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平 成 27 年 11 月 ~ 平 成 28 年 4 月 に 公 開 の 対 象 となった 専 門 協 議 等 における 各 専 門 委 員 等 の 寄 附 金 契 約 金 等 の 受 取 状 況 審 査 ( 別 紙 ) 専 門 協 議 等 の 件 数 専 門 委 員 数 500 万 円 超 の 受

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261 東 京 海 上 日 動 リスクコンサルティング( 株 ) ERM 事 業 部 経 営 リスクグループ 主 任 研 究 員 中 村 有 博 意 思 決 定 システムの 抜 け 穴 と 対 策 ~ 意 思 決 定 システムの 適 正 性 を 確 保 するための 一 考 察 ~ 談 合 偽 装 表 示 不 適 切 な 会 計 処 理 等 日 々 様 々な 不 祥 事 が 発 生 している その 中 には 然 るべき 関 係 者 による 適 切 な 審 議 が 行 われていたならば そのような 判 断 に 至 らなかったであろう 事 件 も 多 い だが こうした 不 祥 事 が 発 生 した 企 業 の 多 くでは 取 締 役 会 をはじめとする 各 種 会 議 体 や 稟 議 制 度 等 不 適 切 な 判 断 を 行 わないための 多 層 化 分 業 化 された 意 思 決 定 システムが 構 築 されている 特 に 大 企 業 となるほどその 傾 向 は 強 い しかし それだけの 意 思 決 定 システムがあるにもかかわらず なお 不 適 切 な 意 思 決 定 が 発 生 しているのが 現 実 である それらは 何 故 起 こるのか その 背 景 として 筆 者 は 意 思 決 定 においていくつかの 抜 け 穴 が 存 在 し その 抜 け 穴 を 通 じて 不 十 分 な 審 議 等 が 起 こっていることに 一 因 があるものと 考 える そこで 本 稿 では 企 業 における 意 思 決 定 プロセスの 特 徴 を 観 察 しながら どのような 抜 け 穴 が 存 在 し 意 思 決 定 システムの 適 正 性 を 確 保 するためにどのような 対 策 を 講 じることが 望 ましいのか 考 察 してみたい なお 本 稿 で 述 べる 意 思 決 定 システム とは 不 正 等 を 防 止 することに 主 として 焦 点 を 当 てた 意 思 決 定 に 関 する 業 務 プロセスを 意 味 するものとする 1. 企 業 における 意 思 決 定 プロセス 最 初 に 企 業 における 意 思 決 定 システムの 特 徴 を 観 察 してみる 企 業 における 意 思 決 定 の 手 続 は 通 常 案 件 の 性 質 や 金 額 に 応 じて 区 分 される それぞれの 案 件 にどの ような 手 続 を 設 けるかは 基 本 的 に 各 社 の 自 由 である 一 般 的 には 組 織 規 程 職 務 分 掌 規 程 経 営 会 議 規 程 稟 議 規 程 等 の 内 規 で 所 管 業 務 付 議 基 準 意 思 決 定 者 ( 会 議 体 であれば 意 思 決 定 基 準 ) 承 認 ルート 等 を 定 める 例 が 多 い 重 要 な 案 件 であればある 程 上 位 の 機 関 に 付 議 報 告 されるのが 一 般 的 で ある 但 し 内 容 によっては 会 社 法 等 の 定 めにより 手 続 ( 意 思 決 定 者 等 )が 定 められている 場 合 もあ る 1 経 営 会 議 付 議 基 準 ( 一 例 抜 粋 ) 経 営 計 画 予 算 に 関 する 重 要 事 項 中 期 経 営 計 画 の 策 定 年 度 予 算 の 策 定 月 次 損 益 の 状 況 報 告 四 半 期 半 期 年 度 決 算 の 承 認 関 係 会 社 の 管 理 方 針 の 決 定 資 金 投 資 等 に 関 する 重 要 事 項 資 金 の 借 り 入 れ 有 価 証 券 の 取 得 処 分 土 地 建 物 その 他 不 動 産 の 取 得 処 分 事 業 に 関 する 重 要 事 項 新 規 プロジェクトの 開 始 億 円 を 超 える 案 件 の 契 約 の 締 結 経 営 に 重 要 な 技 術 販 売 提 携 組 織 に 関 する 重 要 事 項 重 要 な 組 織 の 変 更 人 員 計 画 策 定 コンプライアンス 法 令 に 関 する 重 要 事 項 重 要 な 規 程 の 承 認 契 約 書 雛 形 の 策 定 重 要 な 訴 訟 に 関 する 方 針 の 決 定 1 例 として 会 社 法 第 362 条 第 4 項 1

そこで 一 例 として 企 業 における 意 思 決 定 はどのように 進 むのか プロセスを 追 って 観 察 してみる 以 下 製 品 開 発 を 例 に 取 締 役 会 までの 審 議 が 必 要 であるものと 仮 定 して 意 思 決 定 プロセスの 典 型 例 を 紹 介 する 1 開 発 担 当 者 ( 又 は 部 課 長 役 員 等 )における 発 案 : ( 個 人 レベルのアイデアを 検 討 する 段 階 で 組 織 的 な 段 階 ではない ) 2 開 発 部 門 内 における 審 議 : ( 開 発 業 務 を 所 管 する 部 門 としてアイデアを 組 織 的 に 具 体 化 する ) 3 関 連 部 門 との 協 議 調 整 : ( 販 売 購 買 経 理 品 質 管 理 法 務 等 関 連 する 各 部 門 と 調 整 を 行 い アイデアを 現 実 な ものに 仕 上 げてゆく ) 4 製 品 開 発 会 議 部 門 長 会 議 等 での 審 議 : ( 全 社 横 断 的 な 審 議 機 関 で 調 整 意 見 聴 取 等 を 行 い アイデアを 組 織 的 に 固 めてゆく ) 5 社 長 との 調 整 決 定 : ( 業 務 執 行 の 最 高 責 任 者 との 間 で 調 整 意 思 決 定 する ) 6 経 営 会 議 2 3 等 による 審 議 決 定 : ( 執 行 役 員 等 で 構 成 する 業 務 執 行 に 係 る 最 上 位 の 審 議 機 関 にて 審 議 意 思 決 定 する ) 7 取 締 役 会 による 審 議 : ( 会 社 の 業 務 執 行 を 監 督 する 機 関 として 承 認 意 思 決 定 する ) なお ここでは 会 議 体 を 中 心 とする 意 思 決 定 プロセスを 紹 介 したが これらと 並 行 して 又 は 別 途 稟 議 書 や 伺 書 等 の 書 面 制 度 を 用 いる 企 業 も 多 い 稟 議 制 度 とは 申 請 者 ( 上 記 でいえば 開 発 担 当 者 )が 書 面 や 電 子 システムにより 稟 議 書 を 作 成 し 稟 議 規 程 等 により 定 めた 回 覧 者 に 回 覧 し 最 終 的 に 意 思 決 定 者 による 承 認 を 得 るための 制 度 である 回 覧 を 受 けた 関 係 者 は 必 要 であれば 意 見 を 付 すことができ 意 思 決 定 者 はそれらの 意 見 等 を 参 照 し 判 断 するのが 一 般 的 である 回 覧 者 が 多 く 承 認 を 得 るまでに 時 間 を 要 する 等 課 題 もあるが 書 面 ( 又 は 電 子 データ)として 保 存 されるため 記 録 の 保 管 管 理 が 容 易 である 等 利 点 も 多 く 多 くの 日 本 企 業 で 用 いられている 2 執 行 役 員 会 常 務 会 等 企 業 それぞれの 組 織 体 制 や 歴 史 的 経 緯 により 多 様 な 名 称 構 成 権 限 が 見 られる 以 前 は 常 務 会 と いった 役 付 取 締 役 による 会 議 体 を 事 実 上 の 最 高 意 思 決 定 機 関 に 持 つ 企 業 が 多 かったが 近 年 は 執 行 役 員 制 度 を 導 入 する 企 業 が 増 えた ことに 伴 い 執 行 役 員 で 構 成 する 執 行 役 員 会 等 の 名 称 の 会 議 体 が 増 えていると 思 われる 3 経 営 会 議 を 社 長 より 上 位 の 意 思 決 定 機 関 と 仮 定 しているが 例 えば 経 営 会 議 を 社 長 の 諮 問 機 関 として 位 置 付 けるならば 社 長 が 経 営 会 議 よりも 上 位 の 意 思 決 定 機 関 となる 2

2. 意 思 決 定 システムの 抜 け 穴 意 思 決 定 システムは 通 常 手 続 に 則 って 決 定 されたならば 不 適 切 な 結 論 に 至 らないよう 考 えて 設 計 されているはずである しかし 実 際 の 運 用 では 各 段 階 で 不 十 分 な 審 議 や 手 続 の 失 念 等 が 起 こり 結 果 として 不 適 切 な 結 論 に 至 る 例 が 多 い それでは そうした 観 点 からみて 意 思 決 定 システムには どのような 抜 け 穴 があるのだろうか その 内 容 は 多 様 であり 事 案 に 応 じてケース バイ ケースであるが 1つの 考 え 方 として 意 思 決 定 を 求 める 担 当 者 所 管 部 門 と 意 思 決 定 権 限 を 有 する 意 思 決 定 者 に 分 けて 考 えてみることがで きる 以 下 この 分 け 方 に 従 い 考 察 してみる (1) 担 当 者 所 管 部 門 の 問 題 意 思 決 定 手 続 の 失 念 や 不 十 分 な 審 議 等 が 起 こる 背 景 の1つに 担 当 者 や 所 管 部 門 に 問 題 がある 場 合 がある 例 えば よくある 例 として 以 下 のようなものが 挙 げられる ⅰ) 意 図 的 に 意 思 決 定 システムに 乗 せずに 実 行 ⅱ) 重 要 情 報 を 虚 偽 隠 蔽 して 承 認 これらはいずれも 故 意 に 適 切 な 審 議 決 定 をすり 抜 けようとするケースである ⅰ)はそもそも 意 思 決 定 手 続 自 体 を 回 避 するという 点 で 第 一 義 的 には 本 人 の 倫 理 意 識 の 問 題 で あるが 意 思 決 定 を 諮 らずとも 実 行 できてしまうという 点 でシステム 設 計 上 の 問 題 でもある 典 型 例 としては 横 領 等 の 従 業 員 の 個 人 的 犯 罪 がイメージしやすい 過 去 に 実 際 に 発 生 した 銀 行 における 無 断 取 引 事 件 では 投 資 業 務 担 当 者 が 証 券 取 引 の 損 失 を 補 填 するために 与 えられた 取 引 枠 を 超 えて 無 断 かつ 簿 外 の 取 引 を 行 い かつ 残 高 保 管 証 明 書 等 を 作 り 換 える 等 の 方 法 により 隠 蔽 し 最 終 的 には 総 額 で11 億 ドルの 損 失 を 会 社 に 与 えている 本 来 であれば 与 えられた 取 引 枠 を 超 える 取 引 は 会 社 から 承 認 を 得 なければならないところ 故 意 に 承 認 を 得 ずに 実 行 したものである 本 事 件 はその 後 本 人 のみの 問 題 ではなく 企 業 としてのリスク 管 理 体 制 に 不 備 があったものとして 裁 判 上 も 判 断 されるに 至 っている 一 方 ⅱ)は 意 思 決 定 システムの 手 続 自 体 は 満 たすものの 必 要 な 情 報 が 意 思 決 定 者 に 提 供 され ていないため 意 思 決 定 に 欠 陥 があるものである 虚 偽 情 報 を 提 供 して 欺 こうとするケース( 能 動 的 行 為 )もあれば あえて 重 要 情 報 に 触 れないケース( 消 極 的 行 為 )もあるだろうが いずれにせ よ 判 断 をミスリードする 行 為 であり 意 思 決 定 者 からみれば 知 らされていれば 承 認 しなかった ということになる こうした 事 態 が 起 こる 背 景 も 第 一 義 的 には 本 人 の 倫 理 意 識 の 問 題 であるが 意 思 決 定 者 や 事 務 局 側 でも 必 要 な 情 報 の 確 保 や 提 供 された 情 報 の 裏 付 けができていない 点 で シ ステム 運 用 上 の 問 題 でもある 最 近 は 国 等 の 許 認 可 を 得 るために 性 能 偽 装 等 をしていたことが 発 覚 する 事 例 が 多 く 見 られる 騙 す 相 手 が 社 外 であるものの 虚 偽 の 情 報 を 与 えて 承 認 を 得 る 点 では 典 型 例 といえる 但 し 意 思 決 定 者 にとって 情 報 が 虚 偽 である 等 を 見 抜 くことは 容 易 ではない 一 般 的 に 情 報 は 申 請 者 所 属 部 門 側 が 握 っていることが 多 いからである また 意 思 決 定 者 は 効 率 性 との 兼 ね 合 い も 考 慮 しなければならず 多 忙 な 業 務 の 中 で 全 ての 情 報 を 提 出 させることは 現 実 的 ではない 更 に 全 ての 情 報 が 提 出 されたとしても それが 矛 盾 しないよう 一 貫 して 改 竄 等 されていれば 内 部 告 発 でもない 限 り 発 見 は 容 易 ではない そのため 意 思 決 定 者 は 判 断 するための 合 理 的 な 情 報 が 揃 って おり かつその 情 報 に 矛 盾 等 がなければ それを 信 用 して 判 断 せざるを 得 ないのが 現 実 である こ うした 点 を 考 慮 し 信 用 して 合 理 的 に 判 断 できる 情 報 量 を 如 何 に 考 えるかが 意 思 決 定 システムを 考 えるうえで1つのポイントになる 3

また 上 記 の 故 意 的 なものとは 別 に 以 下 のような 場 合 もある ⅲ) 付 議 基 準 の 誤 認 識 等 による 手 続 の 失 念 これは ミス により 結 果 として 意 思 決 定 なく 実 行 したということである 例 えば 新 規 プ ロジェクトを 行 うには 経 営 会 議 の 承 認 が 必 要 とされているのに 所 管 部 署 の 判 断 でリリースして しまった 等 である ミスが 原 因 であることから 上 記 ⅰ)ⅱ)と 比 べ 悪 質 性 も 低 く また 隠 蔽 等 されなければ 内 部 監 査 等 により 発 見 されることも 多 い しかし 逆 にミスであるが 故 発 生 する 可 能 性 も 高 い また 時 にこうしたミスが 重 大 な 問 題 に 発 展 する 場 合 もある 一 例 であるが 業 法 に 定 める 許 認 可 届 出 等 を 怠 ったことで 業 務 停 止 等 の 行 政 処 分 を 招 いた 例 もある 適 切 な 審 議 を 行 っていれば と 後 悔 することのないよう 十 分 に 配 慮 しなければならない こうしたことが 起 こる 理 由 は 第 一 義 的 には 申 請 者 や 所 属 部 門 の 注 意 不 足 であるが 意 思 決 定 システムや 付 議 基 準 等 が 不 明 瞭 であったり 従 業 員 に 周 知 徹 底 されていないことが 背 景 にある 場 合 も 多 い 制 度 設 計 や 運 用 を 担 う 事 務 局 側 としても 十 分 に 配 慮 することが 望 まれる (2) 意 思 決 定 者 の 問 題 上 記 (1)では 担 当 者 や 所 管 部 門 等 意 思 決 定 を 求 める 立 場 から 問 題 を 述 べたが 意 思 決 定 者 側 にも 抜 け 穴 が 生 じる 余 地 はある 例 えば 以 下 のようなケースが 挙 げられる ⅳ) 不 適 切 であることを 認 識 して 承 認 ⅴ) 不 適 切 であることに 気 付 かずに 承 認 ⅳ)は そもそも 意 思 決 定 者 自 身 が 不 適 切 であることを 知 りつつ 承 認 しているものである 例 えば 社 長 自 身 が 粉 飾 決 算 であること 知 りつつ(あるいは 指 示 しつつ) 虚 偽 の 有 価 証 券 報 告 書 を 提 出 した 等 である この 場 合 不 適 切 を 前 提 に 意 思 決 定 しているのであるから 意 思 決 定 システムは 当 然 に 機 能 し ない もっとも 形 式 的 には 手 続 に 従 った 意 思 決 定 が 行 われる 例 も 多 い(その 場 合 議 事 録 等 に は 実 際 の 審 議 とは 異 なる 適 切 な 内 容 が 記 録 される) こうした 事 案 は 意 思 決 定 システム 以 前 に 暴 走 する 意 思 決 定 者 を 牽 制 できないガバナンスに 問 題 の 本 質 があるといえる 本 来 第 一 には 各 種 会 議 体 や 内 部 監 査 等 の 業 務 執 行 レベルで 牽 制 し それができない 場 合 は 取 締 役 会 監 査 役 会 計 監 査 人 等 の 経 営 レベルにおいて 暴 走 を 止 めるこ とが 期 待 される もっとも 社 長 等 の 経 営 トップが 暴 走 した 場 合 内 部 の 人 間 がそれを 止 めるこ とは 現 実 には 極 めて 難 しい そのため 最 近 では これらに 加 え 行 政 マスコミ 等 に 対 する 内 部 通 報 等 も 企 業 におけるガバナンス 上 重 要 な 役 割 を 果 たしている なお こうした 事 態 がマスコミに 発 覚 した 場 合 いわゆる 組 織 的 等 と 表 現 されて 報 道 等 さ れることになる 例 えば 組 織 的 な 裏 金 作 りが 問 題 となったある 建 設 会 社 で 逮 捕 された 前 社 長 に 代 わり 就 任 した 新 社 長 は 前 社 長 らの 暴 走 を 知 らなかった 多 少 の 疑 問 があっても 社 長 のやる ことなら 間 違 いないという 先 入 観 社 風 があった 等 と 述 べて 意 思 決 定 に 対 するガバナンスが 機 能 していなかったことを 原 因 として 述 べている 4

一 方 でⅴ)は ミスや 知 識 不 足 により 不 適 切 であることを 気 付 かずに 承 認 してしまうことであ る 例 えば 以 前 ある 銀 行 が 合 併 した 際 に 大 規 模 なシステム 障 害 が 発 生 したことがあるが その 背 景 の1つに システム 部 門 の 作 業 遅 延 が 正 確 に 経 営 陣 に 伝 わっていなかったことが 挙 げられて いる こうした 事 態 における 問 題 点 は 不 適 切 であることに 気 付 く ことのできるシステムが 構 築 されていなかったことである 無 論 ミスや 知 識 不 足 等 を 完 全 に 防 ぐことはできない しかし その 割 合 を 減 らしていくことは 工 夫 次 第 でできるであろう 最 近 は 取 締 役 会 に 社 外 取 締 役 を 導 入 する 企 業 も 増 えているが 社 内 外 を 問 わず 見 識 を 有 する 者 から 情 報 意 見 を 吸 い 上 げるシステム を 如 何 に 構 築 するかは 意 思 決 定 システムを 考 えるうえで 非 常 に 重 要 となる なお いずれの 場 合 も 不 適 切 な 意 思 決 定 がなされた 後 に その 事 実 が 社 外 等 に 発 覚 すること を 恐 れて いわゆる 揉 み 消 し といった 行 為 がなされる 場 合 がある このような 行 為 は 後 々 より 一 層 問 題 を 巨 大 化 させるリスクを 含 むものである このようなことのないよう 不 適 切 な 意 思 決 定 を 発 見 した 場 合 の 対 応 についても 十 分 に 想 定 しておくことが 望 ましい 3. 対 策 それでは これまで 述 べてきたような 抜 け 穴 を 塞 ぐために どのような 対 策 があるだろうか この 点 実 際 には 企 業 の 規 模 組 織 文 化 等 に 応 じて 個 別 具 体 的 に 検 討 しなければならないが 第 一 には 意 思 決 定 システムの 適 正 性 を 担 保 するための 統 制 活 動 と モニタリング を 強 化 する ことが 有 効 であると 考 える ここで 統 制 活 動 とは 恣 意 的 な 行 動 やミス 等 に 対 する ガバナンスや 内 部 統 制 システムの 強 化 を 意 図 している これまで 述 べてきたように 相 互 牽 制 や 確 認 作 業 が 徹 底 されていれば 完 全 に 無 くすことは 難 しいものの 少 なくとも 不 適 切 な 行 為 を 行 うハードルを 上 げることができると 考 え るからである 一 方 モニタリング は 主 に 統 制 活 動 をフォローアップすることを 意 図 している どれ ほど 統 制 活 動 を 強 化 しても 人 間 の 作 業 には 必 ず 抜 け 漏 れが 生 じる そのような 抜 け 漏 れを 内 部 監 査 等 を 通 じてフォローアップすることで 更 に 発 生 割 合 を 減 らしてゆくとともに 意 思 決 定 システ ム 自 体 の 欠 点 を 把 握 し 改 善 につなげてゆくことができると 考 える なお 故 意 的 なものに 対 する 対 策 を 考 えるにあたって 1つの 考 え 方 として 不 正 のトライアン グル というものも 参 考 となる 不 正 のトライアングル とは 米 国 の 犯 罪 学 者 であるD.R.クレッシー 教 授 が 提 唱 した 業 務 上 横 領 に 関 する 理 論 であり 会 計 監 査 等 でも 広 く 知 られる 概 念 だが 筆 者 はこの 考 え 方 は 横 領 以 外 に も 広 く 故 意 的 な 行 為 に 対 し 応 用 できるものと 考 える この 理 論 はトライアングルを 構 成 する3つの 条 件 を 満 たすことで 起 こるというものである 3つ の 条 件 とは 以 下 のとおりである プレッシャー 不 正 を 行 うプレッシャーがあること ( 果 たすべきノルマの 未 達 成 失 敗 に 対 するリカバリー 業 績 の 悪 化 等 ) 正 当 化 不 正 を 行 う 正 当 化 事 由 があること ( 不 適 切 な 行 為 の 日 常 化 上 司 同 僚 の 不 正 行 為 による 倫 理 意 識 低 下 等 ) 機 会 不 正 を 行 う 機 会 があること (チェック 監 査 等 の 内 部 統 制 の 不 存 在 機 能 不 全 IT 統 制 不 備 等 ) 5

上 記 の3つについて それぞれどのような 対 策 ができるかを 考 えてみると プレッシャー や 正 当 化 は 本 人 の 個 人 的 事 情 や 伝 統 的 な 組 織 風 土 の 問 題 もあり コントロールすることはなか なか 難 しく 時 間 をかけた 改 革 が 必 要 となる しかし 機 会 は 意 思 決 定 システムと 実 行 に 係 る 制 度 設 計 を 変 更 することですぐに 実 行 できる 例 えば 正 式 な 意 思 決 定 なくして 実 行 ができないよ うにITシステムを 設 計 することや 意 思 決 定 の 審 議 に 利 害 関 係 のない 第 三 者 を 参 加 させるだけで も 恣 意 的 な 意 思 決 定 や 実 行 行 為 の 機 会 を 潰 す 活 動 として 有 効 となる 4. 最 後 に 意 思 決 定 プロセスは 然 るべき 関 係 者 が 適 切 な 議 論 を 行 い 企 業 として 責 任 ある 判 断 を 行 うための 重 要 な 手 続 である しかし 故 意 に 又 は 過 失 により 時 にそれが 適 切 に 行 われないことがあるのは これまで 述 べてきたとおりである そのため 意 思 決 定 システムを 考 えるにあたっては その 手 続 は 形 式 的 に 定 めるだけでは 不 十 分 で あり その 適 正 性 を 担 保 する 仕 組 みを 併 せて 構 築 することが 極 めて 重 要 となる 企 業 を 正 しい 方 向 へ 導 くための 重 要 事 項 として 意 思 決 定 システムの 設 計 及 び 運 用 において 十 分 に 配 慮 いただくことが 望 まれる 以 上 ( 第 261 号 2010 年 1 月 発 行 ) < 参 考 文 献 > ジョセフ T ウェルズ 著 八 田 進 二 藤 沼 亜 起 監 訳 企 業 不 正 対 策 ハンドブック- 防 止 と 発 見 - 第 2 版 ( 第 一 法 規 平 成 21 年 4 月 ) 間 嶋 崇 著 組 織 不 祥 事 - 組 織 文 化 論 による 分 析 - ( 文 眞 堂 平 成 19 年 3 月 ) 宝 月 誠 著 逸 脱 とコントロールの 社 会 学 社 会 病 理 学 を 超 えて ( 有 斐 閣 平 成 16 年 5 月 ) 本 間 道 子 編 著 組 織 性 逸 脱 行 為 過 程 - 社 会 心 理 学 的 観 点 から- ( 多 賀 出 版 平 成 19 年 1 月 ) 新 田 健 一 著 組 織 とエリートたちの 犯 罪 その 社 会 心 理 学 的 考 察 ( 朝 日 新 聞 社 平 成 13 年 11 月 ) 6