第 8 章 高 等 教 育 の 社 会 経 済 的 効 果 と 費 用 負 担 小 林 雅 之 ( 東 京 大 学 大 学 総 合 教 育 研 究 センター) 劉 文 君 ( 東 京 大 学 大 学 総 合 教 育 研 究 センター) 1. 教 育 費 負 担 の 在 り 方 教 育 の 社 会 経 済 的 効 果 (アウトプット)を 検 討 する 際 には そのアウトプットだけで はなく インプットすなわち 費 用 も 検 討 する 必 要 がある 教 育 の 費 用 を 誰 がどのよう に 負 担 するか これを 教 育 費 の 費 用 負 担 問 題 という 本 章 の 目 的 は 各 国 と 比 較 する ことにより わが 国 の 教 育 費 負 担 問 題 について 政 策 的 インプリケーションを 得 ること にある また 高 等 教 育 の 社 会 経 済 的 効 果 を 示 すことにより 高 等 教 育 の 公 財 政 負 担 を 増 やす 論 拠 を 検 討 する 教 育 費 負 担 はきわめて 重 要 でありながら わが 国 ではあまり 正 面 切 って 論 じられる ことが 少 ない 問 題 である この 背 景 には 子 どもの 教 育 は 親 に 責 任 があり 親 が 学 費 を 負 担 するのが 当 然 という 根 強 い 教 育 観 がある そのため 教 育 費 の 公 的 負 担 に 対 す る 関 心 を 削 いできたと 言 えなくもない 翻 って 海 外 に 目 を 転 じると 教 育 費 を 誰 が 負 担 するかは 非 常 に 大 きな 問 題 となって いる 最 大 の 問 題 は 公 的 負 担 から 私 的 負 担 への 移 行 である 既 に 私 的 負 担 が 最 も 重 いわが 国 からみると この 点 はわかりにくい そこで 本 章 では, 海 外 と 対 比 すること によって わが 国 の 教 育 費 問 題 の 特 質 を 浮 き 彫 りにするとともに 政 策 的 インプリケ ーションを 検 討 したい 教 育 費 の 費 用 負 担 は 主 として 次 のように 区 分 される まず 第 1 に 公 的 負 担 か 私 的 負 担 か 第 2 に 私 的 負 担 は さらに 民 間 負 担 か 家 計 負 担 か 第 3 に 家 計 負 担 は 親 負 担 か 子 ( 学 生 本 人 ) 負 担 か といった 区 別 である 民 間 負 担 には 企 業 慈 善 的 ( 寄 付 財 団 など) 負 担 などもあるが わが 国 の 場 合 占 める 割 合 が 低 いので 本 章 ではこれ 以 上 ふれない これを 除 けば 教 育 費 の 負 担 は 公 的 負 担 親 負 担 子 負 担 の3つに なる こうした 教 育 費 の 公 的 負 担 家 計 ( 親 ) 負 担 学 生 本 人 ( 子 ) 負 担 の3つの 費 用 分 担 の 背 景 には 3つの 教 育 観 がある 第 一 に 公 的 負 担 を 支 える 教 育 観 は 社 会 が 教 育 を 支 えるというもので これは 教 育 に 関 する 福 祉 国 家 主 義 といえよう 北 欧 諸 国 や フランスなどに 広 く 見 られる 考 え 方 である とりわけ 多 くのヨーロッパ 諸 国 では 教 育 は 社 会 が 支 えるという 教 育 観 により 高 等 教 育 は 無 償 である スウェーデンでは 国 公 立 大 学 だけでなく 私 立 大 学 も 完 全 に 無 償 である 第 二 に 家 計 ( 親 ) 負 担 の 背 景
にある 教 育 観 は 親 が 子 供 の 教 育 に 責 任 をもち 費 用 を 負 担 するのは 当 然 であるべきであ るという 教 育 の 家 族 主 義 である わが 国 韓 国 中 国 などで 強 い 教 育 観 であるが 南 欧 諸 国 もこれに 近 い 第 三 に 学 生 本 人 ( 子 ) 負 担 の 背 景 にある 教 育 観 は 教 育 の 個 人 主 義 という 考 え 方 がある つまり 3つの 教 育 負 担 の 考 え 方 は 異 なる 教 育 観 によ って 支 えられているのである このように 各 国 と 比 較 すると わが 国 では 教 育 の 家 族 主 義 が 強 く 教 育 費 の 家 計 負 担 が 当 然 視 されているため 教 育 費 の 負 担 問 題 がわか りにくいが 教 育 費 負 担 について わが 国 の 家 族 主 義 と 全 く 異 なる 考 え 方 があること がわかる 2. 教 育 費 の 公 的 負 担 の 論 拠 高 等 教 育 の 費 用 負 担 は 公 的 負 担 親 負 担 私 的 負 担 に3 分 される それではなぜ そもそもなぜ 教 育 費 について 公 的 負 担 が 必 要 かという 点 について 検 討 したい これ には 教 育 の 外 部 効 果 と 公 共 財 という 観 点 が 重 要 である 教 育 はそれを 受 けた 者 だけでなく 受 けなかった 者 や 社 会 全 体 にも 恩 恵 を 与 える 読 み 書 き 計 算 ができるように 教 育 を 受 けることはその 個 人 にとっても 大 きな 恩 恵 であ るが 社 会 全 体 もこの 恩 恵 を 受 ける 識 字 率 が 重 要 な 問 題 となるのは 識 字 率 が 低 い 社 会 は 社 会 全 体 としてきわめて 非 効 率 な 社 会 だからである この 教 育 を 受 けた 者 が 教 育 を 受 けなかった 者 あるいは 社 会 全 体 に 及 ぼす 効 果 を 外 部 効 果 あるいは 外 部 経 済 と 呼 ぶ より 正 確 に 言 えば 外 部 効 果 は 効 果 の 中 でも 市 場 を 通 じないで 効 果 を 及 ぼ すものを 指 し 価 格 に 含 まれない このため 外 部 効 果 が 存 在 する 場 合 その 効 果 に 対 して 恩 恵 を 受 ける 個 々 人 や 社 会 は 対 価 を 支 払 わないので 税 金 を 徴 収 し 公 的 に 負 担 することが 必 要 となる ほとんどの 国 で 義 務 教 育 が 無 償 なのは この 理 由 による ただし 教 育 段 階 が 上 がるほど 外 部 効 果 は 弱 くなると 考 えられる このように 高 等 教 育 費 の 公 的 負 担 増 を 主 張 するためには 高 等 教 育 の 外 部 効 果 を 明 らかにする 必 要 がある この 点 については まず 第 一 に 教 育 の 社 会 的 収 益 率 によって 教 育 の 社 会 経 済 的 効 果 の 測 定 がなされている(Lange and Topel 2006 など) わが 国 では 教 育 の 社 会 的 収 益 率 の 測 定 の 例 はあまりないが 私 的 収 益 率 の 測 定 例 としては 継 続 的 に 実 施 されている( 近 年 のものとして 島 2010 田 中 2010 など) 本 報 告 書 の 他 の 章 でも 検 討 されている しかし 教 育 費 の 公 的 負 担 に 関 して 重 要 なのは 先 にふれたように 教 育 の 外 部 効 果 そのものの 検 証 が 重 要 である それでは 高 等 教 育 の 外 部 効 果 が 実 際 にどのくらい あるのか この 実 証 は 必 ずしも 容 易 ではない というのも 外 部 効 果 はそもそも 市 場 を 通 じないで 効 果 を 及 ぼすのであるから 価 格 がつけられず 計 測 しがたいからであ る しかし 近 年 幾 つかの 実 証 研 究 が 現 れた そのひとつは 高 等 教 育 を 受 けた 者 が
受 けていない 者 に 及 ぼす 効 果 を 計 測 しようとするものである これはスピルオーバー 効 果 あるいは 近 隣 効 果 などとも 呼 ばれている アメリカの 実 証 研 究 の 結 果 では 確 か にこうした 効 果 があることが 示 されている たとえば 大 卒 労 働 者 の1パーセントの 増 加 は 高 卒 労 働 者 の 賃 金 を 1.6 パーセント 大 卒 労 働 者 の 賃 金 を 0.4 パーセント 増 加 させることが 明 らかにされた(Moretti 2004, Lange and Topel 2006 など) また 外 部 効 果 ではないが 大 学 の 地 域 経 済 に 及 ぼす 影 響 に 関 しては アメリカで は 古 くから 計 測 されており 大 きな 効 果 があることが 示 されているが 地 域 の 範 囲 の 定 義 効 果 の 測 定 など 技 術 的 な 問 題 も 残 されている(Siegfried, Sanderson and McHenry 2007) この 点 については 本 報 告 書 の 他 の 章 でも 検 討 されているが わ が 国 でも 国 立 大 学 の 効 果 の 推 定 ( 島 2009)や 富 山 大 学 徳 島 大 学 長 崎 大 学 が それぞれの 地 域 に 対 する 経 済 効 果 は 1,000 億 円 を 超 えるという 推 定 もだされている ( 日 本 経 済 研 究 所 2011) このように 様 々な 研 究 例 から 高 等 教 育 が 外 部 効 果 や 経 済 的 効 果 をもつことは 実 証 的 にも 次 第 に 明 らかにされつつある 第 二 に 公 共 財 としての 教 育 という 観 点 から 教 育 費 の 公 的 負 担 は 支 持 される 一 般 に 公 共 財 として 政 府 が 財 サービスを 供 給 する 理 由 として 市 場 の 失 敗 があげられる 公 共 財 は 非 排 除 性 と 非 競 合 性 の 性 格 を 持 つ 財 のことである 非 排 除 性 と はその 利 用 者 から 使 用 料 を 徴 収 することが 困 難 なこと あるいは 徴 収 できてもそのコ ストが 高 くなりすぎることを 指 す 道 路 灯 台 などが 典 型 である これに 対 して 非 競 合 性 とは 利 用 者 が 増 えても 他 の 利 用 者 に 影 響 を 与 えないという 性 質 で 空 気 などがこれにあたる しかし 高 等 教 育 の 場 合 には 放 送 大 学 のような 場 合 を 除 いて 両 者 の 性 質 はそれほど 強 くないため 準 公 共 財 と 呼 ばれる 公 共 財 や 準 公 共 財 は 市 場 に 委 ねると 利 用 者 が 使 用 料 を 支 払 わないため 過 小 供 給 となる このため 公 的 に 供 給 される 必 要 がある さらに 教 育 はメリット 財 ( 価 値 財 )という 性 格 を 持 っている メリット 財 は 私 的 に 供 給 されるが 外 部 効 果 を 持 つ 財 サービスである 教 育 に 関 して 言 えば 私 立 学 校 私 立 大 学 などがこれにあたる つまり 私 的 に 供 給 されるが 外 部 効 果 を 持 つため その 効 果 の 分 だけ 公 的 負 担 が 必 要 となる 3. 高 等 教 育 の 負 担 割 合 実 際 には 多 くの 国 ではすべて 1 つの 負 担 というよりこの3つの 負 担 を 組 み 合 わせ ている つまり いかに 負 担 を 分 担 するか それぞれの 負 担 の 割 合 が 問 題 となる 現 状 では OECD 諸 国 の 中 でもわが 国 の 高 等 教 育 の 公 的 負 担 は 最 低 水 準 である このこ とは 文 部 科 学 省 の 政 策 文 書 などで 広 く 訴 えられている 図 1は GDP に 対 する 教 育 費 の 公 的 支 出 の 割 合 であり OECD 諸 国 の 中 でわが 国 は 最 低 水 準 にある これまではこ
のことが 高 等 教 育 費 の 公 財 政 出 を 求 める 根 拠 とされてきた しかしこれだけでは 論 拠 として 十 分 とは 言 えない わが 国 の 公 財 政 の 負 債 は GDP の2 倍 を 超 え 主 要 国 の 中 でも 最 悪 である こうした 状 況 の 中 で 単 に 高 等 教 育 費 の 増 加 を 主 張 しても 理 解 は 得 られにくい 大 学 は 既 に 過 剰 であり 国 民 は これ 以 上 の 高 等 教 育 費 の 公 財 政 負 担 を 求 めていないという 主 張 も 見 られる こうした 主 張 に 対 して 上 述 のように 高 等 教 育 の 社 会 経 済 的 効 果 を 示 して 反 論 し ていく 必 要 がある さらに このように 高 等 教 育 費 の 公 的 負 担 の 割 合 が 低 いことにつ いて どのような 背 景 や 社 会 的 要 因 があるのか そして それはどのような 教 育 観 が 支 えてきたのか それは 将 来 持 続 可 能 なのか といった 一 連 の 問 題 を 考 察 する 必 要 が ある そうした 点 を 十 分 に 検 討 して 後 に 高 等 教 育 の 公 的 負 担 の 拡 大 のためにどのよ うな 可 能 性 があり 得 るか 考 えていきたい 図 1 教 育 費 のGDPに 対 する 割 合 ( 出 典 )OECD, Education at a Glance 2012. 4. わが 国 の 教 育 費 負 担 の 現 状 と 問 題 高 等 教 育 の 公 的 負 担 が 少 ない 原 因 なぜわが 国 の 高 等 教 育 費 の 公 的 負 担 は 少 ないのか この 点 について 検 討 しよう まず 第 1 に 政 府 財 政 自 体 が 小 さいことがあげられる 公 財 政 支 出 の GDP に 占 める
割 合 は 37.1%で OECD 諸 国 の 中 では 4 番 目 に 低 い(OECD, Government at a Glance 2011) これに 対 して 福 祉 国 家 主 義 のスウェーデンなど 北 欧 諸 国 やフランス では 5 割 を 超 えている 逆 に 言 えば それだけ 大 きな 政 府 であるから 教 育 費 の 公 的 負 担 が 可 能 になっている 次 に わが 国 は その 小 さい 政 府 財 政 の 中 で 高 等 教 育 費 が 占 める 割 合 が 小 さいこと があげられる 図 2のように 政 府 財 政 の 中 で 高 等 教 育 の 占 める 割 合 は 1.8%で OECD 諸 国 の 中 で 下 から 3 番 目 である 図 2 政 府 財 政 に 占 める 高 等 教 育 費 の 割 合 ( 出 典 )OECD, Education at a Glance 2012 B4.1. このように 公 財 政 自 体 が 小 さく その 中 でも 高 等 教 育 に 対 する 支 出 が 小 さいとい う2つの 要 因 のため 高 等 教 育 費 の 公 的 負 担 は OECD 諸 国 の 中 でも 最 低 水 準 である その 分 図 3のように 家 計 負 担 が 重 い わが 国 は 韓 国 と 並 んで 高 等 教 育 費 の 家 計 負 担 が 重 い 国 であったが 近 年 イギリスでは 2006 年 と 2011 年 と 相 次 いで 授 業 料 をそれぞ れ 3 倍 値 上 げしため 家 計 負 担 の 重 い 国 になっている このように 高 等 教 育 の 費 用 負 担 は 各 国 とも 重 要 な 問 題 となっている メガトレ ンドとして 公 的 負 担 から 私 的 負 担 へ 親 負 担 から 学 生 本 人 への 移 行 がある その 背 景 には (1) 高 等 教 育 進 学 率 の 上 昇 (2) 公 財 政 の 逼 迫 (3) 大 学 への 社 会 の 信 頼 の 低 下 (4) 受 益 者 負 担 論 の 強 まり があげられる その 点 では わが 国 は 各 国 の 最
先 端 を 走 っていると 言 えなくもない 図 3 高 等 教 育 費 の 負 担 割 合 ( 出 典 )OECD, Education at a Glance, 2012. 教 育 費 の 公 的 負 担 の 増 加 のための 方 策 以 上 のことから 教 育 費 の 公 的 負 担 を 増 大 するためには 次 のような 方 策 が 考 えら れる まず アメリカを 除 く 主 要 国 に 比 べて 政 府 の 公 財 政 支 出 の GDP に 対 する 比 率 が 低 いことから 政 府 の 公 財 政 支 出 自 体 が 大 きくなれば 公 財 政 支 出 の 現 在 の 構 造 を 維 持 したままでも 教 育 費 に 対 する 公 的 負 担 は 増 加 することになる しかし 現 在 の 逼 迫 した 公 財 政 では 国 債 に 依 存 するか 消 費 税 などの 引 き 上 げなどの 増 税 や 経 済 成 長 による 税 の 増 収 以 外 に 公 財 政 の 収 入 増 加 の 見 込 みはない このように 政 府 の 公 的 負 担 の 増 加 については 負 債 や 税 負 担 の 増 加 など 別 の 問 題 が 生 じる 可 能 性 があるの で ここではこの 選 択 肢 についてはこれ 以 上 言 及 しない 次 に 公 財 政 支 出 の 中 で 教 育 費 支 出 が 大 きくなれば 教 育 費 に 対 する 公 的 負 担 も 増 加 するが 公 的 負 担 は 税 金 によってまかなうのであるから 子 どもがいない 者 も 税 としてより 多 くの 負 担 をしなければならない つまり 見 知 らぬ 子 に 対 する 負 担 ( 矢 野 2001: 56-58)を 意 味 する この 点 に 関 して 国 民 的 合 意 があるとは 言 い 難 い これに 関 連 して とりわけ 高 等 教 育 ( 大 学 )について レジャーランド の 大 学 に 税
金 を 投 入 する 必 要 はないという 考 え 方 が 一 部 に 根 強 くみられる この 点 について 前 民 主 党 政 権 は 教 育 は 社 会 が 支 える がスローガンであった 高 校 教 育 の 実 質 無 償 化 までは 積 極 的 に 進 められたが 高 等 教 育 の 費 用 負 担 については ほとんど 進 展 しなかった そして 2012 年 末 の 政 権 交 代 による 高 等 教 育 政 策 の 変 更 に より どのような 教 育 費 の 費 用 負 担 の 構 造 の 転 換 が 生 じる 可 能 性 があるのか 現 時 点 では 予 断 は 許 さない だが 教 育 費 の 公 的 負 担 とりわけ 高 等 教 育 費 の 公 的 負 担 につい て 現 在 まで 国 民 的 合 意 が 形 成 されているとは 言 い 難 い さらに これについては 医 療 福 祉 年 金 など 他 の 費 用 負 担 との 関 連 で 論 じる 必 要 があり これ 以 上 ここで は 触 れない ただ これまで 指 摘 してきたように 公 財 政 支 出 の 中 で 教 育 費 支 出 の 割 合 が 低 い ことの 背 景 には 親 が 子 どもの 教 育 に 責 任 を 持 つという 教 育 観 があり こうした 教 育 観 にたてば 教 育 費 の 親 負 担 は 当 然 であるということになる こうした 教 育 観 による 教 育 費 の 家 計 負 担 の 考 え 方 がいかに 強 いか 私 たちの 実 施 した 高 卒 者 保 護 者 調 査 (2012 年 )によれば 図 4のように 大 学 や 専 門 学 校 への 進 学 にかかる 学 費 につ いて 卒 業 まで 学 費 や 生 活 費 は 親 が 負 担 するのが 当 然 だ という 意 見 について どの 所 得 階 層 でも 約 4 分 の3が 肯 定 的 である なお この 調 査 は 文 部 科 学 省 科 学 研 究 費 基 盤 (B) 教 育 費 負 担 と 学 生 に 対 する 経 済 的 支 援 のあり 方 に 関 する 実 証 研 究 ( 小 林 雅 之 研 究 代 表 )による 全 国 ウェブモニターによる 調 査 で サンプル 数 は 1,064 で ある 図 4 大 学 や 専 門 学 校 への 進 学 にかかる 学 費 について 卒 業 まで 学 費 や 生 活 費 は 親 が 負 担 するのが 当 然 だ ( 出 典 ) 高 卒 者 の 保 護 者 調 査 2012 年 この 教 育 は 親 の 責 任 であるという 教 育 観 は 教 育 は 社 会 が 支 える という 教 育 観 とは 正 反 対 の 立 場 と 言 っていい こうした 教 育 費 負 担 の 家 族 主 義 から 教 育 費 の 負 担
論 はわが 国 ではあまり 大 きな 問 題 として 考 えられていなかった 節 がある このため 教 育 費 の 負 担 問 題 はあまり 大 きな 社 会 問 題 とならず 政 策 課 題 として 俎 上 に 上 がるこ とが 少 なかったと 思 われる また 教 育 費 負 担 のもう 一 つの 考 え 方 である 教 育 費 負 担 の 個 人 主 義 では 教 育 を 受 けた 個 人 がその 費 用 を 負 担 しようというもので アメリカ イギリス オーストラリ アなどアングロサクソン 系 の 国 で 強 い 考 え 方 である この 場 合 にも 公 的 負 担 より 私 的 負 担 ( 本 人 負 担 )ということになる これは いわゆる 受 益 者 負 担 主 義 に 近 い 考 え 方 である また この 考 え 方 は 教 育 は 市 場 に 委 ねるべきだという 市 場 化 論 と 親 和 性 が 高 く 教 育 費 の 負 担 について 個 人 負 担 が 当 然 であり 負 担 できない 低 所 得 層 な どについては 教 育 ローンを 充 実 し 公 平 な 競 争 環 境 を 整 備 すれば 十 分 ということが しばしば 主 張 される 特 に 高 等 教 育 については 外 部 効 果 より 個 人 の 受 益 の 方 が 大 き いとされ 個 人 負 担 すべきだとされる こうした 公 的 負 担 に 対 する 家 族 主 義 や 個 人 主 義 的 な 教 育 観 による 私 的 負 担 で 教 育 費 負 担 の 問 題 は 十 分 解 決 されるのか とりわけ 現 在 教 育 費 の 負 担 は 公 的 負 担 から 私 的 負 担 へ 親 負 担 から 子 負 担 への 移 行 が 起 きている こうした 移 行 に 対 して どのよう な 問 題 があるのか こうした 点 を 考 えるために 次 に 家 計 の 教 育 費 負 担 の 現 状 を 検 討 する 5. 家 計 の 教 育 費 負 担 それでは 実 際 に 家 計 は 高 等 教 育 費 の 費 用 をどの 程 度 負 担 しているのか この 問 いに 答 えるのは 意 外 と 難 しい 調 査 自 体 の 信 頼 性 もあるが それ 以 上 に 高 等 教 育 が 多 様 化 しているためである 一 口 に 高 等 教 育 といっても わが 国 では 大 学 大 学 院 短 期 大 学 高 等 専 門 学 校 専 修 学 校 専 門 課 程 と 多 様 な 学 校 種 が 存 在 する ここでは 調 査 が 比 較 的 多 くなされている 大 学 昼 間 部 のみ 対 象 とする しかし 大 学 昼 間 部 に 限 定 し ても 教 育 費 の 負 担 に 関 してさらに 多 様 性 がみられる 国 公 立 大 学 と 私 立 大 学 では 授 業 料 などの 学 費 が 大 きく 異 なる これに 対 して 自 宅 通 学 と 自 宅 外 通 学 では 生 活 費 が 大 きく 異 なる さらに 奨 学 金 の 受 給 とアルバイトの 有 無 によっても 家 計 の 教 育 費 負 担 は 差 がある これに 加 え 地 域 差 もかなり 大 きい 家 計 についても 家 計 支 持 者 の 年 齢 による 差 や 学 生 のジェンダー 差 も 存 在 する しかし ここでは 最 も 争 点 となっている 所 得 階 層 差 を 中 心 に 取 り 上 げる 家 計 の 教 育 費 の 実 証 的 分 析 は, 欧 米 では 継 続 的 に 続 けられてきた(Psacharopoulos and Papakonstantinou 2005 など) わが 国 では 1980 年 代 まではあまりみられなか ったものの とりわけ 近 年, 多 くの 実 証 的 研 究 がみられるようになった( 小 林
2007 を 参 照 されたい) 家 計 の 教 育 費 負 担 に 関 する 調 査 には 家 計 の 調 査 と 学 生 の 調 査 の2つの 異 なるアプ ローチがあり 一 長 一 短 である どちらも 調 査 の 場 合 でも 教 育 費 は 調 査 対 象 者 の 申 告 によるものでその 正 確 さには 若 干 疑 問 が 残 る とりわけ 学 生 の 調 査 については こ の 問 題 は 大 きい これに 対 して 総 務 省 家 計 調 査 や 全 国 消 費 動 向 調 査 は 家 計 簿 をつけて 調 査 しているので 金 額 については 比 較 的 正 確 に 捉 えられていると 考 えら れるが 保 護 者 からの 調 査 の 場 合 には 学 生 のアルバイト 収 入 などが 捉 えられていな い このように どちらも 費 用 の 捕 捉 の 正 確 さに 疑 問 がないわけではない 以 上 の 点 を 留 意 して 以 下 幾 つかの 調 査 をみていく 家 計 の 調 査 からみた 高 等 教 育 費 の 負 担 保 護 者 からの 調 査 としては 総 務 省 家 計 調 査 全 国 消 費 実 態 調 査 日 本 政 策 金 融 公 庫 教 育 費 負 担 の 実 態 調 査 東 京 私 大 教 連 私 立 大 学 新 入 生 の 教 育 費 負 担 調 査 私 たちの 実 施 した 高 校 卒 業 生 の 保 護 者 調 査 (2012 年 )などがある 総 務 省 家 計 調 査 総 務 省 家 計 調 査 は, 全 国 約 9,000 世 帯 を 対 象 として, 家 計 の 収 入 支 出, 貯 蓄 負 債 などを 毎 月 調 査 している 学 生 の 単 身 世 帯 は 含 まれていないが 学 生 の 教 育 費 は 含 まれていると 考 えられる ただし 子 どもの 在 学 状 況 別 の 集 計 表 は 公 表 されて いないため 高 等 教 育 のみの 教 育 費 を 推 定 することはできない しかし 家 計 調 査 では 勤 労 者 世 帯 について 可 処 分 所 得 ( 月 額 )を 算 出 しているので これと 大 学 授 業 料 の 関 連 をみたのが 図 5である 所 得 に 対 して 授 業 料 の 負 担 が 年 々 重 くなって いることが 示 されている 図 5 授 業 料 の 所 得 月 額 に 対 する 割 合 の 推 移
総 務 省 全 国 消 費 実 態 調 査 総 務 省 全 国 消 費 実 態 調 査 は 家 計 調 査 よりサンプル 数 を 多 く 取 っているた め 世 帯 主 年 齢 別 所 得 階 層 別 などの 詳 細 な 分 析 が 可 能 である 直 近 の 調 査 は 2009 年 である これから 大 学 生 が 在 学 している 可 能 性 のある 世 帯 主 が 50 から 59 歳 の 教 育 費 をみると 平 均 では 28,535 円 であるが 年 収 200 万 円 未 満 の 世 帯 では 9,032 円 で あるのに 対 して 年 収 が 上 がるに 従 い 教 育 費 も 上 がり 1,500 万 円 以 上 の 世 帯 では 36,012 円 と 低 所 得 層 の 4 倍 もの 差 がみられる ただし これは 教 育 費 全 般 であり 高 等 教 育 費 ではない 日 本 政 策 金 融 公 庫 教 育 費 負 担 の 実 態 調 査 結 果 ( 国 の 教 育 ローン 利 用 勤 務 者 世 帯 ) (2012 年 度 ) 日 本 政 策 金 融 公 庫 の 教 育 費 負 担 の 実 態 調 査 は 国 の 教 育 ローン の 利 用 者 を 対 象 とした 調 査 である 大 学 生 を 持 つ 家 計 に 調 査 対 象 は 限 定 されているが 教 育 ローン を 必 要 とする 比 較 的 低 所 得 層 や 教 育 費 負 担 が 重 い 層 ( 兄 弟 姉 妹 に 他 の 在 学 者 がいる 家 計 など)が 多 いと 考 えられる 2012 年 調 査 によると サンプル 数 は 5,083 で 年 収 に 占 める 在 学 費 用 の 割 合 は 平 均 で 38.6%となっている 年 収 階 層 別 にみると 年 収 が 低 い 世 帯 ほど 負 担 は 重 くなっ ており 200 万 円 以 上 400 万 円 未 満 の 層 では 平 均 負 担 割 合 が 58.4%と 年 収 の 半 分 以 上 を 占 めている この 教 育 費 負 担 を 旅 行 レジャー 費 衣 類 の 購 入 費 等 の 節 約 によ って 捻 出 していることが 明 らかにされている なお 奨 学 金 を 受 けている が 半 数 をこえている 東 京 私 大 教 連 調 査 (2011 年 度 ) 東 京 私 大 教 連 私 立 大 学 新 入 生 の 教 育 費 負 担 調 査 は 私 立 大 学 新 入 生 の 家 庭 を 対 象 とした 調 査 で 2011 年 度 調 査 ではサンプル 数 は 5,514 である 自 宅 外 通 学 者 の 入 学 の 年 にかかる 費 用 は 298 万 3351 円 で 税 込 収 入 (899 万 6000 円 )の 33.2%を 占 める 父 母 学 生 の 裁 量 で 出 費 をおさえることができる 仕 送 り 額 (4 月 12 月 ) は 85 万 9300 円 となっている これから 単 純 に 年 額 を 算 出 すると 約 115 万 円 となる
高 校 卒 業 生 の 保 護 者 調 査 (2012 年 ) 私 たちが 実 施 した 高 校 卒 業 生 の 保 護 者 調 査 (2012 年 )でみると 進 学 者 について 家 計 の 学 費 の 負 担 額 については 所 得 階 層 別 に 差 はない しかし 負 担 割 合 は 図 6のよ うに 低 所 得 層 ( 所 得 400 万 円 未 満 )で 全 額 が 63.9%に 対 して 高 所 得 層 (1,050 万 円 以 上 )では 94.1%と 大 きな 差 がある 図 6 学 費 の 負 担 割 合 ( 所 得 階 層 別 ) ( 出 典 ) 高 卒 者 の 保 護 者 調 査 2012 年 また 生 活 費 の 負 担 額 は 図 7のように 所 得 の 高 い 方 が 高 額 になっている 低 所 得 層 (400 万 円 未 満 )では 5 万 円 未 満 が 69.9%であるが 高 所 得 層 (1,050 万 円 以 上 )では 46.7%と 半 数 以 下 で 10 万 円 以 上 が2 割 となっている 図 7 生 活 費 の 負 担 額 ( 所 得 階 層 別 ) ( 出 典 ) 高 卒 者 の 保 護 者 調 査 2012 年
学 生 の 調 査 からみた 高 等 教 育 費 の 負 担 教 育 費 に 関 する 学 生 からの 調 査 としては 日 本 学 生 支 援 機 構 (2002 年 まで 文 部 科 学 省 ) 学 生 生 活 調 査 全 国 大 学 生 協 連 学 生 生 活 実 態 調 査 私 たちが 実 施 した 高 校 生 追 跡 調 査 などがある 先 に 述 べたように 国 公 立 か 私 立 か 自 宅 か 自 宅 外 か 学 生 のタイプによって 教 育 費 が 大 きく 異 なることに 注 意 する 必 要 がある 日 本 学 生 支 援 機 構 学 生 生 活 調 査 日 本 学 生 支 援 機 構 学 生 生 活 調 査 は 1968 年 から 隔 年 実 施 されている 全 国 公 私 立 大 学 のサンプル 調 査 であり 時 系 列 変 化 を 捉 えることができる これをみると 図 8のように どの 学 生 タイプでも 家 計 の 負 担 割 合 は 減 少 している アルバイトも 減 少 しており 収 入 の 増 加 は 奨 学 金 の 増 加 による 図 8 家 計 給 付 の 収 入 に 占 める 割 合 の 推 移 ( 出 典 ) 文 部 科 学 省 日 本 学 生 支 援 機 構 学 生 生 活 調 査 各 年 度 全 国 大 学 生 協 連 合 会 学 生 生 活 実 態 調 査 全 国 大 学 生 協 連 合 会 学 生 生 活 実 態 調 査 は 1963 年 から 実 施 されており 学 生 生 活 調 査 と 同 じ 傾 向 が 確 認 できる とくに 所 得 階 層 別 にみると 学 生 生 活 実 態 調 査 では 収 入 に 占 める 家 計 負 担 割 合 は 低 所 得 層 では 約 4 割 と 高 い ここでは 所 得 階 層 別 の 家 庭 からの 仕 送 り 小 遣 いと 奨 学 金 の 推 移 をみる 図 9のように 家 族 からの 仕 送 り 小 遣 いは 所 得 が 高 いほど 多 いが いずれも 2001 年 より 減 少 している これに 対 して 奨 学 金 は 図 10 のように 低 所 得 層 ほど 多 い が どの 所 得 層 でも 2001 年 より 急 速 に 増 加 している
図 9 所 得 階 層 別 家 庭 からの 仕 送 り 小 遣 いの 推 移 ( 月 額 単 位 : 百 円 所 得 : 万 円 ) ( 出 典 ) 全 国 大 学 生 協 連 合 会 学 生 生 活 実 態 調 査 図 10 所 得 階 層 別 奨 学 金 の 推 移 ( 月 額 単 位 : 百 円 所 得 : 万 円 ) ( 出 典 ) 全 国 大 学 生 協 連 合 会 学 生 生 活 実 態 調 査 高 校 生 追 跡 調 査 第 4 回 文 部 科 学 省 創 成 科 研 ( 金 子 元 久 研 究 代 表 )により 東 京 大 学 大 学 経 営 政 策 センター が 実 施 した 高 校 生 追 跡 調 査 (2008 年 )によると 親 からの 仕 送 り 小 遣 いのある 大 学 生 は 52.1%で 一 ヶ 月 平 均 3.8 万 円 となっている 奨 学 金 受 給 者 は 34.3% 一 ヶ 月 平 均 6.3 万 円 となっている なお 親 からの 仕 送 り 小 遣 いのない 者 はアルバイト と 奨 学 金 の 平 均 金 額 がある 者 より 多 くなっている(アルバイトでは 仕 送 り 小 遣 い のある 者 4.7 万 円 ない 者 5.8 万 円 奨 学 金 ではそれぞれ 6.0 万 円 と 6.4 万 円 ) し かし 逆 に アルバイトや 奨 学 金 の 有 無 では 親 からの 仕 送 り 小 遣 いの 平 均 額 には 有 意 差 がみられないことが 注 目 される 教 育 費 の 家 計 負 担 以 上 の 調 査 結 果 は 家 計 からの 調 査 も 学 生 からの 調 査 も 高 等 教 育 費 の 家 計 負 担 が きわめて 重 いことと 近 年 教 育 費 の 負 担 が 貸 与 奨 学 金 の 増 加 により 親 負 担 から 子 負 担 に 急 速 に 移 行 していることを 示 している つまり 家 計 からの 仕 送 り 小 遣 い 等
が 減 少 し,その 分 奨 学 金 が 増 加 している これらの 奨 学 金 の 大 部 分 は 貸 与 であり 卒 業 後 学 生 本 人 が 返 済 していくことになる このように 高 等 教 育 費 の 負 担 は 親 負 担 から 子 負 担 に 移 行 している もっとも これらの 奨 学 金 は 子 ( 学 生 本 人 )が 返 済 する ことになっているが 親 が 返 済 している 場 合 も 少 なくないとみられる その 実 態 は 正 確 にはわからないが 日 本 学 生 支 援 機 構 の 奨 学 金 の 延 滞 者 無 延 滞 者 調 査 による と 延 滞 者 の 場 合 には 本 人 が 返 還 している 割 合 は 62.9% 無 延 滞 者 の 場 合 には 83.6%である(2010 年 度 ) このように 必 ずしも 子 負 担 に 移 行 しているとは 言 い 切 れない この 点 に 留 意 する 必 要 があるが メガトレンドとしては 親 負 担 から 子 負 担 への 移 行 が 進 展 していると 言 えよう このように 教 育 費 の 負 担 構 造 の 移 行 は 徐 々に 進 行 しており 教 育 機 会 へ 影 響 を 与 えている この 構 造 を 維 持 するのか 教 育 機 会 への 影 響 を 悪 化 させないために 限 ら れた 財 政 制 約 の 中 でできることは 何 か が 問 われているのである 最 後 に 以 上 の 国 際 比 較 を 踏 まえて 政 策 的 インプリケーションを 検 討 する 6. 政 策 的 インプリケーション 本 章 で 検 討 してきたことからいくつか 政 策 的 インプリケーションをあげたい 第 一 に 高 等 教 育 の 公 財 政 支 出 を 増 やすためには 教 育 の 社 会 経 済 的 効 果 を 明 らか にする 必 要 がある この 効 果 とりわけ 外 部 効 果 は 検 証 困 難 であるが 近 年 いくつ かの 検 証 例 が 現 れ 本 章 ではこれらを 検 討 した 今 後 さらにこうした 教 育 の 社 会 経 済 的 効 果 を 明 らかにしていくことが 高 等 教 育 の 公 財 政 支 出 の 増 加 のためには 重 要 で ある これに 関 連 して 第 二 に 教 育 費 の 公 的 負 担 の 意 味 を 問 い 直 す 必 要 があろう 教 育 費 の 公 的 負 担 の 根 拠 は 上 述 の 教 育 の 外 部 性 とともに 教 育 の 公 共 性 あるいは 準 公 共 財 としての 性 格 に 求 められた このためには 大 学 は 公 共 性 と 社 会 的 貢 献 を 高 めるこ と 大 学 のアカウンタビリティと 情 報 公 開 を 行 うだけでなく 大 学 生 に 対 しても 大 学 教 育 の 公 共 性 の 認 識 を 求 めるべきであろう 東 京 大 学 達 成 度 調 査 によれば 国 立 大 学 で 税 金 で 教 育 を 受 けたという 意 識 がある 東 大 生 は 半 数 にすぎない( 東 京 大 学 2013) 第 三 に 学 生 支 援 制 度 の 改 革 である 今 後 教 育 費 負 担 が 貸 与 奨 学 金 の 増 加 によ って 親 負 担 から 子 負 担 に 移 行 していくとすれば その 負 担 の 軽 減 策 が 重 要 になる こ の 軽 減 策 には 給 付 奨 学 金 や 授 業 料 減 免 などとともに 所 得 連 動 型 ローンのようなロ ーン 回 収 スキームの 改 革 が 重 要 である 所 得 連 動 型 ローンは 所 得 に 応 じて 返 済 額 を 決 定 するので 低 所 得 者 には 負 担 観 が 少 ない これには 将 来 納 税 者 番 号 などを 通 じ て 所 得 を 把 握 するシステムが 必 要 とされ その 創 設 と 合 わせて 検 討 していくことが
肝 要 である また 多 くの 国 では 教 員 や 公 的 サービスなど 特 定 の 職 業 に 就 いた 場 合 などローンの 返 済 を 猶 予 あるいは 免 除 する 制 度 があるが わが 国 ではかつては 教 員 や 研 究 者 にあったこうした 制 度 がなくなった これは 大 学 進 学 だけでなく 大 学 院 進 学 に 大 きな 影 響 を 与 えている( 小 林 2009b) こうした 点 を 改 善 して 教 育 費 の 負 担 感 を 軽 減 することが 重 要 である 最 後 に 教 育 費 負 担 の 問 題 の 解 決 のためには 単 なる 授 業 料 と 奨 学 金 の 問 題 だけで なく 財 源 となる 外 部 資 金 や 寄 付 などの 活 用 も 求 められる さらに 機 関 補 助 と 個 人 補 助 の 組 み 合 わせ 教 育 と 研 究 の 費 用 負 担 など 高 等 教 育 財 政 の 包 括 的 検 討 が 求 めら れよう さらにいえば 高 等 教 育 の 費 用 負 担 だけでなく 初 等 中 等 教 育 やさらには 医 療 福 祉 年 金 などの 負 担 問 題 と 合 わせた 総 合 的 な 検 討 が 必 要 である これらは す べて 差 し 迫 った しかし 大 きな 課 題 である 参 考 文 献 小 林 雅 之 (2012 家 計 負 担 と 奨 学 金 授 業 料 日 本 高 等 教 育 学 会 編 高 等 教 育 研 究 第 15 集, 115-134 頁 小 林 雅 之 (2009a) 大 学 進 学 の 機 会 東 京 大 学 出 版 会 小 林 雅 之 (2009b) 大 学 院 生 の 経 済 的 支 援 IDE 現 代 の 高 等 教 育 512, 16-21 頁 小 林 雅 之 (2007) 高 等 教 育 の 経 済 分 析 高 等 教 育 研 究 10, 63-81 頁 小 林 雅 之 (2012) 家 計 負 担 と 奨 学 金 授 業 料 高 等 教 育 研 究 15, 115-134 頁 島 一 則 (2011) 国 立 大 学 の 機 能 と 自 大 学 認 識 -ユニバーサル 化 多 様 化 のもとでの 機 能 別 分 化 をめぐって- 広 島 大 学 高 等 教 育 研 究 開 発 センター 編 教 育 のユニバ ーサル 化 と 多 様 化 広 島 大 学 高 等 教 育 研 究 開 発 センター 65 86 頁 島 一 則 (2010) 男 子 の 大 学 収 益 率 の 時 系 列 変 動 私 学 高 等 教 育 データブック 2010 私 学 高 等 教 育 研 究 所 117 120 頁 島 一 則 (2009) 国 立 大 学 システムの 機 能 に 関 する 実 証 分 析 運 営 費 交 付 金 の 適 切 な 配 分 に 向 けて 経 済 産 業 研 究 所 田 中 寧 (2010) 内 部 収 益 率 のバリエーションと 大 学 進 学 の 経 済 的 メリットの 再 考 察 京 都 産 業 大 学 論 集 27, 63 82 頁 東 京 大 学 広 報 室 (2013) 2011 年 度 大 学 教 育 の 達 成 度 調 査 No. 1436 特 別 号 日 本 経 済 研 究 所 (2009 大 学 の 教 育 研 究 が 地 域 に 与 える 経 済 効 果 等 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書 矢 野 眞 和 (2001) 教 育 社 会 の 設 計 東 京 大 学 出 版 会 Lange, Fabian, and Robert Topel. (2006) "The Social Value of Education and Human Capital." Handbook of the Economics of Education Vol. 1. 460-509.
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