平 成 28 年 (ヨ) 第 38 号 本 件 原 発 稼 働 差 止 仮 処 分 命 令 申 立 事 件 債 権 者 債 務 者 XXXXX 外 2 名 四 国 電 力 株 式 会 社 準 備 書 面 ⒀ ( 基 準 津 波 の 過 小 評 価 ) 平 成 28 年 4 月 27 日 広 島 地 方 裁 判 所 民 事 第 四 部 御 中 債 権 者 ら 代 理 人 弁 護 士 胡 田 敢 同 弁 護 士 河 合 弘 之 目 次 同 弁 護 士 松 岡 幸 輝 ほか 第 1 津 波 審 査 ガイドの 求 めるMw9.6を 想 定 していない... 2 1 債 務 者 による 想 定... 2 2 債 務 者 による 想 定 が 過 小 評 価 であること... 3 第 2 慶 長 豊 予 地 震 による 津 波 を 考 慮 していない... 5 第 3 海 域 の 活 断 層 についての 考 慮 不 足... 8 第 4 スケーリング 則 においてばらつきを 考 慮 したか 不 明 であること...10 第 5 津 波 予 測 精 度 に 倍 半 分 の 誤 差 があることを 計 算 に 入 れていないこと..13 1 七 省 庁 手 引 き...13 2 誤 差 の 原 因...13 3 倍 半 分 の 精 度...14-1 -
4 債 務 者 が 倍 半 分 を 計 算 に 入 れていないこと...14 第 1 津 波 審 査 ガイドの 求 めるMw9.6を 想 定 していない 1 債 務 者 による 想 定 債 務 者 は, 南 海 トラフ 大 地 震 に 伴 う 津 波 について, 津 波 審 査 ガイド( 実 用 発 電 用 原 子 炉 及 びその 附 属 施 設 の 位 置, 構 造 及 び 設 備 の 基 準 に 関 する 規 則 の 第 5 条 ( 津 波 による 損 傷 防 止 ))を 受 けたもので, 正 式 名 称 は 基 準 津 波 及 び 耐 津 津 波 設 計 方 針 に 係 る 審 査 ガイド )の 求 めるMw(モーメントマグニチュード 1 ) 1 ) 最 大 9.6 程 度 を 考 慮 していない( 甲 D250 四 国 電 力 株 式 会 社 伊 方 発 電 所 津 波 評 価 について 25 頁 30 頁 ) 津 波 審 査 ガイドは, 次 のとおり,Mwを 想 定 する 1 モーメントマグニチュードとは, 地 下 の 岩 盤 のずれの 規 模 (ずれ 動 いた 部 分 の 面 積 ずれた 量 岩 石 の 硬 さ)をもとにして 計 算 したマグニチュードのことを 言 う 普 通 のマグニチュード (M)は 地 震 計 で 観 測 される 波 の 振 幅 から 計 算 されるが, 規 模 の 大 きな 地 震 になると 岩 盤 のず れの 規 模 を 正 確 に 表 せない これに 対 してモーメントマグニチュードは 物 理 的 な 意 味 が 明 確 で, 大 きな 地 震 に 対 しても 有 効 である ただし,その 値 を 求 めるには 高 性 能 の 地 震 計 のデータを 使 った 複 雑 な 計 算 が 必 要 なため, 地 震 発 生 直 後 迅 速 に 計 算 することや, 規 模 の 小 さい 地 震 で 精 度 よく 計 算 するのは 困 難 である 気 象 庁 モーメントマグニチュードとは 何 ですか? http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq27.html#24-2 -
2 債 務 者 による 想 定 が 過 小 評 価 であること Mw9.6を 考 慮 しないことについての 債 務 者 の 言 い 分 は,おそらく, 内 閣 府 の 南 海 トラフの 巨 大 地 震 モデル 検 討 会 における 最 大 クラスの 津 波 波 源 モ デル(Mw9.1)を 前 提 に, 固 着 域 の 調 査 をし,その 調 査 結 果 よりも 規 模 の 大 き - 3 -
いと 考 えられる 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 のMw9.0を 採 用 した 結 果 である と 考 えられる( 四 国 電 力 株 式 会 社 伊 方 発 電 所 津 波 評 価 について 25 頁 30 頁 ) しかし, 上 記 言 い 分 では, 津 波 審 査 ガイドの 想 定 するMw9.6を 考 慮 しな い 理 由 にはならない 内 閣 府 検 討 モデルは 一 般 防 災 を 目 的 に 最 大 モデルを 想 定 したものに 過 ぎず, 原 発 の 基 準 津 波 評 価 の 上 ではより 保 守 的 な 想 定 が 求 められ ており,その1つの 例 が 津 波 審 査 ガイドにおける 最 大 Mw9.6 程 度 とい う 記 載 である 債 務 者 は,Mw9.6を 当 初 から 検 討 の 対 象 外 とし, 自 らに 都 合 のよい 数 値 のみを 前 提 としたに 過 ぎない 南 海 トラフ 巨 大 地 震 が 九 州 パラオ 海 嶺 を 突 き 抜 けて 琉 球 海 溝 まで 断 層 破 壊 が 及 ぶという 考 え 方 が 科 学 的 に 否 定 できないことは, 準 備 書 面 (5) 88 頁 記 載 の 通 りである 津 波 審 査 ガイドが 示 すMw9 6は, 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 を 凌 駕 する 規 模 の 大 きさであり, 無 視 できるものではない すなわち, 津 波 審 査 ガイドが 想 定 するよう 求 める 津 波 は, 極 めて 広 い 津 波 波 源 域 に 基 づく, 大 規 模 な 津 波 であり,2011( 平 成 23) 年 3 月 11 日 発 生 の 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 よりもはるかに 大 きい 波 源 域 について, 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 津 波 の 波 源 域 は, 岩 手 県 沖 から 茨 城 県 沖 までである 他 方, 津 波 審 査 ガイドが 想 定 するよう 求 める 波 源 域 は, 千 島 海 溝 ~ 日 本 海 溝 までの 領 域 である 津 波 審 査 ガイドが 求 める 波 源 域 のほうが より 広 い 規 模 (Mw)について, 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 のMwは,9.0である 他 方, 津 波 審 査 ガイドが 想 定 するよう 求 める 地 震 の 規 模 はMw9.6である M wが0.2 増 えるごとに 地 震 のエネルギーは2 倍 となるから,Mw0.6の 差 は, 地 震 のエネルギーでは8 倍 の 差 となる これを 踏 まえると, 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 津 波 は, 千 島 海 溝 から 日 本 海 溝 までの 津 波 波 源 域 で 解 放 される 可 能 性 のあるエネルギーのうち8 分 の1だけを 解 放 したに 過 ぎない 残 り8 分 の7 のエネルギーは,まだ 解 放 されずに 残 っている - 4 -
これほどの 規 模 の 違 いのある 数 値 を 津 波 審 査 ガイドが 示 しているにもかかわ らず, 債 務 者 は,この 数 値 (Mw9.6)を 一 切 考 慮 していない 考 慮 しない 理 由 も 示 さない これでは, 南 海 トラフ 大 地 震 に 伴 う 津 波 を 想 定 したとはいえず, 同 津 波 が 本 件 原 発 を 襲 った 際 の 安 全 を 確 保 できない 第 2 慶 長 豊 予 地 震 による 津 波 を 考 慮 していない 1 津 波 審 査 ガイド 3.6.1 (2) では, 歴 史 記 録 については, 震 源 像 が 明 らかにで きない 場 合 であっても, 規 模 が 大 きかったと 考 えられるものについて 十 分 に 考 慮 されていることを 確 認 する と 記 載 されている ところが 債 務 者 は,159 6 年 に 発 生 した 別 府 湾 を 震 源 とする 地 震 ( 以 下, 慶 長 豊 予 地 震 という )を, 基 準 津 波 策 定 の 考 慮 要 素 から 外 した 債 務 者 の 言 い 分 は, 次 のとおりである 文 献 調 査 の 結 果, 瀬 戸 内 海 地 域 を 震 源 とする 地 震 による 津 波 記 録 羽 鳥 (1985), 松 岡 ほか(2012)より 1596 年 に 別 府 湾 における 豊 後 の 地 震 による 記 録 があるものの, 当 地 震 での 津 波 の 記 録 は 別 府 湾 沿 岸 のみに 限 定 されており( 平 井,2013), 敷 地 周 辺 において 被 害 があったという 記 録 は 見 当 たらない ( 四 国 電 力 株 式 会 社 伊 方 発 電 所 津 波 評 価 について 8 頁 ) 2 しかし, 慶 長 豊 予 地 震 が 本 件 原 発 の 所 在 地 にも 大 きな 津 波 をもたらしたこと は, 古 文 書 から 合 理 的 に 推 測 することができる すなわち, 都 司 嘉 宣 元 東 京 大 学 地 震 研 究 所 准 教 授 作 成 の2013 年 9 月 27 日 付 地 震 津 波 の 発 生 の 可 能 性 から 見 た 愛 媛 県 伊 方 原 子 力 発 電 所 の 問 題 点 ( 甲 C100 以 下 都 司 意 見 書 という)によると, 以 下 のとおりである 8 戦 国 時 代 ( 織 豊 時 代 ) の 最 末 期 に 該 たる 文 禄 5 年 ( = 慶 長 元 年 1596 年 12 月 16 日 に 文 禄 から 慶 長 に 改 元 ) 閏 7 月 9 日 ( 1 596 年 9 月 1 日 ), 別 府 湾 を 震 源 とする 大 地 震 が 起 き, 伊 予 国 ( 愛 媛 県 ) から 豊 後 国 ( 大 分 県 ) にかけて 建 造 物 の 倒 壊 を 伴 う 被 害 を 生 じ た ( 中 西 一 郎 ( 甲 C101,102 ) 等 ) この 地 震 に 伴 う 津 波 が 別 府 湾 沿 岸 等 を 襲 い, 被 害 を 生 じたことが 記 録 されている 別 府 湾 に - 5 -
瓜 生 島 と 呼 ばれる 大 きな 島 があったが,この 地 震 で 海 面 下 に 没 してしまったという 伝 承 があり,これについては, 沖 ノ 浜, 別 名 瓜 生 島 と 呼 ばれた 河 口 デルタの 上 の 市 街 地 にあった 国 内 外 の 貿 易 船 の 停 泊 し 繁 栄 していた 港 湾 地 区 が, 津 波 を 受 けて 壊 滅 したという 実 相 に 由 来 するとみられることは ( 都 司 ら,2011 年 ) によって 明 らかにした この 地 震 の 被 害 域 は, 豊 後 国 ( 大 分 県 ) だけではなく, 伊 予 国 ( 愛 媛 県 ) にも 及 んでいることから,この 地 震 は, 慶 長 元 年 豊 予 地 震 と 呼 ぶのが 適 切 である 西 条 市 広 江 の 古 記 録 である 廣 江 之 由 来 は, 広 江 では, 慶 長 元 年 7 月 に 大 地 震 があって, 人 家 が 転 倒 して 村 中 に 無 事 な 家 は1 件 も なかった そこで, 長 老 たちは 議 論 して 村 全 体 を 今 の 地 に 移 転 することにした 旨 記 載 している この 記 載 によると, 西 条 市 広 江 地 区 にあった 広 江 村 は, 慶 長 元 年 地 震 のために 全 戸 倒 壊 の 被 害 を 出 していることになる 従 って,ここで 震 度 7であったことになる こ の 地 点 は, 中 央 構 造 線 を 構 成 する 断 層 の 一 つである 川 上 断 層 からわずか5km 隔 たっているに 過 ぎない また, 小 松 邑 誌 によると, 広 江 村 に 隣 接 する 北 条 村 の 鶴 ケ 岡 八 幡 宮 では,この 地 震 のために, 宝 殿 ( 本 殿 ), 神 器, 古 文 書 に 至 るまで 大 半 転 倒 して 地 中 に 埋 もれ たという 震 度 6 強 ~ 震 度 7の 強 い 揺 れであったことを 示 している そして, 松 山 市 南 部 の 保 免 地 区 の 古 蹟 俗 談 によると, 伊 予 郡 保 免 村, 現 在 の 松 山 市 保 免 で, 日 招 八 幡 宮 の 本 殿 と, 西 林 寺 村 の 薬 師 寺 が 本 堂 から 仁 王 門 まで 倒 壊 したという この 地 点 で 震 度 6 強 ということになろう 天 下 大 地 震 という 記 載 から,この 地 震 が, 現 在 の 西 条 市 と 松 山 市 という 狭 い 領 域 に 限 ったものではなく, 広 範 囲 に 被 災 地 域 が 拡 がっていたことが 示 されている そしてまた, 藤 堂 高 虎 遺 帳 に 伊 予 の 国 宇 和 島 城 が 破 壊 したという 記 録 が あり, 破 壊 は, 半 潰 あるいは 大 破 と 判 断 されるので, 宇 和 島 での 震 度 は6 弱 と 推 定 される 以 上, 慶 長 元 年 豊 予 地 震 の 伊 予 国 の 震 度 は, 西 条 市 広 江 で 震 度 7, 松 山 市 保 免 で 震 度 6 強, 宇 和 島 で 震 度 6 弱 であったと 結 論 される 大 分 県 の 山 間 部 にある 湯 布 院 の 被 災 については,ポルトガル 人 宣 教 師 ルイス フロイスの 湯 布 院 と 呼 ぶ 地 には, 山 麓 に 残 った 村 が 一 つあり, 幾 人 かのキリスト 教 徒 がいました 今 こんなに 恐 ろしい 地 震 のため,その 地 にある 山 の 一 部 が 崩 れ 落 ちて,その 村 を 埋 め,ほんの 数 名 しか 助 かりませんでした という 記 録 がある また, 大 分 市 の 中 心 街 から 西 約 5kmの 八 幡 地 区 にある 柞 原 八 幡 宮 は 豊 ゆすはら 後 国 一 宮 という 社 格 の 高 い 神 社 であるが,この 神 社 の 記 録 に, 慶 長 元 年 閏 7 月 9 日 の 夜 20 時 に 大 地 震 があり,この 神 社 の 拝 殿, ほこら 回 廊, 境 内 のいくつもの 祠 が 皆 倒 れてしまった 旨 記 載 されている 本 殿 の 倒 壊 が 記 されていないことから 控 えめに 震 度 6 弱 と 推 はやすい ひ め 定 するが, 実 際 には 震 度 6 強 であった 可 能 性 がある このほか, 大 分 市 内 の 寺 院, 及 び 佐 賀 関 の 速 吸 日 女 神 社 の 破 損 の 記 録 があるこ とから,これらの 地 点 で 震 度 5 強 であることが 分 かる いぬのこく この 地 震 の 発 生 時 刻 が 閏 7 月 9 日 戌 刻 (20 時 )と 記 録 されていて, 愛 媛 県 西 条 市 北 条 の 鶴 ケ 岡 八 幡 宮 の 記 録 とまったく 一 致 することに 注 目 したい すなわち, 西 条 市 と 大 分 市 という 相 互 に 約 160km 隔 たった2 地 点 を 襲 った のは 同 一 の 地 震 であることを 示 しているのである この 地 震 の 震 度 5 以 上 の 範 囲 は, 中 央 構 造 線 に 長 軸 をのせる 楕 円 形 であって, - 6 -
長 軸 の 直 径 は 約 180km, 短 軸 の 直 径 は 約 70kmである この 震 度 5 以 上 の 範 囲 の 面 積 とマグニチュードに 関 する 村 松 (1969)の 公 式 から 見 積 もると, マグニチュードは7.7となる 松 田 式 で 求 めた 上 記 7.6に 近 く, 古 文 書 から 推 定 した 震 度 分 布 と 別 府 湾 の 海 底 地 質 調 査 によって 得 られたマグニチ ュードがほぼ 同 じ 値 となったことに 注 目 したい ただし, 震 度 5 以 上 を 示 す 地 域 楕 円 の 短 軸 方 向 の 上 方 が 宇 和 島 の1 点 しかないことから, 震 度 5 面 積 の 精 度 は 低 いと 考 えられるので,この 地 震 のマグニチュードはM=7.6とす べきであろう また, 震 度 分 布 の 長 軸 がほぼ 中 央 構 造 線 に 重 なることから, 慶 長 元 年 豊 予 地 震 が 中 央 構 造 線 を 構 成 する 複 数 の 活 断 層 の 連 動 した 地 震 で あったことは,ほぼ 疑 う 余 地 がないであろう 9 慶 長 元 年 豊 予 地 震 は 津 波 を 伴 っており, 別 府 湾 周 辺 で 浸 水 標 高 ( 高 さ)を 推 定 することが 出 来 た 大 分 市 佐 賀 関 の 速 吸 日 女 神 社 では, 本 殿 まで 流 失 し たと 記 録 されており, 訪 問 して 宮 司 に 確 認 したところ, 本 殿 の 位 置 は 往 古 か ら 現 在 まで 変 化 していないとのことだったので, 本 殿 の 敷 地 の 標 高 を 測 量 し て 標 高 8.6mの 数 値 を 得 た 建 物 が 流 失 するためにはここでの 地 上 冠 水 は 2mかそれ 以 上 であることが 必 要 ( 鳥 羽,1984)なので,ここでの 津 波 の 浸 水 高 さは10.6m(かそれ 以 上 )であることが 判 明 した 別 府 湾 北 岸 の 杵 築 市 の 奈 多 八 幡 神 社 は, 社 殿 がこの 地 震 の 津 波 によって 流 失 したと 伝 えられ ている 奈 多 八 幡 神 社 の 敷 地 の 標 高 は6.4mであったが,やはり 流 失 していることから 地 上 冠 水 2mとして,ここでの 津 波 の 浸 水 高 さは8.6m と 推 定 された 大 分 市 内 では, 豊 府 紀 聞 に 記 載 のある 長 浜 神 社 のあった 地 点 の 標 高 を 測 定 して,ここでは5.5mの 津 波 高 であったことが 判 明 した 以 上 の 津 波 高 さの 分 布 と 地 震 の 震 度 分 布 から 推 定 された 地 震 マグニチュー ド7.6とは 矛 盾 しない 10 慶 長 元 年 豊 予 地 震 (1596 年 )は, 発 生 年 代 が 現 在 から 約 418 年 前 と 古 いため, 現 在 に 依 存 した 古 文 献 が 多 くないので 知 られる 事 柄 は 以 上 で 全 てである 伊 方 原 発 の 場 所 での 震 度, 津 波 の 高 さを 直 接 推 定 できる 古 文 書 資 - 7 -
料 はそう 簡 単 には 見 つからない しかし, 震 度 分 布 図 と 津 波 高 分 布 図 によっ て,およそ 伊 方 原 発 地 点 での 震 度, 津 波 高 さを 推 定 しうるであろう 伊 方 が, 震 源,ことにこの 地 震 の 原 因 となった 中 央 構 造 線 に 極 めて 接 近 し た 位 置 にあることから, 震 度 は 少 なくとも6 強,あるいは7に 達 した 可 能 性 がある 津 波 は,6~10mと 考 えて 大 きくは 間 違 っていないであろう ( 以 上, 下 線 は 債 権 者 代 理 人 による ) このように 古 文 書 に 基 づき 合 理 的 に 推 測 すると, 本 件 原 発 の 所 在 地 が6~1 0mの 津 波 に 襲 われる 可 能 性 がある 3 それにもかかわらず, 債 務 者 は, 単 に 記 録 がない との 理 由 だけで,15 96 年 の 慶 長 元 年 豊 予 地 震 を 基 準 津 波 策 定 の 考 慮 要 素 から 除 いた 考 慮 要 素 か ら 除 くにあたって, 上 述 の 古 文 書 に 基 づく 合 理 的 推 測 を 排 除 する 合 理 的 理 由 を 示 すこともしない 津 波 審 査 ガイドは, 基 準 津 波 の 策 定 に 当 たっては, 最 新 の 知 見 に 基 づき, 科 学 的 想 像 力 を 発 揮 し, 十 分 な 不 確 かさを 考 慮 していることを 確 認 する とす る(3.2(2)) 債 務 者 が 古 文 書 に 記 載 がない と 安 易 に 過 去 の 大 地 震 による 津 波 の 危 険 性 を 切 り 捨 てた 行 為 は, 科 学 的 想 像 力 を 発 揮 と 正 反 対 の 行 為 である このような 債 務 者 の 想 定 する 津 波 は, 自 らに 都 合 の 悪 い 数 値 (つまり, 本 件 原 発 が 事 故 を 起 こす 危 険 の 高 い 数 値 )を 排 除 したものであり, 津 波 審 査 ガイド に 違 反 するばかりでなく, 原 発 の 安 全 性 を 全 く 確 保 しないものである 第 3 海 域 の 活 断 層 についての 考 慮 不 足 1 債 務 者 は, 海 域 の 活 断 層 について 中 央 構 造 線 断 層 帯 と 別 府 - 万 年 山 断 層 帯 の 連 動 による400kmを 超 える 長 大 な 断 層 を 考 慮 するとしながらも, 結 局 は1-8 -
00km 未 満 に 区 分 された 活 断 層 について 地 震 規 模 やすべり 量 を 検 討 してい るに 過 ぎない それは, 別 府 湾 - 日 出 生 断 層 帯 と 四 国 の 中 央 構 造 線 断 層 帯 は カスケードモデルが 支 持 される という 理 由 に 基 づいている( 甲 D251 平 成 27 年 3 月 20 日 付 け 適 合 性 審 査 資 料 伊 方 発 電 所 津 波 評 価 について 39 頁 ) 2 しかし, 長 大 断 層 についてはカスケードモデルのみが 唯 一 採 りうる 考 え 方 で はない 纐 纈 一 起 東 京 大 学 地 震 研 究 所 教 授 が 指 摘 する 通 り, 断 層 の 連 動 が 長 く なればすべり 量 が 大 きくなるという 考 え 方 もある( 甲 C199) 3 また 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 地 震 調 査 委 員 会 の 中 央 構 造 線 断 層 帯 ( 金 剛 山 地 東 縁 - 伊 予 灘 )の 評 価 ( 一 部 改 訂 ) では, 当 麻 断 層 - 伊 予 灘 西 部 断 層 の3 60km 連 動 ケースで 最 大 Mw8.4と 想 定 されている( 甲 C14 77 頁 ) 債 務 者 はこれよりも 長 大 な 断 層 の 連 動 を 想 定 しながら,セグメントごとにMw 7.1-7.6 程 度 を 想 定 するのみであり( 甲 D251 平 成 27 年 3 月 20 日 付 け 適 合 性 審 査 資 料 伊 方 発 電 所 津 波 評 価 について 46,47 頁 )),こ れで 十 分 な 津 波 想 定 が 出 来 るとは 考 え 難 い 津 波 審 査 ガイド 3.3.7 において 解 釈 の 違 いによる 不 確 かさの 考 慮 等 が 規 定 されていることからしても, 債 務 者 の 考 慮 は 原 発 の 基 準 津 波 の 評 価 として 不 合 理 という 他 ない 4 また, 津 波 審 査 ガイド 3.3.4 (1) では 傾 斜 角 等 のパラメータの 不 確 かさを 反 映 するよう 規 定 されている この 点 債 務 者 は 詳 細 パラメータスタディ と 称 して 敷 地 前 面 海 域 の 断 層 群 + 伊 予 セグメント の 断 層 傾 斜 角 につき, 北 80 度 までしか 考 慮 していない ようである( 甲 D251 平 成 27 年 3 月 20 日 付 け 適 合 性 審 査 資 料 伊 方 発 電 所 津 波 評 価 について 47 頁 )が, 債 務 者 は 基 準 地 震 動 策 定 の 際 には 北 傾 斜 30 度 まで 考 慮 している( 甲 D40の1 59 頁 ) 傾 斜 角 が 変 われば 想 定 される 津 波 高 さが 変 わる 可 能 性 があるが, 北 80 度 ま での 考 慮 で 十 分 であるという 根 拠 は 見 いだせない - 9 -
第 4 スケーリング 則 においてばらつきを 考 慮 したか 不 明 であること 1 スケーリング 則 とは 津 波 審 査 ガイドは, 基 準 津 波 の 策 定 のうちの プレート 間 地 震 に 起 因 する 津 波 波 源 の 設 定 において 津 波 波 源 の 総 面 積 に 対 し, 地 震 の 規 模 に 関 するスケ ーリング 則 に 基 づいてモーメントマグニチュード 及 び 平 均 すべり 量 を 設 定 す る ことを 求 める(3.3.2 の(4)) スケーリング 則 とは, 地 震 や 津 波 の 震 源 ( 波 源 )の 面 積 が 大 きくなると,そ れに 応 じて 地 震 規 模 やすべり 量 ( 地 震 により 断 層 が 滑 り 動 いた 距 離 )など 各 種 のパラメータが 大 きくなる 関 係 となることを 示 すものである 具 体 的 には, 下 記 2のとおりである 2 スケーリング 則 の 具 体 的 適 用 ( 平 均 すべり 量 をスケーリング 則 により 導 く ) プレート 間 地 震 におけるMo(モーメントマグニチュード 2 )と 平 均 すべり 量 にかかるスケーリング 則 を 示 す 図 は, 下 記 のとおりである( 甲 D252 内 陸 地 殻 内 の 長 大 断 層 による 巨 大 地 震 とプレート 間 地 震 の 巨 大 地 震 を 対 象 とした 震 源 パラメータのスケーリング 則 の 比 較 検 討 業 務 成 果 報 告 書 55 頁 (201 2 平 成 24 年 1 月 構 造 計 画 研 究 所 )) なお, 平 均 すべり 量 とMoの 目 盛 は 対 数 目 盛 である 2 モーメントマグニチュードとは, 地 震 の 破 壊 エネルギーの 大 きさを 表 す 尺 度 また,その 数 値 地 震 を 起 こした 断 層 運 動 の 強 さから 算 出 する 地 震 計 の 針 の 揺 れから 算 出 するマグニチ ュードよりも 地 震 そのものの 規 模 を 正 確 に 表 す デジタル 大 辞 泉 モーメントマグニチュード https://kotobank.jp/word/%e3%83%a2%e3%83%bc%e3%83%a1%e3%83%b3%e3%83 %88%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8B%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3 %83%89-177671#E3.83.87.E3.82.B8.E3.82.BF.E3.83.AB.E5.A4.A7.E8.BE.9E.E6.B3.89-10 -
このスケーリング 則 によれば,Mw( 図 の 上 部 の 横 軸 目 盛 り)が 大 きくな ればMoも( 図 の 下 部 の 横 軸 目 盛 り) 大 きくなる MwやMoが 大 きくなっ た 分, 平 均 すべり 量 ( 図 の 左 側 の 縦 軸 目 盛 り)も 大 きくなるということにな る MwやMoと 平 均 すべり 量 との 関 係 は, 上 図 の 黒 色 線 で 示 されている 巨 大 地 震 におけるMwやMoと 平 均 すべり 量 との 関 係 は,ピンク 色 線 で 示 され ている 黒 色 線 から 延 びるピンク 色 線 の 延 長 上 で,Mw9.6のときのすべり 量 を 見 ると, 次 図 のとおり, 約 20m(Mw9.6の 目 盛 りから 下 方 に 引 いた 線 と 黒 色 線 から 延 びるピンク 色 線 の 延 長 線 が 交 差 した 地 点 が,average slip(m) の10¹と average slip(m)の10²の 目 盛 りの 間 の 距 離 を5 等 分 したうちの 1つに 相 当 する 位 置 にあたる )のすべり 量 となる 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 のデータを 起 点 (Mw9.0と average slip(m)の1 0¹が 交 差 する 地 点 )として, 同 じ 傾 きでMw9.6のすべり 量 を 見 ると, 次 図 のとおり, 約 30ⅿとなる - 11 -
3 すべり 量 と 津 波 の 高 さ すべり 量 が 大 きくなると,プレートがより 深 く 沈 み 込 み, 上 盤 のプレートが より 盛 り 上 がる すべり 量 が2 倍 となれば, 海 底 面 の 隆 起 量 も2 倍 となり,そ れに 応 じて 海 面 の 上 昇 量 が 全 体 に2 倍 となる 平 均 すべり 量 が10mほどの 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 津 波 と 比 較 すると,M w9.6の 場 合 には, 平 均 すべり 量 が2 倍 から3 倍 なので, 海 底 面 の 隆 起 量 は 2 倍 から3 倍 となり,それに 応 じて 海 面 の 上 昇 量 が 全 体 に2 倍 から3 倍 となる つまり, 津 波 高 が 平 均 して2 倍 から3 倍 にも 達 する 4 スケーリング 則 で 求 められる 誤 差 (ばらつき)の 考 慮 上 述 のとおり,Mw9.6の 津 波 が 発 生 した 場 合, 津 波 の 高 さは, 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 における 津 波 高 の2 倍 から3 倍 となる しかし,さらに 問 題 は,この 津 波 高 は,スケーリング 則 での 平 均 的 な 値 ( 平 均 像 )でしかないことである 上 図 で 明 らかなように,スケーリング 則 の 基 と なったデータ 自 体 には, 大 きなばらつきが 存 在 する 地 震 津 波 は 自 然 現 象 で あるから,ばらつきは 当 然 存 在 する そうすると,スケーリング 則 の 適 用 においては, 深 刻 な 被 害 を 発 生 させない よう 原 発 の 安 全 を 確 保 するために,ばらつきの 中 の 少 なくとも 最 大 限 の 値 を 取 ることが 必 要 である 平 均 的 な 値 やそれを 若 干 増 やした 程 度 の 値 で 耐 津 波 設 計 - 12 -
をしただけでは,それを 超 える 津 波 が 発 生 する 恐 れを 排 除 できない 5 ばらつきを 考 慮 したか 不 明 であること 上 述 のとおり, 津 波 高 を 決 める 最 も 大 きな 要 素 は,すべり 量 である 債 務 者 は, 領 域 全 範 囲 がスケーリング 的 に 破 壊 する 場 合 を 想 定 する とだけ 述 べる( 上 記 伊 方 発 電 所 津 波 評 価 について 30 頁 ) スケーリング 則 の 適 用 において,データのばらつきを 考 慮 したかは 不 明 であ る スケーリング 則 は 平 均 像 を 求 めるものでしかないから, 平 均 像 を 超 えるす べり 量 となるときには, 想 定 を 上 回 る 津 波 高 となってしまう さらに,ばらつ きの 中 の 少 なくとも 最 大 限 の 値 を 考 慮 しない 想 定 では, 深 刻 な 被 害 を 招 く 原 発 事 故 を 防 止 するための 安 全 確 保 策 とは 言 えない 第 5 津 波 予 測 精 度 に 倍 半 分 の 誤 差 があることを 計 算 に 入 れていないこと 1 七 省 庁 手 引 き 1998( 平 成 10) 年 3 月, 当 時 津 波 防 災 に 関 連 していた, 国 土 庁, 農 林 水 産 省 構 造 改 善 局, 農 林 水 産 省 水 産 庁, 運 輸 省, 気 象 庁, 建 設 省, 消 防 庁 は, 各 自 治 体 に 対 して, 地 域 防 災 計 画 における 津 波 防 災 対 策 の 手 引 き ( 以 下 七 省 庁 手 引 き と 言 う )を 通 知 した 七 省 庁 手 引 きでは, 最 新 の 地 震 学 の 研 究 成 果 から 想 定 される 最 大 規 模 の 津 波 も 計 算 し,これと 既 往 最 大 の 津 波 と 比 較 して, 常 に 安 全 側 の 発 想 から 対 象 津 波 を 選 定 することが 望 ましい と 定 めた これは, 北 海 道 道 南 西 沖 地 震 で 最 も 被 害 の 大 きかった 奥 尻 島 において, 既 往 最 大 を 基 にして 築 かれた4.5メート ルの 防 潮 堤 を4メートル 以 上 上 回 る 津 波 に 襲 われた 反 省 からのものであった 2 誤 差 の 原 因 七 省 庁 手 引 きが 作 成 された 当 時, 津 波 を 数 値 予 測 するとき, 誤 差 の 要 因 は, 大 きく3つあると 考 えられていた 1 地 震 発 生 の 場 所 を 読 み 誤 る せいぜい 数 百 年 程 度 の 地 震 記 録 しかないため - 13 -
発 生 のくせが 必 ずしもわかっているわけではない 2 地 震 発 生 の 場 所 が 特 定 でいていても,その 地 震 がどんなふうに 海 底 を 隆 起 させるか,その 計 算 を 誤 る 1964 年 のアラスカ 大 地 震 (M9.2)は, 予 測 の 難 しい 副 断 層 の 隆 起 によって, 津 波 高 さは 計 算 結 果 より2 倍 も 大 き かった 3 津 波 が 伝 わる 過 程 での 計 算 を 誤 る 海 底 の 地 形 の 様 子 が 十 分 わかっていな かったり, 津 波 が 干 渉 しあって 生 じる 東 北 地 方 太 平 洋 沖 地 震 で, 福 島 第 一 原 発 の 津 波 ( 約 13メートル)が 約 12キロメートル 離 れた 福 島 第 二 原 発 の 津 波 ( 約 9メートル)の1.5 倍 もあった 原 因 は,ここにあると 推 定 されている 3 倍 半 分 の 精 度 こうした 中 で, 当 時 安 全 審 査 をする 通 産 省 原 子 力 発 電 技 術 顧 問 のメンバーで, 七 省 庁 手 引 きの 作 成 にも 関 わった 首 藤 伸 夫 東 北 大 教 授 と, 阿 部 勝 征 東 京 大 教 授 の2 人 は, 津 波 数 値 解 析 の 精 度 は 倍 半 分 であると 発 言 していた これ は, 津 波 予 測 の 精 度 には2 倍 程 度 の 誤 差 がある, 換 言 すれば 最 小 値 と 最 大 値 と の 間 には4 倍 もの 開 きが 生 じうるという 意 味 である 首 藤 伸 夫 氏 は,2013( 平 成 25) 年 11 月 20 日,この 発 言 の 意 味 につ いて, 津 波 の 計 算 なんてのは, 予 測 より2 倍 の 津 波 となったアラスカ 沖 みた いのがあるから, 倍 半 分 と 言 ってきた これはパラメータースタディーでもカ バーできない と 説 明 している( 甲 C190 原 発 と 大 津 波 警 告 を 葬 った 人 々) 4 債 務 者 が 倍 半 分 を 計 算 に 入 れていないこと 債 務 者 の 基 準 津 波 策 定 過 程 では,パラメータスタディをしても 津 波 の 予 測 は 所 詮 倍 半 分 に 過 ぎないという 観 点 を 計 算 に 入 れていない この 点 でも 科 学 的 安 全 性 を 備 えたものとは 到 底 言 えないと 言 わざるを 得 ない 以 上 - 14 -