レポート 金 融 リテラシー 調 査 にみる 損 失 回 避 傾 向 の 強 さ 金 融 広 報 中 央 委 員 会 事 務 局 企 画 役 日 本 銀 行 情 報 サービス 局 金 融 知 識 普 及 グループ 長 川 村 憲 章 金 融 広 報 中 央 委 員 会 ( 事 務 局 は 日 本 銀 行 情 報 サービス 局 )は わが 国 初 の 大 規 模 調 査 と して 金 融 リテラシー 調 査 を 実 施 した ミ ニ ジャパン とも 言 える 国 の 人 口 構 成 と ほぼ 同 一 の25,000 人 の 調 査 データに 基 づき 金 融 知 識 等 の 分 野 別 階 層 別 分 析 海 外 比 較 行 動 経 済 学 的 分 析 など 多 様 な 分 析 を 行 える ように 設 計 している 調 査 結 果 は 日 本 銀 行 や 金 融 庁 のホームページ 上 にもリンクが 張 ら れている 知 るぽると サイト 上 で 閲 覧 でき 目 次 1. 金 融 知 識 は 海 外 対 比 見 劣 り 2. 損 失 回 避 傾 向 の 強 さ 3. 投 資 家 は 高 リテラシー 4. 投 資 しない 人 の 特 徴 5. 金 融 教 育 の 効 果 6.お 金 との 付 き 合 い 方 は 不 可 欠 の 生 活 スキル 7. 投 資 促 進 の 観 点 からも 金 融 教 育 は 重 要 る 本 稿 では 1 日 本 人 の 特 徴 と2 金 融 教 育 の 効 果 にフォーカスしてご 説 明 する なお 本 稿 における 意 見 はすべて 執 筆 者 の 個 人 的 な 見 解 である 1. 金 融 知 識 は 海 外 対 比 見 劣 り 今 回 の 調 査 では 約 半 分 の 設 問 を 海 外 比 較 できるように 設 計 した 米 国 と 比 較 すると 金 融 教 育 を 受 けた 人 の 割 合 は 米 国 の3 分 の 1に 止 まっており それを 映 じ 日 本 は 金 融 知 識 について 自 信 のない 人 が 多 い 借 り 過 ぎ と 感 じている 人 が 少 なく 緊 急 時 に 備 えた 資 金 を 確 保 している 人 が 多 いなど 堅 実 さは 日 本 人 の 強 み であるが 金 融 知 識 は 米 国 に 大 きく 水 をあけられている( 図 表 1) 2. 損 失 回 避 傾 向 の 強 さ 日 本 人 の 特 徴 として 際 立 つものは 損 失 32
( 図 表 1) 米 国 との 比 較 日 本 (A) 米 国 (B) 差 異 (A B) 金 融 教 育 を 受 けた 人 の 割 合 7 19 12 金 融 知 識 に 自 信 がある 人 の 割 合 13 73 60 借 り 過 ぎと 感 じている 人 の 割 合 11 42 31 緊 急 時 の 金 銭 的 備 えがある 人 の 割 合 55 40 15 正 誤 問 題 の 正 答 率 47 57 10 ( 図 表 2) 株 式 投 資 信 託 外 貨 預 金 等 への 投 資 ( 図 表 3) 損 失 回 避 傾 向 回 避 傾 向 の 強 さ である リスク 性 資 産 ( 株 式 投 資 信 託 外 貨 預 金 等 )の 購 入 経 験 をみ ると いずれにも 投 資 しない 人 が6 割 を 占 め た( 図 表 2) 10 万 円 を 投 資 すると 半 々の 確 率 で2 万 円 の 値 上 がり 益 か 1 万 円 の 値 下 がり 損 のいずれかが 発 生 する という 期 待 収 資 しない と 回 答 した( 図 表 3) この 損 失 回 避 傾 向 は 若 年 層 から 高 齢 者 まで 広 範 囲 に みられ 特 に 女 性 でその 傾 向 が 強 い 投 資 しない を 選 択 した 回 答 者 へのヒアリングで は 元 本 割 れのリスクがある 金 融 商 品 には 投 資 しない との 回 答 が 多 く 聞 かれた 益 率 +5%の 投 資 に 対 して 8 割 の 人 は 投 33
( 図 表 4) 株 式 に 投 資 している 人 の 割 合 ( 図 表 5) 正 答 率 と 株 式 投 資 との 関 係 3. 投 資 家 は 高 リテラシー 金 融 知 識 と 投 資 行 動 の 関 係 についてみてみ たい 今 回 の 調 査 では 回 答 者 25,000 人 全 員 について 正 誤 問 題 の 点 数 ( 正 答 率 )を 算 出 し その 点 数 に 基 づき 回 答 者 を5 等 分 し 各 階 層 の 特 徴 を 分 析 した その 結 果 をみると 正 答 率 が 高 い 人 は 株 式 等 のリスク 性 資 産 へ 投 資 する 人 が 多 い 傾 向 がみられた( 図 表 4) 正 答 率 と 投 資 行 動 の 関 係 を 都 道 府 県 別 にみて も 正 答 率 が 高 い 都 道 府 県 では 株 式 等 のリス ク 性 資 産 へ 投 資 している 人 が 多 かった( 図 表 5) 34
( 図 表 6) 株 式 等 に 投 資 しない 人 の 特 徴 全 サンプル 株 式 投 信 外 貨 預 金 等 全 てに 投 資 している 人 株 式 投 信 外 貨 預 金 等 全 てに 投 資 していない 人 正 答 率 25 問 55.6 68.5 47.2 資 産 形 成 関 連 54.3 73.5 42.9 リスク リターン 74.8 86.4 65.8 分 散 効 果 45.8 69.8 32.1 預 金 保 険 42.3 64.2 30.8 損 失 回 避 傾 向 が 強 い 人 の 割 合 78.6 50.9 89.1 学 校 等 で 金 融 教 育 を 受 けた 人 の 割 合 6.6 15.3 4.2 ( 図 表 7) 各 セグメントの 正 答 率 と 行 動 4. 投 資 しない 人 の 特 徴 株 式 等 のリスク 性 資 産 に 全 く 投 資 しない 人 達 回 答 者 の6 割 は どのような 人 達 なのであろうか 投 資 しない 人 をみると リ スク リターン 分 散 効 果 預 金 保 険 といっ た 資 産 形 成 関 連 の 設 問 も 含 め 総 じて 正 答 率 が 低 かった( 図 表 6) 損 失 回 避 傾 向 が 強 く 学 校 等 で 金 融 教 育 を 受 けた 人 の 割 合 は 低 かっ た 属 性 別 にみると 投 資 しない 人 は 女 性 や 若 年 層 に 多 い 5. 金 融 教 育 の 効 果 今 回 の 調 査 では 金 融 教 育 の 効 果 を 定 量 的 に 計 測 した 各 セグメントの 正 答 率 と 行 動 を みると 金 融 教 育 経 験 者 の 場 合 正 答 率 も 望 ましい 金 融 行 動 をとる 割 合 ( 資 産 運 用 借 入 れ 生 命 保 険 加 入 時 に 他 の 金 融 機 関 や 商 品 と 比 較 した 人 の 割 合 )も 高 かった( 図 表 7) 学 生 をみても 金 融 教 育 を 受 けた と 回 答 35
( 図 表 8) 金 融 教 育 の 効 果 ( 図 表 9) 金 融 教 育 と 投 資 行 動 投 資 の し 割 て 合 い る 人 全 サンプル 金 融 教 育 を 受 けた 人 株 式 31.6 52.3 投 資 信 託 25.8 43.8 外 貨 預 金 等 17.3 35.0 人 て 商 の 購 品 割 入 性 合 し を て 理 い 解 る し 全 サンプル 金 融 教 育 を 受 けた 人 株 式 75.7 85.5 投 資 信 託 67.8 75.5 外 貨 預 金 等 74.4 75.5 した 学 生 の 正 答 率 (56.4%)は そうでない 学 生 の 正 答 率 (38.2%)よりも 高 く 全 年 齢 層 平 均 (55.6%)をも 上 回 った( 図 表 8) 金 融 教 育 を 受 けた 学 生 は 望 ましい 金 融 行 動 をとる あるいは 金 融 教 育 の 必 要 性 を 指 摘 す る 割 合 が 高 かった 前 述 の 期 待 収 益 率 +5%の 投 資 に 投 資 し ない を 選 択 した 人 の 割 合 は 全 回 答 者 平 均 は78.6%であるが 金 融 教 育 を 受 けた 人 に 限 れば 64.3%に 低 下 する 金 融 教 育 には 非 合 理 的 な 行 動 バイアスを 和 らげる 効 果 がある とみている 金 融 教 育 を 受 けたと 回 答 した 人 は 投 資 を 行 う 人 が 多 く 商 品 性 を 理 解 した 上 で 株 式 等 を 購 入 している 人 が 多 い( 図 表 9) 6.お 金 との 付 き 合 い 方 は 不 可 欠 の 生 活 スキル 現 代 の 経 済 社 会 を 生 きている 限 り お 金 との 付 き 合 い は 一 生 続 く 金 融 教 育 につい ては 行 うべき との 意 見 が 多 いが そうし た 意 見 を 持 つ 人 の 中 で 実 際 に 金 融 教 育 を 受 け た 人 は8.3%に 止 まっている 金 融 教 育 を 求 36
める 声 に 応 えるべく より 広 範 に かつ 各 年 齢 層 の 重 点 課 題 を 念 頭 に 置 きつつ 金 融 教 育 等 を 実 施 していくことが 必 要 である 第 一 に 将 来 直 面 するであろう 金 融 取 引 に 適 切 に 対 処 するためにも 社 会 に 出 る 前 に 金 融 教 育 を 受 ける 機 会 がより 広 く 提 供 される ことが 望 ましい 学 生 に 対 する 金 融 教 育 を 拡 大 していけば わが 国 全 体 の 金 融 リテラシー の 底 上 げにつながるとみている 第 二 に 社 会 人 に 対 しても ファミリー 層 高 齢 者 などライフステージ 毎 に 各 層 のニー ズにより 適 合 した 情 報 や 学 習 機 会 がより 広 く 提 供 されることが 望 ましい 例 えば 50 代 の 老 後 への 準 備 状 況 をみると 老 後 資 金 の 必 要 額 を 認 識 している 人 は54.4% 資 金 計 画 を 策 定 している 人 は38.0% 公 的 年 金 の 受 給 金 額 を 認 識 している 人 は40.3%であった 老 後 破 綻 下 流 老 人 化 といったリスクが 喧 伝 されて いるが こうした 準 備 状 況 や 来 年 1 から 確 定 拠 出 年 金 制 度 の 改 正 に 伴 い 同 制 度 の 対 象 者 が 拡 大 すること 等 も 踏 まえると 老 後 の 準 備 にかかる 金 融 知 識 普 及 は 喫 緊 の 課 題 であ ろう 金 融 教 育 の 項 目 は 多 岐 にわたるが ラ イフプランにかかるお 金 の 管 理 ( 生 活 設 計 ) は 現 状 日 本 人 の 弱 点 であり 家 計 管 理 とともに 金 融 教 育 の 中 で 優 先 すべき 分 野 と 考 える 7. 投 資 促 進 の 観 点 からも 金 融 教 育 は 重 要 前 述 の 金 融 教 育 の 非 合 理 的 行 動 バイアスを 和 らげる 効 果 を 踏 まえると 投 資 を 促 す 観 点 からも 金 融 教 育 は 重 要 である ただ 教 える 事 項 が 多 く 学 校 のカリキュラムにおいて 新 規 の 受 入 れ 余 地 が 大 きくないことや 投 資 や 株 式 等 を 敬 遠 しがちな 学 校 関 係 者 もいること 等 を 踏 まえると 投 資 単 独 の 講 義 よりも ま ずニーズの 高 い 家 計 管 理 や 生 活 設 計 等 その 後 に 応 用 編 として 資 産 運 用 等 といった 金 融 教 育 プログラムの 順 序 や 構 成 の 方 が 効 果 があ り 学 校 に 受 け 入 れてもらいやすいと 考 えて いる 金 融 教 育 に 理 解 のある 青 山 学 院 大 学 慶 応 大 学 等 では 金 融 庁 日 本 FP 協 会 全 国 銀 行 協 会 金 融 広 報 中 央 委 員 会 等 が 交 代 で 講 師 を 務 める 連 続 金 融 リテラシー 講 義 を 実 施 している バランスの 良 いプログラムで あり 何 よりも 実 践 的 であるため 学 生 の 反 応 は 非 常 に 良 い このような 実 践 的 な 教 育 が 全 国 に 拡 大 することが 望 ましい 1 川 村 憲 章 (かわむら のりあき) 1967 年 生 千 葉 県 出 身 90 年 東 京 大 学 法 学 部 卒 日 本 銀 行 入 行 ニューヨーク 事 務 所 経 営 企 画 室 等 を 経 て 政 策 委 員 会 室 企 画 役 システム 情 報 局 企 画 役 金 融 機 構 局 企 画 役 16 年 5 から 現 職 37