le sens. Les lettres sautillèrent devant mes yeux, me criblant d'éclats de mots, de bouts de phrases. Puis, pesamment, le mot essentiel, imprimé en gros caractères espacés comme pour être scandé, s'imposa : IRRECEVABILITÉ.» 39 «Un nouveau grand écrivain français», Le Figaro, le 9 mars 1996 : «Pourtant, hier encore, il était apatride. Heureusement, la notoriété littéraire est passée par là. On sait combien la France est fière de ses Lettres, et respectueuse de ses écrivains. Quatre mois après la triple reconnaissance du prix Médicis [...], du prix Goncourt et du Goncourt les lycéens, Andreï Makine obtient donc la nationalité française, qui lui avait été refusée en 1991 du temps où il n'était «personne».» 22

る 国 による 実 際 的 な 行 政 上 の 手 続 きと 文 学 や 文 化 にまつわる 所 属 との 至 近 性 も 明 らかに している 政 治 や 国 家 的 なことがらと 文 学 にまつわる 出 来 事 は 顕 著 に 絡 み 合 っているの であり 国 境 を 越 え 国 や 政 治 とは 距 離 を 置 いている 作 家 たちの 作 品 でさえ ある 種 のナ ショナリスムに 支 えられた 国 家 的 な 文 脈 の 中 に 置 いてしまう 亡 命 作 家 ではないが フラ ンスの 海 外 県 を 出 生 の 地 とする 著 名 な 詩 人 エメ セゼールが 2008 年 の 4 月 にこの 世 を 去 った 時 フランスでは 彼 へオマージュを 捧 げ パンテオンに 祀 るという 提 案 がなされた こうした 議 論 が 起 きたことも フランスが 所 有 する 文 化 的 な 財 産 して 国 民 文 学 の 中 に 偉 人 を 登 録 する 国 家 的 な 目 論 みの 証 と 見 ることができるだろう 詩 人 の 亡 骸 は 最 終 的 に 彼 自 身 の 思 いを 尊 重 し マルチニックの 地 に 埋 葬 されることになったが 黒 人 であることを 肯 定 する ネグリチュード という 運 動 を 提 唱 し 帰 郷 ノート の 著 者 として 知 られる 詩 人 をパンテオンに 埋 葬 するという 提 案 には フランスの 政 治 的 かつ 文 学 的 な 同 化 作 用 の 傾 向 が 垣 間 見 える ついでながら 追 記 しておけば 結 婚 とりわけこれは 女 性 の 作 家 の 場 合 に 重 要 な 要 素 と なる によって 法 的 に 外 国 籍 であった 作 家 がフランスの 作 家 と 立 場 を 変 えることもある ロシア 出 身 のエルザ トリオレがルイ アラゴンと 結 婚 したのち 1944 年 にゴンクール 賞 を 獲 得 した 時 には トリオレはフランスの 作 家 と 見 なされることもあった 40 さらにこう した 同 化 に 関 しては 人 種 による 限 定 や 制 限 を 確 認 することもできる フランスの 文 芸 批 評 家 でスティーブンソンの 専 門 家 でもあるミシェル ル ブリは 次 のように 指 摘 する 文 学 の 世 界 にあって アンナ モイは 北 側 の 白 人 の 作 家 (ベケットやクンデラ シオラン) が 好 んで フランスの 作 家 のカテゴリーに 入 れられ 南 側 の 黒 人 や 黄 色 人 種 の 作 家 たち は フランス 語 圏 の 作 家 とカテゴリー 分 けされる どうにも 胡 散 臭 い 理 由 のことを 語 っ ている 41 亡 命 作 家 のフランスへの 同 化 は 文 化 的 文 学 的 な 文 脈 のみで 判 断 されるのではなく 法 的 な 手 続 きやフランスにふさわしい 功 績 が 認 められるかどうか あるいは 出 身 国 や 人 種 と いった 政 治 的 な 要 因 と 切 り 離 して 考 えるわけにはいかない フランス 文 学 の 同 化 には 国 家 的 な 規 定 が 働 き フランス 文 学 への 参 加 をときには 許 し ときには 強 制 し ときには そ の 名 に 値 しなければ 拒 絶 する だが フランス 文 学 が 国 家 的 なモデルを 呈 するのは 作 家 や 作 品 のフランス 化 に 法 の 手 続 きが 関 与 し 国 が 介 入 しているからだけではない むしろ フランス 文 学 のシステム 自 体 が 国 民 文 学 として 他 を 吸 収 しながら 拡 大 し 内 部 にある 作 家 たちをコントロールして いることの 方 が 重 要 であろう つまり フランスが 培 ってきた 文 学 市 場 を 統 治 する 組 織 や ルールやコードが 作 家 を 囲 み 込 み フランス 文 学 への 所 属 を 決 定 づけるのである 例 え 40 ユゲット ブシャルドーによると トリオレは ひとりの 女 性 ひとりの 女 レジスタンス フランス 人 女 性 と 紹 介 され こうしてトリオレは 心 と 精 神 の 面 からフランス 人 なった と 書 いている Cf., Huguette Bouchardeau, Elsa Triolet, Paris, Éditions Flammarion, 2000, p.182. 41 Michel Le Bris, «Pour une littérature-monde en français», Pour une littérature-monde, sous la direction de Michel Le Bris et Jean Rouaud, Paris, Éditions Gallimard, p.24 : «Anna Moï [...] interpellait vivement le milieu littéraire, sur les raisons à tout le moins suspectes qui lui faisaient volontiers classer comme «française» les auteurs blancs du Nord (Beckett, Kundera, Cioran) et comme «francophones» les auteurs du Sud à la peau noire, ou jaune.» 23